清澄高校、朝酌女子高校、粕渕高校、旧朝酌女子高校チームの試合は、勝ち星3で旧朝酌女子高校チームが1位となった。先鋒と大将は清澄高校の圧勝だったが、他の3試合を旧朝酌女子高校チームが取った。
とは言え、次鋒戦も、優希がいきなり三倍満ツモ、天和、倍満ツモと、とんでもない爆発力を見せ、最初に逆転は絶望的と思えるくらいの圧倒的リードを作った。そこから悠彗が辛うじて逆転し、なんとか勝ち星を得た。
今回は、さすがの理沙も、この爆発を止めることは出来なかった。
「さすが悠彗だな。」
「閑無が次鋒から逃げたのは、これね。」
悠彗が閑無に向けた視線は少々きつかった。まさか、天和を和了る状態にまでコンディションを整えていたとは思わなかったからだ。
ここに、フラフラになりながら、はやりが来た。
「ねえ、閑無ちゃん。みなもちゃんに、何か吹き込んだ?」
「いや、ちょっと、本気を出させるためにね。」
「なんか、いらぬ誤解を受けているみたいなんだけど…。」
「だってほら。はやりが、本気のみなもと打ってみたいって、以前言ってたからさ。」
「それは、そうだけどさ…。でも、ちゃんと誤解は解いておいてよね。だって、はやりは、牌のお姉さんの後釜は、咲ちゃんがいいって考えてるんだから!」
「へっ?」
これには、閑無も驚かされた。
麻雀の実力としては、咲は問題ない。しかし、性格的にはどうだろう。牌のお姉さんとしては内向的過ぎる。まだ、みなものほうが合っている気がする。
そして、もう1人、フラフラになった人間が閑無のほうに向かってきた。慕だ。
「ねえ、閑無ちゃん。咲ちゃんに、変なこと吹き込んだでしょ。」
「いやね。本気の咲と戦ってもらおうと思ってね。」
「耕介さんが変な目で見られて迷惑かかると困るから、やめてね。」
「わ…分かった。」
妙に慕の視線が怖かった。
ただ、この時、慕からは『誤解』とか『嘘』とか言う単語が出てこなかった。あくまでも『耕介が迷惑する』だけだ。
「(あれ? 慕のやつ、それだけ? もしかして…。)」
この時、閑無の中で、慕と耕介の間の疑惑が、より一層深まったのは言うまでもない。
その後、各校麻雀部員達が個人で対戦を申し込み、試合が進められていった。
そういった中、はやりが、咲に、
「プラマイゼロ、見せて欲しいんだけど。」
と言ってきた。
さすがに咲は、
「いえ、それは…。」
和に禁じられているし、断ろうとしていた。
すると、和が、
「いいですよ、咲さん。」
と咲に言ってきた。
「えっ? どうして?」
「さっきの大将戦は、ヤリ過ぎです。みんな、怖がってます。咲さんは、別に恐怖の大王ではなく、大天使だと、皆さんに理解していただかなければと思っただけです。」
「分かったよ、和ちゃん。」
すると、はやりが、
「それじゃ、はやりと、悠彗ちゃんと慕ちゃんでイイかな?」
と咲に聞いてきた。
「はい。構いません。」
ただ、この3人でもプラスマイナスゼロを止めることはできないのだが…。
結局、はやりが意地になって何局も対局を続行し、気が付けば十回戦にまで突入していた。それまで、咲はやめさせてもらえなかった。
ただ、その間、ずっとプラスマイナスゼロをやり続けた咲の脅威の点数調整能力を朝酌女子高校、粕渕高校の面々は目の当たりにした。それで、咲は、やはり大天使ではなく恐怖の大王であると理解され…いや、刷り込まれた。
その日の夜、閑無は、杏果の旅館の一室で、旧友達と夜遅くまで酒を交わしながら語り合っていた。
みなも達のいる部屋に戻ってきたのは、午前3時を回っていた。
閑無が部屋に帰ってきた音で、みなもは目を覚ました。ただ、目を覚ましたことを閑無に悟られないよう、極力動かないようにしていた。
その時、みなもの目に映った閑無の顔は、とても嬉しそうで、あれだけの表情を見せたのは清澄高校に転任してきて以来、初めてだった。
みなもは、
「(私達も、あんな風になれるとイイな。咲に和に優希、数絵、それと栄子も…。)」
そう思いながら、そのまま、みなもは二度寝に入った。
月日が経ち、夏の県予選大会が始まった。もはや、長野県大会では、清澄高校は敵なしだった。
ルールは、たしかにGWの練習試合と同じであった。点数引継ぎ型ではなく、星取り戦に変わっていた。
これは、世界大会のルール変更に合わせたのもあるが、やはり宮永三姉妹の存在が大きかった。
照は、西東京都大会の先鋒戦でトビ終了させているし、みなもも、殆どの試合で自分のところでどこかをトバして終了してきた。
咲に至っては、昨年秋季大会の550000点事件や444400点事件が有名で、結局、これでは1人の突出した選手が全てを決めてしまう。
それでは宜しくないと、星取り戦に変えた部分もあった。
また、熊倉トシの意向で、たとえ大将戦前に決着がついた場合でも、大将戦までは行うこととされた。これは、世界大会に選出する選手を漏れなく探すためで、長野県大会だけではなく、全都道府県大会で、そのようにされた。
清澄高校は、今回も第一シードで、二回戦からの出場となったこの大会、オーダーは、先鋒優希、次鋒みなも、中堅数絵、副将和、大将咲となった。このオーダーは、インターハイ決勝戦まで変更はされない。この点は、昨年の夏の大会と同じであった。
県予選は、二回戦も決勝戦も勝ち星5の快勝であった。
翌週、二日間に渡り行われた個人戦では、1位から5位を清澄高校3年生が独占した(順位は咲、みなも、和、数絵、優希の順)。
それから、さらに月日が経ち、みなも達にとって最後のインターハイが始まった。
今回は、AからDの4つのブロックに分け、各ブロックの優勝チームで決勝戦が行われる方式だった。これは、3年前(咲達が中学3年生時点)のインターハイルールと同じであった。
清澄高校は第一シードでAブロック、阿知賀女子学院は第二シードでBブロック、白糸台高校は第三シードでCブロックだった。第四シードは昨年4位の姫松高校になっていたが、同じDブロックには永水女子高校も入っていた。
他の有名どころでは、新道寺女子高校がAブロック、千里山女子高校がBブロック、粕渕高校がCブロック、臨海女子高校がDブロックに入っていた。
参加52校のうち一回戦免除が12校。40校で一回戦が繰り広げられる。一回戦は2校勝ち抜けで20校が二回戦に進出する。
二回戦は、計32校で行われ、2校勝ち抜けで計16校がブロック決勝戦に進出する。この16校がブロック決勝戦で4校に絞られ、この4校で決勝戦が行われる。
なお、一回戦のみ各対局1半荘勝負で、前後半戦勝負になるのは二回戦以降になってからであった。
Bブロック決勝戦で、阿知賀女子学院と千里山女子高校がぶつかった。阿知賀女子学院の先鋒は園田栄子、千里山女子高校の先鋒は椋真尋。慕達と同期の椋千尋の再従妹(はとこ)に当たる。
この試合では、珍しく栄子が一時15000点のマイナスとなった。しかも、前半戦も後半戦も、他校を真尋がトバして終了した。昨年までと同じルールであれば、真尋1人で勝ち抜けていたところだ。
ただ、今回は星取り合戦である。最終的には、総合力の高い阿知賀女子学院が勝ち星3のブロック優勝を果たした。
とは言え、この先鋒戦は、トシにとって新たなる戦力の発見に繋がる喜ばしい試合であった。
各ブロックの優勝校は、以下の通りとなった。
Aブロック:清澄高校。
先鋒:片岡優希(3年生)
次鋒:宮永みなも(3年生)
中堅:南浦数絵(3年生)
副将:原村和(3年生)
大将:宮永咲(3年生)
Bブロック:阿知賀女子学院
先鋒:園田栄子(3年生)
次鋒:小走ゆい(2年生:小走やえ妹)
中堅:新子憧(3年生)
副将:岡橋初瀬(3年生)
大将:高鴨穏乃(3年生)
Cブロック:白糸台高校
先鋒:佐々野みかん(3年生:佐々野いちご妹)
次鋒:椿野美咲(1年生:椿野美幸妹)
中堅:多治比麻里香(3年生:多治比真祐子妹)
副将:宇野沢美由紀(2年生:宇野沢栞妹)
大将:大星淡(3年生)
Dブロック:永水女子高校
先鋒:神代蒔乃(1年生:神代小蒔妹)
次鋒:狩宿萌(2年生:狩宿巴妹)
中堅:石戸明星(2年生)
副将:滝見春(3年生)
大将:十曽湧(2年生)
椿野美幸の妹美咲は、姉とは違って白糸台高校に入学した。咲のライバルと名高い大星淡をリスペクトしていたからだ。とにかく咲に地獄を見せてやりたい。美咲の目的は、たた、それだけだった。
また、永水女子高校は、小蒔の妹蒔乃が入学していた。蒔乃は、小蒔の身に何かあった時に、小蒔に代わり六女仙を統べる、いわば小蒔のスペアとして生まれてきた。当然、高い霊力を有していた。
ちなみに、咲はブロック決勝戦で四槓子を和了った。しかも、最後は{[⑤]}での嶺上開花だった。この赤い花を咲かせた五筒開花は、当然、紙面を大きく飾った。
決勝戦当日、対局室に決勝戦出場校の選手全員が集まり、一礼した。今年の白糸台高校は、マスコミ界隈では顔面偏差値ナンバーワンと囁かれ、そのメンバーの顔ぶれを見て、咲の背後に恐ろしいオーラが立ち込めた。いつもの、美に対する嫉妬である。
そして、対局室に各校先鋒の選手…清澄高校の片岡優希、阿知賀女学院の園田栄子、白糸台高校の佐々野みかん、永水女子高校の神代蒔乃を残し、他の選手達は控室に戻っていった。
場決めがされた。
起家は優希、南家に栄子、西家が蒔乃、みかんは北家になった。
サイが振られ、いよいよ決勝先鋒前半戦、東一局がスタートした。
東一局、優希の親。
「ダブルリーチ!」
優希のいきなりのダブルリーチ。
この日、優希は、東場での波が最高状態に来るようにコンディションを整えていた。それでのダブルリーチ。当然、
「一発ツモ! 12000オールだじぇい!」
当然のように、優希は和了った。
栄子の送別会の時に取れなかったデータが一つだけあった。それが、この最高状態の優希の限界値であった。
蒔乃とみかんに、栄子からの衝撃波が飛んだ。
東一局一本場。
「ツモ! 天和。16100オール!」
決勝戦恒例(?)の天和が飛び出した。これで、栄子の失点は28100点になった。
アナウンサー福与恒子の声が、大会会場観客席に響き渡った。
「出たー! 片岡優希選手の天和。これで、インターハイ通算三回目! 東風の神の勢いは、ATフィールドさえも吹き飛ばしてしまうのかー!」
「ちょっと、恒子ちゃん。」
「何です? 小鍛治プロ。」
「さすがにATフィールドはね…。別の名前を、宮永姉妹が考えてくれたそうだよ。」
「あの宮永姉妹が? へー、何ての?」
「魔境が生んだ棘の城壁。ねえ、こっちのほうが良くない?」
「まあ、私はどちらでも構いませんが…。」
しかし、そうは言いながらも、恒子としては、ATフィールドのほうが気に入ってそうだった。
東一局二本場。
「ダブルリーチ!」
またもや、優希のダブルリーチがかかった。優希の進撃は、まだここでも止まらなかった。そして、
「一発ツモ! 8200オールだじぇい!」
これで、栄子の失点は36300点になった。ただ、さすがに優希のタコスパワーも、これが限界だった。
突然、優希の四方を取り囲むように、棘の壁が出現した。しかも、床が激しく揺れている。春季大会個人戦決勝トーナメント二回戦の時と同じだった。
これで、優希の限界値は、元に戻った。
とは言え、優希にとって、これは想定の範囲内だった。このリードを守る。これが、この決勝戦で取った戦法なのだ。
東一局三本場。
栄子の強制力が、一気に限界値まで点数を取り戻そうと動き出した。
優希を基準とすれば91000点、みかんを基準とすれば89000から90000点までは最低でも取り戻せるはずだ。
栄子は、少々ムリとは思いながらも、国士無双狙いで手を進めた。
今の状態は、栄子の強制力が何よりも上回る場。無茶が通る。そして、
「ツモ。8300、16300です。」
栄子が国士無双を和了った。
再び、恒子の声が会場観客席に響き渡った。
「出たー! ロンギヌスの槍!」
大興奮状態だった。
「ちょっと、恒子ちゃん。それも、ちょっとね…。」
「いけないですか? ロンギヌスの槍。」
「せめて、棘の城壁から言葉を考えようよ。」
「棘の城壁ですと、眠りの森の美女ですか?」
「そうだね。それで、一撃を繰り出すんだから、やっぱり、ここはリラの精がらみがイイかなって思うけど。」
「以外に少女趣味ですね。」
「別に、女性なんだからイイでしょ!」
「まあ、ダメとは言いませんが…。それで、小鍛治プロは、どう言った名称をお考えですか?」
「そうですね。『リラの鉄槌』なんてのは如何でしょう?」
今の麻雀会で、健夜の言うことを否定する輩はいない。
つまり健夜の提案イコール健夜の命令である。
こうして、栄子が守りから攻めに転じた時の一撃は、『リラの鉄槌』と命名され、今後は他の解説やアナウンサーからも、そう呼ばれるようになった。
東二局、栄子の親。
突然、栄子は、まるで咲やみなもと同卓している時のような雰囲気を下家から感じた。
「(さっきまで、下家の限界値は大したことないって思ってたけど、もしかして限界値が変わった?)」
まるで穏乃の時と同じ。栄子は、そう予感した。
そして、その予感は的中した。
「ツモ。8000、16000。」
蒔乃が、萬子の純正九連宝灯を和了った。九面の神の力を使ったのだ。
しかも、小蒔の時と違い、本人は起きていた。
これで栄子の点数は、80600点になった。
優希とみかんには、再び栄子から衝撃波が放たれたが、蒔乃には、その気配がない。まだ、今の蒔乃の限界値には達していないと言うことだ。
この様子を大会会場の小部屋で見ていたトシは、
「また、いたね。これで、原村和を超えた者が7人。おおよそ決まりかね。」
そう言いながら、喜びの笑みを浮かべていた。
「そう言えば、今日は決勝戦だったわね。」
標準語で話されると、これが誰だか分からないが、この女性は、まこである。まこは、後輩達の活躍が気になり、テレビをつけた。
ただ、お前がここでテレビをつけていいのか?
また起こるぞ。お前の、誰にも止められない超能力が…。
「試合終了! 優勝は清澄高校! 夏春夏春夏の五連覇を達成!」
大方の予想通り、超高速時間跳躍が発動した。
清澄高校は、次鋒、副将、大将で勝ち星をあげ、勝ち星3で優勝した。
準優勝は永水女子高校で、先鋒と中堅で勝ち星を2つあげた。
総合得点で3位は阿知賀女子学院、4位は白糸台高校になった。
最優秀選手には咲、優秀選手にはみなも、蒔乃、淡が選ばれた。最多得点賞はみなも、名誉ある先鋒の区間賞は真尋の手に渡った。
また、天和を和了った優希に特別賞が授与された。今回より、この賞は、『片岡賞』と名付けられ、今後も天和を和了った選手に授与される。
同じく、咲にも特別賞が与えられた。最も発現率が低い役満、四槓子を和了った栄誉を称えるものだった。そして、今回より、この賞は、『宮永賞』と呼ばれ、今後も四槓子を和了った選手に授与されることになった。
一日空けて、個人戦が開催された。
個人戦初日は、各都道府県を勝ち上がった代表により、スイスドロー式で予選が行われた。半荘十回戦で、上位16名が決勝リーグに進出する。
なお、今回は個人戦でもダブル役満以上が認められるルールとなった。これは、協会側ではなく、報道側からの依頼だった。
予選リーグの結果は、以下の通りになった
予選1位:宮永咲
予選2位:宮永みなも
予選3位:椋真尋
予選4位:大星淡
予選5位:石戸明星
予選6位:原村和
予選7位:高鴨穏乃
予選8位:佐々野みかん
予選9位:多治比麻里香
予選10位:南浦数絵
予選11位:神代蒔乃
予選12位:東横桃子
予選13位:新子憧
予選14位:片岡優希
予選15位:園田栄子
予選16位:椿野美咲
清澄高校から5名、白糸台高校から4名、阿知賀女子学院から3名、永水女子高校から2名と、団体戦で決勝戦に残ったチームのメンバーが多かった。
その中でも、清澄高校メンバーに東横桃子と園田栄子を加えた旧長野県勢が7人と半数近くを占めた。これは、魔境長野を再認識させる結果となった。
惜しくも16位以内に入れなかった者達は、
真屋由暉子17位、十曽湧18位、寺崎弥生19位、小走ゆい20位、森垣友香21位、宇野沢美由紀22位、石見神楽23位、友清朱里24位と言ったところだった。
翌日、決勝トーナメントが行われた。
トーナメント戦に向けて、特に抽選等を行うことはなく、トーナメント表のシードの振り分け方に沿って順に選手が貼り付けられた。つまり、
A卓は、1位宮永咲、8位佐々野みかん、9位多治比麻里香、16位椿野美咲
B卓は、4位大星淡、5位石戸明星、12位東横桃子、13位新子憧
C卓は、3位椋真尋、6位原村和、11位神代蒔乃、14位片岡優希、
D卓は、2位宮永みなも、7位高鴨穏乃、10位南浦数絵、15位園田栄子
となった。
この中でA卓は、報道側にとっては嬉しく、運営側にとっては面倒な試合となった。
試合開始直前、スタッフが、みかん、麻里香、美咲に紙オムツの着用を勧めた。
みかんと麻里香の2人は、今までのこともあり、スタッフから紙オムツを受け取ろうとした。すると、
「先輩方は、最初から負けを認めて卓に付くんですか?」
美咲が、みかんと麻里香に、そう言葉を投げかけた。
たしかにそうだ。これを受け取ったら、咲に蹂躙されて失禁すると、最初から認めているのと同じだ。
2人は、考えを改め、紙オムツの着用を拒否した。
当然、報道側は、
「(その1年の子、グッジョブ!)」
と思っていたし、逆に運営側は、
「(また掃除が面倒だな。)」
と心の中で呟きながら、溜め息をついていた。
咲が対局室に入ってきた。
みかん、麻里香、美咲の、鬼のような形相に、さすがの咲も怖くなった。
「(この3人、なんで私のこと睨んでるんだろう。団体戦開始前の一礼の時もそうだったけど、凄く怖いんだけど…。むしろ、睨みたいのは、むしろこっちのほうだよ。3人とも、すっごく綺麗で羨ましい…。絶対に子供の頃から異性に不自由してないよね、この子達。)」
ふと、ここで咲は、春季大会個人戦のことを思い出した。
「(そう言えば、この2人は春の大会でも戦ったっけ。あの時も、私のことを睨んでた。なんでなんだろう? それと、この1年の子、どこかで見た感じが…。あっ!)」
ようやく、咲は、2年前のインターハイ個人戦のことを思い出した。
「(そうだ。この子達、あの時の人達と同じ苗字だ。顔も似てる。妹ってこと? でも、あの時の3人も綺麗で凄く羨ましくて…。姉妹揃って綺麗って…なにそれ! これは、絶対に麻雀を楽しませるべきだね。うん。)」
結局、なんだかんだで魔王スイッチが入った。
「(そう言えば、タコスちゃんから優希を…じゃなかった、優希ちゃんからタコスを1つもらってたんだっけ。じゃあ、早速…。)」
咲がタコスを一気に頬張った。すると、卓上にタコス神優希ちゃんが現れた。
「咲ちゃん。この牌を引くといいじぇい!」
優希ちゃんは、場決めの牌のうち、一番手前の牌の上に立っていた。
咲は、優希ちゃんに言われたとおり、それを引いた。{東}だった。
起家は咲、南家は美咲、西家は麻里香、みかんは北家になった。
東一局、咲の親。
今回、優希ちゃんは起家を引かせるためだけに来た。なので、特にダブルリーチとか天和を咲に和了らせるわけではなく、この対局を、ただ見ていた。
「たまには、こういうのもイイじぇい!」
咲は、当然のように、
「カン!」
暗槓すると、
「ツモ! 嶺上開花! 4000オール。」
これもまた、当然のように嶺上開花で和了った。
ただ、咲が晒す牌は、咲と美咲の間にくる。それゆえだろう、美咲は、『カン』の発声と同時に、自分のところに稲妻が飛んでくるような恐怖を覚えた。
東一局一本場、「カン! 嶺上開花! 4100オールです。」
東一局二本場、「カン! 嶺上開花! 4200オールです。」
東一局三本場、「カン! 嶺上開花! 6300オールです。」
今回も、みかんと麻里香は、咲の『カン!』の発声に、条件反射的に恐怖を覚えるようになっていった。
東一局四本場。
みかんの捨て牌を、
「カン!」
「ひっ!」
咲が大明槓した。みかんは、思わず声を上げた。
晒し牌が美咲のほうに迫ってきた。
「ひぃっ!」
美咲からも、思わず声が出た。
そして、次巡、今度は麻里香が捨てた牌を、
「カン!」
「ひっ!」
咲が大明槓した。麻里香は、思わず声を上げた。
晒し牌が、またもや美咲のほうに迫ってきた。
「ひぃぃっ!」
美咲から、またもや声が出た。恐怖の刷り込み完了と言ったところだろうか?
次巡、
「カン!」
今度は、咲が暗槓した。そして
「ツモ。嶺上開花! 6400オール!」
これで、みかん、麻里香、美咲の点数は、見事に0点になった。
東一局五本場。
みかん、麻里香、美咲は、もう後がない。とにかく、手を作るしかない状態で、不要な牌をドンドン切るしかない立場にある。
それを狙うかのように、
「ポン!」
「ひっ!」
美咲が捨てた{東}を咲が鳴いた。
思わず声がこぼれる美咲。カンではなかったが、もはや、咲が発声すること自体が怖くなったようだ。
そして次巡、美咲が捨てた{北}を、
「カン!」
咲が大明槓した。そして、嶺上牌の{東}を、
「もいっこ、カン!」
加槓した。次の嶺上牌は{南}。これを、
「もいっこ、カン!」
暗槓した。続く嶺上牌を引き、これも、
「もいっこ、カン!」
暗槓した。晒された牌は{西}。そして、最後の嶺上牌を引くと、咲は、それを表にして手元に置いた。
「ツモ。嶺上開花。大四喜字一色四槓子。144000の五本場は、145500点です。」
ここに来て、ようやく咲が笑顔を見せた。ただ、みかん、麻里香、美咲には、これが悪魔の笑みにしか見えなかった。
「「「ジョ…ジョーーー!!!」」」
この恐怖から、みかん、麻里香、美咲の括約筋が一気に緩み、3つの黄金色の泉が彼女達の足元に形成され、広がっていった。
そして、それらは繋がって、一つの巨大な湖を形成した。
報道側は、
「(咲様。ありがとうございます。これが見たくて、ダブル役満以上アリにしていただきましたです! いただきました。星三つです!)」
男性スタッフ達が、ありがたがって咲に合掌していた。
もう、咲は、高校3年生である。これが高校生全国大会で失禁事件を起こす、恐らく最後の年であろう。
美咲の責任払いでトビ終了。一応、2位抜けは麻里香になった。
B卓は淡と明星が、C卓は真尋と蒔乃が、D卓はみなもと穏乃が勝ち上がった。
この頃、清澄高校元部長の竹井久は、福路美穂子と染谷まこと一緒に、インターハイの様子をテレビで見ていた。
自分の残した麻雀部の、まさに黄金期。あの時、自分の代で潰さなくて、本当の良かったと、つくづく思っていた。
恐らく、秋季大会以降、清澄高校は、ここまでの成績は残せないだろう。しかし、咲達が作り出した記録は、永遠に残る。そして、決して破られることもないだろう。
久は、そう確信していた。