「個人戦優勝は、宮永咲選手です!」
インターハイ個人戦は、咲の夏春夏春夏の五連覇で幕を閉じた。やはり、久と一緒にまこがテレビを見ていたからか、超高速時間跳躍が発動した。
個人戦決勝トーナメントの結果は以下の通りとなった。
1位:宮永咲
2位:宮永みなも(1位と2ポイント差)
3位:大星淡
同点3位:高鴨穏乃(咲の点数調整による?)
5位:神代蒔乃
6位:石戸明星
7位:椋真尋
8位:多治比麻里香
9位:原村和
10位:東横桃子
11位:南浦数絵
12位:園田栄子
13位:片岡優希
14位:新子憧
15位:佐々野みかん
16位:椿野美咲
5位決定戦終了直後にも、麻里香は失禁した。蒔乃、明星、真尋が束になって襲ってきたのだ。仕方がないだろう。
これは、報道側も想定していなかったが、放送事故になる前に、手際良く放送席に映像が切り替えられた。この辺りは、宮永姉妹によって報道側も鍛えられていた。
麻里香は数日間、麻雀牌が目に触れることさえも拒否するくらい、とんでもない恐怖を植えつけられた。
まだ、5位決定戦に進まずに済んだ、みかんや美咲のほうが、順位は下でも幸せだったかもしれない。
個人戦の表彰式が済むと、淡が、
「じゃあ、監督。今日は、また呼び出しくらいましたんで。反省会とか部の引継ぎとかは、また後ほどさせていただこうかと…。」
また、例の呼び出しを受けたとのこと。ただ、同期で友人のみかんも麻里香も、その詳細は、いまだ教えられていない。
いつも淡からは、アンドロメダだのマゼラン星雲だのと言われて、誤魔化されている感じだった。
そのまま、淡は、カバンを持って会場を後にした。
みかんと麻里香は、淡の後をつけていったが、会場を出る前に途中で淡の姿が消えた。それも、見失ったのではなく、目の前で、まるで幽霊かなにかのように姿が徐々に消えて行ったのだ。
これを目の当たりにして、みかんと麻里香は、その場に座り込んで失禁した。もう、括約筋が緩みっぱなしであった。
寮で淡と再開したのは、その三日後だった。
それから一ヶ月ちょっとした後、国民麻雀大会が開催された。こっちは10万点持ちの点数引き継ぎルールだった。
ジュニアAリーグ(高校2年3年)は、長野チームの圧勝だった。
先鋒みなも、次鋒優希、中堅咲、副将数絵、大将和の順だったが、みなもがどこかをトバすか、トバし損ねても、続く優希の東場のパワーに他チームの次鋒が太刀打ちできず、結局、中堅まで回らずに優勝を決めてしまった。
準優勝は、淡、桃子、みかん、麻里香、美由紀(宇野沢妹)の東京チーム、3位は、穏乃、憧、栄子、ゆい(小走妹)を擁する奈良チーム、4位は石戸明星と十曽湧の六女仙2人組みが率いる鹿児島チームとなった。
一方、ジュニアBリーグ(高校1年中学3年)は、神代蒔乃率いる鹿児島チームが優勝した。準優勝は、椋真尋を柱とした大阪チームとなった。
その数日後、みなも、咲、和は閑無に呼ばれて部室に来ていた。
「先ほど、協会から連絡があった。咲、みなも、和の3人が、高校生麻雀世界大会のメンバーとして選ばれた。」
「「「!!!」」」
一つの高校から3名が選ばれる。これは、非常に名誉なことであろう。
閑無の説明が続いた。
「この3人の他に、白糸台の大星淡、阿知賀の高鴨穏乃、千里山の椋真尋、永水の神代蒔乃と石戸明星。この8人で世界大会を戦うことになる。開催地は東京。それから、恭子がコーチとして選ばれた。それと、監督は、今回も白築慕が務めるそうだ。」
同様のことが、穏乃、明星、蒔乃、真尋にも、同時刻に各校の監督から連絡を受けていた。ただ、淡だけは、この日の昼は不在だった。
その日の夕方、淡が校内に戻ってきた。
淡を見つけた麻里香が、
「淡。どこ行ってたの?」
と聞いた。すると、
「オリオン座馬頭星雲!」
疲れきった顔で淡が声を張り上げるように言った。ただ、内容は、いつもの如く、ぶっ飛んでいた。さすがに信じられない。
しかし、淡の表情は至って真面目であった。お茶らけた感じでもなければ、嘘をついている様子もない。
だとすると、もはや、精神的に何か問題が生じているのだろうか?
そんな不安が麻里香の脳裏を横切った。
「ええとね。監督が呼んでたよ。大事な用事みたい。」
「分かってる。世界大会のことでしょ。行ってくる。」
そう言うと、淡は麻里香の横を通り過ぎた。
ただ、麻里香は大事な用事としか言わなかった。
それと、淡は、『分かった』ではなく『分かってる』と言った。これは、既に知っていると言うことだ。
「(いったい、淡ちゃんって、何者?)」
いずれにしても、謎の女だ。
麻里香は、そう思いながら淡の後姿を見つめていた。
「コンコン。」
「どうぞ。」
「失礼します。」
監督室に淡が入ってきた。
「やっと来たね。今日は何処だったの?」
「オリオン座馬頭星雲です。」
「そう。」
このぶっ飛んだ台詞を、監督の貝瀬麗香は、そのまま受け入れた。
監督室の前では、みかんと麻里香が聞き耳を立てていた。2人は、監督が淡の意味不明の言葉を聞き入れていることに、毎々驚かされていた。
「呼び出された理由は、分かってます。私に、この能力を与えてくれた人達から聞きました。今度、東京で開催される高校生麻雀世界大会のメンバーとして選ばれたってことですね。」
「ご名答!」
「それと、他のメンバーは、サキにミナモ。それからシズノ。原村和に千里山の椋真尋。永水の神代蒔乃と石戸明星。監督は、前回と同じで白築プロ。コーチは清澄高校でコーチをしている末原恭子ですね。」
「それも正解。全部、その能力を授けてくれた人達に聞いていたのね。」
「はい。それと、ドイツチームにニーナがいることも。ニーナが魔法少女に何をされたのかも…。それから…。」
淡が、ドアのほうに静かに歩いていった。そして、勢い良くドアを開いた。
「ここで、話を聞いている人達がいることもです。」
みかんと麻里香は、淡と目が合った。これには、正直冷や汗が出てきた。
しかし、次の瞬間、みかんと麻里香が、その場に倒れ込んで気を失った。ただ、こうなることも、淡は事前に知らされていた様子だった。
淡が、みかんと麻里香を順に室内に運び入れた。さすがに2人を寝かせるスペースが無かったため、やむなく2人をソファーの上に座らせた。
「2人は大丈夫なの?」
「はい。私に力を与えてくれた者達の仕業です。少しすれば、問題なく目を覚ますと思います。盗み聞きした内容も、多分忘れてるでしょう。記憶の部分消去とかも、彼らはできますし。」
「そう。記憶を消すとか、怖いわね…。それで、ニーナって子。前にも聞いたことがあるけど…。」
「私の家の近所に住んでいた子で、ドイツ人と日本人のハーフです。今年、白糸台高校に入学するって言っていたのですが、急遽、ドイツに渡ってしまいました。」
「麻雀は強いの?」
「激弱です。特に強くなるための努力もしてませんでしたし、私の麻雀を見て、『淡ちゃん羨ましい。ダブルリーチの槓裏4って、何も考えなくて済むじゃん!』ってよく言ってましたけど…。」
「今の力を与えられる前のあなたと同じってことかしら?」
「それは、言わないでください。ただ、魔法少女にニーナは能力移植を受けています。それを受けた者が、後々どうなるかも知らずに…。」
「助ける方法はあるの?」
「あります。最悪…私に力を与えてくれた者達がなんとかしてくれますが、やはり、まずは私達地球人の手で救いたい。そう思ってます。そのためにも、世界大会で戦いたい。」
「そう。では、今回の世界大会の話は、参加OKで返事をしておくわね。」
「よろしくお願いします。」
そう言うと、淡は、みかんと麻里香の頬をペチペチと叩いた。
2人が目を覚ました。
「「(あれ?)」」
そして、2人の目に飛び込んできた淡の笑顔。ただ、これは、本当の笑顔ではなく、作り笑顔だ。
「ほら、起きて。監督室で寝るなんて、私でもやったことがないんだから。」
「「へ?」」
みかんと麻里香が辺りを見回した。そして、自分達が監督室で寝ていた(正しくは気を失っていた)ことに気が付いた。
2人は、慌てて立ち上がった。
「「すすす…済みませんでしたぁ。」」
淡は、
「では、大会の件、御願い致します。」
と言うと、みかんと麻里香を連れて監督室を後にした。
それから二週間後、世界大会メンバー全員での強化合宿が行われた。
場所は、魔境長野の中でも、もっとも多くの魔物を育ててきた、ここ…、清澄高校合宿所であった。
単に魔境長野の言葉にあやかって、ここに決めただけで他意は無い。
ここで、みなも、咲、和以外の選手は、恭子から各選手の対局映像を見せられた。その映像の中で、みなも、咲、和以外は、ツモ番でもないのに視線が山のほうに向いてしまっていた。以前のみなもや咲と同じだ。和了りの牌が見えているためだが、そこを恭子に指摘された。
能力者ゆえだろうが、これでは、自分がそこで和了りますと言っているのと同じだ。その癖は世界大会に向けて直すよう強く指導された。
また、立ち上がりの悪い穏乃には、序盤を早和了りで回すよう、また、淡にも絶対安全圏の間に和了るべく、恭子は2人に早和了りの特訓をした。
加えて淡は、手牌の良し悪しが顔に出やすい。その辺も改善すべく、指導された。
それから、和の意向には反するが、ここでは咲のプラスマイナスゼロが解禁された。
始終笑顔で打つ咲。
当然のように咲は、合宿中の全試合をプラスマイナスゼロで終了した。
合宿中の対戦順位は、
1位:宮永みなも
2位:高鴨穏乃
3位:大星淡
4位:宮永咲
5位:神代蒔乃
6位:石戸明星
7位:椋真尋
8位:原村和
しかし、このメンバー相手に完璧な点数調整を行う魔物こそが、順位に関係なく絶対的1位であることを、咲以外の誰もが認めていた。
そして、二週間後、世界大会が開催された。
前回優勝の日本チームはAブロックのシード。前回準優勝のアメリカチームはBブロックのシードとなった。ともに一回戦免除であった。
同様に、前回3位の中国チームがCブロックのシード、前回4位のドイツチームがDブロックのシードとなる。こちらも、ともに一回戦は免除であった。
一回戦は、1チームのみの勝ち抜けで、殆どのチームがここで消える。先鋒から大将まで各半荘1回の星取り合戦であった。しかも、トビ終了を極力回避する名目で10万点持ちでのスタートだった。
二回戦は、2チーム勝ち抜けとなり、32チームが三回戦へと進む。三回戦も2チーム勝ち抜けて16チームがブロック決勝戦へと進出する。そして、この16チームから決勝戦へとコマを進める4チームがブロック決勝戦で決定する。
なお、オーダーは毎回変えて良いことになっていた。相手の出方を読み合うのも戦いのうちだ。
今日は、Dブロック一回戦の日。この日、泉は外出して、久し振りに日本の地を堪能していた。
ここが大阪だったらもっと嬉しいが、そこまで贅沢は言っていられない。少なくとも、右を見ても左を見ても全て日本。そう、日本にいることが何よりも嬉しかった。
「おい、泉。」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
それは、小学校の頃から泉が憧れて後を付いて行っていた対象。大阪が誇る『矛』と『盾』の、『矛』の方。
「久し振りだな。」
そう言われて、泉が振り返った。
すると、そこには自分が1年生の時の千里山女子高校トリプルエース、園城寺怜、江口セーラ、清水谷竜華と、一級上の先輩、船久保浩子の姿があった。
「お久し振りです。先輩方。でも、なんで東京に?」
これにセーラが答えた。
「お前がくるって聞いて。それで会いに来た。」
「わざわざ大阪から、ありがとうございます。」
「でも、なんで俺達に何も言わないでドイツに行ったんだ?」
「それが、魔法少女達との約束でしたから。麻雀に関わる人には、誰にも相談しては、いけないって。」
「でも、せめて俺達にくらい…。」
「済みませんです。でも、どうしても強くなりたかったんです。今なら、先輩達にも負けない自信があります。」
「なら、一勝負してみようか?」
「いいですよ。でも、もし私が勝ったら、これっきりにしてください。自分よりも弱い人に、先輩面されたくありませんから。」
「なんだと?」
これには、セーラも勢い余って殴りかかりそうになった。
たしかに今の泉が強いのはドイツでの活躍をニュースで見て知っている。しかし、こんな言い方はない。
「やめとき、セーラ。」
竜華が、セーラを止めた。
「なら、あそこに雀荘があります。入りませんか?」
そう言ったのは浩子だった。
5人は、その雀荘に入った。
この時、怜は、何か嫌な予感がしていた。
麻雀を無償で強くしてもらえる。こんな話自体が、そもそも胡散臭い。
たしかに、泉は強くなった。しかし、ただより高いモノはない、これが、通説だ。
ふと、怜の脳裏に、泉が血反吐を吐いて倒れる様が横切った。そして、そのまま泉は動かなくなった。
もしかして、死の予測か?
「(これ、久し振りに見る…。これが未来視やとしたら…。)」
怜は、そのまま脱力するかのように、その場に座り込んだ。生々しい血のシーンに立ちくらみがしたのだ。
「大丈夫か、怜?」
「ちょっとふらついただけや。それより、セーラ。ゴメン。うち、ちょっと気分が悪いんで、打つの辛い…。」
すると浩子が、
「任せてください。うちが入ります。ほな、場決めしましょ。」
と言った。
場決めがされた。
起家は泉、南家はセーラ、西家は竜華、北家は浩子になった。
「この半荘、東二局は来ませんので…。」
泉が、どこかで聞いた台詞を言った。大抵、こう言いながらオーラスまで行くのがお約束なのだが…。
東一局。
泉は、軽く、
「ロン。1500。」
浩子から安手を和了った。
東一局一本場。
ここでも、泉は、
「ロン。2900の一本場は3200。」
セーラから安手を和了った。
東一局二本場。
今度は、泉は、
「ロン。3900の二本場は4500。」
竜華から和了った。
東一局三本場。
泉は、
「ロン。5800の三本場は6700。」
再び浩子から和了った。
ここまで、芝棒に関係なく、泉の和了りは1500、2900、3900、5800と点数が上昇していた。そして、東一局四本場、それは本性を現した。
泉が、左手で卓の向かって右端を掴んだ。そして、竜巻をまとった右手で牌をツモると、その牌を手元に置き、表に向けた。
「ツモ。3900オールの四本場は4600オール。」
むしろ、和了り牌を引き寄せたと言うべきか。これは、前チャンピオン、宮永照の打ち方だった。
ただ、照魔鏡だけは、マホからコピーをもらえていなかった。春季大会で、照の能力コピーを受けた留美子が照魔鏡無しだったのと同じである。それで、東一局での現状確認無しで、いきなり連続和了に入ったのだ。
東一局五本場。
「ツモ。4000オールの五本場は4500オール。」
東一局六本場。
「ツモ。6000オールの六本場は6600オール。」
泉は容赦無く和了り続けた。
この段階で、点数は、
起家、泉: 87100
南家、セーラ: 6400
西家、竜華: 5100
北家、浩子: 1400
泉の圧倒的リード。
そして、東一局七本場。
「ツモ。8000オールの7本場は8700オール。全員トビで終了ですね。」
泉が立ち上がった。
「では、これで失礼します。もう私のことは放って置いてください。」
「それは出来ん。俺は、泉のことを大切な後輩だと思ってるし、昔ながらの大事な友達だとも思ってる。放っておけるわけないだろ!」
「もう、勝手にしてください。それと、ここの場代ですが、そちらの負け分で払っておいてください。」
「待て、泉!」
セーラの呼びかけを無視して、泉は雀荘を出て行った。
その頃、みなも、咲、和は、優希、数絵、ムロ、京太郎、恭子、閑無と一緒に街に繰り出していた。わざわざ優希達が長野から応援に駆けつけてくれたのだ。
この時、優希は京太郎の作った沢山のタコスを紙袋に入れて持っていた。毎度の如くだが、兵糧とのことだ。
「あれって、マホちゃんじゃ…。」
咲が、マホらしき人間を見つけた。
みなも達が、咲の指差すほうを一斉に振り向いた。たしかにマホだ。隣にはニーマンと臨海女子高校監督のアレクサンドラもいる。
この時、アレクサンドラは、ニーマンにニーナのことを問いただしていた。
「本当にニーナは大丈夫なんだろうね。」
「ああ。しかし、何故、お前がニーナのことを?」
「一応、遠い親戚だからね。でも、春季大会決勝戦で能力移植された者達が大変なことになったって聞いているけど。」
「あれは、正式な移植じゃなかったからさ。その辺は、私も、この魔法少女に聞いている。ニーナは、別に生体エネルギーを喰われたりはしていない。そうだろ?」
ニーマンに、こう振られて、マホは、
「生体エネルギーを食べられたりは、しませんですよ。本人も、理想の能力が手に入って喜んでますし、ウィンウィンじゃないですか。」
笑顔で、こう答えた。ただ、その笑顔の奥に、何かドス黒いものをアレクサンドラは感じていた。
「マホじゃないか。久しぶりだじぇい!」
優希がマホに声をかけてきた。
しかし、記憶を消されたマホには、優希のことが分からなかった。
「あなたは、誰ですか?」
「そうか。やっぱり、前のミナちゃんと一緒で、記憶がなくなっているのか。残念だけど、でも、マホの元気な姿が見られて嬉しいじょ。ほれ、タコス。一つ食うか?」
優希が、兵糧の名の下に沢山持っていたタコスの一つをマホに差し出した。
マホは、それを受け取ると、
「これ、なんですか?」
と聞いた。
「京太郎が作った特性タコスだじぇい!」
「タコスですか。なんか、昔、どこかで食べた気がします。」
そう言うと、マホはタコスを一口かじった。
「なんか、懐かしい味がします。これ、どこかで食べたことがあるような…。」
この時だった。マホの脳裏に、昔の対局のシーンがフラッシュバックした。
あれは、咲と和とムロとの対局。
東一局に、マホは、いきなりムロから18000点を和了った。
続いて、和のリーチに対して、和に似た打ち筋で降り、その後、久の悪待ち、咲の嶺上開花を模倣した。
最終的には負けたけど、自分の憧れた打ち方を色々試せて嬉しかった。
目の前には、優希が、その後には、和、咲、ムロがいる。
そうだ。自分は、この人達と昔、繋がりがあった。あれは、2年前の清澄高校麻雀部の合同合宿でのことだ。
思い出した。
偶然にも、この味覚の記憶が、ニーマンの魔法を解いた。
マホの目から涙が流れ出た。
「そうです。マホは、麻雀が強くなりたくて、ニーマン先生のところに行ったんです。それで、生まれ変わるために、記憶を消してもらったんです。」
マホは、記憶が戻っても、ニーマンのことを『先生』と呼んでいた。少なくともマホは、ニーマンに、素で敬意を払っているようだ。
「どうして、そんなことしたんだじょ?」
「マホが気弱だったからです。もっと心を強く持ちたい。そう思ったからです…。でも、マホは、記憶をなくした後、悪いことをしてしまいました。」
すると、和が、
「地下麻雀のことですね。」
と言った。しかし、マホは、これに首を横に振った。
「あれは、たしかに悪いことに見えます。でも、中には、自分から、あえて負けに来る人もいるんです。お金を得るために…。」
「それは、どういうことですか、マホ?」
「日本は、平和過ぎます。だから、マホも最初は分かりませんでした。世界には、生きるために盗みでも人殺しでも、何でもしなければならない人達が沢山います。地下麻雀には、自分と家族が生きるためにお金を得ることだけを目的に参加する人達もいるんです。自分の貞操と引き換えにです。」
「でも、そんなのって、良いこととは思えません!」
「マホもそう思います。でも、良い悪いなんて言っていられない状態の人が世界には沢山いるんです。今、ミナモ先輩のころよりも、ショーは過激になっています。」
和は、これが二穴攻めのことと、すぐに理解した。
あれはあれで、信じがたい。
「噂には聞いています。でも、あんなことをして良いとは思えません。」
和としては、あの地下麻雀で繰り広げられるショーは、やはり受け入れ難い。あんなことは、許されるべきではないと、和は強く思っていたのだ。
「でも、あれは、参加者側…負けた人達からのリクエストなんです。少しでも稼ぎを増やしたいって。中には、名前を変えて複数回出場している人もいます。それくらい、追い詰められている人達もいるんです。」
「でも、だからと言って…。」
「ちょっと、和…。」
和が、地下麻雀ショーへの、さらなる反論をしようとしたところを閑無が止めた。
こんなことよりも、もっと大事なことでマホは傷ついている。閑無は、それを強く感じ取っていた。
「その話は、そこまでにしよう。それより、マホちゃんだったね。」
「はい。あなたは、誰ですか?」
「石飛閑無。今、清澄高校の監督をしている。もし、マホちゃんが清澄高校に来ていたら、一緒に麻雀をやっていたってことだね。それで、さっきの、マホちゃんが悪いことをしたって言ってたけど、それって、どういうことか、言えるかい?」
そう言われて、マホが激しく泣き出した。
「マホは、もう死んじゃったほうがいいくらい悪いことをしてしまったんです。」
「それって、いったい…。」
「能力移植を受けた人は、能力を得る代償に命を大きく縮めるんです。」
「命って…。」
この手の話のお約束だ。金はかからないが、その代償が寿命。ただより高いものはない。その典型的なパターンだろう。
「普通は、1年間で10年分の命を縮めます。ただ、泉先輩だけは、能力が強力ですので半年で10年分くらい縮めることになるんです。多分、あと3年くらいで…。」
「ちょっと待ってくれ。じゃ…じゃあ、移植の解除方法とかは、あるのかな?」
「マホには、その方法は分かりません。マホにも解除ができないんです。」
「それじゃ…。」
「もう、マホは………、うゎ――――――ん」
マホが大声で泣き始めた。完全に収拾不能である。
ニーマンは、ことの重大さを初めて知った。これまで、能力移植を受けた者の代償について、何も聞かされていなかったからだ。
「ちょっとマホ。それじゃ、ローザ(ニーマン姪)の命は?」
「多分…、あと五年くらいです。」
「どうして、それを言ってくれなかったんだ!」
「だって、マホは悪い子だったから、他人が死んだって別に構わないって思ってしまっていたんです。それに、能力移植を受けた者の代償については、生体エネルギーのこと以外は、特に何も聞かれませんでしたから…。」
たしかにそうだ。
能力の一日レンタルの場合は、能力が生体エネルギーを吸い尽くす。
しかし、能力移植を受けた者については、生体エネルギーを吸い尽くされることはないとしか聞いていないし、それ以上は問いただしていなかった。
そもそも、能力1日レンタルで生体エネルギーを喰い尽されるのであれば、まともな移植ならば、それ以上の負荷がかかってもおかしくはない。むしろ、あと5年も生きられるほうが、条件としては優しいほうだろう。
何故、今まで詳しいことを問いただしていなかったのか?
これが天罰か?
「じゃあ、ニーナも…。」
アレクサンドラがマホに聞いた。
マホは、静かに頷いた。
只より高い物はない。
ありがちな設定ですみません。
世界大会は、決勝進出までキンクリさせていただきます。