泉の脳裏に、照の能力が記憶している子供の頃の対局の様子がフラッシュバックした。
「ロン。3900。これで私は29900でプラマイゼロ。」
「咲。どうして勝ちに行かないの?」
「だって、別に私は…。」
「どうして、いつも本気でやらないの? 点数調整してばかりで!」
これは、咲と照の会話の一部だ。
ふと、泉は、電光掲示板に記された点数を見た。自分は、たしかに4位だ。しかし、問題は2位の咲。
完全なプラスマイナスゼロだ。咲は25000点持ちの30000点返しでオカありウマなしで考えた場合、咲の点数は丁度30000点(+5000点)になる。
同様のことを二年前のインターハイ二回戦でもやっていたし、その前の県予選個人戦でもプラスマイナスゼロを連発していた。
あれは、偶然ではない。意図的だった。
現状では、前半戦トップは、100点差でアメリカが1位だが、これは、後半戦で咲がアメリカよりも200点多い点数で終わらせれば、トータルで咲の勝ちになる。
ウマもオカもない獲得素点を競うルールでは、100点差の1位と2位では、大して変わらない。
アメリカの1位は、間違いなく咲によって作られたものだ。
「(くそう、宮永のやつ…。)」
泉は、後半戦での巻き返しを強く心に誓った。
一方、セーラは、
「すっげぇー。宮永妹の奴、泉の圧倒的なリードを潰すだけじゃなく、泉の1人負けに点数を操作しやがった。」
もはや、驚きを通り越して感動していた。
「たしかに、これじゃ泉は凹むわな。」
竜華に膝枕してもらいながら、怜が、そう言った。
勿論、この点数調整が、泉に自ら負けを認めさせるために敢えてやっていることも、怜は、十分理解していた。
高校生麻雀世界大会決勝戦。
先鋒後半戦の場決めがされた。
今度は、起家が中国、南家がアメリカ、西家が咲、北家が泉になった。
東一局、中国の親。
泉が連続和了を仕掛け、ここでは、
「ロン。1000点。」
親の中国先鋒から安和了りだが、ノミ手を和了った。
東二局、アメリカ先鋒の親。
ここでも泉が、
「ロン。2000。」
親のアメリカ先鋒から平和ドラ1の安手を和了った。
東三局、咲の親番。
この局でも泉が、
「ロン。3900。」
中国先鋒から和了った。安ながらも点数は徐々に上昇していた。これが、泉が移植された照の連続和了だ。
そして、東四局、泉の親。
連続和了を行う上で北家は最も効果的な配置となる。
「ロン。7700。」
この局は、泉が中国先鋒から直取りした。
東四局一本場、泉の連荘。
「カン!」
泉が{二}を暗槓した。そして、嶺上牌を引いて聴牌。
そのまま、点数は7700以上ある。無理にリーチをかける必要はない。ダマ聴で待つ。すると、数巡後に和了り牌がアメリカ先鋒からこぼれてきた。
「ロン。9600の一本場は9900。」
これを泉が和了った。
東四局二本場。
今度は、泉は11600以上の和了りが必要となる。厳密には110符2翻の10600点があるが、110符は現実的ではない。
この局、泉は平和三色同順ドラ1を聴牌した。これは、11600の和了り手。リーチをかける必要はない。当然、ダマ聴で待った。
そして、2巡後、
「ツモ。4000オールの二本場は4200オール。」
泉がツモ和了りした。
東四局三本場。
ここでも、泉は平和タンヤオ一盃口ドラ1赤2の親ハネを聴牌した。当然、これはダマで待つ。そして、
「ツモ。6300オール。」
ここでも泉がツモ和了りした。もはや、他家は手がつけられない状態だった。
ここで、点数と順位は、
暫定1位:二条泉 156000
暫定2位:宮永咲 89500
暫定3位:アメリカ 77600
暫定4位:中国 76900
泉の圧倒的リードだった。
しかも、2位に65000点以上の大差をつけている。さすがに誰もが泉の大勝利を信じて疑わなかった。一部の者達を除いて…。
東四局四本場。ドラ{3}。
泉は、3巡目に、
「カン!」
{⑨}を暗槓した。槓ドラ表示牌は{⑧}。手牌には{34[5]}と{[⑤]⑥⑦}の順子もある。無いのは役だけ。
嶺上牌を引いて聴牌したのだが、
「ロン。33200。」
咲が手牌を倒していた。{⑨}待ちの国士無双だった。暗槓を狙われたのだ。
これで、泉と咲の点差は100点まで一気に縮まった。
「あれ、なんなん? 槓が得意やからって、槍槓も意図的にできるん?」
怜に膝枕させながら、竜華が言った。
これに怜が答えた。
「あれな。咲ちゃんは牌が全部透けて見えてるんや。」
「うそやろ? それ、反則やん!」
「でも、それくらいできないと、プラマイゼロなんて、できへんで。それに、前半戦の最後は、意図的に3900を振り込んでのプラマイゼロや。相手の手の高さも、全部完璧に把握してるってことやで。」
「じゃあ、二年前のインターハイで、もし決勝に行けたら、うちは、そんな化物相手に戦わなければならなかったてこと?」
「そう言うことやな。」
竜華の背筋に冷たいものが走った。
あれは、単なる化物ではない。史上最凶最悪。神か悪魔か?
少なくとも、人間じゃない。
荒川憩が、宮永照のことを、
「人間じゃない!」
と言っていたが、それを上回る咲も、当然人間じゃないだろう。
対局室では、既に南入していた。
南一局、中国の親番。ドラは{①}。
さすがの泉でも、役満直撃のショックからは、そう簡単には立ち直れない。
「カン。もいっこ、カン!」
ここに追い討ちをかけるように、咲が{②}と{2}を連続で暗槓した。別に咲が和了ったわけではないが、プレッシャーは受ける。
これで、{①}と{1}は使いにくい牌になった。
泉は、この時{135}の両嵌を持っていた。当然、こうなると{1}は不要だ。そして、手を進めるために{1}を切ったその時だった。
「ロン。ジュンチャン三色ドラ3。24000!」
親の中国先鋒に泉は振り込んだ。
開かれた手牌は、
{七八九①①①⑦⑧⑨1789} ロン{1}
{1}単騎待ち。大きな一撃だった。
役満直撃に加えて親倍直撃。泉は、これで完全に立ち直れなくなった。
南一局一本場。
ここで、アメリカ先鋒が、
「ツモ! 3100、6100!」
ハネ満をツモ和了りした。
南二局。
ここでも、
「ツモ!3900オール!」
アメリカ先鋒がツモ和了りした。
南二局一本場。
この局は、何故か咲が中国先鋒のミエミエの手に振り込んだ。
「ロン。12300。」
ただ、咲に近しい者達は、
「(点数調整だな。)」
と、すぐに理解した。
南三局。咲の親番。
ここでは、咲は特に動かず、
「ポン。」
中国先鋒に役牌を鳴かせ、
「ツモ。500、1000。」
そのまま、中国先鋒に和了らせた。
ここで、点数と順位は、
暫定1位:中国 105200
暫定2位:宮永咲 102400
暫定3位:アメリカ 101100
暫定4位:二条泉 91300
咲は、これで次局に2600点を和了れば+5000点になる。
また、もし、さっきの中国先鋒の和了りが、咲以外の誰かの振り込みであった場合でも点数は103400となり、次局で1600を和了れば+5000点。
まさに、計算された点数だったと言える。
この時だった。
泉の脳裏に照の能力に宿る記憶がフラッシュバックした。
「今日の麻雀は、これで終わりね。みんな平らになってるね。」
みなもの声だ。
「咲は、全局プラマイゼロ。しかも、全員の点数も調整して平らにして。これだけの力があるのに、なんで咲は勝ちに行かないの?」
これは、多分、照、咲、みなもの母親の声だ。
「だって、負ければお小遣いを取られるし、勝っても嫌な顔をされるんだもん。」
咲の声だ。
そこから、さらに過去に遡る。
麻雀を始めたころ、宮永家は平和だった。しかし、そのうちに親の提案と言うか、命令で、家族内で金をかけるようになり、咲も照もみなもも小遣いがなくなっていった。
それを打破するため、3人とも勝つ麻雀を目指した。それぞれの特性に合った攻撃的スタイルで…。
なけなしの小遣いを守るため、3人は泣きながら麻雀を打ち、独自のスタイルを身に着けた。
照が見つけたのが連続和了。
みなもが見出したのが翻数上昇。
そして、咲は嶺上開花。
勿論、それだけではない。3人とも、相手のツモから牌を切る動作、何処に入れたかなどを観察し、相手の手牌を読み取る力も鍛えていた。
その後、3人は、とてつもなく強く成長していった。元プロの母親を3人がかりで簡単にトバすくらいに。
そうなると、元プロのプライドは崩れる。母親の機嫌が悪くなる。
それを察知した咲は、勝ちも負けもしない打ち方に変えて行った。それが、意図的なプラスマイナスゼロである。そして、それを成し遂げるため、咲は、更なる進化を遂げていた。相手の手牌を読み取るだけに留まらず、全ての牌が透けて見えるようにまで変わっていったのだ。
だからこそ、前半戦は、最後にアメリカ先鋒が和了した時の点数が3900点であることを見抜いていた。怜の言ったとおりだ。それゆえのプラスマイナスゼロだったのだ。
しかし、自身のプラスマイナスゼロだけでは母親の負けは無くならなかった。それで、咲は、さらに全員の点数調整にまでチャレンジし、それを身に着けた。そして、数局打つと全員の点数が平らになるようにコントロールするまでに至った。
こうして、全てを完全にコントロールする魔物、宮永咲が誕生したのだ。
泉は、この照の能力コピーが持つ記憶で、照も咲もみなもも、単に才能があったから強いわけではないことを知らされた。自分達を守るため、泣きながら身に着けた絶対無二の技だったことを…。
そして、さらに咲は、全てを守りたくて点数調整を完璧なまでに身に着けたことを…。
しかし、現実は残酷だった。その咲の能力ゆえ、家族麻雀は崩壊し、さらに家族の離散へと続いていったのだから…。そして、咲は小学校3年生の時に麻雀をやめた。和と出会うまでの間、一切麻雀を打たなかった。
一方の照も、小学校5年生で麻雀をやめた。高校に入学して弘世菫に出会うまで…。
これには、泉も言葉を失った。
泉は、
「(こんなことって…。私は、なんの努力もしていなかった。小学生の頃、他の小学生よりは強かったと自負していた。でも、弱い者相手に勝って、イイ気になって、もっと強い者が現れたら、それを謙虚に受け入れられなくて…。それで能力移植に走って…、命を縮めて…。完全に私の負けや、宮永…。)」
そう心の中で呟いた。
移植された能力のコピーも、咲の能力を忌み嫌って逃げたがっていたし、泉自身も、とうとう咲に負けを認めた。
この時だった。
泉の全身から人型をした光が飛び出した。その形は、宮永照の姿にそっくりであった。そして、その光は天井を突き抜けると、マホの頭上にまで飛んできて四散した。
その粉々になった光が、マホの身体に入っていった。
マホは、泉が能力コピーを解除されたことを知り、
「宮永先輩。これで、泉先輩は助かりました。ありがとうございます。」
と呟いた。
今回の件は、ドイツチームではマホとニーマンしか知らない。マホ以外の選手達には知らされていなかったのだ。泉は立ち聞きしてしまったが…。
マホが、ニーマンにサインを送った。すると、ニーマンは、早速日本チーム控室に連絡を入れた。
対局室では、既にオーラスが始まっていた。
アメリカ先鋒は、ここで5200以上を和了れば前後半戦トータルで勝利し、勝ち星をあげられる。当然、攻めに出てきた。こう言ったストーリーを作り出し、全てを誘導し、コントロールする化物がいることも知らずに…。
そして、アメリカ先鋒が聴牌して捨てた牌を、
「ロン。2600。」
全てをプロデュースする咲が和了った。
ここで、点数と順位は、
後半戦1位:中国 105200
後半戦2位:宮永咲 105000
後半戦3位:アメリカ 98500
後半戦4位:二条泉 91300
そして、前後半戦のトータルでは、
1位:宮永咲 210000
2位:中国 209500
3位:アメリカ 203600
4位:二条泉 176900
点数の魔術師、いや、点棒の支配者とでも言ったほうが正しいであろう。咲が先鋒戦の勝ち星をあげた。
「「「「ありがとうございました!」」」」
対局後の一礼を終えると、泉は、再び椅子にもたれかかるように座った。
この直後、対局室の扉が開き、アメリカ先鋒とドイツ先鋒が出て行くのと入れ替わりでマホが入ってきた。その後には、恭子の姿もあった。
「宮永先輩。ありがとうございました。成功です。」
「本当! 良かった。じゃあ、私は、コーチが迎えに来たし、行くね。」
咲は、恭子に連れられて、対局室を後にした。要は、控室までの移動で迷子にならないようにとの配慮であった。
咲とマホの会話を聞いて泉が、
「何が良かったんや?」
とマホに聞いた。
「実は、非常に言いにくいのですが…。能力コピーの移植を受けた人は、命を縮めるんです…。」
「それか。この間、それでマホが泣いているのを影で聞いていたわ。」
「知ってたんですか?」
「うん、他言はしていないけど…。だから、私の命が、あと3年くらいしかないことも分かってる…。」
「でも、能力コピーが解除されました。宮永先輩の手によって。」
「えっ?」
「ですから、10年くらいは寿命が短くなったかもしれませんけど、泉先輩は、まだまだ生きられるんです。」
「ほ…本当に?」
「はい。」
「でも、もう、連続和了は、できないんだよね。」
「それは、そうですけど…。でも、マホは、泉先輩が死なないほうが嬉しいです!」
「そうか…。そう言ってくれる人もいるんだな。」
「私だけじゃありません。他にもいっぱいいますよ。きっと。」
「そうあってほしいけど…。」
ふと、泉は、数日前に自分の先輩達に悪態をついたことを思い出した。あの時は、連続和了の能力を得てイイ気になっていた。
馬鹿な自分…。
今、自分がやるべきこと。それは、自分を心配してくれていた千里山女子高校の先輩達への謝罪であろう。
「マホ。悪いけど、用事を思い出した。それが終わってから控室には戻るんで、監督達には、そう言ってもらえないかな。」
「いいですよ。」
「じゃあ、よろしく。」
そう言い残すと、泉は対局室を走って出て行った。
小会議室では、トシが怜、竜華、セーラ、浩子に、
「能力は失ったけど、寿命は守られた。あの子に会いに行ってあげな。きっと、みんなに謝りたがっているだろうからさ。」
と言った。
4人は、トシに一礼すると、小会議室を出て行った。
一方、泉は会場の観客席を見渡していた。
「みんな、どこにいるんやろ?」
どうも、それらしく人影は見当たらない。
止むを得ず、泉はロビーに出た。その時だった。
「お疲れさん!」
背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。大阪の誇る『盾』と『矛』の『矛』。泉が小学校時代から追いかけてきた江口セーラの声だ。
「せ…先輩!」
「もう、先輩として認めないんじゃなかったんか?」
嫌味な内容だったが、明るい口調だった。
別に怒っている様子はない。
「ごめんなさいです。先輩。私がアホでした。イイ気になってました。楽して強くなろうなんて…。」
「もう、終わったことや。分かれば、それでイイ! それより泉。」
「なんです、先輩?」
「久し振りに、一緒にメシ食い行こう。」
すると、竜華が、
「うちも、そうしたい。泉と食べるの、久しぶりやもん。」
と言った。怜も、
「たまには、ええか。」
と言い、浩子も、それに続いて、
「5人で食べに行くのは一年半振りですね。」
と、全員、前と変わらない感じだった。
泉は、
「はい!」
と元気良く答えながら、涙を流していた。あれだけ悪態ついたのに…。もう、この先輩達には、一生頭が上がらない気がしていた。
一方、咲のほうだが、それから数分後に、控室に戻ってきた。
慕が、開口一番、
「二条泉の能力コピーが解除されたって連絡があったよ。」
と言った。
「はい。マホちゃんから聞きました。本当に良かったです。」
「なんだ、聞いてたのね。」
「はい。でも、お姉ちゃんが忌み嫌っていたプラマイゼロが役に立てて嬉しいです。」
「それでいて、ちゃっかり勝ち星もあげてるし、本当に化物だと思うわ。そうしたら、次は淡ね。」
「ふぁ…ふぁい。」
この時、淡はタコスを食べていた。良く分からないが、ニーナの能力コピー解除には必要だと小蒔から言われているのだから仕方がない。
「よろしくお願いね。」
「はい。」
そうは言っても、淡は、どうすればニーナと、ニーナに移植された自分の能力のコピーが敗北を認めるのか、見当がつかなかった。
淡が対局室に入ると、卓上に片岡優希にそっくりな小人がいた。それは、まるで優希のフィギュアみたいに見える。
「私は、タコス神優希ちゃんだじぇい!」
そう言えば、オーダーを恭子が発表している時に、咲が『タコス神優希ちゃん』のことを言っていた。
淡は、それが、これだと言うことを理解した。
「大星淡だな。」
「そうだけど。」
「お前に、東風の神の力を貸してやるじょ。マホと私の本体が、それを願っているからな。それから、咲ちゃんもだじぇい!」
「サキが?」
「お前の胸のところにいるじぇい!」
淡が自分の胸のほうに視線をおろすと、淡の胸を、
「くそ、このやろ、えい!」
と何度と無く蹴飛ばしている咲の姿をした小人がいるのを見つけた。
ただ、その小人は、何故か宙に浮いていた。
「なにしてるのよ。ちょっと痛いんだけど。」
「初登場の時は、私と同じ側って思っていたのに、急に和ちゃん側になって、ちょっと許せないんだよね。」
すると、優希ちゃんが、
「彼女は、死神咲ちゃんだじぇい! 一応、大天使バージョンもあるけど、今回は相手の能力コピーを狩るって聞いているからな。それで、死神バージョンにしたんだじょ。」
と淡に言った。
ちなみに、このタコス神優希ちゃんと死神咲ちゃんと会話している時は、時間が止まっている。そのため、周りからは不自然には見えない。
死神咲ちゃんは、自分の身の丈よりも若干大きい鎌を背負っていた。どうやら、死神の雰囲気を出すためのようだ。
優希ちゃんが、
「咲ちゃんも、お前に力を貸してくれるそうだじょ。一回力を貸す毎に10分間、控室に戻ったらすぐに、咲ちゃん本体に、お前がひざまづいて足を舐めるのが条件だがな!」
と言った。ただ、言葉が聞き取りにくく、淡には、
「(ひざまづいて、アソコ舐めるのが条件?)」
と聞こえた。さすがに、それは受け入れたくない。
淡は、
「どうしても必要になったらお願いするけど、でも、そんな協力をしてもらわなくても自分でなんとかするから。」
と、悪態ついた感じで言った。淡は、拒絶しているのを示したのだ。
すると、咲ちゃんは、
「まあ、そのうち必要が出るでしょ。それまで、私は見てるから。ちょっとはアドバイスするかもしれないけどね。」
と言うと、淡の後に回った。
優希ちゃんも、
「私も、必要になったら前に出てくるじょ。私の場合は、前半戦と後半戦で一回ずつ。それも東場だけの限定だじょ。それは忘れない欲しいじぇ。じゃあ、出番が来るまで、咲ちゃんと一緒に、お前の後ろにいるじぇい!」
と言って、宙に浮くと淡の後に回った。
時間が動き出した。
対局室に、ニーナとアメリカ次鋒、中国次鋒が入ってきた。
ニーナは、
「淡ちゃん、久しぶり。でも、今回は今までと違って勝たせてもらうからね。すっごく便利な淡ちゃんの能力のコピーでね。」
と、少々挑発的な口調で淡に言ってきた。
淡は、これを無視して場決めの牌を引いた。
これに続いてニーナ、アメリカ次鋒、中国次鋒も次々と場決めの牌を引いた。そして、起家はニーナ、南家は中国次鋒、西家はアメリカ次鋒、北家は淡に決まった。
東一局、ニーナの親。ドラは{⑨}。
アメリカ次鋒と中国次鋒は、ともに六向聴、淡は一向聴、ニーナは二向聴だった。
ニーナは、
「ポン!」
速攻でアメリカ次鋒の捨てた{發}と、
「チー!」
淡が捨てた{①}を鳴き、
「ロン。發ドラ2。5800。」
中国次鋒から和了った。
そのスピードは、淡が恭子から教わって身に付けた早和了りを上回っていた。
驚いた表情を見せる淡にニーナが言った。
「昔は、淡ちゃんの絶対安全圏を相手に、私は鳴いて手を進めて対抗しようとしてたんだよ。それが、今じゃ、せいぜい一向聴か二向聴じゃん。しかも、こっちが絶対安全圏を発動する側でさ。和了るのが楽になったよ。」
どうやら、過去に淡がニーナと打っていたことが、自然とニーナの鳴き麻雀の力を育てていたようだ。
しかも、淡が配牌で一向聴か二向聴なら、早いうちからチュンチャン牌を淡が切り始める可能性が高い。それをニーナはチーできる。
しかし、淡の上家は、序盤は字牌処理が中心になる。この席順もニーナにとって都合が良かったかもしれない。
東一局一本場、ニーナの連荘。
ここでも、アメリカ次鋒と中国次鋒は、ともに六向聴、淡とニーナは二向聴だった。そして、ニーナは、
「チー!」
淡の捨て牌を鳴き、
「ツモ! 2100オール!」
ここでも速攻で和了った。
東一局二本場。
淡とニーナの絶対安全圏が続く。
この局も、ニーナが、
「チー!」
淡の捨て牌を鳴き、
「ツモ! 2200オール!」
そのまま、早和了りを決めた。
結果的に淡の捨て牌が甘いことになるのだろう。同じパターンで二度和了られている。
そして、東一局三本場。
「淡ちゃん。実は、私、サイコロの目を自由に出せるんだよ。淡ちゃんの能力なら、7が出るのが一番イイでしょ? 今から、7を出してみるね。」
ニーナは、そう言うとサイを回した。そして、宣言通り、サイの目は7となった。
最後の角の後が、もっとも長く続く切れ方。ここで、とうとう、
「ダブルリーチ!」
ニーナが、ダブルリーチをかけた。
そのまま誰も鳴かずに9巡目。角の直前。
「カン!」
当然のようにニーナが暗槓した。そして、次巡、
「ツモ。ダブルリーチツモ槓裏4。6300オール。」
完全に、淡はお株を奪われた。ニーナの独壇場だ。
しかも、そこで猛威を振るっているのは淡の能力のコピー。くわえて、サイの目までコントロールしている。
淡は、否応なしに、自分の能力の凶悪さを思い知らされた。