みなもが小学校三年生の時、その女は祖母と一緒に家にやってきた。
祖母に連れられて来たと言うよりも、祖母に何らかの負い目があり、無理矢理付いてきたと言う感じがした。
そして、みなもは、咲と照とその女の4人で麻雀を打つことになった。
その女は強かった。
オーラスが始まった。
その女がトップ。咲は、相変わらずのプラスマイナスゼロ狙い。照も原点よりは若干点棒が多い。
みなもだけがマイナス。
ただ、ここまでしか覚えていない。途中で、みなもの記憶が飛んだ。
一体何が起こったのだろうか?
良く分からない。気を失っていたのかもしれない。
気が付くと、飛行機の中にいた。そして、その女…ニーマンのことを何故か母と呼んでいた。
ニーマンの魔法にかかったのだ。本当の母親のことは、この時には既に記憶から消去されていた。
飛行機の中には、祖母の姿は、無かった。
ドイツについてから、宮永みなもは、ミナモ・A・ニーマンに替わった。
そして、母と呼ぶニーマンに麻雀の腕を鍛えられた。もともと強かったミナモは、早々に頭角を現し、小学生でありながらトッププロ以外に苦戦することは無かった。
そして、その後、地下麻雀に参加するようになり、多くの女性雀士を打ち負かし、破壊してきた。
箱下になった選手の性器に棒が挿入される。
ミナモが地下麻雀に参加し始めた頃は、対局中の箱割れした選手のみへの挿入だった。
ところが、ミナモが先鋒で全チームを箱下10万点にまで追い込んだため、ミナモ以外の先鋒選手3人のみへの挿入で終わってしまった。
それでは、高い金を払っている観客側が納得しない。それで、箱割れしたチーム全員への挿入にルールが変わっていった。
「もうムリ…。」
「痛い。やめて!」
性器に挿入された棒が太くなる。悲痛を上げる選手達。
「でも、ここでやめたらお金がもらえないよ。」
スタッフの悪魔の囁き。
金のために苦痛に耐える者。
気絶する者。
筋肉弛緩剤を打たれる者も…。
この惨劇を、当時のミナモは愉悦と感じていた。
ふと、みなもが目を覚ました。
「(また、この夢か)」
今でも、昔のことを夢でみる。
悪夢と言うわけではないが、人を人と思わない麻雀マシーンになっていた過去の自分を思い出さされる。
みなもにとっては黒歴史と認定した内容だ。
とは言え、忘れたくても忘れられないことでもある。
ただ、今日見た夢は、いつもより鮮明だった。
昼に蒔乃が来て、地下麻雀のオーナーの話をしたからだろうか?
それとも、なにかの啓示だろうか?
「(とにかく寝なきゃ。)」
みなもは、何も考えないようにしながら目を閉じた。
その日、ニーマンは、地下麻雀のオーナー、仮称ミスターXに呼ばれて、2人で秘密の個室にいた。
ニーマンは、ミスターXに、地下麻雀の運営以外に、性的な奉仕も要求されていた。この日も、例外ではなかった。
無機的な表情で、ニーマンが、ミスターXのイチモツをくわえ込む。慣れた作業だ。
その様子を上から見下ろすようにしながら、ミスターXが言った。
「俺は、お前のせいで左脚を失った。だから、お前に、その謝罪として、性奴隷になることと、地下麻雀への協力を要請した。」
彼は、元々水泳選手で将来が期待されていた。しかし、交通事故で左脚を失った。車に轢かれたのだ。
事故を起こした運転手はニーマン。これによって、ミスターXは左脚を切断。
この時、ニーマンは、酒気帯びだった。
パラアスリートとして再起する道もあったが、失意の方が大きく、ミスターXは、水泳選手としての道を断念した。
それで、父親の会社に所属し、ビジネスを新たな活躍の場とした。
もともと、父親の会社はメジャーカンパニーで、金に困ってはいなかった。むしろ、溢れ返っていた。
それに、いずれは父親の会社を継ぐ。
ニーマンは、示談に持ち込もうとしたが、そのような立場にあるミスターXは、別に示談金などには興味がなかった。
ただ、左脚を失った恨みだけは忘れていない。
そこで、ミスターXが考えたこと。それは、ニーマンが最も大切にする麻雀を蔑ろにすることだった。特に、女性雀士の地位を失墜させる。
これによって、ミスターXはニーマンに復讐しようと考えた。
そこで思いついたのが地下麻雀だった。
そして、女性麻雀を、性的な見世物にするべく地下麻雀組織を設立し、その組織で敢えてニーマンを働かせた。
「今まで、あの地下麻雀で、色々な選手を見てきたが、あの魔法少女は面白い。スター性もあるしな。そろそろ、マホを私の奉仕役に取り立てたい。それができれば、ニーマン。お前は解放してやる。」
そう言いながら、ミスターXが、ニーマンの性器に自分のイチモツを挿入した。
ニーマンは、最初の頃は嫌だったが、これも今では単なる作業だ。
「(早く終わらないかな。)」
性的商売をやっていた一昔前の日本の女性が、相手の男性が頑張っている中、天井の縞模様の、縞の数を数えて終了時間が来るのを待っていたのと余り変わらない。
もはや、ニーマンにとっては、それだけのことだ。
また、ミスターXは、マホを次の奉仕役にしたがっているが、マホにも選択権はある。
金で一般人は何とでもなるとミスターXは思っているようだが、世の中、金だけでは動かないこともある。
それに、既にマホの記憶と感性は戻っている。今更、この男の奉仕役に当てることは、不可能だろう。
「(さて、どうしようか?)」
とニーマンは考え中だった。
ミスターXが絶頂を迎えた。割と早い。
「それでだな。明日、ビジネス界のライバル達と麻雀をするハメになった。俺は、麻雀が大嫌いなんだが、地下麻雀を運営しているからな。それで、麻雀ができるだろうってことにされた。」
「では、代打ちを立てるのですか?」
「いや、本人が打つのが前提なんだ。困ったものだ。それで、魔法少女が能力を移植できることを思い出してな。それを俺にやって欲しい。」
ニーマンは、まだミスターXには、能力コピーの移植者が寿命を喰われることを報告していなかった。
しかし、これは、ある意味チャンスかもしれない。
「分かりました。では、今、マホを呼びます。」
「そうしてくれ。」
ニーマンが、イーヴリンに連絡を入れ、この個室の隣の部屋にマホを連れてこさせた。さすがに、この部屋には入れられない。
ニーマンは、急いで衣服を整えると、隣の部屋で待機した。
ミスターXは、別の部屋で待機。そこで、ニーマンがマホを連れてくるのを待つことにした。
マホが部屋に入ってくると、ニーマンは、小声で状況をマホに話した。
さすがに、マホも、
「それって、やったら大変なことになりますよ? 余りやりたいとは思えません。」
小声で乗り気ではない返事をした。
能力コピーの移植や貸与が、どのような結末になるか、それをマホは知っている。特に貸与の場合、即日で恐ろしい結果になる。
「しかし、私達が自由になるには、これしかない。責任は私が持つ。マホ。これが最後の頼みだ。」
マホは、暫く考えた。そして、目に涙を浮かべながら、
「分かりました。でも、先生のせいではありません。きっと、これは、能力コピーを操れるマホの運命なのです。」
と言った。
涙を拭うと、マホは、ニーマンに連れられてイーヴリンとともにミスターXの部屋に入った。そして、あっけらかんとした表情でミスターXに近づいた。
「先生に聞きました。能力コピーを貸して欲しいってことですね。」
「そうだ。」
「実はですね。マホ、この間の世界大会で負けたんです。」
ミスターXは、麻雀には興味がない。それで、世界大会のことは何も知らない。
しかし、マホがとんでもない実力者であることは理解している。地下麻雀では破壊神とすら呼ばれているくらいだ。
そのマホが負けるなんて、ミスターXには信じられなかった。
「お前がか?」
「はい。」
「世界は広いな。それで、そいつは誰だ?」
「私の前に、ここにいたミナモ先輩です。ただ、ミナモ先輩は記憶が戻って、ここを出て行きました。」
「あいつか…。あいつも破壊神だったな。」
一応、ミナモの実力もミスターXは把握している。ならば、マホは負けたことにも一応は納得が行く。
「ただ、そのミナモ先輩よりも、もっと強い人がいるんです。ミナモ先輩ですら、てのひらの上で遊ばせるような、とんでもない実力者です。」
「そんな化物がいるのか?」
「はい。その人の試合の録画があるんですけど、見てみますか?」
「そうだな。お前が、そう言うなら見せてもらえるか?」
「分かりました。」
マホは、イーヴリンにお願いし、昨年の長野県秋季大会の映像を、この部屋のテレビに映し出した。
その映像の中には、550000点事件や444400点事件の様子が収められていた。
いくら相手が格下でも、このような大虐殺を狙ってすることはできない。しかも、点数をピッタリと調整している。
これが、普通じゃないことだけは良く分かる。
「この人は、ミナモ先輩の姉です。点数を自在に操ることができるんです。女子高生麻雀選手で最強の打ち手だと思います。」
「そのようだな。私でも、見ていて何となく分かる。思うんだが、この力が手に入れば無敵じゃないか?」
「マホもそう思います。ですので、この人の能力のコピーを一日だけお貸しします。それで良いですか?」
「おお。それで十分だ。」
「では、早速、良いですか?」
「頼む。」
マホは、里奈子、加奈子、留美子に能力コピーの貸与をした時と同じように、ミスターXの両肩に両手を置いた。そして、
「ギュィーーーーン…。」
マホの手から音が出始めた。
「少し気持ち悪くなりますけど、一瞬ですので我慢してください。」
「あ…ああ。」
次の瞬間、ミスターXは、激しく空間が歪む感覚に陥った。
たしかに吐き気がする。
しかし、これに耐えれば最強の麻雀打ちに変身できる。明日の賭け麻雀にも絶対に勝てるだろう。
「ズシン…。」
巨大な何かが空から振ってきて地面に衝突した…、そんな感じの大きな音がした。マホの両手からミスターXの体内に能力コピーが送り込まれた衝撃によるものだ。
そう。マホは、咲の能力のコピーをミスターXに送り込んだのだ。
ミスターXは、身体中が、今まで以上にエネルギーに満ち溢れてきた。
五感が鋭くなっている感じがするし、なにより、今なら、誰が相手でも麻雀に勝てる気がする。
「では、イイですか?」
「なんだ?」
「この力は、明日の試合のためだけに使ってください。それより前に使ってしまうと、試合で使えなくなっちゃうかもしれませんから。」
「分かった。」
「あと、この人の能力は、靴下を脱がないと最高状態になりません。打つ時は、裸足になってください。」
「裸足だな。それも了解した。」
「それと、起家になったほうが、この映像みたいなことが、やりやすいと思うんです。それで、起家になる方法ですけど、タコスを食べればよいって伝説があるんです。」
「タコス? それは、また、何故?」
「マホの先輩で東風の神って言われる人がいるんです。東場で異常に強くて、しかも毎回起家になるんですけど、タコスを食べると、その人の力が宿るんです。今、貸した能力を持つ人も、あの試合の前にタコスを食べてたって聞いています。起家になるためです。」
「ふーん。」
さすがに、これは信じがたい。
しかし、マホの言うことだ。一応、縁起担ぎに、明日は対局前にタコスを食べておこう。彼は、そう思った。
「では、明日の試合、頑張ってください。マホも応援してますよ。」
マホが笑顔でそう言った。相当な役者だ。
「お…おお。それでは、俺は、仕事があるので失礼する。」
ミスターXは、そう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
ただ、片足は義足だ。
その義足から、歩く度に、
「ギー。ギー。」
と音がする。
この男は、ビジネス界では結構な大物のようで、彼を取り巻く一部の人間は、彼の義足から出る音を、
「脚が泣いている!」
と形容するそうだ。
ドアの前でミスターXと擦れ違った時、ニーマンは、今までにない巨大なエネルギー波を感じた。身震いするほどだ。相当強烈な能力を貸与されたことが分かる。
間違いなく、咲の能力コピーを与えられたのだろう。
ただ、春季大会で、大場加奈子、越智留美子、浦木里奈子に能力コピーを貸した時、咲と健夜の能力は本質が見えなさ過ぎて超劣化コピーしか貸せないと言っていた。
しかし、もし、それが本当なら、ミスターXからは、これほどのエネルギーを感じないはずだ。マホは、劣化版ではない、きちんとした咲の能力コピーの貸与が出来たのだ。
「じゃあ、ニーマン。失礼するよ。」
そう言うと、ミスターXは部屋から出て行った。
ミスターXの姿が見えなくなると、急にマホが大声で泣き出した。
「ごめんなさい。マホは悪い子です。」
これまで笑顔を作っていたのが信じられないくらいの変わりようだった。
「マホ…。お前、宮永咲のコピーの貸与って出来たのか? 以前、劣化版しか貸与できないって…。」
「宮永先輩の能力は、照先輩よりも強力です。だから、春季大会の時も宮永先輩の能力は理由をつけて貸すのを拒否してたんです。多分、能力を受けた人の連荘が続きますので、半荘一回も身体が持たないと思います…。」
「そう言うことだったのか…。」
たしかに、選手が対局中に死んだら大変なことになる。マホは、魔法にかかっていた時でも、それだけは避けたかったのだ
「マホは本当に悪い子です。殺人者です。」
「いや、お前は悪くない。依頼したのは私だ。」
「先生のせいではありません。それに、先生もマホもイーヴリンさんも、自由になるには、この方法しかありませんでしたから…。」
マホは、両手で顔を覆うと、そのまま、その場に座り込んだ。
貸与した能力が人の命を喰い尽くす。
ニーマンの魔法が解けて普通の感覚になった今、このことは、マホには耐え難いことであった。
翌日の昼間、ミスターXは、ビジネス界のライバル達が指定してきた高層ビルの一室に向かった。
そこには全自動麻雀卓が置いてある。
そこで、これから4人の経営する会社の経営権をサシウマに麻雀を打つ。半荘二回で、獲得素点の合計で決める。
社員達からすれば、とんでもない話だ。
ミスターXのライバル達は、ミスターXが麻雀を殆ど理解していないことも、当然、打てばド下手であることも知っていた。
しかし、地下麻雀の運営をしている以上、
「自分はド素人です。麻雀は打てません!」
とは言い難い。
それを分かった上で、ミスターXに、この話を持ちかけた。
ミスターXは、ビジネス界で才を発揮し、父親から引継いだ会社をさらに拡大。今では、いくつもの会社を経営するまでに至った。
このサシウマ勝負で、彼から、それらの会社の経営権を根こそぎ奪ってやろうと、この対局を申し入れたと言ったところだ。
結局のところ、ミスターXの経営者としての才覚が気に入らなかったのだろう。だから、卑怯な手を使ってでも引き摺り下ろしたかったのだ。
ミスターXが、部屋に入ってきた。
丁度、タコスを食べ終わったところらしく、口の周りにはチリソースが付いている。
マホの言うとおりにするところは、結構律儀だ。
「今日は、よろしく頼むよ。」
そう言うと、彼は場決めの牌をめくった。
たしかに、東を引いた。縁起は担ぐものだなと、ミスターXは、つくづく思った。
彼の起家で対局が始まった。
ルールは、先日の世界大会と同じである。10万点持ちで赤牌あり、ダブル役満以上もありのルールだ。
ミスターXは、靴下を脱いで裸足になった。もっとも、左脚を失っているので、右の靴下だけではあるが…。
東一局。
ミスターXは、対局を始めて驚いた。
牌が透けて見える。
しかも、槓材がドンドン入ってくるし、何処で何を捨てれば、誰がそれを鳴いて、どうツモ順が変わるか、そう言ったことが全て一瞬で理解できる。
負ける気がしない。
そして、
「カン!」
{①}を暗槓した。
この局は、
「ツモ。嶺上開花。4000オール。」
ミスターXが和了った。
しかも嶺上開花だ。
嶺上開花は、珍しい役である。
この時、ライバル達は、この段階では、
「「「(ミスターXの奴、運がイイな。)」」」
くらいにしか思っていなかった。
それに、どうせこの男は素人だ。12000点くらい、すぐに取り返せると舐めてかかっていた。
東一局一本場。
さっきと同じように、ミスターXの手牌は、まるで簡単作業のようにスイスイと手が進んでゆく。
しかも、頭の中に、何点でどの局を和了るべきかまで頭の中に浮かんでくる。相手に地獄を見せるためのルートの設定が…。
「カン!」
そして、ここでも、
「ツモ。嶺上開花。4100オール。」
これも、ミスターXの和了りだ。
二連続での嶺上開花。
「「「(ゲッ! 嘘だろ!)」」」
これには、ライバル達も驚かざるを得なかった。
東一局二本場も、
「4200オール。」
これも嶺上開花。
東一局三本場も、
「4300オール。」
これも嶺上開花だ。
こうなると、ライバル達は、運の良し悪し以外の何かを考えなくてはならない。
卓は、こちらで用意したもの。イカサマ卓ではない。もっとも、自動卓なので積み込みはできない。
それに、ミスターXの手の動きは全員で見ている。イカサマをしている様子はない。さすがに、なにか変なことをやっていれば、誰かしら気付くだろう。
一方、ミスターXにとっては、実に愉快な対局だった。
簡単に和了れるし、しかも全て嶺上開花。ライバル達は、みんな顔面蒼白している。彼らには、手の打ちようがないのだ。
そこから、ミスターXの和了りは、さらに続いた。
四本場、
「4400オール。」
五本場、
「6500オール。」
六本場、
「4600オール。」
七本場、
「6700オール。」
八本場、
「4800オール。」
九本場、
「6900オール。」
十本場、
「5000オール。」
十一本場、
「5100オール。」
十二本場、
「5200オール。」
十三本場、
「2300オール。」
ここは、完全な点数調整である。
十四本場、
「5400オール。」
十五本場、
「3500オール。」
十六本場、
「5600オール。」
十七本場、
「5700オール。」
十八本場、
「5800オール。」
そして、十九本場、
「5900オール。」
全て嶺上開花での和了り。完全に、550000点事件の再現だ。
この段階で、ミスターX以外は全員0点になった。完全に計算された削り方。まさしく宮永咲の点数調整だ。
そして、恐怖の二十本場がはじまった。
この局の開始と同時に、ミスターXの胸に激痛が走った。
しかし、ここで対局を放棄する謂れは無い。圧倒的勝利が目前に迫っているのだ。彼は、そのまま対局を続けた。
対面が{中}を捨てた。
「ポン!」
ミスターXが、それを鳴いた。そして、次巡、
「カン。」
{中}を加槓した。そして、
「もう一つ、カン。」
{東}を暗槓。
「また一つ、カン。」
{南}を暗槓。
「これも、カンだな。」
{西}を暗槓。そして、嶺上牌は{北}。
しかし、破滅の時は突然来た。
嶺上開花で和了っていることは、たしかだった。
しかし、彼は、嶺上牌を掴んだまま動きが止まった。嶺上牌を卓に置かず、手牌の残り1枚も表に倒さずにいた。そして、
「ゲホッ…。ゲロ…、ゲロゲロゲロ…。」
ツモ和了りの宣言をすることなく、一気に大量の血を卓上に吐いた。いや、ぶちまけたと言ったほうが正しいだろう。
そして、そのまま彼は、卓上に頭から突っ伏し、二度と動かなくなった。強烈な能力コピーが彼の生体エネルギーを喰い尽したのだ。
半荘二回勝負は、最初の一回目で中断となった。
彼の体から、少女の形をした光が抜け出すと、窓をすり抜けて、その場から飛び去って行った。まるで、超常現象だ。
その光は、一直線にマホとのところに飛んできた。そして、マホの頭上で、
「パン!」
音を立てて破裂し、粉々の光の粒子となった。
その光の粒子は、マホの体の中に取り込まれた。そして、その時の感覚から、ミスターXの生体エネルギーが全て喰い尽されたことを悟った。
「先生。全て終わりました。」
「そうか。」
「マホは、日本に戻ります。先生は、どうされるんですか?」
「まだ分からない。ただ、麻雀しかないからな。ローザを連れて、どこか違う国に行くだろうな。イーヴリンはどうする?」
「今さら、ニーマンの元を離れることはできませんので、お供しますわ。」
「そうか。」
それから数週間後、マホは、泉、莉子とともに日本に帰国した。
ただ、泉も莉子も、地下麻雀のことは良く知らない。泉は、一応参加経験はあるが、ただ、卓に付いて圧倒的な力を見せ付けただけに過ぎない。よって、ミスターXのことも何も知らない。
その分だけ、マホよりも幸せだったかもしれない。
その後、地下麻雀は、会員達の中から新たな経営陣を選出し、復活する。
しかし、ミナモやマホのような絶対的エースが不在だ。当然、一昔前の様に最大値まで棒の直径が太くなることは無くなった。
ただ、それで満足する会員達ではない。
その後、負けたチームの選手を会員達が買春するにまで話が及んで行くことになる。刺激に飢えた会員と金が欲しい選手。そうなっていって不思議ではない。
今までは、ニーマンが、そうならないように運営していたが、彼女が手を引いた以上、互いの欲だけが一人歩きする。
地下麻雀は、単なる乱交の場へと失墜して行った。
皮肉なことに、ミスターXが死んで地下麻雀からニーマンが手を引いたことで、ミスターXの野望…『女性雀士の失墜』は達成されたのかもしれない。