次鋒戦東二局が始まった。
各校点数は、
東家:東白楽高校 79100
南家:千里山女子高校 66800
西家:清澄高校 186300
北家:大生院女子高校 67800
数絵の脳裏に、冬休みに行った合宿での出来事がフラッシュバックした。
合宿では、如何にして南場を凌ぐかが優希の課題、如何にして東場を凌ぐかが数絵の課題となっており、対極的な性質を持つ2人は、必ず同じ卓に付くことになっていた。それで、互いの苦手な場の克服を行ったのだ。
また、ここに咲や和が入って、2人の得意な場の底上げ練習も行った。
少なくとも、昨年の県予選個人戦に比べると数絵の東場での振込みは劇的に減っていた。
「ツモ! 2000、4000です。」
千里山女子高校次鋒が和了った。
振り込まなくても、大きな手をツモ和了りされたら手痛い失点になる。東場で、相手に如何にして大きな手を和了らせないかも、数絵には重要な課題だった。ここでは満貫和了られてしまったが…、ただ、幸い数絵の失点は2000点で済んでいる。
東三局開始時点での各校点数は、
東家:千里山女子高校 74800
南家:清澄高校 184300
西家:大生院女子高校 65800
北家:東白楽高校 75100
数絵は、親の千里山女子高校次鋒に聴牌気配を感じた。
「(ここか?)」
千里山女子高校の現物、{④}を捨てた。しかし、これは大生院女子高校の危険牌だった。
「ロン! 3900」
差し込みだった。
この時、千里山女子高校はハネ満を聴牌していた。数絵は、これで自分の失点を最小限に抑えた。
東四局が開始された。
各校点数は、
東家:清澄高校 180400
南家:大生院女子高校 69700
西家:東白楽高校 75100
北家:千里山女子高校 74800
苦手な東場とはいえ、親ならば和了っておきたいところ。
数絵はクイタンを仕掛け、
「ツモ! タンヤオドラドラ。2000オール!」
そして、和了った。
しかし、続く東四局一本場で千里山女子高校が大きな手を和了った。
「ツモ! 3100、6100!」
数絵には手痛い失点だった。しかし、これで南入する。
場に、暖かい風が吹いた。
南一局開始時点での各校点数は、
東家:大生院女子高校 64600
南家:東白楽高校 70000
西家:千里山女子高校 85100
北家:清澄高校 180100
数絵は苦手な東場での失点を6000点に抑えた。そして、ここからは得意な南場。
「(優希は、あんな状態だったのに南場でも点数を伸ばせた。その点、私は、まだ優希に遅れをとった感じがする。もっと東場での立ち回りを巧くしないと…。でも、ここからは私のホームグラウンド。)」
欲しいところに、次々と牌が入ってくる。そして、早い巡目で、
「リーチ!」
数絵は攻めに出た。
「一発ツモ。3000、6000。」
続く南二局。数絵のツモ和了りが続いた。
「ツモ! 2000、4000。」
南三局。ここで、数絵は大生院女子高校に直撃をかました。
「ロン! 12000!」
そして、オーラス。
「ロン! 18000!」
ダマ聴で大生院女子高校を直撃した。より高い点を取ることが目的ではない。一刻も早く優希のところに行くため、早く試合を終わらせることを数絵は考えていた。
当然、親は続行。
現在の各校点数は、
東家:清澄高校 230300
南家:大生院女子高校 26600
西家:東白楽高校 63000
北家:千里山女子高校 80100
ここで、数絵にとって、今日一番の大物手が入った。
{①②③④[⑤]⑥⑦⑧⑨南南南北} ドラ{①}
待ちは一枚切れの{北}。
普段の数絵なら、ここはリーチで攻める。南場ならツモれる自信があるからだ。しかし、ここは、再びダマで待った。すると、大生院女子高校次鋒が{北}を切った。
「ロン! 24300!」
更に数絵は親を続行した。この流れなら当然だろう。
そして、オーラス二本場、4巡目、
「リーチ!」
数絵が攻めに出た。ここは、ツモる気だ。そして、
「一発ツモ! 裏2。4200オール!」
大生院女子高校のトビで試合は終了した。
1位は清澄高校、2位抜けは千里山女子高校となった。
この活躍で、数絵は「南場の鬼神」の二つ名で呼ばれるようになった。「東風の神」と対極的な彼女を賞賛する言葉だった。
病院の救急口近くの長椅子に、みなもは、一人で腰掛けていた。
「(優希。あんたの勝ちだよ…。)」
しばらくして、咲達が、みなもの前に現れた。
「みなも。優希ちゃんの容態は?」
「盲腸だって。特に問題は無さそう。」
「そっか…。」
「で、一回戦の結果は?」
「数絵が大生院女子をトバして二回戦進出だよ。」
「良かった…。なら、みんなにお願いがあるんだ。優希から頼まれたことなんだけど、二回戦から私を先鋒で出して欲しい。」
すると、まこが、
「当然じゃけえ。お主をおいて、他に誰がいるっちゅうんじゃ!」
と、みんなを代表して答えた。
最初から、みんなの考えは一致していた。みなもを優希の代わりに出場させると。
「ありがとう。」
みなもは、何かが吹っ切れた感じだった。
翌々日、みなも達の二回戦がとり行われた。
対するは、北大阪の千里山女子高校、西東京の松庵女学院、そして、インターハイ準優勝校、奈良県の阿知賀女子学院の3校だった。
松庵女学院の先鋒、多治比真祐子は、咲の妹であるみなもを強く意識していた。
そう、あれはインターハイ個人戦の時だった。真祐子は、咲と直接対決し、この上ない失態を犯したのだ。
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インターハイ個人戦には、長野県からは3名の出場だったが、全ての県の代表が3名と言うわけではなかった。人数の多い県からは、もっと多くの代表者が出場していた。
真祐子は、西東京の代表として個人戦に出場していた。
200人を超える出場者を予選で篩いにかけ、本戦出場する16名を決める。そのため、個人戦初日は全十回戦のスイスドロー式での戦いが繰り広げられた。
第二回戦で、真祐子は、咲と広島県代表鹿老渡高校の佐々野いちご、兵庫県代表劔谷高校の椿野美幸と戦うことになった。
「(うわぁ、3人とも綺麗…。細身で、お胸は和ちゃんみたいな化け物ではないけど、私よりもあって…。まあ、ゼロより小さいサイズは無いけど…。)」
咲は、自分と3人の容姿を比べていた。ただ、それで終われば良かったのだが、完全に逆恨みのスイッチが入った。
「(3人とも、女性の敵だよ。うん。これは、叩き潰さなきゃだね。ここに来る前に、タコスちゃんの優希………じゃなかった。優希ちゃんのタコスを一口貰って食べたから、優希ちゃんパワーで起家になれるかな?)」
咲が場決めの牌をめくった。すると、望みどおり東の文字が見えた。
「(やったね。この3人。全部ゴッ倒す!)」
起家が咲、南家が真祐子、西家が美幸、北家がいちごの順だった。
「(たしか、劒谷の人は、千里山の園城寺さんに苦しめられていて、松庵の人は淡ちゃんにメタメタにされていたはず。それから、この自分で『ちゃちゃのん』とか言ってる人は一回戦で清老頭を振り込んでいた。じゃあ、まずは、これかな?)」
5巡目、咲は、捨て牌を横にすると千点棒を取り出し、それをリーチ棒置場に置くのではなく人差し指で押さえて立てた。その仕草は、まるで園城寺怜のようだった。
「リーチ!」
これに、美幸が反応した。
「(まさか、これって、園城寺怜の?)」
1巡後、咲がツモ牌を表にして手元に置くと、
「カン!」
和了りではなく暗槓した。
そして、嶺上牌を取り、それを表にして手元に置いた。
「ツモ。リーチ、ツモ、中、嶺上開花。」
咲が裏ドラ表示牌をめくった。
「槓裏4。8000オールです」
まるで怜と淡の複合技だった。この和了りに、真祐子と美幸は不吉なモノを感じずには、いられなかった。
東一局一本場。今度は、咲は鳴きに出た。早々に{⑨}をポンし、次巡、
「ポン!」
{1}もポンした。これで、咲は、{1}と{⑨}の刻子を晒した。
次巡、
「カン!」
{⑨}を加槓した。そして、嶺上牌を取り、
「嶺上開花ならずですが…、もいっこカン!」
{一}を暗槓した。
いちごは、
「(嶺上開花ならずって、愛宕さんみたいなこと言って、なんか嫌な感じがするぅ。)」
団体戦一回戦の役満振込みがフラッシュバックした。
咲は、二枚目の嶺上牌を掴むと、
「ツモ! 嶺上開花、混老対々。4100オールです。」
和了り形は
{①西西西} 暗槓{裏一一裏} 明槓{横⑨⑨⑨⑨} ポン{1横11} ツモ{①}
否応無しに、愛宕洋榎の清老頭を思い出させられた。
東一局二本場。
「カン! ツモ! 嶺上開花、ダブ東、赤1。4200オール。」
東一局三本場。
「カン! ツモ! 嶺上開花、混一、対々。4300オール。」
東一局四本場。
「カン! ツモ! 嶺上開花、面前ツモ、一盃口、ドラドラ。4400オール。」
この咲の連続攻撃を受け、「カン!」の言葉を聴くだけで、3人とも震えが生じるようになっていた。
これで、各選手の点数は、
咲 100000
真祐子 0
美幸 0
いちご 0
狙ったかのように、三人は0点にされた。
東一局五本場。
咲は{1}、{①}と連続してポンした。
そして、その2巡後、
「カン!」
{1}を加槓した。嶺上牌を取ると、
「もいっこ、カン!」
{①}も加槓した。そして、次の嶺上牌を取ると、
「もいっこ、カン!」
さらに、{一}を暗槓した。これで、三色同刻三槓子が確定した。
真祐子も美幸もいちごも、咲の迫力に圧倒されていた。
咲が、3枚目の嶺上牌を取った。そして、そのまま当たり前のように、
「ツモ! 嶺上開花! 清老頭!」
嶺上牌で和了った。しかも役満。
{九九}と{⑨⑨}のシャボ待ちのところに{九}をツモ。
「16500オールです。」
この瞬間、真祐子と美幸といちごにマイナス46ポイントがつけられた。
3人は、激しく震えていた。
「「「チョロチョロチョロ…。」」」
緊張の糸が切れたのか、3人の括約筋が緩み出し、聖水と言う名の湧き水が溢れ出した。そして、徐々に勢いが増し、
「「「ジョー!」」」
そのまま、一気に放出された。それは、もう彼女達には止められなかった。
彼女達の足元に黄金色の泉が誕生した。不幸なことに、この様子がカメラに収められ、全国にライブ中継されてしまったのだ。
完全に放送事故だ。
このときの瞬間視聴率は、75%に達した。
その後、
『この視聴率は、白亜紀末の小惑星激突で絶滅した種の割合よりも高い数値。』
と言われ続けることになった。
この映像は、多くの女子高生麻雀ファンのお宝として大事に保管…どころか、ネット民達の間で拡散した。
3人は、決して拭う事の出来ない黒歴史を刻んでしまったのだ。
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真祐子は、咲の妹、みなもを前にして、意識せずには、いられなかった。同じ失態を繰り返すのではないかとの恐怖もあったし、逆に一泡吹かせたいとの気持ちもあった。
しかし、相手は『北欧の小さな巨人』といわれて世界中の猛者達をなぎ倒してきた怪物。派手に負けたのは、咲を相手に戦った世界大会大将戦くらいだろう。
この半端無い強者達との対戦を強いられる運命を、真祐子は呪わずには、いられなかった。
場決めの牌を取った。
真祐子の取った牌は、{東}。起家だった。
千里山女子高校の先鋒、二条泉の取った牌は{南}、阿知賀女子学院の先鋒、新子憧の取った牌は{西}、みなもの取った牌は{北}だった。
高1最強を自称する泉も、みなものことを強く意識していた。優希でさえ、あんな化物だったのだ。恐らく、みなもは、それを凌駕する力を持っているだろう。
「東風娘は、大丈夫だった?」
泉が、みなもに聞いた。
「盲腸だった。昨日手術して、今はもう、問題ないって。」
「そっか…。」
「それで、千里山の先鋒に、優希から伝言があるんだ。高1最強とはどんなものか、その身で確かめてみなって。」
「それって、どういう意味?」
「さあ。まあ、そのうち分かるよ。じゃあ、起家の方。」
「えっ。」
「サイを回して。」
「そ、そうね。」
真祐子がサイを回した。
数巡後、憧が仕掛けた。
「チー!」
憧は、みなもの表情が気になった。対局が始まって、急にみなもの表情が暗くなったのだ。辛そうな感じだった。憧は、みなものコンディションが悪そうだと踏んだ。
しかし、その北家の魔物も、そのうち調子が良くなって暴れ出すかもしれない。そうなる前に、とにかく早和了りを目指そうとの考えだった。
しかし、
「ツモ。ドラ5。」
みなもが和了った。
和了り役は面前清自摸のみで、ドラと赤牌を占有した手だった。
すると、みなもの表情が、幾分和らいだ。憧は、『高い手だし、和了れてホッとしたのかも…。』くらいに思っていた。
しかし、みなもにとっては、今回の和了りに打点は関係なかった。和了れること自体が重要だったのだ。
この和了りによって、みなもの団体戦への恐怖が緩和されると言う、憧達にとって最悪の状態が出来上がりつつあった。
東二局、憧の親番。
連荘を目指して、ここでも憧は、鳴きの速攻を仕掛けた。しかし、
「リーチ!」
みなもが攻めてきた。東一局ほど暗い表情はしていない。
リーチ宣言牌はオタ風牌だった。一発を消したかったが、クイタン狙いの憧には鳴けなかった。そして、
「リーチ一発ツモ、ドラ3。」
裏ドラも乗ってハネ満だった。
東三局。今度は泉の親番。
みなもに一泡吹かせたいのは泉も同じだった。
また、泉にとって、この二回戦は別の意味もあった。阿知賀も倒したかったのだ。泉には、インターハイの借りがあった。しかし、
「ツモ、タンヤオ一盃口、ドラ3。」
また、みなもの和了りだった。みなもの表情は、さらに良くなってきた。
東四局。とうとう、みなもの親番が回ってきた。
「リーチ!」
早い巡目で、みなもがリーチをかけた。そして、2巡後、
「ツモ! メンタンピンツモ赤2の…。」
みなもが裏ドラ表示牌をめくった。
「裏2だね。8000オール!」
親の倍満だった。
これでは手がつけられない。真祐子も憧も泉も、安手で良いから、とにかく、この親を流すことだけを考えることにした。
東四局一本場。
「(もう大丈夫。次は4翻。)」
みなもは、完全に落ち着いた。団体戦への恐怖を払拭できたのだ。
そして、着々と手を進め、
「ツモ! メンホン中、ドラ3。8100オール。」
みなもは、親倍を和了った。
ただ、彼女は、心の中で『次は4翻』と呟いていたが、実際の和了りは8翻。この差は、一体何なのか?
清澄高校控室でモニター越しに対局を見ていた久が、驚いたように目を丸くしていた。
「本当に、咲のいっていたとおりね。ドラを含まない和了り手の、それも偶然役を除いた出和了りの翻数が、どんどん上昇してゆくのね。」
みなもの最初の和了りは、ツモドラ5。出和了りに必要な和了り役の翻数は0翻。
東二局の和了りは、リーチ一発ツモドラ3。『面前清自摸』と偶然役である『一発』を除いた和了り役の翻数は、リーチのみの1翻。
東三局の和了りは、ツモタンヤオ一盃口ドラ3。出和了りに必要な翻数は2翻。
東四局の和了りは、メンタンピンツモドラ4で、出和了りに必要な翻数は3翻。
東四局一本場では、ツモメンホン中ドラ3で、出和了りに必要な翻数は4翻。
たしかに翻数が上昇していた。
これが、みなもの特徴だった。
別に1翻ずつである必要は無かった。前の和了りよりも『一発』、『嶺上開花』、『槍槓』、『ダブルリーチ』、『海底撈月』、『川底撈魚』といった偶然役と、『面前清自摸』を除いた和了り役の合計翻数が必ず高くなるのだ。
東四局二本場。みなもがサイを回した。
ドラは東。
次の和了り役は5翻以上。
しかし、それだけの高い手を、みなもは難なく作り上げた。
「ロン! ダブ東、中、チャンタ、ドラ3。」
泉が振り込んだ。これで、千里山女子高校は、席順による同点最下位から本当の最下位になった。
東四局三本場。
現在の各校点数は、
東家:清澄高校 208900
南家:松庵女学院 71900
西家:阿知賀女子学院 71900
北家:千里山女子高校 47300
このままでは、どこかが飛んで終わってしまう。
もし、みなもがツモ和了りし続けたら、真祐子と憧が同点終了となり、席順で松庵女学院が2位、阿知賀女子学院が3位になる。
「(とにかく、速攻!)」
憧は、真祐子の点数を上回るべく、仕掛けてゆくことにした。
「チー!」
「ポン!」
しかし、
「カン!」
みなもが暗槓した。これにより、みなもの手にドラが2枚乗った。
「ツモ、嶺上開花。メンチンツモ嶺上開花ドラ3(赤1、新ドラ2)。12300オール。」
魔物は憧の上をゆく。なかなか止められない。
既に、泉と真祐子の目からは精気が失われていた。もはや、魔物に向かう気力がある者は、憧しかいなかった。
今回の内容があるからR-18と言うわけではありません。