※この作品はR-18です。

恋姫転生   作:kuzuaki

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行軍中の天幕で ☆

 戦は士気でやるものだ。

 

 師であった孫堅から繰り返し教えられたその言葉を、今度は俺が誰かに向かって説いている。

 まさに偉丈婦と言う風体だった彼女の下で息も絶え絶え扱かれて居た頃は、まさかこんな時がくるとは思っていなかったな。

 

 規則正しく揃った大量の足音が晴天の下に響き渡る。

 自軍が目的地へと道を進む中でその隊列の丁度中心あたり。俺は亞莎と共に馬車の車上から自軍の行軍する様子を見下ろしていた。

 

「最終的に兵の士気を保つことが肝要だ」

「はいっ」

 

 亞莎が俺の言葉に神妙な表情で頷く。

 彼女は既に軍隊を行軍させるための基本的な知識や手法などは学んでいる。元々は兵卒であった経験などがそこに活かされれば、実際に行軍指揮をとって俺以上に卒なくこなすことすらやって見せるかもしれない。

 亞莎は実際そう思わせるだけの才覚を既に示している逸材だった。

 

 だがそれでも俺は彼女にそう言葉をかけた。

 ……自分が孫堅から繰り返しそうされたように。

 

 

 軍隊の行軍は、何度経験しても呆れるほどに遅い。

 歩いているのは毎日鍛えに鍛えた大人たちだというのに、最終的な時速で計算するとその進みは運動などまるでしない現代日本人がコンビニまで買い物に歩くよりもなお遅い。

 勿論そうなってしまうことには様々な理由がある。

 

 一つには疲労の問題がある。

 遠征となれば一日中歩き通しで何日~何十日と過ごさなければならず、そのため可能な限り疲労を蓄積させないように進ませねばならない。しかも武装し荷を背負った兵をだ。更にそれが敵地ともなれば尚更で、いつ戦闘が起こっても良い余力を兵に持たせていなければならない。

 そしてどんなに兵の疲れに気を使っていても、長期間行軍を続ければ兵は疲弊し続け元々遅い行軍速度は更に低下していくことは避けられない。

 

 次に数の問題がある。

 例えば軍馬や輜重隊を含む武装した兵1万が基本4列の縦隊を組むと、なんと4~5kmにも及ぶ長大な隊列をなしてしまう。当然そんな一団を一斉に動かすことなどできはしない。

 その上無線などという便利なものがないこの時代では、兵は指揮官が声を張り上げて動かすしかなく、指揮官同士の隊を跨いだ連絡となると伝令を走らせるしかないのだ。

 必然的に軍隊では隊を細かく分けた上で各指揮官が兵を動かす事になり、それにより先頭の隊が歩き始めてから最後尾の隊が動き出すまでに1時間以上かかることもざらだ。

 

 その上小休止、大休止、食事、野営の準備、起床しそれをしまって行軍準備を整えること等、軍が行うあらゆる行動で上記の様な人数由来のタイムロスが発生し続ける。

 これは当然軍の人数が多くなればなるほど更にひどくなり、逆に小規模な隊であれば加速度的にそういった無駄はなくなっていく。

 信頼できる指揮官に任せた別働隊なんてものが重宝される所以の一つはここにあると言って良いかもしれない。

 

 更に道の問題がある。

 石畳で舗装された道などよほど栄えた都市においてすら一部の大通りにしかないこの国では、野外の移動に用いる道は当然ただの踏み固められた天然道だ。

 それでも相当に良い方で、山道畦道は当たり前……時に森の中や平原、荒野や湿地を突き進むこともあるのが軍隊というものだ。

 

 道がある時でも大規模な軍隊が行軍できる十分な道幅があるとは限らない。

 森や山中の道では隊列を細くせざるを得ないし、平地にあっても例えば川が一つあるだけで橋を渡るために隊列を絞る必要が出ると、一旦隊の足をとめて人を順に渡しで全員が渡りきれば隊列を組み直すという作業が必要になる。

 それが1隊だけであればいいが、先にあげたように万を超える大軍で全ての隊がそんなことをすると凄まじい程迂遠な時間がかかる。

 それでもまた橋があればいいほうで、川があっても地元の住人は必要があれば小さな渡し船一艘で済ませていると言う事例はいくらでもある。

 当然1万の軍をそんな渡し船で渡し切ることなど出来る筈がなく、そんな時は橋を求めて大きく迂回するかあるいは浅瀬を強引に渡河するなどをせざるを得ないのだ。

 

 更に重ねて言うならそれでもまだ最悪ではなく、川の氾濫や経年劣化により橋が壊れていたり渡河を見込んでいた場所が増水で進めないなど予定していた行軍ルートがだめになることも割としょっちゅうだ。

 敵地であれば橋を落とされるぐらいは当然だし、仮に味方の土地であっても敵の兵がそういった工作を仕掛けてこない保証などどこにもない。

 

 更には気候や天候。

 野外を進んでいれば雨も降るし風も吹く。夏は暑く冬は寒い。

 体調を崩す人間もでてくるし、病気や怪我もおこる。更には軍隊なのだから当然戦闘があるし、その帰路であれば多数の負傷者を抱えることに成る。

 

 そして現地調達で食わせる事が不可能な規模の集団になってくると、更にこの上鈍重な輜重隊を引き連れて動くことに成らざるを得ない。

 その他まだまだ要因を上げればキリがないほどに、軍隊の行軍は足が遅くなる理由が幾らでも湧いてくるもので、結果としてこの国の規模の大きい軍であれば一日の行軍距離は平地が中心なら大体約10kmでしかなかった。

 相当迅速な行軍が出来る鍛えられた軍でも15km程度が限界で、それ以上の距離を進ませようとすれば強行軍となり脱落者がどんどんと出始めてしまう。

 

 孫策達の祖(と言うことになっている)あの有名な孫子の兵法書にもそれは言及されていて、かの書によれば強行軍で30里(約15km)を進めば兵数は2/3、50里(25km)を進めば1/2、100里(50km)強行軍を行えば兵数は1/10以下になり敗北は必至だとされていた。

 

「そして例え無理をしなくても長距離の行軍を行えば1割程度の脱落者が出てしまうことはざらなわけだ」

「はい。私が読んだ兵法書にもその様に書かれていました」

 

 馬蹄と車輪の音に包まれる中で、亞莎は俺の言葉に一々律儀に頷き答えを返してくれる。

 今ここに居ない七乃は軍の前方で行軍の基本的な先導を行っていて、黄蓋は後方にて輜重隊とその護衛部隊を率いてくれている。

 そして俺達は中央で全体を監督しながら各所で問題があれば報告をうけて対処を命じつつ、空いた時間にこうして軍学について論を交わしていたのだった。

 

「そもそも好き好んで戦に参加したがる兵などいるわけがない」

「えっ?」

 

 驚きの声を上げる亞莎の奥で今の声が聞こえたのか、馬車に並走していた騎馬兵……護衛の親衛隊の一人がぎょっとした顔になったのが見えたが、俺は構わずに言葉を続ける。

 

「多少なりとも待遇があり立場がある隊長以上であればその限りじゃあないが、最下の兵が好き好んで殺し合いなどするわけがないだろう」

「そ、そうでしょうか……」

「能力に自信があり野心や使命感をもった一兵卒なんて例外だ。兵の大半は徴兵されたか他に行き場がなく仕方なく軍に入らざるを得なかっただけなんだからな」

「で、ですが皆さん訓練でも巡回任務などでもきちんとされて居ましたよ」

「そりゃ訓練や警備じゃ死なないからな。とりあえず飯がでて食いっぱぐれもないし、うちじゃ任があって勤めれば多少の給金もでる」

 

 うちの軍は平時ならただ訓練するだけじゃなく、治水工事なんかを中心に領内の公共工事においては人足として働かせることも多い。そして仕事を請け負わせればある程度の給金も支払うようにしていた。

 

「はい、末端の兵にまでとても良い待遇をなされていると思います……ですから皆ちゃんと軍に忠誠を……」

「だとしても、戦をすれば兵は死ぬ」

「っ……!」

 

 亞莎自身が所属していたこともあってうちの軍制を褒めてくれようとする姿勢は嬉しいが……俺はあえて彼女の言葉を切って声を被せた。

 

「大規模に兵を動かして長距離の行軍をする時なんて大戦に決まってるんだ。そんな時、兵の不安がどれほどのものか亞莎だってわかるだろ?」

「それは……はい……」

 

 彼女は答えながらそう語調を弱めて、萎縮するように縮こまってしまう。

 俺は苦笑しながら彼女の背中を軽く叩いた。

 

「俺達は勝利のために自分の能力を振るう立場にあるし、それが出来るという自信もある。戦うからには当然勝つつもりだ、そうだろ?」

「はい……えっと、私も精一杯努力致しますっ」

「あぁ、期待してる。だから俺達みたいな将や軍師は仮に命を落とすことになったとしても、ある意味では自分の責任と言えるわけだし、納得もできる」

「……はい」

 

 当然だがよほどの例外的な場面を除けば、自分の死を前提として策に組み込んだ戦いをするような将はいない。そしてやるからには勝つつもりでいるのだから、戦における命の危険とはあくまでも自分の力で立ち向かうことの出来るものだ。

 

「だが仮に俺達の自信を自軍の兵も信じてくれていたとしても……彼等の命は保証されない」

「それは……」

 

 だが軍がどれほど鮮やかに勝利したとしても、万を超える規模でぶつかれば勝者となった側にも多数の死傷者がでることは避けられない。

 一兵卒にとっては、どんな戦だろうと生きて帰れる保証など望めるはずがないのだ。

 

「兵の命はもう戦列の最前列に配置されるかどうかと言うような運の問題になってくる。そして運が悪ければ死ぬ様な戦場に、辛い思いをしながら行軍し続けていれば嫌にならない筈がない。そうじゃないか?」

「で、ですが戦友や家族のためなら兵であっても進んで戦うこともありますっ」

「なら、家族も友も居ない兵だったら?」

「あっ……」

 

 彼女自身はそうやって仲間や家族のために戦うことの出来る人間なのだろう。一兵卒であれ誇りを胸に持つことは出来る……それまで例外だとは言わないが、逆に兵として戦ってきた彼女であれば、戦いに怯え逃げ出す味方を見てこなかった筈がない。

 

「第一それは戦う理由にはなっても、戦いを嫌がらない理由にはならないだろう」

「はい……理羽様の仰る通りです……」

 

 俺の言葉に反論する事をやめ、亞莎はうつむいてしまう。

 あるいはまだ兵卒から見出されて日が浅く将官としての立場になりきれていない彼女にとって、俺の言葉は兵を……自分達の自負を否定されるように聞こえたのかもしれない。

 

「だからこそ、兵が戦う理由は大事にしなければならない」

「……えっ?」

 

 そしてだからこそ、彼女はこの言葉に驚きを露わにしたのかも知れなかった。

 

「戦は兵にとって正当性が感じられる物でなければならない。

 そして勝機もまた兵にとっても感じられるものでなければならない」

「……」

「無謀な命令で兵の命を無駄にしてはならない。

 無意味な理不尽を兵に与えてはならない」

 

 驚きに見開かれていた亞莎の瞳に、段々と理解の色が広がっていく。

 

「兵を怯えさせてはならない。

 兵を餓えさせてもならない。

 働きには報いなければならない。

 逆に働かぬもの、責務から逃げる者には罰を与え無くてはならない。

 また同列の者の間に不平等があってはならない。

 そして上に立つものは範を示さなければならない」

「はい……はいっ……」

 

 俺が重ねる言葉に、彼女はひとつずつしっかりと頷いてゆく。

 

「これ全て、兵の士気を大事と見なければならない……とまぁ俺は師にそう教わったわけだ」

「それが理羽様が受けられた孫堅様の教え……」

 

 亞莎は目をキラキラさせてこちらを見る。

 彼女はこちらの言うことには大体感心するか肯定してくれるし、頭を撫でるだけで頬を赤らめるしで、気をつけないとついつい自分が調子に乗ってしまう。

 

「それから俺の解釈もあるが、士気ってのは上げる事も大事だが同時に下げない事も大事だ」

「士気を下げないこと……ですか?」

「あぁ。さっきも言ったように兵は……と言うか誰でも戦は嫌がるし怯えるものだからな」

「はい、私もその様に思います」

「だから気持ちを支えるものがなくなれば兵は容易く瓦解する。戦の攻防とは結局味方の士気を保ち敵の士気を挫く為の過程に過ぎないのではないか、とな」

「戦いとは敵味方の士気を増減させるための副次的な要素に過ぎないと仰られるのですか?」

「極論を言えばな。現実には勝っている側の士気が瓦解するなんて事態はまずありえないが」

「……なるほど。そういった優位は結果として将兵の士気を保つからこそ有効なのであって、そうでなければ優位は優位たり得ないと仰られるのですね」

「そうだ」

 

 伝えた言葉を自分なりに咀嚼し理解に努めようとする亞莎に、俺は頷いた。

 

    味方の士気を保ち敵の士気を挫けたならば、それ即ち勝ちよ

 

 いつかの折に掛けられた声が脳裏をよぎる。

 孫堅が簡潔に言ったその言葉にどれだけの意図がこめられていたか、自分では未だにその意味を汲み取りきれた気は全くしない。

 

 こうして亞莎に偉そうに語ってみせていても、結局目に見える優位を優先して行動してしまうのが俺という将の限界だった。

 何よりもまず兵数と兵站、戦術と戦略。

 孫堅から戦は士気でするものだと繰り返し言われ続けたのは、そうした事前準備にばかり腐心してしまう俺を戒める意味も込められていたのかもしれない。

 

「まぁ言うは易しで、俺だって十全に出来ているわけじゃないんだが意識することは大切だ」

「はいっ」

「行軍に置いてもな。兵を疲れさせず餓えさせない事や規律を保ち無駄なく軍を移動させる事……だがそれも皆、兵の士気を保ち万全な状態で戦に臨むためだと言うことを忘れてはならない」

「はい……つまり表面的には正しい行動や対処に見えたとしても、兵の士気を損なう様な用兵は避けるべき。という事なのですね?」

「そうだ……優れた将と言われる奴らは皆そこが上手い。それこそ統率力と言うのか、一兵卒から叩き上げの指揮官達ですら自分には学は無いなんて言いながら、士気の大切さは皆わかって動いているように見えるからな」

「はい……私などにもそれが出来るでしょうか……」

 

 そう言って不安そうに眉根を寄せる亞莎を見て、俺は笑みを浮かべる。

 

「たぶん、亞莎なら俺なんかよりずっと上手くやれるさ」

「そ、そのようなことは決して……」

「そうか? 期待してるんだがな」

「あぅ……あ、あの……ご期待には全力でお応えしたく思っているのですが……」

 

 わたわたと手を振り乱す亞莎だが、これでも今言った言葉は本音なんだがな。

 士気が大事だと言ってみても、じゃあ具体的にどうすればそれを高く保てるのか。あるいはどうすれば敵の士気をうまく挫けるのかと言う感覚的な所は俺にはなかなかピンと来ない。

 昔から自分なりに色々と試行錯誤してはいるが、単純に兵を労ったり苦労を共にしたりすればいいわけじゃなく、逆に厳しくしたり立場の違いが目に見える振る舞いをしたほうが良い事が多かったりと、未だに上手くいかないことも多いのだ。

 その辺り、兵卒から抜擢された彼女なら俺よりもよほど上手くこなすだろう。

 

「用兵を学んでいくと兵数や戦略の大事さを繰り返し説かれる事になるし、軍略に携わる立場になればどうしてもそれらに注視してしまうのは避けられないだろうからな」

「は、はい……私も兵法書を学び、それらをきちんと気を配らなければと考えていました……」

「勿論それは将帥や軍師として正しいことなんだが、亞莎には机上の計算に偏りすぎず策によって実際に動く兵の士気と言うものを意識することを忘れないで欲しい」

「……はい! わ、私は誓ってお言葉通りに致します、理羽様っ」

 

 力強く宣言する亞莎の笑顔が眩しい。だがこの笑顔は最近の俺にとってひそかな重圧でもある。

 普段の具体的な指導は主に穏に頼んで(報酬は指導に使う書の閲覧権)つけて貰っているし、実地では俺や七乃の仕事を主に補佐させている事と相俟って最近の実力の伸びは目を見張るものがあるのだ。

 彼女から発せられる疑問なども日に日に踏み込んだ鋭いものになってきて、俺ではちょっと手に負えなくなって来ている。

 

 本当ならこうなる前に周瑜にでも預けて本格的に仕込んで貰った方が良かったのだろうが、ついつい便利使いして俺が彼女を自分の周囲から手放さなかったせいで、亞莎は早々に俺の子飼い的なポジションを確立させてしまっていた。

 そのせいで最近の俺は亞莎の素質を殺してしまわぬようにと無い知恵を絞り、彼女に良い学びを与えられる様にとあれやこれや四苦八苦する羽目に陥っているのだった。

 

 実務的な面では既に頼れる新人軍師である亞莎のおかげでだいぶ楽になっているし、もう俺が気張らなくても後は穏の指導と独学で頑張ってくれとすれば十分なのかも知れないが……。

 

「……? どうされましたか、理羽様」

 

 考え込みながら彼女を見ていると、亞莎は瞳を瞬かせてこちらの言葉を聞き逃すまいと注視してくる。

 ……この真っ直ぐに放射されてくる「ご指導ご鞭撻をどうぞよろしくおねがいします!」と雄弁に語りかけて来るような彼女の纏う空気のせいで、俺なりに出来るだけの事をしてやりたくなるのだった。

 

「いや、何でもない。気にするな亞莎」

「は、はい……」

 

 いつまで持つかはわからないが、俺なりに教えられることがあるうちは頑張ってみるか。

 全く閨での教えだけだったら幾らでも大歓迎なんだがなぁ。

 

 

 その日の日暮れ。

 野営地を定めて天幕の敷設などを終えた俺達は、主だった者を集めて行軍状況について打ち合わせをしていた。と言っても現状大きな問題はなくあくまで確認作業の意味合いが強いもので話し合いも早々に終わってしまう。

 

 黄蓋はまたぞろ兵と酒盛りでもするのか各隊長達を引き連れて上機嫌で立ち去り、七乃は放った斥候や夜間の歩哨についていくつか実務があるとのことで彼女もまた天幕を後にする。

 そして残った亞莎は、こちらをちらちらと見てもの問いたげな表情を浮かべていた。

 

 彼女はこう言った場面で、自分の判断ですぐに部屋などから出ていくという事はしない。

 そう躾けられているからだ。

 

「あ、あの……理羽様……」

 

 上目遣いにこちらの名を呼ぶ声に応えずに、俺は彼女に近づき……その柔らかな尻に手を伸ばした。

 

「っ!」

 

 びくん、と背筋をそらすようにして彼女はその身体を竦める。

 俺はその小ぶりだが形の良い尻を撫で回し、掌の感触を楽しみながらゆっくりと指を彼女の秘所に這わせる。

 

「り、理羽様ぁ……」

 

 しばらくそうして彼女の体を弄った後またぐらに伸ばしていた手を引き抜くと、俺の手は指の間で糸を引く粘ついた液体に濡れていた。

 俺はそれをゆっくりと自分の舌で舐め取る。

 

 息を荒げてこちらを見上げる亞莎の潤んだ瞳、媚を含み甘えた声色。

 そして舌先に感じる彼女の愛液の酸味が、俺の股間の欲望を煮詰めるようにグツグツと滾らせていく。

 

 俺は無言で天幕の奥に重ねられたクッションの上に身を投げ出した。

 

「あっ……」

 

 股を開いて彼女を見上げる俺を目で追っていた亞莎は、頬を染めながら小さく吐息を漏らしておずおずと俺の足の間に跪く。

 そして敷布の上に丁寧に指を付きながら、ゆっくりと頭を下げた。

 

「ご、ご奉仕させて頂きますっ……」

 

 亞莎は俺の下履きに手をかけ、腰から布を引き落とすようにして俺の股間を露出させる。

 そして血管が浮き出るほど固くいきり立った俺のちんぽに傅くように丁寧に口づけをし、舌を伸ばして丹念な奉仕を始めたのだった。

 

 亞莎にこんな奉仕をさせていると考えると、それだけで先走りがいくらでも湧き出して行く。

 亞莎はそれを自分の唾液と混じり合わせ、舌の滑りをなめらかにしながら俺の股間を丹念に舐め回し、焦らすように快感のボルテージを高めていく。

 

 亞莎とのセックスはいつもこうだ。

 彼女にはどうにも酷く俺の獣性や、仄暗い……あまり表に出せない薄汚い欲望を刺激して剥き出しにさせられてしまう。

 

 

 それは彼女の処女を奪った時からそうだった―――

 

「う……うぅ……」

 

 苦しげに呻く亞莎。

 それも無理はなかった。何しろ彼女は今、蓮華よりも更に年若く未熟なその身体の純血を容赦なく男の欲望に貫かれているのだから。

 

「大丈夫か? 辛いようならこのまま待つからゆっくりと息を吐いて……」

 

 口ではそんな事を言いながら、頭の中はちんぽを締め付けるまだ固い亞莎のまんこの感触でいっぱいだったが、欲望に任せて思い切り腰を振りたい衝動を精一杯取り繕って俺は彼女を気遣うふりをする。

 しかし亞莎は、苦しげな顔に無理やりに笑みを浮かべそんな俺の気遣いを否定する。

 

「わ、私の事はお気になさらないで下さい……どうか楽しまれて下さりますよう……」

「そうは言ってもな……」

 

 流石にそんな事を言われても、脂汗を浮かべる小柄な彼女を相手にそこまで容赦のない性行為を行うのは俺だって気が引ける。

 そう思って口ごもった俺を相手に、しかし亞莎は更に言葉を重ねた。

 

「ほ、本当に良いのです。私は……あの……う、嬉しいのです!」

「……なんだと? 嬉しいだって?」

「はい。だって……わ、私などに理羽様が興奮してくださっているのだと思うと……それだけで私は……そのっ……」

「それはまた……亞莎は随分と可愛い事を言うな」

「かっ……可愛いなどと、そのような事……」

 

 言葉に詰まりながら目をつぶって照れる亞莎は、言葉通り本当に可愛くつい彼女を貫いた俺のモノも反応してしまう。

 

「あっ……ですが、あの……嬉しいのは本当で……ですから、えっと……」

「落ち着け亞莎。大丈夫、ちゃんと聞いている。ゆっくりで良い」

「は、はいぃ……」

 

 亞莎は縮こまるように恐縮した様子を見せながら、ひとつふたつと深呼吸を繰り返した。

 そして改めて彼女は口を開く。

 

「私は、その……理羽様にもっと私の事を求めて欲しい……のです」

「だが、それで気遣わずに動いてくれと言うのは良いのか? 今だって辛いだろうに」

「い、痛みなど気にしません! むしろ、それが理羽様が私を求めることで与えられるものなら……その……う、うれしいと言いますか……」

「……」

 

 そんな彼女の告白には俺も流石にちょっと言葉を失ってしまった。

 被虐癖……と言うわけでは無い様だが、こういうのはなんと言えばいいのだろう?

 

「あ、あの!? そのぅ……やっぱり、私っておかしいでしょうか?」

「いや、おかしいという事はないが……あ~、じゃあ本当に遠慮なしに動いてしまうが良いんだな?」

「は、はいっ! せ、精一杯お相手させて頂きますので、どうか可愛がってくださいませっ」

 

 

 ―――そんな始まりから今に至るまで、彼女との交わりはどんどんとアブノーマルな方向に加速していった。

 

 俺のちんぽをしゃぶりながら自分で自分を慰めていた亞莎は、互いの性器を十分に濡らせた事を確認し、くるりと頭の位置を入れ替えてこちらに尻をむけた。

 そしてまるで土下座するような姿勢で自分の額を敷布にこすりつけ、高く上げた尻を自分の手で割り開いてヒクヒクと痙攣する性器を俺のちんぽの前に差し出すように突き出してくる。

 

「では理羽様……どうぞ、私のおまんこをお使いくださいませ」

 

 ごくりと自分の喉がなる。

 俺は小柄な彼女の体に覆いかぶさるようにして、まるでその未熟な薄い尻を押しつぶすように自分の腰を叩きつけた。

 亞莎とのセックスは、いつもどこか背徳的な喜びを感じさせる。

 

 健気な奉仕をしてくれていても、芯の部分ではお互いに対等でありよい関係のために双方で努力し合うという暗黙の了解があった蓮華とのセックスとは違う。

 こちらの欲望を全面的に受け入れながらもむしろ俺を手球に取るほどに積極的で、お互いを強く求めあいながら睦み合う七乃とのセックスともまた違う。

 

 亞莎はひたすらに俺の欲望を自身の心と身体にぶつけられる事を望んだ。

 彼女はお互いに対等に楽しもうとする様な関係は望まず、逆に明確に自分が下に置かれる振る舞いを好んでいた。

 

 一方的に奉仕させられ、頭を下げ、足を舐め、遠慮など無しに暗い欲望をぶつけられる。

 恥辱的な口上を述べさせられて、服従や奉仕を宣言しながら、舌を出して俺の足元に跪く。

 只管に従順で、隷属的で、献身的な……そんなセックスを亞莎は好んだ。

 

 私は愛し合うことよりも、心からお仕えしてご寵愛を賜りたいのです。

 

 その小さな体で懸命に俺のちんぽを咥え込み自分の快感など二の次にして俺の為に精一杯に腰を降る亞莎の姿は、まるで言葉を用いずにそう主張しているかの様で……。

 俺はそんな彼女に応える様に、この夜も目一杯亞莎の奉仕を楽しんだのだった。

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