恋姫転生 作:kuzuaki
「では、理羽様は近い内に漢王朝は崩壊すると?」
「そうだ」
俺が未来予想図を説明すると、七乃は唇に手を当てながら真剣な眼差しで考え込む様子を見せた。俺は彼女の思考を邪魔しないよう静かに待つ。
「……俄には、信じがたい話ですが」
「そうか? 七乃はそんなことは起こらないと思うか?」
三国志時代が来るかも知れないと言うのはあくまで前世知識からの予想だ。実際に眼の前の現実そのものをきちんと分析してそれが起こる可能性が高いと予測できたわけじゃないし、俺にはそこまで先を読む能力はない。
だが七乃なら、俺に見えないものも見えるだろう。彼女がそんな未来は来ないというのならば、この世界はあくまで恋姫に似ているだけの別世界で漢の崩壊は起こらないと信じるのも一つの判断だ。
「いえ……確かに理羽様のおっしゃる事態は起こりうる、と思います」
「……そうか」
七乃がそう言うのであれば、やはり戦乱への備えはするべきだろう。
「けれど、この様な優れた予見するとは流石理羽様です」
「いや、別に予見できたわけじゃない。そうなるのかならないのか、俺には未来がどうなるかわからないってだけだ」
「いえ、それが凄い所なのですよ」
「……何がだ?」
俺が首をかしげるのを見て、七乃はニコニコと嬉しそうに笑いながら説明してくれる。
「漢王朝から人心が離れ、統制を失い、地方の軍閥化が起こり群雄割拠の時代がくる。この予想は実のところ、それほど難しいものではありません。ある程度の先見の明があれば、可能性の一つとしては十分に考え得る事です」
「まぁ、そうか」
頷きながらも疑問は解けない。
これがありふれた予想なら、俺は別に何も凄くないと思うんだが。
「ですがその難しくないはずの予想は、現実には殆ど考える者がいません」
「何故だ?」
「漢王朝というものが、あまりに当たり前にあるものだからです」
七乃が指を立てて言い切ったその理由に、俺は鼻白んでしまう。それが自分の中にまったくない感覚だったからだ。
俺にとって漢王朝はもう感覚的にはとっくに亡国のようなものだ。いや、勿論どうなるのかはわからない。劉備か誰かが漢王朝を立て直してもおかしくはないのだが……しかしこの世界が恋姫に類似したものだと自覚して以来、感覚的にはやはり三国志の時代に生まれたと言う考えで漢王朝は終わった王朝だと思っていたのは確かだ。だが、当たり前だが俺以外の人間にとっては違うらしい。
「太陽が東から昇る事を疑うものが居ないように、季節が巡るかどうかを心配する者がいないように、あまりにも当たり前に続いてきたこの国が滅びる可能性を考える者はそうはいません」
「……そういうものか?」
「はい、そういうものなのです」
なるほど。俺にはわからない感覚だが、七乃が言うのならそうなのだろう。
「理羽様は昔から余人とは違う独特の感性を持っていらっしゃいました。それがこの様な事でまた活かされるなんて……七乃は感激です!」
「あー、まぁ喜んで良い事……なのか?」
「勿論です! 理羽様以外で現時点でこれを予見しうるのは、余程の英傑か、あるいは根本から漢に属さないにも関わらずこの国の内情を理解するような人物だけでしょう」
「そ、そうか」
その根本から漢に属さないっていうのはまさに俺の事なんだが、まぁそれはいいか。
「その余程の英傑っていうのは……例えば誰だ?」
「いえ、それはその様な予想ができればそうであるという例えです。私の知る限りではその様な人物はいませんね」
「そうなのか……」
曹操なんかは明確に漢の崩壊と戦乱の訪れを意識していたと描写されていた気がしたが、まぁ現時点ではそれほどの実績はないので七乃の意識には無くてもおかしくはない。うちは洛陽でおこる出来事には関わりが薄いしな。
「孫策なんかはどうだ?」
三国志、と言う観点から見て曹操に次ぐ英傑とも言える彼女の名前を上げてみる。孫策であれば七乃もよく知っているしな。
劉備は無名ってレベルじゃなく七乃も絶対に知らないだろうから聞くだけ無駄だし。
「孫策さんですか? あの人がそんな事を考えているとは思えませんが……」
「……そうか」
孫策でも、そういう展望を持っては居ないようだ。
彼女が今そう言う意識を持っていないということは、その軍師である周瑜がそうした予想を立てていないということでもある。
三国志最高の軍師の一人である彼女がそうだということは……。
「もしかして、この予想って凄い事なのか」
「もぅ理羽様ったら。私が先程からそう言ってるじゃないですか」
七乃が頬を膨らませて俺に抗議していると言うポーズを取る。
「いや、悪い。疑ってたわけじゃないんだが実感がなくてな……」
「それなら良いです。とにかく理羽様は凄いのです!それをご自覚下さいね」
「わかったわかった」
そうか、凄いのか。
と言うか曹操が凄い……おかしいだろうあいつ。やはり既にこの時点でやばいのがはっきりしたな。
「それで、そう言う予想があると言う前提で考えるとどうなる?」
「そうですね……」
俺がそう水を向けると七乃はまた口元に手をやって考え込む姿勢を取る。そしてその思考を漏らすように、ぽつりぽつりと言葉を吐き出し始めた。
「理羽様のおっしゃる通り予想はあくまで予想にすぎません。未来がどうなるかは、まだ確定しているとは言えないでしょう」
「漢王朝の体制は崩壊しないかもしれない、と?」
「いえ……そうではありません」
七乃はそこで言葉を切り、一つため息をつく。
「漢王朝の支配は、実質的には既に崩壊していると言えます」
「なんだって?」
俺は思わず聞き返してしまった。
「だが、今はまだ漢の支配は……」
「では理羽様。私達は今王朝の支配を受けていますか?」
「……それは」
俺は言葉に詰まる。
正直に言えば漢王朝は俺にとって遠い存在だ。そりゃあ家も名門だから洛陽に行ったこともあるし、皇室に挨拶したことだってある。だがこの南陽にいる限りその影響を感じたことは殆ど無い。
「例えば私達は劉表さんの勢力としょっちゅう小競り合いを起こしていますが、これは本来ならあってはならないことです」
「そうなのか?」
「はい。個人や小規模な集団の争いであればいいですが、太守や王の様な規模で争いが発生し勝手に領土をやりとりするような事があってはもう、中央政府は無意味化していると言えます」
「まぁそうか」
隣の州のやつが攻めてきても中央政府がそれを咎めてくれないのだとしたら、皆自衛するしかなくなる。
そうなると皆結局独自に動かせる兵を持っていることになるし、それで今争ってるんだから既にある意味戦乱の世の中なわけだ。
「そうやって明らかに漢王朝の権威を踏みにじって置きながら、なぜか皆まだ漢王朝はある……そう思い込んでいるのです」
「……思い込みか」
「はい。世は既にその思い込みからいつ覚めるのか、と言う段階にあるものと私は考えます」
「なるほど。さっき七乃が言ったのは、それがいつになるかわからないということか」
俺の言葉に七乃が頷く。
既に漢王朝の体制が崩壊している、と言う考えは俺にはなかった。史実だとたぶん、この時点ではそこまで太守らの争いは激化してなかったはずだからな。今度は俺の方がが思い込みに囚われていたってことか。
そう、俺が生きるこの世界は現時点でもう明らかに史実とは差異があった。
俺は三国志マニアというわけじゃないから、細かい検証ができるわけじゃあないがそれがはっきりわかる事例があったのだ。
それは俺達の直近の問題にも関わってくる話なので、後でまとめて考える事にする。今は七乃の話の続きを聞くことにしよう。
「そのきっかけになる事がなければ、あるいは私達の世代ではその幻想は維持され続けるかも知れませんが……」
「きっかけか……」
思いつくのは黄巾の乱だ。
正史であれ恋姫世界であれ、あの事件こそが戦乱の序曲であり三国志の幕開けと言える事件だろう。
恋姫的には、あれは怪しげな妖術的な要素が関わっていたり色々と突っ込みどころの多い話なのだが、あれは張三姉妹が統制を取っていたわけじゃないからな。彼女達はただ人を集めただけで……それが暴徒化して漢の支配に対する反乱を始めるということは、そもそも民衆の人心が漢から離れていたと言うことになる。
そしてそれを抑えるのが各地で軍閥化した勢力や、新たに旗揚げした武装勢力達……か。それがつまり、七乃の言う既に崩壊している漢王朝という幻想から覚めるきっかけという事なのだろう。
だが、この世界であの乱が起こるのかどうか。仮に起こるとしても……。
「いつ起こるのかはわからない……か」
「はい、そう言うことになります」
「しかしきっかけになるような事件が起こらないと断言できない以上は、それを想定して備えるしかないだろうな」
「それは勿論、そうなのですが……」
七乃が珍しく言いよどむ。
「他になにかあるのか?」
俺が問いかけると、彼女は意を決したように俺を見て口を開いた。
「こちらからそのきっかけを作る、と言う事も出来ます」
「きっかけを作る?」
「はい。漢王朝という幻想は既に薄氷の物。私達が大きな危険を犯さずとも、その権威を傷付ける事件を起こす事は難しくないと考えます。例えば……漢全土に連鎖しかねない大規模な反乱を誘発する、と言ったような」
俺はその言葉に思わず目を瞬かせる。
七乃はつまりこう言っているのだ。黄巾の乱を自分達で意図的に発生させる、と。その乱の名前すら知らないはずの彼女がだ。
「だとしても何のためにそんなことを?」
自分達の平穏を確保したいからこうして相談しているのに、わざわざ乱世を呼び起こそうとするのは避けたいところだ。
いや、どうせ起こるならある程度干渉が可能なように、自分達の被害が少なくなるように誘導するとかそう言う意図なのだろうか? そういうことであれば理解はできる。そう思ったが、七乃の答えは俺の予想からまるで違った所にあった。
「それは勿論、理羽様のためです」
「俺のため?」
どういうことだ。
「はい。理羽様は乱世で覇を称え漢王朝に変わる支配者として君臨なさりたいのかな、と……」
……は?
「いやいやいやいやちょっと待て」
「違いましたか?」
「違う違う、全然違う!」
俺が乱世に覇を称えるとか冗談にもならない。
そんな事を考えられるような人間だったら、今こんな事で悩んだりしていないだろう。
「ホントですか? 理羽様。遠慮とかされたりしていません?」
「してないしてない、全然してない」
俺は乱世がこないんだったら、七乃とひたすらイチャイチャするだけで十分満足だ。
そう考えた俺に、彼女はピンク色の舌をちらりと出して小悪魔的な表情で笑いながら口を開いた。
「でも、支配者になれば国中の美女美少女を好きなように抱き放題ですよ?」
「う……」
その言葉に、俺はつい唸ってしまう。
はっきり言うが俺は善人とは言えない。
誠実とか一途とかでもないだろう。
前世を含めても俺が初めて抱いた相手は七乃で、一番多く抱いた相手も七乃だ。
だが、彼女以外の女を抱いたことがないわけじゃあないのだ。
七乃の事は大事だし、他の何とも比較できないとは思っている。だがそれはそれとして、良い女がいれば抱きたいと思うのも男の性分だ。それでも七乃が悲しんだり嫉妬を見せたりするのなら、もっと違ったのかもしれないが……。
前に、彼女と二人で街の視察に出たことがある。
視察と言ってもまぁ気楽なもので、実質的には遊びの……つまりはデートみたいなものだ。
とにかく、その最中にある茶館に入った。休憩がてらお茶と甘いものでも食べようってことになってな。
そこで接客に出てきた看板娘が結構な美少女だった。それで俺もまぁ、店にいた間その娘の尻とかうなじとかに視線が行ったりもした。
数日後、俺が自室に戻るとその娘がベッドで裸になっていた。
七乃が俺のために用意したのだ。
そして彼女は俺にこう言った。
『さぁ理羽様 どうぞ存分にお可愛がり下さい』と
その娘は明らかに引きつった表情をしていた。
会話をしたことすらない相手に抱かれるかもしれなかったんだから無理もない。
俺は七乃に言った。嫌がっている相手に無理強いするようなつもりはない。彼女は家に返して……そこまで言った俺の言葉を遮ったのは、七乃ではなく裸の娘の方だった。
彼女は俺にすがりついて、気にしないでください。嫌がっているように見えたならあやまります。自分を抱いて下さい。どうかお願いします、と懇願してきた。
七乃は、俺の足元にすがりつく彼女を見下ろし……嘲笑っていた。
「その娘は娼婦のようなものですから、その様に気にかける必要はありませんが……理羽様のお好みに合わないのでしたらお下げ致しましょうか?」
七乃のその言葉に娘はびくりと顔を上げ、俺を見上げて必死で媚びた笑みを浮かべた。俺はそれを見て七乃がどんな手を使ったのか察せざるを得なかった。
拉致や脅迫の類ではなく買収。この娘は七乃にぶら下げられた報酬のために、必死になってここにいるのだと。
彼女はまさに、俺のために用意された特別仕立ての娼婦だった。
俺がいらない、と言えば七乃は容赦なく彼女を追い返すだろう。あるいは多少の手間賃ぐらいは払うのかもしれないが、報酬は支払われない。
それは困ると縋り付いてくる裸の娘は改めて見ても、なかなかに可愛かった。
青みがかった美しい髪に、町娘とは思えないほど垢抜けた顔立ちの美少女。その一糸も纏わず晒された白い肌が燭台の炎に照らされて僅かに赤を帯びていて艶めかしい。
俺はその娘に「寝台に上がれ」と命令した。
娼婦として『買う』なら遠慮するのも馬鹿らしい。
俺はうつ伏せになった彼女に尻をあげさせ、自分で尻を掴み左右に開いてまんこを差し出すように言う。
口の中に唾液をためてから、割れた尻肉の間でむき出しになった割れ目に口を付ける。
小さく悲鳴をあげる彼女に構わず、ベロベロとすじを舐め回し唾液をなすりつけていく。あまり頻繁に体を洗っていないのか、顔を埋めたマンコから漂うムワっとする独特の臭みが鼻を指した。
思わず顔をしかめてしまうが、反面妙に興奮してチンポがバキバキに固くなっていく。
最後に筋を舌で割り開いて、唾を吐きかける。
そして振るえる彼女の腰を掴み、無遠慮に挿入した。
「んぐーーー、んっ! んむ!」
枕に噛み付いて悲鳴を漏らすまいとする彼女の頭を押さえつけて、俺は腰を振る。
彼女は処女だった。
こなれていないマンコは硬く、膣の奥は湿り気が足りずにざらざらとしている。
少し擦れて痛いが、しかしそんな受け入れる体制の整っていない相手の中を強引にチンポで耕す事に興奮して俺は更に腰を振る。
「ふっ ふっ ふっ ふぅ!」
枕に顔を押し付けられた彼女が、必死に痛みに耐えている。
俺は更に彼女の頭に体重をかけるように伸し掛かりながら、腰を彼女の尻に思い切りぶつけまくった。
「あ~出る出るっ! 孕め!」
「ん、んぐーー! んぐぅぅ~~!」
俺は容赦なく女の中に射精した。
腰を押し付け最後の一滴まで注ぎ込んでから、チンポを引き抜く。
「はぁ……はぁ……」
荒く息をつく俺に、七乃が近寄る。
「理羽様、ご満足頂けましたか?」
いっそ無邪気な程、満面の笑みで彼女は笑った。
七乃の本質は、悪だ。
彼女にとっては自分の欲求、望みが全て。その為に無関係の他者を苦しめることに何の良心の呵責も感じないのだろう。
七乃の行動は全て、ただ彼女の望みが俺の幸福だというだけなのだ。
俺は無言で彼女の腕を掴んだ。
「あっ……きゃっ♪」
喜びの混じった嬌声をあげる七乃の服を乱暴に脱がし、寝台に押し倒す。
「あぁっ! 理羽様っ! 理羽様ぁ!」
「七乃! 七乃っ!」
たった今処女を奪われ、体を震わせる名も知らない町娘の横で、俺達は激しくまぐわった。
明け方、娘は七乃から謝礼金を受け取ると卑屈な笑みを浮かべて去っていった。
彼女には、彼女の事情があるのだろう。少なくとも謝礼を受け取った瞬間だけは、心から喜びと安心を浮かべていたように見えた。
実は店に多額の借金があるとか、高い薬が必要な病気の身内がいるだとか、そう言う事なのかもしれない。間違っても遊ぶ金欲しさではないだろう。
悪いことをしたとは思わない。だが良いことをしなかったのは確かだ。
事情を聞いて無償で助けてやるなりなんなりすることもできただろうが、俺はそれはしなかった。
それから時折、七乃は俺に女をあてがった。
彼女の目利きは確かで、誰もが俺の欲望をそそる魅力的な女だった。
時には敵の捕虜を、俺がいらなければ兵士たちの慰みものになるだけですと言って。
時には商家の娘を、特に理由がなければその家と取引することはないだけだと言って。
七乃は俺の抱えている俗な欲望を良くわかっている。
俺が嫌がるから人さらいや脅迫の様な事はしないが、そうでなければ躊躇なくやっていただろう。
彼女の行動は、俺の欲望の写し鏡だ。
恋姫の作中において袁術……美羽の側に居た七乃はこんなことはしなかった。
それは本来の袁術が、無邪気で世間知らずな我儘さはあっても根は純粋で善良な娘だったからだろう。
……俺とは違う。
そして七乃にとって、主の望みこそが全てなのだ。
「そうだな、確かに俺はいい女を出来るだけ多く抱きたい」
「ではっ♪」
七乃は両手を組んではしゃぐ。
彼女にとって俺のどんな我儘も、喜びなのだろう。
「いや、それはしない」
だからこそ、俺が自制しなくてはならない。
彼女は俺の制止に、両手を組んだままキョトンとした顔をして聞き返す。
「何故ですか、理羽様?」
「危険すぎる」
「そんなこと……理羽様が願う事ならこの七乃にお任せ下さればっ」
七乃は頭がいい。
少なくとも俺が話している限り、彼女は先を読む力も今を把握する力も、物の道理や社会の仕組みもよくわかっている。
どんなことでも高い水準でこなす実力を持った天才だと俺は思っている。
だが、彼女には自制心はない。
原作において彼女が仕えた美羽は最初、ワガママ放題に育てられた世間知らずだった。そして七乃にひたすら無茶な命令を出し続け、結果的に孫呉に破れ江東の地を追われた。
なぜそんなことになったのか。
七乃がその気になれば、彼女を諌め、きちんとした教育を施して立派な君主にすることもできたのではないか。
だが、七乃そうはしなかった。
将来の危険を予見しながらも、彼女にとっては愛する主の我儘を叶えることが全てだったからだ。
勿論、ゲームの彼女と俺の目の前にいる七乃は同じ人物ではない。だが俺が記憶している限り、彼女が俺の我儘を拒否したことはないのだ。
欲望の全肯定。
七乃はいつでも俺のために動き、働き、愛してくれる。
どんなに忙しい時でも好きなだけ抱かせてくれた。他の女に目移りすれば、嫉妬するどころか喜んでその相手を俺の閨に用意した。
俺は今までそんな彼女に溺れ、甘えてきた。
だがもう彼女に甘え続けるわけにはいかない。
「だめだ」
「そんな、理羽様ぁ」
「七乃!」
むずがる彼女を抱き寄せる。
「理羽様……?」
「七乃……俺はお前を失いたくない。他のことは、些細なことだ。だから何より、俺とお前が生き残ることを優先して考えて欲しいんだ」
「り……う……さま。で、でも……」
「だめか、七乃?」
俺はアメジストのように紫に煌めく七乃の瞳を覗き込みながら、彼女を抱きすくめた。
またたく端正なまつ毛の動きを見つめながら俺は祈る。
やがて彼女は表情を緩めて小さくため息を付き、言った。
「わかりましたよ、理羽様」
「本当か、七乃!」
思わず両腕を離し、七乃の両肩を掴んで揺さぶる。
「本当ですって……私が理羽様に嘘をついたことなんてありましたか?」
「いや、ない」
「でしょう?」
どうやら本当のようだ。
ある意味で自業自得だとも言えるが、ここでまた彼女が俺の俗な欲望を叶えるために無茶をしだしたらやばかった。
いくら七乃でも能力に限界はある。彼女に全ての重荷を預けてふんぞり返っていれば、原作の袁術以上の悲惨な未来しか待っていなかっただろう。
そうならないためにも、常に俺自身が自制を心がけなくてはならない。
「ふぅーむ……」
俺の心配事を他所に、七乃は改めて腕組みしながら先の続きを考えてくれている。
「意図的に乱を起こすという手は、それを誘導してこちらへの被害を減らすという効果も期待できるのですが」
「それは俺も考えたけど……何もしなければ平和のまま終わる可能性もあるんだろう?」
「仮初の、ですけれど」
「それでもいい。何事も起きない可能性があるならそれを摘み取りたくはないな」
「わかりました。では私達から乱を仕掛けるという案は辞めにしましょう」
「そうだな……でも、自然と乱が起こりそうになった時に改めて干渉するって言う事はできないのか?」
「……そうですねぇ」
俺の言葉に七乃が考え込む。
「予算はかかってしまいますが、予め草を多く伏せておけば乱の予兆を掴んでからでもある程度の干渉は可能でしょう」
「それはいいな。それなら是非頼む」
「効果は限定的になりますし、乱が起きなければ出費は全くの無駄になる可能性もありますけれど?」
「構わない」
「わかりました。それではそのように」
頷きながらも更に考えを進めている様子の七乃。
「うーん……」
「……」
「大規模な乱などが起こる事などによって、漢王朝の威信が崩壊し、各地の軍閥化が加速し戦乱の時代が来る……と仮定して考えますと」
「考えると?」
「孫策さん達は……危険ですね」
「っ……そう、だな」
流石に七乃はわかっている。
彼女達は今、家で飼い殺しにされる傭兵団のような立場にあると言える。
そしてそう仕向けているうちに対して良い感情は持っていない。
孫家がここから独立を望むには大きな声望や実績が不可欠なのだが、現状の小競り合い程度の争いが散発する小康状態で、そんな声望を得ることはほぼ不可能だ。
自分達では独立した勢力を維持できない。だから外部の大きな勢力……袁家を頼るしか無い。うちはそれを利用して彼女達の動きを縛り、良いように使っているわけだ。
だが戦乱の時代となれば何が起こるかわからない。大手柄をあげて独立旗揚げも狙えるだろうし、うち以外に彼女達を迎え入れて厚遇したいという勢力だって出てくるだろう。そうなってからではあからさまに始末しにかかることもできない。外部と戦争状態にあるときに実働戦力を持つ彼女達にそんな事をしようとすれば、必ず外部から調略の手が入るだろうからだ。
何より、俺からすれば原作の袁術の末路がある。
目下最も警戒すべき相手と言えた。そんな恐ろしい相手に対し……。
「それじゃあ……今のうちに、始末しちゃいましょうか?」
あっさりと、七乃はそう言うのだった。