陸上部のアイドル -Second Stage- 作:Scorcher
むしろここだけ抜き取ってみると、青春恋愛作品っぽさすら感じられる内容だと自負したりも。面白いかどうかは話が別ですけどね。
次回からはエクストラシナリオです。未希と慧が復縁へ至る経緯なども書いています。もう修羅場展開もバッドエンドルートも無いのでご安心ください。代わりスカトロ要素があるとか絶対に言えない(言ってる)。
夏の日差しが照り付ける中、彼女は目標に向かってひたすらに汗を流していた。
「はぁ……はぁ……!」
「はぁ、はぁ……すぅぅぅぅはぁぁぁぁ……」
走り込みを終えて息を切らす紋子と、彼女と同じながらも深呼吸して体勢を整える未希。瞬発力では紋子が勝っていたものの、持久力に関しては未希に軍配が上がっていた。
「アヤちゃんも結構、私について来られるようになってきたね。」
「はぁ……はぁ……当然です、よ。先輩が引退する前に、追い抜きますから……」
膝に手をつくほど疲れた様子を見せる紋子であったが、対抗意識を燃やす先輩部員の未希に対しては、口を減らすことなく挑戦的な言動を続けていく。
「ふふっ……楽しみに待っているからね。あまり、期待はしてないけど。」
「っ……!?」
憎まれ口を叩き合うほどに2人の関係は良好なものへと悪化していた。先輩後輩という垣根が取り払われ、ライバルとして互いを高め合う関係を、彼女たちは示し合わせることなく形成しているのであった。
「でもどうして、私と一緒に練習なんか……」
「助走の初速を上げるんだったら、アヤちゃんと一緒に練習するのが一番だと思ってたからね。なんてたって、校内で唯一私に勝った女の子なんだから。」
「そんな……別に私は一番とか褒められるなんて……!」
気恥ずかしさを誤魔化そうと、紋子は彼女から顔を背けて声を上げる。シャワー室における裏の顔、異常な関係が解消された今、2人は良きパートナーとしての関係も築くことが出来ていた。
「今日も付き合ってくれてありがと。明日からはフォームの調整に専念したから、アヤちゃんと一緒に走り込むのは今日までかな。」
「そう……ですか。まぁ、お役に立てたんだったら、私は嬉しい……です……けど。」
あまりにも先輩として理想的な未希に対して、紋子は違和感を抱きつつも、それが本来の彼女が持つ陸上選手としての顔であるのだと納得する。
「うん。それじゃ、今日も頑張ろうね。」
「は、はい……」
しかし、彼女はどうしても気になっていた。自らと異常な関係の延長線上にある現在の間を、彼女は声に出さずにはいられなかった。そして、紋子は個人練習へと向かうとする未希に対して声を上げる。
「あの……坂下先輩。」
「んっ……何かな?」
「あ……いえ……その、飯山先輩とは……最近、会ったりしていますか?」
見えている地雷をあえて踏み抜く紋子。しかし、彼女はそうせずにはいられなかった。そしてその問いをしながらも、彼女自身が無事で済むという確信もあった。
「ううん、会っていないよ。学年が違うから、会おうとしないと会うこともないからね。」
「そ、そうですか。」
「アヤちゃんのほうこそ、慧くんとは話……してないの?」
「えっ……わ、私……い、いや……私は別にそんなこと……!」
逆に質問をされて狼狽える紋子。未希の恋人だった男子に紋子が好意を抱いていたことは周知の事実であり、彼女は追及を受けることで言葉を詰まらせる。
「ぷっ……ふふっ……!慧くん、女の子から慕われやすい性格だから、早くしないと誰かに取られちゃうかもよ?」
「そんなことありません!慧……い、飯山先輩はそんな人じゃ……!」
未希の言葉を必死となって否定する紋子。確信はなかったものの、彼女はそう言い放ってしまう。紋子は想い人であった男のことを信じているのであった。
「私もがんばるから、アヤちゃんもがんばって、色々と……ね。」
「……っっっ!!!!も……もうっ!」
後輩女子をからかい尽くした後、未希は背を向けて自らの練習場所へ向かっていく。その後ろ姿を見ながら、紋子は一人つぶやくように声を上げる。
「自分の気持ちに、ウソなんてつけるわけなんてないのよ……そうでしょ?」
◇
そして、大会前日。未希は部室で他の部員たちと共に最後のミーティングに立ち会っていた。
「坂下を除いた俺たち3年は実質引退していたようなものだが……なんだか、気が抜けそうな感じはするな。」
「そんなこと言ってる場合かよ。どうせ2学期が始まれば進路だ進路だぁって、うるさいのが始まるんだぜ。」
「俺は先生に頼んで良い仕事見つけてもらうわ。」
「あー……ヤダ。部活やってるほうが全然いいわ……」
「俺もインハイに出てれば、進路とかあんま考えず済んだかもなぁ……」
先のことを考えて気が滅入る男子部員たち。当然ながら制服は来ており、未希はそんな彼らの中で口を開く。
「みんな……大変そうだね。私もお姉ちゃんに言われたけど、やっぱりよく考えないといけないのかな。」
「お前は楽勝だろ。一体何校くらいの推薦が貰えるんだか……」
「そんなことないよ……勉強嫌いだし、あんまりしたくないし。でもやらないといけないし……はぁ。」
「つっても推薦は絶対にどっかしら来るだろ?あぁクソっ……俺にも一校くらい推薦状寄こせ!」
「ふふっ……まだ来てない物は上げられないわよ。」
将来への不安と期待、青春の最中にいる彼らにだけ与えられた権利を存分に行使する3年生部員たち。その姿を見て、後輩部員たちは不安そうに声を上げる。
「あの……俺たちに対する激励の言葉は……?」
「ん……!あ、ああ……そうだな。うん、がんばれ。」
「ちょっ、それだけですか!?」
後輩男子たちから噴出不満の声。すでに新たな部長や副部長といった人選は完了しており、引退する3年生が出来ることはなかった。しかし、それを抜きにしてもあまりにいい加減な対応ではあった。
「坂下先輩も……何か私たちに言っておきたいことはありますか?」
「えっ……わたし?うーん……そうだなぁ……」
後輩女子の一人から問いかけられた未希は、しばらく考え込む。その姿に全ての部員が注目を集め、固唾を飲んで見守っていた。
「うぅーん……うーん……うん。みんな、これからも楽しくがんばってね。」
「へっ?」
「えぇ……あ、はい。」
「坂下先輩らしい……ですね。」
脳の一部も使っていないような能天気な言葉に、女子部員はおろか後輩男子も呆気に取られ、未希の同級生である3年生は腹を抱えて笑いを堪えるか、頭に手を当ててその無頓着さを嘆いていた。
「まぁ、坂下の言うことが間違いというわけじゃないからな。ただ練習を怠ったり、部として問題を起こすような真似は避けてくれよ。」
「いままで問題だらけだったような気も……」
部長の言葉に小声で突っ込みいれる一人の部員。その声を掻き消すように副部長が咳払いをして言葉を続ける。
「んっ……ゴホンっ!いずれにしても、無理なことをしたりはするな。坂下を目標にするのは構わないが、無理な練習をするのは良くないだろう。身の丈に合った活動を続けてくれ。」
「なんか、最後の最後で副部長が初めてそれっぽいことを言った気がする。」
「なっ……お、お前なぁっ……!」
感傷的になることなく迎える終わりの時。笑いと苦笑いだけに包まれながら、陸上部の部員たちは穏やかな時間を過ごしているのであった。
◇
「ほら未希、支度は大丈夫?忘れ物はない?」
「うーん……たぶん大丈夫。ユニフォームは入っているし、財布はカバンの中で……」
母親に急かされながら、未希は大会へ向かう準備を進める。ドラムバッグの中を確認しながら、財布などの手荷物をカバンの中へと入れていく。
「参加証とかは大丈夫なの?なかったら大変なことになるんじゃないかしら?」
「あ、参加証……あれ、バッグの中に入って……ああっ!部屋の中に……!?」
姉の言葉に気付かされ、未希は重要なものを取りに急ぎ部屋へと戻る。その姿に母親はもちろん、姉も溜息をついてしまう。
「あの子、大丈夫かしらね……本当に不安だわ。」
「ええ……一人だと、とっても不安ね。でも、きっと大丈夫よ。」
母の言葉に頷きながらも、姉はそう言って未希を信じる。それだけの自信が彼女の中には存在することが出来ていた。
「よかったぁ……ありがとお姉ちゃん。言ってくれなかったら気付かなかったかも。」
「……準備が出来たら、早く出た方がいいわよ。あの子、ずっと外で待っているから。」
「えっ……あの……子?」
訝しそうに姉の顔を見る未希。支度を終えた彼女は、2人に見送られながら玄関へと向かう。
「気を付けてね未希。あ、せっかくだからお土産、頼んだわよ。」
「もう……遊びに行くんじゃないんだから。」
「いってらっしゃい、未希。」
「うん、いってきます。」
そして彼女は玄関のドアを開けると、一人で会場へと向かい始めとしていた。しかし
「あっ……!」
「………」
家の外へ出て歩き始めようした矢先、そこには一人の見慣れた顔の男子が旅支度を整えて立っているのであった。彼は小さく頭を下げると、声を発さぬまま彼女の顔を見つめていた。
「もう……そんなところに立っていたら、変な人だって思われちゃうかもよ。」
「すいません……お姉さんに見つかって何も言われなかったから、大丈夫だと思って……」
彼は未希を待っていた。愚直とも滑稽ともいえるその姿に彼女は呆れ顔となりつつも、彼に対して問いかけていく。
「どうして……来てくれたの?」
「俺は、自分に嘘をつくことが出来ません。先輩に嘘をつくことも出来ません。たとえ先輩が嘘をついていても、俺はその嘘を信じます。」
彼は再び告白をする。もう一度ではなく、何度でも。それが自らの出来ることであると知っていた。それしか出来ない自分を知り、彼は彼女へ言葉を続けていく。
「今からでも俺は、先輩のことを追いかけます。たとえ追い付けなくたって、ずっと追い続けます。たとえ……どんなに離れていたって……俺は……!」
声を震わせ、詰まらせていく彼を前に未希は沈黙する。そして彼女は、おもむろに歩を進めると、彼らの前に自らの右手を差し出す。
「せ、先輩……」
「……ちこく。」
「……え?」
唐突な言葉に彼の頭はついていけずにいた。それでも彼女は彼に対して言う。
「早くしないと、遅刻しちゃうよ。もう……せっかく早く出ようと思ってたのに、これじゃ余裕がなくなっちゃうよ……」
「み、未希先輩……」
未希は込上げてくるものを抑えながら、彼にそう伝えていく。笑顔を見せることなく、目から溢れそうになる熱いものを堪えながら、彼女は恋人だった彼に対してそう急かしていく。
「行こうか……慧くん。」
「……はいっ……!」
慧は差し出された未希の右手をしっかりと掴む。そして、ゆっくりとその手を引いて2人は会場への道を歩き始める。
「もう……そんな格好で来られたら、帰すわけにもいかないでしょ。」
「なんだか……すいません。急に押しかけちゃって……」
「交通費は大丈夫なの?泊りにもなるから、お金、結構掛かっちゃうけど。」
「大丈夫です。夏休みに入る前からも、どうにか稼ぎましたから。」
無理をしているのではないかと、慧の懐を心配する未希。そんな彼女の不安を彼は払拭するように言葉を返していく。
「ホント……変なところで強引になっちゃうんだから。ズルいよ……私のことを全部知ってるみたいで、本当に……」
彼の顔を見つめながら悩ましい表情となる未希。恋人である男の前で、彼女は誰にも見せることがない少女の顔となって、彼と共に歩き続けていた。