陸上部のアイドル -Second Stage- 作:Scorcher
中盤の回想シーンは15話『破局』の続きとなっています。どことなくガルパンの試合後を彷彿させるのは気のせいだと思います。
次回からは仲直りの百合エッチ。もちろん野郎共が乱入します。本作のレズは汚いレズばかりです。
全国大会が終わり、地元へと帰ってきた未希は学校へと赴いていた。空調の効いた職員室にいるは顧問と彼女のみであり、陸上部の後輩部員たちはグラウンドで汗を流していた。
「……やってくれたな。」
「はい、やっちゃいました。」
達成感を噛み締める未希と、特に表情を変えることなく話を続けていく顧問。対照的な2人はそのまま会話を続ける。
「もう少しで表彰台だったんですけどね。やっぱり、全国の壁は分厚いし高かったみたいです。」
「まぁ、4位でも十分過ぎる結果だとは思うけどな。というか、ここまで食い込んだことに正直俺は引いている。」
「えへへ……一生懸命、練習……してましたからね。」
彼女は誰もが予想をし得ないほどの結果を残していた。表彰台こそ逃していたものの、突如として存在を示した未希に関して、各校の陸上関係者にも注目を受けるような状況であった。
「部の顧問としてこれほどの名誉なことはない。が……俺が手放しで喜んでいない理由は……分かるな?」
「そう……ですね。何となく、分かっています。」
彼は未希の裏の顔を知っていた。指導者として喜ばしい一方で、彼女の行いが隠匿されたままの結果に対して、顧問は頭を抱えることとなっていた。
「まったく……燻ったまま引退してくれるかと思ったら、ここまで有名になるとはな。もう既に何通もラブレターを送ったという連絡来ているぞ。」
「ラブレター?そんな……私のファンなんて、学校の中だけで充分ですからぁ。」
「自惚れるな。学校案内のパンフレットを送ったという連絡だ。進路の幅が広がり過ぎて迷うことが無いように気を付けろよ。」
有望株として未希は注目を浴び、多くの大学から入学の誘いを受けることなった。予期していなかった展開に彼女は困惑し、不安を口にする。
「そんな……私はまだ、引退したらゆっくり考えようと思っていたのに……」
「そいつはさすがに暢気過ぎたかもしれないな。まぁ、主導権を握れた以上、確かに焦る必要もないかもしれないな。だが、頼むから内申点がゼロになるようなことだけは避けてくれ。」
「分かっています。ちゃーんと、バレないようにしていきますから。」
眩しい笑顔で顧問の要望を聞き容れる未希。自己保身を図る教師と自らの欲求を満たし続ける生徒の関係は、もうしばらく続くのであった。
◇
「どうしても、やりたいの?」
「はい。私は……一人の選手として坂下先輩ともう一度と走りたいと思っていましたから。」
校舎を出て部活に顔を出した未希は、紋子に頼みを聞いて体操服姿となり、彼女と共に徒競走のスタート地点へと立っていた。
「あのー……俺たちにも練習があるので、出来れば手早く終えてほしいんですけど……」
「分かってるわよ。それじゃあ先輩、これがもう一度、そして最後の勝負です。」
「うん、わかった。私も……全力を出すから。」
2人は決着をつけることに合意した。先輩と後輩、想い人を巡り争った関係ではなく、陸上選手同士としての関係に決着をつけようとしていた。両者はスターティングブロックへ足を置き、前傾姿勢となって男子部員が放つスタート音を待つ。
「じゃ、始めますよ。よーい……」
地に顔を向けて出走体勢となる2人。練習することを忘れ、多くの部員たちが固唾を飲んで見守る。そして
「―――!!!」
スタートの合図となるピストル音が鳴り響いた瞬間、彼女たちは同時に前へ向かって駆け出す。敵愾心と悪戯心を向かう関係ではなく、仲間という言葉の先にある関係となり、未希と紋子は勝負をするのであった。
◇
「はぁ、はぁ……はぁ……!」
「ふぅ、ふぅ……ふぅぅぅぅ……!」
膝に手をつき、2人は呼吸を整える。全力で走り抜いた未希と紋子は、言葉を発すことも出来ない程に息を荒くしていた。勝負の結果を気にすることもなく、彼女たちはただ疲労と達成感を味わっていく。
「はぁ、はぁ……ふぅぅぅ……はぁぁぁ……や、やっぱり、速い……ですね。」
「すぅぅぅぅ……ふぅぅぅぅ……あ、アヤちゃんだって、凄すぎる……から。」
「と、当然です……本職の競技なんです……から。」
互いを称え合い、選手と実力を認識する未希と紋子。かつての刺々しい関係は汗と共に流れ去り、彼女たちは上下関係を超えた親しい仲へと変わっていた。
「先輩は……卒業した後も陸上を続けるんですか?」
「うーん……そうだね。進学すれば続けることにはなると思うよ。そういう学校が私のところに来ているみたいだし。」
暗に推薦が来ることを紋子に伝える未希。しかし、それと同時に彼女に対して、自らの抱える選手として不安を未希は漏らす。
「でも……そこまでして続けたいなんて感じもしない、かな。」
「期待なんて、されたくない……ですか?」
「それもあるよ。それもあるけど……私自身が楽しいと思える場所じゃない気がするから。向上心がないとかって怒られそうだけど、楽しめないことを無理矢理するのは……嫌かな。」
実力を認めた紋子にだからこそ話すことが出来る本音。その未希の言葉を紋子は黙って聞き、彼女はしばし考えた後、未希へ言葉を返す。
「本当に……先輩は私が嫌いな人間です。どうしてそんな……自分に正直になれるのか、羨ましいです。」
「アヤちゃん……」
「嫌い」と言いつつも、紋子が未希へと向ける顔には朗らかな笑みが浮かんでいた。日頃から気難しい顔をし続ける後輩部員が見せたその表情に、未希は不意を突かれたように惹かれていく。
「ずっと……ずぅぅぅっと嫌いですから。私が大嫌いな……最低の先輩。」
その言葉と共に彼女は自らの右手を未希に差し出す。裏返されたままの告白を聞いた未希は愛おしさが滲んだ笑みを浮かべ、差し出された右手を握るのであった。
◇
『俺に……言っておくこと?』
『はい。』
未希と慧が別れた日の屋上。慧と2人きりとなった紋子は、彼に対して自らの想いを全て伝えた。
『私は、坂下先輩のことが嫌いです。私に酷いことをして、陸上部の男子といやらしいことをして……最低な先輩だと思っています。』
『………』
『でも……あの人は、私が持ってないものを持っていた。私が出来ないことをしていて、羨ましいと思ったんです。』
常日頃から自らを律することに努めていた紋子。しかし、それは決して楽なものではなく、むしろ彼女にとっては苦痛といえるほどの日常であった。
『陸上部が強い高校への入学も勧められましたけど、適当なことを言って断ったんです。走ることを止める気にならなかったので、この学校でも陸上部に入ったんですけど……』
紋子は自らを変えることが出来ないと考えていた。緩やかに自ら才能を衰えさせ、強引に何事にも真面目に向き合おうとする自らと決別しようと考えていた。
『入ってみた陸上部には、未希先輩がいた……と。』
慧の言葉に紋子は深く頷く。未希の存在は紋子の全てを最初から狂わせていた。そして、彼女だけでなく目の前にいる彼もまた
『慧先輩も……いけないんですよ。私に優しく声なんて掛けるから、わたし……ずっと勘違いをしていたんだから……』
『ごめん……かなり困っていたから、声を掛けずにはいられなくて。』
慧もまた、紋子の運命を狂わせる存在となっていた。あるいは彼と出会っていなければ、彼女は未希に対して特別な感情を抱くこともなかったのかもしれない。
『いいんです。先輩たちのおかげで、私は変わることが出来ました。きっと……2人にこういう形で出会ってなければ、私はずっとあてもなく走り続けていたと思いますから。』
感謝ともいえる言葉を慧に述べる紋子。続けて彼女は彼に対して、改めて伝えようとする。
『ですから……坂下先輩のことを追いかけてください。もう一度……いえ、何度でも追いかけてください。きっとあの人は、自分に嘘つくことは出来ない人ですから。』
『あ、アヤちゃん……?』
『ホント……バカみたいですよね。大嫌いな人のために、こんなことを言うなんて、私って……本当に……!』
涙を浮かべ自嘲する紋子。自らの心に小さな嘘を付き続けながら、彼女は彼にそう求めていく。彼の恋人だった少女に対する形容しがたい思いを吐き捨てていた。
『ダメですよ……私は、先輩の彼女じゃないんですから。』
涙を零していた紋子を優しく抱きしめる慧。それが自らを慕っていた後輩に対して、彼が出来る唯一の慰めであった。
『ありがとう、アヤちゃん。俺は……もう立ち止まったりしないから。』
『そんなに……優しくしないでください。私だって、最低な女ですから……!』
彼女の決意の前に、彼もまた決意していた。自らが傷付けた後輩の健気な言葉に、彼は悩みながらも答えを出そうとするのであった。
◇
「ねぇアヤちゃん。今日って部活が終わったら、空いているかな?」
「えっ……今日ですか。はい、特に何もありませんけど……」
握手を交わしたまま未希は紋子の耳元へ顔を近付け、小声で彼女に対して言う。
「じゃあさ……久しぶりに2人でエッチなことしよっか?」
「………っ!!!!!!!」
未希の囁いた提案を聞いた紋子は顔を真っ赤に染める。羞恥に言葉を失いながらも、彼女はどうにか声を上げようともする。
「な、な、な……何を言っているんですか!?そ、そ、そ、そ、そんなこと……どうしていまさらする気になって……」
「だって……大会が終わるまで私ずーっと我慢していたんだよ?ひとりエッチもしていなかったし、慧くんとは大会に行く前に会ったんだし。」
「だからって……どうして私なんかが一番最初に……女同士なんですよ?やっぱり、おかしいですから……」
戸惑いながらも正論を述べていく紋子。当然ながら、目の前にいる友人に対してその言葉が通じることなかった。
「アヤちゃんは……エッチなこと、嫌いになっちゃったの?」
「うぅっ……べ、別に嫌いになったなんてことは……」
握っていた手を払いのけ、未希に背を向けて言葉を詰まらせる。それは十分に肯定の意を示す態度に値しており、彼女は強引に話を進めていく。
「それじゃあ私は一度帰って準備をしてくるね。部活が終わる頃には戻ってくるから、部室の鍵は持って校内で待っててちょうだい。」
「ちょっ、ちょっと……!」
紋子に有無を言わせることなく、未希は手を振りながらグラウンドを後にする。その様子を見ていた男子部員たちが、彼女の元へ寄ってくる。
「平瀬……どうしたんだ?」
「また、坂下先輩と何かあったのか?」
「あの女……絶対に許してあげないわ……!いいわ……望み以上のことをしてあげようじゃない!」
身勝手極まりない年上の友人に対して、彼女は怒りの炎を燃やしていく。凄まじい怒気を発する彼女を前に、男子部員たちは沈黙したままその様子を見守ることしか出来ないのであった。