デブ山さん、ashbrainさん、評価付けて下さりありがとうございます。
R-18ランキングで5位になってたのでびっくりしました。なるべく期待に応えられますよう、投稿を続けていきます。
あ、今回はエロはなしです。
「……っ!」
時刻は夜、街灯以外の灯りがない中で櫛田は寮を出て一人海辺の方に向かって歩いていた。
その足取りは何処か苛立った様子で、表情も普段の優し気なものとは明らかに違う……そして、街灯とベンチが立ち並ぶ海辺の路地に辿り着くと、舌打ちと共に近くの柵を蹴飛ばした。
「……あー、ウザい……ホント、何なのあの女……っ! あいつ相手にあんな媚びた面見せやがって、平田と別れてそんなに経ってないのにとんだ尻軽女……っ! あたしの一言であんなに顔真っ青になって、いい気味っ!」
櫛田は激情のままに柵を蹴飛ばしながら、その口から暴言を吐き出して行く。部屋の中に防音を敷いている以上、以前のようにわざわざ外に出て他者に見つかるリスクを負ってまで鬱憤を晴らす意味はない……にも関わらず、この場所に来てこんな事をやっている理由は……恐らく、此処が綾小路に本性を見られた場所だからだろう。
櫛田は自分で気付いてはいないが、綾小路の事を無意識のうちに
正直、あそこから軽井沢が立ち去らなければ櫛田は彼女相手に本性に露わにしてしまった可能性がある……それを無意識に自覚していたからこそ、櫛田はあんな行動を取ったのだ。
彼女が綾小路相手に抱いている感情は、単純な恋愛感情とは言い難い。確かに、綾小路を排除しようとしていくうちに彼が隠していた能力を垣間見て、彼の事を特別視していたのは事実だ。
好きの反対は無関心とよく言うが、彼女は綾小路を排除しようと強く意識していたからこそ、彼の長所や本性と言うべき部分も見えて来ていたのだ。
櫛田桔梗は、
櫛田は優秀であるが天才ではなく、勉強でもスポーツでも二番手三番手になる事は出来ても一番になる事は出来ない……それを自覚していたからこそ、彼女は無理をしてまで
彼女の普段の振る舞いは、その殆どが演技と言っていい。全てが嘘とは言わないが、本来の彼女は我がとても強く人と人との仲立ちには向いていない……その本来の性格を抑え込んでまで優れた洞察力を駆使して立ち回り、周囲の人間の反応を逐一観察し適切な行動を取る事で、彼女は
当然、そんな真似をやり続けていれば凄まじいストレスが溜まる。かつて彼女はブログに罵詈雑言を書く形でストレスを発散していたが、そのブログが見つかって
だが、携帯を部屋に置き忘れるという失態が原因で、綾小路にストレスを吐き出している場面を見られてしまった。彼女らしからぬ失敗だが、あの時は一刻も早く鬱憤を吐き出したくて忘れものに気付かなかったのだ。
綾小路に自分の本性を見られた事で一瞬パニックに陥った彼女はわざと胸を触らせてその場で見た事を口外しない事を約束させ、結果として綾小路はあの
正直、櫛田は本性を見られた時点で綾小路が自分を見る眼に軽蔑が混じる事を予想していた。少なくとも、過去に櫛田の本性を知ったクラスメイト達は櫛田に蔑みの視線を向け、罵詈雑言を叩きつけて来た。
表面上取り繕っても、自分の本性を知る以上内心では自分には負の感情を持つものだと思っていたのだ。
しかし、綾小路の態度は予想に反して殆ど変わらなかった。本性を知った事で自分を完全に信頼する事はなくなったようだが、彼が自分を見る眼に明確な負の感情が宿る事はなかった。
それは彼を追い詰めようとした後も同様で、精々
無論、彼が他人に無関心である事も原因の一つだろう……だが、理由はどうあれ櫛田にはそんな綾小路の態度は酷く新鮮に映った。有り体に言えば、好奇心をそそられたのだ。
以前櫛田は綾小路に面と向かって
そうなれば、好奇心が好意に変わるのは時間の問題だった。綾小路の
いざ関係を持ってみれば、普段超然としている綾小路が一心不乱に自分の身体を貪る様子を見て、櫛田は言い様のない優越感を感じる事が出来た。
あんなに凄い男が、自分の身体にこれだけ夢中になっている……その事実は、櫛田の自尊心を充分以上に満たしていた。
だからこそ、綾小路に色目を使う軽井沢恵という女の存在が許せなかった。カラオケボックスでの一件を考えれば、彼女が綾小路の指示で動く手駒のようなものだろうという事は想像出来る。
あくまで、彼の下僕として動いているだけならば容認出来た……少なくとも、自分のように彼を夢中にさせているワケではない。自分の方が立場は上だと、そう思う事で櫛田は軽井沢の存在を黙認していた。
しかし、あの時軽井沢は明確に綾小路に色目を使った。本人が気付いているかどうかは知らないが、あの時の彼女が綾小路に向ける眼は恋する少女そのものだった。
──こいつは、私の男だ──
はにかみながら綾小路と話す彼女の姿を見た瞬間、櫛田の中にそんな強烈が感情が沸き上がった。目の前の女がどうしようもなく憎い存在に思えて、笑いながら性行為の痕を見せつけた。結果として軽井沢はその場から逃げ去り、綾小路は彼女の後を追いかけた。
そして櫛田は自分を置いて軽井沢を追った綾小路の行動がどうしても許容出来ず、気付けばこの場所に来て鬱憤を吐き出していた。此処でこうしていれば、綾小路がやって来てくれるかもしれない……そんな、淡い期待が、彼女の無意識下にあったのだろう。
「──随分不用心ね。貴方らしくないわよ、櫛田さん」
「……っ!? 堀、北……っ!」
──しかし、やって来たのは綾小路ではなかった。聞き覚えのある声に振り向くと、そこには長い黒髪を靡かせるスレンダーな美少女……櫛田の過去を知る忌々しいクラスメイト、堀北鈴音がこちらを見据えていた。
「……何の用? こんなトコに一人で、綾小路くんと逢引きの約束でもあるワケ?」
「最初から本性全開ね。貴方がそんなに余裕をなくす程、嫌な事でもあったのかしら?」
「……っ!? うるさい……っ! アンタには関係ないでしょ……っ!? それより質問に答えなさいっ!」
櫛田は図星を指された事で苛立ち交じりに堀北を睨みつけ、舌打ちする。今の彼女は、どう見ても余裕を失っている。それは、誰が見ても明らかだった。
自分でも理解出来ない焦燥感に焼かれ、櫛田は優等生の仮面を完全に脱ぎ捨ててしまっている。しかも、目の前にいる相手が入学以来ずっと排除したかった堀北である事が、彼女から感情のブレーキを取り払う要因になっていた。
「散歩をしていたら物音が聞こえて、気になってやって来ただけよ。そうしたら、貴方が見た事ない程余裕をなくして暴言を吐いているのだもの……正直、驚いたわ」
「……っ! だから何……? あたしの本性を知ってるなら、これくらいで驚くなっつの。まさか、あたしが心を入れ替えたとでも思ってるワケ?」
「別に、そんな事は思ってないわ。けど、そうね……最近の貴方は前より余裕があるように見えたの。綾小路くんとも表向きの関係以上に仲が良い気がするし、私や綾小路くんを陥れようとする様子も見えなかったしね」
櫛田は堀北の指摘に思う所があったのか咄嗟に反論しようとするが、直前で口元に薄笑いを浮かべ……堀北相手に、優越感に満ちた声で……今まで、言うつもりがなかった事を口走った。
「……ええ、だってあたしは綾小路くんと肉体関係を持ってるもの。仲良くなるのも当然でしょ? お高くとまってるアンタにも、分かるように言ってあげるわ。あたしはね、綾小路くんとセックスしたの……それも、一回や二回じゃない……最近じゃ、ほぼ毎日かな。アンタが頼りにしてる綾小路くんは、あたしの身体に夢中ってワケ」
「……そう」
櫛田としては、綾小路との関係を暴露する事で堀北の動揺を狙ったのだろう……初心な堀北が顔を真っ赤にして反論する所を見たかったというのが、正直な本音だった。
しかし、堀北は顔を赤らめる事すらなく、普段通りの冷淡な目で櫛田を見つめたままだ。その様子が気に入らなかった櫛田は、苛立ちのままに再び口を開く。
「なに? まさか嘘とでも思ってるワケ? 愛しの綾小路くんが自分を裏切るワケないって、馬鹿な事でも考えてるの? 疑うんなら綾小路くんがどんな風にあたしとセックスしたか、事細かに語ってあげようか?」
「別に、疑ってるワケじゃないわ。貴方が振り翳す武器は
「じゃあ、何でそんなに落ち着いてるワケ? アンタ、綾小路くんをあたしに取られたのよ? アンタさ、あいつの事好きだったんじゃないの?」
櫛田は何も、当てずっぽうでこんな事を言ったのではない。櫛田から見て、堀北は綾小路に恋慕の情を抱いているように見えた……人並外れた彼女の観察眼は、その見立てが間違っていないと感じている。
だが、好いた相手が自分に寝取られた事を知らされても堀北は一向に動揺する様子がない……その事が、どうしても櫛田には納得出来なかった。
「……そうね。私が彼に向ける感情は、男女としての好意なんでしょう……今まで何度も、彼に助けられて来たのだもの……恋愛感情を持つ事自体、別に不思議でもなんでもない。そして、その感情は女として先を越された程度で揺らぐ程軽いものでもないの」
「え……?」
堀北は真っ直ぐ、曇りのない瞳で櫛田を見据えている……その済み切った瞳を見て、自分のない純粋さを見せつけられているように思えて……櫛田は思わず、たじろいた。今の彼女の眼光には、それだけの力があったのだ。
「貴方がそうやって余裕をなくしているのは、多分綾小路くんに別の女性の影が見えたからなんでしょう? 強力なライバルが出来て苛立つのは分かるけど、そもそも彼の相手がたった一人で務まると思う? 貴方は多分、彼と肉体関係を結んではいても恋人というワケじゃないんでしょう? 大方、肉体関係を結ぶ事で秘密を守るよう迫ったとか、そのあたりじゃない?」
「……っ!?」
堀北はまるで見てきたように櫛田の現状を言い当て、秘密を暴かれた櫛田は眼に見える程狼狽える。まさか、人の感情の機微に疎そうな堀北相手にこんな醜態を晒すとは思ってもいなかったのだろう。
学力や運動で上を行かれても、洞察力だけは負けない……そう思っていた相手だけに、櫛田の衝撃は大きかった。
「貴方がそんな所で躓くようなら、彼の恋人の座は私が貰うわよ。少なくとも嫌われてはいないと思うから、それなりに良い返事が貰えると思うのよね。断られても、貴方と同じように肉体関係から始める手もあるのだし」
堀北は、なんてこともないようにそう告げた。その堀北の言葉に頭に血が上り、櫛田は声を荒げて堀北を睨みつけた。
「……っ!? あ、アンタにそんな真似が出来るワケ? 今まで男の手も握った事のないようなお嬢様が、セフレでいいなんて妥協出来るっての……っ!?」
「普通の相手なら無理ね。けど、綾小路くん相手なら話は別よ……だって、彼は
「……っ!?」
櫛田は堀北から漂う異様な迫力に押されながらも、鋭い視線で堀北を睨みつけた。その視線は、単純に気に入らない相手に向けるものではなく……明確な、
「素直になればいいじゃない。綾小路くんは幸か不幸か、貴方の本性を知っている……今更、何を気にしているのかしら? 彼は少し失態を演じた程度じゃ、見捨てたりはしないと思うわよ」
「……っ! うる、さい……っ! さっきから好き勝手言いやがって、もうたくさん……っ! 絶対、後悔させてやる……っ!」
櫛田はそう吐き捨てると踵を返し、寮への道を戻って行った。その後ろ姿を見ながら、堀北は溜め息を吐いた。
「……やれやれ、慣れない事をするものじゃないわね。敵に塩を送るなんて、我ながらどうかしてるわ」
堀北は一人そう呟くと、盛大な溜め息を吐いた。彼女の声は夜闇に溶け、雲間から覗く月に照らされた彼女の顔は憂いと達成感の入り混じった複雑なものとなっていた……
というワケで櫛田回二回目です。櫛田は特に好きなキャラなので、3回に分けて書いています。次はきちんと濡れ場ですので。