廃人ネカマのロールプレイング 作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会
んでまた長いよ。今度はくっそ長いよ。今までで一番長いよ。今回は二本立てなの。スマンな。
で、またそろそろエロいシーンを入れる余裕が出来てきたから、嬉しいよね。プロローグは終わったもんね。やりたい放題だよね。
瞬間知覚にして絶対必中の武技『領域』。超速抜刀が生む最速剣撃の武技『神閃』。これらを合わせしは一撃必殺の剣閃、秘剣・
その一撃が、漆黒の鎧に捕獲されていた。
「そん・・・な・・・」
瞬間、ブレインは敗北を悟る。自身が持てる全力以上を発揮してなお届かなかったのだ。これ以上は手の打ちようがない。100%を超えてもなお届かないものに、どうやって挑むというのか。
決定的敗北を喫し、ブレインは剣を手放す。もうどうしようもない。もうどうにもならない。全ては無駄だった。かつて自分は最強だと思い上がったまま挑み、敗北した相手、ガゼフ・ストロノーフに次ぐ、二度目の決定的敗北。
せめて自分を超える男を見て死のうと、ブレインは前を向いた。そして、
(
それに気付いて、何もかもがおかしくなってしまった。自分はひよっ子冒険者に負けるような人間だったのか。今までの研鑽は無駄だったのか。血の滲むような鍛錬も、死を覚悟した実戦も、なにもかもが糧とならなかったと。ブレインは自身の人生のあまりの無意味さに、乾いた笑い声を上げた。
「ハハっ・・・ははははっ・・・! 無駄か! 全部無駄だったのか! ははははは!! 」
ひとしきり笑って、その場に座り込む。もう終わりだ。ブレイン・アングラウスの人生はここで終わりなのだ。これまでの研鑽が無意味であったと分かった今、残り少ない全盛期でどこまで取り返せるかなぞ、考えるのも馬鹿馬鹿しい。なによりもまず、目の前の
「ついこないだ、
後悔を零して、ブレインは佇まいを直す。死を覚悟したのである。
「すっぱりやってくんな、
自分の人生に意味は無い、そう思い知ったからこそのブレインの覚悟であるが。それを引き止めるフルプレートの声。
「
せっかくの覚悟に水を差されては興が冷めるというものだが、もう死ぬ自分には何もかもがどうでもいいと、ブレインは諦めの極致で話す。
「ああ。・・・なんだ、連中の仲間じゃないのかい?——つい先日の事さ。ついに
「そんな話は知らないな。そういう依頼を受けたわけでもない」
「はっは! そうかい! んじゃあこれは偶然か! 偶然アンタがやってきて、ってか?」
座ったまま、ブレインはまた笑った。まるで事故に遭ったようだと。
そして、続けた。
「やりなよ。俺は負けたんだ、今さらジタバタしねえよ。覚悟はできてる」
どうしようもない強敵に出遭って、運が悪かったのか。はたまた、自分の人生の限界を知れて、ここで終われて運が良かったのか。どちらにせよ、もうどうでもいい。そういう諦めが、ブレインにあった。
しかし、そんなブレインの思いとはかけ離れて、
「さっきの一撃は、武技か?」
「・・・あ?」
またも阻まれる覚悟。そして怒り、悲しみ。
「なんなんだよ!! ああそうだよ! 俺の最高の武技だよ! 軽々止められちまったがなあ!! それがどうした!! もういいだろ! 早くやってくれ!」
最高の一撃ですら武技と認識されていなかった。つまりは決定的に、ブレイン・アングラウス自身の研鑽を否定されたということ。そう感じると、どうしようもない悲壮感が胸に訪れる。
これ以上、恥をかかさせないでくれ。そう思うブレイン・アングラウスにかけられた言葉は、彼の心を動かした。
「なあ、何も死ぬことはないだろう」
「はぁ? なに言ってんだ・・・。今まで死に物狂いで積み重ねてきたってのに、その結果が、アンタの手で悠々と掴み取れる程度なんだぜ? もう夢も何もあるもんかよ・・・」
「いや、お前はまだまだ強くなれる」
瞬間、ブレインの顔が上がる。
「いいや、
その言葉を聞いた瞬間、ブレイン・アングラウスは、自身の胸に光が射したのを感じた。
「ほんとうか・・・?」
「ああ! だから、
——
ブレインと名乗った男の目に光が灯るのを見て、
(よぉっし! これで説得できるかもしれない! いかにも『剣に生きる男』みたいなキャラクターしてるし、もしかしてと思ったらやっぱりだ! ゲームの経験が実際の勧誘に役立つなんて、まさかまさかだなあ。)
男はユグドラシルには無かった技術、「武技」というものを体得している。現地の知識を持ち、鉄等級の冒険者を返り討ちに出来る程度には実力者である。しかも強盗団に雇われてもいいというモラルの低さから、多少の犯罪行為には目をつむれる。これぞまさしくアインズが求めていた人材。
新しい世界で新しいロールプレイ。剣と魔法のファンタジーなゲームが現実になったような世界で。もちろんパーティを組まない理由がない。そして当然、パーティを組むならシモベ達のような忠誠心が高すぎて融通のきかない者ではなく、ほどほどの距離感を保てる現地人だ。それが
モモンは喜び勇む気持ちを悟られないように押し殺して、手を差し伸べるようにして掴んだ剣を返す。
「こんな所に閉じ篭ってて強くなれるわけがない。だが、私と一緒に来れば強くなれる——乗るか?」
その言葉を聞いて、突き返された剣を見て、ブレイン・アングラウスは軽く笑った。
そして、彼は剣の柄を握り、立ち上がった。
「アンタにゃあ負けたよ・・・。わかった。その話に乗る」
「それでいい」
「だがな、ちゃんと俺を鍛えてくれないと困るぜ? 冒険もいいが、鍛錬の時間はしっかり貰うからな。頼むぜ」
「ああ——私はモモン。よろしくな」
確かな意思表示の握手が交わされる。
「ブレイン・アングラウスだ。ブレインでいい。よろしく頼む。・・・で、俺はこれでチーム・モモン所属の冒険者ってわけか?」
「そういう事だな」
まるで生き返ったかのように明るい顔のブレインを見て、モモンは内心でガッツポーズを取る。
(よぉーっし! 勧誘成功! これでこの土地の常識やら何やら、いろんな情報が得られるってわけだ!)
しかし、ここでひとつ問題がある。
「そうと決まれば、奥の
一足飛びで殺人の話が出たためにモモンは一瞬困惑したが、状況を整理してブレインの言葉が意味するところを知る。ブレイン・アングラウスはモモンの一行に加わった。つまりは冒険者仲間。そんな冒険者仲間が「山賊に雇われていた」などという情報が漏れては困る。少なくとも街で仕事が出来なくなる。野盗どもは皆殺しで確定だ。どうせ人殺しも辞さない悪逆非道の山賊だ、今のアインズなら殺すことに抵抗はない。しかし、攫われた女達がいるとなると、ちとまずい。
「——どうするよ? 俺は興味が無かったから女達に近づいてないし、顔は見られてないが・・・。連中が女達の前で、俺の名前を出した可能性はある」
生かして逃せばブレインの事を喋られる。かと言って殺せば、痕跡から疑われる。いかにアインズが人間への親近感を失い、人間を虫か何かかという程度にしか思えない精神になっているとはいえ、無実の人間を平気で殺せるほど人間らしさを失ったつもりもない。ではどうするか。
「私に考えが・・・・・・ある」
「ほう」
「とりあえず、ブレインは自分の荷物を纏めるんだ。そしてそのまま外に出ろ。私が入ってきた入り口で合流だ。黒い髪の女が居るから、私の名前を出すといい。冒険者仲間のナーセットだ」
「了解だ。ついでに、連中が貯めこんでた金をいくらかちょろまかしてくるぜ。先立つものは必要だろ?」
「・・・抜け目ないな」
ブレインは「へっ」と笑うと、手で合図して、モモンを洞窟の奥へと誘導する。
洞窟の途中には一見して分からないように塞がれた別れ道があり、そこで2人は別行動となった。
「左をずぅーっと奥まで行くと別の出口になってて、大半はそっちの中腹に詰めてる。女達もそこだ。俺は
「分かった。では入り口で」
「ああ、待ってるぜ」
そう言ってブレインと別れたはいいものの、
(歩きながら考えればいいと思ってあんなこと言っちゃったけど、何も浮かばなかったなあ・・・。どうしよう・・・。)
とにもかくにも、まずは当初の目的。野盗を蹴散らして腕試しを遂行するべく、男どもを皆殺しに、モモンは洞窟の奥へ向かう。
——
街の灯りへ向かって夜の平原を歩く三人。
立派な黒い
白いシャツの上に黒い革鎧、黒いズボンの上に白いキュロット、そしてオーソドックスな茶色のマント、右手に持つは豪華な装飾が施された宝杖、
青い髪、黒いシャツに草色のズボン、腰に差すは刀と呼ばれる剣、王国に名の通る天才剣士、ブレイン・アングラウス。
すなわち、冒険者チーム、モモン一行である。
備えがないために、一行は徒歩で街へと向かっている。そう、野宿ができないのだから、街へ行くしかない。死体の山を築いた洞窟内で寝泊まりすれば死臭が体にこびり付くし、鼻がイカレる。故の徒歩。人間ではない
挨拶は既に済ませた。盗賊は皆殺しにしたとも聞いた。街へ戻って宿で休むとか、明日は冒険者組合でブレインの冒険者登録をするとも決めた。もう話す事が無い。なにせ初対面。今日会ったばかりの二人を前に、ブレインは時間を持て余す。ブレインはそこでひとつ、聞かないでおこうと思っていた話題を持ち出した。
「女達はどうした?」
可哀想な拐われの女を殺したとも思えない様子の
「問題ない。お前の事がバレる心配はない」
「どうして?」
「うむ、こんなところで役に立つとは思わなかったが・・・——実は副作用のあるポーションを持っていてな。傷は癒えるが、近い記憶が消えるという物だ。それを使った上で話を聞いてみたら、みんな洞窟に連れ込まれた時点まで記憶が巻き戻っていた。ブレインの名前は挙がらなかったよ」
「・・・・・・そうか。そりゃあ良かった」
もちろん嘘である。そんな都合のいい話があるわけない。
(信じてくれたかな・・・? まあ結果からは何も探れないハズだし、大丈夫か・・・)
アインズは盗賊を皆殺しにした後、女達を見つけると、ナザリック地下大墳墓へと通信を飛ばした。結果的に女達が無事で、ブレインの存在がバレなければそれでいい、という点に気付いたアインズは、魔法にてシモベを呼び寄せて処置を命令したのだ。『洞窟に入れられたところまでは覚えているが、気が付けばここでこうしていた』、女達がそう証言するようにだ。もちろん記憶を覗くことができるスキルを持つ者に調べさせ、ブレイン・アングラウスの関与も調査済みだ。
そして、ブレイン・アングラウスは大きなため息の後で、こう言った。
「こう言っちゃあなんだが・・・、山賊どもの慰み者にされてたって記憶も消えたのなら、女達にはちょうど良かったのかもな・・・」
「・・・・・・かもしれないな」
「まあ、良かったよ。ほんと」
「街に着いたら憲兵に一報入れて、女達を迎えに行ってもらう。それでこの一件はお終いだ」
「そうだな・・・」
どこか力の無い声で返事をしたブレインの方を振り返って、モモンは少し想う。ブレインはとても複雑な表情をしていた。罪悪感、同情、様々な感情と思考が入り交じる複雑で高次元な表情だ。それは知的生物のみが見せる、とても複雑な表情だった。
———
それはモモンがエ・ランテルに到着する数日前のこと——
「ど〜なってんのよぉー!? 全っっ然、帰ってこないじゃないのさぁ!」
標的を待ちくたびれ、事態が進行せず、焦りを堪え切れなかった。ただでさえ追われる身なのだ。事が動かないのなら、自分から動くしかない。
「カジっちゃん! どういうことなの!」
「どういうことと言われてもな・・・。それと、カジっちゃんはよせ」
「ンフィーレアとかいう坊やが悪いの!? 漆黒の剣とかいう同行した冒険者が悪いの!? それともカジっちゃんが悪いの!?」
「うるさいわい。今日だけで何度めの癇癪だ。いい加減にしろ」
「もういいわよ! とりあえず私は行くからね!」
「おい! 何処へ行く気だ!」
「帝国よ帝国! 今はあそこしかないっしょ!」
そう言ってエ・ランテルを飛び出して早二日。痕跡こそ残っただろうが、なんとか追ってを振り切って帝国に密入国した。しばらくはここでやり過ごすしかない。
この女の名はクレマンティーヌ。その前身はスレイン法国の特殊機密部隊、漆黒聖典の第九次席。可愛らしいボブカットの金髪や白い肌、滑らかで細い身体つきからは想像もできないほど強く、その戦闘能力はなんと英雄の域にある。
クレマンティーヌは現在逃亡中である。原因は国を裏切ったからだ。クレマンティーヌは別部署の同僚を殺害し、国宝を奪い、逃亡したのである。彼女がなぜそのような凶行に及んだのか、それは彼女にしかわからない理由があるのだろう。
クレマンティーヌはリ・エスティーゼ王国へと潜入、潜伏した。そして闇の魔法を研究している地下組織、ズーラーノーンに接触した。ズーラーノーンが謳うアンデッドの研究だとか死霊魔術だとか不老不死だとかは、彼女の興味の対象となり得なかった。ズーラーノーンと接触した理由はひとつ、彼女が法国から盗み出したマジックアイテムを上手く扱ってくれるであろう存在がズーラーノーンしかなかった事、そしてその過程でアンデッドが大量発生すれば、混乱に乗じて痕跡を消し、追っ手を完璧に撒けると考えたからである。
だがしかし、時流は彼女の思い通りには動かなかった。問題のマジックアイテムを使用できる現状唯一の存在、ンフィーレア・バレアレが消えてしまったのである。情報収集の結果、「漆黒の剣」などという御大層な名義の冒険者チームを雇って薬草取りに出かけたらしいのだが、そこからいっこうに帰ってこない。追っ手の手は日々近付いてきている。
そうして場所を移した先が、隣国、バハルス帝国である。ここにはズーラーノーンの下部組織が存在する。新興宗教の体を装いながら、実際は貴族を
「相変わらずカビ臭いとこねー・・・」
クレマンティーヌは以前から隠れ蓑候補をいくつも当たっており、帝国ならここと知れていた。故に一番安全な場所を選んだのだが、場所が場所だ。なにせ地下墓地の底に作られた秘密の空洞で、緊急の避難経路として繋がる先は下水道ときている。長居はしたくない。
「で、これから儀式が始まるって? あの汚ったないやつが?」
「ええ。御覧になられますか?」
「いやぁよ。アホらしい。付き合ってらんないわー」
クレマンティーヌはその実力からズーラーノーンでも上から数えたほうが早い地位にある。故に、下部組織に赴けば周囲は全員下っ端として扱える。場所が場所だけに長居はしたくないが、部下が仕事を全部片付けてくれるというのは楽でいい。
「とりあえずお酒ちょうだい。喉渇いちゃったー」
「ええ。ただいまお持ちします」
いかにもうさんくさい修道士という格好の部下——新興宗教の司祭という役割なのだから当然なのだが——に命令して、クレマンティーヌは人心地つく。とりあえず危急は脱した。しばらくは帝国で小銭を貯めつつ、情勢を伺おうと。
運ばれてきた酒を一口飲み、クレマンティーヌは嘲笑う。
「なぁ〜にが『邪神様』よ。ばっかみたい。そんなのいるわけないじゃんねえ」
その呟きに司祭服の取り巻きが釣られて笑う。そしてクレマンティーヌが酒をもう一口含んだ瞬間。家屋が倒壊したのかとでもいうほど大きな衝突音が響き、思わず吹き出す。
「ぶっっふぇ! ちょっ、ちょっとなによぉ!? ドーン!っていったけど!?」
———
『邪神教』。今バハルス帝国皇帝を悩ませている帝国の闇。それは帝国領内の何処かで活動している新興宗教で、残念な事に、何名かの貴族がそれに関与しているという。
その残念な貴族達とは揃って特有の病を抱えた者たちであった。それは『老い』。決して避けられぬ老衰が、彼らの精神を蝕んだ。どうにかして若い頃の活力を取り戻したいと、老人達は必死に手を伸ばした。秘薬と謳われる高級なポーションに手を出し、様々な薬や魔術を探し、足掻いた。そんな足元を見失った人間というのは、詐欺師にとって格好の餌である。
この世の地獄で今日もまた、血塗られた背徳の宴が幕を開く。
老人達は丸裸になり、手に刃物を持ち、今日の獲物を今かいまかと待ち構える。運ばれてきた哀れな子羊の腹は裂かれ、首が跳ねられる。狂気の老醜は新鮮な血を飲んで浴びて、臓物を自身の体に巻き付けて笑う。そして高らかに叫ぶ、「邪神様!」と。
その呼び声が今日、初めて届いた。
「なんとも汚い所だ。これが神を召喚するに相応しい場所か」
瞬間、老人達の目は釘付けになった。邪神を迎えるためにと儀式場の上座に据えられた石の玉座、その前に、神が降臨していたのだ。
「邪神さま・・・」
「邪神様だ・・・」
老人達は自分の眼を疑うことをしなかった。その姿があまりにも禍々しく、邪悪で、神性だったからだ。
頭に生えるは黒々とした二本の角。紫の髪は神秘的な輝きを放ち、赤く光る眼光は悪魔の如し。黒く大きな翼は邪悪の象徴。大きな乳房は堕落へと誘う魅惑の魔性。腰の裏より伸びるは悪魔の尻尾。誰がどうみても邪悪で、強大で、なによりも淫靡な姿。
それだけではない。邪神は供を連れていた。側に控えるは修道士然とした格好の得体の知れない二体。そのどちらもが非人間的な圧力を発していた。
老人達は跪き、額を床に擦り付けて拝んだ。疑うまでもなく邪神なのだ、礼を捧げるのは当然のこと。いくら自分の欲のために求めたとはいえ、それくらいの信仰心は老人達にも存在した。
「
耳が溶けそうなほど甘美な声にうっとりしつつ、老人達は邪神様の声に従う。そしてもう一度その姿を見て、もう忘れてしまった肉欲の昂りを再確認した。
邪神は言った。
「
「はい! その通りでございます邪神様! 我らは邪神様を信仰する者です!」
一人が答えるが、邪神は表情を変えず「そうか」と言うのみ。
やがて、邪神が振り返る。その視線の先にあるのは石の玉座。人間が座るには大きすぎるが、玉座とはそういうものであり、神を讃えるのなら多少は大きいほうが見栄えするというもの。詐欺師達にとっても重要で、老醜に意識させる対象として、神の座る椅子には金を掛けた。だが、その椅子は一度も利用される事がなかった。
「汚い・・・・・・」
邪神はそう言うと、2メートルほどもある石製の椅子を“片手”で持ち上げ、投げ捨てたのである。椅子は石の壁に激突し、凄まじい轟音とともに砕け散った。その光景を見て、老人達は真に思い知る。正しく神だと。
その時、近くから物音がしたのを儀式場の全員が聞いていた。当然それは邪神の耳にも入る。
「誰ぞ隣に控えておるのか」
「はい。司祭達が・・・」
「全員連れて来い」
先程までの甘美な響きは何処へ。邪神の声色はとても重苦しい、恐ろしいものとなっていた。老人達は震え上がり、裸のままで儀式場を飛び出して行く。
先の邪神様の行為は用意されていた玉座が気に入らなかった事によるもの。ならば次は罰が降りかかるだろう。どんな恐ろしい罰かはわからないが、それを逃れるためなら誰だろうと犠牲に出来るというもの。玉座を用意した司祭達に罪の全てを着せようと、老人達は必死の形相で詰め寄った。
「先程の大きな音はなんですか? いえ、そんなに早口でがなり立てられてもわかりませんよ。何がどうしたんですか?」
「ちょっ、離しなさいよっ!」
「皆さんどうしたというのです! いったい何が——」
儀式場へと引きずり出された司祭達はそれを視界に収めた瞬間、絶句する。当然、その場に居合わせたクレマンティーヌも同様であった。
——
女、クレマンティーヌは震えていた。それは恐怖によるものである。元漆黒聖典第九次席、英雄の域に足を踏み込んだ超人が、恐怖に震えていた。
あれは、なんだ。あんなものは知らない。あんなものがいていいはずがない。
(まさか・・・・・・本物の邪神様ってわけ・・・・・・)
その姿を見れば納得。悪魔そのものである角に翼に尻尾。そして溢れ出る覇気はおぞましい圧力を持ち、まるで空気が歪んでいるよう。
(勝てるはずがない・・・・・・逃げられもしない・・・・・・)
そして、神の声。
「司祭どもをここへ」
司祭服の詐欺師達とクレマンティーヌは貴族どもに押されて、邪神の前に突き出される。
「余の座る椅子を新調せねばならんな」
脳を直接揺さぶられるかのような声に驚き、クレマンティーヌは事態を飲み込む。壁を見れば砕け散った石くれがあり、砂埃が未だ宙に舞っている。そして儀式場の上座に置いてあった石の玉座が消えている。
「椅子に相応しい
そして続けられる言葉で、その意図を悟る。
お願いだから、心の中でそう祈るクレマンティーヌだが。クレマンティーヌ本人も、その祈りが届くとは思っていない。突き出された司祭は男ばかりであり、その中にはお世辞にも美形と呼べる者はいない、体格の良い者もだ。女であること、そして若いことから、自分が選ばれると薄々感じていた。玉座とは往々にして美しく飾られた物だから。
「そこな女。立て」
その声に、震える。クレマンティーヌは震える手足に何とか言うことを聞かせて、ゆっくりと立ち上がった。そして、
そんなクレマンティーヌの健気な努力を踏み躙るかのように、更なる命令が下される。
「服を脱げ。椅子に相応しいようにな」
動揺はあった。だが、恐怖がそれに勝った。自分では決して勝てない超常の存在を前に、クレマンティーヌの心は折れていた。
「は、はい。仰せの通りに・・・」
羞恥心がある、屈辱感もある、人間としての心はまだ機能している。だからこそクレマンティーヌは逆らえない。圧倒的な力を肌で感じて、どうしようもない恐怖に支配された。今はただ、命じられるがままに従うのみ。
クレマンティーヌはひとつずつ服を脱いでいく。震える指先でボタンを外し、ピンを外して。
マントを剥いだ。
靴を脱いだ。
胸当てを外した。
腰鎧を外した。
下着を脱いだ。
そうして全裸になって、クレマンティーヌは更に恐怖した。自分はどのように扱われるのか、どんな最後を迎えるのか。収まらない震えは地下の寒さによるものだと言い聞かせるように、クレマンティーヌは自分の身体を抱き締めた。
「さあ、椅子としての役割を果たせ」
「お、仰せの・・・とおりに・・・・・・」
言われるがままに従い、頭を下げて床を見、這って歩く。そうして、ようやく神の背後に到着する。クレマンティーヌはそこで、全身に張り詰めた恐怖が溶けるように抜けていくのを覚えた。
「なかなか良い椅子だ」
背中にかかる重みに安堵する。道具として扱われる、人間椅子として座られる、そんな屈辱的行為に安堵する。それは、椅子としての価値があるうちは、命が繋がっているという事だから。
いつしか、クレマンティーヌは陶酔にも似た感覚に陥っていた。恐怖が抜けたからか、それとも極限の緊張状態で精神が振り切れたか、判別はつかなかった。死を覚悟した時間から解放された後に脳を満たす安心感はとても甘美で、少なくともそれは陶酔をもたらすに相応しいものだった。
(き、きもちいい・・・!)
頭を手で撫でられて、安心感に没頭する。秘所を尻尾で撫でられて、快感に安堵する。自分は今生きている。生きている価値がある。生きていてもいい。それを求められている。椅子としてでも、自分は神に認められている。
湧き上がる幸福感に体温が上がり、刻まれる快感に脳が溶ける。
恐怖に捕らわれた心は解放されて、羞恥心と屈辱感が強く意識されるようになる。
見下していた老害どもに裸を見られている。感じている姿を見られている。
顎で使っていた下っ端どもの前で恥ずかしい姿を晒している。
思えば思うほどに快感は高まり、体が熱を帯びる。
(わたし・・・、壊れちゃったのかなあ・・・?)
薄れゆく意識の中で、クレマンティーヌは確かに絶頂を意識した。
無駄に長い! 以上!
でもまあ、書いてて楽しかったから。
次もエッチな話だといいね。クレマンちゃんであれこれしたりしてさ。
じゃあまたね。次があったらね。