※この作品はR-18です。

廃人ネカマのロールプレイング   作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会

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 んもー、またえっちぃの書けないじゃーん。
 早くエロエロな話書きたいのにー。



第二十話、強化と失念。

 ブレイン・アングラウスの朝は早い。目指す高みに追いつくには、人の何倍も努力せねばならないからだ。

 ブレインが目を覚ますのは、空にようやく白さが混じった頃合い、早朝も早朝だ。新しく借りた個室を出て、顔を洗い、排便を済ませると、水を一杯飲んですぐジョギングに出る。

 ブレインが街を一周して戻っても、多くの人々はまだ眠りの中。一部の仕事人だけが目覚める時間帯。ジョギングから帰るとまずは水分補給を済ませ、次に宿の裏庭でトレーニングに励む。上体起こし、スクワット、反復横跳び等、そして重しを付けた木の棒を振って腕を鍛える。一連のメニューをこなすと、ちょうど朝食の時間となる。濡れ手拭いで汗を拭き、タンパク質を意識した朝食を食べ、ワインを一杯だけ飲む。そうしてようやく、ブレイン・アングラウスの朝が本格的に始まる。

 

「おはよう、ブレイン」

 

 朝の挨拶と共に二階から降りてくるのは、ブレインの新たな師、ブレインが所属するオリハルコン級冒険者チームのリーダー、モモン。そしてその後ろには、モモンの相棒である美女、ナーセットの姿。

 ブレインだけでなく、モモン以外のすべての人間を見下したような態度を変えないナーセットからは、もう毎日のことだが、朝の挨拶はない。同じ冒険者チームに所属する事になって早一週間、そろそろ認めてくれても良いのではと、流石のブレインも思わないでもないが。しかし、すっかり慣れてしまった冷たい態度が突然変わっても気持ち悪いか、と思考する。

 

「ああ、モモンの旦那。おはようさん——朝食は?」

「二階で済ませた。そっちは? しっかり食べたか?」

「いま食い終わったところだ」

 

 ブレインは想う。気兼ねない平凡な会話は信頼の証だろうか、と。一瞬そう思考したが、それは違うと否定する。なぜなら、ブレインは未だ、モモンから指導を受けていないからだ。ブレイン・アングラウスがモモンに着いて来たのは、ひとえに剣の腕を磨くためである。しかし、モモンはモンスター退治の依頼などで、直接戦闘をブレイン一人に任せてくれる事はあっても、合間合間に指示を飛ばすのみ。直接的な教導は一度もないのだ。その訳を尋ねても、

 

『まずは経験値稼ぎ・・・・・・いや、えーっと・・・・・・基礎! そう、下地作りだ! まずは下地をしっかり作らないと、スキルを身に付けられないぞ!』

 

 というなんとも要領を得ない返事が返ってくるのみ。モモンが言うには、モモンもまたそうやって地道に鍛え上げてきたそうだが。ブレインにはとてもそうは思えず、まるで自分が長々と足踏みを続けさせられているような気がして、どうにも“もどかしさ”を覚えるのだ。

 

「んで、今日の予定は? 組合(ギルド)の受付が言うには、しばらくは高ランクの野盗狩りやモンスター退治は出ないそうだが?」

「そう言ってたな。なので、今日は買い物と鍛錬だけだ」

 

 モモンの言葉を聞いて、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせて、ブレインが勢いよく椅子から立ち上がる。モモンもその期待を悟ったようで、買い物は後回しにして、まずは鍛錬から始めようと言う。

 

「よっしゃあっ!! じゃあさっそく行こうぜ! こっちはもうウズウズしてんだ!」

 

 が、期待を大に、喜び勇んで、モモンから受ける初の直接鍛錬に挑んだブレイン・アングラウスを待っていたのは、泣きたくなるような数のアンデッドの群れであった。

 

———

 

 鍛錬に選んだ場所は街の壁外、近隣の小さな森の中、人目の無い所である。こんな何も無い場所で、いったいどんな修行を始めるのかと不思議に思うブレインへ、モモンが説明する。モモンが言うのは、特別なマジックアイテムでアンデッドを召喚できるから、それを倒し続けるのが鍛錬であるとのこと。もちろんそんなマジックアイテムなぞ存在しない。アインズのついた嘘である。

 モモンことアインズは、マジックアイテムに見せかけた宝石を握って、自身のオーバーロードのスキルでアンデッドを召喚し、それをブレインに倒させる。ゲーマーにとっては当たり前のキャラクター育成法、レベリングという経験値(EXP)稼ぎだ。なにせこの土地のモンスターはどれも低レベルで、いくら倒しても経験値を稼げない。アインズがブレインと初めて会った時、面と向かって「強くしてやる」と言ってしまった手前、このままチマチマと野生のモンスターを狩っていては埒(らち)があかないと考えた。そのため、アインズは自らのスキルで強化されたほどよく手強いアンデッドを使う事にし、そのための方便を考えていたのだ。

 が、アンデッドとの戦いの経験が少ないブレインには、このレベリングがとても辛いもののようだった。というのも、アインズが召喚できる低級のアンデッドというのは主にスケルトンで、ブレインが使う武器、刀では対処が難しいモンスターなのだ。しかし中級のアンデッドでは、アインズの持つアンデッド強化のスキルが過剰となり、ブレインでは倒せないほど強くなってしまう。そうなると低級と中級の中間に位置するアンデッドしかないが、そういった初級者を脱したプレイヤーが相手にするレベル帯のアンデッドというのは、多くが一芸を持つか嫌らしい状態異常を持つかといった、攻略するのに小細工や一工夫を要するモンスターばかり。元となったゲーム、ユグドラシルのレベルデザインの数少ない好例であるのだが、これがブレイン・アングラウスという剣一本で名を立てた人間には辛いものなのだ。

 

 まず巨大なアンデッドが辛い。

 

「まずは足を攻撃するんだぞ」

「分かってるけどよお! 削っても削っても再生しやがるんだコイツ!」

「最初のうちはアンデッドに攻撃させないから、状況有利を作る事を考えてな」

「こんな早くから武技を使わされんのかよ!! 堪らねえなあ!」

 

 特殊な攻撃も辛い。

 

「酸はやめろ!! 酸は!!!」

「酸攻撃は近接職の天敵。しっかり避けろよー」

「クソがあっ!! 刀がイカレたらどうしてくれんだよっ!!」

「頑張れよ、ブレイン。必死になって避けるんだ」

 

 そして数が辛い。

 

「今度はちょっと奮発して、弱めのアンデッドを10体、まとめて召喚する」

「・・・・・・は? いやいやいや、囲まれたら流石の俺でも・・・」

「対集団戦では、移動しながら攻撃することが重要だ。そして、一度に相手するモンスターを選ぶんだ。目の前の敵を盾にして、他の敵の行動を阻害させる。これがとても効果的だ。覚えておけ」

「いやまってくれよ、旦那! 武器にはな? 相性ってもんがあってだな?」

「はい開始(スタート)!」

 

 しかし、ブレインはこれを乗り切った。爪で引っ掻かれたり、毒針が掠ったり、体当たりで吹き飛ばされて打撲したり、正に満身創痍といったボロボロの有り様となったが。ブレインはこの修練(レべリング)を乗り越え、生き残った。そして、確かな手応えを感じていた。

 

(ああ・・・・・・、強くなった・・・。たしかに俺は強くなった。実感するよ。だけどよ・・・・・・)

 

 ブレインは額から溢れ出る汗を手の甲で拭い、荒い呼吸の中で、かすれた声で呟いた。

 

「ちょっと・・・・・・ちょっと休ませてくれ・・・・・・」

 

 息絶え絶えのブレイン・アングラウス。その様子を見て、アインズは僅かながらも達成感を覚えていた。そして、かつてのギルドメンバーの言葉を思い出して、感動に浸る。

 

(ヒロイン育成要素のあるエロゲーは特に味わい深い、でしたっけ? ペロロンチーノさんの言ってたこと、ようやく分かった気がしますよ。誰かを育てる、その成長を見守るって、こんなに楽しい事だったんですね。)

 

 そして、モモンガ(アインズ)は思う。付き合って間もないブレイン・アングラウスを育てるだけでも楽しいのに、これがナザリックのシモベだったら?と。

 

(やまいこさんの話、もっとちゃんと聞いておけばよかったなあ・・・)

 

 リアルでは教職に就いていた女性メンバー、やまいこを思い出して、昔を懐かしむ。

 骸骨の身体となってしまった今、食も、睡眠も、あらゆる肉体的快楽を失ったいま、アインズは特に精神的快楽を求めている。だから冒険の旅に出た。しかしいまこうして新しい楽しみを知って、ここ数日で一番に、シモベ達のことを強く意識した。

 アインズは想いを固める。即ち、アルベドや階層守護者たち、領域守護者たちを更に育成しようという試み。それはきっと、皆を遺してくれたギルドメンバー達への、恩返しにもなるはずだと考えて。

 

(明日には一度ナザリックに帰って、みんなの顔を見よう。)

 

 考えが固まったところで、アインズはモモンに戻る。そして、ブレインの荷物から水筒を取り出し、投げ渡す。ブレインは水筒を傾け、豪快に水を煽って、健全な笑みをみせた。そんな汗まみれのブレインを見て、アインズは自身も気付かぬうちに、笑っていた。

 

「マジックアイテムの魔力も尽きた。今日の修練はこれまでだ! 少し休息したら、街に戻るぞ」

 

 やっと終わったと項垂(うなだ)れて笑うブレインを、ナーベラルの苛立ちのこもる目が睨んでいた。

 

 

———

 

 

 つい楽しくなってブレインの修練に時間を掛けすぎたこと、そのせいで疲労しすぎたブレインの歩みが遅くなったこと、そして街をねり歩くという初めての体験に右往左往してしまったことで、アインズ一行の買い物が終わる頃には、陽はもうすっかり落ちていた。

 夜のエ・ランテルで、本日最後の買い物。手持ちが少なくなった現地のポーションを買い足すために、その腕は国一番と名高いポーション職人、リィジー・バレアレの店へと向かう。

 街灯の無い道路は暗く、月明かりだけが頼りとなる。そんな静かな夜に、「ガチャン、ガシャン」と鎧で音を立てて、モモンが歩く。

 

(バレアレってどこかで聞いた名前だと思ったら、カルネ村の復興手伝いをしてくれたっていう少年と同じじゃないか。そーなると、お礼の代わりにチップでも置いていったほうがいいかな? いやーでも、今の俺はモモンだしなあ。うーん・・・、やっぱりアインズ・ウール・ゴウンとして、改めてお礼したほうがいいかな・・・・・・)

 

 アインズが歩きながら思考していると、ふと頭に新しい情報が入る。装備している敵感知(センス・エネミー)の効果を持つアイテムに、反応があるのだ。それも、アンデッドのものが。一行が今居るのは街の中、アンデッドが自然発生するという墓地は遠い。となれば、誰かがこの街の中でアンデッドを召喚したということ。

 

「モモンさ・・・ーん、いかがされましたか? やはり、ブレイン(ウジムシ)の足の遅さにお腹立ちでしょうか?」

「あのねえ・・・」

 

 急に足を止めたアインズを見て、ナーベラル・ガンマが心配する。数歩遅れてついて来たブレインが、恨めしそうにぼやく。しかし二人の言葉は、アインズの耳に届いていなかった。

 

「嫌な予感がする・・・・・・」

 

 それは第六感だろうか。アインズはすぐさま駆け出し、アンデッドの反応がある地点へと走る。そこはリィジー・バレアレの店。何の偶然か、これから向かおうとしていた場所だ。そしてアインズが近づくと、鎧の音を聞いたのか、アンデッドの反応が遠ざかっていく。

 

(逃げるだと? となると・・・・・・)

 

 アインズはすぐさま店の裏手に回り、勝手口を開ける。すると、そこには予感の通り、血の臭いが立ち込めていた。

 店の中は荒れていた。強奪ではない、乱闘の形跡である。そしてその中で、息をする人間が一人。王国最高のポーション職人、店主、リィジー・バレアレ老体である。リィジー・バレアレは怪我をしており、血を流していた。どうやら傷が深いようで、床に広がる血はかなりの量だ。しかし、アインズが近づくまでに自力でポーションを飲み、回復する。流石は国一番のポーション職人といったところだが、体力の消耗は必至。傷が塞がり出血が止まっても、重体である事に変わりはない。

 

「だ・・・誰じゃ・・・?」

 

 命を持ち直して、理性を取り戻したのだろう。リィジー・バレアレはすぐそばに立っている漆黒の鎧を纏った剣士、モモンを見て言った。その顔は困惑と恐怖で怯えていたが、店を襲った者とは違うと分かったのか、うろたえてはいなかった。

 

「客としてきたつもりだったのだが、どうやら冒険者として働かねばならないようだな———御老体、大丈夫か?」

「冒険者・・・・・・? そうか、冒険者か・・・。しかし・・・・・・」

「どうやら瀕死は脱したようだが、重体である事に変わりはないようだ。安静にしていろ」

 

 モモンはリィジー・バレアレの安否を窺うと、壁を背にして座らせ楽な体勢にしてやる。そして、背後から駆けてくるナーベラルとブレインの足音を聞きながら、思考する。今後も冒険者として楽しみ、活動し、そしてブレインを引き連れる以上、地上の高級ポーションは必要不可欠。ユグドラシル製の、ナザリックのポーションは地上の物と比べて数段格上のものであるため、地上世界で使えば出処を疑われ、それによって厄介ごとを招きかねない。冒険者ロールのモモンとして表立って使うのは、地上世界のポーションのみと決めている。故に、ここでリィジー・バレアレに死なれては困るし、彼女の孫だというンフィーレア・バレアレも死なせるわけにはいかない。更に、店内を見渡しても、ンフィーレア少年の姿は無い。そしてリィジー以外の血痕も無い。恐らく、ンフィーレアは連れ去られたのだろう、先に感知したアンデッドに、あるいはアンデッドを使役する何者かに。

 アインズは覚悟を決めた。

 

「リィジー・バレアレ、何があった? 誰にやられた?」

「く、黒いローブの男たちが突然押し入ってきて・・・、孫を・・・孫のンフィーレアを攫って・・・いきおったのじゃ・・・・・・!!」

「分かった。我々が必ず彼を取り戻す。生きたままでな。だから、今は安静にしていろ」

「すまぬ・・・・・・すまぬのう・・・・・・。ンフィーレアを連れ帰ってくれたら、望みのものをくれてやるわい・・・。なんでも・・・・・・、なんだろうと・・・・・・」

 

 希望を得て、リィジー・バレアレは涙を流した。静かに、柔らかな涙を流した。その涙が尊いものであることは、アインズにもよく分かっている。しかし、そんなことはどうでもいいと思えるほどに、アインズは怒りを覚えていた。

 シモベから伝えられた情報で、ンフィーレア・バレアレという人間が、これからのモモンに、そしてアインズにとって、とても重要な存在だという事が分かっている。ンフィーレア・バレアレは、カルネ村の新村長、エンリ・エモットの友人であるという。もしも友人の死を伝えられたりしたら、エンリ・エモットはどう思うだろうか、村長としての職務に影響が出たりはしないだろうか。そして、ンフィーレアは店ではリィジー・バレアレの補佐を務めている、次期店主にして次代のポーション職人だ。そんなンフィーレアを誘拐し、危害を加えようとする者がいる。

 

(許せん・・・!)

 

 それが個人的な利益を奪われそうになったが故の怒りなのか、それとも僅かに残った人間性が反応しての義憤の怒りなのかは、今のアインズには判別できない。しかし、怒りという感情が今はもう存在しない心臓を高鳴らせるように、自分を熱くさせている事は確かだった。

 

 アインズは言った。

 

「オリハルコン級冒険者モモンが、確かに請け負った。ンフィーレア・バレアレを無事に救出し、連れ戻そう」

 

 その言葉を聞いて、リィジー・バレアレが目を閉じる。

 そして、アインズはモモンとなって、振り返る。後を追って駆けつけていたナーベラル(ナーセット)とブレインが、神妙な面持ちでそこに立っていた。先ほどから背後で待っていたことはわかっている、話も聞いていただろう。それを前提に、アインズは指示を下す。

 

「聞いての通りだ。これからンフィーレア・バレアレを救出するべく、誘拐犯を追う。ナーセットは私と共に来い。ブレインはここで、リィジー・バレアレの護衛を頼む」

「というか、この疲労じゃ、旦那たちに追いつけないからな・・・。構わねえぜ、俺は置いていってくれ」

「スマンな、ブレイン」

「なぁに、長距離から飛び道具に狙われる心配のない室内のほうが、やりやすいってもんさ——さ、行ってくれ。蹄(ひづめ)の音は聞こえなかった。馬で逃げたわけじゃないようだし、今からでも追いつけるだろう。さあ、早く!」

 

 ブレインとの一秒の目配せの後、アインズとナーベラルは店を出た。残るブレインはその場にへたり込み、ほっと息を吐いた。

 

「モモンの旦那と付き合ってると、退屈しねぇなあ・・・。しっかし、今日はもう駄目だぁ・・・・・・動けねえよ・・・」

 

 ブレインは疲れた身体を下ろし、水筒を煽った。

 

 

———

 

 

 ンフィーレア・バレアレ誘拐犯の追跡は簡単だった。アインズやナーベラルの超人を超えた体力、そしてスタミナ減少無効のアイテムを持つ身ならば、走って追いつく事は難しくない。

 

「モモン様・・・さん、犯人の姿が見えました。数は4。雑魚です。蹴散らしますか?」

「却下だ。薬師の少年を誘拐したのが、単なる身代金目当てではないだろう。リィジー・バレアレを傷付けた事から考えてもな。そして、単なる快楽殺人でもない。連中には何か企みがあるのだろうよ、金ではない何かがな。ンフィーレア少年を奪還するのは、それを突き止めてからでも遅くない」

「はっ。出過ぎた真似でした。どうかお許しを」

 

 店を出て走るうちに、アインズは幾分か冷静さを取り戻していた。そうして思考した結果、これが単なる誘拐ではない事に気付く。故に、ナーベラルの進言を切り捨てたのだが。ここでまた、懸念がひとつ。

 ナザリック地下大墳墓のシモベ達は、人間を見下すあまり、短絡的な発想に至りがちだ。そしてそれがもっとも極端なのが、このナーベラルである。惨虐性を持ち合わせるために、深く読み込んで翻弄し、弄ぶといったソリュシャン・イプシロンならば、このような考えはしない。ルプスレギナ・ベータも同じくだ。そもそも人間を都合の良い食料としてしか見ていないエントマ・ヴァシリッサ・ゼータや、そもそも人間に対して関心を持たないシズ・デルタもそうだ。そんな中で、人間種族なぞ排他されてしかるべき下等生物だという認識を持つナーベラルは、人間が絡むとどうしても思考が極端に偏りがちなのだ。

 

(どうしたものかなあ・・・・・・)

 

 しかし、そんな懸念に悩む暇もなく、事態は動く。一定の距離を保って尾行を続けていた誘拐犯が、ついに足を止めたのだ。そこはエ・ランテルで一番大きい墓地の中心、その霊廟の前である。そして、誘拐犯達が駆け寄る所には、いかにも死霊術師(ネクロマンサー)だという気味の悪い男が立っていた。

 誘拐犯たちは気を失っているンフィーレアを差し出して言った。

 

「カジット様。言いつけ通り、ンフィーレア・バレアレを連れてまいりました!」

 

 カジットと呼ばれたいかにもな男、左手に何やら黒い球体を持つ、血色の悪い土気色の顔をした男は、そっとほくそ笑んだ。そしてンフィーレアの髪を撫でると、楽しげな声をあげた。

 

「これで全てが揃った・・・! 『死の宝珠(ほうじゅ)』、『叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)』、そしてあらゆるマジックアイテムを使用できるというタレントを持つ者、『ンフィーレア・バレアレ』! これで、第七位階魔法、不死の軍勢(アンデス・アーミー)が発動できる。そうすれば、『死の螺旋』は何年も早く完成する・・・!! はははっ、はーっはっはっは!!」

 

 近くの雑木林に隠れるアインズは、兜越しに額を押さえた。

 

(なんという・・・・・・なんという説明臭い台詞・・・! コミックの安っぽい悪役そのもの! 馬鹿丸出しだろ! こんな開けた場所で、誰が聞いてるかも分からないのに、そんな大声で悪巧みをべらべらと喋るやつがあるか! そもそもあの誘拐犯もだ! どうしてボスの名前を口走っちゃうかなあ!?)

 

 そしてなにもかもがどうでもよくなった。

 

(あー・・・もういいや。こんなアホどもが大それた事をできるわけもなし。さっさと倒して、ンフィーレアくんを救出しよう・・・)

 

 興味も関心も失せたアインズは、無造作に姿を晒し、カジットとかいう無法者とその配下達のところへ向かう。先の岩巨人(ベルセルク)討伐の際に、完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)という魔法詠唱者(マジックキャスター)のレベルとステータスをそっくり戦士のものへ移し替える魔法を使ったが、それが過剰すぎた事を知ってからは、よほどの事がない限り封印するつもりでいる。それは今回も同じ。そも、パーフェクト・ウォリアーを使わなくても負ける気がしないため、今回は最初から手加減全開である。殺さずに捕まえて詰所に突き出せば、それなりの金になるという計算もある。だがそれ以上に、アインズのゲーマーとしての精神が、舐めプレイで倒したいと思わせるほどに、カジットなる者があまりにもお粗末だったのだ。

 

 カジットは、不意に現れた全身鎧(フルプレート)の戦士を見て驚く。そして、目を凝らせば、その戦士の胸元に輝くプレート。それはオリハルコン級冒険者であることを示す証明。

 

「オリハルコン級冒険者とはな。こうも早く嗅ぎつけられるとは、予想外よ」

「あー、そういうのいいから。とりあえずお前たち全員ぶっ倒して連行するんで、大人しくしろ」

「はあ?」

「ナーセット、予定変更だ。リーダーの、あの黒い玉を持った男以外は殺して構わん。ンフィーレア少年を巻き込まない範囲で、やれ」

 

 カジットが事態を理解するよりも早く、アインズの命令で、ナーベラルが魔法を放つ。魔力系第三位階魔法『雷撃(ライトニング)』が、二重化を受けて、カジットの一団を稲光で包む。

 

「ほう。今の一撃に耐えるか。単なる阿呆でも、雑魚でもないようだな」

 

 アインズの言葉通り、ライトニングの稲光が止んだ後、誘拐犯たちを含むローブ姿が黒焦げとなった中、カジットだけが無傷を保っていた。何らかの魔法防御を展開したのだとしても、瞬時に敵の魔法の威力を察し、適切な防御手段を行使するところ、カジットがただの低級死霊術師(ネクロマンサー)でない事は明らか。しかしそれでも、モモンとナーセットの敵ではない。

 驚いたローブ姿が手放したことで地面に投げ出されたンフィーレア・バレアレも無事。残るはただ一人、間抜けなネクロマンサーのみ。

 

「おのれぇ・・・! 冒険者風情がっ!! この儂(わし)に刃向かったこと、後悔させてやるぞ!! 出でよ! 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)!!」

 

 カジットが左手に持つ『死の宝珠』と呼ばれるマジックアイテムを掲げて、アンデッドを召喚する。それはカジットのレベルでは決して召喚できない、死の宝珠の補助があってこその、規格外のモンスター、スケリトル・ドラゴン。冒険者の中でも最上級のアダマンタイト級でなければ対処できないとされる、強大なモンスターだ。だが、その程度のアンデッドなぞ、ユグドラシルで散々見飽きたモモンガ(アインズ)にとっては、どうとでもなるものだった。

 

「はははっ! あらゆる魔法への絶対耐性を持つスケリトル・ドラゴンだ! そこの女魔法詠唱者(マジックキャスター)では手も足も出まい! そして! オリハルコン級でしかない貴様には、このスケリトル・ドラゴンを倒すことなぞできん! 勝負あったな!」

「いや、スケリトル・ドラゴンが無効化できるのは、第六位階魔法までだぞ・・・」

 

 思わずツッコミを入れてしまったこと自体が恥ずかしくなって、アインズは剣を抜いた。これ以上は付き合っていられないと、早く終わらせてしまおうと、事を急いだのである。そうして、真っ直ぐ直線で踏み込み、スケリトル・ドラゴンが振り上げた前脚を大剣の一撃で粉砕し、返す刀でもう片方の前脚も叩き斬る。

 

「なんだと!? そんな馬鹿な!?」

 

 スケリトル・ドラゴンはいくつもの骨が組み合って出来た四足の身体を持つ、全長10メートルを越す巨体である。そんな巨体が前脚を失い、バランスを失えば、倒れた際の衝撃はかなりのもの。その衝撃は、オリハルコン級冒険者程度にスケリトル・ドラゴンが苦戦するなどという、本来ならありえない光景を目にした、カジットの動揺と重なっていた。

 バラバラと音を立てて、スケリトル・ドラゴンの砕かれた前脚から骨が飛び散る。カジットが長年の研究の末に完成させた計画の、崩壊の音である。

 

「認めんっ・・・! 認めんぞぉぉっ!!」

 

 悪あがきだと分かっていても、カジットは諦めなかった。死の宝珠から更なる魔力を引き出し、スケリトル・ドラゴンをもう一体召喚する。そして自身の魔法でスケリトル・ドラゴンに強化魔法を掛け、戦力を強化する。そこまでしたところで、カジットは大きなミスに気が付いた。黒い鎧の戦士にばかり気を取られ、女魔法詠唱者(マジックキャスター)の存在を忘れていた事を。

 

「ゴミムシめが。モモン様への数々の無礼、その身で償え」

「いつのまに・・・!」

 

 カジットの視線を掻い潜って、ナーベラルがすぐ側にまで辿り着いていた。そして、ナーセットが手に持つ宝杖がカジットの腹に叩き込まれ、くの字に折れた体から無防備にさらけ出された顎先を、貫いた。ナーベラル・ガンマの60を超えるレベルが繰り出す一撃は、いとも容易くカジットの意識を刈り取った。

 そして、スケリトル・ドラゴンのほうもまた、補助アイテムでブーストしたモモンの圧倒的ステータス差の前に完封され、砕かれ沈黙していた。

 

 

 モモン達はカジットを倒してすぐ、霊廟の中へと入った。霊廟の中には誘拐犯と同じ黒いローブ姿が2人いたが、全員引っ捕らえた。そうして、ナーセットはンフィーレア少年を抱えてバレアレの店へと戻り。モモンは捕まえたカジット以下三人を引きずって、スケリトル・ドラゴンが二体も召喚された余波で連鎖的に溢れたアンデッドの群れを蹴散らしながら、憲兵の詰め所へと向かう。

 

 長い夜は終わった。これにて一件落着。悪人達はお縄になり、少年は家へと帰り、老婆は涙を流して感謝した。ナーベラルは自身が役に立てたという満足感を得て、ブレインは疲労感に身を任せて眠った。そして、アインズが呟いた。

 

「この街はイベントが盛り沢山で飽きないなあ」

 

 その呟きは、カジットなる者が持っていたマジックアイテムの事を、完全に失念しているとしか思えない声だった。あまりにも馬鹿らしくなってしまったために、とにかく早く終わらせようとしてしまった結果、アインズは最も重要な物を見落とし、そして思い出すこともなかったのである。

 

 

———

 

 

「至高の支配者、アインズ・ウール・ゴウン様の、御帰還!!」

 

 

 数日ぶりにナザリック地下大墳墓へと戻ったアインズを出迎えたのは、外装が整えられたはいいが、そのせいで巨大な神殿のようになってしまったナザリックの地表部分と、大きなゴーレムの仰々しいプログラムボイス。ナザリックの管理をアルベドや守護者達に任せ切ってしまうと、こうなってしまうのかと、アインズは早々に頭を抱えた。

 アインズはそんな困惑と気恥ずかしさに足を浮つかせながらも、ナザリックに足を踏み入れる。すると、中には守護者統括、アルベドの姿があった。

 

「お帰りなさいませ、アインズ様」

 

 跪き、頭を垂れるアルベドの姿を見て、アインズの胸に湧き上がったのは、“愛おしさ”であった。数日顔を見なかっただけで、こうも意識してしまうという事が、それがモモンガの本心なのだと、自覚する。

 

「万事、順調にて管理しております。アインズ様やパールンレヴァク様のように、御二方だけでナザリックの全てを滞りなく、とはいきませんが。我らナザリックの僕一同、総力を以って、御二方のご負担に代わるべく——」

 

 アルベドの言葉が耳に入らないほどに、アインズは感動していた。そして、その想いが強い衝動となって、身体を突き動かした。

 

「アルベド、立て」

「は、はいっ!」

 

 アルベドの身体を強く抱きしめて、モモンガは言った。

 

「アルベド、会いたかったぞ」

 

 階下から、第一階層を守護するシャルティアが駆け上がってくる。外から、周辺警備主任のアウラが走ってくる。デミウルゴスが、アクターが転移してくる。モモンガは全員を抱きしめ、自分の想いを全身で伝えた。

 

「私の愛しい子らよ。ナザリックの宝よ。お前たちを愛しているぞ」

 

 久しぶりのナザリックの空気を吸って、モモンガは見失ってはいけないものを再確認する。そうだ、ナザリック地下大墳墓は、守護者達は、僕達は、その全てはモモンガが愛したもの。それはモモンガの人生そのもの。何よりも大切だから、リアルの人生よりも優先したのだ。どうしても失いたくなかったから、サービス終了の日でも未練がましく残っていたのだ。それを再確認し、自分の中に残っていた人間性が熱く反応しているのを感じ、感涙すら流せない身体でも出来る事があると知る。

 

 ナザリックの強化。僕たちの直接的強化だけではない、ナザリック全体を強くする。そして、自分の想いをしっかりと伝え、形にし、残す。アインズ・ウール・ゴウンとなったのならば、やらねばならないと、モモンガは意志を決した。

 





 次はエッチな話を考えておくよ。
 じゃあね。
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