※この作品はR-18です。

廃人ネカマのロールプレイング   作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会

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 やっほ^^
 また遅れたねー。ごめんよー。
 んで、先に謝っておくけど、またまたえっちぃ話はナシだよ。
 次こそはと思ってたけど、いざ筆を動かすとそういう流れにならなくてね。




第二十一話、憶測と嘘。

 

 

 意識を新たに覚悟と決意を抱いたアインズ・ウール・ゴウンことモモンガが帰還して、アインズが留守の間にナザリック地下大墳墓で起きたこと、そして現在進行中の計画についての報告会が開かれた。場所は当然第十階層『玉座』。至高の玉座には最高支配者アインズ・ウール・ゴウン、その隣にパールンレヴァク。そして一段下に守護者統括、アルベドが控える。下位に跪いて控えるのは各階層守護者たち、階層守護者の役割を与えられただけのゴーレム「ガルガンチュア」と、立場上、階層守護者としての仕事以外は与えられないヴィクティムを除いた全員が揃っている。そして、ナザリックの外に出て活動するセバス・チャンとソリュシャン・イプシロン、各人の報告書を纏め上げたオーメンダールが情報官として参加している。

 

「面(おもて)を上げよ」

 

 アインズの言葉に従い、各階層守護者たちが顔を上げる。そして、アルベドが事前に指示した通りに、第一階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンから順に報告が始まる。

 

 既に報告書が提出されており、アインズもパールンレヴァクも、そしてこの報告会に参加している全員がそれに目を通しているのだが。数日間ナザリックを空けてしまった為に、山のように溜まった報告書すべてに目を通していると、流石のオーバーロードの体でも頭痛を覚えるほどであったため、各人の口頭でかいつまんで説明してもらおうとアインズが策を考えた。それがこの報告会である。

 

 しかしながら、階層守護者達の報告は大半が平常運転というものだった。ナザリックに攻め込む者なぞいないため、シャルティアは、警備は万全、異常無しとしか報告できない。“武技”と呼ばれる魔法でもスキルでもない地上世界の技術の研究を任されたコキュートスも、そもそも武技を身につけたサンプルが手元に居ない以上、復活させた法国の人間、ニグン・グリッド・ルーインからの証言のみが手掛かりで、進展は無いとの報告。周辺警備、周辺調査、そして開墾を任されているアウラとマーレもまた、全ては順調、特筆事項無しとの報告。

 そして次なる報告、デミウルゴスの番になって、アインズは成果を確信していた。デミウルゴスに与えられた仕事とは、物資の補給である。なにせ世界がユグドラシルから移動してしまった以上、ゲーム内ショップで軽々と補給できた物が手に入らなくなっている。特に一番の懸念は消耗品である魔法のスクロール。NPC(シモベ)達はそのビルドの都合から、情報伝達に必須な伝言(メッセージ)の魔法すら使えない者が多い。そこで、魔法を籠められるスクロールの材料集めは重大な課題となり、その大役を任されたのがデミウルゴスである。設定(フレーバー)に「ナザリック一の知恵者」と書き込まれたデミウルゴスならばと、アインズは期待しているのだ。そして、そのように至高の存在から掛けられた期待を裏切ることなぞ、デミウルゴスには絶対に出来ない事であった。

 

「報告書の通り、聖王国周辺にて構えた実験場ですが、集めた亜人や野獣、モンスターの皮ではスクロールの材料とはなりませんでした。しかしついに、第三位階までの魔法を籠める事ができる皮の調達に成功致しました! 既に量産体勢の目処も立っており、安定したスクロールの供給が可能で御座います」

 

 見事に使命を果たしてみせたデミウルゴスへ、アインズの惜しみない称賛。それについて、明確な成果を挙げるというナザリックに生まれた者としての歓喜の瞬間に、先を越されたという嫉妬や羨望を覚える者もいるが、その者たちに心配は無かった。デミウルゴスがそうであったように、自分にも活躍の機会が与えられるはずだと、慈悲深いアインズ様ならきっと、と信じているからだ。

 

 ここで、アインズからの御下問(ごかもん)に、デミウルゴスが眉をひそめる。

 

「それで、その皮はなんという生き物の皮だ? 獣か?」

「獣・・・——」

 

 デミウルゴスは一瞬だが戸惑う。亜人でも野獣でもないとは今申し上げた通り、そして聖王国周辺の村々から実(・)験(・)材(・)料(・)を調達したとも報告書に書いた、にも関わらず。と、そこまで考えたところで、デミウルゴスは御主人様(アインズ)が何を言いたいのかを察した、「その生き物は所詮、獣の如き下等な存在なのだろう」と、アインズ様はそう仰りたいのだと。

 アインズが難しく書かれた報告書の山に苦心して、途中から流し読みになってしまった為に、肝心な部分を読み飛ばしてしまっているなど、デミウルゴスは考えもしなかったのである。

 

「——はい。実に愚かな、理知なき獣でして。あえて言うならば・・・・・・“聖王国両脚羊”で、『アベリオンシープ』、といったところでしょうか」

「アベリオンシープ・・・か。なるほど・・・」

 

 名前に羊が入っているという事は現地特有のキメラか何かだろうと思考するアインズの隣で、パールンレヴァクがくすくすと笑っていた。そして、パールンレヴァクは言った。

 

「食料人間(りょうあしひつじ)とは、面白い言いかただな。実にお前らしい」

 

 かつて、ヨーロッパのごく一部の古い歴史に、旅人を捕らえて加工し、食したという話があったそうな。その文献には、人肉を「二本足の羊の肉」と呼んだ、と記載されていたそうだ。つまり両脚羊である。それも今回は肉を食らうのではなく、羊の毛を刈るように皮を剥ぐというのだから、両脚羊とは実に皮肉的な呼びかたであろう。

 

 パールンレヴァクは言葉を続ける。

 

「しかし、報告書を読むに、遅延や障害といった問題もあるようだが?」

「はい・・・・・・。再利用のため、生かしたまま皮を剥ぎ、皮を加工した後、治癒の魔法で生皮を再生させております。一度加工してしまえばアベリオンシープの皮とは認識されないようで、剥ぎ取ったところから皮が再生するのですが・・・・・・。中には魔法の効き目が悪く、皮が再生しきらない者、まったく再生しない者、そして蘇生魔法が効かない者が出てきました。これにつきましては、アベリオンシープに抵抗の意思がある場合、治癒や蘇生の魔法が完全には効果を発揮しないという結論に至りました。厳しく躾ける事で多少は受け入れるようになりましたが、完璧とは言い難く・・・」

 

 後半、若干ながら声量が落ちて、デミウルゴスの報告。忠誠心の塊と言っても過言ではないデミウルゴスにとって、主から与えられた命令を完璧に全うできないという事は、凄まじい苦痛である。その心中では、未熟を責める自分自身の声を絶えず聞いている。

 そこで、微笑みが消えて唇を強く結んでしまったデミウルゴスへ向けて、パールンレヴァクの助言が下賜された。

 

「案ずることはない、デミウルゴス。それについては私とツインズで研究を進め、答えを出している——『呪いの刻印』は知っているだろう? その呪いによって精神に楔を打ち込めば、治癒の魔法は100%の効果を発揮する事が分かった。また、最上位の呪いの刻印であれば魂にも影響を及ぼし、死後も消えることがない。それにより、対象は蘇生魔法を拒否する事が出来なくなるのだ!」

「なんと! であれば・・・!」

 

 十秒前とは打って変わって明るい笑顔を浮かべたデミウルゴスへ、アインズより命が下る。

 

「デミウルゴスに重ねて命ずる! ツインズと協力し、スクロールの生産体制を完璧なものとせよ!」

「はっ! 必ずや、仰せの通りに!」

 

 デミウルゴスは頭を深く下げて、感謝を述べた。

 

 そして、次はツインズの番。パールンレヴァクと共にバハルス帝国に向かい、邪神教の教徒となった貴族どもを管理し、捕らえた兵士やレイナース・ロックブルズなどから情報を引き出し、帝国の内情を詳しく調べ上げた二人の経過報告である。

 バハルス帝国皇帝の人となり、帝城の様子、軍隊の規模、街の活気や住民の意識、ツインズが報告する様々な情報を聴きながら、アインズは古い言葉を思い出していた。それはナザリック地下大墳墓と共にこの異世界へ転移してしまった最初の日の事、守護者達の意識を確認するべく、モモンガ(じぶん)の事をどう思っているのかと聞いた時のこと。その時、ツインズはこう言った。

 

『我らの支配者』

『我らの全て』

『何よりも貴(とうと)く』

『何よりも偉大』

『ナザリックに造られし全ての者の忠誠を』

『その身に集められる御方で御座います』

 

 その時の態度も、目に見えるほどの忠誠心も、全て嘘偽りのないものだと分かった。他の守護者達となんら変わらない、天井知らずの忠誠心。しかし、アインズは疑問に思う。いかに設定として書き込まれたからといって、創造主であるパールンレヴァクにはまったく敬意を払わないのは、異常ではないかと。そして、オーメンダールの不忠を知った。オーメンダールもまた、創造主たるパールンレヴァクに好感を抱いておらず、むしろナザリックにとって邪魔だと考えていると、パールンレヴァクからそう聞かされたアインズの驚愕はかなりのものだった。

 アインズは想う、パールンレヴァクによって造られたツインズとオーメンダール、この3人が創造主(パールンレヴァク)に忠義を見せないのは、設定によるものだけではないのではないかと。なぜなら、他の守護者達も、セバスもプレアデスも、一般メイドもモンスターも、他の全ての者がアインズに向けるのと同じように、パールンレヴァクにも敬意を払っているのだから。考えられる要因は、共通点。ツインズもオーメンダールも、パールンレヴァクの作ったNPCである。そして、パールンレヴァクはアインズ(モモンガ)と共に転移してきた、現状唯一のプレイヤー。アインズは悩む。もしも、自分が「アインズ・ウール・ゴウン」と名乗ったせいで、ツインズやオーメンダールが創造主(パールンレヴァク)に向ける忠誠心を奪ってしまったのだとしたら・・・。今後、もしも他のギルドメンバーが転移してきた時——そうなって欲しいとは思うが——、それによってツインズやオーメンダールのように、他のNPCが持つ創造主への忠誠心が失われてしまったら・・・。円満ではない理由、それによって生まれたひとつの懸念に、アインズは苦悩する。答えの出ない疑問の中で、もしも自分の責だったらと、懸念が不安を呼び、不安が妄想を育てる。

 

 考えても仕方ないと、不安を振り払うように、アインズは骸骨の頭を振った。

 

「かしこまりました」

「では、エルフの件は保留という事になりますか」

 

 アインズがその言葉に驚いて顔を上げると、跪いたツインズが指示を待っていた。視線を下げた先のアルベドは「御意のままに」と言わんばかりの表情で、隣のパールンレヴァクは何でもないという顔。

 

(ど、どうしよ・・・。考え事してたせいで何も聞いてなかった・・・・・・。)

 

 そして、もう何度目かになる、困った時のパールンレヴァク。アインズはそっとパールンレヴァクに耳打ちをし、小声で話しかけた。

 

「ちょっと考えごとをしてまして、今の話、まったく聞いてなかったんですけど。なんて言ってたんですか?」

「おいおい・・・・・・。まあ、いいが・・・——帝国ではエルフが奴隷として売買されていて、それはスレイン法国から来ていて、法国はエルフの国と戦争中だから捕虜を奴隷として売っているわけだ」

「ほうほう」

「で、帝国のエルフが言うには、今のエルフの王がとんでもない暴君で、その王のせいで戦争になったらしい。問題なのはその王だ。エルフの王家の血筋の者は、皆オッドアイだそうでな。アウラとマーレもオッドアイだから、2人を遣わして今の王を打倒し、王家の血筋だと偽ってエルフの国を乗っ取ってもいいんじゃないかと。そういう話だ」

「なるほどー」

「それで、さっき首を横に振ったのは?」

「ぜんぜん関係ないことです」

「・・・・・・そ、そうか。で、どうするのだ?」

「そうですねぇ・・・・・・」

 

 至高の存在の密談(ひそひそばなし)が終わって、ツインズは身を引き締める。アインズ様が首を横に振られた以上、エルフの国かスレイン法国か、あるいは両方に何かを見出されたか、または別の利用法があるはず。偉大なる叡智を持つ至高の存在のまとめ役、アインズ様の深慮の一端を聞き漏らすまいと、ツインズが言葉を待つ。

 

 そして、アインズが計画を指示する。

 

「うむ、やはり戦争への干渉は機会に即さない。保留としよう」

 

 すかさず、ツインズが教授を求める。

 

「かしこまりました」

「ですが、後学(こうがく)のため、御思慮の一端を御教え戴ければと存じます」

 

 アインズはその言葉に感心しつつ、答えを述べた。

 

「学ぼうとする前向きな姿勢が実にいい! ならば答えよう——以前に示したように、我々アインズ・ウール・ゴウンは地上を征服し、全世界に平和をもたらす。そのためには勢いが必要だ——これは私がリ・エスティーゼ王国で手に入れた情報だが、今現在、竜王国という国が滅亡の危機に瀕しているという。その原因はビーストマンという亜人族の集団的攻撃によるものだそうでな。これを利用する。ビーストマンを調停し、竜王国を救い、それと同時にエルフの国を乗っ取り、スレイン法国をも乗っ取る!これらを同時に成せば、この大陸の情勢を一挙に握る事ができる!・・・というわけだ」

 

 その説明を受けてツインズが「ホォォ・・・」と声を漏らす。広い視野を持って物事の全体を見通す深慮に感嘆しての声だ。目障りな人間やエルフなぞ軽く捻(ひね)ってしまえばよい、としか考えつかないツインズの悪魔らしい短絡さに、至高の存在の言葉が光となって射し込む。

 

(いやぁ、まさかツインズがこうも前向きに意見を出してくれるなんて。嬉しいじゃないか。ナザリック強化という俺の新しい目的も、これなら先が明るいというものだ。)

 

 アインズもまた、ツインズの言葉に、感嘆の意に耽る。ナザリックのNPCたちを強化するという新たな目標も、ツインズが今示したように、進んで受け入れてくれる向上心ある者がいるならば、道を拓くこともないというもの。

 

 そこに、デミウルゴスの笑い声。

 

「ククク・・・、いけないよ、ツインズ。それでは足りない。アインズ様の先の言葉を思い出したまえ。アインズ様は君たちの向上心を褒められた。故に、全容を明かさず、思考する余地を残して、語って下さったのだから」

 

(えっ、なに!?)

 

 突如として放たれたデミウルゴスの言葉に、アインズが、ツインズが、驚愕する。

 そして、ツインズは深く考え込み、小さな声で思考を漏らす。

 

「帝国からエルフを引き上げ・・・・・・」

「いや、法国に負い目を・・・・・・」

「そう・・・法国ならば・・・・・・神の再臨を・・・・・・」

「リ・エスティーゼ王国は死に体なれば・・・」

「・・・・・・ああっ!」

「まさか・・・! そこまでお考えだったとは!!」

 

(だからなんなの!?)

 

 意を得たという表情のツインズに、満足げなデミウルゴス。自分の言葉以上の知らない何かを勝手に探り当てられて、困惑するアインズ。そして、にやりと笑うパールンレヴァク。

 

「気付いたようだな、ツインズ」

 

 パールンレヴァクの言葉に、ツインズとデミウルゴスがにっこりと微笑む。

 自分の与り知らぬところで事態が進むことに困惑しつつも、「そこまで考えていませんでした」とはいえない支配者ロールでは声も上げられず、アインズは悶々とした気持ちのままで報告会を過ごした。

 

 

———

 

 

 リ・エスティーゼ王国領内の交易都市、エランテルで、今一番ホットな話題と言えば、それは『漆黒』であろう。瞬く間にオリハルコン級へと昇格した凄腕の冒険者チームの事だ。

 リーダーである大柄な剣士「モモン」の鎧から取って、『漆黒』と呼ばれるそのチームの構成はわずか3人。モモンの右腕とされる、第四位階魔法の行使すら可能とする絶世の美女の名はナーセット。そして、リーダーたるモモンを師と仰ぐのは、王国で名を馳せた天才剣士、ブレイン・アングラウス。常識で考えれば、オリハルコン級冒険者チームともなると十数人の集まりになるのだが、この漆黒はそれに当て嵌まらない。それもそのはずと、吹聴するのはエランテルに拠を置くミスリル級冒険者達。

 

「いいか、マジだぜ。俺は見たんだ! モモンが一撃でギガントバジリスクの首を斬り飛ばすのをな! 酔ってなんかねぇ! マジだかんな!!」

 

 ミスリル級冒険者チーム「クラルグラ」のリーダー、イグヴァルジが言う。

 

「ギガントバジリスクが“つがい”で出たと聞いた時は、流石の俺も冷や汗が止まらなかったさ。でもな、“漆黒”のモモンが討伐依頼を受けてくれると聞けば、心配は何も無くなった。なぜなら、モモンは一撃でギガントバジリスクの首を斬り落とすし、ナーセットの魔法がもう一体の動きを止めて、その間にブレイン・アングラウスが斬り刻んじまうんだ。俺とイグヴァルジが同行して、この目でしかと見た。間違いないよ」

 

 同じくミスリル級冒険者チーム「虹」のリーダー、モックナックが、声を揃えて漆黒のモモン達を称える。漆黒のモモンの名は瞬く間に広がっていく。

 

「あとひとつ、何かデカい事件を解決すれば、アダマンタイト級として認められるだろう。いや、実力だけなら既にアダマンタイト級だがな」

 

 実力のある冒険者達が口々に噂する、漆黒のモモンこそアダマンタイトに相応しいと。その快進撃、圧倒的な実力に、若い男たちは胸躍らせる。既に、憧れの念を抱かれるほどに、モモンの名は高まっていた。

 

 そんなある日。エランテル冒険者組合の館にて、腰を落ち着かせていたモモン一行の下へ、1人の青年が訪ねてきた。青年の名はペテル・モーク。エランテルを主軸として活動する銀等級(シルバー)の冒険者チーム「漆黒の剣」のリーダーである。

 ペテル・モークはモモンに挨拶をし、引き連れた仲間の紹介も程々に、ひとつの疑問を述べた。

 

「どうすれば、モモンさんのような立派な冒険者になれるでしょうか?」

 

 ペテル・モークもまた、エランテルの多くの若者と同じく、モモンという男に憧れていたのだ。そして、人格者でもあると噂のモモンならばと、教えを請いに来たのである。

 

 モモンはごく簡単な質問をした。

 

「君、“オナニー”は?」

「ぇ・・・・・・? オ、オナニー・・・ですか? え、ええ。しますけど」

 

 困惑を隠せない様子の青年を、手で指して対面に座るよう促がし、モモンは質問を続ける。モモンの隣では、ブレイン・アングラウスが震える手つきでコップを握りしめていた。

 

「週に何回?」

「え、えっと、その、2回か・・・3回か・・・・・・。その、正確には・・・」

 

 下世話な質問に頬を赤らめながら、しどろもどろでペテルが答える。

 その返答に、突然、モモンが声を強くした。

 

「そんなの素人の回数だ! もっと増やせ!」

「ぇえ、・・・・・・はい」

「いいか!? 私たち冒険者は毎日、数字を扱ってる。宿代、食費、薬液、武器、修繕、旅費、交渉費用に情報料! 次から次へと! 小数点以下まで! しかも数字だけじゃない。国勢、世情、地域の噂話、裏社会の動きにまで注意を払わなきゃならない。な!?」

「・・・・・・はい」

「朝から晩まで、数字とにらめっこで、情報を繰り返し見直す。そうやって計算ばかりしていると、頭の中がマスタードみたいに酸っぱくなってくるわけだ。だからオナニーで血の巡りを良くする」

「・・・なるほど」

「私クラスになると、最低でも一日に3回」

「ほんとに? すごい・・・」

「朝、運動の後に1回。昼食の後に1回。午後の休憩時間に1回だ」

「ええ、はい」

「いいか? 私がオナニーをするのは、ヤリたいからじゃない。必要だからやってるんだ。いいか、下半身のリズムを整えておけよ。それが出来る冒険者の嗜みだ。いいな?」

「わかりました・・・」

 

 ペテルは座ったままで深くお辞儀をし、礼を述べた。そしてそのまま、目をつぶって考え込む。モモンはその様子を見ると立ち上がり、青年が連れて来た仲間達のところへ歩み寄ると、金髪の優男風なメンバーに、そっと耳打ちをした。

 

「なあ君、彼がもし明日になっても気付いていないようなら、私の今の話は初心者をからかう冗談だったと、伝えてやってくれないか?」

「くひひっ・・・! やっぱ冗談ですよねぇ!? わかりました。伝えておきます」

「頼んだよ」

 

 それだけ伝えると、モモンはナーセットとブレインを引き連れて、組合の館を出た。そして、館を出て10メートルも歩くと、我慢の限界だと言わんばかりに、ブレインが大声で笑い出した。

 

「くーっ・・・! くはははっ!! ひーっ! ひぇっひぇっ・・・! お、おいおいおい・・・! 旦那ぁ・・・! だ、旦那がまさか、あんな冗談を言える男だったとはな!! だーはっはっは!! ウケたぜー!? いやホント! くくく・・・・・・!!」

「昔、職場の先輩に同じ手口でからかわれてな。ま、いつかは笑い話になるさ」

「これも勉強ってか? しっかし・・・・・・くくく・・・!」

 

 なんでもない楽しい時間は流れる水の如く進み、日が落ちる。

 モモン一行は本日受けた依頼、半日限りの商人の護衛という名目の“品定め”を受けて、何事もなく夜を迎えようとしていた。依頼の内容はなんでもない、漆黒と呼ばれるようになった今一番注目を集めている冒険者チームを見定めて、商売の益となるかを見たいという商人に付き合わされただけだ。商人の護衛や荷物の警護は形式上のもの、時間の半分は質疑応答や雑談に使われた。体力を使わないのだから楽な仕事とも言えるが、冒険者としての名声になんら影響しない、モモンにとっては無意味な依頼であった。

 

(今度からこの手の依頼は受けないようにしよう・・・。)

 

 すっかり夜もふけて、暗くなったエランテルを歩く中、モモン達はひとつの異常に気付く。“夜だというのに、やけに明るい”。それが遠くで火が燃え盛っていることによるものだと知ると、一行は火元へと向かって走った。

 そして、火事の原因を知った。街に溢れるアンデッドと、町民の死体。先の黒魔術信奉者達が起こそうとしていたものが、いま一度この街を襲ったのだ。

 

「マスター・モモン、如何致しましょうか?」

 

 ナーベラルの偽装が上手くいかないとアインズから言われて、パールンレヴァクが教導した通りに、モモンの相棒としての言葉使いを改めて、ナーセットが言う。

 

「ズーラーノーン、だったか? 連中、まだ諦めてなかったんだな」

 

 ブレインの言葉に頷き、モモンが剣を抜く。

 

 とにもかくにも、悪党を倒し、街を救わねばならない。そう考えて走り出そうとしたモモンへ、大声で呼び止める者が現れる。エランテル冒険者組合の代表、プルトン・アインザックである。

 

「モモン! 探したぞ!」

 

 アインザックは大慌てで事態を説明した。突如としてアンデッドの集団が街を襲い、その数は増すばかりだと。腕に覚えのある冒険者たちを向かわせたが、事態の中心部と思われる場所は強力なアンデッドがひしめき合っており、ミスリル級やオリハルコン級の冒険者でも生半(なまなか)には突破できないのだと。

 

「モモン、いや漆黒のモモンよ! このアンデッドを操る者を倒し、街を救ってくれ! これは組合からの依頼だ。そして、二度も街を救ったという事実があれば、誰もが認めざるを得ない。この依頼を成せば、君を冒険者の最上級、アダマンタイト級として認めよう! だから、頼む・・・!」

 

 モモンは大剣を片手で持ち上げて、声高に宣言した。

 

「その依頼、このモモンが請け負った! 必ずや主謀者を討ち取り、街を救うと約束しよう!」

「おお・・・! なんと頼もしい!!」

 

 アインザックから事件の中心とされる大まかな場所を聞き、モモン一行が走る。

 そして、モモン(アインズ)が心の中でほくそ笑み、不安を感じる。

 

(いやいや、ほんとにイベントだらけだな、この街は。しかもアダマンタイト級だって? それは嬉しいけど、トントン拍子に上手くいきすぎて、なんか逆に不安になってきたぞぅ・・・。なんていうか、ガチャで最高レアを引き当ててから、次の一万円までまともなレアが出なくなったような・・・、運を使い果たした、みたいな? いったい何が起こるやら・・・・・・。ちょっと怖いくらいだな・・・。)

 

 アンデッドと戦う木っ端冒険者達の頭上を飛び越えて、モモン達の参陣。モモンの大剣が振るわれれば、アンデッド達は紙屑のように千切れて吹き飛ぶ。ナーセットの魔法が放たれれば、十のアンデッドが一撃で塵と化す。ブレインの剣が閃(ひらめ)けば、巨大なアンデッドが肉片と化して崩れる。瞬く間にアンデッドを蹴散らして進む『漆黒』の活躍に、町民と冒険者達の喝采が投げられる。

 

 そうして溢れかえるようなアンデッドの波を掻き分けて、他の冒険者達に後ろを任せて、モモン一行が進む。そして、ついに事件の元凶の元へとたどり着く。そこは先日のンフィーレア・バレアレ誘拐事件の主謀者が居た場所、エランテルで一番大きな墓地の中心、霊廟前であった。

 霊廟の前に立つのは、以前にも見た顔。土気色の、痩せこけた男。

 

「カ・・・カジッ・・・・・・カジ・・・・・・、なんて名前だったかな?」

「申し訳ありません、マスター・モモン。ゴミムシ風情と思い、記憶しておりませんでした」

 

 誰にも覚えられていない男は、以前とは雰囲気を変えていた。手に黒い珠(たま)を持っているのは変わらないが、頭にはティアラのような装飾品を着けており、その目は白く濁り、全体的に生気が無い。首が傾き視線が合っていない事からも、男が既に死人であり、アンデッドと化している事は明白だった。

 しかし男がどんな状態だろうと、倒せばそれまで。モモンは剣を向けて歩み寄る。

 

「そこまでだ、悪党! どんな企みかは知らんが、二度も失敗するのだから、お前には分不相応だったのさ。諦めて今度こそ成仏しろ。いつまでも生き足掻くものじゃない」

 

 モモンの偉丈夫然として振る舞う(ロールプレイ)言葉を聞き入れたのか、男は片膝をついた。なんだ呆気ない、とブレインが愚痴をこぼした次の瞬間。男の口から聞き覚えのない、地の底から響くが如き重たい声が発せられた。

 

「偉大なりし死の王よ、お待ちしておりました。許しなく声を上げたる我の不遜(ふそん)を、どうか御許し下さいますよう」

「ん?」

「なんだって?」

 

 突然の意味不明な言葉、まったく聞き覚えのない声に、漆黒の全員が困惑する。

 何事かとそれぞれが顔を見合わせるが、誰もが首を横に振るばかり。このままでは埒が開かないと、モモンが男の前へ進み出ると、男は手に持つ黒い珠を差し出した。その姿がまるで、ナザリックのシモベ達がするのと同じ様子であったので、アインズ(モモン)は黙ってその珠を受け取った。すると突然、モモンの精神に直接語りかけてくる声。

 

『おお、偉大なりし死の王よ』

『まさか、この玉がお前の本体か?』

『その通りで御座います——やはり、貴方様こそ、この世全ての死を司り、支配される御方。私は貴方様の下にあるべく生まれたのだと、確信できました』

『そ、そうか・・・』

『どうか、我を貴方様の下へ、シモベの列席に加えていただけますよう、お願い致します』

 

 考えるまでもなくマジックアイテムだが、まさかマジックアイテムが喋るとは、ユグドラシルの常識が全く通用しない存在を前に、アインズは一瞬困惑する。が、すぐに発想が浮かび、この珠、死の宝珠を受け入れた。先のブレイン強化でやってみせたアンデッド召喚も、今後はこの死の宝珠を使えば、言い訳も嘘も必要なくなる。そしてなにより、蒐集家(コレクター)としての血が騒いだ。「ゴブリン将軍の角笛」などというガチャのハズレでしかないゴミのようなアイテムでも捨てられず、珍しいからとワールドアイテムを掻き集めた、アインズのコレクター精神が、喋るマジックアイテムという物珍しい死の宝珠を手放すまいとしたのである。

 

 やがて、他者には聞こえないモモンとマジックアイテムとの会話が終わる。モモンは、外せば死ぬと聞いた通りに、死の宝珠に操られていたカジットから『叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)』を剥ぎ取り、今度こそカジットを静かにさせた。叡者(えいじゃ)の額冠(がっかん)はそれ単体では効果を発揮せず、死の宝珠はアインズの支配下に置かれた、これでもうアンデッドが発生する事はないのだ。

 

「そういえば、私の名前について、まだ語っていなかったな?」

 

 その言を肯定するブレインに「今から話す」と告げて、モモンは死霊術師(カジット)の遺体を担いで冒険者組合の館へと向かう。そして、エランテル冒険者組合の館で、組合長と大勢の冒険者の前で、モモンが事態の結末について語る。

 

(大丈夫、前もって作ったカバーストーリーを話すだけ。それだけなんだから。)

 

 意を決し、アインズ(モモン)は作られた身の上話を語った。

 

「———では、なぜ私がこの『死の宝珠』を御(ぎょ)しきれたのかについて話そう。と言っても、殆どが憶測であることを留意して頂きたい。私自身、確信が持てないのだから——そも、“モモン”という名そのものが不思議だと、皆が考えている事だろう。それは当然と言える。私の遠い祖先は、悪魔信仰の家系であったそうでな」

 

 その言葉に、周囲の者が声を漏らす。

 

「その中で、悪魔を信仰して力を与えられるのではなく、悪魔から力を奪おうとしたのが、私の遠い祖先というわけだ。そう、つまるところ、私の家系には悪魔の血が混じっているのだ。モモンという名前も、地獄の皇子『アモン』の“もじり”という話だ。・・・・・・古い時代の話ゆえ、真偽のほどはわからんがな」

 

 周囲の冒険者は息を呑み、またはざわざわと呟く。

 

「この度、この死の宝珠が私に従った事から、計らずもその血統が証明されてしまったも同然なわけだが。それはそれで都合が良いというもの。死の宝珠が私の手にある限り、これを用いて悪事を行う者が出る事はないのだから。そういう訳で、憶測ではあるが、私が死の宝珠を御している限りは、今後の不安はないと言っていいだろう」

 

 ナザリックでの協議で作られたカバーストーリーを元に、現状を適度に組み込んでの作り話を語り終えて、モモンは周囲を見渡す。バレていないか、疑われていないか、心配で身体が震える。やたらめったら見渡せば狼狽えているようなもので、先の語りは嘘だと自白するようなもの。なんとか落ち着こうとするものの、初めての大嘘に緊張し、モモンの漆黒の鎧がカチカチと音を立ててこすれる。

 

(頼む・・・! バレないでくれ・・・!!)

 

 その願いが届いたのか、モモンの言葉は信じられ、全員に受け入れられた。そして、喝采の拍手と称賛の声が館中に響き渡り、組合長が用意した証書を手渡され、冒険者モモンはついに、冒険者としての最上位、アダマンタイト級として正式に認定されたのである。

 

 この日からモモンの渾名(あだな)が「漆黒の魔剣士」となり、そう呼ばれる事に気恥ずかしい苦しみを覚える事になるとは、この時のアインズには知るよしもなかった。

 






 次こそは・・・・・・次こそはエッチな話を・・・・・・

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