廃人ネカマのロールプレイング 作:栗鼠科.aka.メスガキ撲滅委員会
説明回なので話が進まない。
死は突然にやってくる。知っていた、知っていたとも。死とはそういうものなのだと。ある朝に、食事中に、夜にも、死とは日常的なもの。荷馬車に頭を打ち付けて、薬草取りに出かけた森の中で、あるいは朝起きて冷たくなっていて。死はいつでもそばにあった。この小さな村に、この見果てぬ世界に、死はどこにでもあるものだった。
「やはり、何も感じない。・・・・・・心まで"
その"死"が、今、明確な形を持って、眼前にある。
「実験に付き合ってもらうぞ。
鎧の騎士が凄まじい稲光に包まれ、嗅いだことのない悪臭を立ちのぼらせて、ガシャンと音と立てて倒れる。突然生気を失い血を吐いて倒れたもう一人の騎士と同じく、一瞬の出来事であった。何がどうして人間が死ぬのか、目の前で起きたものを見ても、脳は理解を得ない。いや、理解したくないのだ。死が、知っていたはずの死が、まさかここまで理不尽なものだったなんて。
「クククク・・・・・・クハハハッ! なんと脆い! なんと脆弱な! この程度か!」
"死"が嗤う。何が楽しいのか、何が面白いのか、これが人間ならそのような怒りを口にしたかもしれない。だが、それは当然と受け入れる。そう、当然のこと。なぜならその死は"権化"だから。
その姿は死そのもの。死という概念が形となったもの。死が目に見えるものなら、それはこういう姿をしているのだろう。
もはや恐怖は無い。これは運命だ。正しく死が訪れた、それだけなのだと。
カルネ村のエンリ・エモットはここで死ぬ。それが自らの運命だったのだと、自覚した。
—————
さてどうしたものか。喜び勇んで
「いやいや、あの村を救うのは重要なことだ。そう、これからのために」
モモンガは自分を失いそうな空虚に抗い、興味と関心を新たに、今殺したばかりの死体へ手を向ける。
「中位アンデッド作成、
村を襲っている騎士風の者たちが脆弱である以上、一定以下の物理攻撃無効スキルと魔法攻撃無効スキルを持つモモンガに盾となる守護モンスターなど必要ないが、パッシブスキルである
そしてその試みは最初から大きな変化を見せる。
(うわっ、こっちの世界だと直接死体に乗り移るのかあ・・・)
スキルの発動によって生じた黒いエネルギーは死体に重なり、その形を大きく変化させ、ユグドラシルで何度も見た慣れ親しんだ姿へと変える。ものの数秒で死体はデス・ナイトへと変化した。骸骨の巨体に黒い鎧、大きなタワーシールドとフランベルジュ。やはり特に目を引くのはその盾と剣。
「おっといけない。急がないと全滅するかもしれないな。よし、デス・ナイト。この先の村にいる、鎧を着た騎士風の人間を殺せ」
アンデッドのモンスターに言葉が通じるかは甚だ疑問であったが、いざ村の方向を指差し死体を指差して命令すれば、デス・ナイトは大きな頭で頷き、雄叫びをあげた。
(おっ、ちゃんと通じるんだな。よしよし、じゃあこいつを連れて—————)
次の瞬間、デス・ナイトはフランベルジュを振り上げて、モモンガが指差した方向へと走って行く。命令通り、騎士風の人間を殺すためだろう。
(—————えぇ・・・? 護衛モンスターじゃないのかよぉ・・・。守るべき主人を置いて行くとか・・・)
魔法とは勝手が違うスキルと召喚に困惑し、呆然としてしまう。
モモンガの前途多難はまだまだ続くのである。
———
「まだ計画も何も話していないんだが・・・」
目を輝かせて颯爽と
「やれやれ・・・、モモンガらしいと言えばらしいのだが。しかし、準備は全部、私任せか?」
軽いため息もほどほどに、パールンレヴァクはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動し、玉座の間の前へと転移する。
「パールンレヴァク様ぁ!」
パールンレヴァクの入室を見て嬉しそうな声を上げたアルベドであったが、その身は瞬時に引き締まる。主人が支配者としての覇気を放ち、真剣な表情をしていれば、シモベは誰でもそうなる。
そして、アルベドは全神経を張り詰めて、守護者統括としての仕事に戻る。
「パールンレヴァク様。モモンガ様の存在を感知できないのですが、どのような事態でありましょうか?」
アルベドの前に立ったパールンレヴァクは真剣な面持ちのまま、事の仔細を伝えた。
「
至高の存在たるモモンガが、護衛も付けずにナザリックを出た。その報告を受けてもアルベドの表情は崩れない。アルベドは知っているのだ、至高の四十二人の中でも、パールンレヴァクの戦術眼は三本の指に入るほどのものだと。そのパールンレヴァクが動揺も不安なくいるというのに、守護者統括が心配でうろたえるなぞありえない。そしてなにより、パールンレヴァクの力強い瞳が、不安を抱かせなかった。
アルベドは被支配者としての安心を感じつつ、敬意のままに膝をつく。
「我らはナザリックの
「よかろう。ならば手を出せ、アルベド」
アルベドの手を掴み、玉座の間からモモンガとパールンレヴァクが協議という名目の雑談を行っていた部屋へと転移する。そこには未だ転移門が開いたままであり、今転移したばかりの二人以外に姿は無い。
そして、作戦の概要が明らかとなる。
「アルベド、セバス・チャンとプレアデス、そしてデミウルゴスと"ツインズ"を呼び寄せろ。今すぐだ」
「はっ、直ちに」
「第一階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン、第五階層守護者コキュートスへ伝達。警戒レベルを最大に引き上げ、侵入者を警戒するように。第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラは地上へ出て、ナザリック周辺に警備を敷くよう伝えよ」
アルベドは素早く行動し、確実に命令の伝達を済ませる。そして集まる執事長、セバス・チャンと戦闘メイドプレアデス。第七階層守護者、真の悪魔であるデミウルゴス。そして、第九階層守護者、悪鬼の双子、ツインズの二人。
「セバス・チャン、並びにプレアデスの各員、参上致しました」
「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」
「第九階層守護者、ツインズ」
「お呼びとの事で参りました」
呼び寄せられた者たちは、ツインズを除いて全員が膝をついて礼を捧げる。ツインズが膝をつかない事に他のシモベ達は不快感を覚えるが、それは仕方のない事だと理解しているため、言葉には出さない。
階層守護者の中でも特に異色のツインズの二人は、その設定の中に『
しかしそれはそれとして、至高の存在を前にして礼を尽くさぬというのは、誇り高いシモベ達にとって不快なのである。
"ツインズ"。パールンレヴァクが産み出した数少ないNPC。共にオールバックの白髪で、共に白い肌。彫りの深い顔つきは欧州人を思わせ、白髪だが外見年齢は30代に見える。黒いサングラスと無表情が感情を悟らせず、白いローブスーツのせいで修道士を連想させる立ち姿。その実態は男性の双子であり、
創造主と顔を合わせても、膝をつくセバスやデミウルゴスから強い意思を向けられても、ツインズは表情を変えない。その姿を見て満足した様子のパールンレヴァクが指示を続ける。
「ツインズ、セバス、そしてプレアデス、そなたらはこの部屋にて待機だ。ゲートは私が入ってすぐに閉じるつもりだが、万が一を考慮してな」
「かしこまりました」
「了解です」
セバスに続いて返事をしたのはツインズの片方だが、だからといってその片方がツインズの中で上位というわけではない。どの場面でどちらが右に立ちどちらが左に立つか、返事をするときはどちらが声を出すか、それは二人の中でのみ分かる事であり、第三者からは規則性も何も判らないのだ。それは創造主であるパールンレヴァクにとっても同じである。
「続いてアルベド、そなたにはモモンガの守護を命ずる。よって、ナザリック内の警備責任者の任を一時的にデミウルゴスへ移行せよ」
「了解いたしました」
「全霊を尽くし、大任を果たしてご覧にいれましょう」
「たしか、アルベドの鎧はフルプレートだったな? ならば完全武装にて支度せよ」
「直ちに」
「では各員、行動を開始せよ」
パールンレヴァクの号令と同時に、全員が動き出す。デミウルゴスは移動中にアルベドから現行指示の引き継ぎをし。セバスはゲートの前に立ち、その後ろにプレアデスが控える。ツインズの一人は先ほどまでパールンレヴァクが座っていた椅子に腰掛け、もう一人もその椅子へもたれる。
そこで、思い出したかのようなパールンレヴァクの一言。
「ああ、私の衣装はどうしようかな」
———
デス・ナイトに置いて行かれたモモンガが呆然から戻り、振り返ってゲートを見れば、そのすぐそばに二人の少女がうずくまっていた。状況を考えれば、騎士に追われて逃げてきたのだろう。モモンガは様子見の意味で村から少し離れた森の中にゲートを開いたのだが、とんだ偶然もあったものだ。今まで気づきもしなかった現地住人の姿に、モモンガは困惑する。
(うわ・・・、もしかして今の全部見られてた? ちょっとテンション上がっちゃって、カッコつけた高笑いとかしちゃったんだけど・・・。え、全部見られてたの?)
想定外の事態と思わず込み上げる気恥ずかしさに、オーバーロードが硬直する。一方の村娘、エンリ・エモットとその妹ネム・エモットも、死の権化が何も言わず身動きひとつしないので、受け入れるべき運命がそのままに、硬直せざるえない。
何分そうしていただろうか。完全に止まった空気の中にようやく新しい存在が介入し、時間が動き出す。
「供も連れずに行くとは、
ゲートを潜って現れたパールンレヴァクとアルベドである。
奇しくも、二人はお揃いの格好であった。パールンレヴァクは髪の色に合わせた紫を基調としたドレスであり、黒と金の装飾が多分に施された胸当てと肩当てを、同じく黒と金の装飾が入った
そして、更に増えた黒と紫の圧力に、エモット姉妹の緊張が限界に達する。
「二人とも、よいところに来てくれた。偶然その場に居た人間なのだが、どう対処したものかと思っていてな」
オーバーロードに指差され、悪魔とフルプレートの視線を受けて、エモット姉妹は同時に白目を剥いて気絶した。
「えっ?」
そしてまたも、オーバーロードが困惑する。
そしてまたも、いたたまれない空気が静寂を生む。