異形に寄生されて女へと変異したが、この身体も悪くない 作:ゲルパンマン♥山崎
翌朝、ゲイルはバイエルの腕の中で目覚めた。
隣で寝息を立てているバイエルを見て、ゲイルは自然と笑みが漏れる。
バイエルの香りに包まれ、昨夜の情事が思い起こされる。
その指が、そのペニスが、バイエルが与えてくれた快感が想起され、目覚めたばかりだと言うのに股間が疼き、湿ってきてしまった。
欲しい。またいじられたい。
ペニスをこの中へ迎え入れたい。
目一杯乱暴にピストンされて、奥に射精して欲しい。
ゲイルの欲望が膨れ上がり、胸の中はバイエルのことだけで占められていく。
そこでふと異変に感づく。
なんだこの感情は。
不自然すぎる。
あいつらにすら、ここまで強い感情は持っていないというのに。
なぜ?
いつから?
まさか薬物のせい?
そんなはずはない。
あらゆる毒物に対しての対処はしっかり準備していたはずだ。
まさか……
ゲイルの記憶に、それに該当するクスリがたった一つだけある。
禁薬中の禁薬。
所持していることが発覚しただけで牢獄行きは確定。
人の精神を捻じ曲げる悪魔の秘薬。
それを使われたのだ。間違いない。
まさかバイエルがそんなものまで所持し、ここで使ってくるとは思いもよらなかった。
警戒が足りなかった。
ゲイルの顔に焦りの色が見え始める。
セックスは好きだが、一人の男にいいように弄ばれるなど御免だ。
今もバイエルを見るだけで胸が高鳴り、下腹部が疼いてきてしまう。
クスリの効果を自覚して、その強さを実感する。
こんなものが数年前まで合法だったなど驚きだ。
王家や貴族に対して使用される危険性を考えれば、禁薬指定も納得である。
それが今、自分の身体を蝕んでいる。
今すぐここを離れなければ。
もうバイエルに関わってはいけない。
これ以上の進行は絶対に避けねばならない。
徹底的に逃げ、なんとしてでもこの効能を消す方法を探すのだ。
そうしてゲイルは、物音一つ立たてずに彼らのキャンプを発った。
バイエルから離れる事の胸の苦しみを、クスリのせいと言い聞かせて。
……
「リーダー、お姉さんどこにもいないっすよ」
「逃げられちまってるじゃないすかぁ。十番まで使って」
「リーダーヘタクソだったんじゃないすか?」
「そうかそうか。いないか。まぁいいだろ。こういうこともある」
「そんなぁ。リーダーのおこぼれにありつけるかもって思ってたのに」
「朝からボッキボキなんですけど?」
「くんくん……お姉さんの残り香がある気がする……」
「お前らは勝手に眠りこけただろうが。そんなチキンどもにおこぼれなどない」
「ぐう」
目覚めたらイラーナが消えていたことに、少年たちは露骨に落胆した。
だがバイエルは一人余裕の表情でニヤニヤ笑っている。
バイエルは確信に近い自信を持っている。
クスリの効果に。
昨夜の情事に。
その条件付けに。
逃げたからと言って焦る必要などない。もはや手遅れなのだ。
逃げると言う事は、つまりクスリの効果がしっかり現れている証拠。
即座に逃げなければならないと感じるほどの危機感、焦燥感を抱いたという事。
むしろあの状態から自らの異変を自覚して逃げおおせた精神力は賞賛に値する。
バイエルのイラーナに対する評価が更に上がり、ペニスがいきり立つ。
もう逃げられんぞ。結末は既に決定しており、後は早いか遅いかの違いしかないのだ。
禁薬を持っていることを告げ口される?
別の街へ逃げられる?
甘い甘い。
この禁薬による会心の条件付けがキマったのだ。
気を強く持てば乗り越えられる領域などとっくに超えている。
こちらはゆっくりと後を追い、追い詰め、そしてしっかりと再教育を施してやろう。
次は逃げるという発想そのものを無くすほどに。
さあ、楽しい楽しいキツネ狩りの始まりだ。
…………
「今日も良かったよ、イラーナちゃん。また指名するから」
「んふふ、ありがと。待ってるね」
バイエルから逃げて一週間後。
イラーナことゲイルは、拠点から馬車で二日ほどの街で娼婦として働いている。
路銀が尽きたのだ。
この街の周囲にはまともに稼げるモンスターは出没せず、金を稼ぐ手段として最も手っ取り早いのが娼婦だった。
ゲイルとて、ルーク級冒険者としてのプライドと、身体を売る仕事への忌避感があったが、背に腹は代えられない。
というのも最初のうちだけだった。
一度仕事として行為をしてしまえばその忌避感とプライドも吹き飛び、今や楽しんで客と肌を重ねている。
客からの評判も上々だ。
だが、ゲイルの気分は晴れない。
珍しいことに、この店は避妊具の装着を徹底している。
破ったことが発覚すれば、嬢は即刻クビ、客は数ヶ月間出禁な為、ゲイルからこっそり持ちかけてもそれに乗る客にはまだ当たっていない。
客は常連が多く、中出しの魅力は惜しいが、それよりも出禁のほうが辛いと経験則で知っているのだ。
期待の新人イラーナ嬢に辞めて欲しくないからという客もいる。
かくして、ゲイルはこの一週間一度もナカで精子を受けれず、悶々としているのだ。
それは嘘ではない。
嘘ではないが、本当の憂鬱の原因はもっと別の事だ。
「はあ……」
ゲイルは待機室に戻り、椅子に座ってため息をつく。
セックスは楽しい。気持ちいい。客とのセックスでも何度も絶頂している。
それは間違いないはずなのに、やはり中出しをして貰わないとイマイチ満足できない。もちろんそんな素振り、客の前ではおくびにも出さないが。
セックスをしていると、どうしてもあの日のバイエルとの行為が脳裏にチラついてしまう。
あの時の、あの強烈な快感が忘れられない。
客に秘所をいじられても、バイエルの指ほどではない。
どれだけ立派なペニスも、バイエルのおチンポには敵わない。
どのようなプレイをしていても、あの時の情事と比較してしまい、物足りないと感じてしまう。
気がつけばまたバイエルの事を思い出し、身体が火照り、奥が疼いてくる。
「はあっ、はあっ」
切ない。この欲求を満たして欲しい。
机に突っ伏し、頭の中があの人のことでいっぱいになっていく。
あのたくましい腕、たくましい身体、太い指、そしておチンポ。
あの時のように、ナマでおチンポをブチ込まれて、一番奥で……
吐息が熱い。
身体が火照る。
だらりと垂れ下げた腕が、自然とスカートの中へ入っていき、その秘所に指を這わそうとした、その時。
コンコン!
ドアのノック音にビクリと身体が震え、ハッと正気に戻る。
「イラーナさん、ご指名入りました。準備お願いします」
「あ、は、はい!わかりました。ちょっと待ってください」
今私は何をしようとしていた?
バイエルを思って?
オナニーを?
冗談ではない。
一時の気の迷いだ。
そう、疲れが溜まっているのだ。
なにせここに来てから食事と睡眠時以外はずっと客をとっていたのだ。疲れも溜まる。
拠点の街から離れてしまえばそう簡単には見つかりはしないのに、焦りすぎだ。
金も十分貯まったことだし、そろそろ別の街へ移ってしばらくゆっくり休養でもとろう。
あいつらを追いかけて火山へ行くのも悪くないな。
そう気を取り直して、鏡で化粧とワンピースドレスをチェックして問題ないことを確認し、案内役の黒服についていく。
「今回のお客様は特別な方なので、失礼のないようにお願いします。まぁイラーナさんなら大丈夫だとは思いますが」
「はーい、わかりました」
黒服に案内された部屋の前で注意を受ける。
はじめてのことだ。
まぁ、この店で働き始めてまだ数日。どこぞのお貴族様でも来ているのだろう。
コンコン!客が待つ部屋をノックする。
「おう、入ってくれ」
「失礼いたしまっ!?」
ドアを開けた瞬間、中にいた客に腕を掴まれる。
そこにいたのは、絶対に会ってはならないあの人。
「よお、お嬢ちゃん。逢いたかったぜ」
それはまさしく恋い焦がれたあの人。
「た、助け!」
「無駄だぜ」
全力で逃げようとするが、バイエルに掴まれた腕はびくともしない。
後ろからは黒服に背中を押され、無理やり部屋へ入れられた。
黒服の言葉を思い出す。
外堀は埋められているのだ。
「バ、バイエル……なんで……」
「探したぜ、イラーナちゃんよ。いや、ゲイルと呼んだほうがいいか?」
素性がバレている。
いや、それどころではない。
一週間ぶりに見るバイエルの顔。
既に下着姿だ。
掴まれた腕から温もりが伝わってくる。
胸が高鳴る。
顔が赤くなっていく。
漂ってくる彼の体臭に身体が疼きだす。
ゲイルの直感が警鐘を鳴らす。
クスリの影響はまったく抜けていない。
それどころか、一週間ぶりの再会に嬉しさすら湧いてきてしまう。
不味い。
逃げなければ。
「は、離せ!」
「おうよ」
「ぐっ!?」
力任せに腕を引っ張られ、勢いのまま手を離される。
一気に部屋の真ん中まで放り込まれてしまった。
ゲイルはバランスを取り直すとすぐにバイエルから距離を離す。
部屋の隅の大きなベッドまで離れ、隠し持っていた緊急用のナイフを取り出し構える。
対してバイエルは余裕の表情で悠々と待ち構えていた。
「おお、怖い。そんな物騒な物、しまってくれないか」
「なんで、こんなに早くここが……」
「あ?ガハハハハ!本気で言っているのか!」
「な、なんだよ……」
「お嬢ちゃんよ、あの街からここまで、しっかり足跡を残してきてるじゃないか。それこそ、わざとやってるんじゃないかと勘ぐるくらいにな」
「う、うそだ……」
「嘘なんかじゃねえよ。そもそもだ。なんでわざわざ“イラーナ”なんて名前で働いてんだ。流石にその名前を聞いた時は赤の他人か囮工作かと思ったが、まさかご本人様だとはな」
「うっ、ぐ……」
ゲイルにその自覚はない。
だが、これまでの行動を振り返ると、ゲイルは確かにわざと痕跡を残してるとしか思えない行動をしている。
拠点の街を発つ時、ギルドへ挨拶し、どこへ向かうかを伝えた。他の人にも聞こえるよう、大きな声で。
道中、馬車を襲ってきた魔物を凍結させ、破壊せずにその場に残してきた。長時間持続させる魔法まで掛けて。
この街に着いても、あのエロティックな特注装備のまま行動した。見せびらかすように。
そして今、バイエルも言う通り“イラーナ”と名乗って行動している。
他にも多数。
それらの行動は、どう見ても……
「誘ってんだろ?ワシを」
「ち、違う……そんなつもりは、ない……」
「いいや、違わない。お前は求めてんだ。このワシを。心の底でワシを求め、ここまで導いたんだ。お前自身が」
ゲイルの全身に脂汗が流れ、手はカタカタと震える。
自分自身が信じられなくなる。
仮にここを逃げられても、この先また自分自身が裏切るかもしれない。
だが諦める訳にはいかない。
このままではゲイルの人生はバイエルの都合のいい肉便器なのだ。
心の何処かで、むしろそれを望んでいる自分を頭を振って追い払う。
「迎えに来てやったぞ」
「ひうっ」
その言葉がゲイルの心に浸透していく。
バイエルが、自分を迎えに来てくれた!
自分の為に、自分だけの為に、ここまで来てくれた!
こみ上げてくる歓喜を必死で振り払い、震える手でナイフを構え直す。
「やれやれ、強情だな」
バイエルはおもむろに下着を脱ぎ、ペニスを露わにした。
まだ怒張しておらず、ブラリと垂れ下がる。
「なっ、何のつもりだ!」
「何のつもりも何も、ここは娼館で、おぬしは娼婦、そしてワシは客だ。やることは一つだろう」
「帰れ!お前とはやらない!」
言葉とは裏腹に、ゲイルはバイエルのペニスから視線を外せない。
下腹部がキュウキュウとそれ求めて疼く。
愛液が溢れ、太ももをツーっと伝っていく。
今すぐそれにむしゃぶりつきたい欲求に駆られる。
「はあっ、はあっ、はあっ、んくっ」
「くっくっくっくっく……」
ゲイルのもはや疑いようのない状況に、バイエルは笑みを浮かべる。
「さあ、こいつを気持ちよくしてくれよ」
バイエルはじりじりとゲイルを追い詰めていく。
顔は相変わらず余裕だが、絶対に逃さないという決意がにじみ出ている。
バイエルもベッドに上がり、ゲイルは完全に部屋の隅へ追い込まれてしまった。
「く、くるなくるな!くるなぁ!」
ゲイルは震える手で躍起になってナイフを振り回す。
技術も何もない、完全に素人の振り回しだ。
そのナイフが、バイエルの指先をかすめる。
じわりと血がにじみ出してきた。
「あっ、ああぁ……」
ゲイルの顔色が瞬く間に青ざめていく。
手の震えは更に激しくなり、持っていたナイフが落ちる。
バイエルを傷つけた。
大切な人を傷つけてしまった。
自らの手で。
クスリによって捻じ曲げられた価値観が、ゲイルを絶望に落としていく。
「ご、ごめ、ごめんなさ……」
咄嗟に出てしまった謝罪の言葉を、ギリギリの理性がせき止める。
何を。
今何を口走ろうとした。
謝る?何故。
どこに謝る必要性がある。
すべてあの男が原因じゃないか。
これは全部クスリのせい。
幻覚みたいなものだ。
そう言い聞かせ、身体と心を奮い立たせる。
崩れ落ちそうな足に気合を入れてしっかり立ち、憎々しげにバイエルを睨みつけた。
思いとどまりはしたものの、ゲイルの胸中は未だバイエルを傷つけてしまった罪悪感が渦巻いている。
「くっくっくっく……」
当のバイエルは楽しそうに笑い、おもむろにナイフを拾い上げると、真後ろの壁に向かって無造作に投げた。
それほど強く投げたようには見えなかったが、ストン!とナイフは壁に突き刺さる。
「さ、これで武器はなくなった」
「くっ……」
完全に追い込まれ、退路を塞ぐように立ちはだかるバイエルが、切られた片手を差し出してくる。
「傷を舐めてくれ。優しくな」
「そ、そんなこと……」
やるわけ無いだろう。
続けて言いたかったその言葉は、喉の奥に消えた。
差し出された手をじっと見つめる。
ナイフの傷はとても浅い。
冒険者ですらない一般人でも日常的にある切り傷程度の浅さだ。
ゲイルはゴクリのつばを飲み込む。
舐めたい。
自分が傷つけてしまった指を、自分の口で癒やしてあげたい。
優しく舌を這わし、乾きつつある血を舐め取りたい。
欲求が溢れてくる。
理性を総動員し、その欲求に抗う。
「あ……あう……」
手が顔に近づいてくる。
身体の震えが止まらない。
指先が唇に触れた。
今口を開けば。
舌を出せば。
舐めてしまう。
バイエルの指を。
「口を開けな」
バイエルの言葉に、身体が逆らえなかった。
逆らう事を、拒んだ。
軽く開かれた口から、バイエルの指が侵入してくる。
こみ上げてくる歓喜を抑え込むのが精一杯だった。
「あっ……あう……ふ……」
噛み切ってやれと理性が訴えるが、身体は言うことを聞いてくれない。
バイエルの匂いが、味が、頭をとろけさせていく。
愛しい人の血の味に、身体が火照ってくる。
脳の奥がピリピリする。
口の中をバイエルの指が優しく愛撫していく。
舌の上を右に、左に、奥に、先端に。
奥歯から順に歯をなぞっていき、前歯を通って逆の奥歯まで。
舌の裏、歯茎、天井。
指が口の中をねっとりと掻き回していく。
溢れた唾液が首筋へと伝っていった。
「んっ……んく……あふ……」
ゲイルは全く抵抗しない。
抵抗できない。
おとなしくされるがままに、バイエルの指を受け入れている。
ゲイルとて頭ではわかっている。
このままではまずい。
抗わなければ。
戦わなければ。
逃げなければ。
だが動けない。
バイエルの指が、その愛撫が、あまりにも甘美すぎる。
抵抗する力が出せない。
気を抜くと今にもその腕にしがみつき、夢中で舐め回してしまいそうだ。
頭の奥がビリビリと痺れる。
秘所がペニスを求めてウズウズする。
バイエルの味が溶け込んだ唾液をこくりと飲み込むと、身体の芯から熱くなってくる。
二本の指で舌をつままれると、何故か下腹部に甘い刺激が走る。
ほんの少ししか開いていなかったはずの口は、いつの間にか大口を開け、バイエルの指を迎え入れていた。
「はーっ、はーっ、んっ、はーっ」
ゲイルの顔は朱に染まり、表情はとろけ、息も荒い。
膝は震え、ワンピースから覗く太ももを愛液が伝っていく。
完全に発情している。
他の客には一度として見せなかった、メスの本能がむき出しの顔。
抵抗一つせず、口の中をされるがままにされ、それに悦びを感じている事に疑いようはなかった。
ゲイルの淫らな顔に、バイエルは満足そうな笑みを浮かべると、その口から指を引き抜いた。
指と唇の間に唾液の糸が伸び、だらりと垂れる。
途端にゲイルは胸が締め付けられる思いに駆られる。
もっとバイエルからいじられたい。
この甘美な刺激がもっと欲しい。
湧き上がってくる欲求を頭を振って追いやり、またバイエルを睨む。
ゲイルはまだ諦めていない。
限りなく小さくなってしまったが、それでも理性の光は消えていない。
まだ自分の意志で舐めていない。
まだ舌を這わしていない。
まだ自分は屈していない。
もはや子供の言い訳にしかなっていない理屈。
それだけが最後に残ったゲイルの理性、プライドだ。
バイエルは、今からそれを折る。
先程まで口の中に入っていた、唾液でぬらぬらと光る指をゲイルの前に突き付け、語りかける。
「もう一度言うぞ。傷を舐めてくれ」
二度目の命令。
ドクンと強く心臓が鳴る。
従いたい、今すぐバイエルに甘えたい。そんな欲求が湧き上がってくる。
頭の中がぐるぐるする。
直感がヤバイと告げている。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ」
舐めたい。
……一度くらい。一度くらいなら。
ダメ。
それが危険な誘惑だと、わかりきっている。
今も理解している。
絶対に従ってはならない。
意思に反して、どんどんあふれてくる唾液を拭う。
「ふうっ、ふうっ、ふうっ」
舐めたい。
ダメだ。堪えなければ。
もう寸分の余裕もないのだ。
一度でも受け入れてしまったら、あとは転がり落ちるだけ。
わかりきっている。
従ってはならない。
手だけではなく身体まで震えてきた。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
舐めたい。
わかってる。
わかってるけど。
今の震える身体とぐるぐるまわる頭では何一つ冷静に考えられない。
冷静に。冷静にならないと。
その為に、少しだけ。
ほんの少しだけ、バイエルからの刺激を貰えば。
それで、今の状態から少しは回復するだろう。
これはクスリのちょっとした影響なんだ。
これを鎮めるために、ほんの少しだけ舐めるんだ。
そうすれば、少し冷静になって、ここから逃げる手を考えられる。
そう、これは、逃げる為に、必要な、行為。
決して、屈したわけでも、なめたいわけでもない。
にげるんだ。
そして、あいつらに、たすけてもらおう。
あいつら、ばかだけど、たよりになるし。
だから……
「はふっ、ふう……、はぁ……」
ゲイルは口元を拭うことすら忘れ、だらだらと唾液が滴り自分の手にかかる。
しかしそれを全く気にかけず、食い入るようにバイエルの指先を見つめ続ける。
そしてついに、震えながらおすおずと舌を伸ばし、自らその指に舌を近づけていく。
舌先が指に付いた瞬間、激しい快楽の奔流がゲイルを襲う。
もうその衝動を抑える事はできなかった。
「ひくっ、ぴちゅ、ちゅる、んっ、はう」
「くくく……いい子だ」
世界が一瞬にして色づいていく。
乾いた心が瞬く間に華やいでいく。
自分の意思で奉仕するその指は、今まで以上に甘美で、刺激的で、目頭が熱くなってくる。
直前に考えていたことはすべて吹っ飛んでしまった。
そんなことよりも、今この快楽を貪ることのほうがずっと重要だ。
脳の奥からジクジクと快感が湧いてくる。
バイエルに頭を撫でられ、幸福が溢れてくる。
今まで何を拒んでいたんだろう。
温かいものが私の中に流れ込み、満たされていく。
この人に尽くせることが幸せで。
この人に撫でて貰える事が幸せで。
話しかけられるのも、見つめられるのも、彼からの何もかもが幸せで。
これから抱かれると思うだけでイッてしまいそう。
この人の為ならばなんだって出来る。
始まりは仕組まれたものだったかもしれない。
でも、今のこの気持ちは偽物なんかじゃない。
この幸せは嘘なんかじゃない。
やっと気づけた。
私はこの人を愛している。
愛しているんだ!
感極まるゲイルの頬を涙が伝っていく。
果たしてそれは、嬉し涙か、それとも別のものか。
ゲイル自身にもわからなかった。
「はっ、ちゅぱ、れろ、ちゅる、んっ」
ゲイルは指に舌を絡める。
両手でバイエルの手を包み、愛おしそうにしゃぶりつく。
傷をいたわるように優しく、性器を悦ばすように淫らに。
バイエルの指の動きに合わせて舌を動かし、愛撫する。
「よし、もういいぞ」
「ちゅぽっ……んはあ……」
ゲイルの態度は先程までと打って変わってしおらしく、そして積極的だ。
視線からは反抗的な色が消え去り、代わりに甘えるような色が加わった。
バイエルの顔色をうかがうような素振りが見えるのは、今までの態度に後ろめたさを感じているのだろう。
クスリによる認識の改変が理性を上回ったということだ。
バイエルが破顔する。
あの日の行為中のゲイルと同じ状態だ。
もう逃さない。
今ここできっちり教育する。
ふと、バイエルは試したくなる。
このゲームは始めからバイエルに有利すぎる。
ならばゲイルにもチャンスを与えるべきだろう。
絶対優位を確信しているからこその、バイエルの余裕。
ベッドの上であぐらをかき、余興を始める。
「さあ、どうして欲しい?何でも言ってみろ」
「はあ……はあっ……んっ、そ、その」
「今までのことは気にしなくていい。今お前が望む事を言え。何でもやってやろう。さあ、どうする?」
これは一種の賭けだ。
バイエルが一方的に行う賭け。
バイエルには、ゲイルはもう手遅れであり、虜となっている自信がある。
だが、もしこれが演技ならば。
もし理性があるならば。
バイエルをここまで騙し通す演技ならば、惜しみない称賛を送るべきだろう。
今この瞬間に、一瞬でも理性を取り戻せるならば、それは素晴らしい精神力だ。
敗北を認めてもいい。
ここで拒絶する要求が出来るのならば、バイエルはそれに従うつもりだ。
今すぐ帰れと言われれば帰ろう。
今後一切視界に入るなと言われれば、可能な限りそれを守ろう。
とはいえ、ここまで深くハマってしまったのならば、理性を保ちつづけるほうが地獄だろうが。
バイエルの気まぐれにして、ゲイルの最後のチャンス。
そして、その返答は。
「キス……」
「ん?」
「キス……して欲しい……ギュッって抱きしめながら、キスして……」
「……ふはは」
ゲイルは真っ赤になりながら上目遣いでそう言った。
賭けの勝利と、ずいぶんと可愛らしい要求に顔が緩む。
これで義理は通した。
もうチャンスなど与えない。
堕とす。
堕としきる。
家族よりも、仲間よりも、自分の命よりも、尊厳よりも上に、バイエルという存在を刻みつける。
「だ、だめ?」
ゲイルは顔色をうかがいつつも、期待たっぷりの視線を送ってくる。
その視線の先の人間は、ゲイルという一個人の精神を完膚なきまでに書き換えようというのに。
「くくく、来な」
バイエルが腕を広げて誘うと、ゲイルは満面の笑みでバイエルに飛び込んだ。
そしてしっかりと抱き合い、唇を重ねる。
「んっ♥ はむっ♥ ちゅる♥ んふ♥」
舌を絡める。
唾液を交換する。
呼吸を感じる。
体温が交わる。
一つ一つがゲイルの幸福となり胸の中を暖かくしていく。
もうゲイルの頭の中は、これからの性行為のことでいっぱいだ。
心の片隅で、トゲのような引っかかりを感じる。
何か後ろ髪を引かれるような、大事な事を忘れているような感覚がある。
だが愛する人に抱きしめられ、濃厚にキスを交わす感激の前にはあまりにも無力だった。
頭の奥がジンジンと痺れ、今まさにバイエルのモノとなっていっている実感がある。
それすらも嬉しくて、愛しさが溢れてくる。
夢中でバイエルを抱きしめ、舌を重ね合わせ、唾液をすする。
ゲイルの腹部にピトピトと硬いものが当たる。
ワンピースの下から内側へ侵入し、抱きしめられると同時に押し付けられている。
大きくなっている。
硬くなっている。
熱くなっている。
ゲイルの中に入りたいと訴えている。
自分がバイエルから求められている証に、精神が昂ぶる。
下腹部はキュンキュンとそれを欲し、秘所からは愛液が溢れてしまう。
キスを続けながら、ペニスと腹部を擦り合わせる。
腹に先走りを塗りたくり、ちゅくちゅくと淫らな音を奏でる。
ゲイルの愛撫に、ペニスがピクピクと反応する。
それが愛しくてたまらなかった。
バイエルはお返しとばかりに、抱きしめたゲイルの後ろから股の間へ手を回し、下着をかき分け、ゲイルの蜜壺へ指を挿入する。
「んくぅん♥」
二本の指がゲイルの膣内をゆっくり描き回す。
あの時しっかりと覚え込まされた指の挿入に、記憶と身体が反応する。
たまらず身体が跳ね、唇を離してしまう。
「ふあっ♥ はんっ♥ んうっ♥」
バイエルはその唇をすぐに追いかける。
ゲイルの頭を片腕でしっかり抱きしめ、嬌声を上げるその唇を強引に塞ぎ、舌を捩じ込む。
「んーっ♥ んっ♥ んっ♥」
ビクビクとゲイルの身体が跳ねる。
快楽と幸福の奔流に、ゲイルは身悶える。
バイエルに身体を預け、されるがままに愛撫を受ける。
眼は完全にとろけ、身体は脱力し、舌だけは夢中で絡め合う。
バイエルの指が動く度に、ゲイルの意志とは無関係に腰が跳ねる。
何度も何度も甘イキさせられ、イク度に頭の奥に電流が走る。
心のトゲが小さくなり、その分愛しさが膨らんでいく。
少しずつバイエル専用の自分へと変わっていっている事が嬉しくてたまらない。
だが、激しい絶頂までは絶対にさせてくれない。
もどかしい快感がゲイルの中に溜まっていく。
それも限界を迎えようとした時、バイエルはピタリとキスと愛撫を止めた。
上と下、両方の口から粘つく液が滴る。
「ふう。期待には答えられたか?一目瞭然か。くくく」
「はーっ♥ はーっ♥ んっ♥ はーっ♥」
バイエルから解放され、息も絶え絶えにコクコクと頷く。