異形に寄生されて女へと変異したが、この身体も悪くない 作:ゲルパンマン♥山崎
…………
ついに来た。この街に。
あの日、僕の村を救ってくれた、あの人の事が忘れられない。
決して大柄なんかじゃないのに、その背中は、僕の瞳にとても大きく写った。
圧倒的な火力。何種もの魔術の同時発動。
戦場は、まさにあの人の為の舞台のようで。
あの人はキャスターなのに、敵に近づかれても怯まない。不敵な笑みを浮かべて、剣を抜いて果敢に立ち向かうんだ。
あの人に憧れて、僕もキャスターになった。
キャスターの修行と平行して剣も練習してる。
まだまだ未熟だけど、未熟なりにわかる。
あの時の、あの人の技巧が、いかに並外れているか。
だがあの人は、
信じられない。
噂を頼りに、ここまで来た。やっと来た。
この街に、いるんだ。あの人が。
会えるんだ! ゲイルさんに!
たった3人でルーク級にまでなったパーティのリーダー的存在ゲイルさんに!
握手してくれるかな!
キャスターの大先輩としていろんな話が聞きたい!
そして…… そして、あわよくば、弟子に!
宿はとったし、早速ゲイルさんの居場所の情報を集めよう。
「え? ゲイル? えっへっへ…… なるほどなるほど。うんうん」
ゲイルさんの居場所は驚くほど簡単にわかった。街のとある食堂にいるらしい。
冒険者のおじさんが快く教えてくれたのだ。
だが、おじさんは何やらしたり顔で"明日から俺たちは兄弟だ。がんばってこいよ、少年!"と肩を叩いてきた。意味がわからない。
初対面の僕に対して、なぜそうも友好的だったのか。なぜ"今日から"ではなく"明日から"なのか。一体なにをがんばれと言っていたのか。
しょっちゅうファンが押し掛けてて、なかなか会えないのかな? ゲイルさんだもんね!
まぁ考えてても仕方ない。
情報の真贋確認も合わせて、早速訪ねてみよう。
「おう、俺がゲイルだ。よろしく。依頼の話……って訳じゃなさそうだな。どうしたんだい、少年」
そう言って出てきたのは、いかがわしい服装とハスっぱな口調がイマイチ噛み合っていないウェイトレスのお姉さんだった。
着ている服は、元は給仕服だという事はわかるが、その改造が破廉恥なことこの上ない。
胸元ははだけてて谷間とブラの端が見えてるし、白いブラウスから黒のブラが透けてるし、おへそが見えてるし、スカートは短いし、ストッキングは扇情的だし、ヒールの高い靴を履いてるし、本当にギリギリ給仕服の面影がある程度だ。
なんか甘い匂いもしてヘンな気分になってくる。
いやいやいや! 僕はそんな事の為に来たんじゃない!
やっぱり誤情報だったみたいだ。
「申し訳ありません。人違いだったようです。僕が探しているのは男性の方で…… えーと、ルーク級のゲイルさんです。キャスターの」
「ああ、それ俺だよ俺。まあ、説明が難しいんだが、ちょっと事故ってこんな身体になっちまったんだわ。俺がそのルーク級のゲイルで間違いないよ」
「え……? いやいや、冗談ですよね? そんな話聞いたことありませんよ」
「いや、マジなんだなこれが。俺もビックリだよ」
「え……? う、嘘ですよね? 嘘ですよね!? ゲイルさんが! こんな!」
「え、何、どゆこと? 俺、キミとどっかで会ってた? ごめんな。人の顔覚えるの苦手なんだわ」
「あ……いえ、その……僕はただ、ゲイルさんに憧れて……」
「え! キミもしかして俺のファン!? マジ!? まいったなぁ。うへへへ」
「……あの、失礼なのはわかるんですけど、いくつか質問させて貰っていいですか? まだ、その、御本人だと……」
「おう、いいぞ。何でも訊いてくれ。何でも答えてやるぞ。うん。あ、仕事しながらになるけどいいよな?」
ゲイルさん(?)がそう言うと、周りの客から茶々が入る。
「スリーサイズいくつ!?」
「初体験はいつ!? ってか誰!? やっぱサイモン!?」
「あーもー外野は黙ってろって! ほら、もう食い終わったんなら帰れよ。シッシッ!」
「……」
「質問はサイモンとパトリックの事でもいいぜ。まあ答えられる範囲だけど」
「おーいゲイルー! ちょっと頼むわー!」
「あ、はーい! あ…… い、今から? 客来てんだけど…… い、嫌じゃねえよ…… 今の時間はクチだけなんだけど…… わ、わかった。すぐ行く……♡」
「あ、あの」
「すぐ戻ってくるから、ちょっとだけ待っててな」
……
「そんな、まさか、ホントに……いやいやいやいや……」
「やっとわかったか? はい、しょうが焼き定食お待ち」
その後、ゲイルさんを自称する女性は、給仕の仕事をしながら僕の質問に答えてくれた。
未だ確信は持てないけど、質問した限り、この女性はゲイルさん本人の可能性が高い。まぁ、僕がゲイルさんについて知ってることなんて、たかが知れてるけど……
僕のことはサッパリ覚えてなかったけれど、村での事はちゃんと覚えてくれてて、襲ってきたモンスターも僕の記憶と一致する。
魔術にも詳しかったし、他のお客さんたちも彼女をゲイルゲイルと気安く呼んでいる。
ここを教えてくれた冒険者のおじさんまでグルというのは流石に考えにくい。
そもそも、僕なんかを騙す必要性が考えられない。
まぁうん、百歩譲って女になってしまったのは認めるとしても、あの格好はなんなの……いかがわしすぎるよ……
僕はどうすればいいんだよ……
この店はなかなか流行っているようで、ゲイルさんは忙しそうだった。
手慣れた動きで客を案内し、注文を受け、食器を回収し、せわしなく働きながらも、僕の質問にもしっかり答えてくれた。
たまに店主や客の男と二人で、10分ほど奥の部屋へ引っ込むのは何かの打ち合わせか相談だろうか。
その中には神父様までいて、そんな人に頼られるということは、やはり相応の信頼と能力を持っているんだろう。
仕事の邪魔をしているようで、少し罪悪感が募る。
特別お腹は空いていなかったが、隣の客が食べていたしょうが焼き定食がとてもおいしそうだったので、迷惑料も兼ねて注文した。
普通においしくて完食してしまった。
午後3時を過ぎ、人の波も大分落ち着いてきた頃、僕の向かいの席にゲイルさんが座った。自分で作ったらしきサンドイッチとカフェオレも持ってきている。
「ふいー、やっと一息つけるぜー。ここ座らせて貰うぞー」
この人は確かにゲイルさんの可能性が高い。
だからこそ、確信が高まるほどに、沸々と怒りが沸いてくる。訊かざるを得ない。
バン!とテーブルを叩いて大声を出してしまう。
「ゲイルさん!」
「うおっ」
「なぜ!? なぜあなたがこんな仕事をされてるんですか!? あとサインください!」
「落ち着け。あー、この仕事は、まぁ成り行きかな。始めはやる気なかったんだが、やってみたら案外楽しくてね。サイン? ペンある? お、準備いいな。革袋に? えーっとこんな感じ? ふへへ、サイン書いちまったよ。俺のサインだぜ、おい。へへへ」
「ありがとうございます! 一生大事にします! でもゲイルさんともあろう方が、こんな店の給仕だなんてもったいないですよ! せめてもう少し立派な店で働きましょうよ! あと握手してください!」
「おいガキ、こんな店で悪かったな」
「店長、相手は子供なんだから。つか、わかってる? ついこの前までクソマズ飯の閑古鳥だったんだからな? 味が上がって客入り増えたの、間違いなく俺の功績だからな? はい、にぎにぎ」
「わ、わかってるよ。ゲイルさんには感謝してるって。いろいろお世話になってるし」
「おうわ…………ずいぶん綺麗で……柔らかい手ですね…… もう剣は握ってないんですか?」
「あ~、この身体になった時から筋力落ちてなぁ。逆に危なっかしくて、ちょっとした鈍器代わりにしか使えねえの。あんなに練習したのにな。ホントやんなっちゃうよ」
「そうなんですか…… それで、あの、元に戻る目星はついてるんですか?」
ガタタッ!
その瞬間、周囲の客が一斉に立ち上がった。
「ヒッ!」
全員僕の方を睨んでいる。なんだろう。怖い。何かまずいことを口走ってしまったのだろうか。
「おい! バカ! てめえら! 威圧すんな! 相手は子供だっつってんだろ! 座れ座れ!」
「チッ……」
ゲイルさんが一喝すると、あれだけ殺気を放っていた男たちが大人しく座っていく。
これだけの男たちを黙らせる事ができるなんて、やっぱりゲイルさんはすごい!
「あ、ありがとうございます…… 僕、何かまずい事を……?」
「……いや、何でもねえよ。気にするな。あ~、元に戻る目星だっけ? 残念ながら今んとこゼロなんだわ。教会にも行ったんだけどな」
「ああ、それで先ほど神父様がいらしてた訳ですね」
「あっ、ああ、うん、そう。そういうこと」
「……あのう、たいしたことじゃあないんですが……」
「お? なんだ?」
「たしかに僕はまだ12歳で未熟ですけど、これでもナイト級の実力はあります。その、あからさまに子供扱いするのは止めてくれませんか?」
「ははは! わりいわりい! 12歳かぁ…… ふふふ」
そんな感じで、ゲイルさんと楽しく談笑した。
魔術についてとても為になる話ができたし、噂じゃわからないゲイルさんの武勇伝も聞けた。いい人だ!
ゲイルさんが女性になってしまって、こんな所で働いてるのはちょっとショックだったけど、僕程度には知りえない事情があるんだろう。
やっぱり来てよかった!
この流れで頼んでみようかな?
勢いで了承してくんないかな?
よし、言ってみよう!
「あの、ゲイルさん! 折り入って、お願いしたいことが!」
「ん? なんだなんだ?」
「僕を、弟子にしてください!」
そう言った瞬間、店内が一斉に静まり返る。
静寂の中、店中の視線が僕に集まっている!
また僕まずいこと口走った!?
そして……
「ぶわはははははは!!」
「ぎゃはははははは!!」
今度は一斉に笑い出した!
わからない! 訳がわからない!
でも何か腹が立ってきた!
僕だけが笑われるのならば構わない。
だけど、弟子にしてくれって言葉で笑われるということは、少なからずゲイルさんも笑われているということ!
それは許せない!
「笑わないでください! 僕は大真面目です!」
「ひゃはははは!」
「よりによって、ゲイルの弟子って!」
「俺、期待していいの? あの少年と……」
「お前ホモかよ!」
「てめえだってゲイルにお熱だろうが!」
「違えよ! お前のそれと俺のこれは全然違えよ!」
しかし誰も僕の話を聞いてくれない!
「みなさんわかってませんね!? ゲイルさんの本当の実力を! 僕はこの眼で見たんです! ゲイルさんの勇姿を! 戦う姿を!」
丁度いい! あの時のゲイルさんがどれだけかっこよかったのか、存分に語ってやる!
「いいですか! これはもう7年ほど前、僕の村で起こった事なんですけどね!」
「ちょっ、少年?」
「大丈夫です! ちょっとみなさんにゲイルさんの凄さをわかって頂くだけですから!」
…
「見渡す限りのキラーウルフの群れ! その数、百や二百どころじゃない! 村どころか、ゲイルさんたちも絶体絶命!」
「うむ……」 「なんと……」 「ほう?」
「しょ、少年……も、もうやめ……」
「なんですか! ここからがいいところなんですよ! そこでゲイルさんが剣をこう構えて! シャイニングボンバー! キュイーン! 群れの中に閃光が走る! バババーン! たった一発で何十ものウルフが爆裂四散!」
「おお!」 「さすが!」 「なんと!」
「いいから……もう十分だから……俺シャイニングボンバーなんか知らねえから……」
「そんなわけで、ゲイルさんはとてもすごいんですよ。本当なら弟子の十人、二十人くらいいても不思議じゃない人なんです。わかりましたか?」
「ああ、よくわかった。笑って悪かった」
「別にゲイルと坊主を馬鹿にしたかった訳じゃないんだ」
「ゲイル伝説、良かったぜ。また語ってくれよな」
「ゲイルさん! わかって頂けましたよ!」
「そ、そうか……そりゃよかったな……」
「それで……あれ、なんで僕は…… あっ! そう! 弟子! 弟子にしてください!」
「いや、その、ごめんな? 今はちょっと弟子とか考えられないんだわ」
「そうですか…… いえ、こちらも無理を言って申し訳ありませんでした」
「そ、それとだな……」
ゲイルさんが頭をかきながら照れくさそうに口を開く。
「まぁ……嬉しかったぜ、さっきの演説。話は大分盛ってたけど、俺のことマジで尊敬してくれてるんだなってのがすげー伝わってきたよ」
少し顔を赤らめ、はにかみながらそう言うゲイルさんに、ドキリとしてしまう。
僕まで照れくさくなってきて、顔から目をそらすと、そこには豊満な胸が。胸から目をそらすとスカートが。
視線があっちへこっちへせわしなく動き、最終的にゲイルさんのおでこを見つめることで安定できた。
ああ、でも、おでこを見てるつもりでも可愛らしい顔が視界に入ってしまう。
いやいや! 何を考えてるんだ僕は!
ゲイルさんは男だろう!?
身体が女性になってしまったとはいえ、ゲイルさんはゲイルさん! その精神性までは変わっていない!
気丈に振る舞っているようでも、ゲイルさん本人が一番気にしているはずだ。
女性として見てしまっては、ゲイルさんのプライドを傷つけることになる。
ちゃんと男性として見ないと!
「アドバイスが必要なら気軽に言ってくれ。弟子は無理だけど、話を聞くくらいはいくらでも付き合ってやるよ」
「わ、わかりました! 早速なんですが、
「ああ、それな。理論的には
「え……? それ実際に出来るんですか? 机上の空論では?」
「問題はこの優先順位でな……」
「え~~っ? いやそれ、最悪逆流してドカンじゃないですか? どうやって安定させてるんです?」
「そこはまぁ訓練と勘と慣れでな?」
「危険すぎますよぉ……」
……
紆余曲折はあったけれど、楽しい時間が過ぎ去るのはとても速い。
夕食時が近づき、店がにわかに込みだしてきたのでそろそろおいとましようとした時。一人の男が近づいてきた。
「おう、ゲ~イル~、今日もよろしく頼むぜぇ」
やってきた男はゲイルさんの肩に馴れ馴れしく腕を回して絡む。
ここまで距離が近い人というと、この人がサイモンさんかパトリックさんだろうか?
軽薄そうで、ちょっと苦手なタイプだ。
「ちょっ、アラン! やめっ! 今客の前だから! んっ♡ 今は!」
違った。アラン? メンバーのお二方ではないようだ。ならこの男は一体誰なのだろうか。アランという名前にも覚えがない。
「ん? なにこのガキ」
「ああもう!」
ゲイルさんが男の腕を乱暴に振りほどくが、男は特に気にする素振りを見せなかった。
「その子な、俺のファンだって。わざわざ俺を訪ねてきてくれたらしい。やっぱ俺すごくね?」
「ふ~ん」
「ど、どうも…… あの、あなたは? ゲイルさんとこの新しいメンバーの方でしょうか?」
「あ~、ちょっと説明がめんどいんだが、こいつは」
「アランだ。今のゲイルのパートナーだ。覚えとけよ、ガキ」
ゲイルさんが説明するよりも早く、男が口を開いた。
パートナー? 今までのメンバーお二人はどうしたんだろう。
「おい、違うだろ」
「ん? 違うのか? ならなんだ? 言ってみ?」
「ちっ、ちがっ♡ んっ♡ ちがわ、ない……♡」
「そうだよなあ? オレら相性バツグンだよなあ」
「……んっ♡ やめっ♡」
「あの、サイモンさんやパトリックさんはどうしたんですか?」
「……あいつらとは、ちょっと別行動してるんだ」
「捨てられたんだよ。いいかげん認めちまえよ」
「……あいつらに限ってそんな訳ねえから」
「どうせ向こうでいい女捕まえてよろしくやってんだよ。いいじゃねえか。お前にはオレがいるんだし」
「……」
「チッ、まだ分かってねえのか」
何やら雰囲気が悪くなってきてしまった。
お二人のことを訊くのはタブーだったのだろうか。僕はまた迂闊な事を口走ってしまったようだ。
というか、僕はこの話を聞いていていいのだろうか。蚊帳の外だし、疎外感が募る。
「しゃあねえな。おい、店主! 今から部屋使うからな!」
「え~っ、流石にまだ早すぎだろぉ。これから夕食時で忙しくなるし、客の大半はゲイルさん目当てなんだから、いないと困るって」
「ウッセ! てめえもイイ思いしてんだから文句言うんじゃねえよ! おいゲイル、上行くぞ。しっかり分からせてやらあ」
「えっ、その、まだ、明るいのに……」
「あ? オレのもうビンビンなんだわ。嫌か?」
「いっ、嫌じゃ、ねえけど…… その……」
ゲイルさんが顔を赤くしながら、チラチラと僕の方を見る。
一体なんだろうか。もしかして、部外者には聞かれたくない話だから、席を外してくれとの目配せだろうか。
「……ふう~ん。おいガキ、お前も来い」
「え、僕もですか? 僕なんかが同席していいんですか? 部外者ですし」
「いいんだよ。ゲイル様直々のご指名だからな。ひひひ」
「お、俺は別に、そんな」
「ゲイルゥ…… ゎヵ……ぁぃっ……」
アランがゲイルさんの耳元で何かささやくと、ゲイルさんは顔を更に真っ赤にして縮こまってしまった。
「ほら、上の部屋行くぞ。ガキもな」
「わかりました。けどガキガキって言わないでください」
そうして僕は、軽薄そうな男アランとゲイルさんに付いていき、2階の一室へと招かれたのだった。