週末…阿良々木一家が、ゆらぎ荘にやってきた。
「署長に聞きました。高名な陰陽師だそうで」
阿良々木父がそう切り出した。
「昔の話ですよ…」
高校1年生の言うセリフでは無い気がする。
「我が家は無宗教で、息子の葬儀をどこでどう行えば良いか、見当が付かないんです」
と、阿良々木母。俺にどこかを斡旋してくれって、話か?って、どこで?聖域は無理だし…
「お兄ちゃん、お稲荷さんの…」
あぁ、あそこはプチ聖域ではあるか。夏美が夜な夜な、パトロールという名の油揚げのツマミ喰いをしているし。
「白蛇神社があった場所はどうですか?今は稲荷様の祠があるだけですが…」
「おまかせしていいですか?」
「まぁ、できる限り協力いたします」
「で、息子をやった奴は?」
「貝木泥舟って言うインチキ詐欺師の呪術師です」
詐欺師のインチキ…本物の呪術師である。
「あっ!アイツか!」
月火が声を上げた。
「撫子ちゃんをはめた奴だ」
口封じの為の殺人教唆か?撫子とは、月火によると、あの白蛇事件で、月野木病院へ搬送した女の子らしい。
「直接手を下したわけでは無いですが、実行犯がそう供述しているようです」
「ソイツを警察に引き渡してもらいませんか?」
「法での裁きは出来ませんが、良いですか?」
怪異絡みである。もし、立件するには月火が怪異であることを立証しないといけない。今、本人を前にして気づいた。コイツ、怪異に取り憑かれた訳では無い。怪異そのものだ。姉の火憐は怪異に取り憑かれているようだが、悪さをするタイプでは無いので、放置がいいかな。
「どういうことですか?」
「怪異絡みです。警察で立件が出来ますか?非科学的な事案ですが」
「う~ん…」
「法での裁きは受けませんが、もっと過酷な裁きを受けているそうですよ。聖域の賢者様の元でね」
「なるほど…怪異には怪異の専門家におまかせが一番ですか…」
阿良々木父と阿良々木母は、揃って警察官だそうだ。今回の件で、この『あやか市』のことを署長から聞いたそうだ。怪異、人外と人間が共存するエリアだと。
「そう思ってください。その為に、退魔師、悪魔祓い、霊能者などが、住んでいて、調整をしているのですからね」
まぁ、調整が効かないから、事件が起きるんだけど…
◇
白浪稲荷と名付けた祠…結構な量の油揚げが供えられている。九尾の狐様がたまに目撃されると噂され、供物を置いていく者が絶えないらしい。ちなみに、賽銭箱は無い。夏美は、お金よりも油揚げを優先したいらしい。
祭壇のある社殿が要る。油揚げを食べて、機嫌の良い夏美イコール九重様が、呪文で社殿を作り上げていく。ちなみに、この土地は賢者様の名義になっているそうだ。なので、俺達が自由に使って良いって、言われている。
「後、何が必要かな?」
「蝋燭で照らす為の灯籠かな?」
石の灯籠を社殿へ向かう道の両側に配置していく。
「後、御炊きあげ場かな。火を使うので、防火対策が必要だな」
消防車が放水出来ない高台にある。術で雨を降らせば良いか?
「ふむ」
耐火煉瓦を積み上げたコの字型の御炊きあげ場が完成。後は、内装か。祭壇を設置し、雅楽用の楽器を用意して、中庭に向けて神楽殿を設置した。神社では無いが、祭事場は必要である。後は、簡易宿泊出来る部屋を数部屋用意した。寝ずの番用だ。
消耗品の類いは聖域から送られてきた。蝋燭、火打ちセット、調理器具など。泊まり客や修行者の為の食事を作る為である。
問題は食材だな…
「保存食を備蓄だな。麦、米、みそ、茶葉でいいんじゃないかな?」
夏美は油揚げだけあれば、良いらしい。まぁ、味噌は、焼き味噌にしておかずにする。お茶は汁物の代わりになる。修業時代を思い出すなぁ…
「あぁ、そうか…後、骨の保管場所か…」
稲荷に墓は似合わない。納骨堂かな。夏美が納骨堂を作り上げた。喉仏だけを収納するタイプである。
「残りの骨を粉にする石臼も要るか…」
ここには水の流れが無い。水車を動力に出来ない。となると…人力か…喉仏以外の骨は粉にして、分骨希望者にはロケットに入れて渡し、残りのは森に撒く。カルシウムが溶け出し、良い肥料になり、いずれ土に返るのだ。
「お~い!、食事を持って来たよ~!」
狭霧と千紗希、雪乃だ。僕にはおにぎり、夏美にはいなり寿司であった。
「ほとんど、完成?」
「たぶん…」
祭事場の建設に携わったことが無いので、聖域の修行場をイメージして作った。まぁ、夏美の中の九重様が文句を言わないので、正解に近いのだろう。
「神主は、亜樹君?」
千紗希に訊かれた。夏美は稲荷神主だから、祭事場は僕になるのか…う~ん、避けたいなぁ。お姉ちゃんがいれば、二人で住み込み住職も有りかもしれないが。
「後は巫女役だな…どうするか…能力者が良いんだけど…」
狭霧をロックオンした。
「おい!見つめるな!私は無理だ。そっち系の能力は無い」
見た目よ。能力があれば、千紗希なんか、かわいい巫女になれそうだけど…
「当日は。千紗希とひたぎには、炊事場を頼みたい」
「はい♪」
「狭霧は…しょうがない。警戒要員ならいいか?」
「あぁ、まかせろ。夏凜と九郎丸で警戒する。想定される敵は?」
「邪な悪霊とか、浮遊霊かな。ここって、気の吹きだまりになっている気がするから」
不思議と、ここには風が無い。それはそれで、おかしい現象である。街で生じた熱が上昇気流を産み出し、階段を駆け上がって、風になっても良い環境であるが…祭事が終わったら、探索してみるか…何か、ありそうだ。この場所には…
◇
阿良々木家の手により、阿良々木暦の探し出せた亡骸を収めた棺が運び込まれた。肉が殆どないので、やたらに軽い。役所への手続きなどは翼に丸投げした。こういう作業は得意だから。
まず、亡骸の入った棺を祭壇に設置した。巫女がまだ決まっていないよ。どうするんだ。
「よぉ!」
師匠である聖域の賢者様がいらした。隣には…巫女姿のお姉ちゃんがいた。えっ!
「この祭事限定で、テンコを貸すよ♪」
テンコ…天狐幻流斎…お姉ちゃんがそこにいた。
「亘くぅ~ん♪」
幽奈の様に頬を重ねるお姉ちゃん。え?!どうして?幽奈とイントネーションと動作、頬の感触が一緒だ。でも、紛れも無くお姉ちゃんである。僕の探していたお姉ちゃんである。更に…幽奈と魂の色が一緒である。なんで?どういうこと?
「お前、そこで混乱する?まだまだ蒼いなぁ~」
って、師匠。だって…
「おい!神主が混乱してどうするんだ!しっかりしろ!」
師匠から喝!が入った。そうだな。祭事が終わったら、確認しようか。
◇
見送る客が集まってきたので、祭事を始めた。
「これより、阿良々木暦の送る儀式を始めます。執り行うのは、ここの神主である私、神代亘」
「その妻である天狐幻流斎の二人で、つつがなく行います」
僕とお姉ちゃんの共同作業が始まった。僕の祝詞…お姉ちゃんが合間に神器である五十鈴で闇を切り裂いて行く。天からお迎えがくると、雅楽の音色が聞こえ始め、彼の魂を心静かに送り出していく。
そして、送り出しの儀式は無事に終わり、亡骸を昇華させる儀式へ…棺を御炊きあげ場へ運び、完全な骨にしていく。完全な骨になるまで、僕は祝詞を唱え続けつつ、薪をくべて、火を絶やさないようにする。まぁ、孤独な作業であるが、おろそかに出来ない。
完全に骨になったところで、自然鎮火を待ち、鎮火後、骨をトングで広い集めていく。ここでの焼きが甘いと、石臼での作業が大変になるので、注意が必要であるけど。
「では、このロケットをお持ち下さい。骨を分骨しました」
と、阿良々木家の皆さんへお配りし、喉仏の骨のみ納骨堂へ納めた。
「おにいちゃ~ん!」
「こよみぃぃぃぃ!」
納骨堂内には悲痛な声が響く。その中で、今回の祭事での最後祝詞を唱える僕。
終わった…ヘロヘロになり、仮眠室へ行く…お姉ちゃんには訊きたいことが一杯ある。這いつくばるように仮眠室に着くと、お姉ちゃんの姿は無かった。あれ?夏美だけがいる。
「お姉ちゃんは?」
「帰ったよ。門限があるからね」
えぇぇぇぇぇ~!そんなぁぁぁぁぁ~!ショックだぁぁぁ~!門限ってなんだ?
「シンデレラと一緒。0時を過ぎたら、魔法は解けちゃうんだよ」
「どこへ行けば会えるの?」
「自分で探すこと…ごめん。それしか方法が無いよ」
ショック過ぎる…ショックのあまり、その場で睡魔に襲われて…
◇
重い…金縛りか?手足の自由が効かない。囚われたのか?誰に?
ゆっくりと瞼を開くと、俺の部屋のようだ。右には全裸の幽奈。左には全裸の狭霧。いつもの風景であるが、金縛り状態である。何が違うんだ?
「おぉ、目覚めたのか」
目の前に雪姫先生がいた。それって、上に載っているってこと?交わっているってこと?
「夏美に頼まれて、ここまで運んだんだよ」
夏美は夜々とこゆずに挟まれて寝ていた。彼女なりに疲れたようだ。
「金縛りなんですが…」
「あぁ、逃げないように、縛ってあるからな」
え?緊縛プレイをされていたのか…そんな趣味は無いぞ。
「会えたようだが…いつ結婚したんだ?」
「何の話?」
「うっ…お前、上の空だったのか?天狐幻流斎が、お前の妻を名乗ったんだぞ!」
「えぇぇぇ~?いつ?」
お姉ちゃんも、想っていてくれたんだな。
「お前の耳は、節穴か?」
「え?聞いていないんだもの…いつ、言われたの?」
「はぁ~。お前と言うヤツは…賢者の苦労がわかった気がするよ」
そんな…そこまで言うか…
「で、天狐幻流斎は誰かわかったのか?」
「全然分からないんだよ。先生、知らない?」
雪姫先生が頭を抱えている。
「それは、何かの呪いか?たぶん、お前以外全員が分かっていると思うぞ」
えぇぇぇぇぇ~!そうなの?何で、俺にはわからないんだ?おかしいじゃないか。
「そうか…お前の罪のせい、天狐幻流斎の罪のせいだな」
「何?何?お姉ちゃんの罪って?」
「アイツは●●したんだ」
え?肝心な部分だけ聞こえない。これって、聖域の呪いだ…
「なるほど、肝心な部分は言葉に出来ないのか…だから、お前には分からないのか…」
雪姫先生の視線は幽奈に向けられている。なんで?どうして幽奈なんだ?
「さすがは鬼だな。弟子でも容赦はしないってことか」
それは、師匠が俺に呪いを掛けたのか…俺の犯した罪に対して…そして、お姉ちゃんが犯したという罪に対して…師匠ならやりかねない。曲がったことは嫌いな人だから…
「俺の罪って消えるのかな?」
「罪自体は消えん。だが、改心は出来ると思うぞ」
「でも…罪が消えないと、逢えないのはつらい…」
先生に泣きすがる。天寿を全うすれば、逢わしてくれるけど…それでは、お姉ちゃんは年老いてしまう。
「泣くな。幽奈が起きるぞ」
だけど…
「お前はお前らしく生きれば、良いのでは無いのか?考え過ぎると知恵熱が出る。それにだ、間違った方向へ行けば、賢者が鉄拳制裁をしてくれるはずだ」
それは恐い…激痛だけを感じ、決して死なない鉄拳制裁。地獄の沙汰である。
◇
そして、学校へ…期末試験だと言う。入院が多かった為、学生生活をエンジョイしていない内に、夏休みらしい。
ゆらぎ荘では、テスト勉強…普段から勉強をしていれば、テスト勉強はいらないらしい。ひたぎと翼は、普段通りだし。
「翼、テスト勉強って、何をすれば良いんだ?」
「テストに出そうな物を勉強するんだよ」
「どこが出るんだ?」
「そんなの分かったら、こんな苦労はしないんだ!」
っと、狭霧。それはそうだけど…
「今まではどうやっていたの?」
翼に訊かれた。
「今まで?今回、初めてだよ」
「…」
夏美以外、絶句状態で固まっている。どうして?
「まさか…学校へ通うのって、初めて?」
「そうだけど…それが何か?」
「…」
3月にこの世に戻って来た。それまでは聖域で、罪に対する懲役刑を喰らっていたし…
「小学校も行っていないの?」
「記憶に無い」
目が点になって、夏美以外が俺を見ている。なんで?
「義務教育を受けていないの?」
「いや…聖域で受けて来たけど…この世界のは受けていないよ」
「う~ん…それは問題あるかも…」
って、腕組みする翼。
「幼稚園は行ったの?」
「何、それ?」
「…」
学校って、小学校からじゃ無いの?はて?
ズン!
首筋に手刀が叩き込まれた。誰に?意識が遠くへ…
---聖域の賢者---
このバカに聞かせたく無いので、意識を狩り取った。
「賢者様!」
ちとせが、跪いた。
「ちとせ、楽な姿勢で良いぞ」
「はい」
「このバカの話をしに来た。コイツには聞かせたく無いので、意識は飛ばした」
「聞かせたく無い?」
翼に訊かれた。
「あぁ、コイツは自分を人間だと思っているからな。今はホムンクルス、人造人間だ」
誰も驚かない。予想は着いていたのだろう。
「コイツは、産まれてすぐ、母親の初乳だけ飲んで、聖域に預けられた。来たる日に向けて、術を行使出来る様にな」
あの一線を越える禁断の術、『人札封印の術』の為である。
「初乳だけですか?」
「あぁ…それだけだ。コイツが母親と触れたのは、その1回限りだよ。父親とは触れたことが無い。その時の反動だろうな。愛情とスキンシップに飢えているケダモノだよ、コイツはな」
同じような境遇だったので、よくわかる。
「誰に育てられたのですか?」
翼が代表して質問をしてきた。
「その当時の僕の弟子であった天狐幻流斎だ」
『え?私…』
幽奈が声を上げた。人間には聞こえないが、人外の者、能力者には聞こえている。聞こえた者は皆、幽奈の方へと振り向いた。
「天狐幻流斎も罪を犯したので、記憶の封印が為されており、未だに昔の記憶が封印されているかもしれない」
『そんなぁ…』
悲しそうな声の幽奈。
「コイツは最強の陰陽師になる為、聖域では出来る限りのアシストをした。1秒を1日にする環境化で、文字を教え、言葉を教え、コイツが3歳になるまで天狐幻流斎が傍に寄り添っていた」
『だから…懐かしさが…初めて逢った時に感じたんだ…ゴメン…亘君…』
懺悔している幽奈。お前の罪はこんな物では無いだろ?
「3歳から5歳までは、聖域で本格的な、トレーニング、所謂鍛錬とか修行をこなした。だから、幼稚園なぞには行っていない。そして、6歳の誕生日の前日に、コイツは英雄になり、死んだことになった。その為、小学校へも通っていない」
静まり返る室内。
「死んだ事になり、幽閉され、事件を起こして、大勢の人間達により、なぶり殺され、聖域でまた引き取ったんだ。だから、中学にも行っていない。今年の3月に夏美こと九重を付けて、鳥井亜樹として釈放したんだよ」
『釈放…そんな…』
「次に、天狐幻流斎なんだが、コイツは類い希な霊能者だったのだが、コイツが殺されたことを知り、自分を含む全人類を呪った。その為、天狐幻流斎は呪術師へ地位が落ち、自殺をした。実際は、自殺行為ではあるがな」
『そう…自殺をした。聖域では禁忌とされた行為である。なので、私は聖域において、重罪人であるんだよ…』
「自殺行為の内容は、自分の身体を供物に、コイツの蘇生を僕に願った。だけど、コイツは、一線を越えた術を行使した為に生物では無くなっていた。なので、蘇生は無理だったんだ。いくら全知全能なる者がいたとしてもね」
『魂が無かったから…あの術でロストしてしまったから…でも、生きて欲しかった。短すぎるもの…彼の人生は…』
「だから、提案をした。人造人間に、ねつ造した記憶を入れて、僕が魂の代わりをして、コイツの精神体に、残りの人生を歩ませることをね。まぁ、魂の提供者がいれば、僕は抜けるけど。そして、今はコイツには、人造人間の元になった鳥井亜樹の魂をいれてある。で、天狐幻流斎の魂は、知り合いの座敷童のいる家に地縛させてある」
ちとせが頷いている。
『だから、ここに地縛しているんだ…』
「二人は元の関係になれないんですか?」
狭霧に訊かれた。彼女は幽奈の声が聞こえる組である。
「お互いがお互いを認識すれば、記憶の封印は解かれる。だけど、コイツが、バカだから、身近にいるのに、まるで気づかないんだよ。まったく…」
幽奈と天狐幻流斎が同一人物であることに、困惑しているコイツ。天狐幻流斎が自殺することは無いと信じ込みすぎである。
「まぁ、天狐幻流斎は気づいているようだが、このバカが気づかない限り、二人の記憶の封印は解除されない。あと、ハンデとして他人からの情報では、気づかないように呪いを掛けてある。まぁ、二人とも真面目に修行したご褒美に、このバカが気づけば、天狐幻流斎の身体は返してやる。ほとんど、未使用だよ」
『師匠…まさか、屍姦したんですかぁぁぁぁ~!』
「当たり前だろ。あんな良い女体だ。屍姦を2、3回した程度だよ」
「ド変態…」
う~む、九重も言うようになってきたな。
「まぁ、そんな感じだ。ソロソロ帰ろうかな。雲行きが怪しくなってきたし…」
九重と幽奈からの冷たい視線を浴びて、聖域へと逃げ帰った。