---鳥井亜樹---
目が覚めると、右手に狭霧、左手にはまゆこ、正面には幽奈を憑依したリアスがいた。ここは…俺の部屋だ。いつもと変わらぬ?なんで、まゆこがいるんだ?
何時ものように男湯へ転移すると、何故か寿荘の洞窟風呂に転移した。
「よぉ、鳥井!」
稲葉が声を掛けてきた。はて?
「あぁ、アイツはしばいて置いたから、以後問題は起こさないと思うよ」
古本屋さんが声を掛けてきた。アイツ?しばく?
「記憶の封印を再度、掛けたそうだ」
と、龍さん。記憶の封印?
「時が来たら、徐々に外すそうだ。君の気持ちの整理もあるだろうからな」
俺の記憶に問題があるらしい。
「すまない…事情を知らずに…」
冬空が土下座をしている。脱衣所で浴衣を脱ぎ、身体を洗い、湯船へ…
「龍さん、僕のロスタイムは?」
「2日程度だ」
「時差ボケがあるのはそのせいか…僕は人間?」
「決まっているだろ?亜樹君は人間だ。その魂を受け継いだ君は、人間だよ」
そうか…リアスが人間になったように、僕も人間になれたのか…
朝飯は、勿論、寿荘で…
「あぁ、いたいた!」
まゆこの声…ぞろぞろ入って来るゆらぎ荘の面々。仲居さんまでいるし…
「るり子さんの手料理を食べにきました」
って、仲居さん。敵情視察かな?
「ズルいです。抜け駆けなんて…」
いろはが目の前に座った。
「たまには…気分転換に…」
「じゃ、コガラシの歓迎会ならぬ、吊し上げ会だな」
って、まり子さんは呑子さんと酒瓶を酌み交わしている。
「俺の吊し上げ会?」
「そうだよ。君、亜樹君にひどいことしたよね?」
まゆこが冬空に詰め寄っている。
「まぁ…知らなかった…です」
「おいおい、説明したぞ。この街で生きる為のローカルルールを」
って、龍さん。ローカルルール?
「あぁ、亜樹君は、亜樹君らしく生きてくれればいいんだ」
封印されている記憶に、何か秘密があるのか?
---稲葉夕士---
鳥井に掛かっている封印。外しても問題はないらしいが…鳥井の中の人である神代亘は、産まれてから死ぬまでの6年弱を、修行しかして来なかったらしい。なので、鳥井亜樹という別人格の魂を宿し、日常生活を満喫させているそうだ。封印を解く行為は、鳥井亜樹の人格を外す行為になるので、禁忌な行為だという。
それを冬空がしてしまった。つい、うっかり…
神代亘は、冬空の言う通り人札であり、人間では無いそうだ。ただ、人間にする為に、鳥井亜樹の魂を宿しているそうだ。本人は人間だと思っている。信じ込ますことが大切だと、まゆこさんが言う。彼は英雄の絞り滓であるが、英雄に間違い無いから…
彼は英雄になった瞬間、人間ではなくなり、処分されたお札である。
「だけど…彼に罪は無い…彼は言われたことをしただけ…それを監禁して幽閉して、人間のルールを破ったから処分って、勝手すぎるだろ?どう思う、夕士君は?」
龍さんの問い掛けに即答出来なかった俺…
---鳥井亜樹---
毎日が日曜である夏休みの罠に嵌まっていた俺。仕事が溜まっていた。フィールドワークしすぎて、仕事をしていなかった。マズい…2週間分溜まっている。
作家として通る道である缶詰生活を始めた。ジャマが入らないと言う理由で、仙境館に缶詰になった。校正係は夏凜と九郎丸、幽奈の憑依したリアスに頼んだ。
「まさか、あの純愛ラノベの作家だったとは…」
夏凜が苦笑いしている。ファンらしい。サイン本で手を打ってもらった。
「これ…脚色しすぎるわ」
って、リアス。あぁ、悪魔と人間の青年の恋物語か…発想だけもらったからな。
「なぁ、この永遠の乙女って…私か?」
って、夏凜…ビンゴなのでスルーした。
「呪いの美処女って…僕か?」
九郎丸が声を上げた。
「あぁ、校正してくれ、処女でなくて、少女だ!」
「もっと、はずかしいよ~!」
「亜樹くぅ~ん…もう、食べられないよ~…ムニャムニャ」
幽奈が俺の背中でお昼寝中である。今日は何を食べ過ぎた夢だ?
そして、4日も缶詰作業をして、5本書き終えた。1週間1本であるから、多少の余裕が…次に、夏休みの宿題の缶詰作業に入った。
◇
1週間後、ゆらぎ荘へ生還…幽奈は0時を過ぎると、ゆらぎ荘へ強制送還されるようで、毎日俺の部屋で寝ていたようだ。
「今日から亜樹君と寝られますね。てへへへ♪」
いや、背中で良く寝ていたぞ、お前…
「先輩、出所ですか?」
いろはが声を掛けてきた。まぁ、雪姫先生の監視下の下宿屋である。収監されたのに似ていなくもない。
「あぁ、男湯が懐かしい…」
「山の整備は順調ですよ」
って、小町。
「あれ?翼とひたぎは?」
「調査に出ています」
調査?小町に話を訊くと、肝試し中に、恐怖体験談が多数あったそうだ。現場は、廃病院だという。
「そういう場所は溜まるからなぁ」
「コガラシ先輩が帯同しています。祓うのは専門だって言って」
祓うしか能がないのか、アイツは…祓うだけでは解決しない問題もあるのだが…
「小町隊員、いろは隊員に指令だ。その病院について調べてくれ」
「どういうことをですか?」
「廃墟になった経緯だよ」
「資金繰りみたいですよ」
「だから、なんでショートしたかだよ。医者の引き抜きで廃墟になった病院では、霊現象は起きない。起きるのは、怨恨絡みもしくは、狂気の末だよ」
「なるほど…調べて来ます」
二人はフィールドワークへ出掛けた。じゃ、俺も現場へ行ってみるか。狭霧とリアスが付いて来た。途中で、アーシアも借りてこよう。
---羽川翼---
廃病院って言うから、空き地にぽつんとってイメージだったが、住宅地に建っていた。一見空きビルと見えなくもない。
「ここか?う~ん…」
「どうした?」
戦場ヶ原さんが、冬空君に訊いた。
「霊の気配は無いなぁ…」
注意をしながら、病院内に侵入した。電気は遮断されているのだろう。薄暗い室内。空気も澱んでいるようだ。
「恐怖体験の事例が多いのは、手術室と死体安置所のようだよ」
冬空君に情報を伝えた。
「じゃ、死体安置所に行くか。霊的には、集まり易い場所だからな」
柱に掲げられた院内地図を見て、地下へと降りていった。なんか、甘い香りがする。なんだろうか?この香りは…
「ここだな」
死体安置所へ足を踏み入れていく。頭がぼぉ~っとする。なんでだ?目の前が真っ暗に…
---???---
ほぉ~、男一人に女二人か。女はけっこうかわいいじゃねぇか。男を死体を入れる冷蔵庫へ収納して、女達を手術室へと運び込んだ。全裸にして、薬を注入していく。首に首輪を付けて、調教をしていく。う~ん、気持ちがいい…
俺の上で踊る女。いい眺めだねぇ。仲間達が、もう一人の女で楽しんでいく。
---鳥井亜樹---
廃病院に着いた。霊の反応は無いが、悪意が渦巻いている。阿良々木警部へ連絡だな。応援を呼び、警部達と共に病院へ入っていく。空気が澱んでいる。
「アーシア、浄化してくれ」
「わかりました」
アーシアが呪文を唱えると空気の澱みが解消し、空気に流れが出来た。
「亜樹…これって…」
「人間の犯行だ。薬の香りがする。リアスと狭霧は外にいてくれ。アーシアは同行だ。浄化が必要かもしれない」
「はい」
手術室に人の気配。警部達が踏み込んだ。遊び人達が数名、何かのドラッグを回し呑みしている。ひたぎと翼は、男達に抱かれ、弄ばれていた。
「警察だ!」
男達が逃げ始めた。逃がさないよ。『雷撃の触手』を発動して、男達の動きを止めていく。
まゆこへ連絡をして、警部達にひたぎと翼を緊急搬送して貰った。
警察が大挙押し寄せ、現場検証を始めた。あれ?冬空はどうした?警察が捜すか?俺は、仲間達と月野木病院へ向かった。
◇
「大丈夫だよ…あれくらい…」
「あぁ、あの程度、蚊に刺された程度だ」
って、翼とひたぎ。
「ごめんね…亜樹君の指示を待てば、良かったよ」
「反省している。だから、見捨て無いで」
「見捨て無いよ。僕を見捨て無い君達を、なんで僕が見捨てるのさ」
で、冬空は逃げたのか?
◇
うん?なんだ、この箱は…『目安箱』とかかれた箱が、ゆらぎ荘の石段の脇に設置されていた。それを見つけたのは、翼達が襲われた翌日である。
「いろは、これは何?」
「目安箱です。警察が介入できない事案を調査する目的で、情報を集めるために設置しました」
あぁ、だから、廃病院事案を調べていたのか…
「ここじゃなく、神社に置けよ」
「あぁ、そうですね。そうしましょ」
仲居さんに迷惑だよ。鳥居の脇に転移させた。
冬空だが、死体安置室の引き出しタイプの冷蔵庫にいたらしい。警察に発見される事無く、翌朝、自力で脱出して、寿荘へ無事に帰還したのだが、当然のように吊し上げられたとか。能力のない女性二人とフィールドワークに行き、一人無事で帰ったことが、まゆこの逆鱗に触れたと稲葉が言っていた。まぁ、そうだろうな。あの二人1週間は入院だと言う。投与された薬が完全に抜けるまで、安心出来ないらしいから。
---毛利蘭---
久しぶりの家族旅行…彼が消えて1年経つ…どこで、何をしているのだろうか…私の傷心を癒やすために、温泉旅行を企画してくれた別居中のお父さんとお母さん。
「蘭!ほら、源泉だって…」
硫黄臭のする煙。温泉地に来たって気持ちになっていく。ここあやか温泉は穴場らしい。交通アクセスが悪い為、観光客は少なく、湯治客が多めだと言う。
「えぇっと…宿は天神屋だったな」
駅前の案内図を見ているお父さん。
「あぁ、あった。う~ん、山の中のようだな。これはタクシーで行くしかないか」
駅前からタクシーに乗り込み、天神屋を目指す。街の真ん中を川が流れ、たくさんの旅館が建ち並んでいる。
「駅前の旅館は取れなかったの?」
お母さんがお父さんに訊いた。
「あぁ、お客さん、あれらは、旅館でなくて、元旅館の下宿屋ですよ」
って、タクシーの運転手さん。
「湯煙が上がっているってことは?」
「家賃に食事代と温泉の利用料が含まれているんです」
って…いいなぁ、温泉のある下宿かぁ~。ふと、ある青年の顔を見て固まった私。彼だ!少し雰囲気が違うけど…妹さんと一緒にいたし。タクシーの座席後方の窓から見たのだが、見失ってしまった。この街に下宿しているの?ねぇ、亜樹君…
◇
山の中の1軒宿…街の喧騒は感じ無い。何かの啼き声がたまに、聞こえる程度である。温泉は良かった。温泉なのに薬湯ってことで、心の疲れが癒やされていくようだ。食事も美味しい…身体が癒やされる感じがする。
観光案内のパンフを魅入るお母さん。お父さんは、既に寝ている。お酒に呑まれたようだ。
「蘭、行きたいところ、有るかな?」
「あの川の流れる街に行きたい。亜樹君がいたの。夏美も一緒にいたの」
お母さんの顔から血の気が失せているような気がした。
「他人の空似よ」
なぜ、そう思うの?まるで、亜樹君が…既に…
彼氏だった亜樹君。馴れ初めは彼が、幼なじみの男子に似ていたことで、ハプニングが色々有り…で、彼からのプロポーズを待っているところだった。だけど、ある日、突然、私の前から妹である夏美と共に消えたのだ。
「どこへ行く?神社と稲荷様があるのね。山の上に…」
観光名所では無い。でも、そこが気になるお母さん。
翌日、お父さんを宿に置いて、お母さんと観光へ…
「ふ~ん、旧市街地って、あの川の辺りで、後は新興住宅地なのね」
パンフにあった観光名所は、新興住宅地に飲み込まれ、マンションなどに様変わりしていた。
「そうなると、山の上の神社しか無いのか…観光客がいない訳だ…」
観光名所が無い温泉地。観光客は来ない。宿の人によれば、泉質の惚れた温泉マニアと湯治客しかいないらしい。
神社前までタクシーで乗り付けた。帰りは駅前のタクシー乗り場で、タクシーに乗れば良いそうだ。駅まで徒歩20分くらいらしい。
石段の前に鳥居がある。天に昇るような階段…一体何段あるんだ?そこを昇り始めた。途中、竹藪のトンネルなどが有り、普通の神社とは違う感じが彷徨う。
道が二つに分かれている。1つは山肌の下へ降りる小径。もう1つは延々と続く階段。階段が本筋なんだろう。気になったのか、お母さんが小径を降りていった。そこには大きなパイプがあり、花が手向けられていた。
「死亡事故かな?う~ん…そうだ。殺人事件だわ。死体がこのパイプから見付かったんだわ」
最近、パイプ内から人骨が見付かったそうだ。あぁ、私のお母さんは弁護士で、変わった事件、気になる事件の情報を集めているのだ。ちなみにお父さんは私立探偵である。
「そうか、この神社だったんわ。神社へ向かいましょうね、蘭」
来た小径を戻る。そして、階段を昇っていく。一番上まで昇ると大きな鳥居が、出迎えてくれた。後を振り返ると、旧市街地、新興住宅地が一望出来た。絶景って、こういうことかな?
鳥居を潜って、真っ直ぐ行くと、白浪稲荷堂と書かれた祠があった。その字体を見て、私とお母さんが息を呑んだ。彼の字体であった。筆文字で書かれた文字…彼の筆捌きが見て取れる。どうして、ここに…
少し戻って、右に曲がると、白浪神社と書かれた本殿があった。この文字も彼のだ…どうして、ここにあるの?
「うっ!かわいい…」
お母さんが巫女さん達に目を奪われた。金髪の巫女、銀髪の巫女、黒髪の巫女、紅髪の巫女…顔もかわいいし、スタイルもいいし…スゴい…スカウトしたのかな?
本殿からは祝詞が聞こえる。白装束を着た神主さん…だけど、その顔を見て固まった。なんで、亜樹君がここに…
蘭パートは『新そっくりなアイツ』の続編です(^^;
あっちで、心霊ネタは展開出来なかったので…