種馬のエルフ 作:エルフスキー三世
私がダークエルフの女王キリエに仕える愛妾となってから半年のときが過ぎようとしていた。
しかし私は与えられた役目をまともに果たしているとはいえない状況にあった。何故ならキリエとの衝撃的な出会い以来、私の男がすんとも反応しなくなってしまったからだ。
私のペニスは魔術的手段によって付加された生殖器官である。
私が最初のうち四肢を拘束されていたのは、その繊細な器官が完全に癒着するまで、無駄に負担をかけさせないためだったらしい。
治りかけのカサブタを触れないようにと言われれば、頭のよろしくない私にも理解できた。
生まれつきのものではないため、私には想像できない欠陥でも生じたのかと思ったが、男性器としての機能や肉体にはなにも問題はなく、魔術師の調べでも原因は一向に特定できなかった。
女王キリエは魅力的な肉体をもつ絶世の美女である。普通ならば、その玉肌に触れることすらも叶わぬ高貴な女性であり、同性の私ですら滾るような情欲を覚えて彼女を強く欲していた。
なのに私の男は力なく縮こまり、焦がれる気持ちとは裏腹に回復する兆しがまったくみえなかったのだ。
◇
深夜、私は丈の短いドレスに着替えさせられると、双子の姉妹と共に控えの間からでた。
夜は女王の寝室で控えている私が城内を移動するのは非常に珍しいことであった。
双子には女王の命でついてくるよう告げられ、そのことに漠然とした不安を感じていた。
男として役に立たず、女の機能も消失している欠陥品の私にキリエは良くしてくれた。
毎晩、私をその腕の中に優しく抱きしめて一緒に眠りについてくれる。
情欲と同時に感じる母のように落ちつける温かさと柔らかさ……。
私の人生においてこれほど幸福だと実感できたことはなく、それ故に……いつ奪われ失われてしまうのかと、どうしようもなく恐れを抱いていた。
本来であれば女王キリエに奉仕して彼女の肉欲を満たすことが私の務めだ。
歌えなくなった小鳥ならば愛玩として飼う者もいるかもしれない。だが役に立たぬ家畜にただ飯を食わせてやるような酔狂な飼い主がどれほどいるのだろうか?
このままではキリエに捨てられてもおかしくはない、そう常に考えていた。
ダークエルフの最高権力者である彼女から寵愛を受けているとはいえ、私は自分の価値というものを過信していない。しょせんはハーフエルフの奴隷、幾らでも換えのきく存在なのだから。
岩を削って作られた暗い通路を双子は私の手を取って誘導するようにゆっくり歩いてくれた。エルフの血を引くとはいえ彼女たちほど暗視がきかない私には非常に助かるものだ。
ダークエルフは闇を好むという。それ故なのかダークエルフの国は闇深い森の奥、切り立つ険しい崖を削った天然の要塞の中にあった。
一見、不規則で歪な構造だが原始的とは感じない。むしろ自然と人工物が融合した荘厳な作りは、無教養な私ですら感動を覚えるほどで見事としかいいようがない。
孤児院ではダークエルフとは野人のように生活を送り、野蛮で淫乱でそして破壊と殺戮を好む邪悪な種族だと教えられていた。
だが、ここで過ごすことでその認識は一変した。
彼女たちは野蛮ではなく、そして無為に血を流すことを好む狂戦士でもない。
私が直接会って話をしたダークエルフは両手の指で数えられる程度だが、この勘は外れていないと自信をもって断言できる。
むしろこの種族はエルフたちよりも遥かに俗世にまみれてなく、理知的で自然と共にあるがままに生きていると感じられた。
私はエルフの下級民であるハーフエルフである。
自らの子すら自由に手にすることのできなかったエルフ社会の外にいたはぐれ者だ。
だからこそなのかもしれない。
私が今までの人生で体験してきたエルフの負の部分、取り繕うための歪み……汚れ仕事に比べたら、飾らないダークエルフたちの人柄や生活は素晴らしく高尚なものに思えたのだ。
辿りついたのは頑丈な鉄製の扉をもつ地下部屋であった。
双子は鉄扉の前で足を止める。どうやら中に入れということらしい。
監視窓らしい隙間から室内の光が漏れている。私は不安を抱きながらも重い扉を開いた。
微かな麝香の香りがした。目を閉じてゆっくりと部屋に入る。闇の中を歩いてきた私の目が光になれるまでしばらく待ち、そして静かにまぶたを開く。
見えたのは部屋に漂う幾つもの魔法の光球と、その光に照らされるキリエの側仕えである四人の女の衛兵たち。
そして、この国にいるはずのない、忘れたくとも忘れられない……エルフの女がいた。
恐怖――その女が目の前にいるという事実に途轍もない恐怖を感じた。
カタカタと足が震えて涙が滲んだ。私の腹部に、かつて子宮のあった場所に痛みが走った。
激痛にうずくまりそうになる体が背後から抱きしめられる。振り向くとキリエが慈母の微笑みを浮かべて私を腕の中に包んでくれていた。
その優しさに私の強張った体の力が抜け、甘える子供のように寄りかかってしまう。
「どういうことかしら女王キリエ? エルフの国の代表として来ているわたくしを、このような汚い場所に連れてくるなんて……これがダークエルフ流の客に対しての扱いなのかしら? このことは我が王にもしっかりと報告させてもらいますからね?」
エルフの女がそう不機嫌そうに言葉を発した。
私は再びエルフの女を見た。私一人ならば見ることすらできなかっただろう……しかし、肌で感じるキリエの体温と体臭が私の心に勇気を与えてくれた。
結いあげた金糸の髪、美しい容姿だがきつい眼差しと顔立ち。女性らしい豊かな体には、上質な仕立ての上着とズボンという男のような格好をしていた。
その特徴は間違いなかった。
エルフの女はエルフの国の王族……七人いる皇女の末妹。
暴虐者、セシリア・ラ・トルテであった。
下級民を監視する監視官たちの名ばかりの長であり、下級民たちの街に気まぐれに訪れては、施しと称して目につく者を虐げる加虐趣味の権力者。
――遊び半分で私の子宮と人の形成す前の赤子を奪った、殺してやりたいほど憎い相手だ!
セシリアは女王の胸に抱かれた私を無関心そうに眺めて鼻を鳴らす。
「それとも、その奴隷が貴女の見せたかった宝物なのかしら? だとしたら残念ね、野蛮なこの国ならいざ知らず、穢れた血の混じったハーフエルフなんてエルフの国では価値すらないわ」
そう口に手をあて笑ったのだ。
私の体が震えだす。今度は恐怖ではなく怒りで。
ああ、分かっている、分かっていたんだ……この女は私にした仕打ちどころか、私の顔すらもろくに覚えていないということに。
セシリアという高貴な姫君にとってはハーフエルフの下級民は人ですらない。道端に転がる石ころにも劣る存在なのだから。
そして、それ以上に、キリエを侮辱にされたことに私の心に業火のような激情が宿った。
「衛兵、その女の囀りは耳障りじゃ、そろそろ黙らせろ」
女王キリエは怒りで震える私を抱いたまま、つまらなそうに告げた。
「「えっ?」」
私とセシリアの疑問が同時に重なる。
セシリアは自らの発言の愚かさに気づかずに、私はエルフの国からの賓客であろうこの女に対してのキリエの発言に。
衛兵たちは女王の言葉に異を唱えず、セシリアの両肩をつかむと部屋の中央にあった台の上に彼女の上半身を押しつけて手と足を鎖で拘束した。
「い、痛いっ! なにをするの!? わたくしにこんなことをしてお父様が黙ってはいませんわ!! エルフの国と戦争になるわよ!!」
「状況も理解できぬとは愚鈍。エルフの民から愚かしき姫と揶揄されるだけのことはあるのう」
「な、なにを言ってるの! このわたくしを侮辱するつもりですかっ!?」
腰を折り曲げて、お尻をこちらにつきだした無様な姿勢で、なおもセシリアは咆えた。
「まだ気づかぬかえ? それとも気づかぬ振りをしているのか? 貴様はエルフの国から我が国に贈られた友好のための贈呈品……つまり奴隷ということだ」
「なっ!?」
「貴様はエルフの王族の中でも厄介者だったようだな。わらわが身柄を要求したら、エルフの王はあっさりと了承しおったわ」
「う、嘘!? そんなの嘘に決まっているわ! わたくしを騙そうとしてもそうはいかないわよ!!」
「ならばここまで貴様を送ってきたエルフの者たちはどこにおる? 何故、この国に着いてから、わらわに謁見するより先にこの地下部屋に案内されたと思う?」
「嘘……嘘よ! そんなの嘘よ!! い、今ならまだ許してあげます、早くこの戒めを解いて、わたくしを賓客として丁重にもてなしなさい!!」
キリエはセシリアの発言に呆れたような溜息をついた。
「いやはや、まったくもってうつけじゃ。衛兵、その女の下穿きを脱がせろ」
「い、いや!? やめなさいっ!!」
「正直な話、わらわは貴様などにはこれっぽっちも興味はない、だがしかしな……」
キリエは言葉を切ると私の首筋に唇を近づけて触れるような口づけをした。
丈の短いスカートがキリエの手によってまくられ、私の子宮のない腹部が優しく撫でられる。
「わらわの愛し子にしてくれた仕打ちは、その身をもって贖ってもらうぞ」
「ひ、ひいっ!?」
私にあれほどの恐怖と痛みを与えたエルフの姫君セシリア。
暴虐者であったこの女は、惨めに拘束されたままズボンと下着を足首まで落とされ、私の目の前で下半身を無防備に剥きだしにされて子供のように怯えていた。
「愛し子シェリーよ、この女を犯せ……そして孕ませて、奪われたお主の子を取り戻すがよい」
セシリアの高貴な者らしい豊かに肉の乗った女尻と、肉厚で綻びもない一本筋の女性器。
囁かれる蠱惑的なキリエの言葉に、私の体の奥底から黒いものが沸きあがってくるようだった。
女王キリエの美しい手の中で、私の男は信じられないほどに硬く勃起していたのだ。