色気の無い文章で申し訳ない。
本当はこういう内容の話でも濃く書きたいなとは思ってる。
そして半年後。
ヘラスの街―――
「「「「うわああああああああーーーーーーーっ!!!」」」」
「かかれかかれぇ!歯向かう奴は皆殺しにしろ!女は好きにしろやぁ!!」
「「「おおおおおおおおーーーーーっ!!!」」」
怒号と悲鳴が入り交じる白昼夢。
夢といってもそれは悪夢そのもの。
山の方面からみすぼらしい格好に武器を持った山賊がやってきて、街を荒らしまくる。
それも百を超えるような軍勢でだ。
街外れた場所で山賊が街の人を襲ったりする事はよくある。
だが、こうも徒党を組んで、しかもこれほどの数で街に攻め込んでくる事は未だかつてなかった。
それも何も前触れもなく。
街を守る自警団も急襲されたせいで全く機能しないまま、彼らに街を蹂躙されてしまった。
抵抗する男は皆殺しにされ、女は見つかったその場で犯され…
「今日からこの街は俺達の物だ」
鴉が街に舞い降り、辺りに飛び散った血肉を啄む。
忌々しいその姿と賊達との姿が思い重なった。
降伏した市民を前に、高台に上った一人の男が言い放つ。
髭を生やして、肥えた腹を剥き出しにした半裸姿の男だ。
言わずとも、彼が山賊達のリーダーである事は分かった。
「今日からお前らには人頭税を払ってもらう」
「じ、人頭税…?」
その言葉を聞いて、急にざわつく民衆。
人頭税とは、納税能力に関わらず、全ての民衆に定額を課す税金の事である。
今まではクーニッツ騎士団の下、負荷の小さい税が課されていただけだ。
それを人頭税…それにこの賊相手に払うのか…?
民衆のざわつきはより大きくなる。
「うるせえ!!何が不満なんだぁ!?」
リーダーが民衆に対し、怒声を上げた。
しかし、民衆のざわつきは収まらない。
「…い、いや、人頭税など…我々は払った事も無いし、そもそも幾らなんだ?」
「収入の8割。もらう」
その淡々と声に悲鳴とも知れぬ声が響く。
「は、8割…?」
「嘘だろ…」
「な、何を言っているんだ…?8割…そんな…?」
信じられないといったような民衆。
しかし、賊の方も何も考えていないという訳では無かった。
「人頭税を免除する方法が一つある。…俺達の仲間に入れ」
ニヤリと髭に埋もれた口元から黄ばんだ歯を覗かせて、笑顔で語る男。
だが、彼の期待は当然の如く外れた。
「…あ、あんたらの仲間なんか、入れる訳ないだろ」
「別に経験だとか力量なんざ求めてねえよ。戦いで使い物にならねえんだったら裏で荷物持ちしてりゃ良い」
「いや、そういう問題では無くて…」
一人、身なりの良い初老の男性が先程から賊に対して異議を唱える。
おそらくヘラスの貴族か何かなのだろう。
命が惜しいと降伏してきた身なのにも関わらず、賊のような下劣な者とは生理的に相容れないといった風にしている。
「あぁ?さっきからごちゃごちゃうるせえな」
ずしんずしんと高台から男が降りて、その身なりの良い男のもとへ向かっていく。
手には血濡れた大剣が握られていた。
「…なっ?何をする気だっ?」
「従わねえ奴がどういう風になるか教えてやろうか?こうだ」
ブシャッッッ!!!
目にも留まらぬ一閃。
気が付けば、隣にいた男の身体に大量の血しぶきが降りかかる。
「…えっ?うおわあぁっっ!!?」
驚いて腰を抜かす男。
隣に身なりの良い男が立っていたはずだが、そこには鮮血の池に臓物が浮かんでいた。
「従わねえならこうなるって事だ」
不気味な笑みを浮かべながら語りかける男に、民衆はざわめきを一斉に止める。
大剣を肩に担いで、横一列に並んだ賊共へ手を広げる男。
「良いか!?この世ってのは強さが全てだ!強い奴が正義なんだよ!税金取ろうが暴利取ろうが、強い奴がやりゃあ誰も文句言わねえんだ。こいつらだって山の中でみみっちい派閥争いしてたのを俺がまとめ上げてやったのさ」
如何にも賊らしい持論を民衆へぶちまける男。
しかし、ある種それは正論でもあった。
実際、その強さを見せつけた彼に誰一人として異論を唱えられないのだから。
「へへっ…異論はねえな?」
ごくり、と民衆の呑む生唾が答えだった。
傍にいた民衆の一人に「拭け」と血濡れた大剣を渡す男。
「おお、そうだ。これからお前らの頭するんだから名前くらい名乗らねーとな…えーっと、そうだなぁ、『ラヴァ』とでも名乗っておこうか」
『ラヴァ』と名乗った男。
つい半年前はこのヘラスの街で偶然見掛けた美女に見とれて、半殺しにされたはずの男である。
その無力な男が何故、こうまで力を振るう事ができるのか。
あの怪しげな錬金術のおかげだ。
彼はリザードマンやドワーフといった異種と錬金術によって交わる事で彼らの特性を身に宿す事ができたのだ。
成功する可能性は五分だったというが、それを成功に導いたのは彼の悪運という他ない。
失望と諦めで顔を青くする民衆を後に、その場を去るラヴァ。
「よお、お前の言った通りにやってやったぜ?クラフティ」
裏で控えていたみすぼらしい男の肩にぽんと手を置くラヴァ。
クラフティと呼ばれた男はぼろ切れのようなローブを身に纏い、「ゲヒヒ…」と独特の笑い声を発す。
「いやぁ…お見事でしたよ、ラヴァ様。勇猛な頭目っぷり、いやはやお見それしました…」
「だろ?」
有り余る力に驕った無能な頭。
薄汚いローブから覗く二つの眼からは真実が見えていた。
彼はいわば軍師といったポジションだろうか。
山の中で出会った山賊の一人で、考え事が苦手な彼に代わって策を練っているといった関係だ。
「フフフ…これから俺の野望が始まる…騎士団だろうが教団だろうが帝国だろうが、どっからでもかかってこい。いつでもヒネり潰してやる…!」
独り息巻くラヴァ。
欲望のままに野望は広がっていく。
繁栄、豪勇、そして女…
様々な夢はあるものの、最終的な目標は一つ。
あの日の美女の背中が彼の野望の行く末だ。