1話と2話は細かい設定を詰め込むだけの展開なのでそのうち書きます。
まずはターゲット:フィリーネ。
街には白地に六角形のような印を刺繍した旗が溢れていた。
御旗の下には何十騎もの軍馬。
そして、白い甲冑に身を包んだ騎士達。
「…クーニッツ騎士団、本当に来やがった」
物陰からそれを覗いていたロヴァが目をひん剥いて独りごちる。
「お、親分…どうするんすか…?」
騎士団の姿を見ただけで青い顔になっていた手下が恐る恐る聞く。
無理もない。
山賊達からすれば彼らの息のかかった自警団でさえ厄介極まりなく、到底真正面から当たるという事は考えたくない。
元々は人目に触れず、盗みを働き、力を行使するのは弱い人間だけだ。
まともな戦闘の訓練など受けていない彼らとクーニッツ騎士団とでは虎と鼠くらいの差がある。
たった一人、その虎にも匹敵する人物がいるというだけで。
「ビビるんじゃねえ!お前ら。騎士団って言っても数はそういねえ。奴等だって自分達が来たら賊なんてビビって引っ込むって思ってんだ。つまりここで前に出れば相手の意表を突ける」
その言葉にさらに顔を青くする手下達。
騎士団と戦う?
そんな事、生まれてからただの一度も考えた事がない。
「じょ、冗談じゃねえ…親分、俺らに死ねって言ってるんですかい?」
「行きたくねえなら行かなくても良い。何なら俺一人で突っ込んでっても良いぜ?」
騎士団と戦うなんて冗談じゃない。
その気持ちはロヴァにもよく分かっていた。
ついこの間まで彼らと同じ"常人"だったのだから。
だが、今はどうだろう?
剣戟を通さぬドワーフの如き肌、しなやかさと爆発力を兼ね備えたリザードマンの筋肉、獣の持つ俊敏さ、心身共に若返ったような感覚…
そして、生まれ持った燃え滾る野心。
それらを兼ね備えた今、騎士団にだって負ける気はしない。
だから、一人で突っ込んでも勝てる自信があった。
「ゲヒヒ…私は大将の案に賛成しますけどなぁ」
その声に一同ざわめきを含ませて振り返る。
そこにいたのは相変わらず薄汚いローブを纏ったみすぼらしい男であった。
「クラフティか…何か言いたい事でもあんのか?」
「ゲヒッ…大将の言う"戦う"という選択肢それ自体には賛成です…が、ただ真っ向からぶち当たるのではいくら大将が頑丈でも勝算が薄い…」
賊徒一同の冴えた頭脳が、トチ狂ったとしか思えないロヴァの作戦に乗る。
いよいよおかしくなってしまったのかと、他の賊達は頭を抱える。
だが、二人の通い合った意思は間違ってはいなかった。
「幸いにもここは騎馬隊に対して利をとれる街。彼らも馬鹿ではないからここまで踏み込んでくる事はないでしょうけど…」
「じゃあ、なんであいつらあんな大所帯で来たんだよ?」
一人の賊徒が疑問をぶつける。
確かに騎馬隊の機動力を存分に活かせる平原で戦うのが彼らにとってはベストだ。
逆に市街で戦う事になれば自分達がゲリラ戦を敷いて利をとれる、つまり騎馬にとっては不利だ。
「ゲヒヒ…それは、いわば"抑止力"でしょうなぁ」
「よ、よくしりょく?」
「ええ…クーニッツ騎士団からしたら少し自分達の力を見せつけて、『いつでもお前らなんか叩き潰せるんだぞ!』というメッセージをおそらく我々に伝えたいのでしょう。そうやって、我々の活動を目立たないものにさせるという意味で」
つまり、今回の出兵は見せしめ。
戦う事が目的ではなく、賊を脅す意味での出兵。
ただ、彼らにも戦うつもりが一切無いかと言われればそうでもないように見えるが。
「彼らからすれば我々をここで倒す事など、草葉を"切る"事に過ぎない。抜本的な解決には草や木を根っこから引き抜かなければいけない…」
おそらくジギスヴァルトは賊の壊滅については、武力によるものではなく、政による方法で図ってくるはずだ。
だから、今回はいわば応急処置に過ぎない。
出すぎた杭を叩くという。
「そして、自分達の戦力を見せつけるだけ見せつけて、今後はよりいっそう自警団の目も厳しくなる…そうなれば、我々はどうなりますかねえ?」
「うっ…」
もうこの街にはいられなくなる。
街を失えば自分達など他の賊と同じレベルだ。
みかじめ料も人頭税ももう取れなくなってしまう。
そして、再び山の中で低レベルな諍いを他の賊と繰り広げ、何の旨味もない貧しい暮らしに戻ってしまう。
それは何としてでも避けたかった。
「…と、言う訳だ。つまり俺らはここで前に出るしかねえって事だよ!」
頭の悪い自分に代わって全てをかみ砕いて語ったクラフティの肩をがしっと抱えて、ロヴァが全員に呼びかける。
「低レベルなチ●カスに戻りてえなら女みてえに引っ込んでな。俺は行くぜえ?正面から」
「ゲヒッ…正面から?それはやめておきなさいな…」
「うるせえ。オカマ臭えのは嫌いなんだ」
「あっ、ちょっと…!」
あくまで奇襲を提案するクラフティに有無を言わせないまま、ロヴァは大剣を持って立つ。
正直、楽しみだった。
錬金術によって改造された自分の力、それを全て出すに値する相手に今まで会ってこなかったのだ。
山で会ってきた賊共はカスの如く自分の前にひれ伏していった。
自分の力の半分くらいしか使わないまま、ここまで来たのだ。
自警団の連中も自分にとっては大差なかった。
クーニッツ騎士団。
一体、どの程度のものなのか。
「少しは愉しませてくれよな?」
昔、後ろで見ているだけだった賊の頭の口癖。
一度は言ってみたかった。
「警告する。賊徒共。今すぐ出頭すれば命だけは助けてあげます。クーニッツ騎士団の御旗の下に、貴方達の罪を裁いて差し上げます」
「おい、女が何かほざいてんぞ?」
布陣する騎馬隊の中から白馬に乗った騎士が一人、手を振りかざしながらゆっくりと前に出てくる。
他の騎士の馬は鹿毛か黒鹿毛だ。
その中で一人だけ白馬に乗っているという事は、それに乗っている騎士が隊長だという事だ。
「私はクーニッツ騎士団副団長、フィリーネ。今すぐ出頭すれば貴方達の罪は私達が裁いて差し上げます」
「"罪を裁いてやる"って言ってんだ。冗談じゃねえ!クソアマが」
高らかに響く、美しくも凜とした声でどこに隠れているともしれない賊共に呼びかけるフィリーネ。
相手が女と知り、急にいきり立つ賊達。
彼らにとっては女など性欲処理のためだけの肉便器にしか過ぎないからだ。
「いっちょ前に馬乗って、鎧着て、調子こいてんじゃねえぞあの女」
女が武装する。
それは彼らにとっては猿が服を着る事と同じくらい可笑しい事であった。
しかもそれがクーニッツ騎士団の副団長ときた。
「副団長ってーと…何人かいるのかねえ?」
「その上にいくつも他のポストがあるんじゃねーの?ややこしいから知らねーけどさ」
副団長とくれば団長のジギスヴァルトに次ぐ組織のNo.2だ。
そんな大物がこんな場所に来るなんて思いによらなかったし、ましてやそれが女だとは誰も信じられなかった。
「オイ女、そんな所で何してんだぁ?」
「…?」
街の方から自分達の布陣する平原へ歩いてくる姿を一つ確認。
半裸の肉体を曝け出し、大きな剣を持つ姿から自分達に敵意を持つ存在だと認識できる。
「…構えて」
「ハッ!」
ガチャガチャと金具の鳴る物々しい音と共に、騎士達が戦闘モードに入る。
しかし、相手は一人?
予想外の事態に、フィリーネさえ目を疑っていた。
「…んん?よく見たら」
風に靡く束ねた金髪、夢や希望といったものをたたえた美しき双眸、血なまぐさい戦場などには似合わないほどきめ細やかな肌…
そして、騎士として十二分な、凜とした佇まい。
「…イイ女じゃねえか」
じゅるりと、思わずヨダレが垂れる。
騎士団全員なぶり殺して終わりかと思えば、その後にも愉しみがあるのかと思えば余計力が発揮できるというものだ。
「オイ、姉ちゃん。女だてらにごつい甲冑着て、ごつい武器持って、何の真似事だぁ?」
「…貴方が彼らのリーダーですか?」
下卑た態度でフィリーネに言葉をぶつける男。
対するフィリーネは凜々しい佇まいを崩さずあくまで丁寧な口調で応対する。
「そうだぜ?姉ちゃんも同じか?」
「…」
「ウヘヘッ!つれねーなぁ、もっとおしゃべりしようぜ?」
「副団長!こいつ…」
「待ちなさい!」
自分達の上官に下品な態度を崩さないロヴァに、憤って迫ろうとする騎士。
それを鶴の一声でフィリーネが制す。
彼女の態度はただただ凜然としていた。
「先程も申し上げましたが出頭するのであれば貴方達の負っている罪は私達で裁きます。勿論、死刑や罰金などという形ではなく…懲役を科し貴方方が社会に復帰できるよう更生を…」
「オイオイ姉ちゃん、随分ベンキョーできんだなぁ…俺ぁ頭悪りーからよ」
ウヘヘ…と薄笑いを浮かべながらフィリーネの言葉を遮るロヴァ。
「そんな事ぁ聞いてねーんだよ」
「貴様…!」
「待って」
フィリーネの細い腕で制された騎士達は、今にも怒りを爆発させんとその兜の下から獣のような眼光を覗かせる。
血の気の多い連中だ。
騎士団という清廉とした名目を持ちながら、彼らの中には戦闘が好きでそれを生業にしたくて騎士団に入った者も多い。
正義という名の下に血の付いた刃を振るっているだけ、それでは賊徒や他の勢力とやっている事と一緒なのでは無いか、社会的にそういう謗りを受ける事もあるらしい。
「それは貴方が、いや貴方達が私達の要求を受け付けない、という事でよろしいでしょうか?」
「姉ちゃんの夜の誘いなら受け付けるけどよぉ」
下品な言葉にも眉一つ動かさないフィリーネ。
彼女がクーニッツの副団長になるにあたっては多大な批判を受けたものだ。
『女だてらに~』『女の癖に~』
だが、彼女はそういった批判を実力ではねのけて今日ここにいる。
だから、変な話…そういった自分に向けられる下品な言葉には慣れてしまっているのだ。
そんな口を叩く者など今まで数え切れないほど黙らせてきたから。
「分かりました。ならば、私達も実力行使をしなければいけませんね…」
やっと来ましたと言わんばかりに、後ろの騎士達が色めきだつ。
開幕のファンファーレと言わんばかりに、騎馬がヒヒーン!と天を仰いで高らかに鳴く。
「貴方達の悪逆非道は聞き及んでおります…歯向かう者は殺害し、婦女を辱めて…」
「ウヘヘッ!安心しろよ、今すぐお前もその中に入れてやるからよぉ」
フィリーネが手に持つレイピアを鞘から抜く。
「私自身の手で誅して差し上げます」
「馬上から引きずり下ろして、その厳つい甲冑ひん剥いてやるよ…ハダカになりゃあ騎士サマだろーがその辺の女だろーが変わんねーからなぁ」
ロヴァの股間の槍は既に天を貫くような勢いで膨れ上がっていた。
今まで犯してきた女と比べても格段に美しい。
それだけでなく自分に仇なす騎士団の副団長様ときてる。
罪を裁くだの、正義だの、民衆のためだの。
そんな戯言をほざく存在を欲望のままに犯せるとしたら、どれだけ気持ちいいものだろうか。
その美しくも冷たい表情が屈辱と苦痛に歪む様は、どれだけ素晴らしいだろうか。
ロヴァの頭の中はもう既に戦いが終わった後の光景を思い描いていた。
だが、いつだってその光景が現実になる訳ではない。
賊vs騎士団、今開幕の狼煙が上がる。