7月15日(木) 惑いはあり得たかもしれない暴挙 作:神無鴇人
7月15日
「ただいまー。……あら?」
この日の朝、帰宅した東方朋子は見慣れているはずの自宅に違和感を感じた。
普段とは違う、どこか異質な空気に……。
「仗助かしら?
仗助ー?アンタ、まだ学校行ってないのー?」
声を出してみるが帰ってくるのは静寂のみ。
やはり気のせいかと考え、朋子は改めて家に入り、窓を開けて換気を行ってから冷蔵庫へと足を進める。
「……あ!」
だが、目当てのものには異変があった。
「仗助の野郎すっげー行儀が悪いわ!私の大好物の鎌倉カスター一口だけかじって冷蔵庫に置いとくなんて!
しかも最低でも二つは残ってたはずなのに、ムカつくわアイツ」
息子の行為に憤慨しつつ、関節キスになってしまうが、息子ならセーフだろうと考え、朋子は食べかけの鎌倉カスターを口に運んだ。
「……ん?」
不意に、何やら香ばしい香りが鼻につき、朋子は振り返る。
振り返った先には何故かコーヒーと折りたたまれた布があった。
それもコーヒーは湯気を立て、今まさに淹れたばかりのものだ。
「仗助!やっぱりアンタいるんじゃない!いるんでしょ!?」
やはり仗助がまだ家にいると思い、朋子は声を上げるが帰ってくるのは静寂のみ。
訳が分からず怪訝な表情を浮かべる朋子だったが、ここである違和感に気付く。
(……これ、ハンカチじゃない?)
コーヒーに添えられていた布。
最初はハンカチかと思っていたが、それにしては手触りが違う。
そして折りたたまれたそれを広げた……。
「っ!?」
布の正体は自身の下着だった。
そして何より異常なのはその下着に書かれた文字。
『お前のパンティーだ!!』
「な、何よこれ……!?」
異質……そして不気味なその様に、朋子は思わず声を震わせる。
最早息子の悪戯では済まない。いや、
つまりこれは……
「恐怖を感じない人間はいない」
「ひっ!?」
不意にかけられた声。
振り向いた先にいたのは、誰もいない筈の椅子に座る見知らぬ少年の姿。
「怖いという態度や表情を押し隠そうとしても駄目だ。
心の奥深い所の恐怖っていうのはそれは決して取り除くことはできない。……誰だろうとね」
「だ、誰?どこから入ってきたの!?」
“ゴクリ”……と唾を飲みながら、朋子は声を絞り出す。
その様子に少年は愉悦を感じるかのように笑みを浮かべる。
「今見て分かったが、あなた怖がった時『唾を飲み込む癖』、ありますよね?どんな人間だろうと『ビビった時』無意識の『サイン』を出すものなんだ。
恐怖に縮み上がった時のクセをね……自分で気付いてない?」
「だ、誰っ!?聞いてるのよッ!
お金だったらあげないわよ!すぐ出ていきなさいッ!」
恐怖を振り払うように朋子は近くにある包丁を手に取り、少年に刃を向けて威嚇する。
しかし、少年は動揺した素振りも無く不気味な笑みを浮かべたままだ。
「強盗に見えますか?お金なんていりませんよ……むしろ払いたいぐらいだ。だってぼくは今すごく楽しんでいるのだから。
今、あなたに注目されているのがすごく楽しい……恐怖であなたがぼくを注目して見ている事がね……」
不意に少年は一枚の折りたたまれた紙を懐から取り出し、それをテーブルの上に置いてパタパタと広げ始める。
そして完全に紙が開かれた時、先程まで自分が食べていたものと同じ鎌倉カスターが出現した。
「……ッ!?(ゴクリ)」
「おやぁ?また唾を飲み込みましたね?」
ニヤニヤと笑いながら朋子を見つめ、少年は手に取った鎌倉カスターを口に運び、それに齧り付いた。
「ッ!!」
齧られ、歯型の付いた鎌倉カスター、その歯型を見て朋子は目を見開く。
それは先程、自分が仗助のものだと思って食べていた鎌倉カスターにあった歯型と全く同じものだったのだ。
「ククク……」
「あっ……あぁ……!」
さらに少年は齧った鎌倉カスターをレロレロと舌を這わせて舐め回す。
その姿に朋子はまたしても唾を飲み、手に持った包丁を落として、震える手で自身の唇に触る。
冷蔵庫にあった齧られた鎌倉カスター、それを食べていた自分、それと全く同じ歯型のものを舐め回す少年。
つまり自分はこの少年と……。
「ほーらッ!今また『唾を飲み込んだ』ぞ!
やっぱりそれがあなたのビビった時の『サイン』だ!!」
「い、嫌ぁッ!!」
最早恐怖を抑えきれず、朋子は悲鳴をあげて少年から逃れようと駆け出す。
そして、その様子を満足そうに眺める少年の背後に現れる不気味な影が朋子へと迫る。
「そして『恐怖のサイン』を見付けた時、我がエニグマは絶対無敵の攻撃を完了するッ!!」
現れた少年のスタンド『エニグマ』が朋子を捕らえるように拘束し、その身体を紙へと封じ込める。
だが……
「おっと、そこで一旦ストップだ」
不意に少年はエニグマの動きを止める。
封印が途中で止められ、朋子は両手と背中のみが紙に封じられた形で床に座り込んでしまった。
「な、何なの?う、動けないッ!?」
「折角こんな美人を捕まえたんだ。少しぐらい役得があっても良いよなぁ?」
混乱する朋子に少年はゆっくりと近付き、彼女を舐め回すように見つめて観察する。
36歳という年齢を感じさせない程に若々しい肌、スーツ越しでも分かる程に豊かな乳房、スラリとした脚、橙色の口紅が引かれた形の良い唇。
これだけ美女の条件を満たした女が自分の思うがままに恐怖に怯えている姿は、少年……宮本輝之輔を興奮させるに充分すぎるものだった。
「な、何を……何をする気なの?」
「そんな事、決まってるじゃないか」
怯える朋子に輝之輔はゆっくりと手を伸ばし、彼女の衣服を思い切り破り捨てた!
「ひぃっ!や、やめなさい!やめて!!
それだけは駄目!駄目なの!!」
必死に身を捩り、抵抗する朋子。
だがそれは目の前の男を余計に興奮させてしまう事を彼女は身を以て知る事となる。
今回はココまで。後編へ続きます。
エニグマの攻撃途中中断は自分が勝手に考えたものです。