戦闘場面に多くの文字数を割きますが、艦娘の被弾描写を躰の欠損や流血で表現しているため結構グロくなります。
あと、艦娘の改二実装に伴う艤装のカタチが原作ゲームと大きく異なるうえ、専門用語も多数出てきます。
以上のものが苦手な方は、ブラウザバックを推奨します。
「敵艦隊の殲滅を確認。周囲に反応を認めず」
真夏特有の照り付けるようない快晴の下、凪の海原に立つ一人の少女が誰もいない虚空に向かってつぶやく。
その周りには、生き物と呼ぶには余りにもおぞましいとしか表現のしようがない物体の死骸が、幾数十ほど転がっている。
いまだ硝煙と鉄のにおいを放つそれらはまるでヒトを模した様でもあり、あるいはケモノを模した様でもあった。
『了解なのです。直ちに帰投してほしいのです』
少女の呟きに反応するかのようにして、少女の手に持つ通信機から、別の少女の声が聞こえてくる。
屍の上に立つ少女よりもはるかに幼いその声は、波間に立つ少女を心配し、労をねぎらい、生きていることを喜ぶように柔らかかった。
「了解。帰投します」
そう言って、少女は家路につこうと腰を浅く落とす。
いま、少女が立つそこは敵地のど真ん中。
異形の使途が跳梁跋扈する、地獄と同程度の、血と命が日常的に零れ落ちる危険極まりない場所。
戦人としての務めを果たした以上、一刻も早く血と硝煙の匂いが充満する不快極まりないこの海域から立ち去りたかった。
『あ、あの・・・』
突然通信機の向こう側から呼び止められて、少女は「なぁに?」と短く応答する。
移動しながらの会話は航行の集中力を乱してしまうから、通常は帰投する時に余計な会話を挟むことはしない。
それは、彼女も承知のはずである。
それでも、ソレをしたということは、よほど重大な話なのだろう。
『もどったら、その・・・』
通信機ごしでも【もじもじ】という効果音が聞こえてきそうな声音で、少女は途切れ途切れに言の葉を紡ぐ。
彼女との付き合いは、他の新参と古参の仲間たちと比較して中の上くらいしかないけれど、こういう場合は大抵難しい話題を言おうとしているからなのだということを、波間の少女は理解している。
―――――そして、その話題が何であるかも。
「わかったわ。戻ったらそのあと行きましょ」
『は、はい。約束なのですっ!』
承諾されて、少女の顔がパアと明るくなる。
実際姿は見えていないのだが、『待っているのです』と締めて通信機を切ったその声音だで、彼女がどれだけ喜んでいるのかははっきりとわかった。
その屈託のない声音に、波間の少女は徐に奥歯をギリリと噛む。
正直なところ、彼女との約束は気乗りしなかった。
いいや、嬉しくないわけではない。
でも、その約束を果たしたことによって、結果的に彼女が傷つくことになるのでないか。
悲しむことになるのではないか。
「約束しなければよかった」と、後悔することになるのではないか。
そんな、杞憂とも邪推とも呼べてしまうことを、あれこれと考えてしまうのだ。
(でも、断ればあの娘《こ》・・・・余計に悲しむだろうしな・・・・)
あれこれを理由を付けて断ることは可能だろう。
実際、そうして約束を反故にしたことは何度かある。
ただ、そうなった場合、泣きそうな顔で精一杯の笑顔を作る彼女の顔を見る羽目になるから、結果的に罪悪感の二乗となってしまうのだ。
畢竟、傷つけてしまうことに変わりがないのであれば、約束を果たす方がまだ心情的に楽かもしれない。
「・・・・今度こそは守ろうかな。約束」
気落ちした心に幾分かの渇を入れ、少女は家路につく。
この先の海域で自分の合流を待っている、幼き相棒の下へ。
人心を磨り潰さんと猛り狂う戦乱の世で、「それでも」と人心を掲げて戦禍に立ち向かう私の親友の下へ。
(約束、か・・・・)
何時か、それが楽しいと思える日が来るのだろうか。
――――せめて、あの娘《こ》の前くらいでは、精いっぱいの笑顔でいよう。
そう心に誓いがら、少女は帰路に就こうと歩き出す。
いつの日か。そう、何時の日かその誓いが心からのものとなる日が来ることを、信じて。
プロローグ部分となるため、本格的な艦娘の登場はこの後となります。