※この作品はR-18です。

悠久の戦役 第一幕『救済の狼煙』   作:真名無しの艦これ好き

5 / 8
この作品では、初めての戦闘シーン(導入部分)になります。
第一話の前書きにも書きましたが、戦闘描写を肉体の損壊で表現しているためリョナ表現が多数出てきます。
なので、この章と次の章はR-18Gで書きます。





第5話

――――間宮での一件から数時間後。

 

 北方AL海域南東部。

 茜色の太陽が西の水平線に没し、夜の帳が下りて久しい北海の海原では、ある一つの再開劇が始まろうとしていた。

 

 

「・・・・そろそろ目的地ね。カクカン、シュウイケイカイヲゲントセヨ」

 

 満月の月明かりと舞い散る白雪が織りなす幻想的な水平線を睨みつけながら、クラゲのような生物を模った摩訶不思議な帽子をかぶったその少女は、異形の戦船たちにそう下知を下す。

 

 少女の名は―――空母ヲ級改flagship。

 

 四年前のあの日、人類を霊長類の長の座から引きずり下ろした深海棲艦の一人にして、かの戦船の中でも上位に属する『flagship』の位を拝命する歴戦の猛者である。

 

 ヲ級改「さて、と。そろそろ目的の海域だけど・・・・。これは・・・・随分ひどい有様ね・・・・」

 

 青白い炎光をゆらゆらと揺らす翡翠色の双眸に仲間への哀悼を表しながら、ヲ級改は漂う死臭に思わず鼻を覆い隠した。

 

 水平線の彼方まで続いているのかと錯覚しそうなほどの、夥しい味方艦の残骸。

 四肢をなくし。

 頭を破壊され。

 腸をまき散らし。

 誰が誰だったのかも判別できないほどにぐちゃぐちゃに潰された、かつて友軍だったイキモノの肉塊。

 

 月光の照らす青白い海原は、ぶちまけられた五臓六腑によって赤黒く染まり、漂ってくる硝煙と血反吐を混ぜ合わせた得も言わぬ臭いは、この海がすべての有機生命体が等しく命を散らす戦場なのだということを再認識させてくる。

 ここまで破壊されていては、最早正確な数は把握できないけれど、ここの海域防衛に就いていた艦隊数は確か三十隻ほどだったはずだ。

 

 ヲ級改「リ級。ザンゾンシテイルミカタカンテイニ、サイシュウケツヲダシンセヨ」

 

 無駄を承知で、ヲ級改は随伴している僚艦の一人に艦隊再集結の打診を指示する。

 

 深海棲艦は、『標準声帯』という日常会話用の声音と、『命令声帯』という戦闘時や味方の随伴艦に指示を出すための声音という二つの声音を使って会話をする。

 

 これは、ニンゲン側でいう処の地方訛りに相当するもので、前者は普通に聞き取れるが、後者のほうは声の周波数が人類側のソレとは異なるため、片言として聞こえてしまう。

 現状、ニンゲンと深海棲艦との接触は戦場で行われるのがほとんどであるから、深海棲艦が片言で会話するという認識はここからきているのかもしれない。

 

 ヲ級改「ドウシタ、リキュウ。マダ、ミカタトノツウシンハデキナイノカ?」

 

 通信開始から凡そ数分。

 ヲ級改はいつまでも通信機に「オウトウセヨ」の文言を繰り返すリ級にイラついたようにいった。

 

 深海棲艦の艦隊通信は、頭に埋め込まれた極小の通信機を介して行われる。

 脳波を電気信号に変換し、電波として送信するさまは、昔読んだオカルト雑誌に載っていたテレパシーの様であったが、その通信方法故に敵方の電波妨害や通信傍受の心配をしなくて良いという利点も存在する。

 

 だが、どういう訳なのか今日はやけに苦戦しているらしく、「モウシワケアリマセン」と片言で謝罪してきたリ級の額には、寒空に似つかわしくない汗がうっすらと滲んでいた。

 

 ヲ級改(ち・・・っ。リ級の奴ったら、一体何をてこずっているのよ・・・・)

 

 まるで莫迦の一つ覚えよろしく「オウトウセヨ」の文言を吐き続けるリ級に、ヲ級改のイライラは秒単位で募っていく。

 

 ヲ級改の指揮する艦隊戦力は、旗艦である自分のほかに、戦艦レ級一隻、重巡リ級二隻、駆逐ロ級後期型二隻からなる計六隻編成の起動部隊編成だ。

 深海棲艦の艦隊編成ではごく一般的な艦隊編成だが、今回は火力要因として戦艦枠をル級からレ級に変更してある。

 通常の敵艦隊なら、この戦力でも十分に戦えるであろう。

 

 だが、ヲ級改のイライラの原因は、敵艦隊の総数ではなく、ましてや残存しているかも定かでない――というより状況的に全滅してる――味方の安否でもない。

 

 そう、ヲ級改のイライラの原因。恐怖心からくる焦燥感にも似たイライラの原因は、味方艦船の損傷具合だった。

 

 そっと触れてみればまだほんのりと温かい、出来たてほやほやの死骸。

 この北海での平均気温はマイナス数十度にもなるから、海上に捨て置かれた死体はたった数分で体温を奪われ、凍り付き、氷塊となって沈んでしまうことになる。

 故に、この遺体はほんの一二分前に出来たということになるだろう。

 

 ―――――だが、ここに来るまで電探には何も反応はなかったはずだ。

 

 ヲ級改をはじめ深海棲艦の装備する電子機器は、その悉くが最新式のものに置き換えられている。

 

 特に、ヲ級改のクラゲを模した帽子状の艤装に搭載されている『AN/SPY-1』は、最大索敵距離500キロメートルを誇り、最大200個もの移動体を追尾、捜索、評定、指令誘導、射撃管制を一手に担う最新式の多機能レーダーだ。

 

 だが、最新式のレーダーに今まで映っていたものは、五隻の随伴艦と時折レーダーを掠めていく雪風だけ。

 

 それ以外は、敵艦隊の影さえも映ってはいなかった。

 

 ヲ級改(いったい・・・・ここで、ナニが・・・・・)

 

 累々と転がる味方の残骸の中にぽつぽつと散見する、砲撃でもなければ雷撃によるものでもない、異様で異常な攻撃も以て破壊させられた味方の死骸。

 それは、胸元を『ピンポイント』で打ち抜かれて死んだ者。

 それは、上半身を艤装ごと『ピンポイント』で打ち抜かれて死んだ者。 

 それは、頭部を『ピンポント』で捥ぎ取られて死んだ者。

 それは、下腹部を『ピンポイント』で毟り取られて死んだ者。

 

 レーダー射撃を持ってしても不可能に近い、まるで着弾地点まで何者かに運ばれたかのような正確無比な攻撃。

 仲間の死骸は嫌というほど見てきたが、ここまで奇麗に、それこそ定規で測ったかのように精密かつ正確な攻撃をヲ級改はたった一つしか知らない。

 

 そう、あれは。

 

 あの兵器の、名は―――――。

 

 

 「飛翔魚雷による、超々遠距離攻撃」

 

 ヲ級改「え―――――」

 

 突如後ろから別の少女の声がして、ヲ級改ははっとしたように背後を振り返る。

 

 ヲ級改「レ、レ級・・・?」

 

 見やった視界の先、距離にして五歩ほど離れた先に佇む、黒のビキニに黒のコートを羽織った自分よりも幾分幼い姿をした一人の少女。

 

 少女の名は―――戦艦レ級。

 

 様々な能力を持つ深海棲艦の中でも特に多種多様な能力を持ち、ニンゲンたちの間では『超ド級重雷装航空巡洋戦艦』などという渾名を付けられた、深海棲艦きっての特異艦船である。

 今回、何かを察した中枢棲姫の命令により、火急の火力要因としてヲ級改に同行していたのだった。

 

 ヲ級改「レ級・・・・。あなた、いま、なんて・・・・・」

 

 恐る恐るといった様子で今一度の文言を要求するヲ級改に、レ級はやれやれといった風に言い放った。

 

 レ級「飛翔魚雷による超々遠距離攻撃。それも、並みの使い手じゃない。この兵器を熟知し、尚且つそれの長所短所も知り尽くしているみたいだよ」

 

 己が身長の倍近くもある長大な尻尾状の艤装をゆらゆらと揺らし、レ級は「ふぅ」と憂鬱気味に言った。

 

 ―――――飛翔魚雷。

 

 それは、数年にわたりニンゲンたちと戦火を交える深海棲艦たちが、唯一かの者たちより模倣した決戦兵器の名前だった。

 

 この兵器の特徴は、なんといってもニンゲンたちの【ミサイル】をそっくりそのまま模倣して造り上げたということであろう。

 開戦当時、ニンゲンたちは己が一世紀近くに渡る英知の結晶とも言える兵器群が、深海棲艦たちの手によってものの数年で実戦配備されたことに文字通り度肝を抜かれ、絶望し、屈辱の怒りに打ち震えた。

 

 だが、この飛翔魚雷という兵器。以外にも運用開始から僅か一年足らずで欠陥の烙印を押され、それ以降は所謂『浪漫兵器』などという愛好家御用達の玩具に成り下がってしまったのだ。

 

 ヲ級改「・・・・レ級。あなた、戯言も大概にしてないかしら」

 

 何を言うかと思えば、まさかあの猿真似兵器の名を聞くことになろうとは。

 思いもよらぬレ級の発言に、ヲ級改は彼女が「寒さで頭が可笑しくなったのではないか」などと蔑視の眼差しを向けた。

 

 飛翔魚雷は、確かに運用の初戦では無類の強さを誇った。

 

 だが、所詮猿真似はどこまでいっても猿真似でしかなく、飛翔魚雷は運用開始から僅か一ヶ月に数基余りが鹵獲され、それを解析したニンゲンたちの手によって即座に対抗策を講じられてしまい、完封されてしまったのだ。

 以降、飛翔魚雷はろくな戦果も挙げられることもなく、改良策と対抗策が互いに相手の足元を掬うような応酬の末、『欠陥兵器』もしくは『浪漫兵器』の烙印を押され、すべての人々の記憶から抹消されていったのだった。

 

 だというのに、目の前の深海棲艦はこの惨状の原因があの兵器のせいだという。

 さらに、その兵器を使ったのが欠陥兵器の烙印を押させた当事者共であると、そう言うのだ。

 

 ―――――馬鹿々々しい。

 

 ―――――なんとも馬鹿々々しい。

 

 ―――――なんとも甚だ馬鹿々々しい。

 

 深海を住処とする我々深海棲艦にとって、この程度の寒空は『寒い』という内に入らないけれど、さすがにこの惨状の犯人があの欠陥兵器だと言われてしまうと、本当に馬鹿々々しくて背筋がゾッとしてしまう。

 

 だが、ヲ級改はこの直後に嫌というほどに思い知ることになるのだった。

 

 そう、戯言をぼざいていたのは、レ級ではなく、自分自身だったのだということを。

 

 

 キーン

 

 

 「え――――?」

 

 月下の海原に、奇妙な高音が響き渡る。

 火砲の砲撃音でもなければ、艦載機の放つレシプロエンジンの動力音でもない。

 

 それは、超音波の音に似て猛々しく響き渡る捲土重来の咆哮。

 かつて「欠陥」と蔑まれ、「浪漫」と揶揄されたかの者の放つ復讐の咆哮であった。

 

 

 キーン

 

 

 音はさらに明瞭となり、近づいて来る。

 

 

 キィーン

 

 

 ヲ級改をはじめ全ての僚艦に聞こえるくらいに音は大きくなり、次第にその音の主が見え始めてくる。

 

 

 キィ――ン

 

 

 ヲ級(・・・・あれは、なに・・・・?)

 

 夜空を海面すれすれに飛翔する奇妙な物体。

 白くて細長く、まるで「本当に魚雷が空を飛んでいるのでは」と錯覚しそうなその円筒状の物体は、船尾を赤々と燃やし、こちらを目指し突っ込んでくる。

 

 ヲ級(あれは、まさか・・・・!?) 

 

 背筋に走った悪寒が消えかけていた記憶の残滓と重なったとき、ヲ級改は弾けたように言い放った。

 

 ヲ級「みんな、逃げてぇぇ”ぇ”ぇぇ”ぇぇ”ェ――――-ッ!!」

 

 旗艦の威厳などかなぐり捨てて、ヲ級改は半泣き状態で僚艦に叫ぶ。

 

 だが、かの者はヲ級改の放った必死の懇願をあざ笑うように艦隊へと突撃し。

 

 

 ゴキン

 

 

 「―――――っ!!!」

 

 

 ――――爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

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