『ねえ。あなたは、ほんとうにニンゲンと深海棲艦が一緒に暮らせる日が来ると思う?』
―――あの日、彼女は私にそう言った。
北方AL泊地とは、北海の要衝であるアリューシャン列島を防衛する秘匿泊地のことである。
周囲を光学迷彩と強力なECMで覆い、一騎当千の歴戦艦を多数有するその泊地は、人類がその存在を知りつつもいまだ陥落させること叶わぬ難攻不落の要塞であった。
この要塞攻略に際し、人類は二つの攻略戦術を用いた。
一つは、空母を主軸とした起動艦隊を北上させ、多数の艦載機隊よる絨毯爆撃戦を以て要塞攻略とする戦術。
もう一つが、軽巡洋艦を旗艦とした水雷戦隊を南下させ、乗船させた地上部隊による強襲上陸を以て要塞攻略とする戦術である。
どの戦法も、要塞や泊地攻略におけるセオリーを当てはめた鉄板戦術であるが、それは当然こちらも周知していること。つまり、敵艦隊の進行ルートが解っているのなら、そのルート上に対抗策に応じた駐留艦隊を鎮座させればいいだけの話。
さらに、この泊地は一度や二度の攻撃では突破できないくらいの堅牢さを誇り、人類側がこの要塞の機能を完全に停止させるには、数度に亘る攻撃が必要であった。
故に、この北方海域は常に艦娘の死体で埋め尽くされ、漂う空気は血と硝煙でむせ返っていた。
ほっぽ「・・・・捨て艦、かしらね。この娘たち」
降雪の海原に累々と横たわる亡骸たちを見渡して、北方棲姫はそう呟いた。
【捨て艦】
悠久と続く深海棲艦との戦争の中で、敗北が濃厚となり始めたニンゲンたちが編み出した最低最悪の艦娘運用戦術のことである。
これは、例えば何らかの理由によりその鎮守府おいて不必要となった艦娘をほとんど丸腰の状態で出撃させ、文字通り捨て石とするものである。
その言の葉通り、彼女たちはろくな兵装も持たず、来ている衣服はまるで浮浪者のようにボロボロで酷い悪臭を放っている。
十分なメンテナンスもされていない艤装の中には、「これで自爆しろ」とでも言いたげに大量の爆薬が押し込まれており、この娘たちはかの地でどのような扱いを受けていたのかを如実に表していた。
最早、これは戦闘艦ではない。
一昔前に流行った愚行の極み―――特攻兵器そのものであった。
ほっぽ「ニンゲンは、いつの時代も変わらないね。だって、自分が好きになったヒトでさえも、簡単にコロしちゃうんだもん・・・・」
累々と横たわる艦娘の中に、唯一人だけまとも――あくまでも周りの娘たちを基準としてではあるが――な服装の娘がいて、北方棲姫はその亡骸に近づく。
憐れな屍たちの中にただ一隻だけ混ざっていた、自分よりも幾分か大人びた軽巡洋艦の少女。その左手の薬指には、銀色の小さな指輪がはめられている。確か、ニンゲンたちの間では【ケッコンカッコカリ】と呼ばれている「艦娘と深い絆を交わす」などと謳っている儀式の証だ。
でも、何故だろう。この娘の半分潰れた顔を見ていると、本当にそうなのだろうかと疑いたくなっていしまう。
ほっぽ「・・・・ねえ。あなたは、しあわせだった・・・・?」
浮浪者じみた出で立ちの中で唯一まともな装飾品と言えるケッコンカッコカリの指輪をそっと撫で、北方棲姫は同情するように言った。
つぎはぎの目立つ汚れ切った制服。
所々脱色され、歪に切り揃えられた髪。
顔や躰に生々しく残る火傷や切り傷、無数の痣の後。
そのどれもが、戦闘によるものではなく、所謂虐待の跡であることは明白だった。おそらく、彼女の送ったケッコン生活は決して幸多きモノではなかったであろう。
そして、ソレをしていたヒトが外ならぬ彼女の思い人か、若しくは親しい人物であったのなら・・・・。
ほっぽ「ねえ。あなたは、ほんとうにニンゲンと深海棲艦が一緒に暮らせる日が来ると思う?」
あの時、北方棲姫が涙ながらに訴えた問いに、私は答えることが出来なかった。
味方であるはずの艦娘でさえこの扱いを受けている。そんなニンゲンたちと、私たち深海棲艦が本当にこの海で共存できるというのか。共に手を取り合い、共に繁栄を謳歌していくことが出来るというのか。
レ級「・・・・できる。少なくとも、中枢棲姫さまはそうおっしゃっていたけれど・・・・」
水平線の彼方へと消えていく飛翔魚雷を見つめながら、レ級はそう独り言ちる。
実をいえば、自分はニンゲンをそこまで憎んでいるわではない。
と言うのも、深海棲艦そのものが個体差は有れど世間に喧伝されているほどニンゲンを忌み嫌っているわけではなく、可能なら共存共栄を望む者の方が多い。
つまり、自分たちに言わせれば、艦娘たちの方が我々を不倶戴天の仇とみなし、滅ぼそうと躍起になっているだけ。そして、艦娘たちを滅多やたらと煽り立て、友好を望む声を黙殺しているのはニンゲン側の方なのだ。
そして、北方AL泊地に駐留する深海棲艦たちは、日常的にあの光景を見て生きている。故に、彼女たちの答えは主である北方棲姫を含めそのほとんどが『否』であった。
無理もない話である。差し出した掌を撥ね退けて、尚且つこちらを滅せんと拳を振りかざしてくる輩に話などできるわけがない。
だが、このまま戦を続け、血を流し続ければ、ごく近い将来で人類と艦娘、そして我ら深海棲艦が絶滅することになる。
それは、もはや『戦』ではない。
種の淘汰と根絶である。
整備妖精(FCS)『飛翔魚雷、終末誘導へ移行。弾着まで残り6秒』
整備妖精(レーダー)『敵飛翔魚雷、進路変わらず。弾着まで、あと5秒』
いよいよ、飛翔魚雷の弾着が近づいてくる。出撃前のブリーフィングではこの後、天照から『停戦』の申し入れを示す通信が、北方AL泊地から『戦闘停止』の命令が届くはずだ。
それで、この戦《ちゃばん》は終わりだ。
整備妖精(レーダー)『飛翔魚雷進路変わらず。弾着まで、あと4秒、3秒、2,1・・・・弾着!』
ゴキン
これで三度目となる、鋼鉄のぶつかる断末魔の刹那。満月の海原に爆音と熱波が吹き荒れ、5連の紅の花弁がヲ級改達の眼前に現れる。
それは、私たち異種族同士の共存と繁栄を願う祝福の花束か、もしくは破滅への確約を悼む哀惜の花束か。
いずれにせよ、これでわが未来は確定したと言ってもよい。
ヲ級「や・・・やった・・・・!」
リ級「私たち・・・・助かったの?」
生きていることがまだ信じられないといった様子で、ヲ級改とリ級はぼんやりと呟く。その声に、レ級は「そうよ」と短く応じた。
レ級「これで、私たちは生き残ることができるわ」
レ級の言葉にリ級は「やったわ」と感性の声を上げる。ヲ級改も安心したのかほっと胸を撫でおろしている。
レ級はと言うと、辛勝とは言えあの天照に勝利したという上々の面持ちで右耳に装着した通信機を外部通信に切り替えていた。
『私の攻撃を三度(みど)防ぎきれば、あなた達は合格よ』
我が自慢の飛翔魚雷を用いた波状攻撃。幾多の猛者をくず鉄へと変えた必殺の鉄火を三度防ぎきるのならば、我が提督は貴艦たちを同志と認め、此岸で生きることを許すであろう。
それが、天照が示してきた条件だった。
レ級(・・・さあ、天照。アナタが言った条件は、見事果たしてみせたわよ。だから・・・・)
切り替えた通信機の周波数を天照の提示した周波数に合わせながら、レ級は天照からの通信を今かいまかと待った。
――――ところが。
レ級(どういうことかしら? 天照からも、ほっぽちゃんからも何も連絡がない・・・・)
先の攻撃からそろそろ一分半が経過しようとしてるが、通信機からは微かな砂嵐以外何も音沙汰がない。
そればかりか、先程からこちらを取り囲むようにしてレーダーにちらちらと映る艦載機と思しき機影が映り込んでいる。
恐らく、開戦からずっとこちらにちょっかいを出していた天照の艦載機隊の一部であろう。
ヲ級「レ級、もしかしてだけど。この艦載機たちって、ほっぽちゃん達の出迎え・・・・じゃないよね?」
さっきまでの戦勝の空気が一変、いまだ戦闘継続の空気が立ち込めていることにヲ級改も感づいたのだろう。答を求めるようにしておずおずと尋ねてくる。
レ級「たぶんね」
ヲ級「え?」
以外にもきちんとした回答が返ってきて、ヲ級改は驚いたように今一度聞き返してくる。だが、レ級はそれを黙殺して数歩ほど歩くと夜空を見やった。
レ級(どう言うつもりなの、天照?)
我々の周囲を取り囲む総数12機の艦載機隊。
こちら側の射程距離に入らないようお行儀よく配置されたソレは、強襲揚陸艦天照の主戦力の一つである『AV-22Jガンシップオスプレイ』である確率が極めて高い。
【AV-22Jガンシップオスプレイ】
汎用輸送ヘリコプターであるV-22オスプレイの派生型の一つ。局地制圧用攻撃機《ガンシップ》として搭載艦及び艦隊の火力補助を目的とし、機体側面にそれぞれボフォース40mmL/70機関砲1基とM61バルカン砲を2艇ずつ、更に機種下部にⅯ197機関砲を1基装備している。
なお、貨物室をそっくり銃架スペースに改造したため物資の積載能力はほとんどないが、その攻撃力は一般的な攻撃ヘリコプター並みである。
こちらのレーダーで捕捉した艦載機隊の数と現状から察するに、あれはわざとこちらに身を晒すことで、「お前たちを監視している」という意思表示を含ませたけん制と思って間違いない。
とすれば、未だ此方のレーダーで察知できないところに天照の別動隊が隠遁しているのは確実であろう。
つまり、天照の言う【試験】はいまだ継続しているということだった。
レ級(・・・・ちっ。天照、貴方というヒトは・・・・!)
畢竟、悪魔の戦闘艦の異名は伊達ではないということか。
ぎりりと奥歯を鳴らしながら、レ級は殺気立った眼で水平線の彼方をいま一度睨みつける。
今まで散々こういう趣向の戦場は見てきたが、これは歴代最高の出来栄えだ。だが、こちらとて無駄に場数を踏んではいない。手持ちの飛翔魚雷残り少ないけれど、そちらがその気なら徹底的に抗うまでだ。
レ級「レーダー、錯綜範囲を拡張して! 上空―――特に高高度の警戒を厳。FCS,WCSは次弾発射の準備をお願い。各砲塔は、別命があるまでそのまま引き続き待機・・・・っ!」
やけくそ気味に通信機を再び艦内通信に切り替えて、レ級は怒気の籠った眼でぎょろぎょろと満月の夜空を探索始める。
ヲ級改やリ級も、レ級の余りの気迫に慄きながらきょろきょろと辺りを見渡し始めた。
常識的に考えて、この雲一つない満月の夜空に数十機もの艦載機を隠遁させるなど不可能なことだった。
レーダーとは、簡単に言ってしまえば指向性の強い電波を発射して空中や地上にある物体を検知するセンサーである。
これは、ちょうど壁を相手にしてキャッチボールをすることと同じ原理であるといえ、目標とする物体を壁、電波をボール、投手をアンテナと考えると解りやいかもしれない。
まず、投手《アンテナ》から目標とする物体《カベ》目掛けて電波《ボール》を飛ばす。
発射された電波が目標となる物体にぶつかったとき、当然物体の表面は電波を反射するわけだから、電波は反動でこちらに引き返してくる。
そして、反射され戻ってきた電波は再びアンテナで捕捉され、ディスプレイ上に光点として表示されるのだ。
ただし、電波というものは水や空気中にある水蒸気にも反射してしまうため、雲などの障害物があった場合、その部分は捕捉が出来ない絶好の隠れ場所となってしまうのだ。
だが、今は雲を始めとする一つない快晴の夜空。そして、こちらの錯綜範囲は500キロメートルを誇る。
常識的に考えれば、この海原に艦載機―――それも数十機規模の編隊が隠れられる場所などあろうはずがない。
最も、それを平然とやってのけるのが強襲揚陸艦天照が【悪魔】と称される所以なのだが。
レ級(どこ。何処にいるのよ、天照・・・・!!)
ぎりぎりと音が聞こえてきそうな程に歯を剥きだしにしながら、レ級は夜空を闇雲に睨み続ける。
ようやくこの無益な戦から解放されて、泰平の海原を思う存分翔けることが出来ると思っていたのに。
なのに、お前の創造主はまだ、私たちに苦しめというのか。
まだ、血反吐を吐き続けよというのか。
まだ、私たちを殺し足りないというのか。
かつて霊長類の長を自称し、七つの大海すべてを己の内庭としたお前の創造主は、そこまで異邦の者を疎み、憎み、嫌悪するというのか。
――――お前の創造主は、そこまで、私たちを・・・・・。
約束を反故にした天照への怒りよりも、むしろそれをさせたニンゲンたちへの憤りが勝り始め時、リ級の口からとんでもない言の葉が飛び出した。
リ級「あ、流れ星」
レ級「は?」
ヲ級「え?」
突然、リ級から素っ頓狂な言の葉が飛び出し、レ級とヲ級改はリ級のほうを見やる。
レ級「あなた・・・、こんな時に何をいって―――」
殴り倒してやろうかと本気で考えながら言ったレ級の方を見ることなく、リ級は「ほら、また」と指さし言う。
ヲ級改も、リ級の言った方角を見やり同じことを言い始めた。
ヲ級「流れ星・・・・。と、言うより連続しているから流星群かしら」
流石に気になって来たので、レ級もリ級の指さした方角を見やる。
確かに、彼女たちの言う通り夜空に輝く星座の一つから定期的に流れ星の様なものが水平線目指して疾走していくのが見えた。
レ級(あれは・・・・なに・・・・?)
この時期に、それも北の海でそんなものなど見えるはずがない。
だが、アレは確かに流れ星のようにも見える。それも、同じ場所に連続して落ちているようだった。
同じ場所に落ちる連続した流れ星。流れ星。星。星座。神。雷。雷霆。神の、雷霆――――
レ級(まさか、あれって・・・・!?)
記憶の海に漂っていだ幾つもの琴線。その一つを手繰り寄せ、次第にそれの正体がレ級の脳裏に実像として浮かび上がっ来たとき、月下の海原にナニモノかの咆哮が轟いた。
ゴ―――ン
轟く咆哮。振動する空気。火薬の炸裂する音でもなければ、イキモノが発する鳴き声でもない。
そうあれは、何かが高速を超える速度でぶつかった音だ。
リ級「今の音は、なに・・・・?」
驚きを通り越して呆然とするリ級とヲ級改。
状況から察するに、今の音はあの流れ星が落ちた音である可能性が高い。だが、隕石の衝突にしては些か規模が小さすぎる。だとしたら、航空機か何かが墜落したのだろうか。
そんな意味があるのか無いのか分からない状況分析をしていた時、レ級がすっかり血の気が引いて真っ白となった顔である言の葉を紡いだ。
レ級「ゼウスの・・・・らいてい・・・・」
徐に紡いだその言葉。誰に向けたわけでもない。しかし誰かに届いたその言の葉に、ヲ級改達は一様にレ級を見やり、そして、戦慄した。
ヲ級「れ、レ級・・・・。いま、なんて・・・・」
【ゼウスの雷霆】
久遠なるニンゲンと深海棲艦との戦禍と加速度的に進化する技術。
流れる鮮血と連鎖する暴力、暴走する欲望と狂気迸る啓蒙の果てに産み落とされてしまった最強の戦略兵器である核兵器。
それを超える破壊力を持って生み出されたとある兵器のコードネームである。
その威力は、数発で諸島のみならず大陸さえも簡単に消し飛ばせるほどの威力を持つとされており、創造主である深海棲艦でもその威力故に使用を禁忌としており、過去にそれが稼働し使用されたのは僅かに数度限りである。
リ級「そんな・・・・、なんで、どうして・・・・」
レ級に続いてリ級の顔色までもがみるみる青白くなっていく。いいや、元々彼女たちの顔は青白いのだが、いまはそんな冗談を垂れ流している場合ではない。
圧倒的な破壊力を有するがゆえに禁忌とされた核兵器を超える戦略兵器。それが、何故かこちらに何の断りもなく稼働し、剰えよりにもよって味方の泊地を攻撃している。
否、自分はいま最も肝心なことを失念していないだろうか。そう思ったとき、ヲ級改から悲痛な怒声が聞こえてきた。
ヲ級「・・・・ありえない。そんなこと、ありえない・・・・!」
慨嘆するヲ級改の手から、艤装《つえ》が零れ落ちていく。バシャリと軽く水飛沫を上げて物悲しく浮かぶ艤装を拾うこともせず、ヲ級改は「何故だ」と脳髄で連呼しながら夜空を見上げた。
流れ星―――もといゼウスの雷霆が撃ち込まれた場所は、方角からして北方AL泊地であることは間違いない。
だが、アレの起動権を持っているのは中枢棲姫様だけであり、そもそもかの兵器の使用を禁じたのも彼女自身なのだ。
その彼女が、何故にかの兵器の封印を解き、同胞の泊地を攻撃したのか。
考えられる選択肢は、そう多くはない。
と言うより、否定したいが現状一番妥当な理由はたった一つだけだった。
ヲ級「どうしてですか・・・・? 私たちの絆は、千の血よりも濃く、万の財貨よりも尊いもののはず・・・・・」
夜空に煌煌と輝く星座たち、大小千差万別に瞬く星々の一つがゆっくりと此方に近づいてくる。
頭上で瞬く死と破壊の一等星。見てくれは本当に、ただの夜空に燦然と輝く星座のひとつにしか見えない。けれど、それはなんと神々しく、恐ろしい星なのだろうとおもう。
ヲ級「飛行甲板の火・・・・消えないね・・・・ごめん・・・・」
自身を滅せんとその鉄槌を振り下ろすかの星座に、ヲ級改はまたもあの言の葉を呟いた。
飛翔魚雷の時もそうだったが、ヲ級改の甲板は傷一つ付いてはいないし、当然火の手も上がってなどいない。
でも、ゼウスの雷霆が私に直撃したならば、きっと私の飛行甲板など粉々に砕いて、真っ赤な炎で焼き尽くしてしまうのだろう。
――――そう、あの時のように。
ヲ級(・・・・あぁ、そうだったんだね。わたしは・・・・むかし・・・・)
燃える焔。
蒼穹の空を覆う鉄火と硝煙。
軋み引き千切れる黒鉄の躰。
海原を穢す赤と黒の血反吐。
抵抗虚しく水底に沈んで逝く大切な戦友たち。
無数に散らばる記憶の断片がようやく一つに重なって、棒役の彼方にあった記憶を呼び起こしていく。
ソウダ、ワタシハ。
ワタシノ、ナマエハ・・・・・・。
ヲ級「――――――――」
その刹那、北の海原に星が瞬いた。
ギリシャ神話における神々の頂点に君臨する全能の神ゼウスが携えたとされる神器。
神々の神器の名を拝命セシかの兵器が、誠その名の通りに眼下に膝まづく愚かな咎人へ神罰を下さんと秘めし雷光を解放したのだ。
その雷光は、あり得ない程の光量でヲ級改たちを飲み込み、視界を白一色に染めていく。
何も見えない。
なにも聞こえない。
音も、色も、痛みも、怒りも、悲しみも、そして記憶さえも。何もかもが消えていく。
消えていく、きえていく、キエテイク・・・・・・・。