Train Cinderella ~A Prohibition Lover~ 作:如月ライト
Prologue
暗く小さな部屋、そこに二人の人影。
一人は泣きじゃくる幼い少女。
そしてもう一人はそれを困った顔でなだめている少年。
もうどれぐらい泣きじゃくったことだろうか、少女の瞳はもう真っ赤だった。
「ふぇ…お兄ちゃん…ほんとに離れなくちゃいけないの…?ソラ、お兄ちゃんと離れたくないよ…」
この二人はもうすぐ別々の道を歩み続ければならなかった。
何故なら両親の離婚により散り散りにされてしまうからだ。
「ソラ、お前は俺がいなくても強く生きろよ…必ずお前を迎えに行くから…」
そう言って少年は少女を抱きしめる。
少年のぬくもりを感じほっとしたのか少女はついに泣き止んだ。
「お、泣き止んだか。えらいえらい」
少年はそう言って少女の頭をなでる。
少女は嬉しそうに目を細めそれにこたえる。
が、その肩はまだふるえていた。
「ねぇお兄ちゃん…?ソラのこと、忘れないよね?」
少女のつぶらな瞳が少年の胸をえぐる。
「あぁ、忘れるわけないさ」
少年は嘘偽りない澄んだ瞳を少女に向けそう答えた。
「うん、そうだよね…お兄ちゃんは忘れるわけないよね…でも…」
少女はそう言ってうるんだ瞳を向ける。
「ソラね、お兄ちゃんのことが好きなんだよ…だから絶対に忘れてほしくない、ソラの事も、ソラの気持ちも…」
そして少女は精一杯背伸びをしたセリフを放つ。
「お兄ちゃん…ソラと―――」
キーンコーンカーンコーン
そのチャイムの音を聞き私はびくっと肩を震わせながら現実に戻る。
ここは私立月詠(つくよみ)学園の1年3組の教室。
私が座っている窓際の席には鋭い日光が差し込んでいる。
さっきまで授業をしていた教師はやっと授業が終わったかというように伸びをし宿題を言い渡し教室から出た。
(はぁ…私、何であの夢を…)
さっきまで見ていた夢を思い出す。
いや、夢というよりはあれは記憶と言った方がいいだろう。
あれは私の幼少の時の記憶、そして一番忘れたい、でも忘れたくない記憶だった。
(私とお兄ちゃんの最後の思いで…)
私はこの何とも言えない気分を振り払うかのように勢いよく椅子から立ち上がり伸びをする。
「ん~~!」
私の名前は時雨 氷空(シグレ ソラ)
まぁ言わなくてもわかると思うけどこの学園の生徒だ。
成績は中の上と言ったあたりか。
得意教科は地歴公民、苦手教科は恥ずかしながら数学。
部活はテニス部に所属している。
少し前に流行った漫画の影響をもろに受けての入部だったがそれを今は後悔している。
不平不満は多いがそれ以上に楽しいことが多いのでまだ続けている。
身長はみんなより少し低めだ、だいたい165cmかな。
胸は…うん、触れないで、小さいから…。
髪は黒のセミロングでポニーテールにしている。
みんなはもっと大人っぽい髪型も似合うっていうけど私はこの髪型がいいからずっとこれ。
確か私が小学校高学年ぐらいからずっとこの髪型だった気がする。
まぁいつからしてたかはあまり記憶にないぐらい慣れ親しんだ髪型だ。
「ソラ、帰ろ?」
私が脳内自己紹介(誰に向けてかは不明だが)をしている間に私の教室に入ってきた少女はそう言った。
「うんいいよ、カノン。私も今から帰るところだったし」
彼女の名前は雨宮(アメミヤ) カノン
私と同じ学年で隣の4組の生徒だ。
成績は優秀でスポーツもできる万能少女。
それに男子からの受けもいいっていうんだから羨まし過ぎる。
彼女はイギリスのハーフだ。
イギリスの血を濃く継いでいるのか金髪碧眼の美しい顔立ち、それに日本人離れした身長(だいたい178cm)
それに私とは比べ物にならない巨乳の持ち主、目測だけどEかFはあるね。
部活は私と同じテニス部。
テニスの最中に彼女のその美しい長髪の金髪が風になびくたびにギャラリー(主に男子)が騒ぎ出す。
もはやその光景がテニス部の恒例となってしまっていた。
「ん、用意できたし、帰ろっか」
カノンの脳内紹介もほどほどに私は替える準備を整えて彼女に声をかける。
私達はいつもの他愛ない会話をしながら帰り道を歩いている。
いや、歩いているつもりだった。
「ソラ?いつもよりそわそわしてるけど大丈夫?おトイレ?」
「えっ?そ、そんなにそわそわしてるかな!?あ、あとおトイレじゃないから」
私はドキッとしてそう答えた。
どうやら私の心が行動に示されてしまったようだ。
「え~と…まぁカノンにならいいか」
私はそう言ってカノンに話しだした。
「今朝、ママから帰ってきたら大切な話があるって言われたんだ。それもなんか私の今後にすごく関係あることなんだって」
そう、私はそんなことを言われていたのだ。
私の今後に関係あるっていうところがすごく気になっているのだ。
そのため放課後までこんなに妙な気分で過ごさなければならなくなっていた。
「へぇ、そうなんだぁ。やっぱりソラのお母さんって謎だね」
「ほんっとあきれたママだよ…」
私はため息をつきながら苦笑いでそう答えた。
昔からママはよくわからないことが多かった。
突然家に帰ってこなかったと思うと一週間もしたらすっごく大きな魚を持って帰ってきたり、今まで勤めてた会社を辞めて別の会社に就職したと思ったらそこで大当たりして一気にトップに躍り出るとか…
そして私たち兄妹を二人同時に引き取るとか…
「ソラ?どうしたの?何か暗い顔してるけど…」
「あ、いや。全然大丈夫だって!」
私は慌てて笑顔を作りカノンに向ける。
「あ、ほら、私こっちだから。またねカノン!」
いつも別れる道についた途端私はまくしたてるように一方的にそう言って足早に帰路を急いだ。
家に着くまでの一人の時間、私はさっきのことを思い出していた。
離婚した時離れ離れになると覚悟していた私だったが別れたあとママに聞いてみると二人ともこっちで引き取る予定だったとあっけらかんにそう答えた。
しかしそうできない理由があったのだ。
私が今さっき見ていた記憶、それに関連している出来事、あの時がやりなおせるならばと何度も思っていたこと。
あの事件がすべての引き金となって私の胸をえぐっていく。
「はッ!私何やってるの!こんな過去のことをネチネチ後悔したって仕方ない!私は強い子でいなくちゃいけないのに!」
私は気を引き締めるためにも自分の頬をぱちんとたたいた。
「よしっ!まずはかえってママに今朝のことを問い詰めなくちゃ!」
私は今まで早歩きだった歩幅をダッシュに変えて家へと急ぐ。
私はこのときは全く気付いていなかった。
この後の展開が私のすべてを変えてしまうことを。