Train Cinderella ~A Prohibition Lover~ 作:如月ライト
「はぁ…お兄ちゃんったら急に来てみんなにチヤホヤされて…ちょっとイラついちゃうな…」
テニスコートの脇に植えられている大きな木の下、ちょうど木陰になっているところで私はしゃがみ込んでそう漏らした。
「どうした?人気者のお兄さんに嫉妬かい?それともお兄さんを取られて怒っているのかい?恋する少女よ」
「誰が恋する少女よ」
私の独り言をききつけてたかクラスメイトの女の子、割とムードメーカーのおてんば娘が寄ってくる。
「ははは、お兄さんイケメンだしね。恋しちゃうのもわかるヨ☆」
「だから恋じゃないって…それにかっこよくても性格とか行動がさ…」
私はちらりとテニスコートを見やる。
その子も同時テニスコートを見てため息一つ。
「そうだね…お兄さんあんなのだもん…」
「うん、体育の授業の女子テニスに混ざっちゃってるんだもん…」
冷めた視線の先には女子に交じり爽快な汗を流しているお兄ちゃんの姿。
一本決まるごとに前髪をファサッとかき分け汗を落とすしぐさが昔読んだテニス漫画の主人公によく似ていて笑いそうになる。
「おーいソラ!そんなとこで見てないで一緒にしようぜ!」
こちらの視線に気づいたのだろうお兄ちゃんは手招きをし私を呼ぶ。
しぶしぶと重い腰を上げて私は立ち上がった。
「お兄ちゃんから指名かかっちゃったから行ってくるよ」
「行ってらっしゃ~い。ちゃんとお兄さんのハートに恋のスマッシュぶつけてきなよ!」
親指を立ててきりっとした顔でそう言われると殴りたい衝動を抑えられないのはなぜだろうか。
私はそれに適当な受け答えをしお兄ちゃんの待つコートへと向かう。
「なぁソラ?お前妹だったらお兄ちゃんの頼みきいてくれるよな?」
コートに着くなりお兄ちゃんは真剣な面持ちで私を見つめる。
「お願いだ、テニスウェアを着てくれ」
「は?」
「昔からテニスウェアを着た可愛い妹とテニスをするのが夢だったんだ…だからテニスウェアを着てくれ!」
拍子抜けだった。
真剣な顔でテニスウェアを着てくれって…どう考えても変態さんだった。
「頼む、お願いだっ!」
お兄ちゃんは土下座までしてそう頼んできた。
「お、お兄ちゃん!?顔、あげてよ…」
「なら着てくれるよな!?」
「う、うん…しょうがないなぁ…」
(って私のバカバカ!何言っちゃってるの!)
テニスウェアは持っているが今はこれを着れないある理由があった。
口は災いの元とよく言ったものだ。
お兄ちゃんは私のその一言ですごく機嫌が良くなりキラキラとした目で私を見つめてくる。
これはもう着なければいけない流れだ。
私はおもりがついたように重くなった足をどうにか更衣室まで運んだ。
「えっと…お兄ちゃん、着てきたよ」
「おぉ!これが妹のテニスウェア姿!…くぅ!たまんねぇ!」
お兄ちゃんはテニスウェアを着た私を見てガッツポーズ一つ。
うちの学校のテニスウェアは白を基調としたものに水色のラインがひかれている至ってシンプルなものだ。
もっと派手なモノをと言っている部員もいるが私はこれで十分だと思っている。
「よし!それじゃやろう!すぐやろう!」
そう言ったお兄ちゃんは意気揚々としてテニスコートに入る。
私もお兄ちゃんと対戦できるという嬉しさからかサッとテニスコートに入ってラケットを構える。
「お、ソラやる気じゃねぇか。よし、いくぞ!」
お兄ちゃんからのサーブ。
鋭い軌道を描きながらボールが私の元へと飛んでくる。
私はそれを軽々と打ち返す。
多分初心者なら打ち返せないような球であろう。
お兄ちゃんは案外テニスができるらしい。
「へぇ、ソラすごいじゃん。俺のサーブを打ち返すとはな」
「お兄ちゃんこそ、あんなサーブ打てるなんてね。でも、私も負けてられないよ!」
打ち返されたボールをコートきわきわに打ち返す。
しかしお兄ちゃんはそれに焦りもせずに正確に打ち返してくる。
「ソラ、もうちょっとゆるいの打ってくれよ」
「だ~め!お兄ちゃんテニス上手いんだもん!久しぶりに楽しいテニスが出来そうだよ!」
うちのテニス部は言っちゃなんだけど弱小だ。
実際ほかの部員よりお兄ちゃんの方が強いというのは明確である。
部員たちとは実力の差がありすぎて本気の勝負ができないがお兄ちゃんとなら本気で打ち合える。
私は久々の熱い勝負に胸を熱くした。
「おら!これでどうかな!」
お兄ちゃんが力強くボールを打ち返してきた。
球は鋭く空気を裂くような勢いで飛んでくる。
「ん!よいしょっ!」
ボールをラケットで捕らえはしたもののすごく重い。
私は精一杯の力で打ち返した。
「これも打ち返してくるとは…さすがソラだな、現役には勝てねぇよ」
「お兄ちゃんこそ。楽しい勝負になって来たね!」
そのあとは二人ともひたすら無言で打ち合った。
鋭い球、緩い球、それらを織り交ぜながら打ち返すもお兄ちゃんから一本を奪うのはなかなか厳しかった。
しかし私の胸の中には一本を取れないじれったさではなくもっと打ち合っていたいという願望が湧き上がってきた。
「なぁソラ」
どれだけラリーが続いたときだろうか、ふとお兄ちゃんが私に声をかける。
「ん?何?」
私はボールを打ち返しながらそう答える。
「あ~…ちょっと気になることがあるんだけどさ…」
「どうしたの?そんなに改まって」
「今日のお前縞々なんだな」
一瞬私はお兄ちゃんが言っていることの意味が分からなかった。
一呼吸置きその意味を理解した私はスカートを抑えてその場にしゃがみ込んだ。
むろんテニスを続けられる状況ではなく、お兄ちゃんからのボールは完全にスルーした。
私は頬を赤らめながらキッとお兄ちゃんを睨む。
「え~と…その、スカートの下って何か履いてるものじゃないのか?俺も詳しくは知らないけどさ」
この学校はテニスウェアのスカートの下には短パンをはく。
しかし私はそれを履いていない。
私が短パンを履いていない、それが私がテニスウェアを着たくない理由だった。
「えっとね、これには理由があって…」
部活の朝練が終わり着替え終った時に汗を拭こうとして間違えて短パンを使ってしまったことをお兄ちゃんに説明した。
私が使っているタオルは短パンと色が同じだったしそれに早く汗が拭きたくてたまらなかったという理由もある。
基本私は濡らしたタオルで汗を拭く、なので今短パンはぐしょぬれになっているというわけだ。
「そんなことがあったのか…ったく昔からソラはちょっと抜けてるところがあるんだからさ、気をつけろよな」
「う、ゴメンね、お兄ちゃん…でも私のパンツ見たんでしょ!ちょっとは反省してよ!」
私はもう一度お兄ちゃんに鋭い視線を送る。
しかしお兄ちゃんはへらへらとした笑みを浮かべ全く反省の色がない。
「お兄さん!もっと反省してくださいよ!ちょっとソラ、ラケット借りるよ」
「え?カ、カノン!?」
突然横からカノンが声をかける。
そして私のラケットを掴むとお兄ちゃんに向けて掲げてみせる。
「お兄さん!私と勝負しましょ?ソラの弔い合戦よ!」
(私死んでないよ!?)
心の中でそんなツッコミをする。
「望むところだ。そういやソラから聞いたんだがカノンもテニス部だってな、これは期待できそうだ」
お兄ちゃんは笑ってそう答える。
二人がネットを挟んで睨み合う。
「じゃあ私からサーブいくよ」
「オーケー!こい!」
私はカノンがそこでニヤリと笑うのを見逃さなかった。
カノンはボールを放り投げると勢いよくラケットを振りそれを打った。
まるで弾丸のような速さでボールがお兄ちゃんを襲う。
テニス部の私でさえその速度についていくのがやっとなほどの強烈なサーブだ。
「うぉ!?」
そしてそのボールは地面にはつかずお兄ちゃんに着弾する。
ノーバウンドのボールがお兄ちゃんを襲ったのだ。
それも男の子の最大の弱点である股間にだ。
お兄ちゃんは低いうめき声を一つ上げてその場に倒れ込んだ。
「成敗…」
カノンはというとそんなことをつぶやきながらニヤリと口元を歪めた。
「ちょっとカノン!これはやりすぎじゃないかな!?お兄ちゃーん!」
私は呻いているお兄ちゃんに駆け寄る。
カノンも渋々といった様子でお兄ちゃんの元へ。
「大丈夫、お兄ちゃん!?」
「いや、大丈夫じゃないかも…」
「え~と…その…ごめんなさい…」
カノンは少し改まってお兄ちゃんに頭を下げる。
「なぁカノン…もう俺の息子が機能しなくなってるかもしれない…ちゃんと機能してるか確かめてくれないか?」
「な!?こ、このヘンタイお兄さん!セクハラで訴えますよ!」
いきなりの爆弾発言にカノンは顔を真っ赤にして怒る。
そんなことを真顔で言えるお兄ちゃんに私は驚愕の色が隠せなかった。
「じゃあ患部をやさしく擦って痛みを和らげてくれ。あ、ぺろぺろでもいいぞ」
「~~!このヘンタイ!いっそのこともう死んでください!」
カノンはついにブチギレタようで手にしていたラケットで思いっきりお兄ちゃんの顔を打った。
「お、お兄ちゃ~ん!」
後には私のそんな声が響くだけだった。