Train Cinderella ~A Prohibition Lover~ 作:如月ライト
「そ~らちゃ~ん!かえろ!」
後ろからかけられた声にびくりとしてしまう。
もう授業も全て終わり下校時間。
皆各々に席を立ち放課後の予定を話し合ったり部活動にいそしんだりしている。
私は何をするわけでもなくぼぉっと自分の席から窓の外を見ていた。
窓際の席にあふれる心地よい陽だまりに意識を預けていたのではないが。
考え事で頭がいっぱいだったのだ。
内容は言わずもがな。
そのせいで授業もずっと上の空だった。
気付いたら放課後だったという感じだ。
「ねぇソラ、聞いてるの!?帰ろうよぉ」
後ろを振り返る。
長い金髪を引っ提げた美しい碧眼少女がそこには立っていた。
「カノンか…」
「え!?なんでそこでしょんぼりするのさ!?」
ってそんなことを言い合いたいのではない。
「部活は?今日あるんじゃないの?」
そう、私達が所属しているテニス部。
昨日は朝練だけの日だったけど今日は放課後みっちり練習の日だ。
さすがにサボるのは躊躇われる。
「今日はいいの!だってソラ、なんだか元気が…」
と、カノンの言葉を遮るようにカバンに入れていた携帯が鳴った。
カノンに断りを入れて私は携帯を開く。
メール機能を立ち上げて新着を確認する。
そこには意外な差出人の名前が書かれていた。
「ママからだ…」
メールの内容はこうだ。
今家についたけど鍵がないから入れないよぉ(泣)早く帰って来てぇ~!
「ご、ごめん!私すぐ帰らなくちゃ…ママが帰ってきたんだ…鍵あけておかないと…」
「そうなんだ…じゃあ一緒に…」
その言葉を遮り私は言った。
「この文面だともうママ家の前についてると思うの…だから…」
心からの謝罪を込めてその言葉を放った。
たぶんカノンは私を心配してくれてたんだと思う、その気持ちをむげにしてしまうのは躊躇われた。
「いいよ、私、顧問の先生に言っておくから」
「ありがと、カノン」
私はそう言って荷物を抱えて教室を飛び出す。
と、後ろからふとカノンの声が。
「時間ができたらメール入れてよ、遊びにいこ?」
結局カノンはサボるのかとあきれ交じりのため息が漏れた。
全速力で家につく。
しかしどこにもママの姿は見当たらない。
私は玄関のドアに手をかける。
鍵はかかっていなかったようですぐにそれは開いた。
不審に思った私は扉を開けてゆっくりと中に入る。
抜き足差し足で廊下を歩いていく。
しかし自宅だというのにこんな泥棒みたいな真似、と私は内心で笑みを漏らす。
と、居間から話し声が聞こえた。
そろぉっと近づきバンっと居間へと続くドアを開く。
「ん?ソラ、お帰り~」
そこにはもごもごとスコーンを頬張るママの姿が。
そしてその向かいの席にはお兄ちゃんが。
どうやらお兄ちゃんが家のドアを開けてくれたらしい。
お兄ちゃんには昨日のうちに家の合鍵を渡していたのだ。
「ソラもスコーン食べる?」
しかし私はママの声を無視してお兄ちゃんに話しかける。
「あの…お兄ちゃ…」
その声を最後まで聞かずにお兄ちゃんは席を立った。
「母さんゴメン、俺勉強しないと…」
そう言ってそそくさとお兄ちゃんは部屋へと行ってしまった。
私と目も合わせてくれずに、だ。
「お兄ちゃん…」
ぼそりと呟いた私も部屋に逃げ込む。
後ろからママの声がかかったが私はそれを適当にあしらった。
(はぁ…お兄ちゃん、絶対私を避けてるよね…)
部屋のベッドの上。
私は大きなクマさんの人形をぎゅっと抱きしめる。
もやもやしたり寂しかったりした時はいつもクマさんを抱きしめる、それが私の癖になってしまっていた。
これはずっと昔の誕生日にお兄ちゃんがプレゼントしてくれた物だ。
ほつれてはぬってを繰り返して今は少し歪な姿になっているが私はこのクマさんが大好きだ。
「クマさんはどう思う?どうしたらお兄ちゃんと話せるかな…?」
私はぎゅっとクマさんを抱きしめて話しかける。
ふかふかの綿が私の心をいやしてくれるようだ。
それに胸の内に溜めこむよりはこうして言葉にした方が幾分かすっきりした。
「…お兄ちゃん」
私は意を決したように部屋を飛び出す。
お兄ちゃんにちゃんと話してもらわないと…
しかしそれは出鼻をくじかれたようだ。
扉を開けたところにお兄ちゃんがいた。
手がちょっと濡れているので多分トイレにでも行っていたのだろう。
「え~と…その…お、お…」
意気込んだ私だったがやはり無理なようでして。
口から零れるのはなんとも虚しい意味のない言葉だけだった。
お兄ちゃんの姿が見れない。
多分お兄ちゃんも私の姿を見てくれないのだろう。
いそいそとした態度に両者は痺れを切らした。
お兄ちゃんは私の横をすり抜け私もお兄ちゃんの横をすり抜ける。
腐っても兄妹、考えることもやることも同じだ、皮肉なことだが。
何故だろうか、私はそのまま靴を履いて外に出ていた。
家にいれば必ずお兄ちゃんと遭遇する、無意識のうちの逃避行動だったのだろう。
家から離れるごとに私の思考は徐々にクールダウンしてくる。
住宅街のど真ん中に私のため息が漏れた。