Train Cinderella ~A Prohibition Lover~ 作:如月ライト
それからは私も詳しいことは覚えていない。
あの男が私のパパになるって話を聞かされて、それで結婚式は明後日執り行うって言われて…
もうそこからは思い出せず気付けばもう結婚式の日になっていた。
一度結婚会社で名を馳せたままは式の予約や資金もある程度優待が効くらしい。
そのためこんなにも急激な速度で事が進んでしまっていた。
結婚式は私の住んでいる県内有数の大きなホテルで執り行われる。
私は今そのホテルのロビーにちょこんと座っていた。
ママとパパ(になる予定の人)は衣装を整えるために先に家を出ていった。
そのため私は一人で電車を乗り継ぎここまで来たのだった。
私はそのロビーである人物を今か今かと待ち構えていた。
私が再婚をきいた日から今までの間あやふやだったのはずっとその人のことを考えていたため。
私がどうしても許せないアイツとママが再婚を許したのもその人とのことを考えたため。
私が今までずっと頑張って生きていけたのはその人のおかげ…
私がこのロビーで座って待ち始めてからどれぐらいの時がたっただろうか。
だんだんと睡魔に襲われうつらうつらとしてくる意識。
意識が闇に落ちそうになるのを必死にガマンするもそれに抗うことも困難になってきたその時。
私の元に一人の男が近づいてきた。
「なに眠たそうにしてんだよ?大丈夫か?」
その男は私の肩をたたき私を闇から引きずりあげる。
「おっと確認がまだで悪かった、久しぶりだからついな…ってお前…ソラ・・・だよな?」
私が寝ぼけ眼のままその男を見ていたのがその男からしてみれば私が変な人を見るような目に見えていたんだろう。
「うん、ソラだよ…」
だんだんと視界の靄(もや)が晴れて頭も覚醒してくる。
そしてその男の顔もだんだんとはっきりと見えてくるようになる。
整った綺麗な顔立ちだがしっかりと男と感じさせるような顔つき、美しい黒髪を長めに伸ばしすいたような髪型。
今は屈んでいて目測でしかわからないがたぶん180cmはあるであろう長身。
私はその姿にドキッとした。
記憶に残っているあの姿とは明らかに違っているからだ。
しかしその香りや面影は昔そのままだった。
そして私はその名を呼ぶ、昔から呼んでいたその名前を。
「お兄ちゃん!」
私は大きく腕を伸ばしてお兄ちゃん、日向(ヒナタ)に抱きついた。
「お兄ちゃん!逢いたかったよぉ…ふ、ふぇぇ…」
私はお兄ちゃんに抱きついた途端今までたまっていた感情が決壊し溢れ出してくる。
「ソラ・・・寂しい思いさせて悪かったな…」
私にはお兄ちゃんがいた。
幼いころに分かれたお兄ちゃんが。
理由は両親の離婚、それは前にも言ったとおりだ。
そこから数年の空白を作って私はまたお兄ちゃんと再会した。
そしてそれが意味するのは一度縁を切ったあいつが私のパパに戻るということだ。
いや、もう昔みたいにパパなんて言わなくてもいいだろう。
アイツは私たちにとって最悪の奴だったんだから…
あいつは昔から酒癖が悪くお酒を飲むたびに私たち兄妹を殴っていた。
どうやらあいつは私たちのことで相当ストレスがたまっていたようだった。
ママのことはとっても大切にしててお酒を飲んでもママにだけは攻撃しなかった。
ママはアイツにお酒をやめるように言い聞かせていたがママが仕事などで遅くなるという時はそれを破ってお酒を浴びるように飲み私たちに当たった。
私達はそれに必死に耐えた、ママに言いつけてもよかったんだけどママがいない時に余計に殴られたりするだけなのでやめておいた。
しかしその生活もある時終わりを迎えた。
遅くなると言っていたママが早く片付いたということで帰ってきた時だ。
多分その時が一番酷い時だっただろう。
アイツはいつも以上に酒を飲んでいた。
そしてアイツは訳の分からないことをぶつぶつ言いながら私の胸を触ってきた。
私が成長期に入り胸も膨らんできたという頃からかアイツは私に変な目を向けてきていた。
たぶんアイツは酒によって日頃たまっていた欲求を私で解消しようとしたのだろう。
私は必死に抵抗しようとしたがアイツの力は予想外のモノで私なんて軽くねじ伏せられる。
近くにあったソファに押し倒され私はもう終わったと思い泣き叫ぶのもやめて感情も自分の内側に隠し殺した。
(あぁ…私、こんな奴に初めてとられちゃうんだ…こんな奴に汚されて…初めてはお兄ちゃんがよかったのに…ゴメンね、お兄ちゃん…)
私は胸の中でお兄ちゃんのことをずっと思い続けた。
あ、このキモチは今でもお兄ちゃんには秘密だからねっ!
するとお兄ちゃんが大声をあげながら自分の部屋から持ってきたバットを持ってきてアイツの身体を吹き飛ばす。
それからはもう何がどうなったのか覚えてなかった。
結論から言えば帰ってきたママによってアイツは抑えられてそれから離婚という話につながった。
お兄ちゃんは気絶するまでぼこぼこに殴られて私はその時から特定の人の前でしか心を開けなくなった。
昔はお兄ちゃんとママだけにしか心を開けなかったけど今はもうほとんど完治してしまっている。
もう誰が相手でも普通にコミュニケーションができるほどだ。
「ね、ねぇ…グスっ…お兄ちゃんはさ…アイツと一緒に過ごして大丈夫だったの…?」
私はしまっていた過去の記憶からアイツのことを思い出して兄に尋ねる。
「あぁ…アイツは母さんがいなくなった悲しみでずっと家で飲んだくれた日々を過ごしていたんだ、仕事も辞めてずっと家でだらけてた。でも暴力は振るわなくなった、まぁずっとじゃないけどな…」
お兄ちゃんは忌々しげにそう答えた。
「で、俺はその生活から逃れるように家を飛び出した。それからは俺の友達の家に居候させてもらった、その親がかあさんの昔の知り合いってことでな」
「どうしてママの所に来なかったの?ママの所にこれば安全じゃ…」
「お前に迷惑かけたくなかったんだ。散り散りになった息子を引き取るほどの余裕もないって思ったしそれにいつアイツが俺を追いかけてくるかわからない。俺のことでオマエを巻き込みたくなかったんだ」
そうか、お兄ちゃんはママが私たち二人を引き取るつもりだったって事知らなかったんだね。
ってことはやっぱり私が悪いことしちゃってお兄ちゃんを苦しめたのかな…。
私は過去の自分を呪うように顔をしかめる。
「で、そのあとはまぁあんまり話すことはないな。バイトしてその金を友達の家に渡してたし大学は奨学金で行った、そこの先輩に安アパート紹介してもらって今はそこに住んでる」
私の知らない間にお兄ちゃんはこんなにも苦労してたんだと思うとやっぱり罪悪感がひしひしとわいてくる。
私のあの行動で、あの言動で、お兄ちゃんを苦しめた。
(私があの時お兄ちゃんとあんなことをしようと言ったから…)
「すいません、時雨さんの息子さんと娘さんですね?準備が整いましたのでどうぞ奥に…」
そのときこのホテルの従業員であろう男が私たちを呼びに来た。
今までの会話ですっかり忘れていたが今から結婚式の予定だったのだ。
「あ、はい。今行きます…ほら、ソラ?行こうか」
お兄ちゃんは私に手を差し伸べてくれる。
私は随分と様変わりしてしまったお兄ちゃんの手をどぎまぎしながら握り会場に向かった。