Train Cinderella ~A Prohibition Lover~ 作:如月ライト
「ん…ん~…」
私は深い眠りから覚める。
いつもの朝とは違う温かな気持ちで目が覚めた。
「あれ…?ここ私の部屋じゃない…?」
私は寝ぼけ眼でぐるりと部屋を見渡す。
自分の部屋じゃない場所で、ベッドで眠っていた。
それに隣には男の人が…。
「あ、そう言えば昨日寝れないからお兄ちゃんの部屋に…」
やっと目覚めてきた頭が昨日の事を思い出す。
お兄ちゃんと再会できてお兄ちゃんと一緒に住むことが出来て…。
私はそう思いながら感傷に浸る。
なんだか昔に戻ったみたいだと少し笑みがこぼれた。
しかし昔とは違うことが一つ。
「あ、ヤバい…学校…」
ふと時計を見ると7時40分を指していた。
そう、昔は学校へ行くのもゆっくりしていればよかったのだが今は違う。
この時間だと確実に遅刻確定だ。
高校生の朝は慌ただしいのだ。
私はお兄ちゃんをおこさないようにそっと布団から出てから自分の部屋へと着替えに行く。
お気に入りのパジャマを脱ぎ捨てまだ少し大きめの制服に腕を通していく。
完全に着替え終えてから鏡の前で一回転してみせる。
「うん!今日はばっちり!お兄ちゃん、これ見てどう思うかなぁ…」
私の頭の中は完全にお兄ちゃんの事でいっぱいだった。
お兄ちゃんが嬉しいと私も嬉しい、それが私の行動原理だ。
分かってる、ブラコンってことはわかってるんだ。
PiPiPi...
ふとききなれた音が耳に入る。
「あれ…?ケータイの目ざまし…」
無機質な携帯のアラームが頭に響く。
いつもは7時に合わせている目覚ましがこの時間になるなんておかしい。
私は不審に思いアラームを止めた携帯の画面を見る。
「まだ7時だ…」
携帯の時計は電波だからずれることはない、要するにお兄ちゃんの部屋の時計が狂っていたってことになる。
私は遅刻を免れたことにより一息つく。
しかしまだまだ私のピンチは続いていた。
携帯には一通のメールが来ていた。
「ママからメール来てた、なんだろ…」
メールの相手はママ、受信時刻は昨日の11時だ。
昨日のあの時間帯はお風呂に入ってたから気付かなかったのだろう、それにそれ以降の時間帯に携帯をいじった覚えもないし。
メールの内容に目を通して私は驚愕する。
「ママ…ちょっとそれは酷いんじゃないかな…」
メールの内容はこういうモノだった。
明日の晩まで帰れそうにありません。お昼ご飯は自分でお弁当を作って持って行ってください。
現時刻は7時だ。
ここからお弁当を作っていれば確実に遅刻だ。
やり場のない怒りが胸の中で渦巻く。
「ど、どうしよ…今からお弁当作っても時間が…あ、学食!…でも今月のお小遣いピンチだし…もういっそお昼抜きに…」
「どうした、ソラ?朝からそんなに慌てて」
ふと扉からお兄ちゃんの声が聞こえた。
どうやら私は自分の部屋の扉を閉め忘れていたらしい。
お兄ちゃんに私の焦る姿を見られてしまい顔から火が出る。
しかし今はそれを気にする余裕はなかった。
私は早口にお兄ちゃんに今さっきのことを説明する。
「へぇ…お昼ごはんねぇ…ソラ、学校のお昼の時間って何時だ?」
「え?12時30分だよ」
「なら間に合うか」
お兄ちゃんは一瞬考える素振りを見せたあと自分で納得した様子を見せてからリビングに降りる。
そのあとを私は早足で追いかけた。
「お兄ちゃん、どうしようっていうの?」
「まぁ内緒だ、ソラはそのまま学校に行ってろ」
「むぅ…」
私はなんだかやりきれないまま朝食を済ませてから学校へ行く。
「いってきま~す!」
「おう、いってらっしゃい」
こうしてママ以外の人に行ってきますというのも久しぶりだった。
私は軽やかな足取りで学校へ行った。
時間は飛んでお昼時。
お兄ちゃんは何とかなるって言ってたけどここまでに何のアクションもなし。
もしかしてお兄ちゃん適当に言ったのかな?
「ソラ、お昼食べよ…ってどうしたの?そんな変な顔して?」
友人のカノンが弁当を持って嬉しそうに私に近寄ってくる。
この金髪ハーフ娘のお弁当は毎日豪勢だ、少し分けてもらおうか。
「そんな変な顔してた?…今日お弁当なくてどうしようかなって…」
だから分けてくれないかなと言おうとした瞬間教室のドアが勢いよく開かれそこから私を大声で呼ぶ人影。
「え?お、お兄ちゃん!?」
お兄ちゃんは汗だくで肩で息をしながら教室のドアに手をついている。
教室中の視線が私とお兄ちゃんの交互に向けられる。
「え?あれ、誰?変態?」
「ソラちゃんがお兄ちゃんって言ってたしお兄さんじゃないの?」
「うわぁ…かっこいぃ…」
「あんなカッコいいお兄さんがいるなんてソラちゃん羨ましいなぁ…」
そんな声が教室中から上がる。
黄色い悲鳴や疑いの目が私たち二人に突き刺さる。
「え~と…お兄ちゃん、これはどういう事なのかな…?」
「お弁当、作ってきたから」
そう言ってお兄ちゃんは背負っていたバッグの中から小さな包みを取り出す。
「あ、アリガト…」
この視線の中でこれは少しどころか結構恥ずかしい。
私はぎこちなくお礼を言いそれを受け取る。
掌の上に落とされたそれはずっしりとした重さを感じさせた。
「じゃ、お兄ちゃん…またね」
別れを惜しむように私は手を振る。
家でまた後で会えるというのにこんな感情になるなんて不思議だ。
「え?いやいや、俺はまだ帰らないけど」
「はい?」
そう言ったお兄ちゃんは私の横をすり抜けて私の席の近くにある使ってないイスを引き寄せてそこに座る。
そうしてお兄ちゃんは我が物顔でカバンからもう一つの包みを取り出した。
「え?お兄ちゃん、これ、どういう意味?」
「ソラとお昼食べたいなぁって思ってさ…ダメか?」
そう言われた瞬間私は恥ずかしさのあまりうつむいてしまった。
「い、いいよ…」
小声でぼそっと言った言葉をお兄ちゃんは嬉しそうに聞き入れて私も来るよう手招きをした。
「ちょっとお兄さん!ソラとお兄さんは納得しても学校は」
お兄ちゃんに横を座られたカノンは少し不機嫌そうにそう言う。
しかしお兄ちゃんはふふんと得意げな笑みをもらして首から下げていた来校許可証を見せる。
「俺の高校の時の先輩がこの学校の非常勤の講師で許可を取ってもらった。俺はお客様だぜ?それでも追い出すってのか?」
勝ち誇ったように笑うお兄ちゃんに論破されたことによりうつむくカノン。
私はこの二人を見ながらやれやれとため息をつき席に着く。
この後に起こることなど考えもせずに。