冒険者にとって情報は何より大切なものだ。
どこで強い魔物が出て高い懸賞金が掛かっているだの、どこそこでいい武器を集めた市をやっているだの、有用な情報がいつ入るか分からない。
そんな訳で、俺はいつものように新聞に目を通していた。
その中で目を引く広告を見つける。
「シャルルすぐ帰れ」
俺は目を疑った。
これだけならどこにでもあるような知らせなのだが、問題はその広告主だ。
ブレイディア王国、つまり、俺の生まれ故郷の国がその広告主になっている。
俺には腹違いの兄が九人もおり、俺なんかがいなくても問題なく国は回っていく。
そう考えていたからこそ、何の気兼ねもなく冒険者として放蕩三昧をしていられたのだが。
俺の居場所を特定出来ない以上、様々な場所、様々な媒体で同じ文面を何日も広告として出している筈だ。
つまり、たかがこれだけの事を伝える為だけに相当の金をばら撒いている。
ただ事ではない。そう感じた俺はすぐさま故郷(ブレイディア)に帰る事にした。
そうと決まれば、即座に軽さと利便性を重視した装備を整える。
剣は鳥の羽根のように軽い希少な金属製で、翼の意匠(デザイン)が施された翼刃(ウイングブレイド)を、防御力こそ中程度であるものの軽量な甲冑に変換出来る魔装指輪(マジックリング):鎧(アーマー)を、盾は軽量で丸みを帯び受け流しに特化した円形(ラウンド)小盾(バックラー)を選んだ。
暦(こよみ)は二月。
まだまだ冬の寒さ真っ只中だ。
場所にもよるが、雪が積もっている所も見受けられた。
歩き続けても熱くならない程度に重ね着をし、断熱効果の高い外套(マント)を羽織る。
荷物は身分を証明出来るもの、路銀、携帯食と皮の水筒、高い魔力が付与(エンチャント)された即効性のある回復薬を詰め込んだ雑嚢(ざつのう)だけだ。
サーガイア。
それが俺の属するブレイディア王国も存在する大陸の名である。
そして、ブレイディアはその大陸の西側に位置する、所謂(いわゆる)『勇者の血族』が統治する小国だ。
幸い、と言うべきだろうか。
俺の現在位置はブレイディアからそう遠くはない。
しかし、間の悪い事に俺は大陸内部に来ていたので、船を使う事が出来ず陸路を通らざるを得なかった。
俺は馬車が使える場所は極力馬車で、馬車が通れないような危険な場所は徒歩で、それこそ寝る間さえ惜しんで故郷(ブレイディア)へと足を進めた。
そんな強行軍をする事三日。
俺は漸く故郷であるブレイディア王国の王都・ソーディオンまで辿り着いた。
内政に優れた王のお膝元、という事もあり、この辺りの魔物に対する警備はしっかりしており、町中ではまず戦闘になる心配はない。
問題なく関所を抜けた俺は甲冑を指輪に変え、小盾(バックラー)を背負い、剣だけを佩(は)いた。
久し振りの故郷。
俺はその懐かしさに足早に歩を進めながらも、町の様子を見渡す。
人種の坩堝(るつぼ)、と呼ばれているブレイディア。
街中には|森の民(エルフ)、|鉄の民(ドワーフ)といった亜人(デミヒューマン)は勿論、人狼(ウェアウルフ)や蜥蜴人(リザードマン)等の獣人(セリアンスロープ)の姿も見受けられる。
こんな平和な光景を見られる国は世界広しといえども、我がブレイディア王国だけだろう。
それを鑑みれば、多少小汚い格好をしているだけの俺の存在なんて珍くも何ともない。
それを証拠に俺の存在を気に留める者など誰もいなかった。
相変わらず町中は清潔に保たれ、様々な店が幾つも立ち並び、子ども達が元気にはしゃぎ回る声も聞こえてくる。
そんな感じで、以前と同じように町は活気に満ち溢れていた。
歩き慣れた道を歩き、王城の門前まで辿り着く。
そこでは駄弁る事もなく、門兵が二人真面目に職務に従事していた。
俺はゆっくりと歩を進め、彼らに声を掛ける。
「第十王子のユーシャルルーシュだ。緊急の知らせを受け、ただいま馳せ参じたので国王陛下にお目通りを願いたい」
俺がそう告げると二人が胡散臭そうな目で俺を見る。
「そういう話は聞いていないのか?」
「話自体は聞いているが、そんな身なりで王子様、って言われてもなあ……。見た感じ全然違うようだし……。ほら、これがオレたちに配られている、かの御仁の人相書きだ」
そう言いつつ、第十王子であるユーシャルルーシュ、つまりは俺の人相書きを見せてくる。
彼らの言う通り、三年という月日の流れもあり、その人相書きと現在の俺の容姿とでは大きく変わってしまっていた。
それに加えて、今の俺の格好はとても王族には見えない。
薄汚い服装に髪は無精で伸び放題、邪魔にならないように纏めてはあるものの、野暮ったい印象は拭えないだろう。
強行軍しなければならない、という事もあり、そんなお上品な格好をしてきた訳でもない。
大した相手ではないものの、何度か魔物と戦闘にはなっているので、それが正解だった訳ではあるが。
「王家の者である証ならあるが、懐から出して構わないか?」
許可を貰い、王家の証である紋章の入った短剣を見せる。
「確かにこれは王家の紋章。でもこれだけじゃなあ……」
この国の王族の男児は成人時に王家の紋章が入った短剣を打って貰い、それを身の証としているが、その辺りの風習が今は廃れてしまっているらしかった。
それというのも、俺以外の王子達の顔は周知されていたし、身分の高い人間はそれなりの服装をしているので、普段ならそこまでする必要がないからだ。
彼らにとって御大尽というのは大勢のお供を従えて立派な馬車に乗ってやって来る者達の事であって、俺のように小汚い格好をして徒歩でやって来る怪しい男ではないのだ。
「刀身に血族の血を垂らせば刀身が光るんだが、それを見せても駄目か?」
「悪いけど、そんな話は聞いたことがないなあ……」
前述した証は完全に形骸化してしまっているようだ。
俺は接近(アプローチ)の仕方を変える事にした。
「じゃあ、クロード様の奥方のニーネ様はおられるか? 彼女に面通しをお願いしたいのだが」
クロードは第九王子の兄だ。
俺と同じく権力の競争(レース)からは早々に脱落し、他の兄達と比べればまだ歳が近い事もあって俺とは仲良くしてくれていた。
ニーネはその妻で、義姉にあたる。
俺の名前を聞いて喜んで駆けつけてくれるのはこの人位のものだ。
「悪いが、王家の方をどこの馬の骨ともわからない人間と会わせるわけにはいかないなあ……」
馬の骨、と来たか。
まあ、兄達と比べれば血統が劣るのは自覚しているが。
「そこの鉄格子越しで構わない。俺の顔を見て貰えば俺がユーシャルルーシュだって分かって貰える筈だ」
「まあ、それくらいなら……」
「鉄格子越しじゃ悪さもできないだろうし、仕方ないなあ……」
こうして他に確認のしようがないので、渋々という感じではあったが漸く提案を受け入れて貰えた。
「こっちも仕事なんでな。悪く思わないでくれよ?」
待っている間に門兵の片割れにそんな事を言われる。
「いい加減な警備をやられるよりはずっといいさ。俺程度の発言力はたかが知れてるが、あんたらは仕事に熱心ないい兵士だって王様に伝えておくよ」
彼らに悪気がある訳ではないので、理解は示しておく。
「あんた、全然王子様っぽくないな。王族はもっと偉そうにしているもんだが」
「王子様、って育てられ方をしていないんでね。特別扱いされないのなんて慣れっこだ」
そんな他愛もない会話をしていると待ち人がやって来た。
金色の髪、翡翠の瞳、白磁の肌、薔薇の唇。
長い髪を後ろで束ね、ドレスを纏ったその姿はどこから見ても貴婦人そのものだ。
久し振りに目にした義姉(あね)は、以前と変わらずに美しいままだった。
「シャルル!」
その美しい義姉(あね)が鉄格子越しに俺の顔を見るなり、門を開けさせ駆け寄ってくる。
「シャルル、シャルルなのね!」
そう言って俺に抱きついてくる。
俺の格好はとても綺麗とは程遠い。それにも拘わらずに。
「汚れますよ、ニーネ義姉(ねえ)さん」
されるがままに俺は言った。
「かわいい義弟(おとうと)との再会ですもの。そんなこと気にしないわ」
「そう仰って頂けるのは大変嬉しいんですが……」
「貴方、ちっとも帰ってこないんですもの。心配したわよ」
「すみません……」
「ところで、シャルル」
「はい」
「ずいぶんと伸び放題に髪が伸びているわね。貴方、素材はいいんだから身嗜みには気を付けなくてはダメよ?」
俺の無精をそのまま形にしたかのような髪に視線をやりながら、義姉(ねえ)さんがそんな事を言ってくる。
「ええ、肝に銘じておきます」
その言葉に俺は素直に頷く外(ほか)なかった。
この心優しい義姉(あね)には本当に世話になりっ放しで、とても頭が上がらないからだ。
そんな俺達のやり取りを見ていた門兵が恐る恐る声を掛けてくる。
「ニーネ様、この方が?」
「ええ、間違いなくわたくしの義弟(おとうと)のユーシャルルーシュです」
義姉(ねえ)さんがそう言った時の二人の顔は傑作だった。
「ご苦労様でした。職務に戻って頂いて構いませんよ」
「先程は大変失礼致しました。なんと非礼をお詫びすればいいのか……」
「さっきも言ったが仕事だろ? 気にしないでくれ」
ひたすら恐縮しまくる二人とのやり取りもそこそこに俺は城の中に入った。
「ご無沙汰しています。兄さんとディアは元気ですか?」
何の気なしにそう尋ねる。
ディア、というのは愛称で、正式にはクローディア。
兄さんと義姉(ねえ)さんの一人娘で、俺にとっては姪にあたる。
「ディアは元気よ。……あの人は……貴方はまだ何も知らないのね……」
言葉の途中で義姉(あね)の表情に影が差したのが気になった。
「……お義父(とう)様はお待ちかねよ。お伝えしてからお会いしに参りましょう」
今度は義姉(ねえ)さんが間に立ってくれた事もあり、大して待たされる事なく謁見の間に通される。
俺の姿を見た家臣達はひそひそと話をしている。
こんな小汚い格好で謁見の間に現れた俺に呆れているようだ。
「ユーシャルルーシュ、ただ今参りました」
膝をつき、頭を下げる。
「遅くなってしまった上に、こんな格好で申し訳ありません」
俺は正装で来れなかった事を詫びた。
「何を詫びる事があろうか。その姿こそお前が脇目も振らずに駆けつけてくれた事を何よりも雄弁に語っている。よく帰って来てくれた」
王である父はきちんと察してくれているようだ。
上辺ではなく、本質を見抜く眼力。この辺が家臣から慕われる理由なのだろう。
父は俺の意思を尊重してくれていた。
その彼が俺を国に呼び戻すという事は余程の事なのだろう。
そう考え、俺は神妙に話を聞いてみる事にした。
「話というのは他でもない」
「はい」
「お前に『お役目』を任せたい」
「『お役目』、ですか?」
聞き慣れないその言葉を俺は訊き返さずにはいられなかった。
「困惑しているようだな。まあ、無理もない」
説明不足なのは承知の上だったのだろう。王が補足を始める。
「要するに、勇者であるお前と才能に溢れた出産適齢期の女性達との間で可能な限り大勢の子を成して欲しい、というのが所謂(いわゆる)『お役目』だ」
ブレイヴロード家は勇者の家系だ。今の世の中は未開の地を拓(ひら)き、人間の領地を拡大する為に魔物を駆逐出来る人間を大量に欲している。
要はそういった特別な力を持った人間を増やす為に種馬をやれ、という事だ。それは分かる。
しかし。
「恐れながら、陛下」
「うむ、申してみよ」
「私の序列は最も下の筈です。他に適任者は幾らでもおられるのでは?」
父は目の前の国王であるが、母は貴族でも何でもない唯の町娘だった。
序列上位のそうそうたる面子に対して、血統的に俺はとても良い方だとは言えない。
血統の良い兄達を差し置いて、俺が選ばれた事を疑問に感じずにはいられなかった。
その思いが、俺にそんな言葉を言わせる。
それに対する王の返答は俺が予想だにしていないものだった。
「いないのだ。お前の他にはもう誰も」
「いない、と仰いますと」
「兄達は全員亡くなったのだ」
俺にはその意味が分からなかった。
「!」
しかし、一瞬遅れて漸くその意味を理解する。
「兄上達が全員、ですか!?」
俺は驚きが隠せなかった。
世継ぎに問題がないよう、一人二人死んでも大丈夫なように五、六人子どもを作る事は王家では慣例になっている。
十人なら単純計算してその倍だ。
普通に考えれば十分過ぎる。
それが俺以外の兄達が全員亡くなるなど異例中の異例の事態だ。
「お前が驚くのも無理はない。私とて未だに信じられんのだ」
病死や事故死、その理由は様々らしいが、兄達がもうこの世にいない事だけは確からしかった。
「お前の事だ。おおよその事は理解してくれたとは思うが、この話にはまだ続きがある」
「はい、伺います」
「私はお前以外には適任者はいない、と思っているのだが、お前の事をよく知らない者も多い。それで能力に懐疑的な者も多くてな。その者達を納得させる為に、追って試験のようなものがあるという事を心に留めておいてくれ」
「承りました」
その後、俺は門兵が仕事熱心で感心した、という事を軽く王の耳に入れて会話を終了とした。
「長話をして喉も渇いただろう。飲み物を持て」
王が命じると、さして待つ事もなく飲み物を携えた侍女(メイド)が姿を現した。
杯(グラス)の中の液体は暖かい城の中だというのに、冷やされている。
こんな贅沢が出来るのも王族の特権だ。
王は贅沢を好むような人ではない。俺の為に特別に用意させてくれたのだろう。
しかし。
「……」
俺は多少思うところがあり、それを丁重に辞退した。
「無礼な! 陛下のご厚意を踏みにじるおつもりか!」
家臣の一人がその俺の態度が気に障ったのか、声を荒げる。
「良い。ユーシャルルーシュにも何か思うところがあるのだろう」
極めて冷静に王が言った。
「ですが!」
尚も食い下がる家臣。
しかし。
「聞こえなかったか? 私が良い、と言っている」
ぎろり、と王がその家臣を睨む。
現役ではないとはいえ、さすがは勇者。
子を成せなくなった身体になっても、その眼力は些かも衰えてはいない。
そんな鋭い視線で射抜かれては、その家臣はその場で小さくなる外(ほか)なかった。
「ユーシャルルーシュにはもう少し話しておきたい事がある。済まないが、他の者は席を外してくれ」
そう言って王が人払いをさせる。
それに従い、ぞろぞろとその場にいた者が部屋から退出していく。
その間に改めて実父である王を見る。
齢(よわい)は五十も半ばを過ぎ、成人を過ぎた孫が何人にもいるにも拘わらず、その容姿は四十代前半と言っても差し支えない程に若々しい。
長身痩躯、金髪に碧眼、切れ長の目、高い鼻、意志の強さを感じさせる口元、形のいい顎。
美形揃いの勇者の血族の中においても、その存在感は一際輝きを放っている。
線は細いものの、中性的ではないところが俺とは決定的に異なる点だろう。
勇者の血族の当主に相応しい堂々とした立ち振る舞い、威厳を持ちつつも威圧感を与えない穏やかな物腰は「賢王」という異名に些かも名前負けしてはいない。
長男から三男までが火花を散らし、混迷を極めていた王位継承問題ではあったが、父の代では継承争い、というもの自体がなかったそうだ。
その逸話(エピソード)から彼がいかに突出した存在だったかを語るまでもない。
待つ時間の暇潰しがてらに、俺はそんな考えを頭に巡らせていた。
全員がいなくなったのを確認して、王が話し始める。
「ここからが他の者には聞かれたくなかった話だが」
「はい」
「念の為、お前に表と陰で常時二名の護衛を付けようと思うのだが、問題ないか?」
「恐れながら陛下」
「うむ」
「お心遣いは大変感謝致します。ですが護衛は必要ございません。貴重な人員をそのような事の為に割いて頂くのは誠に心苦しい所存です」
「お前ならそう言うだろうとは思っていたが念の為だ。お前の存在を快く思わない者達も少なくないのでな」
「私の事を快く思っていない、と仰いますと、ファスツォーネ様辺りでしょうか?」
ファスツォーネ、というのは俺の一番上の兄の妻、要するに義姉にあたる訳だが、血統で劣る俺の事が相当気に入らないらしく、とても分かり易く俺を目の敵にしてくる。
正面切って文句を言ってくるので陰険ではないのだが、何かと口煩い存在ではあった。
「それと何人かの大臣達だ。兄達が存命中は放蕩三昧で碌に国にもいなかったのに、今更どの面下げて帰ってくるのか、とな」
「それを仰られると、返す言葉もございません」
「気にするな、私が言っている訳ではない。私はむしろ自由なお前を呼び戻す事になって心苦しく思っている口だ。お前には非などない」
平身低頭する外(ほか)術のない俺に王がそんな言葉を掛けてくれる。
「恐れ入ります」
「話が逸れたな。続けてくれ」
「はい。ファスツォーネ様はあれで性根は真っ直ぐなお方です。こそこそと私に危害を加えてくるような真似はまずされないでしょう」
「私もそうは思う。あれも根はそう悪い女ではない。会う度にちくちくと苦言を呈されるかもはしれんがな」
「他の未亡人の方々は問題ないでしょう。ニーネ様以外からは良くも悪くも思われていない筈でしょうから」
ニーネ義姉(ねえ)さん以外とはそもそも好かれる程も嫌われる程も深く関わってはいない。
公の場、または城の中で、本当に挨拶程度、言葉を交わした事があるだけだ。
俺が戻ってきたところで王位継承の候補者として挙げられていない以上、未亡人達が俺の存在を疎ましく思う理由はない、と思いたい。
俺がいようがいまいが序列に変化は生じないので、俺の存在は空気そのものだと言って差し支えないだろう。
まあ、ファスツォーネだけは特別扱いはされていないものの、王が俺を信頼している点から、俺を後継者として選びたがっている、と思い込んでいるみたいだが。
「となると、後は大臣達だが」
「私がいなくなったところで、何も利益になるような事はないと思いますが。強いて言えば、精神的に目障りな者がいなくなる、程度でしょうか」
「私もそう思う。即物的な利益は何も得られはしないだろう」
俺を鬱陶しく思う者がいなくはないが、得られるものがない以上、そうそう危害を加えてくる事はないだろう、というのが王と俺の結論だ。
「見知らぬ人間に傍にいられるのは正直窮屈ですし、降り掛かる火の粉位は自分で払ってご覧に入れますよ」
自分の身すら守れないようでは恥ずかしくてとても勇者だ、などと名乗れない。
その思いが俺にそんな言葉を言わせる。
「お前の力量は知っている。お前がそう言うのなら、態々(わざわざ)余計な経費を使う必要もあるまい。好きにするといい」
そんな俺の思いを知ってか、それをあっさりと了承してくれる王。
「誠に有難く存じます」
その心遣いに対して俺は深々と頭を下げた。
「護衛を付けた事に対してではなく護衛を外した事に対して礼を言われる、か。まったく妙なものだな」
やれやれ、といった感じで王は言う。
「恐れ入ります」
頭を下げたまま俺は言った。
「話は以上だ。お前も長旅で疲れている事だろう。部屋を用意させているので旅の垢を落としてゆっくりと寛(くつろ)いでくれ」
最後に俺に労いの言葉を掛けてくれる王。
こうして、多少の内緒話を交えた王との謁見は終了した。