※この作品はR-18です。

勇者製造機 ~子作りするのが仕事です~   作:芽中要

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プロローグ②「アシュレイと一戦交える」

 案内役としてあてがわれたのは、さっきの茶を運んできてくれた侍女(メイド)だった。

 歳は俺より少し上だろうか。

 切れ長の目、形のいい鼻、薄目の唇には赤い口紅が差されている。

 こんな侍女(メイド)に世話を焼いて貰えたら幸せだろうな。

 そんな事を思ってしまう程、滅多にお目に掛かれない位の美人だ。

 この国の人間にしては珍しい黒髪(ブルネット)だが、顔立ちはそう違わないので遥か東方の島国出身ではないようだ。

 長い髪を動き易いように後ろでまとめ上げ、背は女性にしては高くすらりとして、出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいる、非常にめりはりの利いた身体つきをしている。

 一言で言えば、体型(スタイル)抜群だ。

「貴方様のお世話役をおおせつかったアシュレイ=スクリードと申します。どうぞお見知りおきを」

 その彼女がそう言って深々と頭を下げてきた。

 俺の方もそれに応える。

「ユーシャルルーシュ=ブレイヴロードだ。貧乏|籤(くじ)を引かせて悪いが、暫くの間よろしく頼む」

 権力の座から無縁な俺の世話役をしたところで得になる事など何もない。

 厄介事が舞い込んできた、と考えるのが普通だろう。

 それにも拘わらず、俺の予想外の答えが返ってくる。

「貧乏くじだなんてとんでもございません。お会いできるのを楽しみにしておりました」

「会えるのが楽しみ? 放蕩三昧で有名な馬鹿王子の俺と? 面白い冗談だな」

「ユーシャルルーシュ様の武勇伝は色々と伺っておりますわ。それをご本人の口からお聞かせ願えると大変うれしく存じます」

「そりゃ色々と尾鰭(おひれ)が付いてそうだな」

「噂というのはそういうものではございませんか?」

 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるアシュレイ。

 その笑顔はとても蠱惑的だ。

 彼女の言葉を額面通りに受け取るならば、俺に好意的だというその言葉に嘘はないように思えた。

「違いない」

 俺の方もくっくっ、と含み笑いしつつ、そう返した。

 そんな会話をしながら、あてがわれた部屋へと向かう。

 しかし、城の中の割には一向に誰ともすれ違わないし、妙に静かだ。

 それに加えて、俺の目の前を歩いている美人|侍女(メイド)には気になる点が幾つかある。

 一つ目は気になった「あの茶」を運んできたのが彼女だという事。

 用意したのが彼女ではなく、ただ運ばされただけで本当に何も知らないからこそ普通の態度なのかもしれないが、これが演技だとしたら相当なものだ。

 二つ目は足音だ。

 妙に静かに感じたのは当然だ。

 よくよく考えてみれば、さっきから俺の足音しかしない。

 彼女は足音を出していないのだ。

 そして、三つ目。

 年頃の娘ならいい香りがするものだが、彼女からはまったくしない。

 それどころか、彼女からは生活臭がまるでしない。

 つまり、「においをさせない事が日常」の職業の人間、という事だ。

 そんな特殊な職業は俺の知る限りでは一つしかない。

 二つまでなら偶然だと思えるが、三つ揃ったらそれはもう必然としか思えない。

 俺はきな臭いにおいを感じずにはいられなかった。

 どうやら「試験」とやらはもう始まっているらしい。

 そんな訳で俺はカマをかけてみる事にした。

「一つ訊きたいんだが」

「何でしょうか? 私に答えられることでしたら何なりと」

 柔らかに微笑む。

「侍女(メイド)服がよく似合っているが、本職は侍女(メイド)なんかじゃないんだろ?」

「まあ、何故そのようにお思いに?」

「そうだな……唯の侍女(メイド)にしては美人過ぎる、って理由はどうだ?」

「あら、お上手ですね」

「まあ、それは冗談として」

「冗談ですか。それは残念」

「美人なのは冗談じゃないから、がっかりしなくていいぞ」

「お気遣い痛み入りますわ」

 俺が半ば以上自分を疑っていると見たのか、雰囲気をまるで変える事なく攻撃を仕掛けてくる。

 シャッ!

 速い。

 その分重くはなさそうだが、何か裏がありそうだ。

 そう考え回避する。

「綺麗な花には棘(とげ)がある、を地でいく美女、って訳か」

「あら嫌だ、美女だなんて。照れますわ」

「俺の味方だろうが敵だろうが、お前が美人、という事実に変わりはないからな」

 軽口を叩きつつ、敵として認識した事を告げる。

「上手く演じられていたつもりでしたのに。気付かずに粗相をしてしまいましたでしょうか?」

「立ち振る舞いは完璧だったさ、どこに出しても恥ずかしくない侍女(メイド)だ」

「それではどこでお気付きに?」

「俺は石鹸と混ざり合った女の香りが大好きな訳だが」

「突然性癖を告白されても反応に困るんですが?」

「お前からは何のにおいもしなかった。それが決め手かな」

「馬鹿王子だなんてとんでもありませんね。勉強になります。今後の参考にさせて頂きましょう」

 シュッ!

 そう言って後ろに飛び退きつつ、俺に向かって何かを投げつけてくる。

 変わった形のそれは「苦無(クナイ)」。東方の間者(スパイ)・忍者(ニンジャ)が使う投げナイフのようだ。

 投げた動作の割には遅い。

 掴む事も出来そうだが、俺は敢えて回避した。

 カンッ、カンッ、カンッ。

 動作は一回だった筈だが、規則正しい時間差で壁に三つ当たるのを確認する。

 ご丁寧に同じ射線に投げられていた。

 見切ったつもりで掴んでいたら後続の苦無(クナイ)でぐさり、という訳だ。

 当たったところで傷自体は大した事はなかっただろうが、今までの彼女の習性、そしてやり口を見て鑑みるに、何かしら仕込んであったと考えるべきだろう。

 普通に考えれば、当たっただけで一巻の終わりだった、と考えてまず間違いはない筈だ。

「いい判断ですね。生兵法をかじった殿方ほどよく引っ掛かるのですが」

「臆病者なんでね。まともな相手じゃない限り、初見の攻撃は避ける事にしている」

「あらあら、まともな相手じゃない、とは心外ですね」

「面白い冗談だな。そこらの魔物なんかよりずっと厄介だ」

 迷宮(ダンジョン)に潜ってもここまで手強い相手にはそうはお目にかかれない。

 薬物を用いたアシュレイの戦闘|様式(スタイル)が通用するのはあくまでも生物限定ではあるが、戦闘を避ける技術(スキル)も加味すれば、彼女も単身で相当深い所まで行けるのではないかと思う。

 それ程までに彼女とはやり難い。

 加えて、アシュレイは戦闘状態になっても表情は終始にこやかなままだ。それが逆に不気味だった。

「ご自分でおっしゃる通り、あまりいい噂は聞きませんが、さすがに勇者の血族の末弟なだけはありますね。私の攻撃をこうまでかわす殿方はそうはおりませんよ」

 そう言う彼女の頬は心なしか紅潮しているように見える。目つきもとろん、として戦闘中とは思えないような色っぽさだ。

 こいつはあれか。戦闘に悦びを感じる手合(タイプ)か。

 そんな表情を見せつつ彼女が構える。前傾姿勢で両手を後ろ手にした独特の構えだ。

 両手を背中で隠しているので得物は特定出来ないが、おそらく苦無(クナイ)が二本だろう。

 刀身を俺に見せない時点でかなりの使い手だと考えていい。

 足音とにおいの件、そして戦闘|様式(スタイル)的に暗殺者(アサシン)といったところだろうか。

 非力さを補う為に先程の苦無(クナイ)同様、刀身には何かしらのか薬物が塗られていると考えるべきだ。

 掠り傷すら負う訳にはいかない。

 そんな分析をしつつ口を開く。

「気に入らないな」

「何がでしょうか?」

「茶の一杯も出ないとか、疲れているってのに一息つく間もなく試されたりするところとかかな」

「それは失礼致しました。ですが、お茶なら先程お出し致しましたよね?」

「薬入りの茶を、か?」

 あくまで試験なので毒物が入っていた、という事はないだろうが、痺れ薬か眠り薬か、種類までは分からないが、俺にとって不利になる何かしらの薬物が入っていたのは間違いない。

 それに気付く事も試験の一部だったのだろう。

「気付いておられたのですね。さすがです」

「お褒めに預かるほど大した事じゃないさ。その辺は俺なんかより上の兄達の方がずっと詳しかったと思うしな」

 序列最下位の俺なんかが知る由もないが、序列三位くらいまでの兄達の玉座争いはそれこそ熾烈を極めた筈だ。

「お前が試験官、って事でいいか?」

「はい。貴方が合格だった場合、子どもを作れる機能に問題がないかどうか確認する役も兼ねています。私を打ち負かした暁には私の身体を自由にして頂いて構いませんよ」

 シュッ!

 そんな会話をしながら攻撃を仕掛けてくる。重さはないが鋭い。

 やはり当てる事を最優先しているように見える。

 何か仕込んでいるのはまず間違いないだろう。

「それは魅力的なご褒美だな」

 軽口を叩きつつ、回避。

 そして、やや距離を取って俺の方も構える。独特の構えで、彼女からは俺の剣は点にしか見えない筈だ。

 「刃隠(はがく)し」。

 刀身を相手から隠すだけの技(スキル)だが、相手の視点を考えて構えを取らなければならないので、地味に難度は高く、とても一朝一夕では習得出来ない。

 それだけに地味ではあるがとても効果も高い技(スキル)ではあるのだが。

「変わった構えですね」

「そっちもな」

「お互い対人戦闘を熟知しているようですね」

「みたいだな」

 刀身を相手に見せる事は、これから始まる動きの掛かりを見せている事に等しい。

 考えなしに突っ込んでくる魔物相手にそんな事をする必要はないが、対人に特化した戦闘をこなしてきたアシュレイが相手となれば話は別だ。

 本業は寝首を掻くところにあるのだろうが、まともに戦闘をさせても十分に手強い。

 さすがは俺の種馬としての実力を計る試験を任されている人材だ、と言っていいだろう。

 こんなにいい人材がいるのなら王国(ブレイディア)の未来は安泰だ、などと呑気な考えさえ浮かんでくる。

 ともあれ、お互いの手の内が読み切れない以上、迂闊な行動は即敗北を意味する。

 ただ勝利するだけなら簡単だ。

 俺には初見ではまずかわす事が不可能な勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)が山のようにある。

 アシュレイの素早い身のこなしをしっかりと考慮しても、だ。

 しかし。

 それらは殺傷能力が高過ぎて、最悪彼女を殺してしまう事になりかねない。

 なので、実質封印せざるを得ない、というのが実情だ。

 つまり、それ以外の勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)を使ってアシュレイ程の手練れを相手に可能な限り傷付けないように、尚且つ戦意を喪失させなければならない。

 それは勇者である俺にとってもなかなかと難しい条件だろう。

 そんな訳で、時間にすれば一分にも満たなかったろうが、膠着状態が続いた。

 色々と考えてみたが、やはり「あの勇者乃秘技(わざ)」しかないようだ。

 そんな事を考えつつ、決着が着く前に訊かなければ意味がない、俺が最も気になっていた事を彼女に質問する。

「最後にもう一つだけ」

「何でしょうか?」

「俺の子を産む、って事に納得は出来ているのか? 無理矢理、ってのは俺の主義に反するんでね」

「ご自分の勝利が前提なのですね。さすが勇者様、頼もしい限りです」

 出来るかどうかは別として、俺がそう思っている事に不快な様子はなく、むしろ嬉しげな表情さえ浮かべる。

 俺と同じで勝敗の見えない、緊張感(スリル)に満ち溢れた戦いの方が好きな性格(タイプ)のようだ。

 手練の彼女にとってそういう機会は珍しいらしい。

「で、返答は?」

「もちろんです。貴方が試験に合格したら、という条件付きではありますが。想像していたよりもずっと魅力的な方でしたし、私を負かせるほどの殿方との子どもでしたら大歓迎ですわ」

 その表情に作っている不自然さはない。

 本心だと信じて構わないだろう。

「それを聞いて安心した。心置きなく子作り出来るな」

「それは気が早いのではありませんか?」

「そうでもないさ!」

 シュシュシュシュシュッ!!

 そう答えつつ、勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)「鎧破砕撃(アーマーブレイク)・改(かい)」を放つ。

 その刹那、かつては侍女(メイド)服、そして下着だったものの無数の切れ端が飛び散った。

「っ……!」

 驚愕の表情を浮かべつつも、彼女は悲鳴は上げなかった。

 さすがは暗殺者(アサシン)、と言うべきだろうか。

 ぼくのかんがえたさいきょうのブレイヴアーツの直撃を受け、一瞬で半裸にされるアシュレイ。

 その魅惑の肢体を僅かに覆うのは手袋とガーターベルト、そしてストッキングのみだ。

 本来は名前の通り、鎧を砕く事を目的とした技なのだが、「改」が付くので下着姿にするまで、全裸にするまで、ニーソックスだけ残して等相手との実力差及び俺の技量に応じて、ある程度の調節が可能になっている。

 主に女性に対して使う、羞恥心を利用して戦意を削ぐ事を目的とした非殺傷の技だ。

 我ながら非常にマニアックな剥(む)き方をしたものだ、などと考えていると、隠し武器が次から次へと出てくる出てくる。

 隠剣(おんけん)や苦無(クナイ)、他にも携帯性に優れた飛び道具を幾つも隠し持っていた。

 女には隠し場所が沢山あるとはいえ、限度ってものがあるだろう。

「くっ……!」

 前傾姿勢で右手で胸を左手で局部を隠し、アシュレイが俺を睨みつける。

 大方武装解除されてはいるが、その手には俺の想像通り、苦無(クナイ)が握られていた。

「俺はこんなところで終わりにしたいんだが、まだ続けるか?」

「……いえ、私の負けです。こんな器用な真似が出来る剣士を見たことはありません」

 観念した表情を見せて彼女は答えた。

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