翌日。
俺の前に現れたマキシーアは俺との約束を守り、サラシを巻く事をやめて、その豊かな胸の大きさが分かるようにしてくれていた。
「約束通り、サラシを巻くのはやめてくれたみたいだな」
「当然ですわ。他ならぬシャルル様とのお約束ですもの」
「それはいいんだが」
俺は気になっていた事を訊いてみる事にした。
「男の視線は克服出来たのか? シーアの魅力的過ぎる胸は、ご婦人に対して割と免疫のある俺から見ても目に毒な訳だが」
そして、その問いに対するマキシーアの答えはというと。
「殿方の視線が胸に集中しているのはわかっておりますますけれど、もう気にしませんわ。いくら物欲しげな目で見たところで、わたくしのこの胸に触れられるのはシャルル様だけなのですもの。むしろ、絶対に触ることのできない、この胸を見せつけて差し上げますわ」
豊か過ぎる胸を張って、そんな事を言ってくる。
マキシーアの態度は実に堂々としたものだった。
俺以外の好色な目で彼女を見てくる男共の事なんて、もう眼中にないらしい。
どうやら、吹っ切れたらしい。いい傾向だ。
「やっぱり大きい……」
マキシーアの豊か過ぎる胸を羨ましそうな目で眺めつつ、イオナがそんな事を言っている。
もう一人の女騎士であるイオナの方は胸についての劣等感(コンプレックス)をそう簡単には捨て切れない様子だ。
まあ、同じく控えめな胸(控えめな表現)同士としてマキシーアには少なからず共感(シンパシー)を感じていたのが、実際は違っていたのだからそれも無理もない話だが。
イオナは小さ過ぎる事を、マキシーアは大き過ぎる事に対して劣等感(コンプレックス)を持っていたので、「胸について」悩んでいた事に関しては共通していたが、その方向(ベクトル)はまったく正反対だったのだ。
分かり合えるようでいて、決して分かり合える事はないのだろう。
イオナが自身の満足いく程度の大きさの胸に発育させるまで、彼女の劣等感(コンプレックス)との付き合いは続きそうだ。
それは彼女の努力次第、加えて俺の努力次第ではあるが。
そんな事を考えつつ、俺はイオナの胸を大きくする決意を新たにするのだった。
ともあれ、こうしてマキシーアも加えて俺達の稽古が始まった。
イオナには引き続き型の練習を、マキシーアには別のメニューを与える。
そんな訳で、各自稽古に勤しんで貰っている真っ最中なのだが。
「それで、わたくしには一体どんな勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)を教えて下さいますの?」
と、マキシーアがずれた質問を俺にぶつけてくる。
「勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)を教えるなんて一言も言った覚えはないが? お前にさせているのは身体能力を上げる為の基礎訓練だぞ」
「なんですって!?」
驚きを隠さないマキシーア。
「そんなに驚くような事か?」
「だって、イオナさんには教えてらっしゃるんでしょう? その貴方様がわたくしに剣を教えて下さるとおっしゃる、その流れでしたら誰だってそう思いますわよ!?」
凄い剣幕だ。
「まあ、落ち着け」
「なんか釈然としないのですが、とりあえずそうしますわ。すーーーっ、はぁーーーっ……」
という訳で、彼女が何度か深呼吸して落ち着くのを待つ。
「少しは落ち着いたか?」
「ええ」
「じゃあ、説明するぞ」
「どうぞ」
「勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)を習得するには一定の実力まで達している必要があるんだが」
「ええ」
「シーアはまだそこまでには達していない」
「そうなんですの?」
「その為の基礎訓練だ」
「そういうのなしで覚えることはできませんの?」
勇者乃秘技(ブレイヴアーツ)の習得に近道はない。
マキシーアにはそれが分からないようだ。
「まあ……お前じゃわからないか、この領域(レベル)の話は」
俺は男として生を受けたからには一度は言ってみたかった台詞を口にした。
「なんか釈然としませんわ……」
憮然とした表情のマキシーア。
二人とも暫くは地味に稽古に励んで貰う事になるだろう。
イオナは黙々とやってくれそうだが、マキシーアはブチブチ文句言いそうだな。
何となく、そんな印象(イメージ)がある。
どんな技能を修得するにせよ、試行錯誤の連続だ。
頭を使わずに強くなろうだなんておこがましいにも程がある。
そんな一朝一夕で強くなれたら、誰も苦労しないんだが。
毎日のように魔物とやり合ってきた俺が言うんだから間違いない。
その話は取り敢えず置いておくとして、筋力を上げる為の腕立て伏せやら持久力を上げる為の長距離走をやらせてみたが、マキシーアの豊か過ぎる胸は何をするにも邪魔で仕方ないようだ。
確かに、あんな魅力的過ぎる双丘がぶるんぶるん、と揺れていたら男は注目せずにはいられないのは無理からぬ話ではある。
彼女は胸が邪魔になる事については何も言ってこないので、慣れっこなのか、諦めてしまっているのだろう。
ブラジャーを着けるようにお願いした手前、これは俺が解決してあげなければならない問題だ。
そう思った俺は一通りのメニューをこなしてくれたマキシーアを呼び戻した。
「シーア、済まなかったな」
「何故シャルル様がお謝りになられますの?」
彼女には俺に頭を下げられる心当たりがないらしかった。
「俺がシーアにブラを着けてくれるように頼んだ訳だが」
「ええ」
「市販のものでは普通に生活する分には問題ないが、激しい運動を行う、となるとそうはいかないみたいだな」
その辺りの事を俺は完全に失念してしまっていた。
「済まないが、この後時間があったら、俺に付き合ってくれ」
「それは構いませんけれど、どちらへ行かれるんですの?」
「王家御用達の下着専門店だ。そこでシーア専用の特別注文品(スペシャルオーダー)のブラを作って貰おう」
「昨日今着けているものも含めて結構な額を使わせて頂きましたのに、よろしいんですの?」
「ああ。昨日買ったものは普段用として使ってくれ。運動用も必要だと分かったからな」
「本当に気前がよろしいですわね」
「本当に必要なものなら、幾ら支払っても惜しくはないぞ。不要なものにはビタ一文出したくない訳だが」
「お気遣い、痛み入りますわ」
「昨日シーアの事を最高にいい女、と言った訳だが」
「ええ、忘れておりませんわ」
「シーアにはそれだけの事をする価値がある、と考えてくれればいい」
「シャルル様……!」
俺の言葉に何やら感無量のマキシーア。
こんな流れで、シーア専用の特別注文品(スペシャルオーダー)のブラジャーを手配した。
細かい調整は毎日少しずつ行っていき、それが完全に終わったら複数量産して貰う予定になっている。
この問題に関してはこれで終了だ。