彼女の興味は本棚に。
赤い罠はこの後の為、どうやろうかな。
そんな掌編。
住み始めて八年は経つ自分の部屋。
趣味の物、仕事の物、現在の自己を構成する物に満たされた部屋。
この部屋に、初めて彼女を招いた。
最低限の掃除はしているつもりだ。一人暮らしだってもうかなり長い。
仕事の関係上、気に入ったインテリアや雑貨もおいている。
それなりに気を使っている自負はある。
なのに、さっきから本棚しか、彼女は見ていない。
「これ、なんだっけな。こっちのは見たことある。これ知らないな」
彼女自身の知識と、眼の前の本棚との相違を確認しているのか、新しい発見を求めているのか。
そんな彼女が面白く、愛おしく、つい、後ろに立って、話しかけてしまう。
「なんか面白いものあった?」
彼女の肩越しから、少し気怠げに聞いてみる。
世代も違うのだから、何に興味を持ってくれるのかは実に興味がある。
「こっちのは、限定版とかかな。あ、同人誌もある」
突然背後から話しかければ、いつもなら少し睨んできたりもする。だが、今は本当に本棚に夢中のようだ。
これなら、もう少し本棚見せててもいいかなと考えはじめたとき、不思議そうな声が彼女から漏れ出た。
「これ、これって、ねぇ、これ!」
今までの小さなつぶやきとは違う、疑問と、そして理解した上での、少し強い口調と一緒に、右手で本棚の一角を指さしている。
やっと気がついた、もう少し早いかと思ったのに、な。
「うん、前に行った商談会で、何故かブースがあってな、もらった」
嘘はつかない、事実を言う。ただし、全ての事実までは、言わない。
彼女に以前教えたことを、こんなところで実践する。
伝えていない事実は、既に目の前で起こっているから。
「そっか、これが何か、知ってるんだ。なんの目的で、どんな風に使うのかも、わかるんだ」
なるべく優しく、意地悪く、彼女に問いかける。好奇心旺盛な彼女であれば、これが、男性が自慰で使うものなのは、知っているはずだから。
「…知らない、知らないんだから、ばか」
こちらの意図を察した彼女は、俯いてつぶやく。先程までの、本棚の全てを知るような好奇心に代わり、羞恥心が占めていくのが、頬の色の変化でわかってしまう。
「これは、貰い物だし、持て余してたからなぁ。欲しいんなら、あげようか?」
困らせるために、彼女がなるべく考えないような提案をする。
もっと困らせて、もっと恥ずかしがらせて、もっと、彼女を知るために。
もっと彼女に恋をするために、困らせる。
「…貰う」
彼女からの以外な、予想してなかった答えが返ってくる。
その場で身体の向きを男性に向け、真っ直ぐな目を向け、さらに言葉を続ける。
「ちょうだい、お願い」
にこり、と、音に出そうな笑顔を見せて、さらに言葉を重ねてくる。
彼女の顔から羞恥は消え、新しい遊びを見つけた子供のような笑顔と、淫靡な視線を向けてくる。
「いや、いやいや、これ男向けだし、あげても使い道ないぞ。それに、部屋のインテリアにするにもこれは」
「貰うの。使うの、今」
「今って、まてまてまて、今とかどう言うこと」
動揺しながら抵抗するも、彼女はにじり寄り、ベッドまで追い詰められる。
「うちが、今からこれ、使ってあげるんだから」
気圧されたのか、ベッドに腰を落としてしまう。魅力的な笑顔で迫ってくる彼女に抵抗する事も出来ないまま、膝の上に股がられてしまう。
「いつもの仕返し。今日はうちが、するんだから」
言いながら彼女に押し倒され、唇が重ねられる。罠を張ったつもりが、そのまま返された。今度はこちらが羞恥で顔色が変わる番かと、驚き、期待する。
「なら、お願い」
精一杯の抵抗として、彼女を抱き寄せ、耳に直接囁く。
彼女からの喜びの返事を聞いて、少しだけ覚悟と、期待をして、目を閉じた。
まぶたの裏には赤い点。
本棚に仕掛けた、彼女の印象を引きつけるつもりが、引きつけ過ぎだ、これでは。自分の浅はかさを後悔しながら、彼女も耳元で囁いてくる。
「うちが、壊してあげる」