3-1
刈愛side
「いってきます」
「気をつけていってらっしゃい」
お仕事の日の夜明け前、アカーシャさんに見送られて家を出た。
「ほら、早く乗りなよ」
「…うん」
そして門の前には車に乗ったロマニが待っていた。
「─これから宜しくね、ロマニ」
「ああ、こちらこそ」
「………」
「………」
ど、どうしよう…出発してからもう2時間経つのにまだ一言も会話を交わしていない。何話していいかもわかんないし…。
「…そろそろ朝ごはんでも食べようか」
すると突然運転していたロマニがそう口を開いた。見ればもう8時を回っていた。
「そ、そうね…」
「とはいえやってる店は限られるしなあ…あそこの牛丼屋でいいかい?」
「ぎゅう……どん…?」
私は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「ああ、食べたことないのか。そりゃそうか、あんな家住んでたら食べたことなんかないだろうし…」
そう言いながらロマニはそのお店の駐車場に入る。
「まあでもそんなこと言ったらこんな時間じゃ食にありつけないし、これも経験ということで」
私にそう告げて車から降りるよう促すロマニ。ギュウドンとは一体何なのか、私は少し不安だった。
ロマニside
「どうしたんだい?食べないなら僕が貰うけど」
「えっ…ちょ…今からたべるからっ!」
注文してからあっという間に届けられた牛丼を厭しむように眺める刈愛ちゃんに声をかける。正直こんな俗なところに彼女を連れ込んで後で怒られないか心配だけど、腹が減っては戦はできぬ。
「い、いただきます…」
ようやく刈愛ちゃんが牛丼を口に運ぶ。さあ、どんな感想が聞けるかな。
「どうだい?初めての牛丼は」
「…予想してたより美味しいわ。見た目通り素朴な味なのね」
どうやら多少なりとも気に入ってくれたようだ。その後、刈愛ちゃんの箸は面白いように進み、あっという間に平らげていた。
刈愛side
初めて食べたギュウドン…想像よりも美味しかった。また食べたいな…。
「…一つ気になってたことがあるんだけど」
「えっ!?な、なにっ?」
そしてまた目的地に向かってロマニが車を走らせ出してすぐにそう口を開いた。
「キミの耳につけている…
「…これはね、封印なの」
「封印?」
「えぇ…確かに
そう言いながら私は耳の
「へぇ…確かに妖力が上がった気がするね」
その様子を横目で見ているロマニがそう返す。やはりわかるのか。
「でも、今の状態を見る限り妖力をコントロール出来ていないわけでもないのになんで封印なんか…?」
「…そうね。なんて言うのかしら…生きてる心地がしなくなるのよね。こうしていると」
私が放った言葉にロマニの表情が曇る。まずい、少し勘違いさせるような言い方しちゃった。
「…べ、別にこれが嫌ってわけじゃないのよ?」
「嫌じゃないならなんで生きてる心地がしないんだよ」
まずいまずい、余計に勘違いさせてる。こうなったら─。
「1回路肩に車停めて」
「なんで…」
「いいからっ!!」
仕方なく半ば強引にロマニに車を停めさせる。
「一体なんだって…」
「私の身体に触って」
「…えっ?」
私の言葉に困惑した様子で顔を赤らめるロマニ。
「…ロマニのえっち」
「はっ?な、僕のどこが…!」
「だって今絶対変なこと考えたでしょ?顔赤くして…もう…」
言ってるこっちまで身体が熱くなる。
「ぼ、僕はねぇ!」
「もういいから…腕でもどこでもいいからっ!」
「じゃ、じゃあ…触るよ…?」
な、何よその言い方…嫌でも意識しちゃうじゃない…。
「なっ…!?」
「わかった…?生きてる心地がしないって理由…」
それじゃとりあえず出発しましょ?と私が言うと、ロマニは驚いた表情を崩さないまま車を走らせた。