※この作品はR-18です。

彼岸の瓣 第二幕   作:真名無しの艦これ好き

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第7話

 

 

《狂義(きょうぎ)》

 

 

 

 『大臣。貴方は、年端もいかない少女に、面と向かって今すぐ死ねと言えますか?銃を手に取り、バケモノと戦えと言えますか?親や兄弟、親友、恩人を見殺しにしろと言えますか?』

 

 

 

 防衛大臣に投げかけた、質疑の言の葉。

 世界を二分する議論を皮肉る蔑言にして、この世の真理を体現せしめるその言の葉は、彼にだけではなく、恐らくこの此岸に愚生する全ての諸人にはなったものだったのかもしれない。

 

「吹雪、ごめんね・・・・。つらかっただろう、痛かっただろう・・・・・」

 

 白一色でコーディネートされた医療用のベットで可愛らしい寝息を立てる幼き彼岸の瓣に、僕は心からの謝罪を述べながら包帯の巻かれた左腕をやさしく撫でてやる。

 

 防衛大臣との会談から数時間後、帰路に就こうとした矢先に吹雪が無断で大本営《ここ》へと運ばれたという話を聞きつけ、僕は送迎用の輸送船から飛び降り、一目差に大本営の暗部とも言うべき場所へと足を運んでいた。

 

 (大本営の連中め・・・・。僕の吹雪をこんなところに連れてくるなんて・・・・・!) 

 

 人類防衛の総本山たる大本営には、津々浦々に散らばる鎮守府に比べて併設されている施設も多岐にわたる。

 その中でも、鹵獲した海棲生命体――撃沈した深海棲艦や建造した艦娘を含む――の生態研究を行うこの研究施設は、人類の延命と啓蒙を得るために一鎮守府と同じだけの施設が備わっており、建物の外観も一端の鎮守府かと見まごうばかりのものだった。

 

 「・・・・・・」

 

 自らの流した血糊でじんわりと蒼く染まったがらんどうの左手。

 締め上げて吐かせた研究員の話では、ニンゲンに魚の特徴を足したような歪な左手は、大本営に運びこまれた際に研究材料として捥ぎ取られてしまった。

 確かに、吹雪を艦娘として認識させるにはあの左手は邪魔な存在だったし、代わりの左手も、後で手配してくれるとのことだった。

 

 だが、それ以上に僕を驚いたのは、吹雪が七つの海に湧き出す数多の深海棲艦などではなく、とても特別―――それも、鬼級や姫級以上の存在と成ったことであった。

 

 「簒奪者(スレイヤー)。まさかキミが、その一人に成っていたなんてね・・・・」

 

 病室の外に響き渡る研究員共の狂喜を耳障り気味に聞きながら、僕は艶やかな黒から無色の白へと変わった彼女の髪の毛と、額にそびえる一対の小さい角を優しく撫でてやる。

 

 

 【簒奪者(スレイヤー)】

 

 

 何時終わりとも知れぬ人類と深海棲艦との戦火。

 七つの海を血と鉄火で穢し続ける戦の中で、ある日、摩訶不思議な艤装を纏った突然変異ともいうべき深海棲艦が現れた。

 

 その深海棲艦の最大の特徴は、自らを守る砲火器を一切持たないことだった。

 

 いいや、正確には、持つ必要がないというべきなのだろう。

 

 スレイヤーと名付けられたその深海棲艦の持つ艤装―――【避来矢の艤装】は、あらゆる海棲生命体の鉄火を奪い、支配し、己の物とすることが出来る。

 そう、簒奪者の名の通り、スレイヤーの前では全ての艦娘だけではなく仲間である深海棲艦すらも無力となり、膝を折り、絶望し、無抵抗の屈辱の後に沈んでいくのだ。

 

 故に、彼の深海棲艦は敵味方を問わずあらゆる生命体から戦慄と忌避の象徴として渇望され、秘匿されてきたのだ。

 

 その象徴が、今僕の目の前にいる。

 

 それもあろうことか、僕の最愛のヒトであった吹雪の姿を伴って。僕の目の前で可愛らしい寝息を立てているのだ。

 

 「く・・・・。くくっくくうっくくうkっくくくく・・・・・・・」

 

 突然妙な笑意が込み上げてきて、僕は拳をぎりりと握りしめ必死で笑いをこらえた。

 

 まだ駄目た。

 まだ堪えろ。

 この嘲笑を吐き出す場所は、此処ではないはずだ。

 

 だが、一度感じてしまった笑意は僕のなけなしの防備を容易くぶち破り、一気に五感を蹂躙し脳内を犯し尽くした。

 

 「くひぃあはははあああいいあはあああ”っはは”あひあい”あい”あい

”いあ”はい”あぁぁァァ”ァあ”あ―――――――――――っ!!!!?」

 

 五臓六腑を蹂躙しつくす得体のしれない笑意を言の葉に載せ、僕はすやすやと眠る吹雪と騒ぎを聞きつけ飛んできた研究員共を無視して笑い続けた。

 

 なんて愉快。

 なんて残酷。

 なんて愚か。

 なんて笑止。

 

 研究員共の話では、吹雪が我々の手中に下ったいま、人類の延命と勝利は確定したも同然だと言っていた。

 確かにそれはそうだった。

 簒奪者の力をってすれば、今日にでも深海棲艦を絶滅させることなど簡単であろう。

 

 そして、それは同時に艦娘達も必要なくなるということを意味する。

 

 ―――――それを知った時、数多の提督たちはその事実をどう受け止めるのだろう。

 

 年端もいかぬ少女たちを戦場に送り出す必要もなくなるのだと安心するか?

 もう「クソ」だの「クズ」だのと罵詈を叫ぶ小娘たちの機嫌を取り、地べたに頭を擦りつけ無くてよい喜ぶか?

 太平の世で、嫁艦たちと余生を過ごすことだ出来ると嬉し涙を流すか?

 

 ――――否。断じて否である!

 

 「義を見てせざるは勇無きなり」という言の葉が服着て歩いているような連中が

、この事実を承認し歓喜するなど万に一つとてあり得ない。

 

 何故かって?

 

 ――――そうだな。せっかくだから、一つの具体例を挙げるしようか。

 

 

 この世界にとても良く似た異世界のとある村に、一組の男女が居たんだ。

 

 この二人は、たがいに寄り添いながらも己の抱く御旗をめぐって言い争いばかりしていたんだ。

 

 オトコは、万事の争いを暴力ではなく言の葉で解決すべきと説く、戦争反対派だった。

 オンナは、万事の争いを言の葉ではなく暴力で解決すべきと説く、戦争肯定派だった。

 

 オトコとオンナは互いの主義主張を決して譲らず、日がな一日喧々諤々を繰り返し、たがいの主義主張を否定し続ける毎日を送っていたんだ。

 

 そんなある日のことだった。

 

 二人の住む家に十人ほどの強盗がやって来たんだ。

 武器を持ち、いかにも屈強そうな体つきをした強盗たちは二人に言ったんだ。

 

 『命を差し出すか、命以外の全てを出すか。そのどちらかを選べ』

 

 戦わなければすべてを奪われることは、二人も十分わかっていた。

 でも、戦争反対派であるオトコは包丁以外の刃物を使ったことすらない文字通りのど素人。

 戦争肯定派のオンナの方は武術の心得はあったけれど、彼女の技量ではとても太刀打ちできそうもなかった。

 

 ―――――もうダメだ。

 

 二人はそう感じた、その時だった。

 

 『待ちなさい!二人に手出しはさせません』

 

 騒ぎを聞きつけたのか、突然一人の少女が二人と強盗との間に割り込んできたんだ。

 

 この村の住人ではない年端もいかぬその少女は、瞬き一つの間に強盗たちを次々となぎ倒してしまったんだ。

 

 まったくの初対面。

 たまたま、この家を通りかかっただけ。

 名も知らなければ、助ける理由も定かでもない。

 本当に偶然、そこで不幸に喘いでいるヒトがいて、その不幸を嘆き憤り、彼らの不幸を肩代わりしただけの、唯の心の優しい娘だった。

 

 

 ――――さて、ここで問題だ。

 

 二人は、少女になんて言うのだろうね。

 

 「助けてくれてありがとう」て、お礼を言う?

 

 確かに、ニンゲンであるのなら、恩人に例の一つも述べるべきだろうね。

 

 ――――でも、その謝辞は本当に心からのものなのかな?

 

 オトコは、争いを暴力ではなく言の葉で解決すべきと説く、戦争反対派だ。

 その彼が、最も忌避する暴力によって救われたということは、結果として自身の論理を否定されたということ。

 

 

 その彼が、本当に心の底から少女に謝辞を述べられるのだろうか。

 

 

 対するオンナは、争いを言の葉ではなく暴力で解決すべきと説く、戦争肯定派だ。

 その彼女が、肯定する暴力によって救われたということは結果として彼の論理を否定し、自身の論理を証明したということ。

 

 でも、自分の持つチカラ以上の暴力を見せつけられた彼女の内心は穏やかではないだろうね。

 何せ相手は、見ず知らずの人間だ。

 今回はこちらに味方をしてくれたけれど、次もそうだという確証はどこにもない。

 そう、考えたくはないが、『少女が強盗に雇われて今度はこちらを襲いに来る』という可能性だってあるのだ。

 

 

 故に、彼女もまた本当に少女に心からの謝辞を述べられるかの言えば、そうでもないというわけだ。

 

 

 ――――さて、此処で最初の問題に戻ろう。

 

 彼らはこの事実を承認できるだろうか。

 艦娘はニンゲンだと宣う彼らは、敵味方の判断ができない艦娘を保護したという事実を承認できるだろうか?

 艦娘は兵器だと宣う彼らは、戦争を終わらせられる得体のしれない艦娘《へいき》を手に入れたという事実を承認できるだろうか?

 

 

 「なあ、キミたちは承認できるかい?」

 

 小首をかしげ口元をぐにゃりと吊り上げながら、僕は後ろを振り返り青白い顔をした研究員共に問うた。

 

 ――――さあ、キミたちは彼女たちに宣言できるかい?

 

 年端もいかない幼子を前にして、キミたちはどんな言の葉を掛けるんだい?

 

 これで戦争は終わらせられる?

 いまは敵かもしれないだけど、でも彼女は正真正銘ニンゲンの味方だ?

 キミたちはもう戦わなくてよい。これからは、ニンゲンとして思うがままに自由に暮らせ?

 

 

 それとも?

 『艦娘《ばけもの》はバケモノらしく御主人様《ニンゲン》の命令に従っていればよい』

 もしかして?

『艦娘は戦無き世界で生きてゆく事は出来ない。だから、戦争が終わったら今すぐニンゲンの世界から出ていけ』

 

 

 「・・・・なあ、キミたちはどっちなんだい・・・・?」

 

 艦娘は、ニンゲンなのかい?

 それとも、僕たちがバケモノなのかい?

 

 

 まるで地の底から呻くような声を出し、僕は今一度彼らに問うた。

 

 ―――――なあ、応えてくれよ。

 

 

 『僕たちニンゲンは、本当に、自分たちが考えているようなニンゲンなのかい?』

 

 

 

――・〇・――

 

 

 

 

 

 新月の海に、幾万もの鉄火が木霊する。

 

 夜陰を引き裂き、赤白く瞬く幾千万もの光源。

 その鉄火の中央に位置するは、かつて人類を守護セシ戦船にして今は人類に弓引く不俱戴天の戦船が一隻。

 

 しかしながら、その戦船が放つ言の葉は、彼女たちが千万回と聞かされた呪言などではなく、千万回と放ってきた戦の祝詞であった。

 

 

 「ち・・・っ!いい加減しつこイ・・・・・!!」

 

 飛び交う幾千万もの鉄火をかいくぐりながら、私―ヤマシロは、敵とする艦娘達と夜戦を繰り広げていた。

 

 「ぐ・・・っ被弾・・・っ!?まだ、弾薬庫に火は回ってない・・・・?」

 

 嫌なところに命中した砲弾の安否を確かめながら、私は左右に展開する二隻のセンダイ型軽巡洋艦率いる水雷戦隊から次々と撃ち込まれる曳光弾交じりの小中口径弾を忌々し気に眺める。

 

 元々、戦艦は己が搭載する艦載砲と同規模の装甲板を持っていることが常であり定石である。

 故に、その定石に漏れる事なく、私の重要防御区画《バイタルパート》の厚さは300mmを超えており、彼女たちの持つ14cm砲や12,7cm砲ごときではこの装甲板を貫くことは到底できない。

 

 ただし、それはあくまで艦載砲のみを用いての戦闘を前提に考えてのこと。

 

 相手方も、それは重々承知の様子らしく、ただ闇雲に砲火を浴びせるのではなく、砲撃と雷撃の二通りの戦法を混ぜ合わせることで此方のバイタルパートを抜かんとしてきたのだった。

 

「さあ、仕掛けるよ!よーい、てー!」

 

 左舷に展開したセンダイ型のネームシップと思しき軽巡洋艦率いる水雷戦隊より、一斉に玉石混交の砲弾が連続斉射される。

 単発火力ではなく、連続攻撃に重点を置いたいわゆる速射砲の概念を取り入れたかの艦載砲は、こちらの装甲板をまるでドラムを叩くがの如く鳴らし始めた。

 

 「潮、主砲撃ちます。えーい!」

 

 「やらせはしません!」

 

 「徹底的にっちまうのねっ!」

 

 奴らが戦艦であるワタシに対抗せんと考案した、艦載砲の運用戦法。

 それは、比較的装甲の薄い砲塔部分や機銃座、艦載機を駐留させている飛行甲板やカタパルトのみを巣中的に攻撃するというものだった。

 

 我が戦艦の主砲塔や機銃砲塔を覆う150mmもの装甲は、一発や二発ごときでは傷一つ付けられない程度の強度を誇る。

 だが、流石に打ち込まれる砲弾が十や二十、果ては百発規模の砲弾に耐えられるような強度までは持ち合わせていない。

 

 結果、第三砲塔は猛攻耐え切れず大破――と言うより落伍したと表現する方が正しい――し、副砲である15.2cm砲もその四分の一が使用不能となる有様だった。

 

 「各艦、突撃用意・・・・行きましょう!」

 

 私の損傷を好機と捉えたのか、今度は右舷に展開していたセンダイ型の二番艦と思しき軽巡洋艦率いる水雷戦隊が、左舷の艦隊が張る弾幕を縫うようにしてこちらに突撃を開始してくる。

 

 その後ろにコバンザメのようにして張り付くは、旧式の代名詞であるムツキ型が三隻。

 

 「改装された如月、見惚れていたら、やっちゃうわよ?」

 

 「睦月型の本当のチカラぁ!ええい!」

 

 「これでもくらえ~」

 

 両の足に取り付けた三連装ないしは四連装式の九三式魚雷発射管を起動させ、けん制射撃を仕掛けながら全速力で此方に突撃してくるその様は、宛ら歴戦じみた水雷屋のごとき勇士を彷彿とさせる。

 

 ――――だが、その勇士に敬意を表するこそすれ、彼女たちの攻撃をむざむざ受けてやる気はこちらにはさらさらなかった。

 

 「いっった!あゝん、もう鬱陶しいぃイぃぃい・・・・!!」

 

 ガンガンとうるさく躰を叩く小中口径弾に、私は怒髪天を貫き勢いで残存する主砲と副砲に砲撃を命じる。

 

 豆鉄砲同然の砲弾はといえ一丁前に痛覚はきちんと刺激してくるから、やはり痛いものは痛い。

 それが、秒刻みで何百発も飛んでくるのだから鬱陶しいことこの上なかった。

 

 「邪魔だァぁ・・・・。どけええぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!!!!」

 

 『―――!!--――---!!!!っ』

 

 『!!!--――-―--!!!!っ』

 

 生き残っている5基の35.6cm連装砲と、10基の15.2cm単装砲が私の怒気に呼応するかのように文字通り唸り声をあげて起動する。

 宛ら安眠を妨げられた獣の如き咆哮を上げ、起動セシ我が砲塔たち。

 内蔵された砲弾の撃鉄を叩き砲弾吐き出すその様は、最早機械仕掛けの砲塔ではなく、紅蓮の業火を以てすべてを焼き払う魔獣のソレであった。

 

 ドゴゴゴゴーーーーン

 

 奴らの搭載する艦載砲とは比べ物にならない炸薬で打ち出された356mm一式徹甲弾と152mm三式弾は、纏う熱波と共に敵艦へと突撃していく。

 

 「・・・・・っ!!?まずいぴょん、みんな避けるぴょん・・・!」

 

 迫る艦砲に気付いたムツキ型の一隻が、慌てて急旋回を掛けながら回避運動の指示を出す。

 だが、時すでに遅く雷撃の態勢に入っていた他の艦艇たちはその指示に従うだけの余力などある筈もなく、せめてもの抵抗と称して顔面を両手で遮ることしかできなかった。

 

 「はにゃあぁぁぁあア”ァ”ァあ”―――!!!」

 

 海面を貫き、十数メートル規模の水柱を次々と創り上げるは合計10発の356mm一式徹甲弾。

 

 当たれば即死確実の威力を持ちながら、例え直撃でなくとも至近弾と言う名の二次災害を伴って眼前の艦娘共を次々と切り裂いていく。

 

 「うびゃあぁぁ”ぁ”ぁぁ”ぁぁ!!!」

 

 副砲として斉射されるは、合計10発の152mm三式弾。

 弾頭に込められた数百発のこぶし大の鉛球は、内蔵された炸薬によって外殻を突き破り、文字通りの弾丸の壁となって艦娘達を穿ち尽くした。

 

 「ふぁぁあああ”あ”あぁぁぁ――――っ!!!」

 

 立ち上る数メートル規模の水柱と、あたり一面にまき散らされる鉄の匂い。

 

 直撃弾こそないが、元々装甲など無いに等しい駆逐艦相手では、海面に弾着した砲弾の作り出す水柱でも十分な致命傷と成る。

 さらに、海面にそびえたつ水柱が視界を遮り、海洋に瞬間的な波浪を作り出し、航行を妨げてしまうのだ。

 

 故に、この状況ではさしものセンダイ型軽巡洋艦様であろうとも魚雷の発射どころか立っていることすらも困難だったことだろう。

 

 「こほっ・・・う”ぇぇぇえん・・・いたい・・・じゃないのぉぉ・・・・」

 

 「うっっくぅ~~。なんも・・・いえねぇ~~~・・・・・」

 

 「まだ・・・まだ・・・・この神通は沈みません・・・・!もう一撃くらいできます・・・・!」

 

 立ち上る水柱の隙間から屍累々と見まごうばかりにボロボロになった右翼の艦隊が、私の視界に映る。

 

 皮一枚でつながった腕を垂らし、黒煙を吐き出す艤装を纏い、破れた制服の隙間から血肉をはみ出させるその様は、宛ら記憶の断片で見たゾンビを連想させる。

 

 だが、あの砲撃ですらも奴らの戦意までは奪えなかったらしい。

 轟沈寸前となり、頼みの魚雷発射管すらも崩落した状況でも尚奴は闘志を宿らせた眼で一様にこちらを睨み付けているからだ。

 

 (ち・・・・っ。いい加減何とかならないモノかしらネ・・・・)

 

 彼奴等の導きだした唯一つの私の撃墜方法。

 

 それは、片方の戦隊が砲撃を仕掛け私の注意をひきつけている内に、もう一方の戦隊が至近距離から魚雷をぶち当てるというものだった。

 

 確かに、機動力に欠ける戦艦を相手取るのならこの戦法は有効であろう。

 

 いいや、豆鉄砲程度の艦載砲しか詰めない駆逐艦や軽巡洋艦で移動要塞そのものである戦艦を討ち取るには、バイタルパートに直接魚雷を命中させるほかに手段はなかったのかもしれない。

 

 ――――だが、所詮この作戦は運を天に任せた初見殺しの戦術。

 

 使い古された見え見えの戦術では、八十を超える戦船を相手取ったこの西村艦隊のヤマシロを討ち取るには些かお粗末だ。

 

 ―――――せめて、航空機の援護でもあればこうはならなかったであろうに。

 

 そう思ったとき、何気なしに電探を見やった私の脳裏にある疑問が浮かび上がる。

 

 (そういえば、あの艦載機たちはどこに行ったのかしら・・・・?)

 

 現在、電探に映っているのは軽巡洋艦が二隻と、随伴している駆逐艦が六隻。

 

 そして、数キロ後方に位置する姉さまたち友軍艦艇が五隻。

 

 だが、センダイ型たちと一緒にいたはずの二隻の軽空母と、夜空を覆っていた105機の艦載機は接敵の直前に電探から消滅してしまい、今はどこにもいなかった。

 

 ――――奇襲のために、こちらの索敵範囲外に隠れている?

 

 否、それはあり得ない。

 こちらの電探には熱源探知や音響探知に対応した最新型の物を搭載しているから、例え奴らが雲の中や海中に隠れていようとも寸分の狂いもなく探知できる。

 

 ―――――なら、増援を要請するために海域を離脱した?

 

 いいや、それもあり得ないだろう。

 何せ私の後方には大和型を随伴につけた姉さまたちの艦隊が待機しているのだ。

 数機程度ならまだしも、百機規模の艦載機を伴っての離脱するのなら絶対に姉さまの艦隊に見つかる。

 夜目があまり効かぬと言うハンデを差し引ても、姉さまたちが敵艦隊をむざむざ見逃す愚を侵すとも思えない。

 

 (・・・・なら、いったい何処に・・・・)

 

 堂々巡りを始める、議門と仮説と否定。

 

 疑問を仮説で線引きし、線引きを否定で消し去り、また議を唱える。

 それを幾十、幾百と繰り返し、意味のない無意味な思考の運動に辟易し始めたとき、私の鼓膜にあり得ない音が響き渡った。

 

 

 ゴー――――ン

 

 

 ――――-え?

 

 新月の海原に響き渡る、艦載砲の轟音。

 駆逐、軽巡のソレでもなければ、眼前の鎮守府からの陸上砲でもない。

 

 そう、その砲声は、私の背後から聞こえてきたのだ。

 

 (この砲声は・・・・。まさか・・・っ!?)

 

 言の葉にしようとしたその刹那、私の視界は突如現れた真っ黒な壁に塗りつぶされた。

 

 「きゃあああぁぁぁぁ”ぁぁ”あぁぁ”ぁあ――――っ!!!」

 

 立ち上る十数もの漆黒の壁。

 鼻腔を震わす、潮さいと火薬の混ざった鉄の匂い。

 壁の切れ目から見える、敵艦娘の切り刻まれる様。

 

 その壁の正体が着弾した砲弾のソレだと気づくまでには、後数秒の刻を要したが、その直前、もしくは直後に聞いた彼の者の言の葉に、私はこの戦の真意を気付かされることになったのだった。

 

 

 

 『はぁ・・・・、もう時間切れか。もうちょっとだけ、夜戦したかったな・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

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