新月の海原に、海王の咆哮が木霊する。
かつて大海の覇者として君臨しながらも、世を支配する時代と言う名の神々に見捨てられて幾星霜。
数奇な運命によりヒトのカタチを成し、ヒトの心を持って転生を果たしたかつての覇王たち。
だが、今宵の海原に転生セシ覇王たちの心中にあるモノは、捲土重来を誓ったあの日の鼓舞ではなく、あの日に嫌と言う程味わった敗北の凌辱であった。
再び、鎮守府より南東六海里(約12キロメートル)の海上。
『偵察機より報告。主砲弾、至近弾ヲ確認スルモ命中弾ナシ』
艤装に詰める整備妖精より、この日初めてとなる戦果報告が上がる。
新月の海原に轟く、己が41cm連装砲の咆哮と立ち上る硝煙の匂い。
だが、かつて世界に名だたる戦艦の代名詞となったその象徴を向ける者は、敵艦などではなかった。
「長門了解。全艦、主砲の散布界を広げる。主砲、射角調整、左右に3度ずつ修正し、連続射撃」
報告と共に送られてくる偵察機の着弾射撃指示に従い、私――長門は沸き起こる恥辱を押し殺しながら左右に展開する僚艦たちに弾道調整の下知を下す。
六海里彼方の海原にて夜戦を繰り広げる、八つの緑の光点と一つの赤き光点。
前者は、大本営との盟約の一つである友軍艦隊として派遣された鎮守府の仲間たち。
共に戦場を掛け、同じ釜の飯を喰らった戦友。
背中を預けるにふさわしい、盟友《とも》と呼びて相応しい者たちであった。
そして、後者はあの海峡夜棲姫。
つい一刻前まで、涼月と【生き別れた姉妹との再会】と言う喜劇を演じていた憐れな深海棲艦であった。
「陸奥了解。全主砲、回頭開始」
「武蔵了解。主砲、射角調整左右プラス3度」
左右に展開する僚艦に搭載された艦載砲が次々とうごめき始める。
大和たちの持つ46cm三連装砲もそうだが、私の姉妹艦である陸奥の持つ41cm連装砲の威力は、たとえ至近弾であろうとも駆逐艦程度なら容易に破壊できるだけの威力を持つ。
そして、超弩級戦艦四隻による艦載砲の一斉掃射ともなれば、彼の戦場にいる全てのものが一瞬で海の藻屑となるだろう。
――――だが、今回はただ殲滅すればよいという訳ではない。
此度の作戦は、けしかけた深海棲艦に関するあらゆる言動を克明に記録することなのだ。
そのためには、なるべくこの戦闘を長引かせなくてはならない。
例えるのなら、真綿で首を締めるような砲撃を行い、より手間と時間をかけて彼女たちを沈める必要があるのだ。
即ち、良くて夾叉。
最悪でも、至近弾にとどめる必要があるのだ。
「・・・・?。大和、どうした早く射角を調整しろ」
「・・・・・」
史上最大最強とうたわれた戦船に鎮座する、艦船史上類を見ない世界最大の艦載砲たち。
僚艦たちが次々と砲撃の準備をしている中、大和だけが何もせずにそのまま突っ立ているのを視界に捉えた瞬間、私は口内に苦々しい液体が流れ込むのを感じた。
―――――まったく、この娘は・・・・。
戦艦大和。
我らが日ノ本の民たちが、持てる技術の全てをつぎ込んで建造した、『世にその名を知らぬ者なし』とうたわれる世界最大の戦闘艦。
だが、その秘めたる精神は賜った英名を体現するかのように高潔で高貴。裏を返せば傲慢で石頭であるともいえた。
「大和、聞こえているのだろう。早くしろ・・・・!」
「・・・・了解」
いらだちをそのまま言の葉に載せて放った私の下知に、ようやく大和は主砲を回転させる。
今回我々に課せられた彼の深海棲艦に関する情報収集は、敵艦隊との戦闘記録はもちろんであるが、それ以外にも、幾つかの追加項目が存在した。
一つが、使用する砲弾の観測と解析である。
深海棲艦の使う砲弾は、何故か私たちが日常的に使用するソレと同様のものを使用している。
それは即ち、深海棲艦と我々艦娘が同じ祖を持っている証明だとされているが、単に補給の都合上そうなっているだけだとする意見もあり、結論はいまだ謎のままである。
その謎を解明するためにも、この観測は重要課題となっていた。
もう一つが、戦闘時の整備妖精との会話、並びに敵艦娘とのやり取りである。
深海棲艦の使用する日常言語を解析できれば、奴らの文化圏を知る手掛かりとなる。
そして、文化圏を知り、敵を知ることもまた、奴らに対抗できる選択肢をより多く持つことが出来るということ。
他にも、戦闘中の艦隊運動や戦闘形式。
戦術と被弾時の対応などありとあらゆる過程と可能性を検証することになっていた。
ただ、作戦命令書の最後に記載された文言である【乱戦による味方からの誤射に関する対応を観測せよ】という文言が記載されていたことに、私の脳裏に一つの仮説が浮かび上がった。
――――もしかしたら、ニンゲン達は深海棲艦の正体にある程度気付いているのでないだろうか。
ある日突然、水平線の彼方より現れし謎の侵略者。
世間一般的にはそう流布されているが、彼の者たちと我々艦娘との間には余りにも多くの共通点が存在する。
故に、深海棲艦の正体は我々艦娘の成れの果てではないかというのが、我々とニンゲンとの共通の認識であった。
即ち、この最後の文言はその仮説を裏付ける決め手として行うのではないか、というのが私の出した結論であった。
(・・・・やはり、ニンゲンと言うのはいつの時代も啓蒙に毒された種族なのだな)
これから始まる悲劇の主役を演じることになる深海棲艦と艦娘達のことを思い返したとき、私の心に憐みの念が一陣の風となって駆け抜けていく。
陸海空の戦場において、乱戦による味方の誤射や流れ弾によって被弾したり、戦死したりする言うのはある意味日常的なものだった。
無論、味方撃ちと言うのは本来あってはならないことだし、その犠牲者が共に戦場翔けた戦友や血を分けた姉妹艦などと沙汰の限りではない。
だが、血と狂気が渦巻く戦場ではその沙汰の限りがごく当たり前に存在してしまうのである。
―――――そう、いま、この戦場でも、ごく当たり前に存在しているのだ。
『整備妖精より主長門へ。全艦射角調整完了セリ』
『こちら主砲管制室。主長門、主砲射角調整完了。砲撃準備よろし』
艤装に詰める整備妖精たちから調整完了の通達が入り、私は改めて水平線の彼方に哀悼の眼差しを送る。
―――――恨むなよ。これも、戦争なんだ・・・・・・。
新月の海原に戦乙女たちの涙砲が轟く。
混沌渦巻く戦場をより混沌へと突き落とすし、その混沌を以て人類の安寧とせんとするために。
そして、かつて祖国に栄光と繁栄をもたらさんがために掲げた御旗を裏切りと謀で穢すのはこれで最後とするために、乙女たちは海原にひたすら哀哭の咆哮を轟かせたのだった。
「全主砲、斉射。てええぇぇぇぇぇえ――――っ!」
鉄火の木霊する海原に、夥しい数の水柱が上がる。
ほんの一刻前のソレの数倍は有ろうかという高度を以て夜天を貫く十数本もの漆黒の水柱。
その水柱より飛散する幾千万もの水滴は、戦火に照らされ、朱に染められ、黒しかない戦場に紅と白の色彩を施していく。
傍から見れば『美麗』と賛美を送るかもしれないその水柱たちは、海原に一夜限りの舞踏会を創り上げ、八人の少女と一人の女形を異形を招き入れ、歓待せしめた。
だが、もし諸人の誰かがその宴席の声を聞くことになったとすれば、そこから聞こえてくるものは七色に彩られた宴に広がる喜声ではなく、血風舞い踊る戦火に広がる哀声だったであろう。
「姉さま。どうしてです・・・・!?どうして私にまで砲火を向けるのですか・・・・!!」
鉄火の木霊する海原に、幾重もの裏切りの拳が撃ち込まれる。
信じたものに牙を剥き、粉々に打ち砕かんと乱れ飛ぶ十数本もの鋼鉄の拳。
幻覚だと否定し、何かの間違いなのだと願い奉る願いを無慈悲に引き裂く水柱の中で、私は突如始まった味方撃ちを掻い潜りながら開きっぱなしの通信機に抗議をの拳をぶつけ続けた。
だが、私の訴えとは裏腹に、状況は摩訶不思議な方向へと向かっていくのだった。
「うーちゃん・・・・これで・・・おわかれぴょん・・・・・。しれいかん・・・なかないで・・・・ね・・・・・」
敵味方関係なく次々と打ち込まれる、砲弾の嵐。
いま、その死病を纏った砲弾に抱かれて一隻の駆逐艦が水底に消えた。
いいや、彼女だけではない。
分刻みで振り下ろされる死の大鎌は、大食漢の言の葉が相応しいまでの食欲で、彼の娘たちを喰らっていった。
「潮・・・・みんなを護れた・・・・か・・・・な・・・・」
「まぁ・・・・くちくかん・・・・だから・・・・ね・・・・」
「如月のこと・・・・わすれないで・・・・ね・・・・」
立ち上る漆黒の水柱を朱に染める、幼き戦船の命。
縦横に舞い踊る朱き水飛沫に装飾された演台にて催されるは、宴を盛り上げる余興とするには余りにもおぞましいと叱責されるが必定の、狂気の舞踏会。
血風を合いの手とし、こぼれる阿鼻を調べとし、千切れる五体を楽器とする断頭の舞踏会。
もし、足を躓けば、罰としてその足を両方とも落とされる。
もし、手を付いてしまえば、罰としてその手を両腕とも落とされる。
もし、舞歌を止めてしまえば、罰としてその歌を紡ぐ頭を縊り落とされる。
それは、まさに己が躰と命をその白粉とした、死の舞踏。
大鎌を片手に饗宴を楽しむ死神を眼の奥に捉えながら、私は『敵艦を討つ』という艦娘の使命すらも忘却の彼方に追いやって、応答のない通信機にもう一度声を張り上げてみた。
「姉さま・・・・!姉さまどうしたのです、応えて・・・・!?」
開きっぱなしの通信機から聞こえてくるのは「ザーザー」という耳障りな砂嵐と、時折聞こえてくるナガトたちの途切れ途切れの会話のみ。
(どうして・・・・。姉さまどうして・・・・)
―――――見限られたというのだろうか。
そんな、思いが私の中に芽生えてくる。
戦闘開始から、かれこれ十数分が経過した現在。
確かに、戦況は一種の膠着状態に陥っていた。
自慢の火砲を以て襲い来る敵艦娘を大破ないしは中破に追い込んだけれども、いまだ撃沈艦はなし。
とりあえず、彼女たちには最早抗う戦力も火器を存在しないが、その眼はいまだ戦うことを諦めてはいない。
だが、矢尽き刀折れた水雷戦隊なぞ、戦艦の敵ではないことは有史以来の歴史が証明していること。
――――――そう、あと少しだったのだ。
彼奴等の作戦を我が火砲で叩き潰し、唯一の有効打であった魚雷を失ったいま、私の勝利は確定したも同然。
あと少しで此方が鬨の声を上げられるいう矢先に、何故、姉さまたちは私の邪魔をするのか。
「文月は・・・・こんなことじゃ・・・終わらないん・・・だ・・・から・・・・」
「しずむ~・・・・せめてさいごは・・・・ほんとうの・・・・こと・・・・」
見るに堪えない死の舞踏を演じ続けた最後の駆逐艦が、たったいま砲火に沈んだ。
残るは、魚雷を使い果たした軽巡洋艦と、主砲《まめでっぽう》の残弾が僅かとなった軽巡洋艦が一隻ずつ。
傍から見れば、この海戦はこちらの勝利と言うことになるのだろう。
そして、後世の歴史家は、この海戦をこう評するのだろう。
『西軍優勢、東軍劣勢の海戦は、一隻の艦娘による獅子奮迅の活躍と、味方艦隊の的確な援護によって東軍側の完全勝利に終わった』と。
そう、綴られることになるのだろう。
それが、味方を巻き込んだ無差別砲撃の戦果によるものだったとは、夢にも思わないで。
(私は・・・・また欠陥戦艦として、その生涯を終えるのね・・・・・)
もう回避運動を取ることすら馬鹿々々しくなってきて、私は艤装の出力を制動にまで落とし、海原に立ち尽くした。
もし、これが乱戦による誤射だったのなら、致し方なしと納得できる。
だが、この砲撃は意図的に引き起こされているもの。
それは即ち、姉さまたちが私もろとも敵艦娘を抹殺するために忌まわしき戦術を使った言うことに他ならない。
――――捨て艦。
此岸に生まれた艦娘なら、必ず一度は耳にする最低最悪の艦娘運用戦術。
味方の救援も無ければ、勝利を手にする方程式もない。
決して吹くことのないカミカゼを巻き起こすために唯々闇雲に突撃し、果てることのみを是とする人肉の砲弾。
そう、この名を冠する者たちは、人類に見限られた廃艦と同義。
故に、生きて港に帰投することも、翌の朝日に合掌することも許されない。
私はただ、こいつらを葬るために、ここに捨て置かれたのだ。
「ふふ・・・・っ、ふうふふぃうふぃうふぃうふぃっふふぃ・・・・・・・」
一向に止むことを知らぬ砲弾の嵐。
唯一の幸いは、飛来してくる砲弾の悉くが至近弾か夾叉に終わっていることであるが、460mmもの砲弾が創造する至近弾の衝撃波は、ほとんど直撃弾と同じだけのダメージをこちらに負わせてくる。
『生きる時も、死する時も、私は決して互いを裏切らないわ』
再び会い見えたあの日、私たちはそう誓い合った。
なのに、貴方はあの日の約束を反故にして、また私を沈めるというのか。
―――――私は、初めて、あなたを、恨まなければならないのか。
慈母のようにやさしく、海神のように気高く、修羅のように強かった、私のたった一人の姉さま。
最愛の姉と慕い、敬い、尽くしたいと願う私の思いを。
残酷な世界で生き、果てるための私の糧を。
護ると誓い、果たせなかった私の後悔を。
輪廻の悪戯によって再び会い見え、再度の誓いを立てた私の祈りを。
ワタシの、たった一つ残った導を、貴方は裏切りの濁色で穢すというのか。
生まれたときから片時も傍を離れることなく、残酷な世界の理不尽に耐え、欠陥戦艦の烙印を押されても尚高潔なる戦艦の矜持をその目に焼き付けさせてくれた無二の姉の手によって、私は沈むというのか。
―――――私は、そこまで貴方に嫌われて、疎まれて、憎まれていたというのか・・・・・!
「いや・・・・そんなの、いやぁ・・・・・!」
夜空に放つ哀哭を打ち砕くようにして、夜陰の空から再度大口径の砲弾が降り注ぐ。
これが、宇宙から飛来する星々だったらどれだけ雅であろう。
血と硝煙が立ち込める戦場に身を置くものとしては、些かハイカラが過ぎたかとどうでも良いような自虐をかましたとき、私はセンダイ型のネームシップが徐にこぼした言の葉に疑問符を抱いた。
「はぁ・・・・、もう時間切れか。もうちょっとだけ、夜戦したかったな・・・・・」
「・・・・・・へ?」
―――――時間切れ?一体どういうことなの・・・・?
こんな時に、あの艦娘は一体何を言っているのか。
そう思い、私は崩れ落ちそうな心を済んでのところで支えながら声をした方を向く。
見やった先、打ち込まれる砲弾の嵐を縫うように佇む一隻の軽巡洋艦は、夜天を仰ぎ何かを悟ったように呟いたのだった。
「時間切れ?姉さん、一体どういう事ですか・・・・!?」
千切れかけた右腕を鉢金で補強しながら、センダイ型の二番艦を思しき艦娘が動揺した様にネームシップに問う。
その顔には、先ほどまで纏っていた戦意は全く感じられない。むしろ、置かれた状況と次々轟沈していく味方艦隊の惨状に恐れ戦いていた。
「そのまんまだよ神通。時間切れ。作戦終了。つまり、私たちはもう用済みになったってことさ」
「そんな・・・っ!?そんなことって・・・・」
傍から見ても分かるくらいに、二番艦――どうやらジンツウと言うらしい――は動揺し絶望して見せる。
どうやら問答を推測するに、彼女たちもまた主力艦娘を逃がすための捨て艦にされたようだ。
その証拠に、敵艦がいまだに健在でいるというのに、だらりと腕を降ろしたその姿は、最早戦闘のセの字すら感じられなくなっている。
ただ、センダイ以外はこのことを知らされていなかったために、文字通りの青天の霹靂となってしまったらしい。
とは言え、敵ながら彼女たちに同情の余地がないわけでもない。
そう、【知らされなかった】が故に、他の艦娘たちは武功を上げることもできないまま沈んで逝ってしまったのだから。
「はぁ・・・。そうだね・・・・、まぁ、なんていうのかな・・・・」
妹の絶望などどこ吹く風で、ネームシップの方はあっけらかんと言い放つ。
諦め、と言うより始めからこうなることが分かっていたのだろうか。
それとも、「やんぬるかな」と匙を投げてしまったのか。
どちらにせよ、この状況下であそこまで平静を取り繕っていられるというのは、彼女自身がよほどの剛毅か、もしくは無情に支配されたかのどちらかであろう。
「姉さん・・・私は・・・・」
「・・・神通?」
「私はぁ・・・・、私はぁ――――‐」
「このままでは終わりたくない」そう紡ごうした時だった。
ゴー――――ン
もう何度目か分からない砲撃音が、彼の海原に木霊する。
今までの砲撃音よりも幾ばくか近しく聞こえた轟音の数秒後、生き残った三隻の戦船の周りを鋼鉄の拳たちが打ち付けた。
「きゃあぁぁぁ”ああ”あぁ”ぁぁ”あ―――――っ!!!!!」
体中に走る激痛と、まき散らされる鉄の匂い。この砲撃は、今までの至近弾や夾叉のソレではない。
明らかに、こちらをせん滅せんと放たれた正真正銘の精密射撃だった。
「うああ”あぁ”ぁあ”ああ――――――っ!!!」
夜空に隠遁する、数十機もの偵察機による着弾観測と水上電探に裏打ちされた正確無比な砲撃。
誰一人として、此処から生きて帰ること叶わず。
『その躰は悉く我が炸薬の錆と成れ』と放たれた400mmを超える砲弾の嵐は、軽巡洋艦の装甲などまるで紙きれのように引き裂き、磨り潰し、押しつぶしていった。
「あああ”ぁぁ”ぁあ”ぁぁぁぁ”あ―――――――っ!!!」
天高く立ち上る、赤と黒と群青色の水柱。
右も左も見えぬ、耳も聞こえぬ、天地も、生死も、己が躰さえも見えぬ死の水柱の中で、彼の少女は、わずかに残された五感で確かに己の半身を見た。
―――――見て、心神の許容が崩壊し、狂乱した。
『・・・・ハハっ、神通ゥ・・・・壊れちゃったノ・・・・?ハハハ・・・・そっかァ・・・・壊れちゃったんダァ・・・・』