「篠ノ之博士による専用機のヴァージョンアップ?」
「うん。何でもデータ収集も兼ねてるらしいッス。だからやってもらうかどうかは自己判断だそうッスよ。ほら、噂になってたじゃないッスか。時々校舎内にやってくる制服じゃない女の子。あの子、篠ノ之博士の助手で今ここに潜伏してるって」
恋人であるフォルテの言葉に気だるげな眼差しを向け、ダリルは表情とは裏腹な頭の回転をさせ始める。上手くいけば何か得られるものがあるかもしれない。少しでも組織の役に立つ事が出来る可能性がある。そう考え、彼女は怠そうな声でフォルテへ問いかけた。
「それ、直接会えるの?」
「みたいッス。で、何でも短時間で終わるとか」
「……ふ~ん」
もう興味はなくしたとばかりにダリルはフォルテから顔を背けた。そんな彼女にフォルテは苦笑する。
(行かないとか言わないところを見ると、一応行ってはみるみたいッスねぇ)
特別な関係となってそこまで長いとは言えないが、それでも短くない時間を過ごしているフォルテにとって、ダリルの反応からその答えを察するのはもう慣れたものだった。それを裏付けるようにダリルからこんな言葉が聞こえてきた。
「それ、いつ?」
「昼休みだけ受け付けるって聞いたッス」
「場所は?」
「校庭で、目印はメイドが立ってるとか何とか」
「……メイド?」
「そ、メイドッス」
フォルテもどこか呆れ顔をしていた。彼女もそれを言われた時に思わず問い返したのだ。だが、その問いに千冬は真顔で頷いて肯定したのだから。
翌日、昼休みになるや二人は揃って校庭へと出た。どの辺りだろうと周囲を見回りながら歩いていると、あっさりと目印たる存在が見えた。
「ダリルさん、あれ」
「……本当にメイドがいる」
不機嫌極まりない表情で”束さんはこっちだよ~”と書かれたプラカードを持たされているオータムがそこにいた。彼女は近付いてくるダリルとフォルテに気付くと、嫌そうな顔で後ろを振り返る。
「あっちだ」
「ど、どうもッス」
一応礼を述べるフォルテだが、ダリルはオータムから少し離れると小声で呟く。
「愛想わる……」
「でも、ただのメイドじゃないッスね、あの人」
フォルテの言葉にダリルも黙って頷いた。二人には分かったのだ。オータムの佇まいに隙がなかった事を。とてもではないが素人ではない。そこでフォルテは彼女の事をこう判断した。
「博士の護衛……?」
「そうかもね。で、油断させるためにあんな格好してるんでしょ」
「……の割には目付き鋭すぎだと思うッス……」
そんな風に話していると、二人の視線の先に学生机が見えた。そこには待機状態だろうISが数点置かれており、それを前に若干隈の薄れた束が空間キーボートを操作している。
「何か御用でしょうか?」
あまりの光景に二人が呆気に取られていると、そこへクロエが近付いてきた。その手にはバインダーを持っており、そこには一夏達の名前と学年とクラスが記入された用紙が挟まっていた。受付票かと、そう判断して二人は視線をクロエへ戻す。
「その、ここでISをヴァージョンアップしてもらえるって聞いたッス」
「はい。では、こちらにお名前と所属クラスをご記入ください。放課後までには作業は終了しますので、お手数ですがここまで受け取りに来ていただけますか?」
「そんなに早く終わるッスか?」
ISのヴァージョンアップなら数日かかるのでは。そう思ったフォルテの言葉に真っ先に反応したのは言うまでもなく束だった。
「遅いぐらいだよ。だけどさ、いちおー国家機密にも近い専用機へ手を出すから慎重にやってあげてるだけ。な~にも気にしないなら全部やっても一時間とかからないのにぃ」
平然と話しながらも手は凄まじい速度で動いており、そこからもその言葉が嘘ではない事が二人にも分かった。まずフォルテが記入し、ダリルも記入してそれぞれ待機状態のISを外してクロエへ渡した。
「たしかにお預かりしました。では、放課後に受け取りにきてください」
「分かったッス」
「束様、二つ追加です」
「はーい。そこに置いといて」
まるでどこかの食堂のような感じで受け応える束。その言動と動作があまりにもあっていないため、二人は目の前にいるのが篠ノ之束だと信じられない気持ちになっていた。
「行きましょうか」
「……そうね」
用は済んだと歩き出すフォルテに促され、ダリルもまた歩き出そうとする。が、一度だけ束を振り返った。その作業を少しだけ眺め、彼女は前を向いて歩き出す。やがてその姿が見えなくなったところで束は誰にでもなく呟いた。
「ほーんと面倒。でも、これもいっくんや束さん達のためだもんね~」
束の視線の先にはダリルのISのデータが表示されており、彼女によってそのコアへある細工が施されていた。同様の処置をフォルテのコアへも行っているので、今回の目的はその細工である。
その細工の内容は、特定の状況下である行動を取った場合の緊急停止。そのプログラムを手早く組み込んだ後、彼女達のISを本当にヴァージョンアップさせ始める束。とはいえ、第四世代に組み込む展開装甲などは使わず、各能力の底上げをするだけに留めた。
「……これでよしっと。総合力が以前の1.5倍なら十分でしょ」
「本当に強化したのですか?」
聞こえてきた言葉にクロエが小首を傾げる。彼女はてっきり本当にヴァージョンアップなどしないと思っていたからだ。だが、束はそんな彼女へ若干拗ねるような表情を見せた。
「だってさ~、嘘とは言えヴァージョンアップするよって言ったんだもん。それで何も変わってないとか束さんの技術が疑われちゃうじゃん。なっちゃんも多少なら構わないって言ったしね。いっくんも白式の性能が上がっちゃった事で扱いが難しくなったって言ってたし、あの二人もこれで少し苦労するんじゃない?」
最後には突き放すように締め括り、束は二人のISではなく元々進めていた作業へと戻った。それは現在の白式と同程度かそれよりもやや上の性能を持つISの設計。千冬と同条件で勝ちたいと願う一夏のためにと、彼女が進めているものだ。
(暮桜を使ってもらおうかなって思ってるけど、ちーちゃんもいっくんの気持ち聞いたら多分……)
束は気付き出している。千冬の体に起きている異変を。何せ彼女との付き合いは小学生の頃からなのだ。だからこそ分かる。頻繁に顔を合わせる訳ではないが、故に気付く、千冬の変化に。
(今のちーちゃん、エッチする前の束さんそっくりなんだよねぇ。あれ、いっくんのオチンチンでオマンコガンガン突いて欲しいって思ってるよ)
それでも一夏にそれを教えるつもりは束にはない。きっと彼も気付いていると思っているからだ。それに、今教えたとしても一夏が千冬へ手を出す事はないと踏んでいる。一夏が千冬を超えたいと言っている理由の裏を、束はおぼろげだが察していたのだ。
凄まじい速度で指を動かしながら束は思う。いつか来たる日を想像して股を濡らしながら。
―――ちーちゃんと二人でいっくんのオチンチンで赤ちゃん作ってもらわないとね……。
「……うん、これで分かった。基本的に織斑君の方が接近戦は上手い」
放課後のアリーナ。そこに一夏と簪の姿があった。とはいえ、一夏は白式を纏っていない。彼が展開しているのは訓練機である打鉄である。千冬のために同型機を製作しているため、白式だけは放課後となっても返してもらえなかった事を受けての措置だった。
それで行ったのはコンビ戦のための連携訓練ではなく、一夏の腕前を簪が確認するというもの。特にその攻撃面を見たかったのだ。白式と打鉄弐式では攻撃力は断然前者に軍配が上がる。なので、それを運用する一夏の強さを身を以って体験したい。それが簪の考えだったのだ。
「そうか。そう言われると嬉しいもんだ」
「白式だとまた変わるんだと思うけど、それでも体捌きなんかが上手いと思った。私じゃ、織斑君のようには動けない」
「小さい頃に剣道をやってたんだ。で、学園に来てからは時々箒と手合せして勘を取り戻してた」
「たしか、篠ノ之さんってかなりの腕前だったよね?」
「おう。全国優勝の凄腕だ」
嬉しそうに告げる一夏に簪は若干驚きを感じた。彼にとっては、自分を褒められるよりも箒達を褒められる方が嬉しいのである。そう、今の彼にとって箒達は自慢の嫁。だが、それを公言出来る訳ではない。だから、こういう風に彼女達を話題に出され、しかもそれが賛辞だと嬉しくなってしまうのだ。
「そ、そっか。織斑君は、どれぐらいなの?」
「俺? そうだな……時々箒から一本取れる事もあるぜ」
「え? 凄いよ、それ」
「でも、例えば十本やって一本とかだ。せめて半分勝てるようなら凄いって言えるけどなぁ」
「そ、それでも凄いと思う。私じゃ、絶対無理だから」
後半に少しだけ表情と声に暗さが滲むのが簪らしいと言える。が、それを一夏が気付かぬはずもない。
「前から思ってたけどさ。どうして更識さんはそうやって自分を信じてやらないんだ?」
「え……?」
「確かに剣道未経験で箒から一本取るのは不可能かもしれない。俺だって一本取るのがやっとだ。でも、だからって最初から無理とか不可能って思ってたら、出来るようになる事だって出来ないままだぜ?」
「っ!?」
簪の、心がざわついた。一夏のどこか悲しそうな声と表情に、その言葉に込められた想いに、そして何よりも、それをどこかで自分が目を背けていた事と理解したために。
「俺さ、更識さんが自力でISを組み立てようとしてたって聞いて凄いって思ったんだ。俺は、絶対そんな事思い付かないからな。きっと大人しく組み立ててもらえるまで待ったはずだ。だけど、君は違う。そこで自力で組み立てるなんて道を選んだ。しかも、それで完成が不可能じゃないレベルまで進んでいた」
「でも、結局自分だけじゃ出来なかった。完成したのは織斑君が白式のデータをくれたり本音達が協力してくれたから」
「それも更識さんだからだって。もし君が手伝いたいと思えない人間だったら、データはともかくクロエに手伝いを頼んだりしないし、のほほんさんだって手を貸さないはずだ。助けてって、そう言った時に手を伸ばしてくれる人がいるのは、紛れもない更識さんだからだって」
「私、だから……」
呟いた言葉が熱を生む。思い出すやり取りがその熱量を上げる。楯無との会話、本音との会話、一夏との会話、クロエとの会話。それらが簪の中に息吹となって吹き抜ける。
(そうか……私は、私が思ってるよりも凄い人間だったんだ。だからお姉ちゃんがいざとなったら助けてねって言ってくれて、本音が見捨てないでくれて、織斑君が信頼してくれて、クロエさんが手伝ってくれたんだ)
やっと受け入れる事が出来た自分の客観的評価。偉大な姉とは違うけれど、自分もまた優秀なのだと、自信を持っていいのだと、そう簪は思えるようになった。
(私は私。お姉ちゃんじゃない。お姉ちゃんのようにならなくてもいいし、なれなくてもいい)
楯無とは違う道を行き、同じぐらい凄い人間になろう。せめて、肩は並べられるように。そう決意し、簪は一度目を閉じた。
それは今までの自分と決別するためだ。気弱で自身を卑下していた己と向き合った上で変化していくと、そう自分へ誓うために。
「……うん、分かった。私、もう自分を卑下しない。私だって出来るんだって、そう思ってみる」
「ああ、それがいいと思うぜ。更識さんも楯無さんと似てるとこあるしさ」
嬉しそうな笑顔でそう告げる一夏だったが、その後半部分で簪が少しだけ眉をひそめた。彼女なりに気になっていた部分だったのである。それは、姉は名前で呼ぶのに対して自分は一向に苗字呼びから変わらない事だ。
「ね、織斑君。少し前から気になってたけど……」
「ん?」
「どうしてお姉ちゃんは名前で呼ぶのに私は苗字なの?」
「え? いや、女の子の事をいきなり名前で呼ぶ事なんて出来ないし、箒達だって許してもらってからしか名前で呼んでないからなぁ」
「……じゃ、私も名前でいいよ。か、簪って呼んでくれていい。コンビ、組むんだし」
若干照れを含んだ声。簪にしてみれば、生まれて初めて異性に対して出した好意の表現。それを一夏は……
「いいのか? じゃあ、遠慮なく。ならお礼って訳じゃないけど、俺の事も名前でいいぜ。一夏って呼んでくれ」
「い、一夏君?」
「ああ。ありがとな、簪」
「っ……う、うん」
好意を厚意と受け取り、感謝の念を返したのだ。優しい笑みで名を呼ばれ、頬を淡く朱に染めながら簪ははにかむ。まだ互いに恋心など抱きもせず、ただ簪の中に淡く好意が生まれてはいたが。
その後は一夏の提案でコンビ仲を深めるために互いの事を話し合う事となった。まず一夏が幼少期からの思い出を簡単に話す。箒の実家の道場へ通っていた頃から鈴や弾と遊んでいた頃などを。
それが終われば今度は簪が話す。とはいえ、彼女は幼少期ではなく趣味の話だったが。どこかで彼女は分かっていたのだ。一夏なら自分の趣味を話しても引く事はないと。
「ヒーロー物、かぁ」
「う、うん。嫌い?」
「……ちょっと前までは、な。ある時、ふと気付いた事があってそうじゃなくなった」
「ふと気付いた事?」
「ああ。俺の姉は知ってるか? その、俺達両親がいなくてさ。俺は物心ついた時からずっと千冬姉に守ってもらってた。だけど、一度も俺の前で弱音や愚痴を見せた事がなかったんだ。絶対楽しい事や嬉しい事だけじゃなかったはずなのにさ」
それだけで簪は悟った。一夏は千冬の在り方にヒーローを重ねたのだと。だから嫌いから変わった。自らの唯一の家族の在り方を、自分を守ってくれていた存在を、嫌いとは言いたくなかったのだろう。そう思う簪へ、一夏は更に踏み込んだ答えを告げた。
「それに、俺は今そんな千冬姉と同じような在り方を目指してる。大切な人達を守れるような人間になりたいって。今度は、俺が千冬姉を守れるようになりたいって。だから、今の俺はヒーローになりたいんだと思う」
「ヒーローに……なりたい……」
「千冬姉が俺のヒーローだったように、俺も誰かのヒーローになりたいしありたい。そのために、俺は出来る限りの事をしてる。だから簪の好きな事、いいと思うぜ。考えてみれば、誰だって誰かのヒーローなんだ。なら、そういうのを好きなのは当然だって」
これが簪へ良い格好をしようとしていたのなら、確実に一夏は嫌われていただろう。だが、今の彼にとってヒーローとはそういう存在であり目標となっていた。その心からの言葉は、簪にとって強く深く響いた。
元々一夏の事をヒーローのようだと思っていた事もあり、彼女の中で彼は文字通りヒーローとなっていた。
(誰もが誰かのヒーロー……か)
ベタな台詞ではあるが、故に簪には感動を覚えるものであった。更に、一夏は今度は自分が姉を守れるようになりたいと告げた。それも同じく姉へ憧れを抱いていた簪にとっては共感出来る言葉だ。
それに何より、彼女が初めて趣味を話して受けとめるどころか、それに共感してくれたのだ。もう人付き合いに不慣れな簪にとって、一夏は運命の人と言ってもいい程の存在となり出していた。
その日はそうして終わりを迎える。一夏と別れ、一人部屋を目指して歩く簪。その足取りは驚く程軽かった。
「い、一夏君、どんなのが好きかな? 勧善懲悪ならどれでもいいって言ってくれそうだけど」
これまでは逃避の手段としていたアニメ鑑賞。それが、これからは誰かと共有出来るかもしれない。そんな夢のような時間が現実になろうとしている、そう考えて簪は上機嫌で部屋へと向かっていた。
その頃、一夏と言えば……
「何でみんなしてここにいるんだ?」
男子用更衣室で待ち構えていた箒達に首を傾げていた。ただ、問いかけながらもどこかで察しはしている。何故なら、彼女達は全員下着姿だったのだから。
「分かっている事を聞かないでくれ」
ISの色に合わせたのか、上下に真紅のランジェリーを身に着けて箒が拗ねる。その大きな胸を強調するように腕を動かし、アピールするのを忘れていない辺りに彼女の本心が見える。
「そうですよ、一夏君。君だって、もうオチンポがはちきれんばかりじゃないですか」
シースルーの紫の上下に身を包んだ真耶が妖しく微笑む。ショーツの一部が変色して黒に近い色となっているが、それも一夏を興奮させるための材料であった。
「一夏様ぁ、もう私達はオマンコしたくて仕方ないんですのぉ」
乳首やヴァギナなどが見えるようにスリットが入った青のランジェリーは、セシリアらしくガーターベルトとなっていた。既に彼女の足元には小さな水たまりが出来つつある。
「今日は真耶さんもいるから、消灯一時間前までハメてもらうんだからっ!」
箒とは違い鮮やかな赤のランジェリーの鈴だが、そのクロッチ部分を中心に色が変色している。それに若干恥らう姿が一夏の心を弾ませると知らずに。
「そうだよ。ご飯も食べずに私達を食べてね?」
オレンジ色の華やかな色合いのランジェリーを見せるシャルだが、それはセシリアと同じで乳首部分などにスリットがあるタイプの物。更に彼女は言い終わると自分の指をねっとりと舐め上げたのだ。
「いつぞやは山田先生が参加出来なかったからな。今回はそちらを重点的に頼む」
黒のレースが付いたランジェリーのラウラではあるが、それはどこか可愛らしいデザインの物だった。シャルが選んでやった物で、いやらしさはないがとてもラウラには良く似合っている。
「と、言う訳で……一夏君、お好きな果実から召し上がれ?」
悪戯っぽく笑う楯無だが、その爽やかな水色のランジェリーはしっかり一部を変色させていた。この中で一番新参な彼女がもっとも一夏に溺れているという現実がそこにある。
それら七人を眺め、一夏は唾を飲み込むと無言で着ている物を脱ぎ出した。それと共に漂い始める雄の匂い。それを嗅ぎ取って表情を緩ませていく七人の女達。やがて裸となった一夏はそのペニスを見せつけるように動かすと一言。
「舐めてくれ」
たったそれだけで七人が七匹となる。我先にとばかりにペニスへ群がり、亀頭、陰茎、陰嚢とそれぞれに分かれて舌を這わした。
「ああ、いい感じだぜ真耶もラウラも。そのまま二人で袋を頼む。シャルとセシリアはさすがだな。チンポの根本を重点的はかなり効くぞ。箒と鈴の左右からの裏筋舐めはヤバイな。それだけで出せそうだ」
名前を呼ぶと同時に頭を優しく撫でていく一夏。そしてその目が亀頭へ執拗に舌を這わせている存在へと向けられる。
「……美味いか?」
「うん、とぉ~っても。私、一夏君のチンポ大好きになったから」
妖艶に笑みを浮かべて唇を舐める楯無。その返事に嬉しそうに笑顔を返して、一夏は無言で頷く。それがフェラの再開を望むものだと察し、楯無は我が意を得たりと舌を這わせて亀頭を愛撫していく。
そのまま全員で奉仕を続ける事数分後、一夏が楯無と箒に鈴へ顔射したのを皮切りに、セシリアやシャル、ラウラと真耶までその顔をたっぷりと濃厚な雄汁でパックさせられる事になる。
その匂いと熱で全員が絶頂を迎え、しっかりと準備をさせられるのだ。これから始まる交尾のための。
「じゃあ、全員そこで下着を脱いでクロッチを見せてくれ」
何を意図しての言葉が理解して全員が恥じらいながらも、いや一部は嬉々として愛液で濡れたそれを見せつけるように両手で裏返した。
「へぇ、全員同じぐらいグショグショだな」
顔を背けているのは箒、鈴、シャル、楯無で、顔を赤めながら蕩けた顔をしているのがセシリアと真耶、ラウラは多少恥じらいが芽生えたのか頬を赤めているが、それでも一夏の事をしっかりと見つめていた。
(ああっ、私のいやらしい汁が染み込んだ部分を見られている……は、恥ずかしいな、これは)
(ほ、ホント、今の一夏ってドSよね。でも、そんなとこも好きなあたしの負けかぁ……)
(こ、こういう事は絶対に慣れないよぉ。それに、慣れるとしたらセシリアみたいになるしかない訳で……ううっ)
(これ、私達に改めて自覚させてるんだわ。こうなったのは誰でなったか。何でなったか。無意識でやってるのだとしたら、怖い。自覚してやってるのなら、尚の事怖い。でも……濡れちゃう私がいる……)
(ああっ! 一夏様に見られてますわぁ! 私の恥ずかしい染みを、いえ染みなんてレベルじゃないものをぉ!)
(年上なのに、教師なのに……私、今、生徒に下着を見せて、愛液で出来た雌染みを見せてる……。ああっ、これダメぇ。恥ずかしいのにそんな部分まで受け入れてもらってるって嬉しくなる……っ!)
(わ、私は一夏に抱かれたいとこんなにオマンコを濡らしていたのか。一夏は、これを見て喜んでいるな。私が求めていると、そう伝わるからか? な、なら今後もたまに見せてやればいいか)
思う事は違えども、その体の反応は揃って同じ。愛液が止まる事無く流れ落ち、足元に大小の水たまりを作り出す。乳首は勃起し、陰核も主張を始めている。一夏もそんな彼女達の様子を観察し、満足そうに笑みを見せるとシャワールームの方へと歩き出した。それが合図だと察して、箒達は下着を無造作に放り投げるようにしてその後追う。
シャワールームの一夏は、まさしく群れの長であった。ラウラと鈴が陰嚢を奉仕し、真耶がアヌスを舐め、箒とセシリアの胸を揉みながら舌を絡ませ、シャルと楯無が乳首を舐めながらペニスを扱く。その扱いに誰も文句はなかった。複数の中の一だとしても、愛されないよりマシだとそう思って。
「一夏ぁ、もっと胸を可愛がってくれぇ」
「私もです、一夏様ぁ。もっと強くしてくださいましぃ」
「おう、いいぜ」
箒とセシリアの潤んだ瞳と媚びる声。それに気を良くして一夏はやや強めにセシリアの乳房を掴み、少しだけ箒の乳首を引っ張った。
「んっ、おっぱいが潰れるぐらいでも構いませんのにぃ……」
「ああっ、乳首がぁ……だけど、まだ……」
共に嬉しそうな顔をするも、どこか物足りない表情の箒とセシリア。分かっているのだ。焦らされていると。それが一夏なりの甘えと理解して、彼女達は喜びを感じながら微笑む。
「シャル、楯無、そろそろチンポを舐めてくれ」
「うん、分かったぁ」
「たっぷりナメナメするわね」
とびきりの笑顔を見せるシャルと楯無。その頭を一度だけ優しく撫でて一夏は微笑む。それも彼女達の心をよりときめかせる効果を発揮するのだ。
陰嚢へ舌を這わせている鈴とラウラの近くへしゃがみ、シャルが右から、楯無が左からペニスへ舌を這わせる。カウパーで味付けされた陰茎を、彼女達はゆっくりと舐め上げていく。そして亀頭へ到着すると、カリ首をシャルが鈴口を楯無がそれぞれ舌で愛撫し始めた。
「はぁん、一夏君のチンポ美味しい。ずっとナメナメしていたいなぁ」
「一夏のチンポ、こんなとこまで美味しいとかズルいよぉ。私達をどこまでチンポ中毒にするつもり?」
艶かしく舌を動かし、二匹の雌はペニスを味わう。一夏の事を自分を守ってくれる存在として強く意識している彼女達は、その逞しさと優しさにどんどん溺れていく。
「真耶、もうそこはいいから背中へ胸を押し付けてくれ」
「うん、いいよ。一夏君、おっぱい好きだもんね」
この中で一番年長でありながら、最早真耶に年上としての威厳はなかった。身も心も一夏へ委ね、どんな結末も受け入れると決めてしまったその時から。
一夏の逞しさを増してきた背中へ愛おしげに抱き着き、その豊満な乳房を潰すように押し付ける。それだけで幸せを感じる程、真耶は彼に溺れているのだ。
「鈴、ラウラ、立って真耶の両隣へ移動してくれ」
「それはいいけど……」
「何も出来ないぞ?」
一夏の指示に疑問を感じながら移動する鈴とラウラだったが、その意図は移動し終えた瞬間に理解出来た。彼の手がそれぞれの臀部を揉み始めたのである。
「んっ、そういう事ね。一夏のすけべ……って、ちょ、ちょっと!?」
「尻を揉みたいのならそう言えばいいだろう。ふにゃっ!? い、いきなりアナルへ指を入れるなぁ」
揃って焦る声を上げる鈴とラウラ。その可愛らしいアヌスへ一夏は人差し指を浅く挿入していたのだ。まだ異物の侵入を拒む穴ではあるが、いつかそこも一夏に征服されるのだろう。その来たる日を想像し、彼女達のヴァギナから愛液が流れ出す。
「ジュルッ……じゃあ、そろそろするか?」
鈴とラウラのアナルを優しく拡張するように指で刺激しつつ箒とセシリアの舌を堪能していた一夏は、そう周囲へ尋ねるように口を開いた。その瞬間、誰ともなく壁近くへ移動し両手を付いて臀部を突き出していく。あっという間に一夏の視界にはペニスを待ちわびる七つの雌穴が現れた。
「一夏君、お願いだから私からチンポ入れて。私を唯一負かした男の凄さ、体に刻み付けて欲しいのぉ」
「それなら私だって、教師なのに生徒に夢中なダメ女なのぉ。一夏君、エッチな授業、またして欲しいな?」
「アナタ、私のロリマンコは誰にも負けないぞ。嫁として、旦那の性欲処理は当然の義務だ。気兼ねなく使ってくれ」
「ねぇ一夏ぁ、いっそ裂けてもいいから僕の初めて奪ってよぉ。私も一夏の初めて欲しいんだから」
「あ、あたしの事、好きにしていいのは一夏だけなんだからねっ! このオチンポに負けちゃった体、どこまでも負けさせてダメにしてくれたって、い、いいんだよ?」
「ふふっ、一夏様? 誰からでもお好きなようにハメて、使って、壊してくれてよろしいですわ。とうに私達は貴方様の雌ですもの」
「ああ。愛してくれるのなら、それがどんな扱い方でも構わない。一夏なら、この言葉の意味を正しく分かってくれると信じているから」
妻としての貫禄のようなものが箒とセシリアからは漂っている。やはり、ここは肉体関係となってからの時間と濃度が関係していた。それと、単純に彼女達が一番一夫多妻の関係へ順応しているからだろうか。その言葉に一夏は何か言うでもなく、無言でペニスを反り返らせて彼女達へ近寄り……
「子作り、するぞ」
彼女達が一番望んでいる表現を使う事で返事とした。それだけで、七匹の雌は歓喜のあまり失禁してしまうのだ。何せそれはこれまでの感情やその時の興奮から出た言葉ではなく、静かに、力強く放たれた、一夏の男としての宣言だったのだから。
その日の交尾は、これまでにない程の熱量があった。回数が多い訳ではない。ましてや時間が長かった訳でもない。むしろその逆で、回数も時間も今までで一番少なく短い交わりだった。だが、濃度で表現すればもっとも凄かったと言える。
その証拠に、一夏は箒達を一度ずつ抱いた後疲れて動けなくなってしまったのだ。しばらくシャワールームには、うつ伏せで意識を手放す七人の女性と、死んだように眠る一人の男性だけが静かに横たわっていた。
静かな室内。だが、漂うのはどこか重苦しい空気。千冬は楯無からの報告に目を閉じてから深く息を吐くと天を仰いだ。
「間違いないのか?」
「はい、クロエさんにも協力してもらい、微かですが繋がりらしきものを見つけました。そこから得た情報を基にオータムへかまをかけたところ、小さな反応がありました。やはり完全に黒です」
「……恐ろしいものだ。国家代表候補が亡国と繋がっているとはな」
「彼女の場合、篠ノ之博士やクロエさんの協力がなければ足は着かなかったでしょうからね。それで、どうしますか? その気になればすぐに身柄を押さえますが」
「いや、コンビ戦が終わるまでは待て。で、そこで負けようと勝とうと初戦終了があいつの最後だ」
楯無はそれで察した。要は逃げられない状況にしてから捕えろと言っているのだと。アリーナを内部から破壊して逃げ出すのは不可能ではないが時間がかかる。それに、試合直後であれば多少なりとも疲弊している上、ISの稼働時間も減っている。
「……控室へ戻ったところでお縄と?」
「最上は敗北してくれる事だがな」
「大丈夫です。例えどうなろうと備えは完璧ですので」
「……そうである事を願っている」
その言葉を合図に楯無は一礼し部屋を出て行く。千冬はその背を見送る事もせず、一人ある事を思い出して考えに耽っていた。
(あいつらの初戦の相手は一夏達、か。これまでの凰やボーデヴィッヒとは比べ物にならん相手だ。果たして今の一夏はどこまでやれるのか……)
今までの二戦で一夏が見せていた力では到底勝ち目はない相手であるダリル&フォルテ。しかも、コンビを組むのはつい最近専用機が組み上がった簪である。個人としても難しいのにコンビとしても圧倒的に彼女達に劣っているのだ。これでその勝利を予想する方がどうかしているレベルと言えた。
「……一夏にとって良い経験となればいいが」
何も出来ずに負ける。その結末が現状では最有力だろう。それが千冬の率直な予想だった。
その頃、一夏と簪はコンビ戦のための連携訓練を行っていた。
「くっ……このっ!」
一夏の斬撃を危なげなく回避し、即座に反撃の銃撃を放つ相手。それを回避しつつ雪片弐型でも払う一夏へ、背後から迫る機体があった。
「いっただき~!」
「っ!? 不味い!」
「させないっ!」
一夏の前方からは銃撃をしながら迫る存在がいる。そこへ背後からの襲撃。挟撃の形となって進退窮まる彼を助けるべく、簪のミサイル攻撃が放たれた。その攻撃を片方は迎撃しながら距離を取り、もう片方は一夏へ迫り盾にしようと試みるも、既に彼は前方の相手が退いた事に合わせて下方へと移動していた。
こうしてアリーナを飛び回る四機のIS。白式と打鉄弐式を相手にするは訓練機の打鉄とラファール・リヴァイブ。操るは本音と真耶である。一夏と簪それぞれが一人ずつ訓練相手を呼んでくるとなり、ならばと選ばれたのはある意味で当然の人選と言えたかもしれない。
更に言えば、元国家代表候補であり千冬が強いと認める真耶が訓練をしてくれるのは珍しい事だった。だが、これについて真耶はこう持論を展開する。
「別に先生に自主訓練の相手をお願いしちゃいけないなんて決まりありません。ですから、お願いするだけなら織斑先生だっていい訳です。まぁ、受けてくれるかは分かりませんけどね」
肉体関係になっていなかったら一夏も真耶へ頼んでいないので、きっと今後も真耶へ訓練相手を頼む生徒は出てこないだろう。無論千冬など論外である。
「……即興ではこれが限度でしょうか」
訓練を終え、真耶はどこか渋い顔を浮かべた。普通の訓練であれば別に構わないのだが、コンビ戦の訓練となるとやはり相手側にも連携の質が求められるためだ。本音はそういう意味では優秀であり、真耶の動きに上手く合わせてフォローやカットを行っていた。ただ、それも即興コンビとして考えれば、である。
「山田先生が強いのは聞いていたけど、ここまでなんて……」
「のほほんさんも、こう言ったら悪いけどまさかこんなに強いとはな」
「おりむーだって凄かったよ~。山田先生、一人でしっかり抑えてたし」
「ええ、正直驚きです。織斑君も成長してるんですね」
「そう言ってもらえると嬉しいですけど、まだ満足出来ません。俺が目指しているのは、姉を超える事ですから」
簪以外は初めて聞く一夏の目標。それに驚きを見せたのは当然真耶である。彼女にとって千冬は憧れであり、目指していた存在だった。一夏もかつての自分のようにブリュンヒルデを目指すのか。そう思って彼女は小さく笑みを浮かべた。
(きっと、理由は私達だろうな。ISで誰よりも強くなって、箒さん達をお嫁さんにしたい。あの時の言葉、現実にしようとしてるんだ……)
初めて一夏に抱かれた日の言葉。それを思い出して真耶は笑顔を見せる。現実と戦おうとしている、愛する男の姿に。
「山田先生、訓練に付き合っていただきありがとうございます。のほほんさんもありがとな」
「いえ、生徒のために働くのが教師ですので」
「おりむーとかんちゃんのためだからね。これぐらいへーきへーき」
「それでも、だから。先生も本当にありがとうございました」
こうして真耶と本音が去った後、一夏と簪は着替えに向かった。そして少しだけ男子用更衣室で話し合う事になる。議題は、今日の訓練で見えた自分達のコンビとしての戦い方の具体案。
初めてのコンビ戦訓練だったため、特に打ち合わせもせずやってみた結果、それなりに噛み合う事は分かった二人ではあったが、やはりそれでも真耶のような実力者はその連携など物ともしない事を痛感。更に本音のように支援などへ徹する存在がそういう者と組んでいると、連携としても上をいかれてしまうのだ。
「どうすればいいかな? 連携なんて、訓練を続けるぐらいしか磨くのは無理だと思うし」
「それでも限度がある。何せ要注意コンビは去年からだ。そこに連携の練度で上回るのは不可能と見た方がいい」
「じゃあ、どうするの?」
「……いっそ、連携の考え方を変えようぜ」
一夏の提案の意図が簪には分からなかった。連携の考え方というのが、そもそも今一つ分からなかったためである。疑問符を浮かべた簪へ、一夏は自分の考えを述べ始めた。
「要は、相手のフォローやサポートをしようってのを止めようって事だ。俺が苦しんでるから助けに入るんじゃない。俺が苦しいって事は一人は俺へ完全に意識を向けているって事だ。なら、いっそ俺ごと攻撃して相手を潰す」
「……要するに二対二じゃなく、二対一対一って考え?」
「分かり易く言えば、相手は俺達へコンビ戦を仕掛けるけど、俺達はコンビを組んでるだけの個人戦をやるって事だ。一人で二人相手にするって思うって感じだな」
有り得ない考え方だった。コンビ戦なのだから当然相手との連携を重視して動こうとするのが普通である。だが、一夏はそれを捨てると言っているのだ。付け焼刃での連携など不可能。訓練時間が十分にあるのならともかく、それも少ない以上中途半端になるのは必至。
ならば、最初から連携など捨てて個人戦と考える方がマシ。コンビの相手は敵でないだけで守るべき味方とするなと考える。よって、場合によっては敵諸共攻撃してしまえばいい。
つまり、自衛もしてくれる囮と思え。一夏はそう考えようと言っていたのだ。
「だ、だけどそれじゃあ勝てないよ」
「でも、今のままじゃもっと勝てない。即興コンビの山田先生達でさえ追い詰める事も出来なかった。なら、勝ち目を少しでも増やすには相手の思考を乱すしかないだろ。相手だって俺達が連携を取ってくると考える。なら、言っちゃなんだけど、どっちかへ密着している間は簡単に攻撃されないって思うだろ? そこへ攻撃を叩き込まれたらどうだ? 一瞬でも隙が生まれるか動揺するはずだ。なら、それは相対している俺達にとってチャンスになる」
「……個人でも強いしコンビだともっと強い相手に勝つには、コンビじゃなくするって事?」
「どちらか一人でも倒せば、負けたとしても周囲を驚かせる事は出来る。俺達は一年コンビでしかも周囲からの評価は良くない。そんな二人が優勝候補筆頭に一太刀浴びせるんだ。得る物が多いのは俺達で、失う物が多いのは相手だ」
淡々と話す一夏に簪は驚きを隠せなかった。一夏の考え方は、学生のものではなく軍人のそれに近いと思ったのである。例え負けるとしても相手へ最大の損害を与える事を考える。勿論勝利を捨てる訳でもない。それでも、最初から負ける事を前提に考えるというのは中々出来る事ではない。
(一夏君、織斑先生を超えたいって言ってた。なのに、狙うのは優勝じゃないんだ。ううん、きっとそれを目標にはしてる。でも、最悪そう出来なくてもいいような結果を出そうとしてる……)
勝っても負けてもいいようにする。それは簪にすれば思ってもみなかった発想だった。勝たなければいけない。結果を出さなければいけない。そうこれまで思ってきたからだ。
「い、一夏君はそれでいいの? お姉さんを超えるって言ってたけど、負けたら」
「焦る必要はないからな。それに、焦って超えられるぐらいなら目標じゃないだろ? 俺にとっての千冬姉は、簪にとっての楯無さんだ。なら、コンビ戦で優勝したぐらいで並べるか? 超えられるか?」
「……無理」
「だろ? だったら、そこまで焦る必要はないさ。これまでだって周囲は俺の事を落ちこぼれだの、期待外れだの勝手な事を言ってた。なら言わせておけばいい。俺は周囲の評判も視線も気にしない。気にする事があるとすれば、千冬姉がそれで心を痛めたりしてないかって事ぐらいだ」
「一夏君……」
「簪、俺達の姉は揃って凄い人達だけど、それでこっちが委縮したり気にし過ぎたりは良くないと思うんだ。自分は自分で姉は姉って思って、自分が自分に胸張れる生き方しようぜ?」
お互いにさ。そう締め括って一夏は笑う。その笑顔と声に簪は心が温かくなるのを感じた。彼女がどこかで求めていた自分を助けてくれるヒーロー。目の前の少年もそうなのではと、そう思える程に一夏はらしさに溢れていた。
こうして二人は、いざとなった時は助けるのではなく対戦相手を撃破するのを優先と決め、本番に向けて訓練へ励む。そんな彼らの対戦相手であるダリルとフォルテは訓練を一度とする事なく過ごしていた。
「あの、本当にいいッスか?」
「何が?」
「コンビでの訓練ッス。ヴァージョンアップした後、一度もやってないじゃないッスか」
「面倒。大体誰かに相手を頼むのさえだるい」
「対戦相手、織斑先生の弟がいるそうッスよ?」
「二連敗の素人。相手が代表候補だからっていいとこなし。ISに触れてやっと半年程度の習熟度。警戒するだけ無駄」
「まぁ、そうッスけど……」
いいとこなし。それは一夏の試合を見た者達のほとんどの意見だった。何せ彼の相手はその戦術も動きも訓練を通じて熟知していたため、一度として一夏が鈴やラウラを驚かせる事はなかったのだから。そして、一夏の評価が思っているよりも低く見られるのは千冬の存在も大きい。
織斑千冬の弟。これだけで何故か人は姉と同じぐらい才能があるのではと思ってしまう。あるいは期待してしまうのだ。故に一夏は正当に評価されない。彼の事を客観的に見て正しい評価を下せているものは、学園内にほとんどいないと言っても良かった。
「じゃあ、偵察とかも?」
「必要ない」
気怠そうな声で返してダリルはフォルテへ背を向ける。もうこの話題で話すつもりはないという意思表示と受け取り、フォルテは小さく息を吐いた。別に彼女も緊張感がある訳ではないし自分達の勝利を疑っている訳ではない。ただ、漠然とした不安が渦巻いてはいた。
(篠ノ之博士が強くしといたって言ったけど、ホントなんッスかね? 授業で軽く動かした感じ、たしかに反応とかは前よりも良くなってた感じッスけど……)
幸か不幸か、フォルテもダリルも授業で全力を出す事はなかったため、未だにヴァージョンアップの実感はなかった。ただ、どれ程強化されているとしても扱えるだけの自信はあったが。
静かに運命の時は迫る。開幕するコンビ戦。大勢の生徒達が見守る中始まるその第一試合は、一夏・簪ペア対ダリル・フォルテペア。
「簪、訓練通りにいこうぜ」
「うん。一夏君もね」
軽く拳を当てあう二人。その向かい側には、やる気のないダリルと微妙な表情のフォルテがいた。
「どうするッスか?」
「うーん……眼鏡の子」
「……ん、了解ッス」
小声で告げられた答えにフォルテは小さく頷き息を吐く。彼女達はその気になれば誰であろうと仕留められる程のコンビネーションを持っている。それを開幕からやろうとしていたのだ。獅子は兎を倒すにも全力を尽くすように。
が、ここで彼女達の予想だにしない事が起きる。試合開始を告げる音が響いた瞬間、弾かれるように二人の機体が加速。それに一夏も簪も完全に出遅れた―――のだが……
「「っ!?」」
何故かそれをやった本人達も表情に驚きを浮かべたのである。そう、思っていたよりも動きが速かった事に加え、一夏と簪もそれぞれ分かれて彼女達へと向かっていたため、二人での簪への攻撃が出来なかったのだ。そして二人はそこで気付く。今の最大速度ではこれまでのような事は厳しいと。なので即座に速度を調整し、以前までの最高速へ戻せる辺りはさすが上級生と言ったところだろう。
だが、相手の失態を見逃したままの一夏達ではなかった。
「もらったっ!」
「っ!?」
速度を落とし体勢を整えたフォルテへ放たれる雪片弐型による投擲攻撃。それが見事彼女を直撃し、絶対防御を発動させて一気にシールドエネルギーを減らす。
「じ、自分から武器を手放すとか何考えてるッスっ!? あいつ正気ッスか!?」
普通なら有り得ない攻撃法に動揺しながら、自分の頭上辺りへ弾かれた雪片弐型を回収させまいと攻撃を開始して一夏を牽制するフォルテ。と、そこへ荷電粒子の輝きが迫った。
その攻撃を視認するでもなくフォルテは回避行動へ移る。彼女の行動を注視しつつ、簪は一夏から狙いを自分へ変えて迫るダリルへも同じく春雷と呼ばれる荷電粒子砲による攻撃を開始した。
「一夏君っ! 今の内に武器をっ!」
「ああっ!」
「させないッスよっ!」
「あ~……面倒だな、これ」
最小限の動きで回避しつつ簪へと向かうダリル。その距離はあっという間に縮まっていき、簪は射撃を中止すると夢現と言う名の接近戦用薙刀を構えた。
「自衛ぐらいは……っ!」
一方で一夏は無手のままでフォルテを相手にしていた。雪片弐型は既にアリーナの床へ落下している。何度か一夏が取り戻そうとしているが、それを易々とさせるフォルテではない。隙の無い射撃で彼の動きを牽制し続けていたのだ。
その射撃を一夏は何とか回避していたが、それでも掠る事があってエネルギーを地道に削られている。上級生にして国家代表候補は伊達ではないと、そう一夏も痛感する程見事な腕前であった。
「いいッスか? このままじゃ君のパートナーがダリルさんにやられるッスよ?」
フォルテの言葉通り、簪はダリルの攻撃を辛うじて防ぎ捌きとしのいでいるものの、ダメージを負っていない訳ではなく、ジリジリと追い詰められていた。それは、どこかダリルが攻めあぐねているようにも見える。
実際には、ダリルが本気を出していない事と簪が思いの外善戦している事による結果なのだが、周囲にはそう見えていた。
「無手の俺が行っても状況は好転しないぜ、先輩。そう思うのなら温情で武器を拾わせて欲しいもんだ」
フォルテの射撃を回避しつつ、一夏は時々雪片弐型へと視線を向けていた。隙を見つけて取りに行こうとしている。そう読んだフォルテはどう一夏を片付けるかを考え始める。
(さっきのは何度も使えないし、今みたいな事にもなる博打攻撃。もしこっちの隙を突いて取りに行くとしても、瞬時加速を使って取りに行くだろうからエネルギー残量はかなり厳しくなるはずッス。……なら、ここは向こうの狙いを利用してやるッス)
そう決めるや、フォルテは不自然ではないぐらいに攻撃の狙いを甘くする。連射速度や弾幕の展開。それらを少しだけ緩めるのだ。更に弾切れになったと装って舌打ちと共に別の攻撃へ切り替える素振りまで見せて。
「今だっ!」
すると狙い通り、一夏が動き出す。が、瞬時加速を使う事もなければ、ましてや床へ向かうのでもない。彼はそのままフォルテへと向かって行ったのである。
「なっ……」
無手のままで迫る一夏にフォルテは動揺ではなく呆れていた。いくら何でも考えなし過ぎると。それとも追い詰められた事で自棄になったか。そう思って彼女は憐憫の念さえ浮かべながら一夏へと照準を合わせた。
「これで終わりッス」
今まさに攻撃を放とうとした瞬間、不意に一夏の姿がターゲットサイトから消えた。
「何っ!?」
瞬時加速の準備もしていなければ、上昇する音が聞こえた訳でも下降する音が聞こえた訳でもない。突然フォルテの視界から消えたのだ。慌てて周囲を確認する彼女が見たのは、何故か逆方向へと向かって距離を取る一夏の姿だった。
「っ!? どういう事ッス!?」
一夏はそのまま雪片弐型が落ちている場所を通過すると同時に武器を拾い、その先で簪を追い詰めているダリルへと向かっていたのである。
「いつの間に……っ! 今はダリルさんを!」
理解不能な現実へ意識を持って行かれそうになったが、すぐに切り替えて一夏を追ってダリルとの合流を図ろうとするフォルテ。
実は、一夏はあの瞬間ISをスラスターなしの部分展開に切り替え自然落下したのだ。そして床に激突しそうな辺りで再度スラスターを展開、雪片弐型へと向かって接近したのである。ラウラとの初戦でやった戦闘中のISの再展開。それを応用したフェイントであった。
勿論それらは観客達に全て見えている。当然のようにほとんどの生徒達が一夏の行動に唖然となっていた。そんな周囲に無理もないと苦笑するのは箒達である。
「一夏の奴め、いきなりとんでもない事をしてくれる」
「ったく。あれ程ああいう事するなって言ってるのに……」
「それだけ相手が強いと言う事でしょう。ラウラさんの時は攻撃としての手段でしたが、今回は退却にも近い使用法ですし」
「だね。それに最初のあれ、零落白矢じゃなかった」
「おそらくだが、一夏なりに試合展開を考えているのだろう。本当の切り札を見せないで相手へ痛手を負わせるためだ」
「切り札は先に見せるな。見せるなら更に奥の手を持て、って感じかしらね」
楯無だけは知っているのだ。オータム相手に一夏がやっていた行動を。敢えて零落白夜を使わず、雪片弐型の間合いを誤認させた辺りで展開させた状態にして仕留めようとしていた事を。一夏はそれと似た事をやっている。そう思って楯無は内心でため息を吐いた。
(本気で初見殺しを極めつつあるわね。だからこそ、今日ここで彼は手の内をどれだけ見せるのかしら? それと……)
ダリルが一夏に気付いた事に合わせ、彼女へと荷電粒子を浴びせようと射撃を始めた簪を見つめ、楯無は思うのだ。もう以前までの妹ではないと。表情には気迫が感じられ、あの内気な姿が嘘のような雰囲気だった。
そしてダリルへは瞬時加速を使っての雪片弐型の投擲を行う一夏。それがダリルのスラスター部分を直撃、見事破損させた。
「チッ、やってくれるじゃない……」
「ごめんッス、ダリルさんっ! 抑えられなかったッス!」
「みたいだね。じゃ……やるよ」
「了解ッス!」
一夏の攻撃に合わせた簪の射撃も回避しつつ、ダリルは無気力な表情のまま後方の一夏とフォルテへ視線を向ける。そのフォルテは射撃で一夏達を牽制しながらダリルと合流した。
「簪っ! 打ち合わせ通りだからな!」
「うんっ!」
挟撃した一夏が今度は逆の立場となる。フォルテの言葉でダリルが一夏を標的と定めたためだ。そして始まる”イージス”と言う名のコンビネーション。だが、何故かそれが決まらない。恐ろしいはずのコンビネーションは、一夏を仕留めるどころか追い詰める事も出来なかった。悉くダリルの攻撃がずれているのだ。
「ダリルさんっ!?」
「スラスターが……さっきの攻撃のせいか」
一夏の行った攻撃は、ダリルへの大ダメージを狙ってではなかった。彼女達の連携の胆は確実に機動性。なら、そのどちらかがそれを失えばどうなるか。答えは今の通りである。必殺の連携は息もつかせぬ速度と正確さがあってこそ必殺となるのだ。片方が遅くなればただの連続攻撃まで落ちる。
「損して得取れってな。これで俺がやられても、この試合中あんた達自慢の連携は機能しない。簪は俺よりもレンジが広い。そんな相手を今のあんた達で仕留め切れるか?」
フォルテを雪片弐型で相手しながらダリルへも気を配る一夏。推力が低下したダリルでは、全力の一夏へついていく事さえ難しいためだ。その彼の言葉で彼女達二人も理解した。先程の攻撃は狙いを外したのではなく、最初からスラスターを狙っていたのだと。
「調子に乗って……っ! こうなったら一人だけでも!」
ルーキーである一夏に翻弄された事へ怒りを露わにして苛烈に攻め立てるフォルテ。ダリルもまたそんな彼女を見て、ならばと攻め方を変えたのか一夏の背後へと回る。
「後ろにっ!?」
「これで仕留める……っ!」
「それはこっちの台詞だからっ!」
フォルテと接近戦をしている背後からダリルが迫る。その瞬間、簪は打鉄弐式の最大火力を解放した。
山嵐と名付けられたそれは、簡単に言えば大量のミサイルを放つミサイルポッドである。最大四十八発ものミサイルを放てるが、どれだけ精密な狙いを付けさせても現状では一夏を巻き込まないという結果はない。それでも迷う事なく簪はその武装を使用する事を選んだ。
これに驚いたのはフォルテである。まさか味方ごと攻撃するなど有り得ないと思っていたのだ。ダリルも多少ではあるが訝しむような顔をしている。
「あいつ、味方ごと撃つつもりッスか!?」
「……ハッタリかも。とりあえずさっさと片付けるよ」
どちらにせよ、ここで一夏を潰せばいい。そうダリルは判断した。彼女の勘が告げていたのだ。恐ろしいのは簪ではなく一夏だと。故に迷いなく彼女は一夏へと襲い掛かった。フォルテもそれに若干遅れながらも動きを合わせる。が、その瞬間こそ簪の待っていたタイミングだった。
「行けぇぇぇぇっ!!」
放たれるミサイル。全弾発射のそれはまるで嵐のように四方八方からダリルとフォルテ、そして一夏へと殺到する。そんな中、一夏は迫りくるミサイルを見て白式を両腕と両足のみの展開に変えた。
「「っ!?」」
二人の動きが一瞬乱れる。スラスターを失った一夏は落下を始めながら、二人の攻撃を雪片弐型で弾き、あるいは体をよじる事でかわしていく。しかも、白式は元々ロックされていないため、ミサイルに追い駆けられる事もない。
「「やられた……(っ!)」」
急いで一夏のように下方へ脱出しようとする二人だったが、既にミサイルの一部が軌道を変えてそこを塞いでいた。
「させないっ!」
手元のディスプレイでミサイルをコントロールし簪は二人を睨む。デュアルロックシステム。これが束からもらったヒントを使って簪が組み上げた山嵐の制御プログラムだった。
全てをオートで追尾するフルオート、発射から命中までをオートでやりつつ任意で手動に切り替えられるセミオートの二つを使い分けられるのである。
一夏は自分を囮としつつ、最初から犠牲になるつもりはなかったのだ。
「まさかこうなるとはね……」
「ダリルさんっ!」
殺到するミサイル。それによって起こる爆発と轟音。勝負あった。そう誰もが思っていた。
「や、やりましたよ織斑先生っ! まさかの優勝候補に織斑君達が勝っちゃいましたぁ!」
「いえ、まだです」
「え?」
千冬以外は。
「簪、お見事」
「い、一夏君のおかげだから」
簪の隣へ近寄り、笑みを向ける一夏。それに照れくさそうにはにかむ簪。と、そんな時だ。簪目掛けて何かが飛んできたのは。瞬間、一夏が弾かれるように動く。それと同時に雪片弐型を展開、零落白夜を使ってその飛来した方向へ投擲した。
「簪っ!」
「え……?」
簪には、まるで一夏の動きがスローモーションのように見えた。自分へ迫るビームの光。それを迎え撃つように立ちはだかる一夏。それは、さながら彼女の好きなヒーローのようだった。
「ぐうっ!」
「……っ!? 一夏君っ!」
一夏を直撃する飛来物。それはダリルの放った射撃攻撃だった。それを察して簪が弾かれるように顔を上げる。そこには、晴れていく煙の中で気を失ったフォルテを脇に抱えながら彼女達を睨むダリルの姿があった。
「ど、どうして……」
「フォルテが庇ってくれたんだ。残りエネルギーが少ない自分が盾になって私を守って、ね」
「じゃ、さっきの攻撃のダメージは……ない?」
「か、簪……後を、頼む……」
「え?」
絞り出すような声でそう告げると、一夏は目を閉じて項垂れた。残ったエネルギーは先程放った零落白夜もあって僅かであり、このまま継戦は不可能。既に雪片弐型は手元になく、彼に残された攻撃手段はそう多くはなかった。
故に彼は託したのだ。勝敗の行方を簪へ、己が相棒へと。
「一夏君っ!?」
「結局最初の形、か。ま、思わぬ攻撃で意外とエネルギーが減ったけど、問題ないか……」
一夏へ駆け寄る簪を余所に、ダリルは静かに距離を取る様に移動しフォルテをアリーナの端へと寝かせる。彼女はフォルテのために一夏と決着を着けたかった。だが、予想に反して彼は簪を庇って戦線を離脱。結果としては有難いが、ダリルにとっては素直に喜べない展開ではあった。
「……やらせてもらうよ、お嬢ちゃん」
だからと言って手加減も情けもない。そんな言葉を込めるような低い声で呟かれた言葉には、静かな怒りが秘められていた。パートナーを倒された事と自分のプライドを傷つけられた事への、強く激しい怒りが。その彼女の目の前では、簪が一夏の体から離れて手にした夢現を構えている。だがしかし、その構えや雰囲気からは一夏程の威圧感を感じない。故にダリルは内心笑う。
(残念だけど、あっちの坊やの方が面倒だったね。この試合、もらった)
射撃攻撃を行うダリルだが、それを簪は手にした夢現で弾くようにして防ぐ。それを見たダリルは、出せるだけの速度で簪へと迫った。それに簪は夢現を回したまま身動き出来ない。それに何か妙なものを感じるも、既に簪の攻撃方法は理解した彼女に恐怖も不安もなかった。
「これで……っ!」
未だに射撃攻撃を夢現で弾き続ける簪を見てダリルはそう呟いた。何せ、簪の視界は射撃攻撃を弾き続ける事でダリルを捉えられなくなっている。それを狙って接近したダリルの刃が簪へ振り下ろされそうになった瞬間、何かがそこへ割って入りその斬撃を受け止めた。
「何っ!?」
それは一夏だった。その攻撃により彼の絶対防御が作動、白式は敗北認定となる。が、その僅かな時間こそ最後にして最大の勝機。
「簪っ!」
「終わりっ!」
一夏の肩越しから放たれる近距離での荷電粒子砲。その攻撃がダリルを貫きエネルギーを全て消費させていく。信じられないという顔を浮かべるダリルへ一夏は獰猛な笑みを浮かべて呟いた。
―――何で俺がもう動かないと思ったんだ?
―――っ?!
その瞬間、ダリルは思い出す。一夏が俯いた後の事を。駆け寄った簪がゆっくりと表情を変えていたのだ。ダリルは怒りを感じての変化と思ったが、あの時彼から彼女は策を授かっていたのである。
相手が接近するように仕向け、その攻撃を自分が受け止めたところを仕留めろ、と。
(やられた……。最後の最後まで相手の掌で踊らされてた。最初に仕留めるべきは、やっぱりこっちだったか……)
薄れゆく意識の中でそう考えてダリルは自嘲の笑みを浮かべた。こうして一夏と簪は勝利を収める。それは、IS学園に来て初めて、二人が味わう公式戦の勝利だった。
「一夏君、ありがとう」
「へ?」
簪と共に控室へと向かう中、一夏は告げられた感謝に不思議そうな表情を浮かべた。視線の先では簪が嬉しそうな顔をしている。彼女は最後の一夏の言動が見事なまでにヒーローとして映っていたのだ。故の上機嫌である。
「に、二回も庇ってもらったから。その、いざって時は相手を倒すって決めてたのに」
「そうなんだけどさ、気付いたら体が勝手に動いてたんだよ。その、やっぱりあんな事言っておいてなんだけど、俺にとっては簪も守りたい存在だからさ」
「え……?」
思いがけない告白に簪の思考が止まる。それに気付かず、一夏は柔らかく笑みを見せた。
「俺の手の届く範囲の人達ぐらいは、守りたいってそう思ってるんだ。大事な人達ぐらいは、俺の出来る限りで……」
簪の中で一夏への好意がゆっくりと恋愛感情へと変わり出した瞬間である。そう語る一夏は、どこか照れくさそうにしていたのも大きい。簪がその横顔に見惚れていると、一夏は更にこう告げた。
「それに、俺からすれば簪にこそ感謝しないといけないし」
「……何で?」
「気付いてないのか? 相手のトドメ、全部簪だぜ? 俺一人じゃ勝てなかったし、勝ち目も見出せなかった。だから、ありがとう簪。俺、簪のおかげで始めて公式戦で勝てた」
「っ!?」
真剣な、だけど優しい表情で告げられる心からの感謝。一夏に憧れのヒーローを重ねた簪にすれば、それは強烈で鮮烈な言葉だった。どこか茫然となる彼女へ、一夏は右手を差し出した。それに簪の顔が動く。
「これは……?」
「ま、改めてよろしくって事で。次も、二人で頑張ろうぜ」
「…………うん」
差し出された手。それは、簪が昔からどこかで待っていた手。それも、ただ簪を助け出そうと伸ばされた手ではない。彼女へ共に戦ってくれと伸ばされた手だ。
その手を掴みながら簪は思った。自分が本当に望んでいたのはこれだったと。助けてもらうだけじゃなく、誰かに必要とされる事。それを、自分は待ちわびていたのだと。
(織斑一夏……貴方は、私のヒーロー……)
だけど、とそう簪は心の中で付け足す。
―――そのヒーローから、私は求められているんだ。
淡い恋慕はしっかりと色と輪郭を濃くし、はっきりと心に根付く。そしてこの日から簪は自慰を行うようになってしまうのだった。
「試合、残念だったな」
「お疲れ様です、先輩。それと、サファイアさんもお疲れ様」
試合を終えて、意識を取り戻したフォルテと共に控室へと戻ったダリルを出迎えたのは、千冬と楯無の二人だった。予想外の人間に戸惑う彼女達だったが、千冬が一歩足を前へ踏み出して告げた言葉にその表情が一変する。
「ダリル・ケイシー、亡国機業への内通者として身柄を拘束させてもらう」
その言葉にはさしものダリルも眉をひそめた。
「は? 一体なんの」
「ミューゼルと言う名に聞き覚えがありますよね、先輩」
間髪入れずに放たれた楯無の発言にダリルの表情が強張った。隣のフォルテは何が何だか理解出来ず、ただただ視線を千冬達とダリルの間で行ったり来たりさせるのみ。
「前回の学園祭の襲撃者からも裏は取れている。スコール・ミューゼルと言う名に反応を示したぞ」
「……そう。叔母様の事まで突き止めているのか」
「大人しく捕まってくださいな。抵抗は無駄です。今のお二人では満足にISが動かせませんし」
「なるほどね。それもあって試合後にやってきた、か。用意周到だこと」
「だ、ダリルさん? 一体何の話をしてるッス?」
「サファイア、現実を受け止めろ。お前の組んだ相手は亡国機業の一員だ」
「そんなはずないッス! ダリルさんが、ダリルさんが祖国を裏切ってるはずがないッスっ!」
冷酷に告げられる言葉。それにフォルテは信じられないとばかりに顔を左右に振って隣へ視線を向ける。ダリルはどこか笑っていた。それは諦めの笑み。彼女は悟っているのだ。ここで抵抗しても無駄に終わる事を。何せそれを裏付けるように楯無は一切ISを展開させていない。絶対的な安心感がある。それは、ダリルの前に立ち塞がっているような女性の存在に他ならない。そう彼女は考えていた。
彼女は知らない。ISを使って抵抗出来たとしても、束によって組み込まれたプログラムによって行動出来なくなる事を。
束の仕込んだプログラムとは、試合中及び身体の危険に晒されている状況以外でのIS展開時に、一夏を始めとする束が定めた保護対象へ攻撃しようとすると停止するというもの。
それを知っているから楯無は余裕さえ醸し出しているのだと。
「う、嘘ッスよね……? ダリルさん、嘘だって言って……」
縋るようにダリルの胸元のインナースーツを掴み、泣きそうな顔で問いかけるフォルテ。そんな彼女を一瞥し、ダリルは絞り出すように告げる。
「……面倒」
「ダリルさん……」
この日を最後にダリル・ケイシーの姿がしばらく学園から消える事となる。表向きの理由としては、コンビ戦での結果を受けて本国から呼び出しを受けたとなった。
フォルテ・サファイアはショックの余り自室へこもり、当然残りの試合を全て欠場。愛する恋人の帰りをただひたすら待ち続ける事となる。
ダリル・ケイシー改めレイン・ミューゼルは数日間の尋問を黙秘で過ごしたため、オータムと同様に束の下へと送られる事となった。そこで彼女を待っている恐ろしい毒を知らないままで。
今、ゆっくりと楯無と束の悪だくみが広がり始める。それは、IS学園を自分達と一夏のための場所へと変える計画。表向きはこれまでと同じで、その裏では一夏と彼の嫁達の住家としようというもの。そして、彼にナノマシンを打ち込んだ者達の思惑にも合致する事である。
遂に一夏の恐ろしさと厄介さが全校生徒の目に触れる事に。そしてメイドが増えるよ。やったね、オータム。
亡国の実働部隊、完全にMとスコールのみへ。