※この作品はR-18です。

IS(一夏が生殖するための)学園物語   作:拙作製造機

26 / 36
お待たせしました。やっとの続きです。
次回、久しぶりのそういう描写あり回となる予定。
ただ、夏中に投稿出来るかは……怪しいです(汗
申し訳ない。


百合の花々も薔薇に近寄る

「ダリル、さん……?」

「……フォルテ、か」

 

 オータムをシャワーへと移動させた一夏とレインは、ラボの中へ足を踏み入れていたフォルテと対面していた。ただ、フォルテはどこか困惑している。理由はレインの格好にある。何せ裸に近いのだ。しかも一夏は服を着ているのに。

 

 それをレインも感じ取っていたのだろう。その顔はどこか面倒な事になったと言わんばかりである。ただ、それがフォルテには自分への軽い拒絶にも感じられた。

 

「フォルテ先輩、来てくれたんですか」

「当たり前ッス。その、ダリルさんと話が出来るのなら」

「こっちには話したい事はない」

 

 ピシャリと言い放つレインだが、それに一夏が即座に補足を入れる。

 

「話したい事は、ですか。じゃ、話したくない事はあるんですね」

「「っ!?」」

 

 二つの息をのむ音がラボに生まれる。一つは当然希望を抱いたフォルテの、そしてもう一つは己の無意識を指摘するような一夏の言葉に動揺するレインのものだ。

 

「フォルテ先輩へ話したくない事。それがフォルテ先輩の聞きたい事なんです。お二人の間に何かあった事は俺でも分かります。恋人、なんですよね?」

「……そう、そこまで聞いたの」

 

 諦めるような声でレインは呟くと、観念するように息を吐いてフォルテへ目を向けた。その眼差しは最後に見た時よりも柔らかくなっていて、フォルテからすればそれだけで幸せを感じられる程である。

 一方のレインもフォルテの反応からその心境を感じ取っていた。突き放すような別れをしたにも関わらず、今もまだ一途に慕い続けている事を。

 

「ダリルさん……」

「……レインよ」

「え?」

「レイン・ミューゼル。それが、私の本当の名前。もし今の私でも想ってくれるのなら、そちらで呼んでくれる?」

 

 それが、全てだった。もうレインはダリルではないと告げた。それはフォルテが想い、慕っていたのは別人であると告げていた。だからだろうか、フォルテの表情が強張る。自分と愛を語り合ったのは嘘なのかと、演技だったのかと思って。

 

 静寂が流れる。それがレインとフォルテの間に確かに生まれた溝のようにも思え、一夏は何も言う事が出来ずただ事態を見守る事しか出来なかった。

 

(これでフォルテも諦めがつくでしょ……)

(ダリルさんは、ダリルさんじゃなくて別人、ッスか……。それは……)

 

 見つめ合う二人。片や無表情のまま相手を見つめ、片や動揺を顔に張り付けたまま相手を見つめる。と、そこで沈黙を守っていた一夏が何かに気付いて息を吐いた。

 

「フォルテ先輩、悩む事ないです。要するに、まずは本当の自分を知って欲しいって事ですよ、これ」

 

 快刀乱麻。まさしく本質を見抜いた一言が二人の心へ波紋を生む。フォルテはそういう事かと納得し、レインはそう捉えられるかと感心して。故に二人は同時に笑みを零す。一人は心から嬉しそうに、もう一人はどこか諦めるように。

 

「レインさん、またお付き合いして欲しいッス」

「……面倒、とは言えないわね。ただ、今の私は」

 

 そう言ってレインは置いてあったメイド服へと袖を通す。それを見つめるフォルテはどこか意外そうな表情をしていた。それも無理はないだろう。ダリルであった頃は面倒が口癖の人間だったのだ。それが事もあろうか使用人の格好をし、召使に甘んじているのだから。

 

「こういう事なの。だから……」

 

 もう以前のような時間は取れない。関係も以前同様には無理。レインの言いたい事はフォルテにもしっかり伝わった。ここまで話を出来れば上等だ。そう思った彼女はやや寂しく思いながらも了承しようと頷く―――動きをする前にあるものを見て止まった。

 

「それでいいんですか? 本当にそれでいいんですか?」

「それでいいんですがって言われてもッスね……」

「どうしようもない事は、貴方もよく分かってるでしょ」

 

 フォルテが見たもの。それは悲しそうな顔をして拳を握り締める一夏の姿だった。彼には二人が自分達の一つの結末のように見えている。故に口を挟んだ。故に手を差し伸べた。

 自分が箒達と、愛する女性達と引き裂かれたくないから。だが、今の二人は現状を受け入れ足掻く事を放棄しようとしている。それが一夏には見逃せなかった。何故なら……

 

「だからって諦めるのは違う。それに、もし納得してるのなら、どうして二人して悲しそうなんですか!」

 

 二人がこれっぽっちも諦める事を納得していないからだ。

 

「束さんが問題なら俺が何とかします。さすがにレイ、いえダリルさんを外に出すのは無理でしょうけど今みたいな時間ぐらいなら」

「レインでいいわ。貴方になら、そう呼ばれてもいい」

「レインさん……」

「分かりました、ありがとうございます。それで、フォルテ先輩とレインさんはどうしますか? 現状を変えられるかもしれない可能性があって、それは意外な程簡単に挑戦可能です。それでも、貴方達は諦めますか?」

 

 真剣な眼差しでレインとフォルテを見つめる一夏。その表情にレインは小さく胸がときめくのを覚えていた。勿論ナノマシンの効果もある。ただ、それに加えて一夏の想いと在り方に好感を抱いたのが大きかった。

 

(これが、彼の本質なんでしょうね。だから博士はともかくあの子が惚れ込むはずだわ)

 

 クロエはレインから見ても人付き合いが上手いとは思えない相手だ。それが人目も気にせず交われる程に夢中になれる男。一夏がそれ程までに惚れられている理由の一端を今の言動から感じ取ったのである。

 彼女は気付いていない。本来の自分なら、だとしても心をときめかせる事はないと。既にレインもそこまでナノマシンの影響を受けていた。

 

「諦めたく……諦めたくないッス!」

「フォルテ……」

 

 一夏の問いかけに当然とばかりにフォルテが返す。噛み締めるような声は、レインの心へも響く。少し目を見開きフォルテを見つめるレイン。そんな彼女へフォルテは小さく微笑むと頷いてみせる。

 

「レインさんが亡国機業の人間なのは分かったッス。でも、それで何か悪い事したッスか? まだ何もしてないッスよね?」

「……貴方や国へ嘘をついた。欺いたのよ」

「それなら問題ないッス。こっちは気にしてないッスし、国に関しては騙されちゃダメなとこなんですから。なら、レインさんの嘘に気付けなかった国も悪いッス」

「フォルテ……貴方……」

「こうなると、レインさんが完全な悪い事をする前にこうなって良かったかもしれないッスね。本当の悪い事されてたら、きっと打つ手がなかったはずッス」

 

 はっきりと笑顔で言い切るフォルテにレインは言葉がなかった。自分に罪はないと、そうフォルテは言っているからである。そして一夏もそれに何も言わない事から同意している事が窺えた。

 

 何も言えなくなっているレインから視線を一夏へ向け、フォルテは凛々しい顔つきへ変わる。

 

「それで、どうするッスか?」

「今、束さんがレインさんを監視してるって扱いです。で、レインさんが何もするつもりがないって分かるか、あるいは学園側へ、もしくは束さんへ協力するってなれば」

「監視体制が緩和されるかもしれない、ね。正直私が知っている事なんて多くはないけど……」

「それでもですよ。どんな事情があるか知りませんけど、それはフォルテ先輩の想いを踏みにじっても守る価値があるんですか?」

 

 一夏の言葉が今のレインに突き刺さる。視界に映ったフォルテの微かな悲しみの表情もそれに拍車をかけた。レインが知る情報は正直そこまで多くはない。精々が叔母の事ぐらいである。それでも簡単に話すつもりはなかった。

 

 だけども、今のレインにとってその情報とフォルテの想いは同価値ではなくなっていた。そう、もう今の彼女にとって叔母の事はそこまで重い事ではなくなったのだ。

 

「……話せば、フォルテと寮へ戻れる?」

「何とかしてみせます」

 

 即答。それにレインだけでなくフォルテも心を揺り動かす。男らしく言い切る一夏からは、その言葉を嘘にするつもりはないと感じられたからだ。はっきりと断言する声には強さが宿っていた。

 

「どうして、どうしてそこまでしてくれるッスか? そっちには、何のメリットもないッスのに……」

 

 フォルテの問いかけはレインの言葉でもあった。一夏にはそこまでして二人を助ける理由がないはずなのだ。だが、一夏自身には先程も挙げた通り十分助ける意味があるのだ。

 

「フォルテ先輩へは言いましたけど、俺も人には言えない交際関係を持ってます。だからですかね? 他人事に思えないんですよ。だから、助けたい。手を貸せるのなら貸したいんです。そこに、利益も何もないです」

「……織斑君、ありがとうッス」

「お礼はまだ早いですから。それは、俺が言った事を実現出来た時に聞かせてください」

 

 最後まで男らしくそう告げ、一夏は笑みを浮かべた。その笑顔にフォルテは顔が熱くなるのを感じて動揺する。ただし、彼女はレインと違って異性への興味がなかった訳ではない。たまたま好きになったのが同性であっただけの女性なのである。

 

 つまり……

 

(な、何か顔が熱いッスね。ま、まぁ、今の織斑君がカッコイイからッスけど……こんな簡単な女じゃないと自分では思ってたッスけどねぇ……)

 

 ナノマシンの影響がオータムやレインよりも早く出やすいのだ。しかも、一夏はフォルテにとってはレインと再会させてくれ、更にその状況を元に戻そうとしてくれる存在である。そんな相手へ好意を抱かぬ程フォルテは捻くれていないのだから。

 

 こうしてフォルテとレインの再会は叶い、二人は再びその関係を温め直す事となる。一夏はそれを見届け、束や真耶へまずは相談し、その上で千冬へと直接交渉へ向かう事となる。

 

 余談ではあるが、シャワーで目覚めたオータムは、これ幸いとそのまま自慰を行い更なる深みへ堕ちた事を記す。

 

 

 

「……協力の見返りに現状からの脱却、か」

 

 場所は寮内の一夏の部屋。そこで一夏の話を聞いた千冬はポツリと呟く。今までまったくそれらしい事を言っていなかったレインが、突如として協力を申し出てきた。その裏側を知って、千冬もレインの変化を感じ取ったのだ。

 

「千冬姉、何とかならないか? レインさんもフォルテ先輩と学園生活を送りたいんだよ」

「そうは言うが、いきなり協力するから以前と同じに戻せとは」

「以前と同じじゃない。レインさんはダリルって名前じゃなく本名があるんだ。それも上手く利用出来るはずだろ?」

「……言ってみろ」

 

 一夏の言い方に思う事があったのか、千冬は興味深そうな声を出す。そこには、以前までの守るべき弟という気持ちが薄れ始めている事も関係している。

 今の千冬にとって、一夏は自分を守れるようになろうと研鑚している男であった。その男が何か腹案を持っている。ならばそれを聞いてみたいと思ったのである。

 

 一夏は自身への千冬の認識変化を感じ取る事はなかったが、千冬の眼差しに期待が込められている事には気付いていた。なので、はっきりとこう返した。

 

「アメリカには保護プログラムってのがあるんだろ? なら、ダリルって名前はそのために用意されたってするんだ。で、本国へ呼び出されたのはその保護理由が解消されたって事にすれば……」

「レインという本名を名乗る事も出来るし、これまでの休学時間の説明にもなる、か。成程、たしかにいい考えかもしれん」

 

 ふむと顎に手を当て思案を始める千冬。問題になるとすればアメリカだが、それも亡国機業の関係者を国家代表候補にしていたという事実を公表されるぐらいならと受け入れる可能性は十二分にある。そう考え、千冬は一夏案をベースに細部を詰めていく事にした。

 

「分かった。その方向で動いてみよう。あの二人にはアメリカの返事が出るまでは」

「現状で我慢しろって事だろ? 分かってる。そう伝えておくよ」

「ああ。ではな」

「ん」

 

 話は終わったとばかりに部屋を出て行く千冬だったが、一夏はそこで気付く。

 

「……今、千冬姉から」

 

 去り際に香った匂い。それがあの旅館で感じ取った雌の匂いと察し、一夏は一人部屋で口の端を吊り上げる。もうあの雌は体が堕ちていると悟って。後は心のみ。ただ、それを一夏は考える事はなかった。何故なら、彼にとって重要なのは千冬の体が自分を、雄を求めている事のみなのだ。

 

(千冬姉、待っててくれ。必ず俺が……)

 

 制服のズボンを突き破らんとする程に勃起するペニス。その猛りを宿したかのような眼差しで一夏は部屋のドアを見つめ続ける。可能な限り早くあの雌を自分のものにするのだと、決意を新たにしながら……。

 

 その三十分後、部屋には刀奈の姿があった。ただし、その雰囲気は少々これまでと異なっていた。

 

「ね、一夏君。気付いてる?」

「何に?」

「あのね、最近君から知らな~い、女の匂いがするの。私だけじゃなく簪ちゃん達も気付いてるから。それも複数。ラボにいる二人の内のどちらかとは思うんだけど、どういう事かな?」

 

 やや頬を膨らませ、一夏の事をジト目で睨む刀奈。その愛らしさに苦笑しつつ、一夏はどう説明するべきかと悩んだ。何せオータムとレインの事は表向き内密にしなければならない事だからである。ただ、束の傍にオータムがいる事は刀奈に知られてしまっているが、会っているだけなら匂いがそこまでするはずはない。

 

 つまり、刀奈達はどこかで察しているのだ。オータムやレインが一夏に女として、雌として惹かれている事を。そして、それを一夏自身も喜び受け入れようとし始めている事を。

 

「その、言える事と言えない事があるのはまず分かって欲しい」

「うん、いいよ。それで?」

「実は、オータムの奴がさ……」

 

 一夏が選んだのは、可能な限りで刀奈の問いかけに答える事だった。オータムが自分へ煽ってきた事を切っ掛けに始まった関係。その一部始終を、である。あまりな内容であるそれを聞き、刀奈は呆れるでも怒るでもない反応を見せた。

 

「……要するに、一夏君は素直になれない女性を屈服させたいって思ってるわけか」

 

 苦い顔をし、一定の理解を示したのである。それは彼女が一夏に唯一抵抗した女性が故のものだった。女性達は一夏への好意を積み重ねて現状となっているが、刀奈だけは一夏と二度対決している。しかも、ナノマシンによる影響を受けても抵抗してみせたのだから。

 

 現在、一夏が自分から再戦を求めたのは刀奈のみ。そこから彼女は一夏の深層心理をこう読んだのだ。

 

 織斑一夏には、自分へ反骨心を見せる相手を屈服させたいという欲求がある、と。

 

「やっぱりそう、なのか?」

「自覚もない訳じゃないのね。ええ、きっとそうだと思う。だって、お姉さんに勝ちたいってのもそれに近いじゃない」

「……そっか」

 

 潜在的な欲望を指摘され、一夏は驚きよりも納得の方が強かった。ただ、まだ彼はどこかでそれを”自分を守る対象として見ているから”と考えていた。

 

「さて、では一夏君の匂いの理由も分かった事だし……」

 

 一夏の表情がやや思案顔となったからか、刀奈はまた拗ねたような口調と表情で場の雰囲気を変える。それを感じ取って一夏が視線を彼女へ向けた瞬間だった。

 

「その事のお詫びも兼ねて、たっぷりラブラブしましょ?」

「ああ。俺から刀奈の匂いがするぐらいに、な」

「……うん」

 

 一夏の返しに合格とばかりに笑みを浮かべ、刀奈は嬉しそうに彼へ抱き着いた。そのまま二人はキスを交わし、互いの鼓動を感じるぐらい密着して時間を過ごす。その時間の中、二人は自身の中にある二つの気持ちを強く感じる事となった。

 

 人として、今のように過ごしていたいという気持ちと、雄や雌として、何もかもを忘れて交わりたいという気持ちの、その二つを。

 

(刀奈にはああ言ったけど、やっぱエッチしたい……)

(ダメ、ね。こうして抱き合ってキスしたりするだけで、体がそっちばかりしたくなっちゃう……)

 

 ふと見つめ合う二つの眼差し。そこに宿った熱のようなものを察した二人は、どちらともなく苦笑するとキスをかわす。ただし、舌を絡める情熱的なもので。それが何を意味するかを正しく認識し、彼らは体の叫びに身を委ねていく。

 

 着ている物を脱ぐ度に、理性も脱ぎ捨てていくような感覚さえ覚えながら、一夏も刀奈も熱に浮かされるまま相手を求めていった。

 

 ただ、普段と違ってその求め合いは激しいものではなかったが。

 

「んっ、一夏君……」

 

 いつもであれば一夏に覆いかぶさられ、強く激しく突き上げられる刀奈。それが、今回は違う。一夏とベッドで向き合うようにして横になりながら、そのヴァギナに彼のペニスを収めていたのである。

 

「刀奈、やっぱ綺麗だ。俺、幸せだよ」

 

 繋がったまま動く事もせず、ただ刀奈と抱き合いキスをするだけの一夏。体の叫びへ心の声が応じた結果、普段と違い深く静かに愛し合う事を選んだのだ。

 

 ポリネシアンセックスと呼ばれるものに近い雰囲気がそこにはあった。射精しようとするのではなく、また子作りしようとするのでもない。相手をもっと感じたい、求め合いたいという気持ちがそこにはたしかに存在していたのだから。

 

「ねぇ、一夏君。一つだけお願いがあるんだけど……いい?」

「ああ」

 

 即答。それが刀奈の心を温かくする。どんな事でも叶えてみせるという一夏の想いを感じ取って。

 

「これから、ね……君の、ううん、貴方の事を呼び捨てにしたいの」

「そっか。君付けじゃ、距離があるって?」

「それもない訳じゃないけど、一番は年齢で物を考える意味がないからってとこ。私は一夏よりも一つ年上だけど、一夏は私に二連続で勝ったもの。だから、立場としては少なくても対等で、下手したらそっちが上だと思うから」

「成程なぁ。なら、俺からも一ついいか?」

「ええ、いいわよ?」

 

 そうやって刀奈が明るく返事をした瞬間だった。彼女の子宮へ、何かが強く突き立てられる感覚がしたのは。

 

「卒業、出来なくするかもしれないけど許してくれ」

 

 次の瞬間、刀奈の子宮へ熱いものが注がれる。いや、叩きつけられた。それが一夏の精液であると理解すると同時に、刀奈はその熱と言葉に込められた意味で意識を溶かされていく。

 

(ああ、私、一夏の赤ちゃん産むんだ……)

 

 最後に、とても嬉しそうで幸せそうな笑みを浮かべて、刀奈は意識を失う。そして、意識が戻るまで一夏に優しく抱き締められた事で、より一層刀奈は彼に溺れるのだ。優しくも強い、最愛の雄へと……。

 

 

 

 その日、一部生徒達に驚きが走った。それは、ダリル・ケイシーが名前を戻して復学したためである。

 

「ダリル・ケイシー改めレイン・ミューゼル。ま、そういう事でよろしく」

 

 どこか気だるげではありながら、レインはそう自己紹介してクラスメイトへ軽く手を振った。一夏の案を千冬が細部を詰めて束や学園長と相談した結果であった。

 

 それと前後して束がある通告をアメリカ政府へしていた。それは、レインのISを取り上げないようにするもの。

 

―――束さん、あの子の事少しだけ気に入ったんだよね。だから、あの子のISには時々手を入れてあげるかもしれないよ?

 

 暗に、レインを拘束、あるいは代表候補でなくせば自身の技術を調べる事が出来なくなるぞと脅したのである。アメリカ政府としても、束の技術を解析出来る可能性が残る事はレイン一人の身柄を拘束するよりも大きく、故に今回のレイン復学が叶ったのだ。

 

 それに、レインがあまり亡国機業の情報を知らなかった事も多少影響している。要は、レイン自身にそこまでの利用価値がないと判断されたのである。こうして過程はともかく、フォルテの希望は叶ったのだ。

 

 その日の昼休み、食堂にはニコニコと笑うフォルテと微かに笑むレインの姿があった。

 

「またこうしてレインさんと食事出来て嬉しいッス」

「大げさ。ま、気持ちは嬉しいけど、ね」

 

 テーブルで向かい合うのではなく隣り合っている辺り、そういう関係らしいと言えるかもしれない。どこまでも上機嫌なフォルテとそれをどこか微笑ましく見つめるレイン。だが、彼女達は揃ってその脳内で一人の男性について考えていた。

 

(織斑君、本当に約束果たしてくれたッス。どう、お礼をすればいいッスかね?)

(もう私は彼と接点を持つ必要も事情もない。それを本来は喜ぶところだけど……)

 

 純粋な感謝から考えるフォルテと、植え付けられた性癖によって考えるレイン。ただし、両方に共通しているのは一夏へ少なからず異性としての好意を抱いている事。

 同性愛カップルなのに、異性へと心揺れている二人。一つ良かった点があるとすれば、その対象が二人して同じ相手である事だろうか。

 

「あの、レインさんに相談があるッス」

「相談?」

 

 一夏の事を自分よりも知っているだろうレインへフォルテが礼について相談したのは、ある意味では当然の流れだったかもしれない。

 

 さて、その対象である一夏だが、彼はラボにて束とある事について注意を受けていた。

 

「いい? 今回は結果的に上手くいったけど、いっつもこうなるとは限らないからね? いちおー、ここは束さんのラボで、誰にだって見せたい場所じゃないんだから」

「分かってる。その、束にも感謝してる」

 

 フォルテをラボへ入れた件についての注意であった。そうなるように仕向けたのは束ではあるが、だからといって注意しない訳ではない。束はこう考えていたのだ。一夏を誘導こそすれ、その最終決定は彼自身に下させる。もし、仮に誘導していた事が一夏に露見すれば、その時は自分が悪いと認めて許してもらえばいいのだと。

 

 そのためにも、露見するまではそれらしく振舞おう。それが今の束の方針である。

 

「ま、束さんもいっくんのやる事にそこまで口出しはしないつもりだよ? ただ、ここに関しては別。女としての束さんと研究者としての束さんがいるって事、いっくんは知っておいてほしいなぁ」

「ああ、しっかり覚えておく。もう束さんの領域では勝手はしないから」

「ん。じゃ、もうこの話はここまでにするね。で、束さんからいっくんへ一つおつかいをお願いしたいんだ」

「おつかい?」

 

 何だろうと思う一夏へ束が差し出したのは折り畳まれたメイド服だった。レインの使っていた物である。

 

「これ、あの子へ届けて。ま、今までのお給料代わりみたいな物って」

「……分かった。届けるだけ届ける」

「もしいらないって言われたらいっくんが持ってなよ。ほーきちゃんとかに言えば仕立て直して着てくれるかもよ?」

 

 その言葉に一夏の股間が僅かながら反応する。メイドプレイというのも悪くないと、そう思ったのだ。そこに、オータムとの時間が影響しているのは言うまでもないだろう。

 

 こうして一夏は束から預かる形でメイド服を手にする。余談ではあるが、クロエが二人の話を聞きながら、自分ではダメなのだろうかとしばらく思い悩む事となった。

 

 

 

「これまでの、給料代わり……」

「はい、束さんはそう言ってました」

 

 放課後のレイン達の部屋に一夏の姿があった。束から預かったメイド服を一旦部屋へ置きに行った一夏は、訓練を休止にしてフォルテへと連絡を入れた。そこからレインへ連絡を入れ、現状と相成っていたのである。

 

「いいじゃないッスか。くれるって言うなら、とりあえずもらっておけばいいッス」

「俺としても受け取ってくれると嬉しいです」

「どうして?」

 

 フォルテに合わせるような一夏の言葉にレインが反射的に問いかける。すると一夏は少々恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「その、実は受け取ってもらえないと俺の物になるんです」

「……そ。確かにそれは困るでしょうね」

「そうなんです。俺の物になると、絶対俺は箒達に着せたくなるんで」

 

 その一言がレインの中の何かを刺激した。正直言えば彼女はメイド服を受け取る気はなかった。だが、一夏の言葉でその気持ちが反転する。もし、一夏が箒達の事を持ち出さなければレインはメイド服を手放していただろう。しかし、今の彼女にそんな選択肢はない。つまり、レインは箒達へメイド服を渡したくないと思っているのだ。

 

 そこには、明確な嫉妬の感情があった。もうレインは、ナノマシンによる影響と一夏との関わりにより、彼へ異性としての好意を抱いていたのである。

 

「なら受け取ってあげる。感謝して」

「はい、ありがとうございます……てのも変な話ですね」

「そうね」

 

 苦笑しながらメイド服を手渡す一夏とややムスっとした顔のレイン。フォルテからはレインの顔は見えないが、微かな怒気は感じているのか小首を傾げている。

 

(レインさん、何をいらついてるッスかね?)

 

 レインが一夏に惚れ始めているなど知らぬフォルテは、内心でそう思って疑問符を浮かべる。まさか思いもしないのだ。想い人が異性へ心を寄せ始めているなどと。

 

 レインは受け取ったメイド服を少し見つめ、何か思う事があったのか視線を後ろへ、フォルテへと向ける。

 

「フォルテ、これ、着てみなさい」

「「えっ?」」

 

 同時に上がる疑問の声。当然フォルテと一夏のものである。そんな二人に構わず、レインは手にしたメイド服をフォルテへと突き出した。

 

「ほら、これをあの子へのお礼にしなさい」

「……なるッスかね?」

「へっ?」

 

 フォルテの視線が向けられた事で一夏が再度疑問の声を上げる。だが、今回は彼へ誰も同調はしなかった。フォルテはメイド服を手にシャワールームへと向かい、レインは気だるげにベッドへと腰掛けて足を乗せたのだ。

 

 その足の艶かしさに一夏は思わず目を奪われる。レインの見事な脚線美は、メイドの頃では今のように見えなかったためだ。そう、一夏の前で座り、その足を見せつける事は。

 

(レインさんも、やっぱり綺麗な人だよな。それに、以前まであった無気力感みたいなのが薄れて、より魅力的に思えるし)

(……どこを見てるかと思えば足、か。ホント、よく分からないわ。獰猛な男かと思えば、今みたいに大人しい時もあるし)

 

 フォルテが着替えて戻るまでの数分間、一夏とレインは無言であった。ただ、その視線はまるで絡め合うように向け合っていたが。それは、言うなれば狩人の目。互いに相手をいつ狩るか、またはどう狩るかを探る目である。

 一夏はレインの色香にあてられて雄の顔が出てきていたし、レインはレインで一夏の雄の顔に影響されて雌の顔が出て来ようとしていたのだ。

 

「お、お待たせしたッス……」

 

 が、そんな淫気に満ちた空気をフォルテの登場が一変させる。メイド服を着た彼女は、同じ格好のはずなのにも関わらず、レインと違って活発な印象を与えるメイドとなっていた。

 

「おおっ……」

 

 その変化に一夏も思わず声を漏らす程、メイドフォルテは魅力的であったのだ。当然レインも一夏程ではないがフォルテのメイド姿に感嘆の息を漏らしていた。

 

「へぇ……思った以上に似合ってるじゃない」

「そ、そうッスか?」

「現に彼は喜んでるわ」

「ほ、ホントッスか?」

 

 そこでフォルテは半信半疑の表情で一夏を見た。すると、見られた一夏は力強く頷く。無言でのその反応は、フォルテの中にあった”これで本当にお礼になるのだろうか?”という不安を綺麗に吹き飛ばした。

 

「そ、そうッスか。良かったッス」

「でも、どうしてそんな格好を? お礼って言ってましたけど……」

「ほ、ほら、言ったじゃないッスか。レインさんとの事を感謝したら、それはちゃんと言った事を果たせた時にって。で、どうせなら言葉だけじゃなくて何かお礼をって、そう思ったんッスよ」

 

 やや照れくさそうに頬を掻くフォルテの反応は、一夏にとって可愛らしく見えた。年上の先輩ではなく、一人の少女。そんな風に捉えられる程、今のフォルテは可憐で愛らしさに溢れていたのである。

 

「そうだったんですか。ありがとうございます。俺、嬉しいですよ。だって、フォルテ先輩のこんな可愛いとこ見れた男、他にいないでしょうし」

「か、可愛い?」

「はい。正直年上って思えないぐらいです。本気で幸せだなって感じます」

「っ!? い、言い過ぎッスよ。さすが大勢の女の子を侍らせてるだけあって口が上手いッスね」

「俺、こんな時にお世辞は言いませんよ。思った事言ってるだけですから」

 

 その断言に、ボンっと音がしそうなぐらいフォルテは赤面した。男らしい表情や眼差しと共に告げられた本音の好意に心を射抜かれて。

 

 フォルテ・サファイア。少し遅い異性への初恋の瞬間であった。

 

「ま、これでいいでしょ。フォルテ、もう脱いでくれていいわ。十分お礼になったみたいだし」

 

 一夏の物言いにやや呆れつつも好ましいものを抱いて、レインはフォルテへお遊びの終了を告げる。だが、初恋の衝撃から抜け切っていないフォルテはそれに気付かない。ただ、惚けたように一夏を見つめるのみであった。

 

「えっと、フォルテ先輩? どうかしましたか?」

「ぇ……? っ!? な、何でもないッスよ! 何でもないッス!」

「そ、そうですか? それならいいですけど……」

 

 挙動不審なフォルテに内心小首を傾げつつ、一夏は頬を掻いた。その一方で、レインは敏感にフォルテの異変を感じ取って目を細めていた。

 

(フォルテ……貴女、もしかして……)

 

 彼女の記憶にあるフォルテとの時間。その中で現状の彼女に似た状態を見た事があったのだ。そう、特別な関係となる前である。つまり、特定の相手へ強い好意を抱いている状態だ。

 

 レインがそんな事を思い出して自分を見ているとも気付かず、フォルテはメイド姿のままで一夏と会話していた。と言っても、それは既に会話というよりは質疑応答の様相を呈していたが。

 

「じゃ、織斑君は彼女達と連れ添ってくつもりッスか?」

「ええ。難しい道だと思いますけど、不可能じゃないと信じてます」

「子供とかも?」

「出来れば」

「お姉さんは、織斑先生はこの事を知ってるッスか?」

「薄々気付いてはいるはずです。なので、俺の中では千冬姉を納得させる事こそが最難関ですよ」

 

 フォルテからの質問に答えながら一夏は気付く。彼女の自分を見る目が変化している事に。それが、まるでかつてのラウラに重なり、一夏はまさかと思いつつフォルテの様子を注視した。

 それと同時にレインの視線へも気を配る。気付いたのだ。彼女がこちらを、フォルテを見ている事に。それがどういう感情からかまでは分からないものの、恋人が異性に好意的な目を向けているからだとは察していた。

 

(レインさん、もしかしてフォルテ先輩を俺に盗られるとか思ってるのか? そんな事ないと思うけど……)

 

 二人を自分と箒達に置き換えて考えている一夏にとって、これぐらいで浮気や心変わりを心配する事はない。ただ、それは一夏が心身ともに箒達を満たし従属させてしまっているためであり、普通のカップルならばそういう心配をしても仕方ない部分は大いにあるのだ。

 

「あの、俺からも一ついいですか?」

「へ? どうぞ?」

「えっと、フォルテ先輩はレインさんと将来も一緒に暮らしたいんですよね?」

 

 間違いなくその質問にフォルテも、そしてレインも困惑した。今はIS学園にいるため、そこまで異常と思われる事もなく彼女達は過ごしていられる。だが、これが卒業した後となると話は別だ。

 それぞれは国を代表する事になるかもしれない訳であり、しかも同性。それが同性婚となれば、嫌がおうにも周囲からの雑音は煩くなるだろうと予想出来た。

 

「……そう、したいけれど難しいでしょ」

「そう、ッスね……」

 

 認識が同じである事を確認出来たためか、フォルテは悲しそうな声ではあるがどこか嬉しそうでもあった。

 

「ですか。じゃ、俺を盾にしてくれていいですよ」

「「……え?」」

 

 一夏の告げた言葉に二人の反応が遅れる。理解が出来なかったのだ。いや、正確にはいきなり言われた事の意味が重いため、理解するよりも疑問が先に立っただけなのだが。

 そんな二人へ一夏は何でもないような事を言っている表情で言葉を続ける。自分は箒達複数の女性を妻にするつもりであり、そうなれば世間が言葉をぶつけるのは自分となるだろうと。それを使って、レインとフォルテは同性婚を隠し暮らしていく事が可能なはずだ。それが一夏の考えであった。

 

「どうせ俺はどうなろうと世間からは良く思われないでしょう。なら、表向き何人の奥さんがいようとその文句の大きさは変わりません」

「だ、だけどッスね?」

「言いましたよね? 俺にとって、お二人は自分達みたいなものだって。だから、守りたいんです。俺で力になれる事なら余計に。一緒にいたいと思っているなら、俺はそれを支えたい。これが、理由です」

 

 はっきりと言い切る一夏に二人は言葉がない。既に聞いた言葉である。それでも、こうして改めて言われる事で分かったのだ。

 

 一夏は本気で自分達を重ね合わせて見ているのだと。だから本当に守ろうと、助けようとしているのだと。

 

「……君は本当にバカッス。大物なのかもしれないッスけど、大馬鹿でもあるッスね」

「じゃなきゃ、両手で数え切れない数の嫁をもらおうとか思わないですよ」

「それもそうッスね。レインさん、どうするッスか? 私は、織斑君の申し出に甘えたいッス」

 

 後ろを振り向きレインへそう告げるフォルテの顔に迷いはなかった。その表情を見て、レインにも迷いは消えた。この時、二人は気付くべきだったのだ。この申し出を受ける事が自分達にとってどういう意味を持つかを。

 だが、それも無理な話だったのだろう。既に束製のナノマシンに犯され、その思考や体を一夏用にされつつあった今の彼女達には。

 

「……そう、ね。いいかしら?」

「構いません。じゃ、申し訳ないですけど今からついてきてもらえます? 箒達に話をしておきたいんで」

 

 その言葉に二人が応じたのは言うまでもない。こうして一夏はまずは箒達へ二人を連れて合流する。そこでレインとフォルテが同性ながらも愛を育んでいる事を話し、その事を周囲から誤魔化すために自分のハーレムへ加える事を教えた。

 

 当然箒達からはそれならばと理解を得る事が出来た。ただ、さすがに彼女達は気付いていたが。

 

(一夏の奴め、同性愛の女性からすらも気を惹けるのか? レイン先輩はともかく、フォルテ先輩の目は完全に乙女のものだぞ)

(一夏様らしいですわ。この申し出、普通の同性愛カップルなら断りますもの。つまり、受けた時点でお二人は一夏様の妻になっても構わないと思っているのと同義です)

(はぁ~……また上級生かぁ。ま、一夏が一年だから同年代か上しかいない訳だけど、それでも、ねぇ……)

(フォルテ先輩の眼差し、完全に一夏へ恋しちゃったラウラと同じだ。これ、一夏は気付いてるのかな? もしそうなら……これ、誤魔化しじゃなくなるなぁ)

(むぅ、また体つきが見事な者達か。姉も最近胸が大きくなり出したと言うし、私はこのままでは置いていかれるのだろうか……?)

(あらあら、まさかこの二人までとはねぇ。まぁ、一夏がレインさんの処分について意見したって聞いた時から予想はあったけど、フォルテさんまでとは……)

(上級生、しかも国家代表候補生。一夏君って、本当に凄い。まだエッチしてないみたいだけど、きっと近い内に……はぅ)

 

 七人の視線から自分達があまり歓迎されていない事を感じ取りつつ、レインとフォルテはその心情を思って微妙な顔をしていた。

 

(ま、そうでしょうね。形はどうであれ彼に新しい女が近付く訳だし)

(や、やっぱりいい気はしないッスよねぇ……)

 

 そして、その場で女性達の言葉にならない空気を感じ取って、一夏は一人複雑そうな顔をしていた。ただ、ここで黙る事をしないが、良くも悪くも彼らしさなのだろうか。

 

「その、箒達の心配もレインさん達の心配も分かるつもりだ。だから、俺は絶対みんなの嫌がる事はしない。もししそうになった時や、してしまった時は言ってくれ。俺も気を付けるけど、そういうのって人によって違うからさ。一度目はあるかもしれないけど、二度目はないようにするから」

 

 間違いなく、その瞬間女性達全員の気持ちは一つになった。何故なら同時にため息を吐いたのである。それは、呆れと好意の混ざったもの。そういう事じゃないと思いつつ、その勘違いを好ましく思ってのため息。

 と、そこで彼女達は気付く。どうやら自分達は上手くやっていけそうだと。一夏に対して同じ反応が出来ると言う事は、彼の内面へ弱くはない好意を抱いているという事だからだ。

 

「……皆を代表して言わせていただきます。これからよろしくお願いします、レイン先輩、フォルテ先輩」

「こちらこそ。色々迷惑かけるかもしれないけど勘弁して」

「私達も、出来るだけ織斑君の力になるッスから」

 

 微笑みながらの箒の言葉へレインとフォルテも笑みを浮かべて言葉を返す。

 まだ箒達七人とレインとフォルテの間には厚い壁がある。越えてはならないそれを、箒達はいつか越えてしまうと読んでいる。レインとフォルテは、越える事はないと思っている。一人一夏は、そんな事さえも考えずにいる。

 

 今はまだ、一夏の嫁達の中にいる居候二人。それがレインとフォルテの立ち位置。だが、それを聞いた束は一夏へこう告げるのだ。

 

「いっくん、一つだけ束さんからアドバイスだよ。いくらいっくんの申し出が合理的に見えても、人間って感情で動く事がほとんどだからね」

 

 とてもイイ笑顔でそう言って、束は上機嫌に顔を一夏からコンソールへと戻す。その背中を見ながら一夏は彼女からの助言について思考を巡らせる。

 

(どういう意味だ? 俺の提案がベストだとしても、それを頷くとは限らないって事か?)

 

 腕組みをしながらラボを後にしようとする一夏だったが、そんな彼をクロエが引き留めた。

 

「一夏さん、待ってください」

「ん? どうかしたのか?」

「はい。新しくお嫁さんが増えると聞きました。それも、一人はレインだそうですね」

「ああ、そうだよ。それが?」

 

 礼儀正しいクロエがレインを呼び捨てにするのには訳がある。レインとクロエが初めて会ったのは、言うまでもなくラボへレインがメイドとして来た時だ。つまり、クロエからすればレインは敬う対象ではなかった。故に今もその呼び方が変わっていないのである。

 

「いえ、それなら呼び方を改めないといけないかと思いまして」

「……様じゃなくさん付けでもいいと思うぞ。きっとレインさんもそこまで気にしないだろうから」

「そうですか? なら、一度本人に聞いてみます」

「ん。っと、クロエ」

「はい?」

「いつかでいいんだ。箒達の事も、さん付けで呼べるようになってくれ。その方が距離が近くなった感じするからさ」

「……はい、善処してみます」

 

 優しく微笑み、クロエはそう返して一礼するとラボの中へと戻っていく。その背を見送り、一夏は気付くのだ。束の言った言葉の意図を。

 

「そっか。いくら上辺だけでも、異性の伴侶扱いになる事は嫌って思うよな。それを受け入れてくれたって事は、レインさんもフォルテ先輩も俺とならそう扱われてもいいって事か?」

 

 完全正解ではないが、一夏もやっと感じ取った。レインとフォルテが自分へ弱くはない好意を寄せてくれている事に。

 

 静かに動き出す恋心がある。ゆっくりと始まる恋がある。まだそれを知らず、二人の少女は時を過ごす。

 

―――ところで、どうしてあの子達、最初私を見て微妙な顔をしてたッスかね?

―――……メイド服だからじゃない?

―――へ? ……ああっ!?

―――ふふっ、本当によく似合ってるわよ? フォ・ル・テ?

 

 室内にコダマするフォルテの嘆きと恨み節。それを聞きながら楽しげに笑うレイン。そんなやり取りも、以前まではなかったもの。故に最後には揃って微笑む。かつてよりも仲を深めている事に。

 その夜、彼女達は久しぶりに肌を重ねる。だが、それは以前までの性欲からの行動ではない。愛情からくる、求め合いだった。それもまた、互いの変化と気付き、二人は口付けを交わして眠りに就いた。

 

 こうして可憐に咲いていた百合の花が、一輪の薔薇に誘われてその花園へと近付いていく。それが後に花園の花々へ小さくない影響を与える事となると知らずに……。




レインとフォルテがメイド服を手に入れました。フォルテが一夏へ恋心を抱きました。

レインとフォルテが(現状)表向きハーレムメンバーとなりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。