毎度お待たせして本当に申し訳ありません。
今作のマドカの立ち位置は”ラブひな”でいう可奈子でしょうか。
正妻ポジの箒を最初に信頼して、でもそれが自分の想い人の一番のお気に入りで……と。
分からない方は申し訳ないです。
時刻は早朝と呼んでいいだろう午前五時。
ここ一夏の部屋では、普段であれば誰かしらが訪れ寝ている彼のペニスへ奉仕を初めている頃だ。
ただ、箒達が妊娠したためにここへ来るのは束達一部の者へと変わった。しかも今朝に限って言えばクロエはラウラ達の部屋へ泊まっている。
つまり彼女の性格からしてラウラ達へ気を遣って朝は動かないし、束はマドカがいるのを知っているため顔を出さない。
残るはフォルテとレインだが、現在は部屋で夢の中であった。
「んっ……」
誰もそういう事をしに来ないでも一夏は目を覚ました。
ぼんやりとした視界がゆっくりと鮮明になっていき、意識もしっかりとしていく。
と、そこで彼はある事に気付いて視線を動かす。
「……まだ寝てるか」
そこには安らかな寝顔を見せるマドカの姿があった。
昨夜から日付を跨いだ辺りまで求め合った一夏とマドカは、最後にもう一度シャワーを浴びて眠りに就いたのだ。
「んぅ……」
「可愛いな、マドカも」
そっとマドカの髪を撫でる一夏。それに微かな笑みを浮かべるマドカを見て、一夏は無意識に本音を呟いた。
妹と言いながらしっかり女としてマドカを愛してしまった一夏。だがその胸中に悩みも迷いもない。
何せ、今の彼は実姉である千冬さえも女として意識し、抱き、孕ませたいと思っているのだ。
ナノマシンによる倫理観の破壊は見事に成功していると言える。ただ、そのせいで自分達も想定しなかった事態になっているとは、ナノマシンを一夏へ投与させた者達も思っていなかっただろうが。
そのまましばらくマドカの寝顔を一夏は眺めた。どこか千冬に似ていながらも異なる顔を、愛おしそうに眺めたのだ。
「……何を見てる?」
そうしてどれぐらい経っただろうか。突然マドカの目がゆっくりと開き、自分を見つめる一夏を確認するとやや気恥ずかしそうに口を開いた。
それがとても可愛く思え、一夏は笑みを返すと同時にその前髪を優しく掻き上げると……
「可愛い寝顔のマドカ」
「っ?!」
さらりと告げてマドカの顔を真っ赤に変えたのだ。それでも顔を逸らしたら負けとばかりに彼女は一夏の目を見つめ続ける。
しばらく見つめ合っていると一夏がそっと顔をマドカへ近付ける。反射的にマドカはキスされると思って少しだけ顔を上げて目を閉じた。
瞬間、唇へ感じる温かい感触。それをもっととねだるようにマドカは舌を伸ばして一夏の唇をノックした。
(可愛いなぁ……)
箒達ならノックではなく入れてくると思った一夏は、甘え方が愛らしいマドカに微笑ましいものを感じて彼女の舌を迎え入れると優しく自分の舌を絡める。
昨夜と違い優しくねっとりとしたディープキスにマドカは幸せそうに笑みを浮かべた。
(一夏兄の味がする……)
生まれて初めて与えられた人の温もり。男の頼もしさ。そして何より家族の有難さ。今まで孤独に強くあろうと生きてきたマドカにとって、一夏との時間は麻薬にも等しい幸福だった。
人とは、堕落する生き物である。一度好条件や良環境を知ってしまえば以前までの暮らしには中々戻れない。
マドカもその例に漏れず、一夏と繋がる以前の自分へは戻れなくなりつつあった。
静かに互いの顔を離して見つめ合う二人。もうマドカの顔は発情した雌のものとなっている。
一夏はその表情に何か言うでもなく静かに立ち上がると、勃起したペニスをマドカの顔の前へ突き出した。
(改めて見ると、何て大きさだ……。これが……一夏兄の……。私を、女にした物……ああっ!)
ペニスを顔へつけられた瞬間、マドカはその雄の匂いと熱に全身を小さく痙攣させる。軽く絶頂したのだ。
「マドカ、頼めるか?」
「……はぁ……っはぁ……分かった」
何をどうしろ。そう言われずとも一夏が何を望んでいるのか今のマドカは分かった。分かるようにされてしまったのだ。
昨夜の激しい交尾で叩き込まれた男と女の睦み事。これまで知りもしなかった様々な行為や言葉。
それを思い出してマドカは一夏のペニスへ手を伸ばすとゆっくりと扱き始める。
硬く熱いペニスにどこか恍惚の表情を浮かべながら、マドカは亀頭をじっと見つめた。
(熱くて硬い。これを、私は体の中に入れたんだな。そして、女である事をしっかり教え込まれた……)
思い出すだけで下腹部が熱くなり、漏らす吐息に熱がこもる。
昨日の自分と別人になったと自覚出来る程、今のマドカは女になっていた。
顔のあちこちに一夏のカウパーが飛び散るのも厭わず、むしろそれをどこか喜ぶようにしながらマドカは手でペニスを扱き続ける。
視線も最初こそ亀頭を見つめていたが、気付けば一夏の事を見上げるようにして笑みを浮かべていた。
「一夏兄、気持ちいいか?」
「ああ。マドカ、もっと早く扱いでくれ」
「分かった」
言われた通りにマドカが扱く速度を上げると、一夏が嬉しそうに笑みを浮かべて彼女の頭を優しく撫でる。
それにマドカの心が温かくなり、その表情がより緩みだらしなくなった。その表情を見つめて一夏も笑みを返す。
「マドカ、可愛いよ。俺、マドカみたいな妹が出来て嬉しい」
(私も、私も嬉しい。一夏兄に頭を撫でられると考える事が出来なくなる。だけどとても温かくて幸せな気持ちになれる。もっと、もっとして欲しい。一夏兄にもっと喜んでもらいたい)
声を出さずにマドカは眼差しと表情で一夏へそう伝えようとする。まだ声に出すには恥ずかしいのだ。
それと、マドカが声を出せない理由がもう一つあった。
「レロッ、レロッ……ペロペロ……」
まるで子犬のようにペニスへ舌を這わせるマドカ。そう、彼女は自発的にフェラチオを始めていたのだ。
舐める度に大きさを増していくペニスにマドカはうっとりとしながら舌を動かし続ける。
(ぁ……また大きくなった。ふふっ、一夏兄が喜んでいるのが分かる。それに、この味が私は好きだ。匂いも、おちんぽのすべてが好きだ)
「チュッチュッ……レェ~……チロチロ」
「ああっ、気持ちいいぞマドカ」
「ふふっ、そうか。ならもっと気持ち良くしてやる。あむっ」
一夏に頭を撫でられながらフェラチオをしていたマドカだったが、彼の言葉に気を良くしてもっと奉仕をと動き出す。
口を大きく開け、ペニスを優しく口内で愛撫し始めたのだ。舌も使い、味わいながらも丁寧にペニスを愛撫する様は、昨日まで処女とは思えない程の淫乱さだ。
昨夜から深夜にかけて一夏により仕込まれた事と本人の高い学習能力のなせる業なのだが、まさしく能力の無駄遣いと世間では言われる事だろう。
だが、今のマドカにとっては、一夏への奉仕及び性行為の技術や知識は最優先で磨き得るものだった。
(美味しい……。一夏兄のおちんぽは本当に美味しい……。私は、もうこれがないと生きていけない。これだけが、一夏兄だけが私に温もりをくれる。抱き締めてくれる。家族に、なってくれるんだ……)
長きに渡り心に抱えていた孤独。それを歪な形であれ埋めて癒してくれた一夏。その兄と呼ぶ相手へマドカは表面上はどうであれ依存し始めていた。
人としても、女としても愛され満たされてしまったのだ。そうなっても無理はないと言える。
熱心にペニスを味わうマドカ。そのヴァギナからは愛液がとめどなく溢れ、濃厚な雌の匂いを放ち始めている。
一夏もそれに気付いて苦笑すると、撫でていた手を止めてマドカへ声をかけた。
「マドカ、体勢を変えようぜ。俺もお前を気持ち良くしたいんだ」
「…………ん」
一夏の言葉に胸を高鳴らせ、喜びを滲ませるように小声ではあるが可愛く返事をするマドカ。
こうして一夏の上に跨るようにしてマドカは奉仕を再開。一方一夏はと言えば……
「凄いな、これ。大洪水だぞ、マドカ」
「っ! い、一々言うなっ! ふぇらしてやらないぞ!」
「ん~? 別に俺はそれでもいいぜ。だって俺はさ」
言いながら一夏は指を目の前のヴァギナへとゆっくり入れる。
「んっ……」
「マドカのオマンコをこうして可愛がってやれるからな」
「ああっ、クチュクチュするなぁ……」
「それに、どっちかって言うとマドカがチンポ舐めてたいんじゃないか?」
その言葉にマドカが顔を真っ赤にして黙る。だが、そんな逃げは許さないとばかりに一夏の指が彼女の膣内を刺激する。
「んっ……ず、ズルいぞ一夏兄ぃ。お、おまんこで私の口を割らせようなんて……っ!」
「ズルくて結構。ほらほら、素直に言ってくれよ。俺はマドカの本音が聞きたいんだって」
グチュグチュと濁った音を出すマドカのヴァギナ。その音を聞きながら羞恥に震えるマドカだったが、目の前で反り返っているペニスを見ながらのそれは、ある意味で今の彼女には拷問のような効果をもたらしていた。
(ああっ……こんなにも大きくなって、先端からはあの美味しいものが流れでている……。舐めたい。あの逞しいものを咥えたい。好きなだけ味わいたいっ!)
「ほら、マドカ。聞かせてくれよ、お前の本当の気持ちを……さっ」
「~~~~~~っ!?」
最後の一言と共に一夏がマドカのクリトリスの包皮を剥くと、彼女の体が大きく痙攣する。
それがマドカの意地や羞恥心の崩壊の合図となった。
「な、舐めたい……っ。一夏兄のおちんぽ、舐めたい!」
「ん。じゃあしっかり頼むぜ。俺もマドカのオマンコ沢山舐めてやるから。舐めっこしよう。な?」
「うんっ!」
若干の幼児退行とも思える受け答えをし、マドカは緩み切って笑顔で嬉しそうにペニスを口内へ迎え入れるのだった……。
「で、これはどういう事だ?」
午前七時。一夏の部屋を訪れた箒は呆れたようにそう言って一夏の背に隠れるようにしているマドカを見た。
「その、つい……」
「一夏、お前は以前私達に言ったはずだぞ。新しく迎えた相手へ夢中になり過ぎないようにすると。それでこれか?」
「一夏兄は悪くない。求めたのは私だ」
「い、一夏兄? 一夏、これはどういう事だ? まさか、その子を妹にするとか」
「ああ、そのつもりだ」
「なっ……そうか」
一瞬驚く箒だったが、一夏の表情と雰囲気、そしてマドカの雰囲気から何かを察してそれを受け入れる事にした。
そこには束から聞いたマドカの事実の一部も影響している。自然な形で生まれていない事や、織斑姉弟とは引き離されて育った事などだ。
(一夏はラウラやクロエと彼女が重なって見えているのだろうな。だから、自分の妹として扱って家族の温もりを教えてやりたいのだろう。それに……)
チラリとマドカを見て箒は改めて思うのだ。
(あの子は千冬さんに似ている。一夏の奴、今は千冬さんに出来ない事を彼女にぶつけているのかもしれない)
既に体の関係を持った事はマドカの態度から明白。ある意味近親相姦だが、もう箒は姉と共に一夏に抱かれている時点でまともな倫理観を放棄している。
故に一夏とマドカの関係についても煩く言うつもりはない。ただ、これだけは一夏に正妻的立場から言わねばならないと思って口を開く。
「だが一夏、ちゃんとその子を室に迎える事をみんなへ告げてこい。私はここに残って彼女へお前の女性関係に関して話をしておく」
「うっ……わ、分かった。悪い箒、マドカの事頼む」
「一夏兄……」
若干申し訳なさそうにしている一夏へ、マドカが微かに罪悪感を覚えたのかそっと抱き着いて名を呟く。
するとそんな彼女へ一夏は安心させるように笑みを浮かべて優しく頭を撫でた。
「大丈夫だ。箒は優しくていい女だ。それに、俺の奥さんの一人でもある」
「奥さん……?」
「まぁ、今のお前と同じ立場で構わない。要するに一夏と肉体関係にある者だ」
「そうか……」
「ある意味マドカの先輩だ。その、本当は色々と話をしたいけど、悪い」
「いやいい。一夏兄にも事情があるんだろう。私はこいつと話をしてるから」
「ありがとな。それと、こいつじゃなくて箒だ。そういう呼び方、あまりするな」
優しくもしっかりと釘を刺す一夏に箒が微笑みマドカが苦い顔をする。
そして軽くシャワーを浴びて一夏は着替えると部屋を出て行った。
ドアが閉まったのを確認すると、箒はロックをかけて小さなため息と共にベッド近くへと戻る。
「……そこまで警戒する事もないだろう」
ベッドの上では、マドカがやや睨むような眼差しで箒を見ていた。
更に体をシーツで隠すようにし、いかにも威嚇しているような気配さえ漂わせて。
「一夏兄はああ言ったが、私は一夏兄以外を信頼するつもりはない」
「むしろその言葉を聞けただけで私は安心だ。優しく、されたか?」
「…………そうだと言ったら何だ」
「良かったと安堵する。実はな、一夏は子作りの際に荒々しくなる事が多くてな。そちらは処女、つまり未経験だったのだろう? ……そこであまり乱暴にされるとな、最悪の場合膣が傷付いてしまうんだ」
まず箒はマドカの心を開いてもらう事に専念した。彼女が碌な教育を受けていない事を察し、実体験した事を足掛かりに色々な事を教えていこうとしたのである。
マドカも最初こそ箒を警戒していたのだが、彼女から一夏と似たような温かい空気を感じ取り、更に親身になって女性的な事柄について聞いたり教えたりとしてもらう事で、次第に箒へも少しだけではあるが警戒心を解いていく。
やがて箒が話を一旦中断し、その場を少し離れた。
その背中が見えなくなるのを確かめ、マドカはそれまで聞いた事を自分の頭の中で整理していく。
(下着に普段着、か。今まで考えた事もなかったが、これからは必要か。それに、ここで一夏兄と暮らすとしても、裸のままというのも……気恥ずかしい)
これまでなら感じる事もなかった女性らしい羞恥心。それがやっとマドカにもたしかに芽生えたのだ。
むしろ一夏に抱かれた事で自分は女であると強く意識させられたが故の変化とも言える。
と、そこでマドカは自分の胸を見た。
「……あの女よりも小さいな」
これまでは特に気にもしなかったバストサイズ。むしろ大きい方が邪魔だと考えていたマドカだが、箒と話している間その豊かな胸部へ目が何度か向いたのだ。
(一夏兄は、私を突き上げながら何度も胸を揉んできたし、ふぇらちおをする時に胸でする方法もあると言っていた。きっと、胸が大きい方がセックスをする時には色々利点が多いのだろう……)
箒のような女性と関係を持っていればそれらも難なく出来る。そう考えたマドカは若干悔しそうに自分の胸を揉んだ。
「もう少し大きければ……っ」
そうやってマドカが自分の胸を揉んでいるのを、離れたところから箒が見て困惑していた。
「……もう少し後にするか」
その手には二人分の緑茶が入った湯飲みがある。起きてから水分をろくに取っていないマドカへ渡そうと思ったのだ。
この辺りに箒のお嫁さんとしての適性の高さが窺える。そのまま彼女はマドカが胸を揉むのを止めるまで、黙って物陰からその行動を観察し続けるのだった。
さて、マドカが箒の淹れたお茶の味が一夏が淹れたものと違っている事に驚いている頃、一夏はラウラとシャルの部屋を訪れていた。
そこには鈴達他のハーレムメンバーの姿もある。一夏がラウラ達に許可を取り、真耶と束にオータム以外を集めたのだ。
「……という訳なんだ。その、勝手な事をして本当に悪い」
女性陣に囲まれながら頭を深々と下げる一夏。そんな彼を彼女達は見つめながら一斉にため息を吐いた。
「一夏のそういうのってかなり緩いと思ってたけど、まさかここまでとはねぇ」
「本当ですわ。一夏様? 相手の事を知った上で行為を行ったんですわね?」
セシリアの呆れ混じりの声に一夏は何も言う事なく、ただ無言で頷くしかない。
「まぁ、一夏が最終的に織斑先生を僕らみたいにしたいの分かってたけど、妹分の子までなんて……」
「私はむしろ納得しているがな。見た目もあいつはきょ……先生に近い」
苦い顔のシャルとは対照的に納得顔のラウラ。その二人の言葉に一夏は若干身を縮める。
「ま、これで一夏君も決心がついたかもね」
「決心……。ま、まさか……」
「次の相手は、織斑先生、ね」
「ま、マジッスか!?」
苦笑している楯無とレインに対して簪とフォルテは驚きの表情を見せる。一夏はそのやり取りにも何か言う事はない。ただ沈黙を守っている。
「一夏さん、私達はもう一夏さんのお嫁さんです。だから一夏さんがどんどん子作りへ貪欲になっている事は知っています。ラウラ達が妊娠した以上、お相手出来る人数は減ってしまいましたし。だからこそ、教えて頂きたいんです。一夏さんは、今後どうしていきたいんですか?」
クロエのその問いかけはある意味での確認であった。どこかで彼女達は察しているのだ。
今の一夏は、かつてと違い女性が自分へ興味を示そうが示さなかろうが、気になったら手を出したくなっている事を。
一夏もクロエのその問いかけに自分の中に生まれている欲望と向き合った。
(俺は……オータムにフェラさせた辺りからもう少しでも意識している相手を抱きたいと思い出してる。正直のほほんさんだって、そうしたいと思わない訳じゃない。でも、無理矢理は……)
一夏の中にある良心がレイプはダメだと言い続ける。ただ、それも結果がそうなったら、だろう。
何故なら、実際は無理矢理に近い形で抱いたオータムがいるからだ。
つまり、結果的に相手も一夏に抱かれた事を喜んでしまえば、受け入れるようになってしまうのなら、今の一夏は切っ掛けはレイプでも構わないと判断する。
もうそれぐらいに彼の倫理観は変質しているのだ。でなければ遺伝学上は兄妹であるマドカを、何の疑問も不安もなく抱く事など出来ない。
それだけでなく、実の姉として長年慕ってきた千冬さえも女として意識し、尚且つ子を産ませたいなど思うはずもないのだから。
「正直言って、今の俺は変だ。実の姉の千冬姉を抱きたいってだけでもおかしいのに、子供を産ませたいって思ってる。それだけじゃない。下手をしたら、俺が異性として興味を持った相手さえもだ。それぐらい、今の俺は危ない」
どこまでも冷静に一夏は自分を分析した。
どうしたい、ではなくどうしたいと思い出しているかを語ったのである。
「危ない、か。ダーリンらしい表現ね」
「い、一夏君って性欲凄いッスからね」
「言っておきますが、一夏様も私と関係を持った頃はここまでではありませんでしたのよ?」
「凄くなっていったのは、やっぱりラウラと関係を持った辺りかな?」
「かもしれないな。そうか。一夏は自分へ反発する女を抱く程凶悪になっていったのかもしれん」
その瞬間、全員が納得するような声を上げる。一夏本人さえもそうだったのだ。
まずセシリア。彼女もやや無理矢理に切っ掛けを持った。次にラウラ。無理矢理ではないが最初は自分へ反抗的な態度を見せた相手である。
刀奈やオータム、最近ではマドカもそうだ。一夏の状態が攻撃的になっていった背景には、肉体関係となった女性達との関わり方があったのだ。
「じゃあ、もし一夏が千冬さんと関係を持ったら……」
「反応次第では、一夏さんは今以上に性行為の際は攻撃的な性格となるかもしれません」
「それこそ自分がいいなと思った女性を無理矢理襲って、おちんちんで屈服させるようになるのか」
ラウラの意見に誰もがその想像をし、揃って同じ結末を浮かべる。
「……正直一夏なら、スタートが強姦でも終わった時には和姦にしそう……」
「実際私はそうでしたから何も言いませんわ。それぐらい、一夏様とのセックスは素晴らしいですもの」
恍惚の表情で告げるセシリアだが、それを否定出来る者は誰もいない。
何せここにいる全員が一夏との行為で女としての幸せを叩き込まれ教育されているのだから。
女尊男卑となってきている世の中である事を踏まえればかなりの反発を喰らう状態ではあるが、それさえも今の一夏ならば黙らせる事が可能である。
残念ながらいくら理性があるとはいえ、元々人間も本能で動いていた動物である以上、その体と本能で屈服させられる事には抗えないのだから。
と、そこで一夏の腕にある待機状態の白式から音が鳴る。
「どうした?」
『一夏か? そろそろ朝食を食べに行かないと不味いと思ってな』
「あっ、ホントだ。もう八時になるよ」
『シャルロットの声? そうか、あの二人の部屋にいるんだな』
「ああ。箒、マドカはどうしてる?」
『それもあって連絡を入れた。さすがに食堂に連れて行くにも制服でないと怪しまれる』
「それでしたら、私が行動を共にする事で誤魔化せます。学園側へは後で束様にお願いすればいいでしょうし」
クロエの思わぬ助け舟に一夏達が驚きながらも、彼女の元々を知っている者達はその変化に笑みを浮かべた。
今のクロエはしっかりとした感情があり、人間らしい機転や狡賢さも得たのだから。
こうして一夏はクロエと共に部屋へと向かい、残りは食堂へ向かって席を確保する事となった。
一夏とクロエが部屋近くまで行くと、もうそこには箒と一夏の物であるTシャツにジーンズ姿のマドカが立っていた。
箒がやったのか、髪型がどこか千冬を連想させる状態ではなく髪飾りを使って印象を変えていたのだ。
「悪い箒。待たせたか?」
「そうでもない」
「一夏兄、服を借りている」
「別にいいぜ。箒、マドカの格好の事なんだけどさ」
「分かっている。近い内に買いに行った方が良い。ただ、応急処置として放課後にでもみんなの中で背格好の似ている者達から何点か借りておこう」
「そうだな」
まるで家出してきた旦那の妹を挟んで行われる夫婦の会話である。
それだけでマドカも直感的に箒がどういう立ち位置かを察した。
(この女が一夏兄の一番か……)
そう思った瞬間、チクリと胸の中に痛みが走る。
それにマドカが不可解な表情でそっと胸へ手を当てた。生まれて初めての異性愛から生まれる心の痛みである。
だが、マドカがそんな事に気付くはずもなく、怪訝そうな顔で首を傾げるのみ。
「一夏さん、箒様、まずは食堂へ」
「そうだな。クロエ、マドカ、手を繋ごうか」
「はい」
「分かった」
「では一夏、私は先に行っている」
「おう」
マドカとクロエの二人と手を繋ぎ、歩き出そうとしたところで一夏はある事に気付いてマドカへ顔を向ける。
「マドカ、その髪型も似合ってるぞ」
「そ、そうか……」
「一夏さん、お早く。時間があまりありません」
「そうだった。よし、ちょっと急ぐぞ」
軽く走り出す一夏に合わせてクロエとマドカも走り出す。その姿は男女と言うよりはまさしく兄妹のようであった……。
「お~、可愛くなったね」
授業中となり、マドカは一旦クロエに連れられてラボへと戻ってきていた。一夏が難色を示したが、クロエが責任をもって預かると言ったので折れたのだ。
マドカの髪に付けられた髪飾りが愛する妹のである事を察し、束は満足そうに笑みを浮かべる。
だが、そんな彼女へクロエが一歩歩み出た。
「束様、一夏さんから言伝を預かっています」
「いっくんから?」
「はい。マドカ様は今後自分の手元に置くからと」
「あ~、やっぱいっくんは束さんに対して怒ってるんだぁ」
「はい。マドカ様の事については信頼しないと」
「まーちゃんの事については、ね。いっくんらしいや」
自分を全て信じないのではなく、マドカに関してと言い切る辺りに一夏らしさを感じて束は苦笑する。
「それで、マドカ様に関して学園側へ説明をお願いしたいのです」
「はいはい。いやぁ、くーちゃんが束さんへお願いなんて感慨深いよー。うんうん、任せておいて。しっかり説明しておく。まっ、ちーちゃんならすぐに気付いてくれそうだしね」
言うが早いか、既にどこかへアクセスすると同時に千冬と真耶へメールでの連絡を入れ始める束。
その作業を眺め、マドカは束へ意外そうな表情を向けていた。
(あんな顔をするのか、こいつには)
クロエの変化を嬉しく思う束の表情は、マドカには想像も出来ない程優しいものだった。
だが、どこかで似た表情を見た気がしてマドカは記憶を探る。するとすぐに出てきた。
(あの女の顔だ……)
起きてから初めて取った水分だった箒が淹れたお茶。その美味しさに驚き、おかわりを自分が要求した時に見せた顔だと思い出したのだ。
そこからマドカは気付く。箒があの時自分へどんな気持ちを抱いたのかを。嬉しく思ったのだろうと。
「で、まーちゃんはいっくんとどうなっていきたい?」
「どう……?」
箒から向けられていた愛情のようなものにマドカは複雑な気持ちとなっていたところへ、束から問いかけられる今後の身の振り方。
一夏とどうなりたいか。それはそのままどう生きていくかに繋がる。
これまで亡国機業の一員としてしか生き方を選べず、また教えてこられなかったマドカにとって、その問いかけはこれまで突きつけられたどんなミッションよりも難しいと言えた。
「…………一夏兄は、私に家族となってくれと言ってくれた。だから、私は一夏兄の家族でいたい」
「おおっ、いっくんらしいなぁ。ふんふん、じゃあじゃあ、まーちゃんはどうやっていっくんと支え合っていく?」
「支え合う、か……」
束の問いかけは一種のカウンセリングも兼ねていた。
戦災孤児ではないが、それに近い部分があるマドカへおぼろげにだが傭兵以外の生き方を、戦う事以外の生き方を見つめさせようとしていたのだ。
ぼんやりとマドカは考える。これまで自分がしてきた事の中に一夏の役に立てる事はないかと。
(……IS、関係しかないだろうな)
既に一夏と直接対峙して敗北した以上、自分が技術として教える事などない。ただ、これまでの経験から実戦的な助言や傾向に対策は教えられる。
そう結論を出してマドカは小さく頷いた。その表情に束は小さく目を見開き、クロエは軽い驚きを見せた。
「ISに関係する事で一夏兄の役に立つ。世界で唯一の男性IS使用者だ。今後も様々な形で狙われるだろうし、護衛も兼ねる」
「それはいいけど、護衛はいっくんが嫌がると思うよ? まーちゃん、妹だもん。束さんもほーきちゃんが同じ事言ったらそれは止めてって言うもん」
「私もラウラがそう言ってきたら気持ちは嬉しいですが遠慮します」
「そういうものか……」
姉二人の言葉はマドカには説得力を感じさせる。何せ彼女は世間を知らないに近い。
ずっと閉じた世界で生きていたのだから当然なのだが、それ故に実際に姉をしている二人の一致した意見というのは無視できないものだった。
「とりあえず、まーちゃんはもっと色んな事を知るべきだね」
「はい。私もそう思います」
「だがどうやって知ればいい?」
「まずはいっくんやその周囲の人とお話する事かな?」
「話?」
「それがいいかと。私も皆様から色々な考えや知識を教えて頂きました」
マドカが二人との話で少しずつ世間へ関心を抱き始めている中、そこから少し離れた個室と呼ぶのが憚られる場所では……
「聞こえてるかスコール。エムの奴、すっかり更生して生きてくみたいだぜ?」
視界を塞がれ、口枷をはめられ、耳だけ聞こえるようにされた全裸のスコールがオータムによる攻めでその性的欲求を焦らしに焦らされていた。
(そんな……あのエムが更生!? 一体織斑一夏と何があったと言うの!?)
「あーあ、しかも一夏の奴を一夏兄だと。すっかり気分は妹ってとこか」
(妹?! そんな、まさか自分の事を話したと言うの? それを、織斑一夏は受け入れて兄妹になったとでも?)
未だこの状況からの脱出を諦めていないスコールであったが、聞こえてくる内容はそんな彼女を嘲笑うかのようなものばかりだった。
そこへ独房と化した隔離部屋のドアが開く音がスコールの耳に聞こえてきた。
「スコール」
「っ!?」
「おう、エムじゃないか。どうした?」
姿を見せたのはマドカだった。彼女はあられもない姿のスコールをどこか憐れな眼差しで見つめると、オータムへ視線を移した。
「どうするつもりなんだ、そいつは」
「ん? ああ、博士の実験台だ。それにしても、いい顔するようになったな」
そう言ってマドカへ笑みを向けるオータムは箒が見せたような優しい表情だった。
それに気付いたマドカは一瞬息を呑む。そしてすぐに気付くのだ。
「お前も、一夏兄の女か」
「ま、そういうこった。それで、用件はそれだけか?」
「……スコール、私はもうエムじゃなくなった。これからは織斑マドカとして生きていく。家族が、好きな男が出来た」
「へぇ」
「おかげで目が覚めた。これから私は人間として生きていく。これまで生きる術を叩き込んでくれた事は感謝してやる。これでお前とはお別れだ」
その言葉を聞いてオータムは感心するような表情を見せた。
以前であればきっと何らかの感情を見せる事もなかっただろう内容へ、薄っすらではあるが憐憫の情をマドカは見せていたのだ。
(どうやら一夏の奴、エムを、いやマドカを見事に女へ変えたみたいだな。あの鉄仮面がこんな顔するとはねぇ)
背を向けて静かにドアを閉めるマドカへ感慨深いものを覚えながら、オータムはスコールの耳元へ顔を寄せてこう告げる。
――エムはマドカになった。さて、お前はどうなってくれるんだろうな、スコール。それとも、そもそも期限が来てこの世とお別れか?
その言葉にスコールは何か反応する事もなく沈黙を守る。ただ、そのヴァギナからは透明な液体が静かに流れた……。
「何故だ?」
放課後、職員室に一夏の姿があった。その目的は姉である千冬へある事を頼むためだった。
「だから、俺と試合をしてください」
「それは分かっている。私が聞きたいのは、どうして試合をしなければならないのかだ」
凛々しい表情で自分を見つめる一夏に体の熱が急上昇するのを覚え、千冬は内心の動揺を抑えながら必死に平静を装っていた。
「今の俺の決意と覚悟を織斑先生に、千冬姉に分かってもらいたいからです」
「私に、決意と覚悟を、だと?」
「織斑先生、受けてあげたらいかがですか? きっと一度受けないと延々お願いされるやつですよ、これ」
それとなく一夏の援護をする真耶。だがそれが事実と言うように一夏は千冬へ小さく頷いた。
千冬も入学してからの一夏の様子がその前と明らかに異なっている事を分かっているためか、それも含めて直接探りを入れる事にした。
「仕方ないな。なら、明日の放課後だ。それでいいな?」
「はい、ありがとうございます」
深々と一礼し、一夏は凛々しい表情のまま職員室を後にする。
その背を見送る千冬だったが、ある事に気付いた真耶がそっと彼女の耳元へ顔を寄せた。
「織斑先生、そんなに熱っぽく弟さん見つめちゃダメですよ?」
「っ?!」
「ふふっ、たしかに今の織斑君、男らしい表情してましたもんね。並の男性よりも頼もしい感じですし、将来性も申し分ない。これは社会に出たら女性が放っておかないですね」
「……かもしれませんね」
真耶の告げた最後の言葉が千冬の中で何度も繰り返された。
社会に出たら女性が放っておかない。既に学園で一夏はそうなりつつあるのを千冬は知っているのだ。
箒達専用機持ちのほとんどが一夏の周囲へ侍り、明らかに周囲とは異なる扱いを受けている。
さすがに千冬も彼女達全員が一夏と男女の関係とは知らないが、単なる同級生や先輩後輩関係ではない事は気付いていた。
(このままだと一夏は卒業と同時にあの中の誰かと……。いや、そうでなくても束の奴が逃がさない、か……)
そう思った時千冬の中にこみ上げる寂寥感。ただでさえ一夏が入学してから関わりが薄くなり、あの臨海学校以降それと反比例するように千冬の性欲は強まる一方なのだ。
身体面と精神面両方からの一夏不足。それが千冬の不安感を煽る。
知らず女として熟成させられてしまった千冬。それがよりにもよってある意味で最悪のタイミングで一夏と接触する事となった。
その後千冬は体の疼きと戦いながら何とか業務を終えて帰路へと就く。
その頃、一夏と言えば……
「うん、分かった。じゃあ制服だけは用意しておくね」
「ありがとう真耶。マドカ、お前からもお礼を言うんだ」
「あ、ありがとう」
真耶を自室へ招きマドカの事について相談をしていた。
今のマドカは周囲には一夏の親戚で束の助手と言う形で通している。
それでも真耶へは真実を教えておこうと考えた一夏は、こうしてやってきた彼女へ何故マドカがここにいるのかに始まる話をしていたのだ。
「どういたしまして。それにしても、二度も学園を襲撃した子が一夏君の妹さんとはね。大変だったね」
「……そうでもない。そのおかげでこうして一夏兄に会えて家族が出来た」
一夏の左隣へ座りそっと彼の胸へ顔を埋めるマドカ。その様子は完全に甘える彼女そのものである。
真耶はそれを見て微笑ましく笑みを浮かべると、負けじと一夏へもたれかかった。
「一夏君、それで今夜はどうするの?」
「エロい事はなしにしておく。真耶はもう一人の体じゃないから」
「そっか」
嬉しそうに笑い、真耶は一夏の心遣いに感謝するように頬へ口付ける。
ただ、その会話を聞いていたマドカが不思議そうな顔で二人を見つめた。
「どういう意味だ?」
「真耶は俺の子供を身籠ってるんだ」
「子供……」
「そうなの。つまり、今は貴女の義姉さんかな?」
「ねえさん……」
「ちなみに箒さん達もだからね。一夏君、その辺りはもう?」
「軽く。ただ、俺としてはマドカは妹だけど奥さんって扱いだから」
言いながらマドカの体を優しく抱き寄せる一夏。その行動にマドカが顔を弾かれるように上げた。
真耶はその反応に小さく笑みを浮かべ、マドカへこう助言した。
「マドカさん、お兄さんにありがとうって言って頬へキスしてあげたら喜ぶよ?」
「ちょ、真耶?」
「……い、一夏兄、ありがとう。チュッ」
顔を少し赤くしながらのマドカによる口付け。まさかの行動に一夏は驚きつつ、その愛らしさに微笑みマドカの頭をそっと撫でた。
そこだけ見れば本当に仲の良い兄妹だろう。だが彼らはとうに性交を経験しているインモラルな関係なのだ。
「マドカさん、一夏君を喜ばせる事、もっと教えてあげようか?」
その問いかけにマドカは一夏の事を見上げる。どうしたらいいと問いかけるような表情で。
(ここは真耶にマドカへ色々教えてもらうか……)
箒と二人きりにしてからマドカの態度が軟化している事を感じ取り、一夏はそれを変えたくないと思って小さく頷いた。
それにマドカも小さく頷き返し、真耶へ顔を向けて頷いてみせる。
「うん、じゃあ早速教えるね。とは言っても簡単だよ。好きって、そうちゃんと告げる事。目を見つめてそう言うだけ」
「……それだけか?」
「でもマドカさん、それやった事あまりないでしょ?」
痛いところを突かれマドカは無言で俯く。行為の最中ならばあるのだが、極度の興奮状態でなければまだそういう事が出来ないところにマドカの可愛らしさがある。
「実際に今から私がやるから見てて。一夏君がそれでどんな反応するかも含めて」
「……頼む」
「一夏君、大好きだよ」
「俺もだ、真耶。愛してる」
「んっ……」
互いに抱き合うようにしながら想いを述べ合い、最後にはキスをする二人。
その光景を見たマドカは思わず真耶を突き飛ばしていた。
あまりの事に一夏は一瞬目を見開いて反応が遅れるものの、すぐさま表情を険しくしてマドカの事を睨んだ。
「マドカっ!」
「っ!? そ、その、何か嫌だったんだ」
「べ、別にいいよ。でもマドカさん、今後は今みたいな気持ち、抑えないとダメだよ? 一夏君には両手で足りないぐらい奥さんがいるって事、忘れないで」
「マドカ、その気持ちは嬉しいけど真耶の言う通りだ。それが出来ないなら、俺はマドカと距離を取らないといけない」
苦笑する真耶とつり目の一夏。例えるならこれも兄夫婦から怒られる妹だろう。
マドカは初めて見る怖い表情の一夏に息を呑みつつ、真耶の言葉をゆっくりとではあるが受け入れて頷いてみせる。
今の彼女にとって一夏に捨てられる事はこの世の終わりにも等しいからだ。
「大丈夫だよ。嫉妬しちゃダメじゃないから。ただ、その気持ちは一夏君へのアプローチへ変えるの。さぁ、さっきの私みたいにやってみて?」
「……一夏兄が怒っているんだが」
「怒ってるからこそ目を見て気持ちを伝えるの。さっ、ごめんなさいと大好きって言ってみて?」
マドカの両肩へ手を置いて優しくその不安と恐怖を和らげる真耶。その言葉に後押しされるようにマドカはおどおどしつつ一夏の目を見つめた。
やや怒りを宿したその目につい目を逸らしたくなるマドカだが、両肩に感じる温もりが大丈夫と背中を押してくれているように感じ、彼女は意を決して告げた。
「い、一夏兄っ、ごめんなさいっ! それと、だ、大好きっ!」
恥ずかしがりながらも一度として目を逸らす事なく告げた言葉に、一夏の返答は言葉ではなく抱き締めての囁きだった。
「よく謝れたな、偉いぞマドカ。俺も大好きだぜ」
「っ! 一夏兄ぃ……」
安堵するように一夏へ抱き着くマドカ。そんな彼女を見て真耶は一夏へ微笑みかけて口だけ動かした。
――この女ったらし。
その言葉を理解し、一夏は苦笑しながら口だけ動かす。
――真耶達のおかげだ。
しっかりと言い返した一夏へ真耶も苦笑するしかなかった。
そのまま真耶はマドカの教育を行うように一夏と共に人の温もりを教え続けた。
長きに渡り孤独だったマドカの心を少しずつ溶かしていくように。
丁度それと時を同じくして、ラウラとシャルの部屋に箒達学生組が勢揃いしていた。
当然マドカについて話し合うためである。
「で、箒から見たあの子はそんな感じって事ね」
「ああ。昔のラウラよりも酷いと思う。ただ、亡国機業での日々を気に入っていた訳ではないようだ。だから、周囲への適応はラウラよりも早いかもしれない」
今朝のお茶のやり取りを思い出しての箒のマドカへの感想は、不器用でやや警戒心の強いノラだった子猫。
その評を聞いた全員が朝に見たマドカとイメージを一致させて頷いた。
朝食時も一夏の傍を離れようとせず、自分達へ警戒心を露わにしていたのだ。
「ですけど、思っていたよりは大人しかったですわ」
「そうね。ダーリンの傍を死守する以外は特に目立った動きはなかったし」
「ただ、それが一番の問題と言えば問題なのよねぇ」
楯無の言葉で一斉にため息が漏れる。この集団はこれまで一夏への独占行為は起きてこなかった。
その背景には、一夏との関係の持ち方が大いに関係している。
誰一人として例外なく一夏の雄としての強さに屈服し、力関係として下になった事がまず一点。
次に彼の性欲を一人では受け止めきれないと分からされたのが一点。
最後に、一夏を独占しようとすると他の女性達から集団で排除されるという事を恐れるというのがある。
だが、マドカはその最後の部分への恐怖が分からないのか、あるいは恐怖に感じていないのだ。
それは集団生活を送ってこなかったマドカならではの問題と言えた。
「どうするのよ、あれ。このままだとあいつ、ずっと一夏の傍にいるわ」
「箒、何か手はない?」
「私の意見を言う前にラウラや楯無さんの意見を聞いておきたい。軍隊ならこういう時どうするのか。生徒会という学生達を統率する組織ならどう対処するのかを」
指名された二人はならばと意見を述べた。
「簡単だ。集団の中で孤立する恐怖を実際に教え込む。言って分からないなら体験させるのが手っ取り早い」
「単純にして明快な意見ッス」
「お姉ちゃんは?」
「私はそうねぇ……。この場合は私達がどうこう言うより一夏君にお願いする方がいいと思うわ。あの子が素直に言う事を聞いて受け入れるとしたら彼が一番でしょ?」
「あたしも賛成。一夏もさすがにあたし達より新入りを優先するとかないでしょうし」
鈴の言葉にフォルテとレインが若干ではあるが微妙な顔をした。
何せ彼女達はマドカが加わるまで一番の新顔だった。
その加入の際、一夏に激しく愛された事があり、それが原因で彼は箒達からきつく叱られているのだ。
「一つだけ私達からいい?」
「何だろうか?」
「その、一夏君はあの子を妹って言ってたッスよね?」
「読めたぞ。今の一夏ならそんな扱いをしていれば興奮度合が高いと言いたいのだな?」
ラウラの意見にレインとフォルテが揃って頷いた。
何せ元々同性で愛し合っていた二人をものにした時も一夏は夢中になったのだ。
ならば積年の想いを募らせた姉によく似た妹扱いの相手に、どうして興奮せずにいられようか。
そんな二人の想像に誰も反対意見は出せなかった。それだけ今の一夏は誠実という言葉の正反対に位置していたのだ。
「……そろそろ真耶さんの時間が終わるな」
そんな中でポツリと箒が告げた言葉は、全員の耳へ妙に重く響いた。
「どうだろう? ここは私達だけでも一夏の本音と今後のマドカの扱いを聞いておくのは。そこで一夏に迷いや躊躇いが見えれば見えたで対応を考え、見えなければ見えないで対応を考えよう」
「「「「「「「「異議なし」」」」」」」」
正妻たる箒の意見にその場の意見は決まり、彼女達は揃って一夏の部屋へと向かう。
それは、さながら大奥の中を練り歩く女性達のようだった……。
「こんな時間に誰だ……?」
真耶を見送り、マドカにシャワーを勧めた一夏は、聞こえてきたノックの音に首を捻りながらドアへと向かう。
ロックを解除してみればそこには箒達の姿。さすがにそれは予想外だったのか一夏も驚きで目を瞬かせる。
「ど、どうしたんだみんなして」
「一夏、話がある。大事な話だ」
有無を言わせない箒達の雰囲気から一夏は何となくその話を察したのだろう。諦めるように頷き、彼女達を室内へと招き入れたのだ。
室内には箒達が予想していたような匂いはなかった。たしかに微かな情事の匂いはあるが、それは奥のベッドに染み付いたものだと分かったのである。
「話って言うのはマドカの事だろ?」
「そうだよ。今、あの子はシャワー?」
「ああ。寝る前に浴びるように言ったところだ」
その言葉に鈴の目が鋭くなる。
「まさかそれからエッチしようと」
「それはない。えっと、信じてもらえないかもしれないけど、俺はこの部屋にマドカを置く間はもうそういう事はしないって決めたんだ。真耶にもそう言ったらそれがいいって賛成してもらえたし」
まさかの返事に鈴だけでなく箒達全員が小さくない驚きを浮かべた。
その反応を読んでいたのか、一夏は特に驚く事もなくむしろ納得するように苦笑するとこう切り出したのだ。
「実は、明日の放課後、千冬姉と試合をする事になった」
絶句。それが箒達の反応だった。一夏の表情は特に気負ってさえなく、いつも通りと言う雰囲気だ。
「それもあって、千冬姉との試合が終わるまでは誰が相手でも禁欲だ。まぁ、そうは言っても箒達へはたった一日だけどな」
「ち、千冬さんと試合か。勝てるのか?」
「さあな。でも、勝たないといけない。きっと、勝っても負けてもこの一度きりだろうから」
しかし、そう告げた時の一夏の雰囲気は違った。意気込みというか、雄々しさがにじみ出ていたのだ。
必ずこの機会を掴んで見せるというような気概のようなものが。
「で、その試合前に俺の現状を全部ぶちまける。きっとそうなったら千冬姉の事だ。俺を叩きのめして修正しようとするだろう。それぐらいの、本気の本気な千冬姉じゃないと戦う意味がない」
「い、一夏君らしい……」
「ホントッス。でも、普通なら絶対に勝ち目がないって思うはずなのに、どこかで一夏君ならって思うのは何なんッスかね?」
「ダーリンの持つ雰囲気じゃない? なんたって初めての私達との試合でも、あれだけの無茶をやって勝ってるぐらいだし、ここぞって時には必ず結果を出してくれるって私は信じてるもの」
今や一夏の女となり、彼へ全幅の信頼を置いているレインらしい言葉だった。
そしてそれはその場にいる全員の言葉でもある。
これまでここぞと言う時は必ず一夏は結果を出してきた。負けてはいけない時、勝たねばならぬ時、必ず彼はその持てる力と運全てを使って望む結果を掴んできたのだから。
「一夏兄、シャワー空いたぞ……っ」
そこへ髪をバスタオルで拭きながらマドカが現れる。室内に大勢の人間がいる事に驚く彼女だったが、それもすぐに消して何食わぬ顔で手前のベッドへ腰かけた。
「何故こんなに大勢いる? お前達にはお前達の部屋があるのだろう」
「っ! あんたねぇ!」
今にも掴みかかりそうな鈴をそっと箒が制止する。
「マドカ、お前が一夏以外を信頼出来ないのは分からないでもない。だが、これだけは言っておく。きっと真耶さんも言ったはずだろうが、私達は同じ立場だ。一夏を愛し、大事に思っている。そして私達がいがみ合い争えばどうなるか分かるはずだ」
「……ああ、真耶から聞いた。一夏兄にも言われた。嫉妬するのはいいが、それを相手へぶつけるなと。嫉妬の気持ちは一夏へぶつければいいともな」
「あら、意外と素直ね」
楯無の言葉に頷く者はいなかったものの、内心では全員が同意見だった。
どこかふて腐れながらもマドカは箒の目を見てたしかに頷いてみせたのだ。
「真耶が言っていた。もし一夏兄を私が独占しようとすれば、まず間違いなく一夏兄はそんな私と距離を取ると。家族が出来ても、最愛の相手はいなくなる。それでも良ければやってみればいいとも」
「うわっ、真耶さんらしいや」
「何と言うか、最近の真耶さんは思考が中々過激ですわ」
そう、千冬と密かに肌を重ねて以降真耶はその思考がかなり攻撃的となっている。
とはいえ、それは特定の状況下であり普段は今まで通りの思考をしているのであまり気付かれてはいない。
「それで、お前はやってみようとは思わんのか?」
「やらずとも分かる。無理だ。一夏兄は私よりも少しだけ、いや他の誰かよりも少しだけ扱いを上にしてる奴がいる」
そう言ってマドカは箒を睨むように見つめた。
その視線に気づき、誰もが箒へ視線を向ける。箒は、困ったように笑みを浮かべていた。
「それについては、私が一夏の初めての女だからだ。それ以外に」
「十分だろう。私は初めて一夏兄に抱かれた時の事を忘れられない。一夏兄もきっと同じだ。なら、それは十分過ぎる程の違いだ」
それも、今まで誰も口にはしなかった箒だけが持つ優位性だった。
一夏もそれには異論がないのか黙っていた。
「だが、ある意味でお前で良かったとも思う」
「私で良かった……?」
マドカの言いたい事が分からず小首を傾げる箒だったが、そんな彼女へマドカはやや拗ねるような表情を見せるとこう告げたのだ。
「私へお前は優しくしてくれた。何も聞かず、ただ体の事を労わってくれた。一夏兄と同じだ。そんなお前だから、きっと他の奴も受け入れている。お前は一夏兄の初めてだった事を自慢にも思っていない。勝ち誇る事もない。そして、他の奴が一夏兄の女になる事を拒否しない。そんなお前が一夏兄の初めてだったから、最初に抱かれたから、私は今こうしていられるんだと……思う」
言い終えるとマドカは静かに立ち上がり、箒の前へと歩み寄った。
しばし見つめ合う二人。すると、マドカが若干戸惑いつつも箒へこう言ったのだ。
「色々と迷惑をかけるだろうが、よろしく頼む……箒」
「……ああ、分かった。何か疑問や分からない事があれば遠慮せず聞いてくれ」
箒の言葉に小さく頷き、マドカは周囲へも顔を動かした。
「そちらも何か私が間違った事をしたり、言葉を使った時は教えてくれ。一夏兄にあまり迷惑をかけたくない」
「マドカ……」
口調こそ変わらないが思考は大分変わってきた。そう感じて一夏は微笑む。
鈴達はマドカの様子からかつてのラウラを、楯無達はオータムを思い出して笑みを浮かべながら頷いた。
こうしてこの日は終わる。箒達は一夏とマドカを信じてそれぞれの部屋へと帰り眠りに就く。
マドカも一人で手前のベッドで寝ようとしたのだが……
「これはいいのか、一夏兄」
「箒達も妹と一緒に寝ちゃダメなんて言わないだろ」
気付けば一夏が傍にいて、抱き締められる形となっていたのだ。
「それに俺は嬉しかったんだ。マドカが箒達へ自分からあんな事を言ってくれて」
「一夏兄……」
そう言ってマドカを見つめる一夏はまさしく兄の顔だった。
その優しい表情にマドカも嬉しそうに笑みを浮かべ、一夏の胸へ顔を埋めるように密着する。
「一夏兄、一つだけ確認させて欲しい。私は、妹で嫁なのか?」
「ああ、そうだな。嫌ならいいぜ」
「……いや、それがいい。その方が一夏兄も興奮するようだし」
「こいつ」
じゃれ合うようなやり取りをし、二人は笑って互いを抱き締め合う。
やっと出会えた家族の温もりを、手放すまいとするかのように……。
気付けば真耶が思わぬ方向へキャラ変化していました。
ただ、彼女の場合切っ掛けがあれば千冬へ危ない愛を向けていそうだからアリ、なんですかね?
次回はいよいよ彼女との一戦。とはいえ、メインは当然……(汗