「織斑一夏、私と勝負しろ」
シャルの正体と目的を知ってから二日後の朝、教室で一夏を待っていたのはラウラによる宣戦布告だった。それは、ある意味では一夏にとっていつもの流れである。セシリアや鈴ともそうなったためだ。
「……理由は?」
「これならば教官に文句は言われない」
「つまり合法的に俺を痛めつけたいって事か」
「それ以外に聞こえたか?」
「ない。だからこそ俺に受ける意味がない」
あっさりと告げる一夏にラウラは少しだけ目を細めた。予想外の反応だったのだろうか。その表情に微かに感情の色が見える。
「逃げるのか?」
「ああ、必要ないなら逃げるさ。俺はISに関しては何せまだ初心者だし、専用機持ちの相手と戦うなら負けが濃厚だ。しかもその相手が俺を痛めつけたいと言ってる。これで受ける奴はただのマゾだ」
「ほう、冷静で的確な分析だ。そういう意味では教官の弟らしい。だが、勝負から逃げるのは男らしくないな」
「好きに言ってくれ。無駄な戦いをするのは、俺からすればただのバカだ。例えそっちに見下されてもいいし、周囲が腰抜けとか臆病者と思ったっていい。大事なのは、必要な時にちゃんと戦えるかどうかだ」
「っ……ならばどうすれば戦う!」
その瞬間、一夏は悟る。ラウラはどうあっても自分へ痛みを与えたいのだと。それぐらい恨みや憎しみを抱いている。故に彼が思いついた反論は簡単だった。
「逆に聞く。どうすれば戦わない?」
「っ! 貴様が教官の汚点を作った以上、戦わないという選択肢はないっ!」
「それは、第二回モンド・グロッソの事か?」
「以外に何がある! 貴様さえいなければ」
「俺がいなければ千冬姉はモンドグロッソで連覇を達成しただろうな。ただ、ドイツに行く事もないからお前に会う事もないけど」
ラウラの目をしっかりと見据えながらの一夏の言葉は、思った以上に彼女の心を打ち抜いた。ラウラが目を背けていた事実。それに彼は期せずして光を当てたのだ。
千冬を教官と呼んで慕うラウラ。その出会いは、彼女が憎む一夏が誘拐されなければ有り得ない。その事を指摘され、ラウラは頭の中が真っ白になった。無意識にそこを考えないようにしていたのだろう。
「……で、素人に近い俺に勝って満足するのか? いや、いっそ俺を殴れば満足してここの学生らしくなるなら、いくらでも殴られてやるよ。俺には敵意向き出しでもいいけどさ、せめて他のクラスメイトとは仲良くしようとしろって。ここは学校だ。戦場じゃない」
一度たりともラウラから目を逸らさず告げる一夏。その奇妙な迫力にラウラは気圧されでもしたのか、無言で自分の席へと向かって行った。その背中を見つめながら一夏はよく通る声で告げる。
「そっちの都合の良い日を教えてくれ。そこで一度だけ模擬戦をやろう。それで勝っても負けても何も言わないし突っかかる事も無し。それでどうだ?」
「……いいだろう」
こうして一夏とラウラの模擬戦が決まる。その日時までは不明だが、またお祭り騒ぎが出来ると言う様にクラスメイト達が盛り上がる中、箒達は苦笑していた。今ので一夏の狙いは達成されたと理解したからだ。
「一夏の奴め、上手くやったな」
「ええ。これでボーデヴィッヒさんが勝とうと負けようと意味はありません」
「ああ。……一夏の狙いはあいつの怨恨を終わらせる事だ」
「ですので、あの条件の勝負を受けた時点で一夏さんの戦略的勝利です」
「さて、ならば訓練は手を抜くか?」
「むしろより力を入れませんと。私のために、出来るだけ無様な戦いはしないと言ってくれた方ですので」
そう言って笑みを見せ合う二人。一方、シャルも二人同様一夏の狙いを読んで息を吐いていた。
(何て言うんだろ。こういうのを戦わずして勝利って言うのかな? 今ので一夏は目的を達しちゃった。模擬戦の結果に関わらず、もう一夏の目的は果たしてるんだもん。だけど……)
そこでシャルは一夏を見る。彼の雰囲気はとても負けてもいいという風ではない。
「……やるからには勝ちたい、だよね。男の子らしいなぁ」
その声には、明確な好意が含まれていた。あの夜以降、シャルは一夏の事をより注意深く観察するようになっている。それは、彼の真意を探るためだ。学園に残ればいいと言ってくれた事は嬉しく思ったシャルだったが、一夏が本当にそう思っているかはどこか不安であったために。
だが、昨日の一日で彼女は一夏が本心から自分に残ればいいと思っていると察した。何せ、一夏は建て前がない。いや、あるにはあるが、大人の世界を垣間見たシャルからすれば、それは可愛らしい程度のものだ。例の条件であった夜の話も、一夏をひっそりと観察した結果、部屋から出てアリーナの更衣室へ真耶と共に入って行くところを目撃。その理由を、彼女とは彼なりの照れ隠しで、個人授業を受けている事を誤魔化したのだとシャルは判断したのだ。それはある意味で間違っていない。ただ、授業を受けるのは一夏ではなく真耶であるのだが。
こうしてこの日も始まった。午前中の授業が終わると、一夏は箒やセシリアと共に鈴と合流。シャルは別行動を取ろうとしたのだが、一夏から誘われ彼らと昼食を共にする事に。
「食堂でご飯食べるのも久々ね」
「そうなの?」
「ああ。普段はそちらも知っての通り、別の場所で食べているからな」
「デュノアさんは少しはここでの暮らしに慣れました?」
「うん、おかげさまで」
「実際、シャルは俺よりも出来がはるかに良いからな。他のみんなとの会話だって俺には出来ないようなものばっかりだ」
サバ味噌定食を食べながら一夏は噛み締めるようにそう言った。実際、優しい性格のシャルはクラスメイト達との関係も良好で、既に箒やセシリアと特別な関係を築いている一夏よりも彼女達の人気が高かったのだ。
「まぁ、そうだろうな。シャルルは一夏よりも品が良い」
「そうね」
「よ、容赦ないね、二人は」
「いいんです。こればかりは事実ですし」
「お、オルコットさんまで」
「品が良くなくて悪かったな。これでも頑張ってはいるんだぞ」
言い争うような内容でも、彼らの顔はどこか苦笑している。そこには、心を通じ合わせている余裕があった。シャルもそんな四人の雰囲気をどこか羨ましいと思いながら眺める。すると、そんな彼女の様子に気付いたのか目ざとくセシリアが笑みを浮かべた。
「デュノアさん、どうかしまして?」
「え? あ、その、何か四人の関係が羨ましくてさ」
「どういう意味よ?」
「仲が良いからだろう。シャルルはここまで親しい相手がまだいないからではないか?」
「うん、そんな感じ」
「でしたら、私達とまずはそうなります?」
「え?」
まだ一夏以外に正体を知られていないシャルではあったが、彼の女となった三人には薄々気付かれているのだ。そう、今のシャルは一夏を女の目で見ているために。同性愛と疑わない辺り、彼女達なりに一夏の態度から察しをつけているのだろう。
これに戸惑ったのはシャルの方だ。何せまだ表向きは男で通っている。それなのに女子三人から親しくしようと持ちかけられ、どう返すべきかと答えあぐねたのだ。
(ど、どうしよう? 多分一夏の事が好きな三人だから僕へは純粋な厚意だろうけど……)
もし仮に誰かが自分へ想いを寄せ始めたら。そんな事まで心配し言葉が出せないシャルへ、一夏はどこか呆れるように助け舟を出した。
「おいおい、男が女から仲良くしましょうって言われたら勘違いするぞ。ここはきちんと言ってやれってセシリア」
「そうですわね。こほん、では私達と単なる友人よりも親しい関係になってくださいまし。で、一夏さんの事を色々と報告して頂けると」
「あ、ああ、そういう事ね。うん、それなら喜んで」
「報告って」
「あんたが部屋で何を言ってるかとか、あたし達の事を何て言ってるかも教えてもらうのよ」
「まぁ、安心しろ一夏。こうは言っているが、おそらくシャルルがその辺りは考慮してくれる。お前のためにならん事はある程度検閲してくれるはずだ」
「あ、あはは……うん、多少は諦めてね一夏」
「そりゃないぜ、シャル……」
がっくりと項垂れる一夏に四つの笑い声が起きる。その輪の中に居ながら、シャルは心地良さを覚えると同時に申し訳なさも感じていた。優しく自分を受け入れてくれる者達に嘘を吐いている事への罪悪感を……。
放課後のアリーナで一夏は新しい訓練相手を得ていた。それはシャルである。彼女もまた専用機持ちであり、しかもセシリアとも鈴とも違うタイプのISだった事もあり、仮想ラウラをやるのに適任だったのだ。
実は、ラウラのISに関しては授業で既に見ていた事もあり、セシリアや鈴ではそのシミュレーションは難しいと分かっていた。そのため、ISでの弾幕が張れるシャルが自ら協力を申し出ていたのだ。
「一夏、回避ばかりに気を取られないで。常に隙を探って攻撃してやるって気持ちを見せないと、ラウラには勝てないよ」
「ああっ!」
汎用型のISであるラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを使い、一夏の白式を攻撃するシャル。どちらかと言えば彼女のISは攻撃型ではなく防御型。攻めよりも守りに適したものとなっている。ラウラのISとの違いはそこなのだが、彼女のISが複数のワイヤーブレードで攻撃出来るために、弾幕を張れるシャルのISが仮想ラウラと見なすには最適と言えたのだ。
「……どうだ?」
「デュノアさんの技量ですか? それとも一夏さんの技術ですか?」
「両方、と言いたいが前者でいい」
「文句ないわ。あの銀髪がどこまで出来るか分からないけど、あの子よりも下って事はないでしょ。なら、最低でも同レベルか上と思って想定する方がいい」
「それ程か」
「実際、デュノアさんの腕前はかなりのものです。一夏さんのギリギリ出来るだろう部分を見極めている節も見られますし」
「あれ、きっとそうよ。あー、悔しい。あの銀髪のがもっと分かり易い機体だったらなぁ……」
「ボーデヴィッヒさんのIS……その全貌は分かりませんが、おそらく見立て通りの全距離対応のもの。であれば、私や鈴さんでは再現は難しいですわ。訓練相手としてもデュノアさんがいてくれて良かったと思います」
一夏とシャルの訓練風景を見つめながら箒達は言葉を交わす。負けても勝っても構わないとはいえ、そこは惚れた女である。出来れば一夏に勝って欲しいと思っていたのだ。ただ、その手助けを直接出来ない事は悔しかったが。
「ほう、私を想定した訓練相手を見つけたか」
そこへ現れる小さな姿。三人が振り向いた先にはラウラが立っていた。
「何? 敵情視察?」
「そうだな。必要ないとも思ったが、一応念のためにだ」
「あら、随分と慎重ですわね。勝つ自信がおありなのでしょう?」
「油断は禁物と言うしな。教官にも昔口を酸っぱくして言われたものだ。余裕と慢心は似て非なるものだと」
「そうか。それで、正直な感想を聞こうか」
「感想? そうだな……」
そこでラウラは視線を三人から一夏へ向ける。
「……本音を言えば、この春からISへ触れたと思えん技量ではある。悔しいがそこは教官の弟と言うところだろう。だが、私には勝てん」
「どうでしょうね? あんたと戦う時には今以上の成長を遂げているかもしれないわ」
「そうか。それならそれを是非見せてもらいたいものだ。そうそう。ここへ来たのはその模擬戦の日時を伝えるためでもあった。奴へ伝えておけ。模擬戦は三日後、時間は午後四時からで場所はここだと。他の者へは教えるな。あまり騒がしいのは好きではない」
それだけ言うとラウラは背中を向けてそのまま歩き出す。その背からは一夏へ負けるつもりも可能性もないという気持ちが滲み出ていた。それを感じ取りながら三人は互いの顔を見合わせる。そして無言で頷き合うと鈴が去りゆく背中へ叫んだ。
「待ちなさいよっ!」
「……何だ?」
「一夏の前にあたしと勝負しなさい。言っておくけど、一夏は一度あたしに勝ってる。あたしに勝てないようじゃ一夏にだって勝てないもの。だから、試してあげるわ!」
「いいだろう。敵の戦意を砕くのも有効な戦術だ」
セシリアと箒は鈴の考えを見抜いていた。彼女は一夏のために情報を得ようとしていると。故に彼女が挑むのだ。この中で一番一夏の戦い方に近いものがあるために。こうして訓練を中断して、鈴とラウラの模擬戦が行われる事になった。
一夏は箒達と共にその様子を見学する事となる。そんな彼も、これがどういう意図で行われるものか理解していた。
(鈴の奴、俺のために……)
直接その目で見て、模擬戦を迎えて欲しい。少しでも勝率を上げるためにと。そんな鈴の心配りを一夏は感謝しながら眼前の光景へ意識を集中する。
「ドイツの代表候補の力、見せてもらおうじゃない」
「あの程度の奴に負けるとは、中国の選考基準も大した事ないな」
「なんですってっ!」
「事実だ。国家を代表する人間が、たかがISへ触れて三か月にも満たない相手に負けるなど……無様な」
「あったまきた! その口塞いであげるわっ!」
その会話を聞きながらシャルが隣の一夏の袖を少し引っ張った。何かと思って彼が視線を向けると、彼女は小声でこう尋ねる。
「彼女って、クラス対抗戦で一夏に勝ったんだよね?」
「ああ」
「じゃ、どうしてそれを言わないの?」
「……あいつ、ああ見えて男をたてるんだよ。それに、最初にやった時に俺に負けたのは事実だしな。そういうとこで、変に律儀なんだよ鈴は」
感謝を噛み締めるように告げる一夏に、シャルは若干見惚れた。その横顔は愛する少女への想いに満ちて優しく見えたために。
(こんな顔、するんだ……)
小さく、だけど確実にシャルの心がときめく。彼女の中では、一夏は自分の秘密を知った上で黙る事を決め、それを弱みにしないために照れ隠しも兼ねて彼女がいると嘘を吐いた事になっている。男気に溢れ、だけどもどこか抜けたところもある、そんな少年。それがシャルにとっての一夏評であったのだから。
「……何という戦い方だ。肩の砲と複数の刃による攻撃とは……」
「ええ、鈴さんも攻めあぐねていますわ」
「鈴の方が力負けしてるって事かよ……」
「どちらかと言うと、力負けと言うよりは制圧力で負けてるってとこ。突破力なら鈴の方が上だから、ラウラもそれを警戒してるんだと思う」
「あの砲撃と刃の嵐は簡単には破れないが、それは一撃の恐ろしさを警戒すればこそ、か」
「そうだと思う。ラウラも鈴が自分と違って一撃必殺を持ってると読んでるんじゃないかな?」
「……アレ、か」
「ですわね。鈴さんはクラス対抗戦の優勝者。その決め手は調べればすぐです」
「龍咆……」
シャルの予測通り、ラウラは鈴の龍咆を警戒していた。それだけではない。距離を詰められる事も嫌がり、故のワイヤーブレードによる攻撃なのだ。鈴の得意な展開にはさせないと、そういう気持ちがそこからは滲んでいる。
一方の鈴も、それが分かっているが故に歯がゆさを覚えていた。無理に突破すれば負けてしまうし、かと言って切り札の龍咆を使うにはやや不味いために。
「こう攻撃がひっきりなしじゃ……」
龍咆は必殺の一撃ではあるが、それでも相手を正面から倒し切れる程の威力が常に出せる訳ではない。決めるとすれば、ある程度相手のシールドエネルギーを削ったところで叩き込まねばならないのだ。
「どうした? 最初の威勢はどこへ行った!」
「はんっ! それはこっちのセリフよ! あんたの戦い方はそれだけなんでしょ? なら、ここから反撃と行かせてもらうわっ!」
「何っ!?」
鈴は二つの青龍刀を合わせ、ラウラへと投擲した。双天牙月と呼ばれる物の用途の一つである。それがワイヤーブレードへ衝突し、火花を散らす。そしてそこへ向かって龍咆が火を噴いた。その視認出来ない砲撃は、拡散弾としてラウラを襲う。それを両肩のレールカノンで迎撃した彼女へ、更なる龍咆が襲い掛かる。そちらは必殺の一撃としての貫通衝撃砲であった。
「これでっ!」
「ぐっ! このままでは……」
レールカノンによる迎撃は間に合わず、辛うじて回避するも少なくないダメージを受けてしまう。ワイヤーブレードも半数が砕かれてしまい、更に鈴が勝負を決めようとその手に双天牙月を持って襲いかかった。勝負あった。誰もがそう思った。
ラウラ以外は。
「なっ!?」
ラウラへ双天牙月を振り下ろそうとしたまま、鈴が制止したように動かなくなる。それに焦りを浮かべる彼女へ、ラウラが無表情のままゆっくりとレールカノンの照準を合わせた。
「さすがは、と言ったところか。私にこれを使わせただけでも大したものだ。褒めてやるぞ、凰鈴音。だが、最後に勝つのは私だったようだ」
「くっ……何でよ。どうして……」
「終わりだ」
至近距離で放たれる二つの砲撃。それが鈴を直撃し、アリーナに試合終了を告げる音が鳴り響く。その瞬間、弾かれるように一夏が白式を展開して飛び出していった。
「鈴っ!」
地面へ落下していく鈴を辛うじて受け止める一夏。そして、そのまま睨み付けるように上を見上げた。
「ラウラっ! お前っ!」
「勝負は非情だ。決められる時に決めなければやられるのはこちらだからな」
「だからってここまでやる必要ないだろっ!」
「甘いな。しっかりと相手の戦闘能力を奪う事は戦場では当然の処置だ」
「っ!? ここは学校だ!」
「私からすれば戦場と変わりない。それに、本来訓練や教練と言うのは厳しいものだ」
それだけ言い放ち、ラウラはその場を去って行った。その背中を一夏は睨み続ける。と、そんな彼の腕を弱々しく掴む手があった。
「いち、か……」
「鈴? 大丈夫か? すぐ医務室へ」
「あいつ、こっちの……動きを、止めて、きた……。多分、だけど……一対、一じゃ……勝てない」
「分かった。分かったからもう喋るな。ありがとな、鈴。俺のために……」
そう言うと、一夏は鈴を優しく抱き締める。その光景を箒達は黙って見つめる事しか出来なかった。
「……最後の、どう見る?」
「ボーデヴィッヒさんの奥の手、ですわね」
「鈴が身動き出来なくなってた。あれは、多分だけどISの動き自体を制御してたんじゃないかな」
「そんな事が可能なのか?」
「理論上は可能です。ただ、おそらくそれを使用している時は彼女もほとんど身動きは取れないはず」
「だから鈴が接近するまで使わなかったんだ。精密な動作も必要ない距離で、尚且つ一撃で仕留められるように……」
悲痛な面持ちで会話する三人の目の前では、一夏が鈴を抱き抱えて医務室へ向かおうとしているところだった……。
あの鈴とラウラの模擬戦から数時間後、シャルは一人明かりの消えた食堂にいた。約束通り、消灯一時間前まで部屋を空けているのだ。
「一夏、どうやって彼女に勝つつもりだろう……」
あの後、医務室を訪れた箒達は、ベッドで眠る鈴へ語りかけている一夏の声を聞いた。
―――絶対敵は取ってやるから。お前のくれた情報、無駄にしないぜ。
その優しくも決意に満ちた声に、不覚にもシャルはまた胸をときめかせたのだ。そして、それは箒やセシリアもだったろう。その声には、男らしい力強さが感じられたのだから。
「だけど、気持ちだけでどうにか出来る相手じゃない……」
シャルの脳裏に試合最後の瞬間が甦る。動きを不自然に止められた鈴と、彼女へレールカノンを向けるラウラ。あれは確実に一対一では勝ち目がない。そうシャルは思っていた。だから勝利するには複数での戦闘に持ち込むしかないとも。
「……でも、一夏は一対一で戦うと言ってた。鈴と同じ形式でラウラに勝ってみせるって」
その方法を彼は言わなかったが、勝算がないとは思えない顔だった。今、部屋から一歩も出ないでいるのも、もしかするとそれを考えているからではないか。そうシャルは思って立ち上がる。
「僕も、少しでも力になりたい。一夏は嫌がるかもしれないけど、あれはさすがにやり過ぎだと思うし」
自分と仲良くしようと言ってくれた鈴のためにも。そう思ってシャルは小さく頷くと部屋へと向かう。そして部屋まで着いた時、彼女は小首を傾げた。
「ロックされてる? 僕が出た時は必要ないって言ってたのに……」
一夏が自分でロックしたのだろうかと思い、ならば昨日と同じでアリーナの方かもと思ったシャルだったが、ふと何かが気になってドアを見つめる。女の勘、というものだろう。探している相手はここにいる。そう思った彼女は、ロックを解除して室内へと入った。
「一夏……?」
部屋は無人であったが、嗅ぎ慣れない匂いがシャルの鼻腔を襲った。それは男と女の淫臭。その匂いに一瞬ではあるが足元がぐらつく辺り、シャルはそういう事への耐性がまったくなかったのだろう。
「な、何この匂い?」
「ああっ! 一夏君、もっとぉ!」
そこへ聞こえてくる女の声。それが誰のものかシャルは少し遅れて理解した。
「山田先生?」
「真耶さん、ズルいです。今日は私達もまったく相手して頂いてないんですからぁ!」
「そうです。今日は平等にと、そう一夏も言ったじゃないですか」
「セシリアに箒? どういう事?」
シャワーから聞こえる声にシャルは疑問符を浮かべながら誘われるように足を踏み出す。それと共に先程から匂うものが濃くなるような気もしていた。それは、一夏のナノマシンからのフェロモンである。彼へ好意を抱き始めたシャルも、その餌食となり始めたのだ。
シャワールームへのドアを静かに開けたシャルが見た物は、全裸で軽く言い争う三人の女性と、まるで天を衝くような程反り返る逞しいペニスであった。その威容さに目を奪われているシャルの耳に、聞き馴染みのある声が聞こえてきたのはその時だ。
「落ち着けって。とりあえず、三人でパイズリしてくれ。それは初めてだろ?」
その声にシャルは視線を上へ動かす。そこには、当然ながら一夏の顔があった。そして、先程まで見ていたペニスが彼の物だと改めて認識し、シャルは顔と体が熱を持ったのを感じて思わず体を縮めてしまう。が、すぐに意識を切り替え、出来るだけ静かにドアを閉め、彼女は部屋を出た。そのまま、先程までいた食堂へと戻り、座っていた場所へ腰を下ろす。
「…………一夏の彼女ってもしかして」
思い出される先程の光景。箒、セシリア、真耶の三人が全裸であった事。室内に立ち込めていた匂い。とどめが一夏のペニス。それがシャルの体の奥底に大きな熱量を生み出す。
「鈴も、そうなのかな?」
答える者はいない。だが、彼女はもう確信めいたものを抱いていた。彼らの仲の良さは肌を重ねた事から生まれているのだと。その瞬間、彼女はふと思うのだ。ならば何故彼は自分を求めなかったのだろうと。自慢ではないが、容姿は整っている方ではあるし、スタイルもそこまで悪い訳ではない。なのに何故。
(……もしかして、一夏にとって僕の秘密を知った事はそこまで大きな事じゃない?)
思い出すのは彼がそれを知った後の対応。学園を去ろうと思う彼女へ、一夏はそんな事をする必要はないと言い、更に自分が黙っているからここに居ればいいとまで言ったのだ。その際、部屋を特定の時間空けてくれればいいと、それだけが彼の出した条件だった。
「あれは、本当に彼女の、ううん彼女達のためだったんだ……」
そこから分かるのは、一夏が関係を持っている相手は彼と想いを通じ合わせている事。それと、女性同士も理解し合っている事だった。それがシャルには大きな意味を持っていた。何せ彼女は妾の子であり、そのため父の正妻とは気まずい距離感がある。それが一夏だったのならなかったのだと、そう思えたのだ。
「堂々としていればいいって訳じゃないけど、黙って複数の女性へ手を出すよりはマシか……」
何よりも、あの聞こえてきた声は本気でいがみ合うようなものではなかった。どこかじゃれ合うような雰囲気さえ感じさせたのだ。それは、昼休みの会話と同じ。シャルは確信していた。一夏達は一夫多妻の関係を受け入れている。しかも、女性同士の関係も悪いどころかむしろ良いとも。
(……僕も、仲間にしてもらえるかな?)
下腹部に感じる熱。脳裏から離れない逞しいペニス。仲の良い女性達。更には、ラウラへ対し雄々しく吼え、鈴のために真っ先に行動した男らしさなどが作用し、自分を受け止め居場所を守ると約束してくれた少年への好意が、今恋慕へと変わったのだ。
自分の家庭問題で愛人や妾というものを作る男を毛嫌いしていたシャルではあったが、一夏達の関係性はそれと明確に違う事を察している以上、彼への嫌悪感などは皆無であった。
それどころか、自分の弱みを安易な性欲へ利用しなかった事が好印象へとなっていく。自分も、あんな頼もしい男性に守られたい。そんな気持ちがシャルの中へ満ちていく。
「……いいよね? だって、これは結果的に白式のデータ入手にもなるはずだし」
それは誰に対しての呟きだったのだろうか。自分に対してか、あるいは彼女へここへ行くように言った父に対してか。それは誰にも分からないが、少女は一人少し急ぎ気味に部屋へと戻る。その胸を生まれて初めての感覚にときめかせて……。
「それじゃ、私達はこれで帰るね」
「真耶さん、おやすみなさい。箒とセシリアもおやすみ」
「ああ」
「また明日」
三人の女性を見送り、一夏は部屋へと戻る。窓は開け放たれており、不自然ではないように消臭剤が置かれ、彼のベッドには消臭スプレーが吹き付けられていた。戻ってくるシャルのための処置である。ただ、焼け石に水ではあるが。
「明日からは最初からシャワーだな、これ」
これまでは匂いも気にする必要が無かったため頓着していなかったが、これからはそこを気を付けなければならない。そう思って一夏は腕を組んだ。その頭の中は、先程までの光景ではなく鈴がラウラに敗れた後言っていた言葉が繰り返されていた。
「一人では勝てない、か。だけど、絶対無敵なんて存在しないんだ。必ず、必ずどこに欠点があるはずだ。それを見つけるしかない」
鈴の言う通り、一対一でなければラウラには勝てるだろう。だが、それでは意味がないと一夏は考えている。鈴は一対一で後少しまでラウラを追い詰めた。なら、その敵討ちは同条件でなければいけないと。
「……あの時、鈴は動けなくなってた。あれは、どういう原理なんだ?」
「多分だけど、PICの応用じゃないかな?」
聞こえてきた声に弾かれるように一夏が振り返る。そこには、少々赤い顔のシャルが立っていた。
「シャル……PICってISを浮かせたりするあれか?」
「そう。多分だけど、ラウラのISはそれを発展応用させた能力を持ってるんだと思う。IS自体の動きを封じるんだ。ただ、その制御は並大抵の集中力じゃ出来ないはず」
「……それで鈴は一対一じゃ勝てないって言ったのか」
「そんな事言ってたんだ。凄いな、鈴は。あれだけの事でその事へ気付いたんだ。きっと、直感で」
「だろうな。ISの動かし方も基本勘でやってるって言ってたし」
その言葉でシャルも苦笑する。だが、それもすぐに消して彼女は一夏へ問いかけた。
「ね、鈴も箒達と同じでエッチな事する関係なの?」
「……これだけ変な匂いしてれば気付くよな、やっぱ。ああ、そうだ」
「そうなんだ……」
隠す事もしないで潔く認める一夏にやや違和感を抱きながら、シャルはならばと次の質問をぶつけた。
「全員本気?」
「当たり前だろ。こんな白い目で見られる関係だからこそ、俺が箒達を守るんだ。大体遊びで箒達が抱かせてくれる訳ない」
「ごめん。今のは僕の聞き方が良くなかった」
「いや、当然だと思うぜ。シャルなりに箒達の事を思ってくれたんだろ? ありがとな」
軽く笑みを返す一夏にシャルは胸の高鳴りを感じた。それと共に少しだけ頭の中がぼんやりと霞がかかったようになる。それは、室内に今も残る淫臭と、一夏から発せられるフェロモンの影響だった。
(何だろう……頭がフワフワする……)
蕩けた表情でゆっくりと彼女は一夏へ向かって歩き出す。それを不思議そうに見つめ、彼は小首を傾げた。
「シャル? どうした?」
「……一夏、もう一つだけいい?」
「何だ?」
「僕も、ううん私も一夏の彼女になりたいって言ったら、どうする?」
「……四人もの女と付き合ってる奴だぞ?」
「うん」
「毎日セックスしないといけないような奴だぞ?」
「それは……いいや。受け入れる」
「処女相手でも容赦しないって言ったら?」
「そこは優しくして欲しいなぁ」
「分かった。なら、シャル。俺からも一つだけいいか?」
「何?」
そこで彼女の体が彼の腕の中へと倒れ込む。それを優しく受け止め、一夏は微笑みを浮かべてこう告げた。
「ありがとう、シャルロット。俺の女になってくれ」
「……うん、こちらこそありがとう一夏。私を女にしてください」
互いに笑みを見せ合って、二人は同時に目を閉じる。そっと触れ合うだけのキス。それが、シャルのファーストキスだった。そのまま二人は抱き締め合い、キスを何度も続けた。次第にそれは長く、深いものへと変わる。
「っはぁ、一夏ぁ……」
「シャル、可愛いぜ」
「ホント? 私、可愛い?」
「ああ」
一夏は気付いていた。シャルの一人称が変わっている事に。セシリアと似たようなものだろうと思い、彼は嬉しく思っていた。今、シャルは身も心も女なのだと、そう思って。
だから一夏は優しくシャルをベッドへと倒した。ぽふっと音を立て、シャルの体がベッドに沈む。その視界には一夏の顔が映り込んでいた。
「一夏、その、シャワー浴びたい」
「ああ、そっか。悪い、シャル。気が付かないで」
「ううん、いいんだ。えっと、待っててくれる?」
「おう。ゆっくりでもいいからな」
「ありがとう」
少しだけ正気に戻りながらシャルはシャワールームへと向かって歩き出す。その背を見送り少しすると、やがてシャワーの音が聞こえ始める。それを合図に彼は窓を閉め始め、それが終わるや悪戯めいた笑みを浮かべると静かに動き出すのだった。
(後始末を考えたらやっぱシャワーの方がいいもんな)
すっかり思考がそういう方向に特化した一夏は、素早く服を脱ぐと躊躇う事なくシャワールームへと足を踏み入れた。湯気の立ちこめる中、次第に見えてくるシャルの裸体は、見事な美しさを放っていた。それに一夏が魅入っていると、視線に気付いたのかシャルが顔をそちらへ向ける。
「ふぇ? 一夏?」
「よっ」
「あ、うん……じゃなくて!」
「悪い。シャルの事が待ち切れなくて覗きに来た」
「ううっ、怒るに怒れない言い訳しないでよぉ。は、恥ずかしいけど嬉しくなっちゃうんだから」
「すまん。でも、手は出さないから。それはベッドまで我慢する」
「ホント? 信じるからね?」
「ああ、約束する」
シャルの反応から無理矢理しては拒否されると判断し、一夏は大人しく彼女の体を視姦するのみにとどめた。ただし、そのペニスを大きくしてシャルを発情させる事は阻止出来なかったが。シャルも体などを洗いながら、視界の隅に映るペニスに下腹部を熱くしていた。
見ないようにと思っても、知らぬ間に目で見ている。その度にペニスが小刻みに動き、彼女を求めている一夏の気持ちを告げていた。その声なき声にシャルは身を焦がす。
やがて一夏は辛抱できず自分でペニスを扱き出した。勿論シャルの名を呼びながらだ。
「シャル……ああ、すっげぇ可愛くてエロいぞ……」
「っ!? い、一夏!?」
「胸も大き過ぎず小さ過ぎずで魅力的だし、尻もキュッと締まっててイイ感じにエロい。もう最高だ……」
「や、止めてよぉ。褒めてくれるのは嬉しいけど、こ、こんなところでオナニーしないでっ!」
「無理なんだって……シャルが可愛くてエロ過ぎるのがいけないんだ。ああっ! もう出すぞ!」
「ええっ!? だ、出すって……」
「うおっ!」
「きゃあっ!」
シャル目掛けて放たれる大量の精液。それを体へ浴びて、シャルは鼻腔へ漂う強い雄の匂いに身震いした。
(何これ!? ダメっ! 立ってられない……っ!)
崩れるようにその場へしゃがみ込むシャルを見て、当然のように一夏が慌てて駆け寄る。
「シャルっ! どうした!」
「い、一夏……っ!?」
少年の声を嬉しく思って顔を上げたシャルが見たのは、眼前へ突きつけられる雄々しいペニスだった。そして、その瞬間少女の体は理解した。いや、理解させられてしまったのだ。この雄以上に強い雄はいないと、この雄の子を身籠らなければいけないと。
「あ……あ……」
口をパクパクと動かしながらシャルの体から力が抜けていく。それは失禁と言う形で一夏の目に見える形で現れた。
「……シャル、そういう事か」
「ふぇ?」
一夏の野性的な笑みを見てシャルは首を傾げる事しか出来ない。立ち上がろうにも下半身へ力が入らないためだ。そんな彼女を見て、一夏はシャワーでその体を少しだけ洗い流すと、お湯を止めてバスタオルで軽く全身を拭いた。
そしてその華奢な体を抱き抱えると、そのままゆっくりとベッドへと向かう。そして静かにその体を下ろし、少年は告げるのだ。
「シャル、いいよな? もう我慢出来ない」
「……みたい、だね。うん、いいよ。実は、僕も一夏としたくて仕方ないんだ。お腹熱くてさ」
「そっか。シャル、力抜いてくれ。出来るだけ優しくする」
「うん」
最後に軽いキスを交わし、男は少女へ迫る。ヴァギナへ突き当てられるペニスの熱に少女は微かに不安を抱くも、その視界に映る男の笑みにそれを押し殺して頷いた。最初こそゆっくりと挿入されたペニスであったが、それも処女膜へ到達するや一気に奥まで突き入れられる。それが結果的に痛みが少ないと一夏が判断しているためだ。
シャルを襲う破瓜の激痛。だけど、その痛みを和らげるように彼女は一夏とキスしていた。いや、されていた。それだけではない。その手も一夏と繋がれており、文字通り全身で二人は繋がり合っていた。その事がシャルの痛みを和らげていく。病は気からとあるように、人間気持ちさえ落ちつければ意外と何とかなるものである。
「……シャル、大丈夫か?」
「うん、まだ痛いけど、最初程じゃないよ」
「良かった。もうしばらくキスしてようぜ」
「……うん」
ここでもシャルは思うのだ。もし一夏が初めてだったらこうはなっていないだろうと。何人もの女性と関係を持った故の落ち着きだろう。そう考え、彼女は内心で苦笑する。
(お互い初めてだったら、そもそもこうなってないかもね)
見事予想を的中させるシャルだったが、残念ながらそれを知る者は誰もいない。そのまま二人は絆を深めるようにキスを交わす。そこでディープキスをしなかった事もシャルには嬉しかった。一夏が自分を気遣ってのキスだと思えたためである。
男が気遣えば女は嬉しくなり、ならばと今度は自分が相手を気遣おうとするもの。シャルもその例に漏れず、一夏へ潤んだ瞳でこう切り出した。
「もう動いていいよ」
「いいのか?」
「うん。そろそろ一夏も気持ち良くしてあげたいんだ」
「……ありがとう、シャル。愛してるぜ」
「あっ、今の反則だよ一夏。このタイミングでそんな事言われたら……っ!」
「ああ、シャルが喜んでるのが俺にも伝わった」
「……バカ一夏。罰としてこれから毎日一度は愛してるって言う事」
「言われなくても言ってやるよ。大事な女、だからな」
「っ!」
優しくも逞しい男に抱かれながら愛を告げられる。しかも、子宮をペニスでしっかりと捉えられてのものだ。シャルも箒達同様一瞬で堕ちた。いや、雌となった。何故ならそこから一夏のゆっくりと力強いピストンが始まったためである。
好きだ、愛してる。この二つを繰り返されながら打ち付けられるペニス。理性と本能の二つを陥落させる攻撃であった。シャルも気付けば彼へしがみつくように抱き締めていて、とっくにその脳内に避妊という言葉は存在していなかった程だ。
「ああっ! い、一夏ぁ! もう、もう私ダメぇ!」
「いいぜ。我慢するな、シャル。もし声を出すのが恥ずかしいなら、舌を出してくれれば俺がキスして塞いでやるから」
「うんっ! 分かったぁ!」
「よし、じゃあラストスパートだっ!」
「ひゃあああんっ! は、激しいっ! ダメっ! ダメぇ! こんなの無理ぃぃぃぃぃっ!!」
「シャルぅぅぅぅぅぅっ!」
「いちひゃあぁぁぁぁぁっ!!」
トドメという感じで打ち付けられた深く強い一撃に、シャルは呂律が回らない口で最愛の相手の名を呼んだ。そのまま彼女は舌を伸ばし、男へキスをねだる。それに男も呼応して二人は舌を絡めた深く激しいキスをした。その間、女の子宮へは男の遺伝子がたっぷりと流し込まれたのは言うまでもない。
その後、シャルはどうして箒達がハーレムを受け入れたかを体で理解させられる、彼女も意識が飛ぶまで抱かれたのだ。その一夏の精力にシャルも認めざるを得なかった。この男を一人で受け止めるのは無理であると……。
「よく逃げずに来たな。それだけは褒めてやる」
「鈴の分までお返ししてやる。一撃だ。俺はそっちに一撃しか攻撃を当てない。それでケリをつけてやる」
「ほう、大言を吐くな。私に勝てないと言っていたくせに」
「何も知らないで戦えば、だ。今の俺は鈴が教えてくれた事と、箒達からの助言がある。これなら負けない」
「言っていろ。教官の経歴に汚点を作った貴様へ、私が直々に鉄槌を下してやる」
アリーナで睨み合う両者を、箒達が固唾を飲んで見守っていた。ギャラリーは彼女達四人以外誰もいない。当然だ。これは非公式であり、同時に私闘なのだ。互いにぶつけ合うのは怨恨である。ラウラは千冬のために、一夏は鈴のためにと。
「「っ!」」
試合開始を告げるアラームと共に二人が同時に動く。何とか距離を詰めようとする一夏と、そうはさせじとするラウラという形で試合は始まった。雪片弐型はまだ沈黙を守っている。
「勝てると思うか?」
二人の状況を見つめながら箒が問いかけた言葉に、セシリア達も視線を逸らす事なく答える。
「一夏が負けないって言ったのなら、負けないでしょうね」
「私も鈴さんと同意見ですわ。あの単一仕様能力をどう破るのか。またはどう防ぐのかは分かりませんが、一夏さんは決してハッタリを言う方ではありません」
「一夏は、これが公式戦じゃないから勝ち目はあるって言ってた。どういう事かまでは教えてくれなかったけどね」
シャルの言葉に箒達はそれぞれで考える。一体どういう意味かと。だが、勿論答えが出るはずもなく、状況は徐々に一夏が追い詰められ始めていた。ワイヤーブレードを避けて距離を取り続ける一夏へ、ラウラのレールカノンが執拗に襲い掛かる。直撃こそ喰らっていないが、このままではジリジリとエネルギーが消耗し敗北するしかない。
「一夏っ! このままでは負けるぞ! 攻めに転じろ!」
「一か八か懐へ飛び込みなさいっ! 相手がアレを使う前に仕留めるのよっ!」
「慎重かつ大胆に、ですわっ!」
「一夏、頑張れっ!」
四人の声援を受け、一夏は一度だけ笑みを浮かべると左手の親指を立てて見せる。そして次の瞬間、再びラウラへ接近を始めたのだ。レールカノンを回避し、ワイヤーブレードを雪片弐型で弾きながら迫る一夏。そして、瞬時加速を使えば勝負が決まるとなった時だった。
「ぐっ……体が……」
「ふん、諦めず攻めてきたのは大したものだ。だが、そこがお前の有効射程だったな。瞬時加速からの零落白夜。それがお前の唯一にして最大の攻撃法。故に接近させるのはそこまでだ。そして、これで終わりだな」
鈴の時同様に、身動き出来ない一夏へレールカノンの照準が合わされる。その砲撃が放たれようとした瞬間だった。一夏が白式を待機状態へ戻したのだ。
「「「「「っ?!」」」」」
その光景にラウラの意識が乱れた。当然レールカノンの一撃は外れ、その隙を見逃さず一夏は再度ISを展開、瞬時加速を使い一気に距離を詰めながら零落白夜でラウラの体を一刀の元に斬り伏せたのだった。
「ば、馬鹿な……戦闘中にISを展開し直すなど……」
「ああ。公式戦じゃダメだろうな。だが、これはそうじゃない。それに、お前は言ったよな。ここは戦場と同じだって。ならどんな事が起きても不思議じゃない、だろ?」
言いながら一夏はエネルギーを失って落下しそうなラウラの体を片手で支えると、ゆっくりと地面へと降下していく。
「……何故私がワイヤーブレードを使わないと思った? あれは、最初からレールカノンで仕留めようとすると読んでいたから考えた手のはずだ」
「鈴へのトドメはレールカノンだった。最初は威力で選んだかと思ったけど、答えはシャルが教えてくれたんだ。あの能力を使うには凄い集中力がいる。つまり、逆に言えばワイヤーブレードみたいな武器は使えないんじゃないかってな。それを使おうとしたら動きを止め続ける事は出来ないから、お前はあの時レールカノンを使った」
「……もしそうじゃなかったらどうするつもりだった?」
「その時は……その時考えてたさ」
そのあまりにも無鉄砲な考え方にラウラは一瞬沈黙した後で、呆れたように息を吐いた。
「まさか、こんな奴に負けるとはな」
「セシリアも鈴もそうだった。俺、初戦だけは勝率100パーセントなんだよ、今のとこ」
「…………知らなかった。まさか本当だとは」
「敵を知り己を知れば百戦危うからずってな。俺はお前の能力をみんなから教えてもらって考える事が出来た。意見ももらえた。対してそっちはどうだ? 一人で出来る事なんてたかが知れてるんだよ。千冬姉だって一人で戦ってた訳じゃない。それに千冬姉は、俺を守るために戦ってくれてたんだ」
「お前を? 教官が?」
「ああ。千冬姉は俺を守るために頑張ってくれてたんだ。だから、今俺は箒達を守れるようになりたくて足掻いてる。本当の強さは力じゃないんだ。自分以外の誰かを本気で守れる事だと思う。千冬姉が、そうだったように……」
「っ!?」
その時の一夏の顔が、ラウラには千冬と重なる。瞬間、高鳴る鼓動。その未知の感覚に少女は戸惑いながらも、一番心に残った部分を復唱した。
「自分以外の、誰かを守る……」
「っと、着いたぞ」
地面へ足を付けると同時に、一夏はラウラから手を引いた。その温もりが、もっと言えば彼が離れる事を無意識に寂しく思ったのだろう。気付けばラウラの手がその手を取っていた。
「……えっと?」
「…………っ!? 勘違いするな! これは、その、お前の勇敢さを称えての握手だ!」
一夏の反応でラウラも自分のしている事に気付いたようで、やや慌てるように誤魔化した。が、それをそのままで受け取るのが織斑一夏という男である。それも無理はない。何せ、つい先程まで彼を憎んでいた相手が、まさか恋愛感情を抱きつつあるなど思いもしないのだから。
「あー、そういう事か。なら、これでもう恨みっこなしだ」
「ああ……」
握り合う手と手。丁度そこへ観客席から移動してきたであろう箒達が姿を見せた。
「一夏っ!」
「箒、それにみんなも」
「ぁ……」
今度こそ離れて行く温もり。一夏は笑顔を浮かべて箒達へと駆け寄っていく。その背をラウラは微かな寂しさを覚えながら見つめていた。
「やったじゃない! 宣言通り一撃で決着とはね」
「見事でしたわ一夏さん。ただ、あのような真似は二度としないでくださいまし」
「そうだよ。見てるこっちは本気で心臓止まるかと思ったんだからね!」
「悪い。あれぐらいしか俺には思いつかなくてさ」
四人に囲まれながら微笑みを見せる一夏をラウラは黙って見つめていたが、やがて何も言わず背を向けるようにして歩き出す。と、そんな彼女に一夏が気付いた。
「ラウラ、これからは本当にクラスメイトだ。仲良くしようぜ!」
「……分かっている。約束だからな」
一度だけ足を止めるも、それだけ言い返して少女は再び歩き出す。その背中を五人は見つめた。だが、やはり彼女が真っ先に口を開く。
「なぁにが約束だからな、よ! そもそもそんなものなくても仲良くしなさいよね!」
「まぁまぁ、ボーデヴィッヒさんも意外と素直ではありませんの。私実は、承服しかねる! ……と、言い出すかと」
「ああ。私も似たような印象を持っていた。やはりそういうところはしっかり守るのだな」
「みたいだね。そういうとこは好感持てるかも」
「だな。さてと、じゃあ俺はとりあえず汗流してくる」
そう言って歩き出そうとする一夏を四つの手が止める。彼が視線を後ろへ向ければ、そこには期待に満ちた目をする四匹の雌がいた。
「……一緒に来てくれるか?」
問いかけの答えは頷きではなく、とても妖艶な笑みだった。
一方、ラウラは一人更衣室に併設されているシャワールームで汗を流していた。
「自分以外の誰かを守る……それが教官の強さ。ならば、私がやろうとしていた事は……」
千冬がモンド・グロッソの連覇を捨てて助けた一夏。その本当の意味が理解出来たラウラは、己が未熟さを悟る。自身の栄光よりも大事なものが千冬にはあった。それが一夏の命。名誉よりも栄光よりも守りたいものがあり、そのためなら周囲の目など気にしない。ラウラは、一夏の最後の賭けにもそれを見た。鈴のためにも一人で勝つという、男の意地と人としての信念を。
「……勝てるはずはなかった、という事か。あの男は、いや織斑一夏は紛れもなく教官の強さを身に付けようとしている。それに比べ、私は自分のためにしか力を使ってこなかった。本当の強さを、知らずにここまで来た」
シャワーを見上げるようにラウラは顔を動かす。まるでその目から流れるものを誤魔化すかのように。
「私に本当の強さを教え、勝利した男……織斑、一夏……」
微かに高鳴る胸へラウラはそっと手を当てる。この感じは何なのか、それが分からず少女は戸惑う。それでも、それが嫌な感じのするものではない事だけは分かるのか、微かに笑みを浮かべた。
(ほんの少しだけ、ほんの少しだけだが、今、私は教官に近付けた気がする……)
そう思って浮かべる微笑みは、とても優しく嬉しそうなものだった。それは、ラウラが初めて浮かべた、心からの笑顔だった……。
原作のような惚れ方もいいですが、やはり意識してそこからがいいかなと思います。ラウラに関しては、異性愛自体が理解出来ない方がらしいかなと思うので、簡単にはエロへいかない方がいいかなとも。
……とか言いつつ次回でそうなったら申し訳ない(汗