「ブループラネットさんが作った世界だと?」
年末の慌ただしい最中。執務室にて何やら怪しいアイテムを持ったデミウルゴスと、俺は話しをしていた。
一向に減らない書類。片付ければ片付ける程に増えていく案件。今年もあの世界と同じように仕事に埋まって年を越すのかと思って居た、そんな最中の話だった。
休憩に丁度いいかと、徐に渡されたアイテムを見る。確かにユグドラシル謹製のアイテムではないようだ。しかしブループラネットさんがこんなものを作っていたとは。
「はい、どうやら『でいえす』という特殊なものを使っているらしいです」
「でいえす──DS──ん?ダイブシステム?ダイブしたままもう一度ダイブさせるのか?」
確かにそのアイテムは頭に被るもの。一見すると変な凹凸のある兜に見えなくもない。これが本当にダイブシステムを内蔵しているとするならば、ブループラネットさんはユグドラシルにログインしたまま別世界にログインできるシステムを構築していたことになる。
「アインズ様のおっしゃる『だいぶ』というのはわかりませんが、コキュートスの話では第六階層の初期世界が内部に封じられているとか。いやはや。素晴らしいお力です。このようなアイテムに世界を封じられてしまうとは。まさに神の如きお力と言えましょう!」
「お、おう──」
どうもデミウルゴスの『至高の御方々万歳!』の精神にはついていけない。俺もその一人に入っているのも原因ではあるが。
まるで神に祈るかのように両腕を大きく広げ、天からの祝福を全身で受け取っているかのような姿は見て居るだけで精神がガリガリと削れていく感じがしてならない。
誤魔化すように俺は、そのアイテムを頭に被った。今まさに起きているこの現実から逃避したかったからではない。あくまでブループラネットさんが作ったという世界が気になったからだ。単純に興味からくるものであって、決して逃避ではない。
「そうそう、アインズ様」
「──ん?」
「実はそのアイテム、もう幾つかありまして。先にアルベドが、ブループラネット様がお作りになられた世界に行っております」
「ふむ、そうか」
自然と世界を愛して已まないブループラネットさんが作った世界だとするならば、そんな物騒な生き物は居ないと思う──いやそもそもダイブした世界なら傷つくことすらないと思うが──から大丈夫のはず。しかし別世界というよくわからない場所に俺一人行かせるのは守護者としてどうかと思ったのかもしれない。過保護だと俺は思うが、皆のトップに居るのだ。これくらいはさせてあげるべきなのかもしれない。そもそも最初の頃なんて、このナザリック内部を歩く時ですら護衛を付けろと言ってきたくらいなのだから。
「では、行ってみるとするか」
「──いってらっしゃいませ、アインズ様」
デミウルゴスの一瞬の間と翳り。それは一体何を意味したのだろうか。しかしそれを考える余裕は、既に俺にはなかった。久しぶりに見たデジタルコンソールと、ブループラネットさんが作ったという世界に行けるという思い。それらが大きな興奮を呼び続けたから。
──申し訳ないことでございました、アインズ様
軽い浮遊感と共に意識が現実から非現実へと誘われる。懐かしい感覚。そう、ユグドラシルにログインするときはいつもこんな感じだった。
ゆっくりと目を見開く。そう、視界がある。見える。瞼がある。肌に感じる風の感触。陽の暖かさ。耳に聞こえる風の音。失って久しい五感を俺は今感じている。
一歩、踏み出す。草原を踏みしめる感覚。空を仰げば、眩しい太陽に目を細める。遥か遠くに流れる薄い雲にすら一切違和感を感じない。
「本当、凄いな。貴方は本当にすごい人ですよ、ブループラネットさん──」
確かにここには、世界があった。ブループラネットさんの世界が。
しかもただ草原があるだけではない。右手には森が見え、左手には海が見える。正面には何か大きな建造物があるようだった。
「これは──神社か──?」
近代化が進むにつれてこういう神事は疎くなってきたあの世界。そういえば彼は言っていた。『せめてこの世界でお参りしたい』と。そうか、と頷く。確かに作っていたのだ。
社の柱に触れる。肌に感じる木と漆の感触。触れている手は確かに人の手。俺の手だ。どうやら俺はこの世界に限り、完全に人の姿となっているようだった。
「む、服が──」
この神社に反応したのだろうか。簡素な服が光り、変わっていく。懐かしい変わり方だ。ユグドラシルでも装備を変える時はこんな感じだっ──
「はぁ!?──う、きつ──」
どうやら着替えた服は和服のようだ。しかしただの和服ではない。女性用の着物である。そう、晴れ着という奴だった。
「な、なんで俺が女物なんだよ、ブループラネットさぁぁん!!」
何か組み込んだデータがおかしいのかと混乱するも、いつものように精神の鎮静化が起きない。わたわたあわあわ。混乱し、足踏みしようとするも絡む着物と少し高い和靴が邪魔をする。
「あ、やばっ──」
気付いた時にはもう遅い。履き慣れない和靴に着慣れない和服。簡単にバランスが崩れて倒れると分かっていたはずなのに、混乱して気付けなかった。
視界が一気に空を向く。なんとか立て直そうとしても遅い。ただただ、来るであろう転倒の衝撃に身を固くし、目を瞑る。
「────?」
が、来ない。まるで何かに支えられているかのように、俺の身体が斜めのままに止まっている。今更バランスの補正でもかかったのかと思い、恐る恐る目を開けようとした。その時だった。
「大丈夫ですか、アインズ様」
「あ、アルベドか──すまない、着慣れないこの和服にバランスを──おぉぉ!?」
随分と近い位置から聞こえてきた声。アルベドの声だと気付いたまでは良かった。しかしその先に気付けなかった。妙にアルベドの声が低かったことに。
目を見開く。視界に映るアルベドの顔。だというのに少し違う。
「だっ──だだっ──誰ぇ!?」
「今アインズ様が私の名をおっしゃったではありませんか、アルベドと」
「い、いいいいやいやいや!!そのっ!そのすがたぁっ!!」
転がるようにしてアルベド(?)から離れる。先ほど俺を支えていたのは彼女──いや。
「だ、だって、お──」
「お?」
「男になっているじゃないかぁぁぁ!!」
──『彼』だったのだ。
「逃げなくても良いではありませんか、アインズ様?」
にこりと笑い、俺に近づいてくる。驚き過ぎたせいで腰が抜けたのだろうか、立てない俺に。男の姿をしたアルベドが。同じく和服を──しかしこちらは男物を──着て。妙に艶めかしい、谷間ならぬ胸板をちら見せしながら。
立てぬままにずり下がる。しかし場所が悪かった。俺の背後には神社の社がある。元々逃げられる位置には居なかったのだ。
「ひぃっ!あ、あのなアルベド──俺は別にそういう同性的な趣味があるわけでは──」
「問題ありませんよ、アインズ様──ほら」
アルベドから逃げるように社の階段を這うように上がっていく。が、逃げられるわけが無い。ほんの2,3段上ったところで後ろから抱えられてしまっていた。
するりと服の隙間にアルベドのとは思えない程にごつごつとした硬い手が滑りこんでくる。そして、そのまま俺の──
「ふぁっ!!」
「ふふっ──とっても感じやすいのですね、アインズ様」
俺の胸を揉み始めたのだ。
アルベドの手で揉まれ、形が変えられていく。その度に身体に甘い感覚が生まれてくる。これはおかしいと思うも力が入らない。
「なにっ──これっ──ぇ──」
「どうですか、アインズ様──女の感覚は?」
「おんっ──なぁ──?」
力任せに前を開かれると、零れる俺の胸──それは男にはないもの。俺には無い筈のもの。それを力任せに揉まれる。荒々しく。
「つっ──あぁっ──!!」
「あぁ、素晴らしい揉み応えです、アインズ様──まるで手に吸い付くよう」
痛みと快感に声が止まらない。アルベドに与えられる感覚にただただ翻弄されるしかない。
完全に抵抗できなくなったことに気付いたのだろう、アルベドは俺を返して正面を向かせた。いつものアルベドの顔が見えた。いつもと違うアルベドの顔が見えた。どちらでもあり、どちらでもないアルベドの顔がそこにあった。
「アインズ様がいけないのですよ。何度も何度も。何度も何度もお誘いしているというのに、全く反応してくださらないのですから。ですから思ったのです。女の苦しみを、女の切なさを──そして、女の幸せを一度感じて頂こうと」
「やぁっ──それ、だめっ──えぇぇっ!!」
しゅるしゅると手慣れた手つきで脱がされていく。抵抗などさせぬ、逃さぬと覆い被さりながら。まるで媚薬に塗れた触手に撫でまわされているかのように、触れられる場所全てが気持ちいい。頬が、首が。耳を舐められ、噛まれ。舌を這わされる。
あれだけしっかりと着せられていた和服はどうなったのか。気が付けば帯は既に無く、前を完全に開かれアルベドに素肌を曝していた。
「あぁ──お綺麗ですよ、アインズ様。この胸も──細い足も──ちゅっ──」
「なんっ──でぇ──こんな──んんっ──」
社の床に寝かされ、撫でられながら足を持ち上げられる。足に唇を、舌を這わされる度にくすぐったいような、気持ちいいような感覚が脳天まで走っていく。その度に口から零れる嬌声。女の喘ぎ声。声を上げ、身体を跳ねさせる。全身に走る快感に翻弄されながら。疑似的なものの筈なのに、まるで俺が元から女だったかのような錯覚さえ生まれてきている。これではいけないと必死に抵抗しようとするも、初めての感覚の連続でそれもままならない。何より出来ない理由が──
「もうココもとろとろに熔けていますね──私のも入りたいってこんなに硬くなってますよ──んっ──」
「しょっ──しょれっ──だめっ──こしゅっ──こするのだめぇ──」
アルベドの雄々しくいきり立つモノが俺の股間に擦りつけられているから。俺にあるはずのモノが無く、アルベドに無いはずのモノがある。本来入れるべきモノが無く、入るべきモノがある。
アルベドのモノを受け入れるモノが俺にある。
それはとても怖く恐ろしいはずなのに、擦られる度に切なくなっていく。気持ちいいけれど何かが足りない。満たされないという自分ではどうしようもない感覚が積もっていくのだ。
「どうですか、アインズ様。欲しくてたまらないでしょう。コレで貫いて欲しいでしょう」
「りゃめぇっ──じぇったいっ──いぃっ──りゃめなのぉ──っ!!」
まるで蜘蛛の糸のような細い糸に必死に捕まっているような、そんな感覚。落ちてしまえ、そう俺に誰かが囁いてくる。手を放してしまえと。しかし一度手を離せば最後。もう二度と上って来れなくなる。そんな確信めいた何かがあった。だから必死に抵抗する。
そんな俺に焦れたのだろう。擦るのを止めたアルベドの動きが止まる。何かが押し付けられる感覚。来る。アルベドのモノが。俺を貫いてくる。もう逃げられない。アルベドから。この快感から。
──ぷつり
「あっ──あ?──うわぁ──マジか──」
こう、なんだろうか。とても美味しそうな料理を口にしようとした瞬間、消えてしまった感覚とでも言えばいいのだろうか。興奮し切った感覚が一瞬で消えてしまう。精神の鎮静化が起きたのだ。
そう、俺はあの世界から戻って来ていた。原因は不明。しかし恐らくはアルベドだろう。
何とも言えない感覚のままに被っていたアイテムを外す。壊れた様子は無い。
「あー──なんだろうな、この絶望感は」
一体何があってあんな思考に陥ったのか全く理解できない。恐らく思考誘導辺りがかかっていたのだろう。しかしブループラネットさんがそんなことをするのだろうか。
失意を抱えたまま執務室から出る。未だ皆忙しいのだろう、遠くからばたばたと走り回る音が聞こえる。
そのままアルベドが居るであろう方へと足を向ける。元々他のメンバーの部屋を一時的にアルベドの寝室にした部屋へと。
さて何を言おうか。怒るのか。怒鳴るのか。それとも諭すのか。はたまた乗るのか。確かに皆から言われている。言われ続けている。子供を作れ、と。しかしアンデッドの姿になってからずっと、そんな感覚は一切湧いてこない。俺が改変してしまったせいで俺を愛してしまったという相手を、ただの義務感だけで抱いてしまって良いのだろうか。そういう負い目もあったためにずっと出来ないままで居た。しかし今向かう部屋で待っているであろうアルベドを前にして、俺は決められるだろうか。最後の一線を、超えることが出来るのだろうか。
ドアの前に立ち、ゆっくりとノブを回す。ドアを開く。どんな顔をすればいいのか。
「ほんとう──こんな時にどんな顔をすればいいのだろうな──私は──」
「ふひっ──くふふぅっ──ふぉっ──おぉっ──むふぅっ──」
まるで殺人現場の様に真っ赤に染まったアルベドの部屋。無論被害者などではなく、単なる当事者であるアルベドは、自身の血──主に鼻血で真っ赤に染まったベッドで一人悶えていた。
なんともやるせない感覚。これは鎮静化されないのだろうか。してくれないのだろうか。ため息を付く俺の視界の端に、先ほど俺が被っていたものと同じものが転がっていた。
恐らくは血を被ったせいで壊れてしまったものが。
「はぁぁぁぁぁ──」
このまま自室に帰って何も考えることなくただただベッドに突っ伏したい。そんな虚脱感に襲われながら、ゆっくりとため息ひとつ。
メイドを呼び、アルベドのベッドを片付けるよう命じる。俺の足は無意識に執務室へと向かっていた。
増えているであろう書類の山を少しでも減らさないといけないと、現実逃避しながら。
必要な分は見せた、そういうことだ。
というわけで女の子になったアインズ様と男の子になったアルベドの絡みでした。
でもアルベドの口調が少し妙な感じなって、ちょっとレズっぽくなったりカマっぽくなったり。
妙なテンションで書いたせいですね!
後半(アルベド妄想バージョン?)は需要があったら書きましょう。