※この作品はR-18です。

犬は吠えるがキャラバンは進む   作:タッパ・タッパ

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第1話 出会いは突然に

「ふ、ふざけんな! ふざけんなよ、ちくしょう!」

 

 口から呪いの言葉を吐きながら、夜の闇に包まれ見通しのきかぬ森の中をザックは疾駆していた。

 頭上を覆う樹冠、その枝葉の隙間よりわずかに照らす月明りだけを頼りにして、繁茂する草木を両の手でかきわけ、地中より盛り上がった大樹の根に足を取られつつも必死で駆ける。

 

 

 瞬間、手で払った木の枝がしなり、玉のような汗の浮かぶザックの顔をしたたかに打った。

 

 不意の痛みに思わず手で顔をおさえ、立ち止まってしまう。

 悪態をつくのも一瞬、彼は自分が置かれている状況をすぐさま思いだした。

 

 

 肩越しに振りかえる。

 

 その恐怖に怯える視線の先にいたもの。

 

 それは夜の闇にもまばゆい、透き通るような白い肌に肉感的な美しさをあわせもった、目も冴えるような美しい女性。

 大きく胸元の開いた大胆にして豪奢なドレスを身に纏う、上流階級のお嬢様。

 そんなダンスパーティーの会場ならいざ知らず、うっそうとした木々が生い茂り、危険な野生動物がうろつく森の中にはどう考えても似つかわしくない、それこそ場違いとしかいいようのない、実際にそんな場所にいるのを目撃したのならば見た自分の正気の方を疑わざるをえないような人物が、とろけるような微笑みをその顔に浮かばせながら、こちらへ近づいてくる。

 

 その男であれば誰もが目じりを下げてしまいそうな美女を前に、ザックは一際甲高い悲鳴をあげると再び逃走を始めた。

 

 

 ザックは傭兵団――盗賊団といってもいい――『死を撒く剣団』の一員である。

 一員といっても彼が直接その手に剣を握り、他人を切りつけるなどということはまずない。彼もリ・エスティーゼ王国の農民として徴兵を経験済みであり、戦闘訓練も受けたことがある。だが、王国において徴兵の際に受ける訓練など申し訳程度のものでしかなく、実際に幾度か参加した帝国との戦闘でも、形だけの槍衾を作ったりするのが主な役目だった。一度だけ、彼から数メートルのところまで近づいてきた帝国の騎士を槍の穂先を必死で突きだして追い払ったことがある――実際は帝国騎士も被害を嫌い、近づいて威圧するにとどめていただけだった――のだが、せいぜいがその程度。

 まともな戦いの訓練など受けたことは無く、さらに特段、なんらかの才能や生まれながらの異能(タレント)なども持たない彼の戦闘能力は、素人に毛が生えたくらいでしかない。

 

 だが、それでも成人の男性であり、抵抗できなくなった相手の始末程度でしかないが、実際に人の命を奪った経験のあるザックと、今、必死で走る彼の後ろから優雅にも見える足取りで追いかける、それこそスプーンやフォーク以上の重さのものなど持ったことがないかのようなた(・)お(・)や(・)か(・)な(・)女性とでは、戦闘能力が違いすぎるのは明白である。

 

 しかし、今、ザックの頭の中にはその懐中に忍ばせた短剣を、自分を追う見目麗しい女性の顔に突き立ててやろうなどという考えは欠片もなかった。

 

 

 

 特段、問題などないはずだった。

 いつものとおり、馬鹿な金持ちを罠にはめたはずだった。

 

 打ち合わせをしておいた場所で馬車を止め、何があったと車外へ下りてきた老執事を殺し、高慢ちきで鼻持ちならない金持ちの娘を仲間たちと輪姦し、荷物から金目のものを奪う――それだけだったはずなのだ。

 しかし、どういう訳だか、娘と老人しか乗っていないはずの馬車の中から降りてきたのは、御者を務めていたザックですら見たことのない肉感的な美しい女たちを従えた、これまた目を見張るばかりの美しさと淫靡さを併せ持った少女であった。

 

 その後、繰り広げられたのは、まさに悪夢そのもの。

 粗末ながらも鎧に身を包んだ男らの身体が、一見たおやかな女の腕が振り払われるたびにボロ屑のように吹き飛ばされ、手足が切り裂かれ、肉体が叩き潰された。

 ほんのわずかの間に、辺りは文字通り地の海と化し、生臭い鉄の香りが一帯を支配した。

 

 

 その酸鼻を極める様を目の当たりにし唖然とするザックの手を引き、馬車の陰へと連れてきたのはだれであろう、彼の雇い主である美しい金髪に張りのある肉体をもつ女性――ソリュシャンお嬢様であった。

 

 何をされるのかとザックが身構える前で、彼女がとった行動。

 それは自らのドレスを緩め、その美しいまでの双丘を彼の前にあらわにするというものであった。

 

 ザックは訳が分からなかった。

 どうして、いるはずのない女たちが馬車に乗っていたのか? 戦士たちをたやすく葬るあの女たちは何者なのか? そして、目の前に立つ金持ちのわがままお嬢様はなぜ自分の前でその豊かな胸を晒しているのか?

 

 

「どうぞ」

 

 鈴を転がすような声が彼の耳に届く。

 彼の目がその月光に照らされた、透けるような白い肌に釘付けになる。

 ザックは熱に浮かされたように、震える手をその円(まろ)やかにして美しい円錐を保つ両胸へと手を伸ばし――。

 

「……ひ」

 

 その手が止まった。

 過酷な農作業で固く、節くれだったその指先が大きく震えた。

 

「ひ、ひやあぁぁーーっ!」

 

 彼は一声叫ぶと踵(きびす)を返し、そのまま脱兎のごとく街道脇の森の中へと身を躍らせた。

 

 

 怖かった。

 何もかもが怖かった。 

 どうするのが最善かという考えなどなかった。

 彼の脳裏を支配していたのは、ただ恐怖のみ。

 女の裸身を前にしたことによる込み上げる性欲を、心胆より湧き上がる本能的な恐怖が凌駕した。そのとき、彼の身体は意識の埒外のまま、勝手に動いていた。幼子が事態を理解しようともせず、自分の理外のものから遠ざかろうとするように、ただやみくもに走りだしたのだ。

 

 

「うわあ、うわあぁーーっ!」

 

 恥も外聞もなく、悲鳴をあげて全てから逃げ出したザック。足を動かしながらも視線を後ろへ転ずれば、彼の主であるソリュシャンお嬢様がその顔に笑みを浮かべたまま追いかけてくる。

 先を行くザックはその衣服に繁茂する草木や絡み合う蔓草、茨(いばら)の棘がまとわりつくたび、それを振り払うのに難儀しているというのに、ふわりとした幅のあるドレスを身に纏った彼女はいったいどういう訳だかそれらに煩わされている様子はない。どう考えても森の茂みを駆けるのに適しているとは言い難い踵(かかと)の高いハイヒールを履いている彼女であるのだが、なぜだか息を切らせて走るザックの、成人男性の足でも振りきれない。

 

 ザックは走った。

 これほど息を切らせて走ったのは、生まれて初めてじゃないかと思う程、走った。 

 だが、それほど必死に走っているというのに、背後から追い立てるソリュシャンお嬢様――いや、アレは絶対にお嬢様とかいう生易しいものじゃない――は息の一つも切らした様子はない。

 ただ幸いにして、全力で走っている甲斐あってか、振りきれないまでも彼我(ひが)の距離が縮んだ様子はなかった。

 

 ――違う。追いつけないんじゃない。わざとだ。わざと距離を縮めずに追い回して、俺を嬲っているんだ!

 

 絶望がザックの胸を埋める。

 粘り気のある汗が全身に湧き出てくる。

 心臓がバクンバクンと限界を訴える。

 彼の意思に反して段々とその足は膝があがらなくなり、生い茂る枝葉に手や足を取られる場面が増え、その速度が落ちてくる。

 

「あら? もう疲れてしまいましたか?」

 

 人の住む領域ではない森の中を彼と同じ速度で走っているというのに、疲労の色を微塵も感じさせぬ軽やかな声がザックの耳に届く。

 

「もう少し楽しみたかったのですが、あまりシャルティア様、セバス様をお待たせするのも心苦しいので、そろそろ鬼ごっこも終わりにしましょうか」

 

 その言葉と同時に、それまで一定の距離を保っていた美しい金髪の追跡者は、ぐんぐんとその距離を縮めてきていた。

 

「く、くそっ!」

 

 ザックは悪態と共に疲労で震える足を無理矢理動かし、足元の灌木を飛び越えた。

 

 

 その瞬間――。

 

 

「う、うわあぁーーっ!」

 

 視界が一回転した。

 木を飛び越えたその靴裏が捉えたもの、それは固い地面ではなかった。

 彼の足は川岸に張りだして生えていた枝を踏み抜き、その身が宙へと投げ出される。受け身をとる余裕もなく、ザックの身体はへし折られた枝葉とともに岩に叩きつけられ、そのままはるか下を流れる冷たい川の中へと転がり落ちてしまった。

 

 

 いったい何が起こったのか、いまだ状況が分からぬまま必死で水から浮かび上がろうとするザック。富裕層の下働きという役目のために着ていた、それなりに高級な上着やズボンはその柔らかな布地の内に水をたっぷりと吸い、も(・)が(・)く(・)彼の動きを妨げる。

 急流にどんどんと流され、そして水の中へと沈みゆく彼の目に映ったのは、はるか高い川岸の岩の上に立ち、せっかくの得物を逃してしまったとその端整な顔に恨めしそうな表情を浮かべているソリュシャンの姿であった。

 

「ちょっとだけ遊ぶつもりが、もったいない事をしてしまいましたわ」

 

 彼女はそうぼやくと踵を返し、漆黒の樹林の中を飛ぶように、自らの上司たちの許へと帰っていった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「はあっ、はあっ」

 

 ザックは河原の水気を多く含んだ土の上に、その身が汚れることも厭わず仰向けに転がり、荒い息を吐いていた。

 

「はあっ、はあっ……くそっ、こんなところに川があるだと、ふざけんな」

 

 あの時、川に落ちたおかげで助かったのは事実であるが、それでも悪態をつかねばやってられない。

 あの後、ザックの身体は一度、流れる川の底へと沈んだのであるが偶然にも彼の服、その袖が流れてきた流木に引っ掛かった。彼は最後の力を振り絞って、その流木にしがみついた。その結果、沈んだその体は浮き上がり、こうして遥か下流の河岸へと流れついたのだ。

 

 彼は苛立ちまぎれに自分を救ってくれた、ともに岸へと流れ着いた枯木に拳を叩きつけた。

 朽ち木とはいえさすがに樹木。叩いた手に走った痛みに、ザックは苦痛のうめきを漏らした。

 

 ――なぜ自分がこんな目に遭わねばならないのか。自分はいつもの仕事をこなしていただけだというのに。

 

 その仕事というのは自分を雇い入れた人間を騙し、殺してしまう事であり、己の非運を嘆くようなことなど到底言えた義理ではないのだが、そういったことは棚に上げ、彼はやり場のない憤りを胸に抱えたまま、湿り気のある土の上に身を横たえていた。

 

 

 

 そうして河原に転がることしばし。

 

 ようやく息が整ったザックは、けっして気色のいい感触ではないぬ(・)か(・)る(・)み(・)に手をつき、その身を起き上がらせる。力の入らない体を叱咤し、膝に手を当てて立ち上がると、ようやっとここがいったいどこなのかという疑問に思い至った。

 どうやら流されていく間に森は抜けたようだ。樹木は生えているがせいぜいが林程度。木々の隙間から見るに、少し小高くなった向こうには開けた場所がありそうだ。そこまで行けば、街道を探すこともできるかもしれない。街へ戻れるかもしれない。

 

 

 安堵の息と共に、ぐるり辺りを見回したザック。

 

 刹那、その呼吸が止まる。

 その視線が一点に固定される。

 

 辺りを取り囲む陰鬱な印象を与える木々。その内の一本。彼から少し距離の離れた所にある、萌葱色(もえぎいろ)の蔓草が絡みついた、わずかに傾(かし)いで立つ錆臙脂(さびえんじ)の樹木。

 

 今、その木の陰から顔をのぞかせる女の姿があった。

 

 ――ま、まさか。ソ、ソリュシャンお嬢様!? ここまで追ってきたのか!!

 

 愕然として凍りつくザック。

 だが、月明りに照らされたその女性は、あの自分の雇い主、先ほど彼を恐怖のどん底へと叩きこんだ人物ではなかった。

 

 その身に纏うのはいかにも仕立ての良さそうな胸元の開いたドレスではなく、普通の庶民が着るような実用一点張りのくすんだ茶色をした丈夫そうな代物。その姿もあの恐ろしいまでの美貌と陶器のような滑らかにして白い肌ではない、やや鼻が大きいもののそばかすの浮いた顔はよく日に焼けた、ごく普通の田舎娘と言っていいような純朴そうな顔立ち。

 

 今、その子供をようやく脱したと思(おぼ)しき年ごろの少女が、自らの胴回りとほぼ同じ程度の樹木の陰に身を隠し警戒と、そして心配のまなざしでザックの事を見つめていた。

 

 

 互いの視線が交差する。

 二人は声もなく見つめ合った。

 

 やがてザックは、自分の方から何か言うべきだと思いたち、「……あー」という声と共に少女の方へ一歩、足を進めた。

 しかし――。

 

「うおっ!」

 

 水辺のぬかるみに踏み出した足をとられてしまった。バタバタと腕を廻すが、そのままバランスを崩し、突っ伏してしまう。

 その様子を見た少女は慌てて彼の下へ走り寄った。「大丈夫ですか」とその体に腕を廻し、疲労の際(きわ)にいるらしい彼を抱え上げようとする。

 ザックは泥濘の中で何とか立ち上がろうと、空いていた片手を地につけた。

 

 するとぐんにゃりとした手ごたえが、その手に伝わる。 

 見るとそこには明らかに周辺の茶褐色の土とは異なる、繊維質のものを含んだこげ茶色の塊があった。

 動物のフンである。

 

 動物のフンに手をついてしまった事に、ザックは「うわ」と声をあげた。

 彼に肩を貸す少女もまた、思わず「あ、汚い」と口にした。

 

 

 

 そう、「汚い」と口にしてしまった。

 

 それは当然の感情である。

 動物のフンは衛生上忌避すべきものである事は、誰だって知っている。実際、ザック自身もそれに触れたと分かった瞬間、声をあげてしまっている。

 だが――瞬間、ザックの胸の内を占めたのは全く別の、それこそ八つ当たりとでもいうべき感情であった。

 

「……汚いだと」

 

 不意に、まったくの善意から肩を貸していた男性、その口から洩れた剣呑な口調に、少女はびくりとその背筋を跳ねさせた。

 驚いて顔を向けた彼女の視界いっぱいに広がったもの。

 それは握りしめられた男の拳であった。

 

「お前、俺に汚いって言ったか」

 

 突然、顔面を殴り飛ばされ、少女は泥濘の上に尻餅をついた。思いがけぬ暴力に、鼻血を流したまま呆然と見上げる彼女の前に立つのは怒りに震える男の姿。

 

「汚い。汚いだと! お前に何が分かる!」

 

 それは全くの誤解。

 曲解である。

 だが、ザックの心は刹那の憤怒に支配されていた。

 

「俺が、俺がどんな思いで生きてきたのか、汚れ仕事に手を染めなきゃ生きていけなかったのか、お前なんかに理解できるのか!? ちくしょう!!」

 

 少女が汚いといったのは動物のフンのことであって、それ以上の意味はない。

 だが、その言葉を聞いたザックは『汚い』というのは己のことである、己の生き方すべてであると捉えたのだ。

 自分のこれまでの人生。強者ではない、力も才能もない者が生きるためにしてきた妥協やゴマすりを、世の中の理(ことわり)など何も知らない小娘に馬鹿にされたと感じたのだ。

 

 

 

 ザックのこれまでの人生は、まさにろくでもないものだった。

 

 貧しい農家の暮らし。貴族の圧政。大切な存在だった妹の喪失。戦争での徴兵。そして、それに伴う作物の収穫量の低下と、それでも取り立てられる重税……。

 

 何の喜びもなく、ただ搾取され、どこかの誰かの思惑に翻弄されるだけの日々。

 それはまるで果てしなく、そして底のない泥濘の中に囚われているよう。

 彼の周りにある全てのものがその手足に纏わりつき、簡単には死なぬ程度に真綿でゆっくりと締め付けられていくような、そんな出口の見えない生活が彼のすべてであった。

 

 しかし、ある年、いつも通りに徴兵され、いつも通りに戦争が終わり、村へ帰ろうとしたザックに天啓が走った。

 

 ――もしかして、このまま村に帰らずに、この支給された武器をもって逃げた方がマシじゃないか?

 

 そして、ザックは逃げ出した。

 彼がその肩に背負っていた家族への責任も何もかもすべてを投げ出して。

 この先、どうなるかは分からないが、少なくともこのまま農民暮らしをしていても、良い結果にならない事は確かだった。

 どんな結果になろうと、今までよりはマシだと思った。

 

 逃げた先にはきっと自由があると思った。

 未来があると思った。

 

 だが、逃げ込んだその先にも――そんなものはなかった。

 

 幸い、あてもなく遁走した彼を拾ってくれる者たちはいた。それはとある傭兵集団。いわゆる戦時は傭兵、平時は盗賊という胡散臭い連中であったが、戦争の後、人数の減っていた彼らは行くあてのないザックのことをとりあえずは受け入れてくれた。

 

 しかし、そこもまた弱肉強食の世界、奪うものと奪われるものの世界であった。

 徒党を組んで弱い者から略奪はするが、そのグループ内でも互いに奪い合い、足の引っ張り合いは日常であった。すこしでも己の格を高く見せるためには他者を貶(おとし)めねばならない、奪われたくなければ奪うしかない世界であり、奪う力のないザックは最下層の人間に位置していた。

 

 仲間などいなかった。

 

 ザックはただ、そこで生きていくために傭兵団の下っ端として雑事をこなし、上の者に媚びへつらい、戦果のおこぼれを貰うのがやっとであった。

 

 

 そんな生きるために自分を殺し続けた毎日。 

 その結果やってきた、騙したはずの相手に騙され、殺されかけるという因果応報の結末。

 

 だが、そんなものでも、彼は自分に出来るなりにやってきたつもりだった。

 余人からすれば、決して評価もされるような生き方ではない。鼻で笑われ、それどころか唾を吐きかけられるようなものであったが、それでも精一杯生きてきたのだ。

 

 そのすべてを否定されたと捉えたのだ。

 

 

 

 再度、殴りつけられ、ぬかるみの上に転がる少女へ、ザックは飛びかかった。

 生命の危険に必死で暴れる少女の頬をひっぱたき大人しくさせると、懐に隠し持っていたナイフを取り出し、その上着を一気に切り裂く。加減をしなかったため、少女の肌に一筋の傷が走ったが、特段、命の危険などない程度だ。

 

 ザックは少女の鼠蹊部を覆うわずかな布地を力任せに剥ぎ取った。

 少女のひそやかな恥毛が涼し気な夜風に揺れる。

 だが、途端にそれが湿り気を帯びた。

 あまりの恐怖に耐えきれず、少女が失禁したからである。

 止めどなく漏れ出る小水が、きつく閉じた足の間からしたたり、やがて少女の下半身を濡らしていく。

 

 しかし、そんなものなどザックは気にしない。

 今、彼の心のうちを占めるのはこの世のすべてに対する苛立ち、そして目の前の恐怖に震える少女はそのはけ口でしかなかった。

 

 

 恐怖にライトブルーの目を大きく見開いた彼女をもう一度殴りつけると、ザックは濡れたズボンごと下穿きを下ろした。

 

 各地を旅して回る行商人の娘として、性についてそれなりの知識は持っていた。そして中には犯罪に絡んだものも聞き及んでいた。

 だが、それがいざ実際に自分の身に降りかかった今、少女の身体は凍りつき、何もできなかった。

 護身用にと腰に下げた小剣も、これまで旅をしていた中で様々な人に教えられ、筋がいいと褒められていた戦いの術(すべ)も、何の役にも立たなかった。女としての肉がつきかけた足を男の手で力任せに広げられても、恐怖に支配された身体はまともに動きすらしなかった。

 

 ザックは指で少女の場所を確認すると、そこめがけて己が屹立したものを一気に突き入れた。

 

 苦痛の悲鳴をあげる少女。

 だが、それには構わず、ザックは感情のまま腰を叩きつける。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 しばし、辺りには肉が叩きつけられる音と少女の苦悶の声、そしてザックのつぶやく訳の分からぬ呪詛の声のみが響いていた。

 だが、狂騒ともいえる状態であったザックがそれなりに理性を取り戻しはじめた時、ふとそこに別の音が聞こえてくることに気がついた。 

 

 それは、金属同士がぶつかり、こすれ合い立てる音。

 

 

 段々とその音は彼らの許へ近づいてくる。

 やがて、ずしゃりと川岸の泥濘を踏みしめる音が響いた。

 

 

 ザックは少女を組み敷いたまま、すっかり泥にまみれた顔をあげた。

 そこにいたのは一人の男。

 所属を示す紋章などは入っていないが、厚手の布の服の上に金属製の部分鎧を胸、肩、腕、腰、そして足につけている。

 

 何より今、その右手にあり、月光を受けて光を返すのは、抜身の剣であった。

 

 

 口を半開きにしたまま、動きを止めるザック。

 自分を蹂躙していた者の様子、その異変に気がついた少女は好機とみて、下から力任せに自らにのしかかる男を突き飛ばした。武装した男の出現に驚き放心していたザックは、その不意の反撃に抗えず少女の上から転がり落ち、その性器をさらしたまま尻餅をついた。

 そんなザックから這うようにして距離をとった少女はすぐそばに立つ、ちゃんとした身なりの、武装した男の存在にようやく気がついた。彼女は息も絶え絶えに、転がるようにして男の許へと歩み寄る。

 

「た、助けて」

 

 あえぐようにそう口にする、もはや申し訳程度の衣服の切れ端のみを身に纏った少女。

 そんな彼女に鎧姿の男は、やや酷薄な印象を感じさせるその口元を吊り上げて見せる。

 

「おお、大丈夫かい。もう心配することは無いさ」

 

 その優しげな声と笑みに少女はすっかり安堵したようだ。男に縋(すが)りついたまま、がっくりと膝を落とし、ぼろぼろと涙を流しながら嘆きの声を繰り返す。

 金髪をやや長めにのばした男は、そんな彼女を宥(なだ)め、労(いた)わるように再度「もう大丈夫だ」とつげた。

 男の左腕が少女の露わになった褐色の肩に回される。

 

 それと同時にザックに向けられたのは、それが実戦で使用されたであろうことが分かるく(・)す(・)み(・)をもった鋭い切っ先。

 

「おう、そこの男。お前だよ。動くんじゃねえぞ。おとなしくしな」

 

 その声にザックは力なく肩を落とした。

 彼の心を支配した一瞬の狂騒は雲散霧消し、もはや彼本来の、強いものには逆らわないという気質がとって代わっていた。

 おそらく死刑になるか、それほどではなくともひどい目に遭うのだろう。それは分かっていても、もはやザックには反抗する気力は湧き上がらなかった。

 

 ただ唯々諾々と、少女の肩を抱き自分に剣を突きつける男に指示されるまま、彼らと共に林の向こうへと歩いていった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 程なくしてちょっとした坂を登りきり、歩きやすい程度に距離をとって生えていた木々の群れが途切れる。

 樹木の立ち並ぶ林の果て、その際(きわ)から少し離れた所に見えるのは、行商人のものらしき飾り気のない馬車とその奥で揺らめく赤々と燃える焚き火であった。

 

 その光景を見た少女の目に再び涙が溜まる。

 それは彼女の家族が使ってきた馬車。行商人の一家である彼女らにとって、それは移動手段であり、長年そこで生活してきた家でもある。

 突然の暴力の奔流にさらされ虚脱状態であった少女にとって、これまでの日常が目の前に現れたのだ。

 

 少女は家族の名前を叫び、駆けだそうとした。

 だが、どういう訳か。たった今、彼女を窮地から救いだしたその男は、家族の許へ走りだそうとした少女の肩を強くつかみ、彼女が一人でそちらに近づくのを制止した。

 

 訳が分からぬとばかりに男の顔を見上げる少女。

 彼は少女の方へ視線を向けることなく、ゆったりとした足取りで焚き火の方へと近づいていく。

 

 

 

 そして燃え盛る焚き火の傍(かたわ)らへとやってきた時、その近くで何かが動いているのに気がついた。

 

 それは見たものに思わず嫌悪感を抱かせるものであった。

 

 

 そこにあったのはぶよぶよと太った肉の塊。

 それが地面にうずくまるようにして、その身をブルブルと震わせているのだ。

 

 

 最初それを見た少女、そして連れられてきたザックは、いったいそれがなんなのか理解できなかった。

 しかし、ことさら大きな足音を立てて歩み寄った鎧姿の男に、そいつは肉の向こうから振り向くようにして頭をあげた。

 

「よう、ベリュース。水汲みに行ったとかいう女は見っかったか?」

 

 ニタニタとした、聞いただけで実に不快にして粘着質なものを感じさせるその声に、少女は思わず怖気(おぞけ)を感じて後ずさろうとする。

 だが、そんな少女の肩をたった今、ベリュースと呼ばれた鎧姿の男は抱いたまま離さない。

 

「おう、スタッファン。ほれ、この通りだぜ」

 

 その声にスタッファンと呼ばれた男が立ち上がる。

 先ほどのぶよぶよとした蠢く肉の塊は、この男の脂肪がついた背だったようだ。

 そして、男が立ち上がったことで、その下に組み敷かれていた者の姿があらわになった。

 

 それは――。

 

「……お、お母さん……?」

 

 少女は一瞬、言葉に詰まった。

 今、そこに全裸のままあおむけに横たわり、かえるのように足を広げている女性の、全体が赤と青紫色に染めあげられボコボコに膨れ上がったその顔に、いつもの優しげな母の面影を見出すのは容易ではなかったためだ。

 

 

「ふうん。無事に見つかってよかったねえ」

 

 新たに響いた茶化すような女性の声。

 その声をした方に首を廻すと馬車の傍に、こちらに背を向けて立つ女がいた。

 肩越しに振りかえった拍子に、その短めの金髪がわずかに揺れる。

 

 およそ防御という本来の役には立たなさそうな、それこそ商売女の着る服のようにその肌を大きく露出させた奇妙な鎧を身につけた女。その胸元や腰回りを申し訳程度に隠す鎧には、いくつもの金属片が取り付けられ、こ(・)う(・)こ(・)う(・)と燃え盛る炎に照らしだされている。

 

 その金属片はただの飾りではない。かと言って、防御性能を高めるためのものでもない。

 見る者が見れば分かるが、それは冒険者のプレートだ。各々の冒険者としてのランクを示す、それこそ冒険者にとって命そのものとまではいかないが、それに類するほど重要かつ大切な代物である。

 それが無数に、数え切れぬほど、女の鎧には取りつけてあった。

 基本的に冒険者のプレートは一人一つだ。ランクが上がった場合には既存のものは冒険者組合に返却するのが基本である。紛失した場合などに少なくない額の手数料を払うことで再発行はしてもらえるがそれは例外的なものだ。

 だが、今、彼女が身に着けているのは大量の、それも銅、鉄、銀、金、白銀、ミスリル、オリハルコンと様々なランクの冒険者のプレートである。

 

 そこから考えうる答えは一つ。

 それらは冒険者から奪ったものということだ。

 

 いったいどうやって奪った? 寝ているうちに盗んだか? あるいは掏(す)り取ったか?

 それとも――殺して奪ったか?

 

 それに思い至ったとき、彼女の笑みをたたえたその顔はネコ科の動物、それも豹や虎など危険な猛獣を連想させた。

 

「いっやあ、心配してたんだよね。こんな日が暮れた後に、ちょっととはいえ火のあるところから離れるなんてねー。危険な目に遭ってたらどうしよう。動物やら怪物(モンスター)やらに襲われて、さっさと殺されちゃってたらどうしよう、ってね」

 

 へらへらと笑いながら、女は体幹を揺らさぬ達人の動きでこちらへと歩み寄る。

 すると、今まで意識が女に傾いていたため気がつかなかったが、先ほどまで彼女が前に立っていた馬車、その側面に目がいった。

 

 塗装もされておらず茶褐色の木目はそのまま。あちらこちらに幾度も補修の後があり、飾り気はないが時には危険な動物の襲撃にも耐える頑丈な馬車。

 これまで少女の家族はこの馬車とともに各地を旅してきたのだ。

 その年季が入った、少女にとって何より身近な存在であった馬車、その壁面。

 

 今、そこに奇妙なオブジェが飾ってあった。

 

 両腕を大きく開いた大の字になっている人影。

 だが、よく見ればその両の掌には犬釘が打ちこまれ、頑丈な馬車の壁に磔(はりつけ)となっていた。衣服を身に纏っていないその体は幾度も縦に、死なない程度に浅く切り刻まれたらしく、赤黒い血と浅黒い肌、そしてむき出しとなった桃色の肉がコントラストとなって全身を彩っている。右の目は抉りだされ、視神経で繋がった眼球が顔の前にだらりと垂れさがっていた。もう片方の左目はというと、そこに長い鉄釘がつきたてられ、その反対側に伸びた先には蝋燭が据えられており、今も赤々とした火を灯し続けている。鼻はそぎ落とされ、頬の肉はえぐり取られ、そして、その全ての歯がへし折られたむき出しの歯茎には切り落とされたその男性自身の局部が咥えさせられていた。

 

「うわ。こりゃ、ひでえな。クレマンティーヌさん、ちょっとやり過ぎじゃねえか?」

「あはは。別にいいじゃない」

 

 さすがに顔を歪めるベリュースに対し、ケラケラと笑うクレマンティーヌ。そんな笑い声をバックに、文字通り見るも無残な姿に変わり果てた己が両親を目の当たりにした少女は、ひときわ大きな甲高い悲鳴をあげた。

 そして肩を掴むベリュースの腕を必死で振り払うと、この異常な空間から遮二無二逃げ出そうとした。

 

「おっと」

 

 だが、その試みはたやすく潰(つい)える。

 駆けだそうとした少女の足を、ベリュースが無造作に払ったのだ。

 不意に身体が投げ出され、前のめりに倒れ込んでしまう。

 

 したたかに地面に打ち付けられ、痛みにうめき声をあげながら顔をあげた少女。

 

 そこで彼女が目にしたもの。

 倒れ伏した彼女と同じ視線の高さにあったもの。

 それは目を大きく見開いたまま、半開きにした口からどろりとしたどす黒い血を垂れ流している幾多の顔。

 頑丈な鎧に身を包んだ屈強だが朴訥だった戦士。人のよさそうな笑みをその顔に浮かべていたお調子者の盗賊。茶褐色のローブを身にまとい、線の細い印象を受けた魔法詠唱者(マジック・キャスター)。短く刈り込まれた髭が印象的な厳格な神官。

 

 彼女たち一家が護衛として雇っていた冒険者たち。

 わずかな期間ではあるが、寝食を共にし、時には親しくおしゃべりなどした者たち。

 彼らは皆、すでに命を奪われた死体として、馬車の脇に無造作に転がされていた。

 

 

 ガチガチという音が響く。

 少女の顎が彼女の意思に反して痙攣し、真白い上下の歯が幾度も叩きあわされる。

 そんな彼女の傍らに膝を落とし、その後頭部で結んだ髪をぐいと引っ張り自分の方を向かせると、ベリュースは優しく口を開いた。

 

「やあ、お嬢ちゃん。お父さんが死んじゃって大変だろうから、手短にこれからの事を説明するよ。別に心配することなんてないさ。リラックスして聞いてくれ。いいか、俺たちはこれからお前を強姦するんだ。分かるか? 強姦。つまりレイプだ」

 

 ベリュースは少女にその酷薄さを感じさせる顔を近づけ、にやりと笑って見せる。

 少女は言葉にならぬ言葉を探し、ただ口をパクパクとさせるだけだった。

 

「なあに、ようは俺たちはお前のまんこにちんぽをぶっ刺す。そして、何度も突き上げる。たったこれだけのことさ。大丈夫。心配することは無い。後は勝手に俺たちは射精するからな。嬢ちゃんがやる事はとくにない。習うより慣れろさ。すぐに犯されるのに慣れちまうよ。これまでも、みんなそうだったからな」

 

 そう言ってゲラゲラと笑う。その声に周りにいたスタッファンやクレマンティーヌもまた、美しい月の浮かぶ夜空に笑い声を響かせた。

 

 

 

「じゃ、じゃあ、もういいよな? さっさと犯っていいよな?」

 

 辛抱たまらぬとばかりに、先ほどまで少女の母を貫いていた男根を揺らし、歩み寄るスタッファン。

 その近寄ってきた醜悪な身体に、少女は目の端から涙を流し、ガタガタと震えた。

 

 

 だが――。

 

「待てよ」

 

 ベリュースは手をあげ、興奮に身を揺らしていたスタッファンの動きを制した。

 

「順番だぜ」

「な、なんだよ? お前が先にやるってのか? 馬車にもう一人いた娘の方は、お前が先にやるって言ったから、ちゃんととってあるぞ。若い奴、二人とも自分のものにするのかよ?」

 

 抗議するスタッファンに対し、ベリュースは首を横に振る。

 

「ちげえよ。俺たちより先にやる奴がいるんだよ」

 

 言って肩越しに親指で指した先。

 そこには、思いもかけぬところで突然、目の前に広がったあまりの地獄絵図に、ただ茫然と立ちすくんでいたザックの姿があった。

 

 ようやくその存在に気づいたのかスタッファン、そしてクレマンティーヌの視線が、ザックへと注がれる。

 ザックはその視線を受け、口の中で「ヒィッ」と言葉を漏らした。

 

 

「だれ、こいつ?」

 

 クレマンティーヌの言葉に、そういえば名前を聞いていなかったとベリュースは思い至った。

 

「おう! そこのお前! お前、名前はなんていうんだ?」

「え? お、俺は……その……」

「あん?」

「ザ、ザック! 俺の名前はザックです!」

「……おい、ベリュース。何なんだこいつは?」

 

 不機嫌そうなスタッファン。それに対し、ベリュースはいかにもおかしそうに笑いながら答えた。

 

「くくく。こいつはな、この女を襲ってたんだよ」

「は?」

「だからよ。くっはははは。俺がこの女を探しに行ってようやっと見つけたと思ったらよ。おや、残念。もうこいつに襲われて犯られてた真っ最中だったってわけだ」

 

 再びスタッファンとクレマンティーヌの目がザックに向けられる。

 

「へえ、レイプ犯か。こんな人里離れた所でやるなんて、ずいぶん物好きだねえ」

「ふへへ。なかなか見どころがある奴じゃねえか」

 

 面白いようなものを見る目に変わった彼らの視線の先でザックは身を縮こまらせた。

 その肩を叩かれ、ザックはビクンと身を跳ねさせる。

 

「じゃあ、さっそくさっきの続きをしようか。なあに、今度は邪魔しねえよ。たっぷりとやってやんな」

 

 そう言って、にこやかに笑いかけるベリュース。

 だが、突然そう言われてザックは困ってしまった。

 

「い、いや、急にそう言われても……」

「……なに?」

 

 不意に険のこもった声が投げかけられる。

 突然、機嫌が悪くなった様子にザックが拙いと思うより先に、その剣を握った手で横っ面を殴り飛ばされた。

 

「お前、いまさら何言ってんだ? 強姦とかやってた奴のくせしてよ!」

 

 倒れ込んだザックの腹に容赦なく蹴りが飛ぶ。

 

「おら、とっととズボン脱げよ!」

 

 急に降りかかった暴力の前に、ザックは慌てて泥だらけのズボンを下ろす。だが、下穿きの中にあったものは、この異常な空間にすっかり縮こまったままだった。

 

「あらあら、すっかりちっちゃくなっちゃってるじゃないの」

 

 クレマンティーヌの小ばかにしたような声に、ザックは股間を押さえて背を丸くする。

 スタッファンも同じように笑い声をあげる中、ベリュースはそれには同調せず、少女の後ろで束ねた髪をひっつかむ。「いたい!」と叫ぶ少女の抗議になど構うことなく引っ張っていき、その顔をザックの股間へと押し付ける。

 間近に押し付けられたモノ――各地を旅していたため、見るのはさすがに初めてというわけではないが、しっかり見たことはなく、先ほどはちゃんと見る状況でもなかった――に少女は口の中で悲鳴を漏らす。

 

「おい、嬢ちゃん。舐めてやれよ」

「……えっ?」

「だから、そいつのちんぽを舐めろってんだよ」

 

 少女は訳が分からないとばかりに「な、なんで……」と口にする。

 

「こいつ……ザックがお前を犯すんだよ。こんなに縮こまってちゃできないだろ。お前が舐めておったててやるんだよ」

「い、いや!」

 

 少女は必死で首を振って逃げ出そうとするが、そんな少女の脇腹にベリュースの鉄脚絆を履いた足先が叩きこまれる。「かっふ……」と息が詰まる少女。容赦のない痛打に涙するが、それでもベリュースは何度も蹴りつけた。

 

「あのよぉ。何わがまま言ってんだ? さっさと舐めろよ! それともパパやママみたいになりたいか?」

 

 その言葉に、見るも無残な姿となった父や母の姿が少女の脳裏をよぎる。少女はガタガタと震えながら、赤色の舌先を伸ばす。鼻をつく、むあっとする臭気に顔を歪ませ、その目に涙を浮かべながらつい先ほど自分を貫いていた、いまだわずかながら自分の破瓜の血がこびりついているザックの性器を舐めまわす。

 そうしていると、すっかり小さくなっていたモノがむくむくと大きさを取り戻してきた。

 

「でも、大きくなっても、あんま大きくないね」

 

 クレマンティーヌの容赦ない評にザックの胸に羞恥がよぎるが、そんなものなど気にも留めずベリュースは不意にグンと少女の髪を後ろに引っ張った。

 「きゃっ」という声と共に少女が仰向けにひっくり返る。

 

「さあて、そろそろ準備はいいだろう。じゃあ、お待ちかね。セックスの時間だぜ」

 

 へらへらと笑うベリュースの声。そしてその視線が、すでに股間が臨戦状態となったザックへと向けられる。

 ザックはまるで現実感のないふわふわとした感覚に包まれていた。次から次へと起こる訳の分からぬ出来事の連続に、彼の頭はその処理限度を超え、あたかも酒にでも酔ったかのような不思議な認識のままゆらりと身を起こした。

 

 目の前にあるのはほんのわずか前、自分自身によってこじ開けられたばかりの少女の性器。

 傍らに立つベリュースの持つ刃の煌めきによる恐怖より、こんなおかしな連中の前でこんなことをやっていていいのかという理性より、ただひたすら股間より湧いて出る情欲が勝った。

 もはや、他の事は考えられなかった。

 

 ザックはガバリと少女の上にのしかかった。

 

 少女の中に自身をねじ込む。

 数刻前、何の準備もなしに襲い掛かった時とは異なり、少女の中はねっとりと濡れている。先ほどは、ただ少女の被虐のみしか楽しみがなかったが、今度は腰を動かすたびに快楽が渦巻き、貫かれている少女の声にも苦痛以外のものが混じっていった。

 

 初めてでもないのに耐える間もなく、ザックは少女の中に精を吐きだした。少女は悲痛と嫌悪の声でそれを迎える。

 荒い息を吐く少女。

 しかし、ザックは固さを失わぬままの怒張を再度、動かし始めた。たった一度精を放ったくらいでは収まりがつかなかった。

 多少は慣れてきたとはいえ、破瓜してまだ間もないところへろくに休みもなしに押し入れられ続ける少女は苦悶の声をあげた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 荒い息を吐くザック。

 腰を引き抜くと、結合部から白濁液がどろりとあふれ出す。

 休みなく繰り返された交。それは都合四度、精を放つほどであった。

 つき合わされた少女は、もはや息も絶え絶えの有様である。

 

 ぐったりとした少女から体を離し、肩で息をするザックに浴びせられたもの。

 それは周囲からの拍手であった。

 

「はっはっはあ! いっやあ、抜かずに一気に四発とは見ごたえがあったぜ!」

「あはは! 本当に見ている前で必死にカクカク腰動かしてるとか、超ウケルー!!」

「ふへへ。やればできるじゃねえか!」

 

 すっかり意識の外にいた者たち、ベリュース、クレマンティーヌ、スタッファンの三名がケラケラと囃(はや)したてる。

 男たちは性も根も尽き果てへたり込むザックの肩を叩く。

 ぼんやりと、それを受けるままだったザック。

 だが、その瞳が次に放たれた言葉に大きく見開かれた。

 

「よくやった。心配するこたぁねえ。もう俺たちは仲間だ」

 

 その不意にかけられたベリュースの言葉に、虚をつかれたザックはびくりと身体を震わせ振りむいた。

 それを迎えたのは、安心させるように優しく微笑むベリュースの顔。

 振りかえると、後ろに立つクレマンティーヌもスタッファンも仲間を迎えるように笑みを浮かべていた。

 

 それらの顔を見て――。

 

「う、うっぐぅぅ……」

「お、おいおい、どうして泣いてんだよ」

 

 予想だにしなかった反応に困ったようなベリュースの声にも、ザックの両目から流れる涙は止まらなかった。

 

 

 仲間。

 

 これまでザックの人生の中で、仲間と言えるような相手はいなかった。

 彼の周りにあるのは常に上下の関係のみであった。だれもかれもザックを下に見て、侮蔑するか利用しようとするだけの存在だった。

 友情などという言葉は、物語の中だけの言葉であり、その実は人をおだてあげて唆(そそのか)す、騙すためだけの言葉だと思っていた。

 

 だが、この場にいた彼ら。

 ベリュース、スタッファン、そしてクレマンティーヌは違った。それなりに面白がっている様子はあったものの――特にクレマンティーヌは――、ザックの事を対等の相手として、一個の人間として見てくれている。 

 

 こんな事で、この程度の事で自分が泣くとは彼自身思ってもいなかった。

 

 まっとうな仲間意識でない事は分かっている。

 彼らはただ自分たちと同じ犯罪者としての資質を、ザックの中に見ただけなのだろう。

 だがそれでも今まで彼にこのような、暖かな視線を向けてきた者は――記憶の限りただ一人、妹のリリアだけだった。

 妹であるリリアを除けば、彼らだけだったのだ。

 

 突然の号泣に周りの者らが困惑の表情を浮かべる前でも、ザックの両目からは涙が途切れることなく溢れだし続けた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ふっあぁぁ」

 

 声を隠すことなく、手綱を握ったまま大きく欠伸をするベリュース。

 隣の御者席に腰かけた、もうすっかり落ち着きを取り戻したザックは、緊張にその身を固くしたまま尋ねた。

 

「あ、あの……ベリュースさん。あれって、あの程度でいいんですかね?」

 

 ザックの心配は当然である。

 

 彼らはあの後、ザックが仲間になった記念と称し、まだ息のあった少女とその母親、そして捕まえておいた少女の姉――少女より年かさなだけあってより肉感的であったが、姉妹らしく面影があった――を、あらためて強姦し直した。さらには、彼女らに対して口にするにも悍ましい拷問をしてたっぷり楽しんだのだ――そちらはクレマンティーヌとスタッファンのみがであるが。

 そして事が終わったあと幾多の凶行の証拠隠滅として、一緒に殺した冒険者たちの遺体を林の中に運んだ。それらを林の中に掘った穴の中へと落とし、特殊な錬金油で燃やしてから土をかけて埋めた。

 だが、あの時、殺した行商人たち一家についてはとくに何をするでもなく――金目のものを奪ったくらいで――あの場に馬車ごと放置してきたのである。

 

 だが、そんなザックに対し、ベリュースはもう一度大きなあくびを返した。

 

「心配すんなって。林の中の一角だぜ。ピンポイントでレンジャーとかが埋めた場所を捜しでもしなけりゃ、見つかりっこねえよ」

「そ、そんなもんすか」

「おうよ。それに馬車ごと全部隠すなんてできやしねえからな。なあに、あれが見つかっても、護衛をしてた冒険者連中が裏切ってあいつらを殺した。そして逃げたって思われて終わりさ」

「ああ、冒険者たちの持ってた剣で、あらためて死体に切り傷とか刺し傷作ってたのはそのためですか」

「そういうこった」

 

 そう言って、登りくる太陽を見上げ、眩し気に目を細めるベリュース。

 後始末をしたのは冒険者たちの分だけとはいえ、夜のうちに数人分の死体を林の中まで運び、そして彼らが入るほどの穴を掘る作業は、結構な手間だった。それも一晩かけたお楽しみの後でだ。

 今、ベリュースが手綱を握る、それこそ貴族が乗るような華美な装飾の施された大型の馬車――あの場所から少し離れた所に隠してあった――の中ではスタッファンとクレマンティーヌがぐっすりと眠っている。

 

 ザックはスプリングのよく効いた馬車に揺られながら、浮かぬ顔で下を見つめていた。

 

「あ、あの……」

「あん?」

 

 全速力ではないとはいえ、歩みを進める馬車上のため、ザックの小声が聞き取りづらかったベリュースが大きな声を出す。

 その声色に委縮しながらも、ザックは尋ねた。

 

「あ、あの、これからどうするんですか?」

 

 その問いに対し、ベリュースがしたのは空を見上げることだった。

 答えがない事にじれったさをザックが感じるほどの時間、明けの紫から青へと変わる空、そしてそこを流れていく雲を眺め、ベリュースはつぶやいた。

 

「さあてな」

「さあてって……行くあてとか、目標とかないんですか?」

「はっはっは! とくに決めてもいねえよ」

 

 言うと、ベリュースは手綱を上下させる。その合図を受け、馬車を引く馬たちはその足を速めた。

 

「なあに、これからの先の事はわからねえ! でもよ、それが自由ってもんだろ! 世界中、どこでも好きなところに行って、そして――女どもを犯りまくろうぜ!」

 

 朝の空気を切って街道を駆けぬける馬車。

 そのまだ暖まらぬ風に吹かれながら、ザックはいったいこれからどうなるのだろうと考えた。

 

 先が知れぬ霧の中を突き進むような、はるか高い雲の上から身を投げたような、立ち位置の定まらぬ浮遊感にも似た不安に胸が苦しくなる。

 だがそれと同時に、これまで自分の身にねっとりと纏わりつき、絡みついていた世の条理から解き放たれたような、不思議な開放感が彼の身を包んでいた。

 

 

 彼が生まれて初めて体験する、その感覚。

 

 それこそが――『自由』だった。

 

 

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