※この作品はR-18です。

オレが若頭のペット(女)ですかっ!?   作:白千ロク(玄川ロク)

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【 まえがき 】

■廃業した元やのつく自由業のお屋敷でいちゃいちゃするお話です。
魔法とか契約獣とかも出てきます。

■作中には変態行為がちょこちょこ出てきますので、ご注意を

2018.09.08


1話

 オレこと宮木(みやぎ)静(しずか)はいま、厳かという言葉がぴったりな場所にいる。母屋の奥の和室に通されたはいいが、そこでは濃い色のスーツを着た俗世ではない男たちが待っていた。もはや場違いという言葉しかないが、そうもいかない事情がある。高卒フリーターという位置にいるオレがこうしてここにいるのは、じいさんに呼ばれたからだ。今日ここに来てくれないかと。二歳下の妹ではなくオレが指名されたのは、学生の妹ではできないなにかがあるからであろう。

 

 中央に鎮座ましましている和服姿のじいさんは「しばらく見ない間に、静はえらい別嬪(べっぴん)さんになったなあ」と目を細めた。同じく和服姿で隣に座るばあさんも「ほんまになあ」とふふふと笑うが、オレは男だぞ。別嬪さんよりはかっこよくなったと言ってくれやしないかい。いや、うん、ね。童顔の上に童貞卒業にはまだまだの道のりがあるけれどね、けれどさ、男の自負というものがあるんだよ。

 

 なにを言っているのかと半眼でじいさんたちを眺めていれば、「しーちゃんだ!」との弾んだ声のあとに、背後からがばりと抱きしめられた。声で誰か解るほどには馴染みがあるから、「フェイ」と左肘でつついてやる。

 

「やだ」

「嫌じゃねえよ、離せ」

 

 おそらくは嫌がるように顔を逸らしているであろうフェイ・リアリデは、言ってしまえば王子様だ。あ、いや、間違えた。王子様といっていいほどに王子様の容姿をしている――だった。金髪碧眼――美しいプラチナブロンドの髪に青緑の瞳――で長身痩躯の美形とくれば王子様でしかない。小さなころにじいさんが拾ってきたフェイは、いまや若頭――簡単に言うと後継者と呼ばれる地位にいた。たしかに頭が切れるからおかしくはないけれども、見た目的には対照の位置にいるから、やのつく自由業だなんて信じられないんだよなあ。ばあさんだって見た目と温厚な性格にメロメロだったし、娘である母さんもその妹さんもフェイには甘かった。王子様すげえとみんなが思っただろう。世間体を気にして表だった交流をしていなかった母さんと妹さんをここ、「堂天(どうてん)組」に足を運ばせたのだから。

 

 そんなフェイになぜか気に入られてしまったオレは会う度にこうして構われていたりする。そりゃあね、頭ひとつ分の身長差があったりしますしね。……もう少しなきにしもあらずであるが、正確には言わないから。

 

「はー、しーちゃんいい匂い」

 

 いい匂いなのはお前だろうが。香水の匂いがぷんぷんするぞ。誰の香水の匂いかは知らないが。

 

「はいはい、いい匂い、いい匂い。それは解ったから離してくれ」

 

 男たちの視線が痛いんだよ。早く離しやがれ!

 

 ――とは言えないのは、フェイからなんかこう熱い視線があるからだ。怖い。なにこれ、怖い。

 

「フェイ、それぐらいにな」

「はーい」

 

 じいさんの呆れた声にようやく離されたオレは、「しーちゃんはここね」と上機嫌なまま上座に案内される。フェイの隣に。

 

「いや、オレは関係ないから……、ここには座れない」

「嫌だなあ、大いに関係があるから呼ばれたんだよ?」

 

 まあそうか。フェイの言葉に「そうだよな」と返しながら思案する。本当に関係がないのなら呼ぶ必要はないからなあ……。

 

「なら、お願いします」

 

 空いていた座布団の上に腰を下ろせば、「違うよ」と腕を引かれた。あまりにも突然のことに「んへぇ!?」と実に間抜けな声が出てしまったが、誰もなにも言わなかった。笑い声ひとつもしない。

 

「え、えと……?」

 

 なにが起きたのかと周りを見渡せば、じいさんの渋い顔があり、あ、なんか見ちゃいけないやつだぞ、これと視線を下げる。そうして、腹に回されたフェイの腕が視界に映った。ようやく伝わってきた背中の温もりが、いまの体勢を理解させる。

 

 オレはふたたび背後から抱きしめられているわけか。意味が解らないけれど、ここでなにか声を出してしまえば男たちに睨まれること必至だ。いくらじいさんの孫であろうとも、オレは長く組から離れている余所者である。いまの組織がどうなっているのかなんてさっぱりだ。しのぎがしづらいご時世だとしか解らないからなあ。

 

「――集まってもらったのは、他でもない大事な話があるからだ」

 

 ぼんやりとじいさんを眺めていれば、少ししてから凛とした声が和室に響いた。しかしやっぱり発言はあまりない。重苦しい空気があるだけだ。フェイを除いて。

 

「はー、しーちゃんはかわいいねえ」

「お前ちょっと黙れ――よぉっ!?」

 

 いまなんか耳朶に変な感触がありましたけど!?

 

「あー、ほんと、早く俺のものにしたい」

 

 ひいいいい! なにを囁いているんですかねええええ!?

 

 混乱につぐ混乱に涙が浮かんだ先、じいさんがもたらした言葉は「組を解散する」という予想だにしなかったものだ。は? と思う間もなく、また声を張り上げる。

 

「あとのことはフェイ・リアリデにすべてを任せることにする」

 

 そう言った刹那、「耄碌(もうろく)したのか、親父ぃ!」という叫び声とともに銃口がじいさんに向けられた。オレが「じいさん!」と叫ぶと同時に、銃声が三発ほど鳴り響き、きんとした耳には呻き声と「誰に銃口を向けているのかな?」と暢気な声が届く。

 

 こうなることを予想していたのかなんなのか、それとも、組長としての体面からかは解らないが、じいさんたちは一歩も引かなかった。三発浴びて血を流す男には鋭い眼光が向けられている。両肩口に一発ずつでも痛いというのに、片足も撃ち抜かれているらしい。

 

「お前さんは恩を仇で返す気だったのかい?」

「違う……、親父が、わけの解らないことを言うからで……っ」

「わけの解らないことをしているのはお前さんだろう。このご時世、食うのは難しい。だから考えたんだ。――組を解散しようとな。あとは好きに生きろと言いたいところだが、そうもいかない。お前さんたちを放り出すことはできんからな。お天道様に顔向けできないことはしてこなかったつもりだが、その筋だとやはり働き口も少ないだろう。そんな話をしていたら、フェイはお前さんたちをすべて養うと言ってくれた。すべてだぞ、すべて。わしにだってできんことを、フェイ・リアリデという男はする気だ」

 

 なにを言っているのかいまいち理解できないオレを他所に、ざわつく部屋を押さえたのは次の言葉だった。

 

「――条件つきでな」

「条件とは?」

 

 重い言葉にひとりの男が先を促せば、じいさんたちは鎮座ましましていた場所から立ち上がり、オレの前へと膝をつく。なんだろうか、嫌な予感しかしないんだけども……。

 

「静、堪忍な」

 

 ばあさんの声は優しげだが、涙ぐんでいる気さえする。

 

「不甲斐ない祖父母を許してくれ、静」

 

 深々と頭を下げる祖父母だが、話がついていけない。しかし、フェイの言動から予想だけはついている。オレだって考えることができるのだ。

 

「じいさん、条件ってさ……、その……、やっぱりオレに関係があるんだよな……?」

「ああ。フェイが出したただひとつの条件は、静を差し出すことだ」

「はは……、そういうことだと思ったよ。オレは売られたってわけか。組の人間を秤にかけて」

「堪忍え、堪忍え、静」

 

 ばあさんは泣きながらオレの手を握ってくるが、組の人間をすべて養うなんていう好条件では、孫という価値が霞むわな。解るぞー。まあ、妹を指名しなかっただけでもよしとしようか。だからじいさんもばあさんも認めたのだろうし。不承不承と思いたいが。

 

「ばあさんもじいさんも、苦しんだであろうことは解っているから大丈夫だって。とりあえず、フェイ、お前は殴らせろ!」

「了承したととっていいのなら、いいよー」

 

 シリアスをぶち壊す間の抜けた声に一瞬で怒りが萎んでいく。なんてことだ。

 

「お前は空気を読めるようになれ」

「え、ちゃんと読んでるけど? 爆発しそうな性欲はちゃんと抑えているしー」

「はっ!? 差し出すってそっち系で? そっち系なのか!? オレはてっきり、炊事をしろやって意味だと思ってたんだけどっ」

「やだなあ、俺たちは一通りの家事は叩き込まれているから意味がないよ? それにしーちゃんに家事なんてはじめから考えてないから。俺の考えはね、しーちゃんにはペットになってもらおうかなってことだよ?」

「ちょ、待て、待て待て待て! ペットってなんだよ!? オレは小動物かなにかか!?」

「ペットと書いて女って読むんだよー」

「は!? おんっ? なんだって……?」

「しーちゃんは俺の女になるの。他の人間は契約獣の性処理係になってもらいまーす」

 

 いよいよ本当に言っている意味が解らないと眉を寄せたらば、「うおおおお!」と驚きとも困惑ともとれるような声が幾重にも聞こえてきた。

 

「女になってる!」

 

 なにを言っているのだろうかと首を傾げれば、「静、場所を変えましょうね」と、涙を拭いたであろうばあさんに腕を引かれた。組を取り仕切るじいさんが愛した人はやっぱり強いらしい。やってきたのは事務所の方であり、じいさんたちとは向かい合わせに黒革のソファーに腰を据えたオレとフェイは、ばあさんが出したお茶を啜っている。いまはそんな暢気なことをしている場合ではないのかもしれないけれども、落ち着くためにはしかたがないことだ。

 

 オレはフェイの足の間に押し込まれていたりするのだが、垣間見た和室とぽつりぽつりと話された現実に頭が追いついていないのだから。いまは現実逃避が一番であろう。

 

「ばあさんのお茶はうまいなー」

「おおきに。ほんまに堪忍な、静」

「ああ、うん……。何度も言わなくても、それはっ、解ってるか、ら……」

 

 もう謝らなくていいとなんとかこぼせば、「絆があるねー」とおちゃらけた含み笑いが降ってきた。なんとかなのは、オレの胸が揉まれているからだ。

 

 フェイの過去を話される間にオレさえも女にされた。抱かれたとかではなくて、正真正銘の女の子に。ばあさんの手鏡で見れば、理想的な子がそこにいたのには驚いたさ。童顔でも清楚な子という合わせ技なんだからな。そして巨乳。オレの方がつき合いたいわ。スーツに押し込まれたおっぱいは布を破りそうなほどに押し上げている。肌着をきちんと着ていたのに、肌着の存在感はなく、胸の先端がこんにちはしているのが気になるが、気にしてはいけないんだろう。黒い髪は肩を越して背中の真ん中まであるようだ。

 

 ばあさんに「ありがとう」と手鏡を返せば、フェイは熱の籠る声で「夢みたいだよ、しーちゃん」と囁いてすぐさま胸を鷲掴み、激しく揉んでくる。

 

「ばっ、バカ! も……、やめっ……ぅんんっ!」

 

 両乳首を引っ張り上げられれば、躯が跳ねてしまう。

 

「フェイぃ、おまっ、ほんとに、やめろってばぁ!」

 

 肘鉄砲を食らわすが効果はなく、ならばと両手を引き剥がせば、ようやくことが終わった。じんじんと痺れる乳首に「ふぁあ……」と怪しい吐息が漏れてしまうが、フェイときちんとした話をするために躯を半回転させる。言っておくが、オレはまだ一発も殴っていないので了承したわけではないのだ。なんだかさらに身長差が開いてしまったわけだが、悔しいとは思わない。いや、歯を食い縛っても悔しさは出してはいけない。「抱きしめやすいよ?」と言われるだけなんだから。おっぱいというすばらしい武器があるのだから我慢だ、我慢。

 

 見上げるしかなくなったフェイは「キスしたくなっちゃった?」と調子のいいことを言うが、「そんなわけあるか!」と声を張り上げてやる。

 

「キスは手を繋いでからであってだな――って、そういう話はいいんだよっ。とりあえずは、あれだ。フェイがオレのことを嫌いなのは解った」

「えっ? 待って待って待って、なんでそうなるの?」

 

 目を丸めたのちに、なんで、なんでと繰り返すフェイだが、好意を持つ人間の性別を一方的に変えるなんて嫌がらせしかないだろう。そりゃあ、本人が望んでいればなんの話もないが、オレは望んでいなかった。被害者と言っていい。

 

 そう捲し立てたあと、フェイは「そんなわけないでしょ」と一蹴してくれる。

 

「俺はしーちゃんが好きで好きで堪らないんだよ? ほしくてほしくてどうしようもなかった。俺が女の子になってもよかったんだけどね、やっぱり俺はしーちゃんを抱きたいし、俺だけに狂ってほしいと思ったんだ」

「いくらフェイであろうとも、オレは男に抱かれる趣味はないからな!」

「だから性別を変えたんだよ。文句は言わせないからね? いやあ、俺は自分を天才だと思う」

「ふざけるな!」

 

 平手打ちをかませばきれいに入ったようで、いい音が響く。だが、その瞬間――目の色が変わった。目の前の獲物(女の子)を犯さんとする獣の目。孕んだ狂喜におののくが、もう遅い。

 

「了承した――、よね。しーちゃん」

 

 弾む声に後退るが、腰に回されていた腕に阻まれてしまう。

 

「や、やだ……、嫌だ! なにかの冗談だよな? なっ?」

「ああ、拒むなら拒むでいいよ? ――俺は組の人間がどうなろうとどうでもいいし」

 

 にこりと笑う男はなんと言ったか。いくら王子様のような見た目をしていても、やっぱりそこはやのつく自由業の人間らしい。蠱惑的な青緑の瞳が細められれば、湧き上がった恐怖に躯が動かなくなってしまう。

 

 逃げられない。いや、逃げることは許さないと語る瞳が怖い。初めて目の当たりにした本気が恐ろしい。

 

「っ……、ど、して……」

「フェイ、貴様……っ、どういうつもりだ!」

 

 どうしてオレなのか。そう問う震えた声はじいさんの怒声に掻き消されていく。しかし、その迫力ある声にも怯むことなくフェイは続けていった。ふたたびオレの胸に手を伸ばして。

 

「どうもこうも、恩はあるけれど情はないということですよ」

「んぅっ!」

 

 あっけなく捕まり、腕ごと抱きしめられたあとにきゅうと乳首を潰されれば、オレに勝ち目なんてない。楽しむのはただひとりだ。「い……、嫌だっ」と、どうにか逃げようともがいたが、オレができたことはなんとか身じろぐだけだった。躯の言うことが聞かないから。この雰囲気のなかでも、こうして肝が据わっていることも若頭へと上り詰めた一因なんだろう。

 

「あっ、や、め……っ、フェイぃ」

「俺はしーちゃんを――宮木静を手に入れるためだけにここまでやってきたんですよね。他の人間が野垂れ死のうがどうなろうが知ったことではありませんから」

 

 なんて男なんだ。期待を抱かせて落とすなんて。フェイにとっては、じいさんたちもただの駒でしかなかったのか。

 

 見せつけるように快楽を与えられる間にも、フェイを選んでしまった後悔からだろうか、じいさんたちの顔からは覇気が消えていく。可哀想なほどに青くなっていっているが、オレの方は反対に赤くなっていっていることであろう。祖父母の前で辱しめられるなんて恥ずかしいことこの上ない。

 

「フェイ、わしらはどうなってもいいが、若いやつらだけは救ってやってくれないか? 生きられるのは狭い世界なんだ」

「残念ですね、本当に耄碌してしまったんですか? 俺は、しーちゃんが拒むのならどうなろうが知ったことではないと言ったんですよ?」

 

 弄(もてあそ)ばれる乳首は痛いくらいなっており、指先で弾かれれば、いままでにない快感が駆け抜けていく。

 

「ふぅうぅ!」

「俺のペット(女)になるか、それとも拒むか、選ばせてあげるね。拒んだ場合でも俺は離さないし、他は地獄絵図になるかもしれないことは言っておくよ」

「そっ、そんなのっ……」

 

 ここでフェイを切れば、あとあと大変なことになると示唆されてしまえば、選べる選択肢はひとつしかないではないか。そもそも、どちらを選んでも離してくれないのなら意味がないだろう。

 

「早く選んで?」

「ひゃうぅ! やっ、やめっ! それはっ、やだっ」

 

 引っ張り上げられた乳首をこねられるが、あまりの快感に嫌々と頭を振る。こんなのは知らない。「乱れる姿もかわいいね」と耳元で聞こえるが、どちらの耳かはもう解らなかった。

 

「んっ、フェイぃ、ダメっ」

 

 右耳朶を食まれたと気がついたあとには、「もっと感度を上げようか」と恐ろしい提案を囁いてくる。

 

「やっ、それ、やだぁ、嫌っ」

「まあ、その前に――、早く選ぼうね?」

「ひどっ、ひどいぃ、こんなのっ、聞いてないのにぃ」

「えっ!?」

 

 重圧に堪えきれずにとうとう泣きじゃくってしまったオレから慌てて手を離したフェイは、ここでようやく普通に抱きしめてくる。情けなくも涙が止まらないオレの横髪を撫でつつも、唇には触れるだけの口づけをされた。一応、快感に負けたわけではないとは言っておくよ。

 

「ごめん、ごめんね。かわいいからって意地悪なことをしすぎたね」

「変態野郎がっ。すっ、好きな子にこんなことしてっ、嫌われたって、当然なんだからなぁっ。フェイはっ、オっ、オレのことが好きなんだろぉっ?」

「うん。好き。大好き。何度だって謝るから――嫌いにならないで」

 

 すんと鼻を啜る言葉に返ってくるのは甘い囁きだ。何度となく口づけをされる間にも「好き」と「大好き」を繰り返され、耳が溶けそうになってしまった。最後は「俺はしーちゃんだけを愛しているんだよ」と言うもんだから、ならと、こちらも覚悟を決めてやる。

 

「解った。その言葉に偽りがないのなら、オレを――宮木静をお前にやるよ。文句は言わせないからな。その代わりに、ひとつ頼みがある」

「ひとつでいいの?」

「いまはな」

「なに?」

 

 邪魔でしかない袖で涙を拭い、フェイに向き直った。オレに女性経験がないことなんて目の前の男にも解りきっていることだが、慣れないうちから激しくされるのは勘弁願いたい。

 

「う、うぅん……、あー、のなっ、せっ、セックしゅは優しくしろ! 本当に本当に優しくしろよ! 絶対だからなっ」

 

 軽く咳を払って一気に言ったからか、大事な場面で噛んでしまったが、言いたいことはちゃんと言えた。なにをどうするのかは勉強していても、童貞には荷が重いんだよ。解っただろうかとフェイに視線を遣れば、面白いぐらいに顔が真っ赤になっていた。

 

「ふはっ、真っ赤だぞ、お前」

「はは……、本当にしーちゃんはかわいい」

「本当にいいのか、静」

「いいよ」

 

 ようやっと血色がよくなったじいさんの声に「覚悟は決めたから」と頷けば、「そうか」と短く返された。解散するにしても、未来を託したフェイを切ることはじいさんだって望んでいないはずなのだから、これでいい。

 

「オレはじいさんもばあさんも好きだから、困ることはしたくないんだよ。それにな、じいさんも手に負えないところがあるフェイだけども、オレには弱いところがあるだろ? つまりはさ、オレが繋ぎ止めて優位に立てばいいんだよ。そうすれば問題はないはずだ!」

 

 躯を戻して妙案だと胸を張れば、「あはは、それ言うんだ」と笑い声が届く。またまた背後から抱きしめられてしまうが、フェイはこうするのが好きなんだろう。怒らせると怖いから、いまは好きなようにさせておくのが吉か。

 

「嫌ならいいけどな~」

「嫌だなんてそんなこと、あるはずもないから。俺はしーちゃんに攻められてもなんら問題はないしねー」

 

 勝ち誇った笑みはしかし、重なる唇に負けていく。ちゅっとリップ音を響かせる口づけは、なんだか気恥ずかしい。

 

「フェイっ……、キスは、手を繋いでからだろっ」

「んー、ちょっと言っている意味が解らないな」

「だからっ、ちゃんとした段階があるだろってことでだなあ」

 

 いや、段階がどうのこうのと考えるよりも、大事なことがあったか。腰に当たる感触からして、一度抜いた方がいいぐらいにガチガチになっていたりするんだよなあ。これはオレがなんとかしないといけないのか……? 手か口でか? いや、口はちょっとハードルが高いぞ?

 

 ぐるぐるそんなことを考えていれば、大きな咳払いが届く。どうしたのかと「じいさん?」と視線を動かせば、「母屋に戻る前に大事な話がある」と口を開いた。

 

「実はな、解散をするにもある程度の金を積む必要があってだな……。わしらはその金もフェイに頼ってしまったんだよ」

「解散するのに必要なのか、それは」

「稼ぎ場が減るということだからな。生きるのにも金がいるんだ」

「まあ、そう言われれば納得はできるけど……、じいさんも大変なんだな」

「済んだことに労りは不要だ。静には迷惑しかかけんが、お前さんたちを含めた若い者は母屋を使え。隠居じじいたちは離れで暮らすからな。なにかあれば来い」

「静を頼みますよ」

「はいはーい」

 

 フェイがおちゃらけた返事をすれば、じいさんたちは立ち上がり、事務所をあとにする。静まり返った部屋のなかで、おずおずとフェイに視線を遣ると、ふたたび瞳を細めた。前のような恐怖はないが、オレはちゃんとした生活ができるんだろうかという不安が募る。フェイがオレを不幸にさせるわけがないと解っていても、やっぱり不安なものは不安なのだ。

 

「どうしたの?」

「いや……、上納金はいくらぐらいなんだろうかと思って……」

「ああ、たしか五千万だったかなー」

「五千っ!? 高っ! えっ、それ払ったのかよっ!?」

「上から言われれば下は払うしかないでしょ? 一千万なら用意できたけれど、提示されたのはそれ以上だし、頭を下げられたら出すしかないよねー。面倒なことは嫌いだから、全部俺が持ったわけだ。けれどまあ、それでしがらみがなくなるのなら、むしろ安いぐらいかもしれないねー」

 

 緩く首を傾げるフェイに不安を悟られないようになんとなく答えたが、返ってきた言葉に目を丸めてしまう。五千万なんて大金をぽんと払えるフェイの財力はどうなっているんだ。まさか本当に、どこかの国の王子様だったりするのか……?

 

 オレのそんな考えを読んだらしいフェイは「王子様は勘弁だなー。自由がないからね」と答える。

 

「まあ、冗談は置いておいてさ、フェイに返す分は月にいくらぐらい?」

「恩に報いる行為なだけだから、返す必要はないよ」

「オレが気になるからダメ!」

 

 そりゃあ、じいさんとフェイはそれでいいかも解らないが、聞いてしまった以上はどうにかしたい。オレの力ではどうにもならないのかもしれないけれども。

 

「じゃあ――躯で返してね」

「ふぁっ!?」

 

 いまなんつった? 意味が理解できずに目をしばたたかせば、「かわいい」と口づけてくる。押し倒しながら。

 

「おっ、おまっ、いまなんてっ」

「だから躯で返してもらうねー。一回いくらがいい?」

「なっ、なぁあぁあっ」

 

 あまりの言い草にかっと頬が熱くなれば、「真っ赤」とからかうような声音とともに頬に手が添えられた。そうして撫でられるまま、続けられていく。

 

「一回いくらがお望みかなー?」

「知らねーよっ、そんなのっ! ――う、わっ、フェイっ!?」

 

 そんなことを言われても困ると、そんな意思を込めた目をフェイに向けた瞬間、頬に宛がわれていた手はシャツのなかへと忍び、捲り上げていった。反動で揺れるおっぱいに思わず目を閉じるが、感じた生暖かさに「あふぇっ!?」と声が漏れ出ていく。

 

「あっ、えっ、にゃにっ!?」

 

 目を開けると、フェイが胸にしゃぶりついているところであり、プラチナブロンドの髪が肌をくすぐっている。

 

「えっ、えっ、フェイぃっ」

 

 ぢゅるぢゅるとなんとも言いがたい音が響くのは、そういうことだったのだ。あまりの衝撃にすぐさま顔が熱くなっていく。セクシービデオやそういう類いの画像をそういうことのお供にしていたとしても、童貞には刺激が強すぎていけない。

 

「っ~~~~、フェイっ、フェイっ、やっ、優しくしてくれるって、言っただろっ!」

「――俺はなにも答えてはいないけど」

 

 舌先で乳首を押し込まれるという不思議な感触と甘い痺れに、「んぅっ!」という嬌声とともに頭を振れば、フェイはまた乳首にしゃぶりついた。

 

「ひっ!? あっ……ふっ、やぅうぅ、やだぁ! ベッド、がいい……、ベッドにして……っ、お、お願いだからっ」

 

 半ば快感に溺れていても、「はじめて」はベッドがいい。座り心地のよいソファーよりも、そういうことがしやすいベッドがいいのだ。「お願い」「お願い」と懇願しつつもぺちぺち背中を叩くと、フェイは笑った……気がする。空気がふっと和らいだようだが、実際はどうなんだろうか。

 

「はー……、ほんと、かわいい。嫌われるようなことはしたくないんだけど、つい意地悪なことをしたくなる」

 

 観念したように胸から顔を離して、「参ったなあ」と前髪を掻き上げる仕草は色気が爆発していた。王子が魔王子になっている。多少困ったように眉尻は下がっているのだが全然参った顔ではないし、フェロモン垂れ流しだぞ、これは。

 

「俺はもちろん最後までするつもりだし、嫌がってもやめてあげないけど――問題はないよね?」

「ふぁいぃ」

 

 大変に拒否をしづらい空気のなかでもフェロモンを垂れ流したままだから、また噛んだし!

 

 羞恥にぶわりと頬が熱くなるが、「しーちゃんの全部は俺がもらうからね」とくしゃりと笑ったフェイには関係ないのかもしれない。オレが噛んでも、気にした素振りはないんだからな。

 

「したいなら、ベッド、早く」

 

 顔が熱いままフェイの首に腕を回せば、額に唇を落とされた。ああ、なんか悪い気はしないかなー。と思った矢先、「じゃあ、ベッドに行こうね」という言葉が降り注ぐ。心臓が破裂しそうなほどドキドキしてきたが、オレだけこんなテンパっているなんてことはないよな? フェイだってちょっとはドキドキしていたりするよな? 確認する術はないが、そう思いたい。こういう雰囲気は少なからず緊張するはずなのだから。

 

 とうとう運ばれていくのかと、身を捧げる決意とともに「ん」と頷いたがなにもなく、ただただ唇を塞がれてしまった。「んぅっ!?」と驚いたのもつかの間、そうか、キスをしながら運ばれるのかと納得する。――が、舌が濃厚に交わるだけでやっぱりなにもない。

 

「ふぁ……」

 

 長いキスが終われば――頭が熱いから、長いか短いのかもう解らないけれども――、目の前の男は自身をまとうスーツに手をかけた。正確にはネクタイだが。緩ませる音を響かせるなか、フェイは笑みを浮かべた顔で「段階がどうのこうの言っていたからキスから始めたんだけど、どうかな?」と宣う。

 

「わかんにゃい……、こ、こういうの、はじめてだから……」

「しーちゃんは俺を誘うのが巧いよね」

「さ、誘ってにゃいわいっ!」

 

 噛み噛みな自分が恥ずかしくなり顔を逸らしたが、そこには事務所とは違う景色があった。思うに、ここはフェイの自室だ。息を整えながらでも目を丸めてしまうのは、脳の処理能力が追いついていないからだろう。

 

「あ、え……? ベッドぉ……?」

「運ぶ時間も惜しいというのははじめての経験だよ」

 

 囁かれ、そうだったと思い出したのはフェイの話だ。曰く、宮廷魔導師――魔法使いなのだから、こういうことは容易いのだろう。自身が望んだことも欲(ほっ)するものも、自分の力で叶えることも手にすることもできるというのは嘘ではなく、言葉どおりだ。実例としてはオレたちだろうか。なによりも強引にしたいい例でしかない。

 

 目線を戻した先には、ネクタイ、上着、シャツの三種類を脱ぎ捨てていた男がおり、均整のとれた逞しい躯にはしかし、一ヶ所――左脇腹に傷痕がみられる。まだ下は脱いでいないので全容が明らかではないが、銃創ではないことは見た目で解った。傷痕から考えて古傷だろう。こういう場合、あんまり直視はよくないだろうから、そろりそろりと窺うように眺めるのが正解かもしれない。たとえ不審に見られても。というか、自分についた傷痕も人様の傷痕も見ること自体、得意でないのだけれども。痛そうとしか思えないしなー。

 

「……痛そうだ……」

「まあ、食い千切られるかと思ったからね」

「うえぇ……、それは、大丈夫だったのか……?」

「大丈夫だよ。後遺症もなにもないし」

「ならよかった」

 

 なにかに噛みつかれたような痕をいまさら癒すもないだろうけれど、なんかこう、なにかしたい気分になってくる。あ、と考えついた矢先、その躯を押し倒してやった。目をぱちくりさせるフェイもいいな。

 

「えっと……、どうしたの?」

 

 わけが解らないと言うような顔でオレを眺めるフェイだが、「んー、ちょっとな」という言葉をかければ「なに?」と先を促した。頭の片隅ではおっぱい丸出しでなにをしているのかと冷静だが、現実は脇腹に顔を埋めている。垂れる髪を耳にかけ直しながら傷痕に舌を這わせて、唇を押し当てていく。舐めるのも口づけるのも一度きりだし、自分自身が癒せるとも思わないが、この傷痕もフェイの一部なのだ。フェイがオレをもらうと言うのなら、オレだってフェイをもらってもいいはずであろう。ちょっと中二病臭いが、なかなかにいい考えだと思う。でもやっぱり、痛そうだという感想が湧く。

 

「しーちゃん……?」

「いまさら傷痕を癒してやるとは言えないし、オレが癒せるとも思わないけどさ、フェイの一部だからもらっといた」

 

 困惑している男に得意気な顔をすれば、「なにその男前思考」と噴き出して笑われてしまう。あははははと声を上げるフェイはなんだか嬉しげで、オレまでへへへと釣られてしまったではないか。

 

「男前かこれ? フェイがオレをもらうって言ったから、オレだってもらっただけだし」

「傷痕(これ)に関してはみんな無関心を装ってくれていたから、触れられたことなんてないんだよねー。話のタネになることもないし、直に触れることもない」

「そりゃあ、聞いて返ってくる言葉がまずかったら空気が悪くなるだけだろー? だいたいわけありな奴が多いから、そのへんは暗黙の了解で聞かないもんなんだよ。痛いところをほじくり返したって、痛いだけだしさ。話をされたら聞いてやるぐらいの気概でいいんだよ」

「しーちゃんは聞いてくれるの?」

「おー、ちゃんと聞いてやるよ」

 

 腰を撫でてくる手に頷けば、「終わってから聞いてね」と首筋に顔を埋められる。フェイの柔らかな髪を撫でてやれば、もう一度押し倒された。どうやら中途半端のツケはここから始まるらしい。それはもう獣じみた目を――いまから食わんとする目をしていたが、決意はしたのであとはどうにでもなれやと、フェイに任せることにする。好きだという言葉を信じて。

 

 孕んだ熱を吐き出すように顔から下を重点的に触れられて舐め回され、その熱に溺れさせられることとなる。そこは汚いからと拒絶をしたところまで舌を這わされてしまえば、顔から火が出るんじゃないのかというくらいに熱くなってしまった。最初からクライマックスではないのかと思うほどにフェイの欲は大きくてもろに泣きじゃくってしまったが、「かわいい」と笑みを浮かべられるだけである。こちらはいっぱいいっぱいだというのに余裕がありそうなのが気に食わないが、これはおそらく経験の差だろうからどうしようもない。埋めようのない差は埋まらないままだ。

 

「や、そこ、はっ、ダメ、だからぁっ」

「ん、しーちゃんのいいところが解ってきたよ。こことか気持ちいい?」

「ひっ、あ! ダメ……っ、やだっ、やぁっ」

「ダメと言うわりには、腰が動いているけど?」

「そっ、そんなこと、ないっ、違うのっ、あぅっ、あぁあぁっ!」

 

 いいところと言われるところを擦られる度に頭を振るが、フェイは口元を緩ませたまま攻め続けてくる。ダメだと言っているのに、なお攻めるとはひどい男だ。

 

 にちゅにちゅ響く水音を背景になかで弾けるのはもう何度目かあやふやであるが、「ふぇえぇ」と正真正銘の泣き言を漏らす唇は一晩中――いや、朝方まで仕事をしてくれた。喘ぎすぎて喉が壊れている。

 

 生理的涙と心情的涙がぐちゃぐちゃになったが、そもそも、オレよりも立派なブツであんなことをされたら泣くしかないだろう。しかも朝方までとはどういうことなんだ。

 

 うつらうつらと夢心地でごちるなか、「おやすみ」という言葉に「んー」と返して眠りに落ちた。――と思う。そこから記憶がないのでそういうことなんだろうけれども、「――ですぅ」という高い声に微睡みが散っていってしまう。「ですぅ」の前はなんて言ったんだろうか? そう疑問に思うが、違和感を覚えて吹き飛んでいった。

 

「うー……んん?」

 

 なんだが腕を踏まれたような感触があったが、なんなんだろうか。二度三度と繰り返された先、これはおかしいと目を開けると、ばちりと視線が合ってしまった。どちらも一瞬だけ固まったのち、「ぴゃあぁあぁですぅ!」と手のひらサイズの小さな猫ちゃんが驚いたように跳び跳ねる。真っ白なその子は一目散に部屋から逃げ出していってしまったが、夢かも解らない。躯は真っ白のわりにしっぽだけは黒く、それも三本も見た気がするが、しっぽも幻覚だったかもしれない。眠気はどうにもならず、オレは二度寝を決行したのだから。

 

 猫ちゃんかわいかったなあという感情のお蔭かなんなのか、白い子猫と戯れる夢を見たわけだけれども、組にいるペットはオレしかいないはずだ。いや別に、オレは自分がペットだという認識はしていないが。ただ単に、フェイがペットだなんだと言うからそれに伴っているだけであって。

 

 あの猫ちゃんはどこの子なんだろうか……?

 

 まあ、なんにせよ、フェイに聞けばなにか解るよな。

 

 

 

 

 

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