初投稿
人生に運は付き物だ。運こそ人生といっても過言ではないと思う。生まれ持った社会的、肉体的なステータスも全ては運次第だ。
そう考えると人生の成功者の殆どは運が良いのだろう。内の家族が良い例だ。母はカリスマデザイナー兼モデルをしている。足の長さがモノを言うモデル業は誰でも出来る事じゃあない。父と兄は俳優と一家そろってカリスマ一家だ。しかし俺は違った…見た目なんかは両親の素晴らしいところを引き継いでいるからまだ良い。頭も決して悪い方ではなかった。しかしどう仕様がもないくらいに運が悪かった。
死産寸前の未熟児として生まれ落ちた時から俺の不運人生は始まった。幼稚園生の頃は遊具の故障で手足を複雑骨折、小学校の臨海学校で一人だけ寄生虫に当たり、中学校の修学旅行では何かの手違いか野宿をし、そして高校生になった拍子に交通事故で死んだ。
小さい子どもをトラックから守って死んだのなら格好がついたろうがそんな事は全くなかった。ごく普通に引かれて死んだ。青信号で渡ったはずだったのになぁ…。
振り返ってみても俺の人生の中で『運が良かった』と思えた事は本当にない。多分、両親の子どもとして生まれた事が俺にとって最大の幸運だったのかもしれないな。
そんな俺はいま自分の葬式を見ている。まさか自分の葬式をこの目で見る事になるなんて思ってもいなかった。
会場には葬式らしい静かな音楽が流れている。正直なところこんな風に自分の葬式を見られるのならアニソンでも流してほしい。しかし遺書も残っていなければ遺言も残していなかったのでありきたりな葬式になっている。
見知った顔がちらほらと見えるが知らない人の方が多い。まぁ、お葬式なんてそんなもんだろう。じいちゃんとばあちゃんの葬式もこんな感じだった。
年に数回しか会わないような親戚から、親戚だと知らなかったおじさま方まで一堂に会し黙とうをささげている。
「自分の葬式を自分で見る事になるなんてな…これもある意味幸運かもしれない」
「貴方って前向きなのね」
「生まれてこの方不幸だもんでちょっとした珍しい事でも幸運って思えるんだ。………ところであんた誰?」
振り返るとそこには死んだはずのおばあちゃんがいた。でもほんのちょっぴりおばあちゃんと違う。声とか雰囲気が…なんと言うかとにかく違う。
「貴方に落ち着いて話をして貰う為に『貴方が一番信頼していた人』に成ってみたのだけれど…失敗みたい。元に戻るわ」
日焼けした後に薄皮がむけるように彼女の本当の姿が現れる。そもそもばあちゃんの見た目で声だけが若いってのも気になっていたところだ。
「私は神様だ~~~」
「俺と同じ死人って可能性もあるけど?」
「それじゃあ場所を変えましょうか。それともこのまま自分のお葬式を見物する?」
「二人きりで話せる場所が良いな。四畳半の部屋に卓袱台が置いてあって茶菓子もあると最高だね」
彼女はわざとらしく笑って見せると静かに右手を振った。舞台の幕が閉じるように目の前が真っ暗になり、次に視界が開ける頃には畳の上に立っていた。
「すっげぇ…」
「驚くのはまだ早いわよ」
彼女が左手を振ると俺の周りに無数の水晶玉が浮かんだ。覗き込んでみると一つ一つ違う風景が見える。農業を営む老夫婦、鎧を身に纏い戦う剣闘士、薄暗い部屋で何かしらの実験を行っている科学者、どの風景に出てくるヒトも地球上のモノでない事がすぐに分かる。
「もしかして俺を楽しませるために映画を流している訳じゃないですよね?」
「これはこれからあなたが生きていく世界の映像よ」
「え?これって全部同じ世界の映像なの?」
「そうよ。まずは貴方にも分かるように説明をさせてもらうわ。時代背景は中世のヨーロッパに魔法と錬金術が発達したファンタジーの世界。貴族制度や奴隷制度がまだ息をしている時代で若干の科学もあるの」
これって異世界転生ってやつだ(超速理解
「で、そんな世界で俺に何をしろと?」
「新しい人生をプレゼントしようかなって。貴方の不運は今生じゃ神様の私でもどうしようもなかった。だから貴方には新しい人生を楽しんでもらおうと思ったの。どうかしら?」
小さな水晶を俺に渡して説明を続ける。
「それがあなたの新しいステータス。私が適当に作っておいたから安心しなさい」
水晶の表面に文字が浮かんでは消えてを繰り返している。ステータスの文字をタッチしたら何もない空間に光の画面が浮き出てきた。
「ひゃ~すっごい。なんだか近未来的」
名前:トシキ・マツサキ 性別:雄 年齢:18 職業:旅人
スキル
幸運Lv10(MAX) 神に愛された男
人気者Lv8 意思の疎通ができる敵対種族を含むほとんどの種族が自分に好意を持つ
冒険者Lv5 植物や動物の知識が人一倍ある
騎乗Lv4 しっかりと訓練を受けた動物ならある程度は乗りこなせる
ステータス
筋力B- 少し鍛えられた筋力
体力A 十分に鍛えられた体力
精神力A 強靭な精神力
俊敏性SS- 森のエルフ、水中の魚人に匹敵
外見B+ クラスに一人いるイケメン
体格A それなりに大きく逞しい
知性B+ 平均的な学力
幸運SSS+ 奇跡を起こせる
耐久力D- 人間としては平均的
魔法C- 初歩的な魔法なら使える
まるでRPGのステータスみたいだ。
一通り目を通して気付いたことが二つある。一つはとにかく豪運という事、もう一つは平均以上のスキル、ステータスを持っているという事、あと今の俺よりも年齢が二つも上だという事……三つになっちゃったよ。
「こんなに素晴らしいステータスでも良いのかな?」
「勿論です。これが新しいあなたなのですから。それとスキルは後から習得することも可能です。習得の仕方は転生先で知ることになるでしょう。あとその水晶は異世界での携帯電話兼身分証明書のようなものです。では幸運を…」
不思議な浮遊感に襲われたと知覚した瞬間にあたりが真っ暗になる。二度目の真っ暗なのであまり驚かない。落ちる感覚はなく水の中をフヨフヨと漂っている感じだ。息もできるし体も動く。恐怖心が無いのは強靭な精神力のお陰だろう。
しばらく浮かんでいると小さな光が見えた。その光はだんだん近づいて来て大きくなり、やがて俺を包み込んだ。
……
…
目を開けたら草原に寝転がっていた。草が優しく身体を撫でるのが気持ち良い。暑くもなく寒くもなく丁度いい気温と湿度、現代の日本とは大違いだ。蒼い空には白い雲が浮かんでいて、ふたつの太陽が俺を見下ろしている。
「無事に転送できたみたい」
念のために手足があることを確認して、身体にも異常が無いか確かめる。見たところ特に異常は見当たらない。ちょっと筋肉ムキムキになっているのは神様からのサービスだろう。
「あぁ^~心がワクワクするんじゃ^~」
新しい冒険の夜明けはこうでなくっちゃね。昼間だけど(ドヤッ
しばらく風に涼んで気持ちを落ち着かせてから今の自分の状況を確認する。革製の靴にジーンズ、麻のシャツを身に着けて革製の袋を一つ持っていた。寝転がっていた場所も何かないかと探してみたが何もなかった。
「袋の中にお金とかないかな…」
袋の中も探したけれど水晶玉一つだけしか入っていなかった。ひっくり返したり裏返したりいろいろしてみたが銅貨一枚も入っていない。
運が振り切っているのに一文無しの冒険者。想像してみたがこれからうまくやっていけるだろうか。
兎にも角にも動き始めない事には何も始まらないので水晶の中に入っていた地図を頼りに大きな街へ向かう事にした。
……
…
「革靴だと歩き辛いな…神様ももっと歩きやすいスニーカーとか底の厚い靴を用意してくれればいいのに」
グチグチ文句を言っても仕様がないので革靴のままであまり整備のされていない山道を昇る。
「この道を~行けば何処へ~♪行~くの~やら~♪行け~ば分~かる~さ♪この道、尾道、回り道~♪」
小唄を口ずさみながら山道を歩いていると一人の若者が頭を抱えていた。手元を見てみると破れた袋と何か小包をたくさん持っている。きっと荷物を入れていた袋が破けて困っているのだろう。
武器も持っておらず山賊でもなさそうなので声を掛ける事にした。
「あの、どうかしましたか?」
「はぁ…いやぁ、街で珍しいお菓子を仕入れてきたもんで村に帰り子ども達に配ろうと思っていたんだがなぁ。袋が破けちまって持って帰れないんだよ…」
そいつはいけない。子ども達の笑顔は宝物だ。それに中世で甘い物と言ったら貴族の食べ物だ。きっと本当に子ども達の為に買ってきたのだろう。
「それじゃあ小さいですけれどこの袋を使ってください。どうせ水晶一個しか持っていないし袋の足しにしてください」
そう言って皮の袋を渡すと彼は目の色を変えて俺の肩をガッと掴み詰め寄った。
「これぁドゥルンの皮袋じゃないか!こんな高価な物は貰えないよ!俺が買った菓子よりも高いじゃないか」
ドゥルン?なんだろ、この世界でのブランドかな?それとも動物?冒険者のスキルでも分からないって事は普通の動物の名前じゃない。ブランドか珍しい動物か何かだろう。
「使わないものを持っていたって意味がないですよ。必要としている人に使ってもらえる事が袋にとっても幸せでしょ」
「じゃ、じゃあ遠慮せずに貰うけれど…。本当にありがとう。村の子ども達の笑顔が見られるよ。お礼には全然足りないけどこれを」
袋のお礼に彼は甘い香りのする大きな包みをくれた。中を見てみるとシュークリームのようなものが入っている。なんだか高級そうなお菓子なので値段も高かっただろう。これを買うためにお金を貯めたのが目に浮かぶ。
「あんた名前は?」
「名乗るほどの名前を持ち合わせていないトシキってんだ」
「名乗っているじゃないかい」
「そうだな、ハハハ。アンタの帰路が無事であることを祈ってるよ。じゃあね」
彼に別れを告げた俺は水晶を右手に持ち、左手に手ごろな枝を杖代わりに登山を再開した。
因みにドゥルンの革袋は見た目以上に物が入る高級な魔具だという事を街で教えられて、彼がちゃんと荷物を全部入れられたであろうと安心した。
……
…
しばらく山道を歩いていたら開けた場所に出た。周りには樹木はなく段々畑のようなものが見える。山を削って畑にして農業を行っているのだろう。近くには小川が流れているので水源の確保もできているし山の上で涼しい気候なので作物は育ちやすい。
「お~~い、そこの旅人さ~~ん。ちょっと手伝ってくれないか~~~い!」
呼ばれた方を見ると筋肉質な女性が大量の薪を抱えていた。きっと運ぶのを手伝ってほしいのかもしれない。土手を駆け下りて彼女の元へ急ぐ。
「すまないねぇ旅人さん。ちょっと薪を割り過ぎてさ。小屋まで持っていくのを手伝ってくれないかい?」
そう言って段々畑の上にある小さな小屋を指さした。
せっかく神様から貰ったこの身体。体力も前世よりは強化されているだろう。どれくらいで息が切れるかを確かめるのも良い。それに美人だしこの人。
「えぇ、良いですよ。よい……しょっと」
彼女が抱えようとした大きい方の薪の束を背負って段々畑を昇り始める。
「そっちはあたしが持つよ。手伝って貰う人に重いのを持たせるなんて…」
「このくらい軽い軽い。なんならそっちも持ちましょうか?」
「あたしより小さいのに力持ちだねぇ…」
俺もこの世界では身長がデカくなってるはずなのに彼女はもっとデカい。190は有るんじゃないだろうか。盛り上がった上腕二頭筋にキレッキレの腹筋…正直メチャクチャ好みだ。お礼におっぱい…いや、いっぱいお礼してくれないかな。
革靴の所為で疲労感はかなりあったけれど問題なく薪を運び終えた。
「ふぅ…ちょっと疲れた」
「ありがとう、助かったよ。せっかくだからお茶でも飲んできな」
小屋の棚から何かが入ったピッチャーを取ると木を削って作られたコップに青色の液体を注いでくれた。ちょっと色がアレなので匂いを確認すると意外や意外、とても良い香りがした。
お茶(?)を出されたので俺もさっき貰ったお菓子を取り出して半分に割って彼女に渡す。
「へぇ~こんな高級なお菓子はあたしゃ初めてだよ。あむ…んぅ~~美味い」
彼女に倣い俺も大きく頬張った。外はサクサクのクッキー生地に甘いクリームが包まれている。バニラのような甘さが先に来て、あとからベリー系の酸味が追いかけてくる。
「おぉ…本当に美味い」
恐る恐るお茶と思われる液体にも口を着ける。一口含むと紅茶ともウーロン茶とも言えない香りが鼻を抜ける。苦味はなくジャスミンティーにも似たお茶だ。すっきりとした飲み物なので甘みの強いコレによく合う。
二人で分けると大きな菓子も小さくなる。二口三口で食べ終わった。
「凄く美味しかったよ。街の方から来なかったけれどどこで手に入れたんだい?」
彼女は興味本位で訊いているし、嘘を言っても益はないので正直に話すことにした。話を聞き終えると涙を流しながら首を何度も縦に振った。
「あんた偉いよ……すっごく偉い。良い話だねぇ…良い話を聞いたよ。手伝ってくれた礼と良い話を聞かせてくれた礼にこいつを受け取ってくれ」
お礼にと水筒にさっきのお茶を詰めて、大きな葉っぱに握り飯(?)のようなナニかを渡してくれた。これから街まで行くわけだし食べ物と飲み物と水筒はありがたい。図らずもプチわらしべ長者になってしまったようだ。これはきっと豪運のおかげかな。
……
…
杖を片手に歩き続け山頂に到着する。近くに丁度良い大きさの岩が有ったので腰を下ろす。そんなに高い山ではないが山頂の空気はほんのちょっぴり美味しく感じられる。きっとこの涼しい空気と花の香りがそう感じされるから。。
「はぁ…はぁ……ふぅ。ようやく山頂か。十分に鍛えられた肉体って嘘だろ。普通に疲れた」
休憩の取り方や身体の動かし方が身体に合っていないとどんな運動をしても疲れると聞いたことがあるけれど本当だな。ステータス上では優れていても宝の持ち腐れになってしまう。
「一休み一休み…よっこいしょういち、どっこらしょうにと」
腹ごしらえをしようと包みを開いて中身を確認する。水晶の図鑑を使い検索すると中身がネイという穀類を蒸したものを練って丸めたお団子という事が分かった。粘り気が強い穀類なので餅のようなものだろう。
「いただきます」
「おぉ…すまない……少し分けて頂けないだろうか」
「にゃふっ!?」
岩の後ろから現れた大男に驚き変な叫び声をあげてしまった。その拍子に手から団子が転げ落ちたしまった。しかしなんとか俺の手の中に取り戻すことに成功。急に話しかけるなんてびっくりするじゃあないか。
「あの…どちら様?」
「たす…けてくれ」
よく見ると人間じゃあない。泥だらけで分からなかったが肌が赤い。そして髪の毛の間からキラリと二本の角が顔をのぞかせている。この世界で初めて出会う他種族という訳だな。
「あの、どうしたんですか?」
「逃げてきた……危害は加えない。だからその水と食料をくれないか?」
詳しく話してくれないところから察するに何か悪い事をしたのか、それとも俺を巻き込みたくないのか。まぁどちらでも良いし困っている人は見逃せないので二つあるうちの一つを渡す。
「ありがとう…ありがとう……」
喉に詰まらせた団子をお茶で一気に流し込んでしまうくらいの食べっぷり。お腹が減っていたのだろう。とても美味しそうに食べるので俺が食べていたお団子も半分に割って彼に渡した。
食べ終わると今までの経緯を説明してくれた。
「俺は二つ山を越えた先にあるオーガの隠れ里から来た。村特産の薬草から作られた軟膏を街で売った帰りに盗賊に襲われてしまったんだ。それでお金は何とか守ったんだが足を切られて動けなくて、ココで数日過ごしていたという訳だ。貴方がここを通らなければ死んでいただろう」
彼は深く頭を下げてもう一度礼を言った。
「それじゃあこの杖も貴方に差し上げます。どうせ後は降って行くだけでもう必要ありません。でも杖があってもその足の傷じゃあ…そうだ」
水晶を調べて俺でも使えそうな回復魔法を探す。しかし回復魔法はどれも難易度が高く俺でも使えそうなのは一つしかなかった。
まずは水晶を見ながら地面に拙いながらも魔法陣を書いて、その上にケガをした部位を乗せてから呪文を唱える。すると魔法陣が光だして術が発動した。水晶によると魔法について学習、訓練、実戦を繰り返すことでステータスが上がり無詠唱での強力な魔法の発動ができる…らしいのだが今の俺には陣の生成と長い詠唱が必要だ。
「治癒力をちょっぴり上げる魔法なので今すぐに回復とまではいきませんが貴方なら一日で治るでしょう」
「なんと……なんとお優しい人だ…私のようなオーガに優しい人がいるなんて。ご飯を分けて頂いただけでなく治療まで……この御恩は一生忘れません。こんな物しかお渡しできず心苦しい限りですが私にとっては宝物です」
ご飯と治療のお礼にと黒曜石を削って作られた綺麗なソフトボール大の球体をくれた。
「これは打岩と言って岩や鉱石を拳や脚を使って球体を作る修行で作成したものです。君たち人間にとってはただも石ころかもしれないがどうか受け取って欲しい」
「いや…その…そんな大事そうな物は受け取れないよ」
普通に考えて素手で削るなんてかなり辛い修行だったに違いない。俺が思っている以上にコレは大切な物だ。というよりも手荷物になりそう。
「どうか受け取ってください。命の恩人になにもお礼が出来ないとあってはオーガの名折れ。野蛮で粗暴と蔑まれようと我々オーガはとても義理堅い生き物。受け取っていただけないのなら自死するほか道は…」
「受け取ります!受け取りますから死なないで!」
結局彼から重い黒曜石の打岩を受け取ってしまった。正直なところ水晶だけでも手荷物なのにそこへ暗黒タマタマまで持つとなると俺は玉4つ男になってしまう。さっきまでは竿二本男だったのにな、HA☆HA☆HA~~!
……
…
「あぁ…やっぱ受け取らない方が良かったかも。でもそしたらあの人…いや、あのオーガは自殺しちゃうしなぁ」
面倒臭いと思いながらも人助けは忘れない。命は大事だ。たった一つしかない大事な物……一度死んだ俺の言葉は染みるなぁ~(すっとぼけ)。重みが違うぜ。
一気に駆け降りてしまいたい気持ちを抑えつつ、ゆっくりと安全なルートを選んで山を下りる。運に任せて転げ落ちてみるってのも有りだと思ったけれど…恐らく運の良さが発揮されるのはその後だと思う。つまり『転げ落ちる→大怪我をする→たまたま通りかかった人に助けられる(幸運)→入れられた病院のナースが超美人でエッチな事してくれる(豪運)』って事になる可能性大。
どうなるか分からない以上は危険な事をしたくない。豪運とは言え己の望むように事が進むとも思えないし運は身体と違ってコントロールできない。それなら平和で優しい異世界生活を送るのもやぶさかではないと思う。
「はてさて…どうせ山を降りきるまでに人に会うんだろうけれど。次は誰に会うのやら…」
……
…
結果から言うと誰にも出会わなかった。凶暴な動物はおろか小さな虫にも出会わなかった。危険な動物も虫も苦手なので出会わない事は幸運だったのだけれど……幸運?
「んな~~~~~!!」
こんなしょうもないところで幸運を使うなんて!!な~~んてこったぁ!パ~~ンナコッタァ!こ、これが豪運の性なのか…おのれ豪運。次こそは俺の思う通りに発動させてやるぞぅ。
「五月蠅いぞ貴様。この馬車がどなたのモノと心得る」
顔を上げると大きな木の陰に馬車が停まっている。馬車の陰にシートが敷かれているのでピクニックか休憩かしているのだろう。
「すみません休憩してるところ。お邪魔するつもりはなかったんです。では私は街への道を急ぎますので…では」
「騒々しいぞ…まったく。折角のお茶が不味くなるではないか」
「も、申し訳ございません。おい、お前も謝れ」
袖口を引っ張られて木の裏側まで連れてこられた。豪華な敷物に偉そうな人が二人座ってお茶している。どうも貴族っぽい感じだ。装飾が施された服はとても上品で着心地が良さそうだ。着ている人の言葉遣いに品があるとは思えないけれど…。
「すみませんでした。てっきり人がいないものと…」
「まったく…これだから平民の冒険者は礼儀を知らん。本当に御しがた……い。おいお前、手に持っている物を見せよ」
貴族さんの視線は俺の右手にある黒曜石に注がれている。これが欲しいのかな?
「コレ…ですか」
貴族さんはそれを奪い取るように引っ手繰るとモノクルを着けて鑑定し始めた。あのオーガは人間にはあまり価値のないモノって言っていたはずなのに。
「これをどこで手に入れた?」
ちょっと考えて正直に答える事にした。さっきもそうだったけれど正直に答えるに限る。
「実はオーガから譲り受けたものでして」
「粗暴なオーガから譲り受けただと?…信じられんがこれを作る種族はオーガくらいなものだ。…だが…いやしかし…」
何やらブツブツと考えこんでしまった。あの人には悪いけれど邪魔だしあげちゃおうかな。
「あのぉ…欲しかったら譲りますよ?ソレ」
「本当か!?本当にこれを私に譲ってくれるのか!?」
「え、えぇ…まぁ」
「タダで貰うのも貴族として褒められた行為ではない。その方に金貨30枚をやろう。彼に金貨を」
金貨30枚か…多いのか少ないのか分からないけれどちょっとかまをかけてみようかな。
「30枚か…」
「不服か?」
「いえ、貴方はお見掛けしたところ大層な爵位とお察しいたします。まさか金貨30枚で家計が揺らぐこともありますまい」
「ふっ…こ奴め。我から金貨をまだ欲するか。面白い奴だ…気に入ったぞ。金貨50枚でどうだ?」
「心よりお受けいたします」
深々と頭を下げて御者らしき人が馬車の中から持って来た革袋を受け取った。黒曜石よりもズシリと俺の手に疲労感を与える。
「ふふ…見てみろ。まるで漆黒の太陽だ」
気に入ってくれたようで良かった。俺も金貨を貰えてwinwinの関係だ。
この金貨を使って街で色んな買い物をする事ができる。お菓子をくれたお兄さん、ご飯をくれたお姉さん、よく分からない宝物をくれたオーガさん、そしてお金をくれた貴族さん、本当にありがとう。みんなのおかげで俺は旅を続けられるよ。
今回も最後まで読んで頂いてありがとうございます
オリジナル作品を初めて書くので至らない事も多々あると思いますが何卒よろしくお願い申し上げます
なんとこの作品には次回予告があります
次回予告通りには成りませんがね
~次回予告~
わらしべ長者状態で街へとたどり着いたトシキ
そんなトシキに降りかかる幸運
門番、ギルド、服屋、武具屋に道具屋、パフパフ屋、街はたいへん大賑わい
しかしトシキは浮かない顔
それは何故だか謎の人…
次回『奴隷』
さぁて次回もサービスサービス!