夏が終わったので初投稿
地図を頼りに整備された道をしばらく歩いていると大きな街に着いた。街は高い壁に囲われており大きな門が目立つ。まるで進撃の異世界だな。
凱旋門のような大きな門なのでちょっとしたトンネルになっていてちらほらと露店も出ている。肉の焼ける匂いや甘い匂い、夏祭りの匂いにそっくりで昔を思い出す。
「おいおい、そこの旅人さん。あんたこの街に来るの初めてだろ?悪いんだけどココで登録させてくれ」
露店のおっさんに呼び止められてしまった。他の露天よりも大きくて柱もしっかりとしているので店を動かした形跡がない。登録って事はギルドとか政府の役人なのだろう。
「あ、分かりました。えっと…冒険者の登録ってどんなことをすればいいんですか?」
「まずは水晶玉をこれに設置してから右手を乗せてくれ」
「はいはい」
「あんちゃん…あんた本当に旅人かい?このステータスは城の衛兵だって言っても嘘にはならねぇよ。まぁ、登録は終わりだ。一応、街の自治体に登録しただけだからギルドの方でも登録しといた方が都合がいいぜ。ってことでほい」
と左手を差し出すおっちゃん。何かくれるのかな?
「登録の手数料に銅貨10枚」
「え?金取るの?」
「お役所仕事だからねぇ。あ、それと未登録の場合は通行料金として更に銅貨を5枚受け取ることになっているが…」
「分かったよ。でも金貨しかない。両替も頼むよ」
革袋から金貨を取り出すとあからさまに嫌な顔をされてしまった。
「あんたこれで釣りがどれだけ出るか知ってんだろ?銅貨15枚も持ってないのか?ったく…大き目の革袋二つも料金に追加だ」
しばらくすると大きな革袋を二つ手に提げて帰って来た。あの中に銀貨と銅貨がぎっしりと詰まっているのかも。
「おつりの確認はしないのか?」
「ちょっとくらいちょろまかされたって迷惑料だと思って諦めるよ。わざわざ袋も用意してくれてありがとう。こいつはその追加の迷惑料」
銀貨を3枚渡して役人に別れを告げて門をくぐり街へと入った。
……
…
石畳の街道が真っ直ぐ続いている。街の入り口で見た地図では京都や鎌倉の街のように碁盤の目に沿って家が作られていた。家は石の基礎に太い梁を何本も使い頑丈に作られている。
「まずは何処に行こうか…ギルドか、道具屋か、飯屋か。やっぱまずは銀行だな…あるとも思えないけれど」
こんなクソ重い袋を三つもぶら下げて街の散策なんてやっていられない。
店の入り口には看板が出ているのでどんな店かすぐに分かる。この世界で生活するにあたって読み書きは一通りできるみたい。この街にあふれている文字は日本語とは程遠いけれど理解ができた。
雑貨屋、薬屋、武器屋、防具屋、おもちゃ屋、俺の予想以上にお店は細分化されている。もっと大きなスーパーマーケット的な何かを想像していたけど、よくよく考えてみたらここの時代背景は中世欧州だ。大きな市場や行商人の出店はあってもデパートのような店があるとも思えない。
「あんちゃん、寄っといでよ。新鮮な野菜が今朝届いたばかりだ」
「冒険には腹ごしらえが必要だろ?うちの店の肉料理は天下一品さ」
「最新式の手投げ爆弾は持ってるかい?そんなことは無いに決まっている。なぜなら売っている店はここだけだ」
店員は大きな声で客を惹いている。トンネルの出店にも負けず劣らずの良い匂いが通りを流れてくる。フラフラっと立ち寄りたい気持ちを抑えつつ銀行を探した。
銀行は思いのほかすぐに見つかった。大通りの奥にデンと構えられた銀行からは威厳が感じられた。まるで西洋の神社みたいだ。
銀行の白い綺麗な扉をくぐると毛むくじゃらの小人に迎えられた。綺麗なスーツに身を包んでいて髪や髭を綺麗に編み込んでいるが、厳つい顔からにじみ出る武人の風格は隠せない。
「ようこそドワーフ銀行へ。ここへお金を預けに来たあんたは運が良い。ドワーフは粗暴で不愛想だけれど金銀財宝に関しては嘘を言わないし偽りもしない。その辺の人間の銀行に預けるよか正解だ」
そりゃあ良かった。適当に入った店が良い銀行だったなんて。…まぁ、これも幸運の効果かな。
「これを預けたいんだけど良いかな?」
「では身分を確認するために水晶をお預かりいたします。それから手数料に銅貨5枚お支払いいただきますが宜しいでしょうか?」
ココでも手数料か…あっちでも手数料こっちでも手数料。世の中手数料だらけだ。たまには無料で何かしてくれる親切な奴はいないのか。
少ししてから申し訳なさそうな顔で戻って来る。何か不都合があったのだろうか。
「お客様はギルドに登録していないので追加で銅貨10枚をお支払い頂く事になりますが宜しいでしょうか?」
「勿論良いですよ」
良い銀行を見つけられたけれど多く手数料を取られた。俺の幸運もプラスマイナスゼロなのかよ。
街で使う小銭を別の袋に移して残りのお金を全部預ける。重い袋なので大丈夫かと思ったが軽々と持ち上げるところを見ると人間よりも力持ちなんだな。
「お客様は一定以上の貯金をなさいましたのでこちらを送らせていただきます」
渡されたのは綺麗な革袋。手触りといい香りといい一級品だ。プラスマイナスゼロの状態からプラスへと傾いた。
「ドワーフはとても手先が器用なのでこういった物を作るのが得意なのです。鍛冶はもちろん革細工やガラス細工も得意でこの程度のモノなら誰だって作れます」
「それじゃあコレは財布として使わせていただきます。ところでこの街の地図は有りませんか?」
「はい、こちらになります」
「ありがとうございます。引き出すときにまた会いましょう」
銀行での幸運はいまいちだったけれどこれから何かいいことがあるかもしれない。銀行で貰った地図を頼りに、まずは食堂探す。水晶の地図は街や地形の名前しか載っておらず細かい店の名前なんかは載っていない。
この世界に来てからお菓子と団子しか食べていないのでお腹ペコペコだ。肉でも魚でも何でも良いから口に入れたい。しかし大衆向けのレストランからマニアックな露天まで数多くある。こういう時は何が食べたいかじゃなくて何が好きかで選ぶのが一番だ。
「ラーメンあるかな…」
水晶で調べてみたが一軒もヒットしない。そりゃそうか、中世のヨーロッパにもラーメンなんてものは無い。その割にワールドワイドな料理があるようだが…中華っぽい料理はあるのにラーメンはないのかよ。
和洋中の全てがあるのにラーメンだけないとは…不幸だ。もし健康面は度外視して今後一切これしか口にできないと言われたら俺は間違いなくラーメンと答える。それだけラーメン大好き男なのにラーメンが今後一切食べれないかもしれないなんて。
「兄さんうちの肉料理は絶品だよ?安いし量も多いし旅をするならまずは腹ごしらえさ」
ボーっと突っ立て居たら客引きのおじさんに声を掛けられた。この際肉料理でも構わないか。デカくて大味の肉料理は大好きだ。
おじさんに導かれるまま店に入った。喧騒に包まれた店の中はとても繁盛しているように見えて、美味そうな肉の焼ける匂いで溢れている。適当な席に座りメニューを見ながらお冷が来るのを待った。
「お決まりで?」
「山ブドウと野イチゴのジュース、それから小鹿のステーキもお願いします」
「畏まりました。少々お待ちください」
他にも『仙牛のバッガス煮込み』、『千枚萵苣と火山豆のサラダ』とかいろいろなメニューがあったが異世界最初のちゃんとした食事で失敗したくない。俺の知る限り一番普通でおいしそうな料理を選んだ。
周りの客の料理がどんなものかと覗きながら待っていたら料理が運ばれてきた。金銭感覚がはっきりと定まっていないがあの値段でこれだけの量が食べられるのは安いと思う。
デカい皿に分厚い鹿のもも肉とプライドポテトが山盛り乗っている。大ジョッキには並々注がれたジュース、そして大きな氷がプカプカと浮かんでいる。
ジビエ特有の臭みはなくスパイシーな胡椒と山椒の香りが食欲誘う。うん、これはきっと当たりだ。香辛料をこんなに使用しているのにあの値段はやっぱり安い。
大きく切り分けて頬張ると一噛みごとに肉汁とソースが絡まり肉の旨味を引き立てる。中世の味付けも現代の味付けも大して変わらないんだな。フライドポテトの外はサクサク、中はほっくりで最高の揚げ加減。店が繁盛しているのも頷けた。
これに店の雰囲気も手伝って料理のおいしさを手助けしている。
気付くと肉もポテトもなくなっていた。かなりの量を食べたはずなのにまだまだお腹は満たされていない。ステータスが高いとそれだけ食べなくてはいけないのだろうか。
「デザートはいかが?」
空になった皿を見逃さなかったのかウェイターがデザートを薦める。招魂が逞しいのはとても良い事だ。それとスカートの丈が長いのも良い事だ。
フリルが少なくて実用的なメイドっぽい服は質素でありながらも素朴な可愛さを秘めている。胸も大きいようだけど不用意にはだけさせていない。………ブラはしていないみたいだけど。やっぱり下着の類は貴族の服らしい。
「それじゃあパンケーキを。バターとハチミツたっぷりで…ミルクは付かないの?」
「ふふ、残念ながら私はソーセージよりもパックリ割れた山女の方が好きなの。それに私のミルクはハニー限定のメニューよ」
俺のネタを理解したのか上手く返された。彼女の彼女か…興味あるけれど一歩引いてしつこく追い回さないのもモテるコツってモテない同級生が言ってた。
「じゃあバターとハチミツたっぷりのパンケーキだけでよろしく。ミルクは他で探すよ」
「それじゃあ少々お待ちを。ミルクなら街のはずれの『魅惑の坩堝』がおすすめよ。みんな優しくて可愛い娘ばかり。それに他種族の娘もたくさんいるの」
おすすめの店も教えてもらっちゃった。彼女が色んな種族のカワイ子ちゃんとエロんな…いやいろんな事をしている姿を想像していたらすぐにデザートがやって来た。
まだまだ空きのあるお腹にパンケーキを詰め込むと店を出た。バターとハチミツたっぷりと言ったのは間違いだったかもしれない。美味しかったが甘ったるくて口の中が蕩けそうだ。
結局、近くの露天で肉をピリ辛風味に味付けした物を薄いパンに挟むピロスという食べ物を買って食べた。
「ん…むぐ…むぐ…んく。完全にタコスだコレ」
……
…
腹ごしらえも終えたことだし今度こそギルドへ行って俺を登録しよう。そうすりゃあいろんな所で融通が効いて、無駄な手数料や出費をしなくても良いはずだ。
ギルドは街へ入ってすぐにある大きな建物だ。某狩りゲームの集会場そっくりの建物で中には様々な種族の冒険者がクエストを受注したり、他の冒険者と情報の交換を行っている。
「すみません、冒険者としてギルドに登録したいんですけど、どこでやったらいいですか?」
「それならこちらで行っております。水晶をこれに設置して右手をかざしてください」
街の入り口でもやったように水晶を置いて右手をかざす。すると右手の甲が光り出してカッコいい紋章が浮かび上がる。
「これが今のあなたのレベルと職業を表しています。上半分が職業、下半分がレベルです。今のあなたは職業が旅人でレベルは1ですね。ステータスは本当にレベル1かと疑いたくなりますが…」
「はは、入り口でも言われました」
「それにレベル10のスキルなんて初めて見ましたよ。本当にただの旅人ですかぁ?」
「本当にただの旅人ですって」
「まぁ、私はクエスト内容に適合した登録者に仕事を斡旋することが仕事なので深くは追及しません。自分に合った仕事がしたい場合は私のところへ、自分で探したい場合には向こうの掲示板を見てください。それから手数料は銅貨15枚です」
デスヨナー。知ってた
銅貨用の革袋から15枚取り出して彼女に渡す。
「パーティメンバーがいないようですがこちらで近しいレベルの方を見繕いましょうか?」
「自分で探すので大丈夫です。どうしても見つからなかったらまた来ます」
「では貴方の上に神の祝福がありますよう」
これでギルドにも登録ができた。正直、ギルドが公営じゃあなくて民間だったのは驚きだった。どこの世界も公営というだけで税金泥棒だと言われるのかも。
早速お仕事を探そうとも思ったけれど、ぶっちゃけお金は沢山持っているので働く必要が無い。
ここに来るまでの道のりで大体の貨幣価値が分かった。銅貨一枚が約100円、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨五十枚で金貨一枚。銀貨一枚が10000円で金貨一枚が500000円という事になる。つまり俺の全財産、およそ二千五百万円也。比較的お手ごろなクエストで手に入るお金が銀貨3~6枚なのでかなりの大金を手に入れている。てかあの貴族のおっちゃんあんな石ころに二千五百万も払ったのか…。
ところでこの世界での貨幣はとってもざっくりしている。これで本当に経済が回っているのかと思ったが、回っているのだから凄い。まだ見たことが無いけれど銅貨以下の貨幣も有るらしいのだが…。
ともかく宿も銀貨一枚もあれば三食付きの結構良い宿に泊まれる。節約して宿のランクを落とせば七年間はニート出来る。しかしそれでは折角の異世界転生も無駄になる。ココはちょっぴり危険を冒して冒険すべき。
という事で掲示板で適当なクエストを受ける事にした。
依頼主:砂漠の行商人
内容:アラル山特産の苔茸の採取
報酬:銀貨五枚(採取量によって報酬は増減する)
依頼主:自治体の長
内容:街の西側にある墓地の掃除
報酬:銅貨五十枚
依頼主:オライ村の村長
内容:オライ村付近にオークが数体出現、住処を探し出して討伐せよ
報酬:銀貨十五枚
依頼主:匿名の街医者
内容:水晶鹿の角の納入
報酬:二本につき金貨一枚(大きさ、形、傷の有無によって報酬は増減する)
Etc.
ふむ…クエストも沢山あるな。民間の依頼から政府からの依頼もある。報酬もピンキリだし何にしようかな。この畑仕事の手伝いなんて良いかもしれない。報酬は少なめだけれどその代わりに現物支給がある。
でも持ち家でもないのに食材を貰ってもなぁ…街から街へ移動しながらクエストをクリアしてその報酬で宿屋暮らし。まさに旅人って感じだけれど老後はそれで良いのか?いやいや、まだ俺は18歳なんだぞ。そんな先過ぎる事を考えたって仕様がない。今は楽しむ事だけを考えよう。
なんて考えていたら肩を叩かれた。
「ねぇ、あなた新顔でしょ?」
振り返るととても可愛い女の子が立っていた。俺よりも身長はかなり低いけれど眼光は鋭く、その佇まいには威厳がある。服装もなんだか歴戦の戦士のソレっぽい。
「おう、今さっき登録を終わらせたばっかりだ」
「あたしはここのギルドで一番の戦士よ。新顔は私に上納金を払う事が決まりなの」
なんと、そういう決まりごとがあったのか。こりゃあうっかりしていた。うっかりうっかりうっかり八兵衛。
「おい…アスカの奴また新顔からたかってるぞ」
「でもあいつ腕は確かだから」
「俺もここに来たときは払わされたなぁ」
「可愛いんだけどスタイルがもうちょっと…こう…な」
気が付くと周りの人たちは俺とアスカと呼ばれている少女に注目している。なんだか恥ずかしいな。
「早くしなさい。じゃないと痛い目に合ってもらうわよ。あ、最低額は銀貨3枚ね」
「えぇ…銀貨三枚って大金じゃん。そのくらい自分で稼げよ」
ワザとらしく肩をすくめて断わると彼女は本気だという事を教えたいのか剣に手を掛ける。
「警告は一度だけよ」
「悪いけど払わない。ちゃんと働かないとだめだ」
「なら痛い目に合ってもらうわ!」
言い終わるや否や俺に剣を振るう。剣を抜かずに鞘ごと斬りかかって来たので彼女にとって俺を脅す程度の威嚇なのだろうが効果は絶大。俺は飛び退いて彼女の剣を避けた。しかし着地した時にバランスを崩してしまい近くのテーブルに手をついてしまった。するとどうだろうか、ピタゴラスイッチばりの連鎖反応が開始する。
まず手を着いたテーブルと一緒に俺が倒れ込む。するとテーブルに乗っていたジョッキが近くの人にぶつかりその人はのけぞり隣の人を殴ってしまった。それに激高した彼は殴り返そうとするが靴ひもを踏んずけてこける。こける際に別な人のズボンを下ろす。ズボンを下ろされた彼は急いでズボンを上げるがその際にボタンがはじけ飛びアスカさんの額に当たり、今度はアスカさんがふらつく。そして最初に倒れたテーブルに足をとられて大転倒。頭をテーブルの端にぶつけてパンツ丸見え状態になってしまった。真っ白な御パンツ様が眩しいぜ。
すっげぇ…ギャグマンガを見てるみたい。
「あんた…あんた絶対に許さないわ。あたしにこんな恥をかかせるなんて!!」
「いや、どう考えても俺は悪くないだろ。ヒステリーはよくないぜ?」
おいおい…俺のスキル人気者は意思の疎通がとれるなら好意的になるんじゃあないのか?
チラッと水晶を確認すると文脈の最後に『人の話を聞かないヒステリーには効果なし』と書き加えられていた。つまりまともな話ができる状態に無いといけない…と、成る程なぁ~。……ちくしょうめ。
「割増しで払うから剣を収めてくれ。痛いのは嫌だ」
「倍よ、倍の値段払いなさい」
これ以上問題は起こしたくないので銀貨十枚を彼女に渡す。たぶん俺のせいで痛い思いをさせてしまったし多少の色を付けるのはやぶさかではない。
案の定彼女は上機嫌になる。
「え?こんなにくれるの?あなた良い人ね。これからこの街で困ったことが有ったらあたしに言いなさい。お金次第で解決してあげるわ」
結局金かい…まぁ心強いコネクションが築けたと思えば安い買い物なのかな。十万円で会社の顔役と仲良くなるようなものだからやっぱり安いのかも。
「それじゃあたしは出て行くけどソイツをイジメた奴はボコボコにするから覚悟なさい。じゃあね、あたしのお財布さん♪」
そう言い残して出て行ってしまった。残された俺は『あんちゃん、あんた大変なお人に目を付けられちまったな』とか『同情するよ兄弟』とか憐れみと同情を混ぜた言葉を掛けてくれた。早くもギルドのみんなに溶け込めたようで嬉しかったり嬉しくなかったり微妙な感じだ。
……
…
ギルドでの騒ぎは予想外だったけれどお金で解決できたし問題はなかった。お金持ってて本当に運が良かった。
しかし運が良い事が起これば悪い事が起こるのが世の常なのか街を散策しているとアスカさんを見つけてしまった。気付かれて何か言われるのもアレなのでついつい隠れてしまう。
「あの娘を他のヤツに売ってないでしょうね」
「俺は法律を破るが人様との約束は絶対に破らない。売っちゃいないよ。それより今日もご苦労なこった」
遠目で良く見えなかったがアスカさんは店員らしき人にお金を渡している。しかし店員からは何も受け取っていない。
「これで金貨一枚と銀貨四枚になったな。あと銀貨四十六枚で買えるよ」
「あと少し…それじゃあまた来るわ」
「おう、また来な」
そう言い残してアスカさんは街の喧騒の中へ消えてしまった。どんな店か気になったので見に行くことにした。
「いらっしゃいあんちゃん。どんな奴隷をお探しだい?」
彼女が見ていたのは奴隷ショップだった。店はペットショップにもよく似ていて店内にはいくつもショウケースが並んでおり、その中に首輪をつけた人間が入っている。
「これなんてどうです?あんちゃんはガタイが良いからさぞ溜まっているだろう?」
ナニを想像したのか店員は俺に巨乳の女性を薦める。彼女のショウケースの下には銀貨二十枚と書かれていた。
人間一人が二十万円でやり取りされるのかよ…。彼女が何をしたのか知らないがこんな事が許されているのか。
憤りを感じながらもさぞ落ち着いているように振舞う。俺は人権団体の人間でもなければ重度のフェミニストでもない。
「奴隷は初めて購入するのだけどこれは安いんですか?」
「うちは子の街で一番安いって評判さ。もちろん高い奴は高いけど他の店に比べれば安く仕入れているから実質一番だよ」
「攫ってきたのか?」
「おいおい、あんちゃんも人聞きが悪いぜ。奴隷は法律で認められている列記とした商品だよ。まぁ大きい声じゃあ言えないけど奴隷は大抵が犯罪者か破産者だ。どうしようもなくなって身売りした奴らだよ。自業自得ってもんさ。……まぁ例外はあるけどね」
「その例外の商品を見てみたいな」
「悪いけどその例外ってのは値段がちょいと高くてねぇ」
俺の懐事情を探っている。それもそうだ、俺だって冷やかしの客の為に店の秘密はバラしたくない。
「あんちゃんは口は固い方かい?」
「非合法な事を言いふらすような馬鹿ではないね」
彼の望むように貯金残高を見せる。察してくれたのか大人しく店の奥へ案内してくれた。店の奥は狭いと思ったが表よりも広いショウケースがたくさん並んでいる。
「ほとんどが人間に敵対的な種族だから気を付けな。首輪をつけていても死を覚悟して主人を殺すような馬鹿もいる」
ショウケースの中は他種族ばかりで人間は一人もいない。エルフ、サキュバス、人魚、ドワーフ、エトセトラ。
「こいつらも前科者なのか?」
「いやこいつらは人攫いに掴まって売られた奴らさ。こんな値段でも安い方なんだぜ?登録されている奴隷は売れたら税金を納めなきゃいけないからね」
「ふ~ん」
どのケースの娘も暗い顔をしている。これから自分がどうなるのかよく分かっている。死よりも恐ろしい人生を想像しているに違いない。
そんな中で一人気になる娘を見つけた。
「彼女はどの種族?」
「あぁこいつはダークエルフだね。でもよした方が良い。美人だから買い取ったが身体中に傷跡があるそ凶暴だ」
「値段はいくら?」
「金貨十五枚」
「あたしの値段はそんなに安くないよ…ぶっ殺されたくなきゃあココから出すんだよ!!」
ガラスを叩いて出ようとするが破れる気配はない。犬歯をむき出しにして威嚇する彼女は首輪のおかげでちっとも怖くない。
「ほら、やめた方が良い。エルフが欲しいなら値は張るけど向こうに良いのがいる。褐色が良いのなら雌のドワーフが一人いる。二人合わせて金貨二十枚だけど従順だよ」
「いや彼女を貰おう。それともう1人エルフを…彼女が良い」
「この娘はセットで売り出しているんだ。親子セットで金貨十五枚。三人も買ってくれたんだしサービスして金貨三十二枚だよ」
お金は別に問題じゃあない。俺のボディガード兼身の回りの世話係、それにこの世界の常識を教えてもらいたいだけだから三人もいらないんだけれど。でも親子が離ればなれになるのはいけない。彼女たちも抱き合って震えている。
「金貨三十枚」
「三十一枚」
「三十枚と銀貨二十五枚」
「よし売った」
「よし買った」
非合法な奴隷なのでややっこしい手続きは特になく、奴隷の扱いに関しての注意事項だけを教えてもらった。
「あんちゃんの紋章に反応する首輪だ。口に出したり心で思ったりするだけで彼女たちは命令に従う。それからこの首輪はこの鍵で外せる。あんまりおすすめはしないが渡すのが規則だ。それじゃあまたのお越しを」
「おう、また来るよ」
言葉だけの社交辞令を述べて夜の街へと繰り出す。トシキのパーティに三人の奴隷が加わりほんのちょっぴり寂しさが紛らわされた。
今回も最後まで読んで頂いてありがとうございます
展開が早いのは仕様です
「ここ足りない」とか「展開が早すぎて付いて行けない」とかは諦めてください
某スタイリッシュ脱衣全裸アニメも展開速かったし多少はね
~次回予告~
人間の生活は衣食住で成り立っている
そのどれかが欠けてもいけない
奴隷を購入したトシキ
次に行くのは宿屋か風呂屋か仕立て屋か
明日に絶望引っさげた
奴隷は夢を見るのやら
知らぬは良いのか悪いのか
ともかくイイことしましょうと
ベッドの上は大混乱
次回『覚悟』
さぁて次回もサービスしちゃうわよん♪