ㅤその日は、特段変わったことがあった訳ではなかった。いつもと同じように、朝起きてみんなと朝食をとり、学校へ行って授業を受ける。そして弓道部での活動を終え、またみんなと夕食を囲んでからお風呂に入って床に就く。
ㅤでも、そんな一日の流れに変化は無くても、今日という日そのものには少し思うところがあった。一年前の今日は、先輩が私だけの正義の味方になると誓ってくれた日なのだ。隠していたこと、黙っていたことを全て知ってなお、私を守ると抱き締めてくれた日。
ㅤ──それともう一つ。先輩と私が初めて交わった日。だからだろうか。私は今、先輩のことを欲しがっていた。
ㅤ別に、あの夜のように身体がうずいている訳ではないのだけれど、どうしてもあの時のことを思い出してしまう。ちょうど今のような、日付が変わるか変わらないかくらいの時間だった。
ㅤこの気持ちを静めるのは簡単。今から先輩の部屋に行って、抱いてほしいと伝えればいい。きっと先輩は応じてくれるだろう。
ㅤでも、安易にそれを行動に移すのは、少し躊躇われた。別に、恥ずかしい訳ではない。いや、それが全く無いといえば嘘になるのだけれど。
ㅤその理由は、単純に明日に響くとまずいからだ。私は明日も学校があるし、先輩もバイトが入っていると言っていた。そして何より、私たちは昨晩も身体を重ねたばかりだった。
ㅤさすがに二日連続というのは、身体に負担がかかるだろう。私は別にいいけれど、先輩にそれを強いるのはイヤだった。
ㅤでも、先輩は鍛えているから平気だろうかなんて、自分の都合のいいように考えたりもしてしまう。その上、そうして迷っているだけでも、先輩を求める気持ちは高まっていく一方で、身体の方まで火照ってきてしまう。
ㅤそうやって毛布の中で身体を丸めて悩むこと数分。先輩の部屋に行くのはやめた。やはり、自分のエゴを通すことより、先輩の身体を優先した方がいい。今度、お互いに余裕があるときにすれば済むことなのだし。
ㅤしかし、そう決めたのはいいが、高まった心と身体はそう簡単には収められない。だから、そちらだけは別の方法で落ち着かせる。
「ん……っ……」
ㅤ片手を脚の間に這わせ、指先でほんの少しそこを圧迫する。それだけで快感に身体が震えてしまう。それと同時に伝わるべたついた感覚。
「濡れてる……」
ㅤ先輩との行為を思い出しただけで、そこはいやらしく反応していた。そして、その事実を知ってしまうと、余計にその気持ちは加速してしまう。
ㅤ考えるより先に、自然と指先は動く。寝巻きの上からだというのに、敏感になった感覚は快感をはっきりと伝えてくる。指の腹で割れ目をなぞるだけで、全身にぞくぞくとした感覚が走る。そして、さらに強く力を入れてそこを刺激すると、身体を電流が突き抜ける。
ㅤそれで私の中のスイッチが入ってしまった。横にして丸めていた身体を仰向けにして、もう片方の手を唇まで持ってくる。その指の一本に、軽く唇で吸い付く。まるで、先輩と口付けをしているかのように。
ㅤいつもは先輩が激しく唇を求めてくれるけど、今は私だけだから思い切り吸い付く。何度も唇を離しては、少し角度を変えて再びしゃぶりつく。
ㅤそうして段々と指が唾液で濡れていき、感触が本当の唇のようになっていく。そのせいで、私は余計にその行為に没頭してしまう。
「ん、せん……ぱい……」
ㅤ頭は少しずつぼうっとしてきて、無心で指と唇を擦り合わせていた。でも、次第にそれだけでは足りなくなってきて、私はそれよりもっと先へ進んでいく。
ㅤ指先をこちらへ向けるように角度を変えて、口内にそれを侵入させる。それと同時に私の方も、それを迎え入れるように唇を開ける。そして、第一関節が入りきった辺りで、舌を指に触れさせた。
ㅤそのまま、ディープキスのようにそれらを絡ませる。先輩の舌の動きを真似て、口内を犯すように舌と触れ合わせる。でもそれだけじゃ物足りないことに気付いて、さらにもう一本の指を口内へ入れた。
ㅤそれでもやっぱり先輩の感触とは異なる。だからそれを補うように、お留守になっていた片手を胸へ触れさせた。それを掌で覆って、多少乱雑に揉みしだく。
「あ……ん……」
ㅤその気持ちよさに、勝手に声が漏れる。まるで、先輩に激しく唇を貪られながら愛撫されているよう。それがもっと欲しくて、寝巻きのボタンを外し始めた。
ㅤはやる気持ちを抑えて、ひとつひとつゆっくりと外していく。先輩も、いつもこうやって優しく私の服を脱がせてくれる。
ㅤそして全部外し終えてから、ぱさりとそれをはだけさせて、下着の上から乳房を包んだ。私の手では先輩のように全てを覆うことはできないけど、それでも気持ちがいい。
ㅤわしづかみにして揉んでみたり、乱暴に手を動かしてみたり、好き勝手に自分の胸の形を歪める。そうしていると、その激しい手の動きで下着が段々とずれてくる。それがわずらわしく感じて、口に入れていた手を後ろに回してホックを外した。そして、胸に這わせた手で下着を剥いで、身体の横に置いた。
ㅤそれによってタガが外れたように、私はさらに胸への愛撫を激しくし始めた。両手で二つの乳房を包んで、何かを搾り出すように手を動かす。そして、人差し指と親指で丘の頂上にあるものをつまんだ。
「は、ぁ……っ、せん、ぱ……い……」
ㅤびくん、と大きく身体が跳ねる。やっぱり性感帯への刺激は快楽が大きい。
ㅤそのまま指で乳首への愛撫を続ける。先輩のようにくりくりと転がしてみると、それだけで本当に先輩にしてもらっているような感覚。時折強くつまんでみると、少しの痛みと混ざった快感が身体を突き抜けて気持ちいい。
ㅤそうやって胸を弄びながら、腰と脚を使って下にはいているものも脱ぐ。少し手こずったが、何とか足首の辺りまで降ろせた。でも、この先は手を使わないと難しそうだ。
ㅤ名残惜しさもそこそこに、片手を胸から離して脚に引っ掛かった寝巻きを脱がせた。その後、その手を胸には戻さずにいやらしく湿った陰部に触れさせた。
「んんっ……!」
ㅤ先の行為で敏感になっていたのか、思った以上の快感が私を襲った。下着は既に愛液で濡れていて、先輩のを受け入れることぐらいは容易い状態。要するに、出来上がってしまっている。
ㅤもうここまで来たら止めることなんてできない。最初の内は下着の上から弄ろうなんて考えはどこかへ行き、乱雑にそれも脱ぎ捨てた。
ㅤそして、覆うものが何も無くなったそこへ指を這わせた。もう片方の手は胸を触ったまま、はしたなくひくついている割れ目へ中指を侵入させる。
「は……あ……ぁ、先輩、んっ、はぁ……っ、せん、ぱい……」
ㅤ「先輩」と言葉にするだけで、熱い生殖器が挿入されているような感覚だ。その感覚を損なわないように、先輩のやり方と同じように優しく指を突き入れていく。
ㅤ不意に蘇る、あの夜のこと。ちゃんとした段階も理由も省略して、半ば強引に先輩と交わったあの夜。私は罪悪感に苛まれながらも、先輩とひとつになっていく喜びを感じていた。
ㅤその感覚が、今のこの行為と重なる。私だけが動いて、先輩の熱いもので自分の中を割いていく感覚だ。先輩の意思を無視することへの罪悪感ですら、その行為の中で快感に変わっていく。
「ん、んぁ、あ……はっ……」
ㅤそんな妄想をしていると、いつの間にか指は全て中へ入りきっていた。どれくらい時間がかかったのか、我を忘れていた自分にはわからない。
ㅤでもそんなことはどうだっていい。今、私の頭の中にあるものは、気持ちよくなりたいという欲望だけだった。
ㅤその欲望に従い、突き入れた指を動かす。ぬるりと軽く指を引き抜き、再びゆっくりと差し込む。激しく抜き差ししたいけれど、そうしてしまったらすぐに達してしまう。
ㅤだから、最初は焦らすように優しい動きで性器を刺激する。それに、先輩との行為を妄想しながらの自慰だから、このままでも充分なほど気持ちがいい。
「せんぱい……っ、あ、は、ぁん……んっ、ふぁ……」
ㅤその快感で知らず知らずのうちに、口からこぼれるはしたない声は、淫らな色と熱を帯びてくる。でもそれに気を使っているほどの余裕なんてない。
ㅤまともに機能しなくなった頭は、どうすれば自分が快楽を得られるかだけを考え続けている。そうして、指を動かす速度を速めると同時に、さらに薬指もそこへ入り込ませた。もうぐっしょりと濡れていたから、挿入は容易かった。
ㅤそのまま二本の指で再び出し入れを始める。過剰分泌される愛液で、その動きは滑らかだ。それによって、勝手にその速さを増し、生じる快楽は大きくなっていく。
「あっ……ぁ、は……んっ、ひぁ……あ……っ……」
ㅤ私の頭はその快楽によって酔わされ、ますますその淫らな行為に没頭してしまう。大した時間もたたずに抜き差しは激しくなり、じゅぷじゅぷといやらしい水音が響き始める。
ㅤ性交時と似たその音で、私はすっかり先輩との交わりの妄想の中に溺れていた。何度も何度も熱い生殖器で膣奥を突かれて、先輩に激しく犯される妄想。
ㅤそれが余計に快楽を加速させる。全身が性感帯のようになって、ベッドと擦れる感触でさえ気持ちがいい。胸を触る手を動かせば、それだけで快感に震えてしまう。
「せんぱい……あ、あんっ、ん、は、あ……せんぱいっ……」
ㅤ高まっていく快楽に身体はびくびくと痙攣し、絶頂はすぐそこまで来ていた。そして、私の心も同じように果てることを求めていた。
ㅤそれを促すように、遠慮なく指を出し入れする。乳房を包む手も、それを手伝うように激しく揉みしだく。
ㅤそうやって私は自分で自分を追い込んでいく。だけれど、既に私は妄想の中。先輩が激しく腰を振って、私をいかせようとしてくれているようにしか感じられなくなっていた。
ㅤそして、妄想と自慰によって快感に染まっていくことも、もう限界だった。身体の中に溜まった快楽は、もう容量いっぱいになってしまっている。
ㅤだから、後はそれがあふれだすだけ。心と身体が弾けるような感覚で果ててしまうだけだ。
「あ、ひああっ……!ㅤせん、ぱいっ……!」
ㅤベッドが軽く軋む程に身体を跳ねさせながら、私は絶頂した。その瞬間、きゅん、と膣が反応するのがわかった。
ㅤもし先輩のが入っていたら、今ので射精してくれたかもしれない。そんなことを頭の片隅で思いながら、私は全身の力を抜き、そのまま絶頂の後の余韻に身を任せた。
ㅤでも、何か足りない。実際に先輩とした訳ではないのだからそれは当たり前なのだけれど、普通ならもっと満たされた気分になってもいいはずなのに。
ㅤだが、先輩と恋人同士になる前に一人で慰めていた頃の虚しさとも違う。そもそもあれは、叶わないことを妄想していたことからくるものだった。
ㅤでも、本当は理由なんてわかっている。私が本当に欲しいのは、先輩との性交で得られる快楽ではなく、先輩の温もりなのだ。だから、いくら気持ちよくなろうとも足りないと思ってしまう。
ㅤそんなこと、最初からわかっていた。でも、それを自覚してしまったら、この気持ちを静める方法が先輩と身体を重ねることだけだと悟ってしまう。だからそれを紛らわすように一人で慰めたのだけれど──
「先輩……」
ㅤその結果、先輩を求める気持ちが強くなっただけだった。しかも、下手に快楽を得たせいで、身体まで昂っている。
ㅤどうすればいいんだろう。もう一回する?ㅤいや、きっと結果は同じだろう。疲れ果てて眠ってしまう程まですれば話は別だけど、さすがにそこまでするのは躊躇われた。
「はあ……」
ㅤため息と共に、一つの答えに行き着く。結局、先輩の部屋に行くしかない。それに、やっぱり今日は先輩のそばにいたい。
ㅤ身体を起こして、ベッドの周りに落ちていた寝巻きをはき、私は先輩の部屋に向かった。
ㅤ未だに外は雨が降っている。あの日は私達が家に帰ってくる頃には止んでいたのだけれど。でも、この雨音が私の足音を消してくれているから、今は都合が良かった。
ㅤそんなことを思いながら、先輩の部屋への廊下を歩く。そういえば、今日はなんて言って誘えばいいだろう。ストレートに抱いて欲しいと言えばいいだろうか。それとも、魔力をもらって欲しいという口実でもいいかもしれない。
ㅤ──ああ、いやそれはダメだ。切羽詰まって仕方ない時ならともかく、方便でその理由を使うのはよくない。
『ちゃんと恋人同士として──』
ㅤそう言っていた先輩の意思を無視してしまう。
ㅤだから、ちゃんと正直に──
「桜?」
ㅤ不意に呼び止められ、思考を停止させた。顔を上げると、いつの間にか先輩が目の前にいた。
「あ……先輩……」
ㅤ私が言えることじゃないけれど、こんな時間にどうしたんだろうか。今は午前一時頃で、先輩はとっくに床に就いていたはずだ。
「どうしたんだ?ㅤこんな時間に」
「あ、えっと……お手洗いに行こうかと……」
ㅤさすがにここで本題を切り出すことはできず、適当な嘘で誤魔化した。でもこれは少し失敗だ。このまま言葉通りにお手洗いに行って、その後先輩の部屋に行くというのは不自然だ。だからといって、先の言葉を訂正して本当のことを言うのもなんだか気恥ずかしい。
「桜、トイレはこっちじゃなくて、反対の方向だぞ?」
「え、あ……」
ㅤ訂正だ。少し失敗ではなく、大失敗だ。焦ったせいで墓穴を掘ってしまった。さすがにこれは誤魔化せない。
ㅤそれに、よく考えたら私が歩いていた方向には先輩の部屋しかない。ここで先輩と会ってしまった時点で、私がどこに用があるのかは明白だった。
ㅤ私がその考えに至ったとほぼ同時に、先輩も察したような表情に変わった。
「あ……えっと、俺の部屋に来ようとしてたん、だよな……?」
ㅤその言葉に返事は出来ず、こくりと小さく頷くのが精一杯だった。
ㅤこんな時間に女性が男性の部屋に赴く目的なんて、他人が見ても簡単にわかることだ。その事実がお互いの間に気まずい沈黙をもたらす。
「あのさ、桜。その……俺も、桜の部屋に行こうかと思ってたんだ」
「え……?」
ㅤ数秒間続いたそれを破り、先輩が放った言葉は、私の予想外のものだった。
ㅤそして、わき上がる淡い期待。それを胸に抱きながら、恐る恐る聞いてみる。
「あ、あの……それは、どうして……」
「それは……何となくあの夜のことを思い出して、桜が欲しくなったんだ。昨日も桜としたからどうしようか迷ったんだけど、結局──んぐっ!?」
ㅤそれを聞いて、どうしても我慢できなかった。元々昂っていた心と身体は、先輩の言葉で弾けてしまい、たまらず先輩に抱きついて唇を奪った。先輩が私と同じ気持ちだったというだけで、嬉しくてしょうがなかった。
ㅤ私の突然の行動で驚き、固まったままの唇を強引に開いて、口の奥へ舌をねじ込んだ。いつもとは反対に、私が先輩の口内を貪る。先輩の熱を感じられるように、頭の後ろに回した両手で強く引き寄せて、口の奥まで舌を入り込ませた。
ㅤそして、先輩を深く味わうように何の遠慮もなく口を犯す。先輩のを包みこむように唇を触れ合わせ、中に入れた舌で先輩の唾液をじゅるじゅるとすする。
ㅤ溜まっていた気持ちは私の想像以上に多く、その行為に歯止めなんて効かなかった。本当なら、ここで先輩を押し倒してしまいたいくらいなのだけれど、さすがにそれはほんの僅かに残った理性がせき止めた。
ㅤでも、それもいつ決壊してしまうかわからない。だから、僅かに頭が冷静になったタイミングで唇を離した。二人の間を唾液が糸を引いている。それが重力に引っ張られて落ちていくのが少しもったいなかった。
「さ、桜……」
「ごめんなさい、先輩……でも私、先輩が私と同じこと考えてたんだ、って思ったら……嬉しくて……」
「え……じゃあ、桜も……?」
「はい……私もあの夜のことを思い出してたんです。……それで、先輩が欲しくなって……」
ㅤやっと正直な気持ちを言えた。順序は逆になってしまったけど、何も言えないままよりはいい。
ㅤあとは先輩が応じてくれるかだけれど、そんなことは考えなくてもわかる。先輩だって同じなんだから。
ㅤそれがお互いにわかったからか、私たちはそれ以上言葉を交わさなかった。その代わりに一度だけ浅い口付けを交わし、二人で手を繋いで先輩の部屋に向かった。
「せん、ぱい……ん、ぅ……」
「ん……さくら……」
ㅤ部屋に入って障子を閉めるなり、私たちは引き寄せ合うように唇を重ねた。座ることすらせず立ったまま、互いの背中に腕を回して、きつく抱き合いながら二つの唇を擦り合わせる。
ㅤ私もさっき激しく先輩を求めたおかげで落ち着いたのか、貪るような口付けにはならなかった。それは先輩も同じで、優しく私の唇に重ね合わせてくれる。
ㅤでも、優しいのはあくまで唇だけの話。抱きしめる強さはお互いに痛いくらいだし、先輩はじりじりと私に体重をかけてきて、しまいには部屋の壁に押し付けられた。
ㅤでもそれは全然イヤじゃない。そうやって先輩に強く求めてもらえるのは、とても嬉しいことだから。
ㅤそして私もそのお返しにと、先輩の侵入を誘うように軽く口を開けた。私のその唇の動きに先輩はすぐに反応して、何の躊躇いもなしに舌を入れてきた。
ㅤそれを迎え入れるように、控えめに舌を触れさせた。先輩はそれに応じて、軽く舌先でつつくように触れてくれる。
ㅤそうやって戯れるように、また焦らすようにつつき合った後、私の方が我慢できなくなって、先輩の舌に絡み付いた。それによって生じる快感に身体が震える。
「ん、ぅ、は……ぁ、ちゅ……」
ㅤそれがもっと欲しいと、さらに深く舌を触れあわせようとする前に、今度は先輩の方が求めてくれた。私に強く唇を押し付けて、舌だけではなく私の口内全てを舐めとるように先輩が這い回る。
ㅤその愛撫は、それ自体がまるで媚薬のようになって、私の理性を溶かしてくる。そして溶け出したそれは油のようになって、心の中の情欲を激しく燃え上がらせる。
ㅤ恥じらいや、順序なんかどうでもよくなって、私は先輩を抱きしめていた手の片方をゆっくりと動かし始めた。背中から腰の辺りまで下ろして、そこからだんだんとお腹側へ回してくる。そして、するするとズボンのところまで手を下ろすと、熱くて固い膨らみにたどり着いた。
ㅤそれが気持ち良かったのか、それともただ単に驚いただけなのか、先輩は身体を僅かに震わせて反応してくれた。それが嬉しくて、掌でその膨らみを優しく撫で回す。上下に擦ったり、弧を描くようにしたり、はたまた悪戯心で軽く圧迫してみたり。
ㅤそうして、半分楽しむように先輩のを弄んでいると、私の首に回されていた先輩の左手が離れた。そして、なんだろうと思っていると、その手が私の胸を包んだ。
「んっ……!ㅤん、んぁ……は、ちゅ、ぅ、う……っ……」
ㅤその刺激に今度は私の方が身体を反応させてしまう。元々敏感になっていたせいで、特に力を入れられた訳でもないのに、必要以上の快感に包まれた。
ㅤしかも、たった今気付いたのだけれど、下着を身につけるのを忘れてきていた。だから、先輩の手と私の肌を隔てているのは、薄い寝巻き一枚だけだ。それが余計に快感を伝えてくる。
ㅤそして、私がノーブラであることは先輩にだってわかっているだろう。恥ずかしいけれど、そんな感情でどぎまぎする間もなく、先輩が強く愛撫を始めたことで頭の中は一瞬で快楽に染まった。
ㅤその愛撫は、やり始めにしては少し激しい。先輩もかなり興奮してくれているのかもしれない。掌で覆って揉むのはもちろん、乳首をつまんだりして強い快感を与えてくれる。
ㅤそのお返しに、私もより先輩を気持ちよくしたい。一旦膨らみを撫でるのを止めて、ズボンのジッパーに手をかける。そして一息に下ろしきり、その中で苦しそうにしていた先輩のものを掴んだ。
ㅤ包んだ掌の中で、熱い生殖器がどくどくと脈打っている。その様子に、先輩も私と同じくらいに興奮してくれていることが、文字通り手に取るようにわかった。
ㅤそんな先輩を悦ばせたくて、激しく上下にしごく。それは快感を与えるための動きではなく、射精してもらうためのものに近い。でも、加減ができるほど私はもう冷静じゃない。
ㅤ最初からどうかしていた心を何とか留めているのも、もう限界だ。それを促すように、先輩も激しく私を気持ちよくしてくれる。
ㅤそうして先輩と私の二人で求め合ううちに、私たちの心は繋がりを欲しがり始めた。こうしてただ二人で気持ちよくなるのもいいけれど、本当に欲しいのは温もりなのだから。
「ん、は……桜……もう、入れていいかな……」
「はい……私も、先輩のが欲しくてたまらないです……」
ㅤ一旦手と唇の愛撫を止め、荒い呼吸をしながらお互いの気持ちを確認する。そして触れていた手を離して、ひとつになる準備を始めた。
ㅤ先輩はズボンのベルトを外して、下着ごとそれを脱いだ。そしてあらわになる先輩のものを傍目に、私は先輩に背を向けて壁に手をついた。そのまま、挿入をねだるように尻を先輩へ突き出す。
ㅤ先輩は私の尻に両手で触れて、軽く撫で回してきた。まだ一枚の布が間にあるけれど、温かい先輩の手で触られるだけで気持ちがいい。
ㅤ……ちょっと待ってください。一枚の布?ㅤ私はまだ寝巻きなのだから二枚あるはず──
「あれ、桜、下着は?」
「え……」
ㅤ先輩に言われてようやく気付いた。上だけでなく下まで身につけるのを忘れていた。いくら先輩が欲しいことだけで頭がいっぱいになっていたとはいえ、さすがにこれは間が抜けている。
「あ……そ、その、早く先輩と繋がりたくって……」
「そ、そっか……」
ㅤ迷ったが、そんな理由でお茶を濁した。本当ではないけど、全く嘘という訳でもない。一人で慰めていたから、と正直に言うよりはマシだ。
ㅤ少し怪しまれたかもしれないが、一応先輩は納得してくれたようだった。
「……じゃあ、桜。脱がすぞ」
「は、はい、先輩……」
ㅤそんなやり取りもそこそこに、先輩はゆっくりと私の寝巻きを脱がせてくれた。そして、先輩は再び両手で私の尻を包んで、濡れた陰部へ生殖器をあてがった。
ㅤあんな嘘で誤魔化したけれど、その濡れ具合でバレたかもしれない。でも、先輩にだったら知られてもいいかな、と思いながら、それが挿入されるのを待った。
「桜、いくぞ……」
「はい、先輩の、ください……」
ㅤそして、先輩は軽く力を入れて私の中へゆっくりと先端を押し込んできた。ぷくりと膨らんだ亀頭で入り口を拡げられると、背中にぞくぞくとした快感が走る。
ㅤそして開かれた入り口へ、熱いものがずぶずぶと挿入されていく。その、先輩に割かれていくような感覚だけでもどうにかなってしまいそうだ。
ㅤ快感ももちろんあるが、先輩とひとつになっていく事実だけで頭が溶けてしまうほど嬉しい。
「ん、んあ、ぁ、先輩……っ、は、あ……」
ㅤ自分で慰めていたせいか、私の中はかなりほぐれていて、いつもより滑らかに先輩の生殖器の挿入を許している。だから、そのことによる苦痛は皆無で、快感だけが私の身体に染み込んでいく。
ㅤそして、あっけなく先輩のものは私の奥へたどり着いた。その先端に、私の子宮口がキスしているのが、自分でもわかった。それほどに私は先輩を欲しがっている。
ㅤそれが先輩にも伝わったのか、それとも先輩が我慢できなかったのか、腰が優しく動き始めた。それでも、初めから愛欲で染まった私の心と身体には、それだけで大きな快感だった。
ㅤ名残惜しさをもたらしながら引き抜かれると、すぐさまその虚脱を無くすように一番奥へ挿入される。そして、それが繰り返されるほどに、満ち足りた感覚と快楽が増していく。
「は、あんっ、先輩っ……先輩、あ、んっ、ふぁ……」
ㅤそれでも貪欲な私はまだ足りないと先輩を求めてしまう。「先輩」と何度も口にして、先輩を悦ばせようと尻を上下に揺らす。
ㅤそうすると、先輩も気持ちよさそうな声を漏らしながら、より強く私を求めてくる。その大きな手で尻を鷲掴みにされ、突き上げるように生殖器を抜き差しされる。
ㅤそして、時折私に応えるように「桜」と名前を呼んでくれる。それだけで嬉しさに身が震えてしまう。そんな風に、身体だけじゃなくて、心でも求め合う感覚がたまらない。
「桜……っ、さくら、ぐ、ぅ、さくら、好きだ……っ!」
「先輩……あ、あっ、ひぁ、はいっ……私も、好きです……!」
ㅤ求め合う声が互いの理性をどろどろに溶かしていく。先輩は激しく犯すように私に腰を打ち付け、私は膣の形を変動させるように尻を動かす。
ㅤ私たちの性交は、既に荒々しいものへ変わり果てていた。盛りのついた獣のように、快楽を求めて乱れ狂う。
ㅤ先輩が激しく奥へ生殖器を挿入する度に、恥じらいなんか捨てて淫らな声を上げる。そうすることですらも気持ち良かった。
ㅤでも、求めるのは快楽だけじゃない。それはあくまでスパイスに過ぎない。私が、先輩が欲しいのは互いの体温と、好きという気持ちだけだ。
ㅤそれを得るために手っ取り早いのがセックスというだけ。そしてそれが熱く激しくなるほど、互いの気持ちが深く伝わってくる。だから私たちは強く求め合うのだ。
ㅤでも、今日という日も手伝ってか性交は必要以上の熱を持っていた。既にラストスパートとばかりに快楽を貪り合い、お互いに絶頂が近付いていた。
「あっ、んは、はぁっ……!ㅤせんぱいっ、わた、し、あっ……もう、だめ……っ!」
「ああっ、おれ、も……もう限界、だ……!」
ㅤでも、私たちはとっくに引き返せないところまで来ていた。先輩を悦ばせようと揺らしていた腰は、いつしか自分が快楽を得るための動きに変わり、もう私の意思でそれを止めることはできない。そして、膣の中で暴れる先輩のものは、射精寸前とばかりに膨らんでいた。
ㅤその限界の状態の互いの生殖器を、私たちはぐちゅぐちゅと絡み合わせるように求める。少し早いけれど、このまま二人で果ててしまいたいから。
「あっ、いく、いくっ……!ㅤせんぱいっ……!」
「く、さく、らあ……っ!」
ㅤそして二人で一緒に声を上げながら、私たちは共に絶頂した。私は自分から先輩のものを迎えに行くように尻を押し付け、先輩は私の一番奥でどくん、と果ててくれた。
ㅤそのまま先輩は、子宮に直接注ぐように生殖器を押し付けて射精し続けてくれている。それがあまりにも気持ちよくて、私はもう一度軽い絶頂を迎えた。
ㅤでも、そのせいで身体を支えていた力が抜けてしまい、倒れそうになってしまう。それを先輩が途中で気付いて、両手を私の前に回して支えてくれた。
ㅤでも先輩も力が入らないようで、二人で前に倒れそうになる。そこで先輩は私を抱えたまま後ろへ何とか座り込んだ。私に痛みが来ないように気遣ってくれたから、代わりに先輩が少し痛そうだった。
ㅤでも、座った先が布団の上だったからか、先輩は特に痛がる様子もなく、そのまま私の中へ精液を注いでくれている。だから、私もそれに甘えて、先輩に身体を預けて余韻に浸った。
ㅤ私がそうしている間も、先輩はとくとくと優しく射精を続け、お腹に回した手で時折いとおしそうにそこを撫でてくれる。
ㅤしかし、しばらくそうしていると先輩が不意に耳元で囁いた。
「……桜、ごめん。俺、我慢できない」
「え、せんぱい……?」
ㅤ私がその言葉の意味を考えるよりも先に、先輩は再び腰を動かし始めた。生殖器の先からはまだ緩やかに射精が続いているにも関わらず。
ㅤそして、絶頂したばかりで敏感になっている私は、否応なしに快楽によがってしまう。
「あ……ふぁ、あん……だ、だめです……せん、ぱい……ひあ、ぁ……」
ㅤ先輩の動き自体は優しい。けれど、この体位で深く挿入された生殖器と、さらに奥で射精される快感で、過剰なほどに感じてしまう。
ㅤさらに、先輩はお腹に回した両手を上へ這わせて、私の乳房を愛撫し始めた。しかもいきなり乳首を攻めて、快感を強く与えてくる。
ㅤそれによって高まる快楽で、ブレーキなんて全く効かなかった。
「ひあ、あ、ぁあっ……!ㅤせんぱいっ……いく……!」
ㅤそのまま私は再び絶頂した。しかも先ほどより激しい快感に襲われて、大きく身体を震わせながら。
ㅤそしてそれに比例するように強く先輩のものを締め付けた。そのせいで緩やかだった射精が、急に勢いを増した。奥に生殖器を押し付けられたまま、びゅくびゅくと注がれる。
ㅤそのあまりの勢いと量に、私の中へ入りきらない精液がごぽりとあふれ出した。それでも構わずに、先輩は吐精を続けながら腰をゆっくりと動かす。
ㅤそれで私もおかしくなってしまって、自分からも腰を動かし始めた。
「ぅ、あ……さく、ら……っ……」
「あん……せんぱい……は、ふぁ、あ……」
ㅤ必然的に膨れ上がる快楽。理性はいつの間にか消し飛んでいて、それを止めることなんて到底不可能だ。
ㅤ私にできるのは、かさを増していく愛欲の海に溺れていくことだけ。我を忘れてしまう程のそれに飲み込まれるのは少し怖いけれど、先輩と一緒だったら別に構わないと思った。
ㅤそれを促すように、私の中へ熱い精が遠慮なく注がれる。膣内は精液で満たされて、少し動くだけでもいやらしい水音が響く。私たちの交わりは激しさこそ少ないものの、その代わりに深く、濃厚だ。
ㅤそれがアルコールのようになって私たちを酔わせていく。時間の感覚は曖昧で、身体の限界なんかまるでわからない。残っているのは気持ちいいという感覚と、好きという感情だけ。
「は……ぁ、せんぱい……すき……ん、ぁ、はっ……あんっ、先輩、愛して、ますっ……」
ㅤでも、そうやって壊れてしまいそうに気持ちのいい時間も終わりはやってきてしまう。私も、先輩も身体の方が限界だった。
ㅤ何の前触れもなく、私たちは布団に倒れ込んでしまった。意識はまだ明瞭なのに、身体が動かない。まだ先輩とこうしていたいという気持ちだけが健在だ。
ㅤそれでも何とか身体を動かそうとしていると、後ろから先輩が絞り出すような声で言った。
「……悪い、桜……もう……」
ㅤそれでやっと私の頭は冷静になった。これ以上先輩に無理をさせちゃダメだ。
ㅤそしてそれに気付くと同時に、意識がだんだんと薄れてきた。
「はい……私も、です……」
ㅤそれに、もう充分満たされた。あとはこのまま先輩と眠りにつければそれで満足だ。
ㅤ「おやすみなさい」と言えないのが少し残念だけど、この温もりに包まれたまま眠れるのならそれくらいはいいだろう。
ㅤそうやって、私たちはひとつになったまま深い眠りについた。