※この作品はR-18です。

新勇者バーバラの冒険   作:ランスロス・マッキ

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第二試験迷宮② 三英傑の為の試練

 第二試練迷宮中層、ここからはもう安全は保障されていないが、行きたい者は行ってもいい。

 そう通達されて渡された徘徊魔物のリストを見た学生ほぼ全員がこう思った。

 

 二人っきりでここに行く? 死にに行くようなものだろ。

 

 様々な魔物がおり、そのどれもが高レベルの冒険者が徒党を組んでやっと進めそうな迷宮だ。高難易度の迷宮としてはゼスでも屈指だろう。ただ、その中でも一際頭のおかしい事実が記載されていた。

 

――――迷宮全体で総計200体以上のゲッペルスが徘徊している。

 

 聖骸闘将、その中でも最強に近い個体種だ。この迷宮は聖魔教団、ロンメルシリーズの一大兵器生産地だったのか。永久に人間を抹殺し続ける殺戮兵器が大量に存在していた。

 よしんば自信過剰な学生が行きたいと言ってもパートナーは全員拒否しただろう。魔法使いの盾になってスーパーティーゲルを喰らい続けたいか? 死ぬだけだ。

 2体遭遇、3体遭遇などがあったらほぼ確実にこちらの火力を超越してくる。

 事前説明の時にあったマイナス要素の列挙は事細かく、『絶対に行くな』という教員側のメッセージに他ならなかった。

 しかし、三英傑となれば話は変わる。『絶対に行け』と暗に言われているようなものだ。スシヌに至っては母親である女王マジックが参加を厳命していた。

 この迷宮の難易度は彼等三人の為の迷宮だ。ここまで来ればパートナーは求められる要求ラインが高すぎてお荷物になる。精々やれることが荷物持ちになるはず、だった。

 

「この角を曲がったら魔物の群れ。恐らくは四十体はいます! 二の矢で自分が焼き払います!」

「まっかせなさい!」

 

 バーバラは完全に想定外の存在だ。既に小規模な戦闘を行うこと数度、やはり勇者を止める存在はいなかった。今回は大規模な群れに真正面から突っ込む形になりそうだが躊躇はない。

 お互いの実力はもう分かった。絶対に行ける。だから最速最短で行く。

 勇者は角を曲がり、魔物達の姿を見て強く踏み込んだ。

 

「――――――やああああっ!」

 

 駆ける。飛ぶ。圧倒的な身体能力を駆使して魔物に肉薄する。

 魔物兵より若干硬い程度のタタミ返しはタタミごと一刀両断された。ガードの献身によって白装飾の魔導兵器にほんの僅かな詠唱の時間が与えられたが、ここで問題となったのが『目視』だ。

 速すぎて、目に止まらない。

 気づいたら盾が吹き飛んで、真横のゲッペルスが切り裂かれている。

 撃とうとしたらもう自分も斬られている。そして聖骸闘将達の死角に回り込んでいる。

 迷宮にいる魔物達の反応速度は魔物スーツに頼り切った雑魚魔物兵より遥かに上だ。前衛達は反応できたから一瞬でも時間を稼いでいる。だが、聖骸闘将は違う。

 彼等は兵器だが、その能力は素体となった魔法使いの死体に依存する。つまり若干強化された後衛と変わらない。視界の開けた広い場所で戦うならともかく、遭遇戦の形になるなら圧倒的に前衛に分がある。

 まともに当てられない状況にされた時点で役目は果たせなくなる。白装束の殺戮兵器は魔法を打っても乱戦の中で別の魔物を盾にされるだけで破壊されていく。

 

「後衛殲滅! じゃあね!」

 

 目的を果たした勇者は斜め上に跳躍した。もう彼女を撃ち落とせる相手はいない。

 魔物全員の目線が彼女を追って……その下にいる詠唱を済ませた魔法使いを見つけてしまう。

 

「――――ゼットン!」

 

 範囲を若干絞って威力全振り、敵を残らず焼き付くす業火が魔物達を襲った。

 触れたら最後、燃えるというより溶けていく。消し炭以外残さない。

 本来は大爆発を起こすものだが、それすら抑えて地獄の業火に閉じ込めて逃がさない。

 術者の熟練度を示すような的確な魔法で、残った魔物達は焼却された。

 

「ふぅ、お疲れ―!」

「どうも。やっと上級魔法を使う機会があったみたいですね」

 

 メドロのところに着地したバーバラはハイタッチ。その顔はどこまでも余裕があった。緊張のかけらもない。中ボス地点に設定された敵達だったはずなのに。

 

「……で、ライバル達に追いつけそう?」

「追いつけるかではなく、追いつきます」

「まーそうね……さっさと進まないとね」

 

 目の前の敵を見ているが、本当に見ているのはライバル達。スシヌとペッパーがどこまで進んでいるか。二人は駆け足で階段を降りていく。

 

「いやー……ごめんね! あそこで私が罠にかからなければ……」

「過ぎた事を言っても仕方ないですよ。僕も剣で壊そうとしてみましたけど、全然駄目でした。重すぎて持てませんし、力が抜けます」

「あ、私しか使えないのって本当だったんだ。私にとっては軽いのよこれ」

 

 バーバラはお遊びのようにエスクードソードを指先に乗せてぴょんぴょんと扱いだした。本人の身体能力の向上もあるが、勇者になる前からショートソードより負担を感じない剣だった。

 

「不思議な剣ですね。聖刀日光と魔剣カオスも資格無いものには持てないと言われていました。その類なんでしょうか」

「…………なにそれ?」

「ああ……説明したら長くなりそうなんで、先を急ぎましょう」

 

 メドロは頭を抑えて呻いた。この少女は戦闘ではこの上なく頼れるが、この世界についてあまりにも無知過ぎる。目の前の剣に知的好奇心が疼くが、この調子ではどういうものか聞き出すのは後にするべきだ。

 迷宮中層は階段以外、人の手がほぼかかっていない剥き出しの迷宮そのものだ。足場は岩盤や砂利でデコボコが多く不安定。湿度も高い。時折開けたところがあるぐらいで、基本的にはパーティ一つが隊列を取るぐらいの幅の道が続いている。罠の類は毒のあるエリアがあるぐらいで、魔物本来の強さ以外は普通だ。もっとも構造全体としては広いので、踏破に時間がかかるだろう。

 異空間ではない迷宮ならば、追う立場にとっての利点も出てくる。

 バーバラ達が次に開けたところに出ると、メドロが生み出した時以上の惨事が広がっていた。

 

「うわっ……これは……」

「スシヌさん、ですね……」

 

 そのエリアには、巨大な氷柱が突き立っていた。開けた広い地域の半分を氷柱が埋め尽くし、氷柱の中に五十体以上の魔物が閉じ込められている。

 吐く息が白い。このエリアだけが氷点下になっている。ここまで魔法の効果が残るのか。

 

「……この魔法なんなの? どんな大魔法使えば地形が変わるような魔法打てるの?」

「スシヌさんの絶対零度、いや違いますね。多分シベリアです。場合によっては氷雪吹雪でも出来るかもしれません」

「ええー……メドロが前使った魔法ではこんなの無理でしょ……」

「スシヌさんですから……彼女が本気で魔法撃ったらどう地形破壊されるかが前提ですよ。これはまだ可愛い方です」

 

 まだ可愛い方。見たこともないような大氷柱が? これ以上となると、どうなってしまうのか。

 

「スシヌって子がどんな子かはまだ知らないけど……魔法使いとしては規格外ね」

「そこだけは否定しません。魔法使いとしては誰も彼女には勝てない。……誰も、届かない」

 

 メドロは悔しさが混じった言葉を呟いた。

 魔王の旅から帰ったスシヌは、今までの自分の努力が馬鹿らしくなるような差が生まれていた。今と同じように一生努力して、それでもなお届かないのではないかと感じられるぐらいの差だった。魔法では、ずっと彼女に届かない。助けになれない。

 

「……逆に、これを利用しましょう。スシヌさんのルートに被ったということは魔物が掃討されて楽が出来るはずです。大事なのは追いつくことです」

 

 四年前から、今も背中を追うばかりだ。ただ、魔王討伐隊の時と違って同じ土俵にいる。同じ場所にいる。手を伸ばし続ければ、それでも届くはず。

 

 最後尾、バーバラ組は先行二人の背中をかなりの早さで詰めている。

 

 

 

 

 では、背中を追って追われる立場のスシヌはどうしているのか。

 至極単純、正面突破だ。戦って、戦って、戦うしかない。倒した敵の屍を踏み越えて進む。

 ガードと魔法使いのコンビでは脚は早くない。戦闘を回避する手も乏しい。ロッキーもこのクラス相手に愚直にガードを一人でしていては早々に潰れてしまう。

 よって魔法使いによる先手必勝。一撃必殺。それに尽きる。

 

「……っ電磁結界!!!」

 

 スシヌは開けたところに出るや否や対象を指定せず、範囲魔法をそ(・)れ(・)な(・)り(・)の(・)威(・)力(・)で(・)解き放った。

 高電圧の雷撃結界がフロア全体を暴れ狂うように発生し、魔物を包み込んだ。広めの部屋だったのだが範囲としては狭すぎたらしく、地形を削り取り、地面や壁がそのエネルギーに耐えかねるように壊れていく。

 もう雷属性なのは見た目ぐらいで、雷に触れた先からショートして壊して溶かしていくので効果自体は炎属性と変わらない。

 全てが収まった時、フロアはクレーターになっていた。いつもの事だ。

 

「う、うう……やっぱりやりすぎた……」

 

 魔物は哀れだ。自己修復機能があると言われるロンメルシリーズも消滅している。

 三英傑などと言われてるが魔法戦闘に限ってはメドロ達が二桁いても勝てない。それぐらいの火力差はある。どの程度だろうがスシヌにとっては敵にすらならない。

 スシヌにとって、味方が自分の前にいる方が怖いのだ。

 

「やっぱりいらないよこれぇ……ママ、こんなの持たせるなんて心配症過ぎるよ……」

 

 そう言って、母親から託された二つの道具の内、一つを掲げた。

 ――――ゼス女王マジックの運命武器、雷王の小槌。

 効果は所持した者の雷属性の魔法行使に限定した威力の向上。ただしバランスブレイカークラス。

 いずれ貴方も使うのだから制御してみなさい――そんな言葉と共に貸し出されたアイテムは、スシヌをして加減を間違えるという事態を引き起こしていた。

 今回だってかなり加減した。でもこれだ。手に負えない。

 魔法lv3,魔王の子,現在lv300。ここにバランスブレイカーまでつぎ込んだことにより、アニスやMMルーンといった天災の領域に入っている。

 スシヌはほうと溜息を吐いて、後に待つ未来を憂う。

 

「私、こんなの持ちたくないよ。今からゼス王の意識なんて言われても……」

「スシヌ様は優しくて強い子だすから、大丈夫だすよ。前回より良くなっていますだ」

「う、うん……」

「それより、こちらとしてもスシヌ様が守りも全部やってしまって申し訳ないだ」

「い、いえいえ! 私がやりたいからやってるだけで……! ロッキーさんは凄く助かってます!」

 

 ロッキーは移動時に不意の遭遇戦を受ける役目と、スシヌのメンタルケアに終始していた。あとは精々荷物持ちか。それでも、気心の知れてる人が落ち着かせてくれるだけで、スシヌとしては救われる。

 戦闘はスシヌ単体がバリアと防御結界で完封していた。魔力を使うから常用はしていないが、軍隊だって止められる防壁を物理魔法両面で発生できる。魔物達にとっては無敵結界と変わらないだろう。

 つまるところ、戦闘になったら魔王の子とそれ以外では生きてる世界が違うのだ。三英傑にとっての比較と言われていたが、スシヌにとっては若干広い実験場に過ぎなかった。魔王の子を図る物差しなどもう用意できない。

 一通りの戦闘が終わって通り抜けている最中に、幽霊のパセリがふわりと地面から湧き出て杖に戻ってきた。

 

「ただいまー。この先に行くと中層も終わりみたいよ~。2,3回ほどそれまでに魔物と遭遇するかもしれないけど、後から先にボス部屋があるみたい」

「あ、お婆ちゃんありがとう」

「それとー……ペッパー君見つけちゃった♪ ボス部屋手前で休んでたみたい」

 

 びくりと、スシヌが跳ねた。彼女は試練迷宮の突破は3組目だった。てっきり先に二人がいると思ってたいたため、先にペッパーの方に出会うとは思わなかった。

 

「え、え、え……メドロくんは?」

「んー……わかんない。もしかしたらペッパー君の方が遅れたのかもしれないしー……どこかで私達が追い抜いちゃったのかもしれないしー……」

「と、とりあえず合流して皆の安全を確認しよう!」

 

 ばたばたと、スシヌはペッパーのところへと向かう為に走りだした。

 彼女がこの方法で突破する時に怖いのは巻き添えにする事だ。ペッパーやメドロまでもれなく蒸発させてしまったら一生後悔する。そのために幽霊であるパセリが常に先に偵察していた。

 

「んー……まだ結構遠いわよ? 今からペッパー君追い越そうなんてやる気満々ねー」

「無いから! 二人に主席をあげるために私は参加してるの!」

「どうして? 勝負に勝つ事は悪いことではないと思うけど」

 

 ふわりふわりとスシヌの近くを漂うパセリに対し、スシヌは切羽詰まった表情で最悪の未来を語り始める。

 

「お婆ちゃんの時代には無かったかもしれないけど、卒業する時に主席だと色々あるの……」

「うんうん」

「まず、卒業生代表答辞があるんだけど……もうこの時点でわたしは無理! たくさんの人の前で一人とか死んじゃう!」

「スシヌは人の多いところ駄目だからねー」

「他にも祝賀会で花束贈呈とか新聞にも載るし、ゼスTVも来るだろうし……あ、ああ……」

 

 その待ち受ける苦難を考えるだけで辛いらしく、スシヌは少し涙目になっていた。

 

「ふぅ……家族の冒険で良くなったと思うけど、人が怖いのはそこまで治ってないかー」

 

 守護霊パセリは暖かい目線で心残りの娘を想う。

 彼女が成仏する日は、まだ遠い。

 

 

 

 

 迷宮深層手前のボスエリア。ここがゴール地点に急遽設定されていた。ボス部屋の少し奥にお帰り盆栽が設置されてある。それを一番最初に使えれば主席卒業間違いなし。ボス部屋の少し手前の小道でペッパーは気息を整えていた。

 一人である彼にミスは許されない。時には時間をかけてやり過ごし、遭遇戦では先手必勝で魔物の息を止める。避けようのない大規模戦闘も回り道をして最小限に抑える。

 白色破壊光線と光爆、ペストロン、エンジェルカッターによる必中魔法の相打ちやバリアを駆使した遠距離戦、肉薄してくる前衛の対処。魔法使いとして持ちうる全てを駆使して大規模戦闘も対処しきった。

 結果としてほぼ無傷で乗り切った。だが、どうしても時間はかかる。後ろの気配がひたひたと近づいているのが嫌でも分かる。スシヌはすぐそこまで来ている。幽霊がこっちまで来ているのだから時間的余裕は少ない。ほどなくこちらに来る。

 それでも、もうこちらはボス手前まで来た。これならボスに負けなければ主席は間違いない。

 

「……しかし、最後はやはりコレか。性質の悪いことだ」

 

 ゼス第一応用学校卒業試験、最終課題。急ごしらえの看板がここにある。

 

 もう少しだ、頑張れ!!

 この先にハニーがいるぞ

 魔法は効かないから武器で戦え

 

 ゼス第一応用学校は最後に天敵である陶器を壊すのが卒業試験だ。魔法使いでも肉体を鍛えろという教えであり、ペッパーとしても大いに頷ける。だがこれは酷い。

 いつもはただの茶陶器が相手なのだが、今回の相手は上位種だった。ちらりとボス部屋をのぞき込むと陣容が分かる。

 トライデント、花火を持つ陶器、つまりはレッドとブラックが複数、総計三十体ほど。

 そして大ボスと考えられるトリプルハニー。

 魔法使いに与えられる試練としては反則だ。どれだけ強烈な魔法を使えようが関係ない。陶器に魔法は効かず、上位種となると近接戦も強い。間違いなく無傷では抜けられない。

 

(さて、どうするか……)

 

 ペッパーの中には二つの選択肢があった。

 一つは攪乱してバリアを全力で張りながら突っ込み、ダメージを構わずに遮二無二抜けて逃げるようにお帰り盆栽を掴みとって使用する。

 もう一つはこのボス達を正面から一人で打倒する。スパルタとして戦い抜く。

 逃げる方が安全だ。だが……ここまで出し惜しみしてきた甲斐あって全力で戦うことが出来る。

 壁を越える機会が来た。

 

「決まりだな。競争だったからある程度割り切っていたが……もう逃げる必要はない」

 

 一人だから不利と自覚して戦闘を回避する努力をしていたが、本来のところでは邪魔する魔物は皆殺しがポリシーだった。それに従おう。

 ペッパーはボスエリアに飛び込んだ。

 さあ喧嘩の時間だ。

 

「ふはははは! 己の名はペッパー! 王となる男だ!」

「人間だ! やっつけろー!」

「光爆!!」

 

 ペッパーは無駄と分かっている魔法をハニー達の上方へ打った。目的は目くらまし。突貫する為の時間を稼げばいい。光の爆風はハニーには効かないが、その間は自分の姿は見えない。

 天井に直撃した魔法は炸裂して一時の煙幕を発生させる。スパルタである彼が距離を詰めるのに十分な時間が与えられた。疾駆して跳躍し、狙うはトリプルハニー。

 

「貴様等は己の法によって死刑だ!!! 即決刑罰執行!!」

「あいやーーーーーーっ!?」

 

 渾身の蹴りを叩きこみ、トリプルハニーは四散した。残るはブラック、レッドのみ。

 

「ま、魔法使いが殴りに来たー!?」

「やっつけろー! 喰らえー!」

 

 ここにいるハニー達は上位種だ。多少の驚きはあったものの動きは機敏、彼等はそれぞれが手に持つ武器を当てようと振り回す。この距離ではハニーフラッシュよりこっちの方が手っ取り早い。

 

「己の得意分野に付き合ってくれるか! 感謝するぞ!」

 

 悪手だった。ペッパーは胴を狙ったトライデントを大きくのけ反ってかわした。頭は地面スレスレ、重心は崩れきっているがむしろそれを勢いにして脚を振り上げる。その脚がカウンターの形でレッドを砕き、勢いそのままに手で飛び上がる。

 落着地点はブラック、これまた強烈な蹴りで砕かれた。

 ペッパーはスパルタだった。それも、足主体の。

 

「な、なにこれ!?」

「ふはははは! 遅い遅い遅い!」

 

 頭を振り回し、蹴りを繰り出しながら移動する。重心がわからないような見たことのないアクロバティックな動きで彼等の攻撃を捌いてカウンターでまた砕く。

 

「ハニーフラッシュ!」

「バリアだ!」

 

 これだけは注意している。頭を動かしながら、視点がぐるぐると動きながら杖を手放さない。時には足場にしつつも魔法行使の助けとして詠唱の手は止めていない。

 

「ライト! 粘着地面!」

 

 一つは目くらまし。一つは地面の不安定化。陶器に魔法は効かないが、その周囲の影響までは無効化できない。自分が動きやすい状況を整えていく。

 他のスパルタ達から見ても異様だった。頭を必要以上に振って気持ち悪い移動をしているように見えるがペッパーの中では合理がある。

 まず、蹴りの方が殴る方より威力が高い。手を攻撃に使わないから杖を持てる。杖を足場に使えるため、自由度も高い。

 転倒や側転、時にダメージを喰らったように見える大仰なかわし方から繋がる一撃必殺の蹴りを繰り出していく。

 戦いの中で脚の折り曲がりきった瞬間が生じた。これでは脚を攻撃に使えない。ブラックハニーは好機とみて花火を突き出した。

 

「はあっ!」

「う、うっそん……」

 

 頭突き。

 魔法使いが自分の頭でブラックの頭を割り砕いた。手以外ならなんでも使う。全身武器。

 突貫して、体制を空中で立て直してまた向き直る。

 

「これで半分程か! いいぞ! どんどんかかってこい!」

 

 流石に無傷とはいかない。出血箇所はところどころにある。致命に繋がる傷は全て回避しているが、火傷や細かい傷は隠しようがない。それでもギザ歯を見せて獰猛に笑う。

 

「ひ、ひぃーっ!?」

「死刑だ死刑! 即決刑罰執行!!!」

 

 残りのハニーが怯んだ時点で、勝負は決まった。

 褐色の筋肉質な男が舞うように蹴りを繰り出す姿。後ろ回し蹴り等の大仰な攻撃を身体全体を使って繰り出す戦闘法。魔法と近接戦闘を組み合わせたペッパー独特の動きに名前はないが、世界によってはこう言う人もいるだろう。

 カポエイラ。カポエリラリスタ。

 王を目指す者が、奴隷の技を使う。頭をあっさりと下げて、脚を高く振り上げる。

 ペッパーは血を流しながらも、三十体程いた高位のハニーを残らず破壊してみせた。

 

「ふぅ……後でヒーリングをかけねばな。それより、もうすぐゴールだ」

 

 この戦い方は先手必勝の一手以外無傷は無理だ。どれも深くはない傷だが、見た目ではそれなりに血を流していて痛々しい。

 ペッパーはお帰り盆栽に歩み寄ろうとした。その時、深層への扉が開いた。

 そこから出てきたのは一体のゲッペルス。徘徊しているのだから、こういう事はある。

 

「ッチ、おかわりか。貴様を潰して……」

「雷撃!!!!」

 

 ペッパーの背後から極太の雷が飛んでゲッペルスに突き刺さった。聖骸闘将はその近くにあったお帰り盆栽ごと、爆散した。

 

「…………………………」

「だ、大丈夫!? ペッパーくん!」

 

 今しがた到着したスシヌが、ぱたぱたとペッパーの方に心配して近づいてきた。

 彼女が見たのは傷ついて苦しそうに頭を下げているペッパーと魔導兵器。瞬間的に本能で敵を爆散させてしまった。あたりの状況を気にしないで。

 ペッパーはブチ切れた。

 

「スシヌ、貴様ーー!! 帰り道を壊してどうするー!!!」

「え、え、え?」

「今! お前は! この迷宮のゴール地点とされていた! お帰り盆栽を壊したのだ!」

 

 ペッパーは元気な動きでお帰り盆栽を指さした。完全に灰となっている。あれはもう使い物にならない。三英傑の為に用意されたゴールはもう存在しない。

 

「えええ……ゴールって、あるとしたら踏破じゃなかったの!?」

「そこから知らぬのか! エリーヌにはちゃんと伝えたはずだぞ!」

「あ、あはは……わたし、自作の迷宮に籠ってて……」

「この引き籠り娘がー! ホウレンソウぐらいまともにせんかー!」

「ごめんなさいーーー!!!」

 

 スシヌは涙目になって頭を下げた。生徒会長時代から何度も繰り返した光景だ。引きこもりのスシヌをカバーする役目をしたのはメドロとペッパーの二人だった。彼女が今卒業できるのも、引きこもりが酷い時期に散々二人が骨を折ったからである。

 ペッパーは王族がこういう姿をあっさり見せるのが嫌いだ。こうであるべきだ、こうならなければと思って努力している自分と、そういう立場に産まれてしまった少女。優しすぎて王には向いてないと思っており、もどかしさを感じてしまう。

 

「はぁ……知らなかったのならばもう良い。前日に決めた教員共にも責任がある。それより、ここから先は共に来てもらうぞ。貴様の予定通り、迷宮踏破に方針を変えるしかなくなった」

「え? お帰り盆栽はもうないんだよね……」

「うむ。恐らく最下層にあったものをそのまま持ってきたのだろう。下には何もないだろうな」

「そ、それだと私達はお帰り盆栽の帰宅地点で評価が決まるから、迷宮の踏破って認められないんじゃないかな……」

「そうだな。お帰り盆栽では無理だ。無駄足になるだろう。行ったと明確に証明するものが必要になるからな」

 

 自分の身体にヒーリングをかけながら、ペッパーは次の深層への準備を進めていく。その動きに迷いはない。スシヌとしては帰れるならば、もう理由をつけて帰りたかった。

 

「カメラとか、証明する方法があるの? ペッパー君一人だけで行くなら……その……」

「貴様が必要なのだ。貴様が証明する方法だ」

「わ、わたし?」

 

 一通りの傷を治したペッパーは伸びをした後、向き直ってスシヌの手首を掴んだ。

 

「ひゃ、ひゃあっ!?」

「迷宮を踏破した先にはゼス横断回廊がある。ゼスの王族しか使えないが、そこから別の迷宮に抜けて歩いて帰れば踏破と証明できる。己には貴様が必要だ。ついて来い」

「きゃーーー♪」

 

 杖の中にいるパセリが黄色い声をあげた。一連の言葉は口説きの手口に近い。

 本人には一切その気はないが、スシヌとしても顔を赤くせざるを得ない。

 

「い、行くから離して……」

「いや、一つだけ伝えておくべき事を伝え損ねているからな。スシヌ……」

 

 ペッパーが顔を近づける、真剣そのものだ。エキゾチックな風貌に思わず見とれてしまう。入学以来学校の女子達にとってのダントツ一番人気はペッパーだった。王子様という呼び方すらある。

 その王子様が自分だけを見ている。

 勿体つけて、ペッパーが口を開いた。

 

「俺達でもどうにもならないボスが最下層に沸いてしまったらしい」

「…………へ?」

「なんでも、3人全員が束になっても勝てないそうだ。絶対負ける、死ぬ、試験にならないだと。あのボンクラ共が言うボスとやらを倒すぞ」

 

 にやりと笑って、そのままぐいぐいとスシヌを引っ張っていく。ペッパーは最初から納得がいってなかった。一位を取った上でこの迷宮を制覇する心づもりだったのだ。

 

「いやーーーーーー! 放してーーーーーーーーーーー!」

「メドロはバーバラとやらの脚の引っ張り方次第では来るかわからんからな!貴様は逃がさんぞ!ふはははははは!!!」

「絶対いやーーーー! 無理無理無理ーーーー!!!」

 

 抵抗しようが関係ない。力強くスシヌの腕を掴んで離さない。そのまま深層への階段を降りていく。

 

 より深く、迷宮深層へ。

 三英傑でも不可能な試練が、そこにはある。

 




ゼス横断回廊
 迷宮にあるワープ装置。ゼス国内を素早く移動できるシステム。
 本来起動可能なのは王家の者のみだが、トー家はハッキング出来る。

雷王の小槌
 独自設定、マジックの運命武器。効果は雷属性使用時の倍率1.5倍。
 首切り刀とか運命武器はSランク~バランスブレイカ-一歩手前が多いために投入。
 親子で受け継がれる武器っていいよね。乱義だけラバウルの弓持っててズルい。

ペッパーのヒーリング
 神異変以前の幼い頃にソルトアンが仕込めた神魔法。他に状態回復とか使える。
 彼が無茶な戦い方が出来る理由。ガンジーはパワー型だけどペッパーはスピード型。
 後で治せばいい。

覆面校長スターマン
 せしぽーん。なんかおふざけな存在。この迷宮の状況を軽々とセッティングした。こういう便利なのがいないとRPGは回らない。深く考えてはいけない。

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