「うわーおー……これはすご-い……」
バーバラ達は中層の終わり、ゴールだったところに到着した。既にペッパー、スシヌは少し前に到着した後だ。用意されたボス達は残骸となっている。
「赤、黒……強いハニーばっかりぶっ壊れてる……」
「これだけ豪快にやれるのはペッパーだけでしょうね。しかし、これは手違いですね」
「手違いって、何が?」
「本来、ここに配置されているはずの敵ではないんですよ。確かにハニー達は魔法使いの天敵です。ゼス第一応用学校の試験では最後にハニーが待ち構えているのは恒例行事です」
メドロの顔色は良くない。どういうものであれ、同じ土俵で二人の影も踏めなかったのだから。
まだ足りない。事前に有利なものはあったはずなのに、あの二人には届かない。
「ここに配置されているはずがないって……知ってたの?」
「卒業試験だからある程度は漏らしてるんですよ。死なれたら困ります」
(そして僕は……特に知り得る立場だった)
実は今回の卒業試験、メドロは首脳陣全員にとって勝って欲しい人間だったのだ。卒業生代表答辞をスシヌがやったら潰れるし、ペッパーがいつものノリで国王の前で演説したら反逆罪に問われかねない。
そのため、試験に協力した各軍の長はそれとなくメドロにだけ情報を漏らした。メドロも勿論フェアではない事を自覚しているが、それだけの差が現在の二人に対してあるのもわかっている。
彼の装備の多くはその為に用意されたものも多い。予備の杖の内、一本は剣だった。対ハニーの為に用意された特注だ。
(中層ボスはグリーン、ブルー、ダブル、深層ボスはレッド、ブラック、トリプル……)
そういう予定だった。だが深層ボスが中層にいる。つまり手を引いた奴がいる。そんな事が出来るのは一人しかいない。
「……ハニーキング、裏切りましたか」
「そろそろ知らないって言うの辛いんだけど……」
「台本とか、予定調和を壊すのが大好きな我が国の同盟相手です。安全という言葉は陶器の辞書にはないみたいですね」
別にこの裏切りはいい、僕達だけなら受け入れた。だけどこれは我欲が見える。気に入らない。
「おかしいとは思ってました。毎年毎年犠牲になる宿命のハニーを供出しているんですから。彼も王ならば、あっさり出していいはずがない」
「おーいメドロ、戻ってきてー……ハニーの事なんて考えるだけ無駄だと思うから帰らない?」
「どうやって帰るんですか? ここにお帰り盆栽の残骸がありますよ?」
メドロは消し炭となったエリアに屈みこんで、灰となった盆栽達から無事だった一本の枝を取り出した。もうお帰り盆栽の役目は果たせない。
「私達は盆栽持たされているから、それで帰ればいいんじゃないかなーと思うんだけど……」
「ゴール予定のお帰り盆栽が壊されている。僕達に最初に配られた物を使えば失敗扱いになっています。そうなってしまっては、二人は深層を目指すしかなくなる。このお帰り盆栽は、事故か何かで壊れてしまったという事にしたんでしょう」
「ああ、うん……」
ほとんどスシヌのせいなのだが、メドロは魔物達がやった自作自演と予想した。そうなれば話は変わってくる。これは仕組まれた陰謀にしか見えなくなる。
「これは卒業試験を利用したゼス王女スシヌの誘拐を狙った卑劣な作戦です。阻止しなければならない。僕達も深層へ行きますよ!」
「ど、どうしてこんなことに……」
メドロは枝を深層への道に投げて、小走りで先行者の後を追い始めた。
ただの卒業試験だったはずなのに、いつの間にか大事件になりかけている。依頼人はやる気満々で下への道を降りていく。依頼を受けた冒険者としてはついていくしかない。
バーバラは頭が痛くなってきた。
「翔竜山の時と同じ感じになってるよ……待って、待って、待って、おいていかないでー!」
帰宅用の盆栽持ってる人から離れたら最後だ。バーバラは縋るようにメドロの後を追った。
第二試験迷宮、深層。
そもそもゼス首脳陣は本当に踏破させる気はあったのか。
あるいはもしかしたらという期待だったのか。卒業試験の中で協力し合う事を求めていたのか。
もはやゼス屈指どころか、ゼス最高難易度の迷宮である事を一切隠さなくなっていた。
深層の構造は見るものが見ればはっきりと分かる。闘神都市に酷似しており、聖魔教団が作った施設に違いない。
道は完全に整備された石畳だが、時間の経過で荒廃しているため瓦礫も多い。剥がれた壁、施設を支える支柱の素材、刻まれた刻印。今のゼスでも全解明はされてそうにない高度な技術たち。
ロストテクノロジーをしこたま抱えた遺跡がスシヌ達を迎えた。当然、侵入者を排除するための兵士がいる。
「「「フォッケウルフ!! フォッケウルフ!! フォッケウルフ!!」」」
「スシヌ、気を抜くなよ! 流石に抜かれかねんぞ!」
「わ、わかってるよお! もう一枚バリアー!」
これだけゲッペルスがいたらいてもおかしくないと思っていた。やはりいた。
聖骸闘将超上位種、ヒトラーだ。それも、三体。
新タタミ返し達が前に陣取って壁の役目を果たしている。開戦時は山と出てきた。
黄色の聖骸闘将は一体一体が時間差をつけて素早く範囲魔法を打ち込んでくる。スシヌ達を襲う火力は本家本本の絨毯爆撃より強烈な砲火となっていた。
バリア数枚挟んで猛火と爆炎。ガードも蒸発する高温の世界を鬼畜兵器は垂れ流していた。
この火力相手では、スシヌ以外の術者による防壁ではあっさり破られる。自然、スシヌが防壁役。攻めはペッパーが担当していた。
「白色破壊光線! ……ええい、あと一発必要か!流石に己も魔力が尽きそうだ!」
ペッパーは幾度となく相手のガードと喧嘩していた。後衛狙いで一回だけ貫通特化してみたが数に任せて反らされた。あの手の不思議魔物は集まると意味不明な受け方をしてみせる。自身を犠牲に後衛を愚直に守られて、さしものペッパーの魔力も枯渇しつつある。
だが、今の一撃は遂に受けに限界が来たらしく、後衛一体の半身を吹き飛ばせた。
そのヒトラーは機能停止までは行かずとも霧を吐き出している。あと少しだ。
「あの霧は……毒ガス攻撃だす! 見たことあるだ!」
役には立てないが経験ならある。ロッキーがいち早くヒトラーの狙いに気付いて警鐘を鳴らした。
気づけば全てのヒトラーが霧を出し始めていた。正面火力では破れないと悟って戦い方を切り替えつつある。
「忌々しい……対策あるか!?」
「ど、どけリンゴなら一応……」
「対処療法ではないか! まとめて吹き飛ばすしかないな!」
白い霧が満ち始めている。恐らく一定濃度まで溜まったところでこちらに打ち出すのだろう。
だが、ペッパーの高速詠唱の方が僅かに早い。彼はここで決めるつもりで切り札を切った。
「一切合切吹き飛ばしてくれるわ! 出し惜しみ無しだ! ――――破 邪 覇 王 光 !!」
ペッパーは大仰な溜めと共に拳を突き出し、渾身の純白の魔法を解き放った。
今までとは違う威力の一撃。数の少なくなっていたガード達も含めて残らず吹き飛ばしヒトラー達の身体に吸い込まれていく。
炸裂。爆裂。轟音……そして、静寂。
ヒトラーの毒霧ごとまとめて吹き飛ばし、バリアの向こう側を白く清く染めていく。
「…………やった!?」
「貴様が言うとまだあるようにしか思えんわ! 気を抜くな!」
ペッパーはほとんど魔力の全てを使ってしまった。衰弱しているが気丈に前を睨む。
やがて、自分の魔法の効果が薄れ……魔法の着弾後には、残骸だけがあった。
ヒトラー三体、ガード五十体近くに魔法使い二人だけで勝利してしまう。数の差も、技術力の差も魔法力だけでねじ伏せる。聖魔教団でも彼女達には及ばない。
「ふぅ~…………」
「竜角惨を寄越せ。ありったけだ、己の手持ちはこれが最後だから足りん」
「は、はいだす……」
スシヌはほっとして座り込み、ペッパーは次の戦いへ備えてありったけの竜角惨を口に放り込む。独特の酸味と柑橘類に似た香りが鼻をくすぐり、くしゃみが出そうになる。
「…………慣れんな。スシヌはどうだ? 半分を切ってたら飲め」
「私はこの味嫌いだからいい……まだ七割はあるから、大丈夫」
(…………化け物め)
これまでの全ての戦闘、スシヌは一体どれだけ魔法を使ったのかわからない。話を聞く限り、ほぼ殲滅してきたという。
ペッパーはスシヌとの合流まではかなり回避してきた。ほぼ全ての戦闘では短期決戦。節約を意識してきたのだ。しかし今ではスシヌが用意した竜角惨まで手をつける必要が出ている。
ひとえに貯蔵魔力の総量の差につきる。ゼスでもトップクラスの魔力を持つと自負するペッパーでもまだ桁一つ足りないとこうはならない。深層はその程度には激しい戦いがあった。
生来からある差を意識しても仕方がない。突破はした。今はアイテムが効くまで休むべきだ。
周囲の安全、魔物の有無を確認してからペッパーは壁に肩を預けた。
「これで残すのは転移装置までか。多少の罠もあるだろうがな」
「う、うん。お婆ちゃんに偵察して貰おうか」
「任せて任せて。ちょっと待っててね~」
するりと杖から英霊が抜け出し、いつものように一人で先行した。
ここから先はゼスの手が入っている領域になる。今まで突破したロンメルシリーズの工廠よりかは安全な場所と言えた。ただし、最後はボスモンスターがいる。
ペッパーはロッキーが用意してくれたお茶を飲み、しばしの休息を味わいつつ疑問を口にした。
「今までの戦いを考える限り、突破不能なものを用意できるとは思えん」
「ど、どうしたの?」
「無敵の盾がこちらにある。ダンジョン、迷宮のような少数戦でスシヌの魔法障壁を貫通できる相手はそうはいない……だが、校長は無理だと言った。何故か?」
今までの戦いでは、誤爆を恐れたスシヌが防壁を重ねて全突破していた。自然発生のダンジョンと違って、施設が破壊されたら全体の被害次第では生き埋めになりかねないためだ。戦えば一方的にこちらが勝てる。だが3人組んでも不可能と言われた。
「……考えても答えは出んな。ロッキー、竜角惨はこれだけか?」
「は、はいだす。お二人を全回復させる程の数は持ち込めませんだ……」
「資源不足か。己達は魔力が有り過ぎるからなぁ……補給が効かん」
二人はそれだけでマナバッテリーの初期起動が出来るぐらいの膨大な魔力を有する。普通の魔法使いとはタンクが違い過ぎて、回復薬を飲んだだけでは到底賄いきれない。
実質、ここで魔力は枯渇した。後は今あるものをやりくりするしかない。
「……早めにボス層へ行かねばな。後ろからゲッペルスが出て来てまた消耗となるとジリ貧だ」
ペッパーはお茶と共に、無理やり竜角惨を流し込んだ。
休憩後、ペッパー達はゼスが用意した罠のある回廊を抜けた。ゼス横断回廊はほとんどの迷宮にあるが、魔軍にあっさり壊されてはたまらないためある程度の欺瞞工作がある。ゼスお馴染みの落とし穴、転移罠などで関係者以外を惑わす為の地域だ。知っている人間なら迷う事はない。
最後のボス層、魔物達はあてがわれた広い踊り場ではしゃいでいた。
「ボクは闘将・H・バステトだー!」
「あーずるい! じゃあ僕は闘将・H・ロブロズで!」
ボスの取り巻き、ハニー達は聖魔教団ごっこを楽しんでいた。そこにいる全ての陶器が金色。腹部に赤きSの文字。ハニーの中でも超高位種、スーパーハニーだった。全部で九体。
「まあそうか。魔法無効ならスシヌは役立たず、と。どこまでも卒業試験か」
「ううう……これ、私達に用意されたものじゃないよー! 戦士でもこの量はおかしいからー!」
ペッパー達はパセリを介して情報だけを得て踏み込まずに隠れている。それでも相手の大声は聞こえる。いつも通りにハニー達はふざけていた。
そしてそのハニー達が守るように一体の聖骸闘将が立っていた。
「スーパーハニー達と……あれはなんだ? 聖骸闘将でも見たことがないぞ」
「クロイツ。生前に一回だけ戦ったけど、強いわよ~」
聖骸闘将ロンメルシリーズ最上位種、クロイツ。この世界でも十体はいない存在がいた。
恐らく素材に使われた死体は魔法lv2、それも高レベルだった人間が使われてないと説明のつかない魔法力を持つ。
衣装も豪勢だ。他のロンメルシリーズは色は違うぐらいで、概ね見た目の上ではローブに肩鎧を着こんでいるだけに見える。このクロイツという聖骸闘将には華美な装飾がある。ロンメルシリーズ共通の肩鎧の部分を黒にし、金箔が張られている。
ロンメルシリーズは聖魔教団が作った兵器だが、それは聖魔戦争でそれだけの魔法使いが命を落とした事に他ならない。死者でも活用するしかなかった当時の必死さが伺える。
聖魔教団は魔に勝とうとし、死語の骸になっても人類の為に献身した兵器達だった。当時の魔法使いに対する死者の作法として、この処置が行われて葬儀のようなものになってしまった。
ヒトラーが魔法使いに対する最高級の葬儀の儀礼だったとするならば、これは国葬。量産型ではなく、それぞれがオーダーメイドで作られた聖魔教団が誇る最高傑作だった。
「ゼスの『結論』が相手か、それも考え得る最高の質で再現されている」
「結論……?」
「第二次魔人戦争時代に決まった答えだ。魔法使いにとって最強の布陣とは何か。ハニーを前衛に置いて、ハニーごと魔法で敵を殲滅する」
今回は後衛がクロイツ。前衛がスーパーハニー。ただでさえ魔法使いには抗する手が乏しいのに、バリアまで張らなければならない。
「今までのようにバリアを馬鹿正直に張っても削られていずれ力尽きる。正攻法での攻略は不可能だ」
おずおずと手を上げて、スシヌが解決策を切り出した。
「私が範囲魔法を打って、クロイツだけでも倒すのは駄目かな?」
「転移装置が近くにあるから、そこを巻き添えにしなければ大丈夫だけど……」
「却下。今日のお前に信用はない。絶対に打つな」
「はい……」
しょんぼりとスシヌは引き下がる。白色破壊光線の誤爆。雷撃でお帰り盆栽の爆破。今日の彼女は
「正攻法も無理、先手必勝も厳しい。これは難題だな」
ペッパーは納得した。無理だ。不可能だ。絶対死ぬ。そう言われるだけはある。
だが、この状況を作ったのはゼスだ。恐らくは前衛がスーパーハニーだったのが誤算なだけで、それ以外なら突破の目も作られているはず。
「パセリ、貴様は他にも色々見ていただろう? 何か攻略に繋がる情報を寄越せ」
「うん。ここはフルーツ遺跡の転移装置と同じ構造になっていて、奇襲出来そうなところが上にあるの。周り込めば行けるはずよ」
「そこからクロイツに一撃して、後はスーパーハニーを相手取るか……」
本来の攻略法は見えた、しかしスーパーハニー。それもこの数、ペッパー一人では危うい。工夫が必要だ。
「せめてメドロがいれば何か違うかもしれんが、待つわけにもいかんな」
「ハニー相手じゃ何もできないし、帰ろう!危ないよ、もうこれ駄目だよ……あうっ」
すっかり逃げ腰になったスシヌに対して、ペッパーはデコピンをした。
「安心しろ。この己が勝てる方法を思いついた。それもお前が役に立つ方法でだ」
「わ、私に何か出来るの……? ひゃあっ!?」
ペッパーはスシヌの身体を掴んでお姫様だっこをした。
「え、え、えーーーー!?」
スシヌは自由意思関係なく、ボスのいる踊り場へ運ばれていく。
扉の前に来た時、邪悪な笑みを浮かべたペッパーはスシヌに作戦を告げた。
「貴様は囮だ。単身あいつらの前に行って集中砲火を受けてこい」
「…………っへ?」
「そらっ!」
扉を開け放ち、ペッパーはスシヌを投げ飛ばした。柔らかくボスのいる踊り場へと放り投げられる。
魔物の視線が、一人の少女へと集中した。
「敵性存在確認。排除スル!」
「メガネっ子だ! 捕まえろー!」
「ひゃあああああああああああああ!? 来ないでえええええええええええ!!!!」
ボス攻略戦が始まった。
炸裂音と地響きが、そう遠くないところで響いた。
ここは迷宮深層を抜けた罠のあるエリア。メドロ達はスシヌの後を追うように、ほとんど消耗をせずに彼女達の後を追ってきていた。
「始まりましたか!」
メドロは遂に駆け出した。このエリアに敵はいない。後はもう急ぐだけだった。正確に罠の無い道を選択して駆け抜けていく。
「やっと追いついきそう!」
バーバラとメドロ、二人は最終決戦に間に合いつつある。砲火の音は少しづつ大きくなっている。
次の階段を降りると窓から階下を一望出来て、踊り場にいるスシヌの姿が見えた。
「……見つけた!」
スシヌは踊り場で聖骸闘将とハニーの砲撃を受けていた。魔法障壁が多重に張られて彼女は傷一つついていないが、守りに専念しているため一方的な展開になっている。
「ペッパーくん、ひどいよおおおおお!!!」
スシヌはヤケになって泣いていた。囮に無理やりされているのだから当然だ。
感情とは別に魔法障壁の構築は緻密でさらに硬く、より厚くなっていく。
あれではゼス軍でもすぐには抜けない。とりあえずすぐに危険はない。
「あれがスシヌって子ね!」
「そうです! 早く向かわないと! まだあそこまでは二つ三つ罠があります!」
焦れば侵入者排除用の罠にかかる。転移魔法陣はあちこちに張られている。説明している時間が惜しい。
「ここで見れるって事は窓から出ればあそこまでショートカットできそう! 行ってくる!」
「そこも罠なんですって……!」
「あ、あれええええ!?」
転移罠に引っかかった馬鹿がいた。彼女は窓を壊して踊り場に出ようとして……ワープポータルに吸い込まれた。
「……っああもう!」
これでパートナーは消えた。回収しなければならない。
ここでメドロの中で二択が生まれた。階下にいるスーパーハニー達は自分だけでは排除不能。バーバラがいる必要がある。
スシヌを放置して、バーバラを回収した後スシヌを救うか。
何はともあれスシヌのところへ向かい、彼女と共に逃げてからバーバラと合流するか。
スシヌは既に十分な障壁を張っている。すぐに命の危険になるという事はないだろう。大人しく向かうべきだ。だが、だが――――
「やれやれ。手間のかかる勇者ですねー」
勇者の従者、コーラがどこからともなく現れた。
「あなたはバーバラの仲間の……どうしてここに……?」
「お気になさらず。それより大事な事があるんじゃないですか?」
コーラはメドロ達を一瞥もせず、転移罠のところへ不用心に近づいていく。
「バーバラは私が回収しておきます。気にせずにあなたはやれる事を尽くしてください。そうじゃないと、手遅れになるかもしれませんよ?」
「…………ッ」
「まったく、この程度でも私がカバーする必要があるんですか。本当に今回の勇者は駄目ですね」
呆れの混じった愚痴を最後に、コーラは転移罠に飲み込まれて消えてしまった。
残されたのは、メドロのみ。
時間はない。轟音は続いている。すぐ近くで戦闘がある。
まだ戦っている。どうにもならない敵を相手に攻め手がなく孤立している。
「…………スシヌさんっ」
ペッパーは二人の事を振り払って駆け出した。
守りたい者を守る為に、今度こそ手を届かせる為に。
強烈な魔法と砲撃がスシヌを襲っていた。
「ビスマルク! バイヤ・デバイス!」
「「ハニー――ーフラー――ッシュ!!!」」
「ひ、ひいいいいい!!! 魔法バリア! 防御結界!」
「落ち着いて。まだまだ余裕はあるし、大丈夫だから」
「そんな事言ってもぉ!」
純粋な衝撃力、炎の隕石、強烈な突風、ありとあらゆる方法でスシヌを抹殺せんと殺意の塊が降り注いでいる。
冒険では守ってくれる人がいた。今は孤独で自分を守るだけだ。精神的にとても辛い。
「硬すぎるよー! これなかなか破れないぞー?」
「こういうのって直接殴ると弱いらしいぞー。ボクに続け―!」
「バステトが行ったぞー! 僕も行こう!」
その内二体のハニーが、スシヌの弱点を突きに来た。
この手のバリアは遠距離攻撃なら調整で可能だが、直接的衝撃には対応しきれず若干脆弱だ。術者がスシヌだからすぐに破られる事はないが、一番嫌な手だった。
「……頃合いだな、行くぞ!」
そして、それがペッパーの狙いだ。奇襲用の窓から踊り場へ身を翻し、唯一の後衛のところへ飛び込んだ。
落下速度をつけた蹴り一撃で仕留める。
その後のハニーは死力を尽くす。
気配は消した。相手はスシヌに夢中だ。まずクロイツは潰せる……はずだった。
クロイツが、こちらを見た。
「敵性存在追加、排除スル……スーパーティーゲル!」
「…………ッバリア!! ぐぅっ……」
「ティーゲル! ティーゲル!」
クロイツはこちらを察知していた。未だスーパーハニーは誰もこちらに気付いていないのに、対処の魔法を打ちこんでくる。
(今までの奴とは違うわけか……!)
反応機敏、ただ強い魔法を打つだけではなく、自分の撃てる手札を即座に速射に切り替えて撃ち落とそうとしている。バリアは最初の魔法で破られた。威力は高くないが生身で耐える羽目になった。
聖骸闘将クロイツ。魂は既にないが、その目には執念が宿っている。
ペッパーは生身で短い時間の間に魔法を受ける。致命傷を喰らうわけにはいかないため、他の部位で無理矢理受けさせる。
いつまでも続くわけではない。自由落下で二人は接触する。
一撃が、入る。
「ティーゲル!!!……ッ!」
「オ、オオオォォォォ!!!」
最後の魔法は肩口を抉った。もう片腕は使えない。そのお返しとばかりにクロイツの頭蓋にペッパーの脚は突き刺さった。
振りぬく。地面に突き刺さる、そのまま割り砕く。
大した受け身も取れぬまま、ペッパーは地面に激突した。
「なる、ほど……建国王が強いと言うだけはあるなっ……!」
クロイツは沈黙させた。だがまだスーパーハニーは残っている。倒れるわけにはいかない。
無理やり、起き上がる。周囲の驚いた陶器達を睨みつける。
「やられたー! 今度はこっちの番だー! やっちゃえー!」
「…………ッ」
中層と同じだ、無傷とはいかないまでもやってみせる。
赤や黒と違い、スーパーハニーは自分の身体で殴ってくる。普段ならむしろ得意分野だ。かなり早くなったがまだなんとか対応は出来る。
「……せいっ!」
一体の殴りを避けて、後ろ回し蹴りを振りぬいた。硬い感触だが、なんとか破片が砕けた。まずは一つ。
「「ハニーフラッシュ!」」
「バリア……ッぐうぅッ……!」
スシヌの方に向かった2体が向き直り、ペッパーにハニーフラッシュを打ち込んできた。
万全な状態ならいざ知らず、今の状態では受けきれなかった。流石は上位種。どうしても、たたらを踏む。
「今だボコれー!」
三体のスーパーハニーがペッパーに向かっている。スパルタは足が止まったら詰みしかない。
「ペッパー様! おらが時間を稼ぐだ!」
一泊遅れて入ったロッキーがペッパーを庇った。時間を稼ぐためにスーパーハニーに身体ごとぶつかっていく。
斧を打ちつけ、打ちかかるようにして二体を止めた。これなら一体一だ。
「喰らえー!」
ハニーは渾身の速度で突貫してくる、黄色い尾を引くような突貫。鋼鉄すら破る一撃だ。
ペッパーはそのハニーをギリギリまで引き付けて足払いを仕掛ける。陶器に足はないが、前のめりに倒れ込めば隙になる。そこから渾身のかかと落とし。
突貫した陶器の頭蓋は割れた。残り、七体。
「「「ハニーフラッシュ!!」」」
「あ、あんぎゃー……」
二体を止めていたロッキーに、三発のハニーフラッシュが突き刺さった。
高位種のハニーフラッシュはロッキーには過剰な火力に近い。ロッキーは吹き飛ばされて気を失う。
(これで己一人か。不可能と言われるだけはあるな、ふははは……)
肩口の傷は深い。体力は削られている。魔力はあるが、次の斉射に耐えられそうにない。相手はまだ七体もいる。
ハニー。魔法使いの天敵。ペッパーは高位種相手に屈しようとしている。
「だが、やれるだけやってやる!いいぞ来い!」
「その意気や天晴! 闘将・H・ホセイト、参る!」
「同じく闘将・H・ルデム! 相手になってやる!」
ロッキーが押さえつけた二体の陶器が突っ込んできた。相変わらずこの状況でも遊んでいる。
一つは抉られた肩口を狙って、一つは腹を狙った突貫。他はハニーフラッシュを用意している。 三手詰みだ。ではその間に何が出来るか。
「……スシヌ!」
やるべき事は、全員に注目させられた今が好機だ。無謀につき合わせた責任は取る。
「今すぐ逃げろ!」
飛び上がり、回避は無駄。ハニーフラッシュに撃ち抜かれて終わり。だからこの時はなるだけ目立って相手を一体でも削る。
ペッパーは腹を狙った敵に倒れ込み、より下に深く、深くに潜り込み……かわして蹴り上げた。そのまま大仰に打ち上げつつもう一体のハニーを巻き込もうとする。
「あいやーっ!?」
一体は割れた。だがもう一体は力が入らない側にいたせいで、ヒビが入るだけに留まった。そしてペッパーにハニーフラッシュが襲い掛かる。
「ッ―――――――――――」
衝撃が全身を撃ち、ぺッパーは壁に叩きつけられて意識を刈り取られた。
作戦は失敗し、生き残るのはスシヌだけ。
「あ、ああ……」
「いえーい! 僕たちの勝利ー!」
「いえいいえーい!」
スーパーハニー達は喝采を挙げた。勝利者は彼等で、魔法使いのスシヌでは何もできない。
「あ、この子どうするー?」
「勿論倒すよー。…………あれ?」
その時、バステトと勝手に名乗った陶器が気づいた。スシヌの胸元に何かある。
そこにあったのはストラップ、マジックに託された二つのアイテムの内の一つ。
「この子、ハニーグッズを持ってるよ……」
「えっ!? ホントだ! しかも普通のじゃない! キング直々のだよ!」
「へ、へへっ……?」
そのストラップには、ピンクのハニ子と、白いハニーキングのミニチュアがついていた。
これの意味する事はただ一つ。物理的な虐め厳禁。
金の陶器達はざわついた。そういえば、この子は凄くタイプだ。
「んー……聖魔教団ごっこってだけじゃ駄目だよねこれ」
「うんうん。ちょっと対応変えないとね」
ハニー達は素に戻り始めた。話合いが通じそうな空気になってきてる。
「……あの! 私達卒業試験を受けてて! それで、二人を見逃してくれませんか!」
「ええっ……? こっちだって結構割られたよー?」
「お願いします! ペッパーくんもロッキーさんも助けたいです! 私に出来る事ならなんでもしますから!」
スシヌは頭を下げた。このままでは友達と信頼している人を喪ってしまう。それだけは避けたかった。
「なんでも…………?」
「この子が……?」
金の陶器達はざわついた。眼鏡をかけている。虐めてオーラがある。不幸にさせたら光りそうだ。肉体的な虐めはNGだけど、自分達の村に連れて行ったらどんな事が出来るだろう?
「ブルマ、スクール水着、ワンピース……」
「ミニスカートのセーラー服、超昂閃忍、ゴスロリ……」
「水かけてスケスケとかもいいのかな……極悪非道だと思うけど!」
「リールでくるくるまいて、つんつんする……」
彼等全てにとってドストライクな眼鏡っ子が目の前にいた。頭の中がいやらしい劣情に支配されていく。
「……聖魔教団ごっこはやめて、誘拐身代金ごっこやろうか」
「そうだね。それがいいよ……」
「僕、いよいよ割れちゃう日が来たのかも……幸せだなあ……」
満場一致だった。スシヌを攫って、二人は助けよう。
「バリアを解除して、僕たちと一緒に来てくれるなら二人を見逃してあげるよー」
「うっ……うう……お婆ちゃん、ごめんね……」
スシヌは自分がどんな目にあわされるか覚悟した。実際に行われるより遥かにえげつない凌辱を想像していたが、それでもペッパー達を助けたかった。
スシヌは幾層にも及ぶバリアを解除していく。最後の一枚も解除して杖を背中に戻し、伸ばしてきたスーパーハニーの手を掴もうとして――――
「触るなあっ!!!!」
メドロが間に合った。
奇襲とばかりに斬りかかり、ハニー特攻のついた剣で陶器をレベルに任せて割った。
「え、ええっ……!? メドロ君!?」
「まだ僕がいる! スシヌさんは僕が守る! 彼女を攫うなら僕を倒してからにしろ!」
魔法使いが剣を取り、前に出ていた。相手は五体のスーパーハニー。勝てるわけがない。
「あー、誘拐する前には護衛欲しいよね。オーケーオーケー、遊ぼう!」
「メ、メドロ君……! いいから! 私、大丈夫だから!」
「僕が良くないんです! ハニー破壊許可証も持ってきたぞ!」
「――――じゃあ、容赦する必要はないよね」
ハニーの声から遊びの色が消えた。それを持ってる奴は殺す。もう一体のハニーが襲い掛かった。
「っく……!」
速い。でも対応は出来る。ただそこからどう仕留めればいいかはわからない。
メドロはあの日から四年間、毎日振り続けて来た。指南役はクラウン家に昔から仕えた人間だ。貴族なんだからそれぐらいはいる。
彼が言うには死んだ親戚より才能が無いから、そこまで頑張らなくていいって言っていた。
だからどうした。魔法で届かないなら、他で守れればいい。自分の得意な事だけに拘るな。
ハニー学だって学んだ。スシヌが勝てないとしたら、相手は陶器だ。
必要ならなんだってやる。
「お、おお……?」
「そこ、だぁっ!」
構造上どうしても対応しきれない一撃はある。その隙をこのスーパーハニーは晒した。
短い腕と足の無い身体。決めきれない事に焦った結果がこれだ。
知識と武器。元々のレベルの高さと鍛錬によってメドロはスーパーハニーを打倒してみせた。
「「「ハニーフラッシュ!!!」」」
「ぐぅぅっ…………!」
だけどこれは防げない。杖を捨ててスーパーハニーのハニーフラッシュを防げる防壁を即興で作れない。捨て身のやり方だった。
モロに直撃しながら、それでも前に出る。メドロにはそのためのアイテムがある。
次の一撃は耐えられない。だから使う。幼迷腫の出番だ。
「うわっ! 傷が癒えた!」
メドロが口に含むと力が漲り、これまでの傷が瞬く間に癒えた。
後の事なんて考えない。霞む視界がクリアになったから前を見た。
遠い。後二発は撃たれる。だが駆ける。
「メドロ君、もういいから! これ以上は死んじゃうよお!」
後ろでスシヌは叫んでいる。四年前は庇われる側だった。今日は庇う側になってみせる。
一撃を喰らった。ハニーは気迫に気圧されたか、少し遅かった。これなら次で相打ちになる。
「…………ッ」
いや、脚を中心にやられていた。こっちもふらつく。相手も遅いが自分も遅くなった。どうしても次の斉射は耐えなければならない。
「「「ハニーフラッシュ!!」」」
「……っまだだ!」
歯を食いしばれ。
男は見栄を張る生き物だ。惚れた女の前で簡単に倒れるな。
メドロを支えているものは気合と意地だけだ。だが、その意地だけで前へ出る。体力はとっくに尽きている。粘り。根性。それだけで耐えきってみせた。
「ああああっ!!!」
遂にメドロの剣がスーパーハニーに届いた。ペッパーがヒビを入れたハニーだったため受けきれる事が出来ずに今度こそ粉砕される。
「あーもう、無茶苦茶だよー!」
「ぐふっ……」
だが限界だった。隣にいたハニーの一撃が腹に突き刺さる。メドロはたまらず悶絶して転がった。これで本当に戦闘不能。意思の力では立ち上がれず、地面を這いつくばるしかない。
ペッパーはハニーフラッシュを叩きこまれて気絶。ロッキーはボロボロ。メドロは意識があるが虫の息。スシヌは純魔法使いだから何もできない。
本当に、三英傑にとって不可能な試練だった。
「じゃあ……誘拐ごっこの続きだね。その前に許可証持ってる子は殺さないといけないから、ごめんね」
「や、やめて………」
ゆっくりと、ハニー達は力を溜めていく。勿論撃つのはハニーフラッシュ。彼を亡き者にするための十分な一撃が準備されつつある。
「さーて行くよ、ハニー……」
衝撃派が振り下ろされようとしている。だがその前に、踊り場を飛ぶ影がいた。
「人の依頼人に手を出すなーーーーーーーーーーーー!!!!」
勇者バーバラだ。手に持つのは魔を絶つ剣、エスクードソード。
「ハーニワ叩きーーーーーーーーーーー!!!!!」
飛び降りた勇者はスーパーハニー達に襲い掛かった。三体全てが撃とうとして、無防備な瞬間に斬りかかっていた。
光と共にエスクードソードは振りぬかれた。一瞬の静寂が生まれる。
「ス、スーパーなのに……あいやー……」
そう最期に発すると、生き残っていた三体のハニーはさらさらと溶けて消えてしまった。
「ふ、ふぅ……大丈夫!? メドロ生きてる!?」
「ギリギリですね。ポンコツにせよ、間に合うだけ勇者としては一応合格ですか」
慌てて依頼人に駆け寄る勇者と従者。わたわたと周りの人間を回復させようと駆け回っていく。
この試練はゼス三英傑が最初から揃っていても突破不能だった。
だが、新勇者バーバラにとっては違う。彼女はイレギュラーで、唯一の突破口となり得る希望だった。
勇者の最初の冒険で、一人の少年が救われた。
クロイツ
ランス6 エンディングに稀にグラが出るけど実装が無かった没敵キャラクター。
ヒトラーで十分トラウマになるからなくて良かったです。ノクタン鉱山で全滅したことのないプレイヤーはいますか?
織音計画の通常版、246pサイアスの隣に載せているため今では見やすい。
資料確認の為に何度もエンディングを見返さなくて済む。
スーパーハニー×9
6のゲーム的にはガンジーとマジックとアレックスで挑むようなもの。そりゃ無理だ。
ズルキ・クラウン ハッサム・クラウン
糞貴族達。ゼスの汚点時代のよくある存在。
時を経て、マンハンター家系の跡継ぎはハニーハンターに。
親戚の汚名を跡取りが返上する。そういう展開があってもいい。
ハニーグッズ
本当に設定どおりならあかん。一方的に殴れる無敵結界なので改変。マジックが渡した親心。
アームズ単騎に持たせてハニー砲台を突破した人も多いはず。