各々がサチコやミラクルが用意した軽食に手をつけて休んでいる。団欒とした雰囲気の中で、バーバラはうなだれていた。体育座りで周囲に背を向けて、心の整理をしている。
「あれは事故、あれは事故、あれは事故……そう、ちょっとビックリしただけだから……」
勇者になって、初めての敗北である。無敵とまで増長していたバーバラにとっては効いた。
ダークランスに一太刀で負けた。冒険者としてはこの時点で死亡と教えられていた形にされて、ぐうの音も出ない。なんとか言い訳をしようとしても、負けたという事実だけは隠しようがなかった。
バーバラの落ち込み具合を気にしてか、ダークランスが近づいてきた。
「あー……さっきは悪かったな。ちょっと脅し過ぎた」
「こっちも斬ろうと思ってたし、おあいこでしょ。私が弱かっただけ……」
「まあ、そうだな。ただしあまり気にする事ではないからな。俺だっていくらでも負けてきた」
「負け、勇者で……むうぅ……」
バーバラは手持ち無沙汰に小石を掴んで放り投げる。小石は豪速球となって木の幹を貫通し、悪魔回廊の入り口にめりこんだ。
これだけの力を与えられて、あっさり負けたのだ。やはり、溜息がでる。
片翼の少女――先程ヌークと紹介された堕天使が、サンドイッチを渡しにきた。
「ダークランスは魔王の子だからね。そりゃ大体勝てないでしょ」
「魔王の子……スシヌちゃんの兄弟なの?」
「おっ、俺の妹に会っているのか?」
「ちょっと前に仲良くなった友達。ゼスの姫って聞いてたけど、ほんわかした子だったなー」
その言葉を聞くと、ダークランスは頭に手を当てた。戦いでは一切の動揺が無かった悪魔が、顔を青くしている。
「なんてこった……スシヌは友達少ないからな。その友達に手をあげたとか知られたら口を聞かれなくなっちまう。頼む!内緒にしてくれ!」
「え、ええ……いい、けど……」
初対面の時の冷徹な部分はどこへやら、妹に激弱なダークランスは頭を下げた。彼にとっては、敵よりも身内に嫌われる方が恐ろしい。
「スシヌちゃんのこと、大好きなのねー。確かにすっごくいい子だし、気持ちはわかるかなー」
「うちの妹は可愛いだろ。どうして友達になったんだ?」
でれっとした顔で、ダークランスは笑った。スシヌに友達が出来た事を心から喜んでいる。
「少女漫画が好きなところとか、雰囲気。文通友達になっちゃった」
「ううむ、俺にはあんまりそれは分からんがな。次の誕生日に贈ってみるか」
「最近は古い名作を探しているって言ってたから、被りを恐れなければそれがいいかも」
「おお、面白い話を聞いた。ありがとな!」
ダークランスは目を輝かせて、メモを取り出した。
弟や妹についての好きな事については絶対に覚えようという気概があり、様々なところが分厚く書き込まれている。付箋にはリセットやザンスというように、弟や妹の付箋が刺さっていた。
(悪魔だったし身構えたけど……甘々なお兄ちゃんだ。この人)
強さに圧倒されたが、人間臭さを見せられてバーバラは気が楽になった。心配してくれてありがとうと礼を言い、残り少ないパンを取りにクルックーのところへ向かう。
「ん……復活しました。心配かけてごめんね!」
「お帰りなさい。どうでした、ダークランスは?」
パンは残り二つしかなかった。一つは自分、もう一つを隅っこで座っていたコーラに投げてかじりつく。
「凄く強いけど、それ以上にお兄ちゃんかな。いい人そう」
「昔は可愛いところもあったんですよ。魔王の子は皆個性が強いんです」
魔王の子。また魔王の子。バーバラにとって二人目の魔王の子だ。
魔王の子によって世界は支配されているとか説かれた事もある。japanを含めた大国全ての子という話も。多くは魔王が人間だった頃に、産まれた子供達だと。
「縁が無かったのに、一気に魔王の子と会うなあ……」
「勇者ならそういう事もあるでしょうね。魔王の子は今の人類最強達です。魔王がいなくなったのも、彼等のお陰ですよ」
「二人はダークランスと知り合いみたいだけど、他に誰か知っているの?」
「くくく……」
我慢出来なくなったか、ミラクルが忍び笑いを漏らした。もう黙っていられない。
「知っているぞ。全員知り合いだ。何故なら余の娘も魔王の子だからな」
「私の娘も魔王の子です」
「…………へ?」
パンじゃなかったら食事を落としていた。その程度には衝撃的な発言だった。
「全員説明してやろう。余の知る限り魔王の子は現在12名だ。余の子、ミックス・トー、そこのクルックー・モフスの子、エール・モフス……」
各国の指導者の名前が挙がり、知らない名前も挙がる。実のところは層々たる面子だったが、バーバラの知識には無い人間の名前もあり、一気には覚えきれない。
その中で、明らかに知っている名前があった。
「ちょ、ちょっと待って! チルディさんって魔王の子の母親だったの!?」
「む? そこに反応するのか」
「当たり前でしょ。親衛隊から駆け上がって金の軍隊長も務めたリーザス最高の女性剣士だもの。私にとっては憧れの人」
「……知識が偏っているが、まあいいか」
今の発言の中でクルックーが法王である事に気づかなかった。なのにチルディだけは知っている。せっかく説明したのに、このザル具合だと魔王の子全員受け流されかねない。
「アーモンド・シャープだけはまだ幼い。後は全員世界最強を名乗って問題ない者達だ。勇者ならば会う事もあるだろう。覚えておいて損は無いぞ」
「世界、最強?」
「先程のダークランスのように、勇者が負けるかもしれない相手ということだ。なにせ勇者の代わりに魔人達や魔王を倒してしまった者達だからな」
「それはもう人間じゃないなあ……」
バーバラは魔王の子達とは戦わないと心に決めた。いざという時は逃げようとも思った。その人と戦わなければ世界最強でいられるのだ。
世界とかどうでもいい。自分はしっかりと、この手の任務をこなして稼げればいいのだ。勇者はパンの最後の一口を放り込んだ。
「……悪魔か何だか知らないけど、魔王の子がいるなら楽勝でしょ!」
敵ならともかく、味方なら心強い。程なくして勇者一行は悪魔回廊に踏み込んだ。
悪魔回廊とは、自由都市地帯の
カスタム、カンラ間を山登りをする必要なく素早く移動出来る。遥か昔、ラジールがヘルマンの占領下になった時に、利用した人間もいる経路だ。
基本的には人では通れない洞窟である。種族として、魔物や人より遥かに強い悪魔達の巣窟であり危険過ぎる。
バーバラ達は悪魔回廊東部から侵入した。
「うーん……やっぱり悪魔の住むところっていい気がしないわね」
元天使、ヌークは不快そうにあたりを眺める。日の光が差さぬ洞窟内であり、光源は静かに燃え盛る石ぐらいだ。
「道は広くないからな。落ちたらどこまで行くかわからんから気をつけろよ」
ダークランスが言うように、悪魔回廊の道は狭い。時折広いところもあるが、人が多少すれ違える程度の幅しかない。
悪魔回廊は底が見えない大空洞が中央にあり、それを挟んだ二つの崖を縫うように進む必要がある。分岐となる通路の出入り口のほぼすべてが、悪魔の顔を意識した装飾が施されており、通る者の不安を煽ってくる。
(しかし勇者、か……)
ダークランスは何度も通った道だ。今回はバーバラに先行を譲り、後衛組を含めた護衛に回っていた。
前線をバーバラ、少し遅れてダークランス、そこから後衛組やコーラがいて、最後尾をサチコが引き受けている。
実際のところは一人で全部突破出来る。最後の方はネプラカス狙いで襲撃だって仕掛けた事がある。だがバーバラが落ち込んでいる間に、クルックー達から説明を受けた。必要な時以外は目立たないで、バーバラに任せろと言われた。
勇者は死なない。その間に見極めて、危なかったら導いてあげよう。良い子だから優しくしてあげてくれ。そんなところだ。
目の前の少女は時折危なっかしくも悪魔を切り払っている。身体能力は魔人のそれと大して劣らない。縦横無尽に敵を倒していた。
「クルックー、あれはもう……」
「従者の方から聞きました。駆け出しですが、既に逡巡モードらしいです」
「だよな」
勇者災害の苦い思い出が蘇る。ダークランスもまた勇者と対峙した。今に劣るせよ、ダークランスは当時の人類戦力としては既にトップクラスの実力があった。
塵モードのゲイマルクは止める事が出来た。だが、虐殺を止めきれずに逡巡に到達してからは、到底勝てる相手ではなくなっていた。後は魔王ランスが止めるまで、大した事も出来なかった。
「ゲイマルクにはなりそうもないが、アリオスにもなって欲しくはないな」
「今のうちに仲良くなっておきましょうね」
「そうだな」
それぞれの辛い勇者を大人組全員が知っている。特にアリオスは悲劇だ。歯がゆさばかりが残る結末だった。
その一方で、笑顔で勇者を楽しんでいる少女は幸せそうだ。巡り合い方次第では、みんな幸せになれる未来があるはず。
今度こそ『
「あっぶなーーー! 嬢ちゃん何やってんねん。強いの嫌いや、リターン!」
「きゃああああああああ!!!」
先行していたバーバラが、どこかに消えた気がした。
「……どっちも無理でしょうね。ポンコツすぎます」
コーラが溜息を吐き、今来た道を戻っていった。
「入口まで飛ばされたのだろう。マッピングの魔法は継続中だからすぐに戻るだろうが、その間に話を聞くか」
「そうだな。まーいけんだろ」
そう言って、ダークランスはバーバラの声がした方へ向かう。
緩急をつけて、音もなく異形の近くへ。悪魔が気づいた頃には、首筋にグラムがあった。
「よう、リターンデーモン」
「兄ちゃんか。ホント荒いなー……」
片足を切り飛ばされ、片方の手首を失ったリターンデーモンがそこにはいた。
「さっき俺のツレが斬りかかったろ?」
「ちょっとオメコ誘ったらこれやで。とんでもないわ」
「そりゃお前が悪い。同じ事を俺の妹達にやったらブッ殺すからな」
「そらきついわー……俺も知らん顔は勘弁して―な。リセットちゃんぐらいやで」
何度も何度も挑んだ挙句、強行突破をされ、今では素通りを許す相手だ。軽口を叩く仲になってしまった。剣だけはいつでも力を込められるようにされており、油断はかけらもない。
絶対に逃げられないし、従うしかない。その程度の差は生まれている。
「第六階級魔神、リターンデーモンを捕らえたか」
「うげぇ、黒い姉ちゃん達までか。今日は厄日やな」
そして遅れて、リターンデーモンの魔法を無効化するミラクルまで姿を見せた。我が物顔で悪魔回廊を闊歩する者達だ。悪魔はこうなると残った手をひらひらとさせて、諦めるしかなかった。
「いくらでも通ってええでー。さっきの嬢ちゃん退場させて有給って事にしとくわ」
「いえ、今日は話を聞きたい事があります」
クルックーは前に出て、メイスを振りながら近づいていく。
「あかんて。俺は平和主義や。特に何もやっとらんで。この道来る奴優しく追い返すだけのおじさんや」
「では、盗賊の金を奪って集めているのはどうしてですか?」
「ん、んー? そら兄弟がやっとる事やな。可哀想な話やで。もしかして解決してくれるんか?」
悪魔は満足に動けないなりに体を起こす。異形の悪魔の感情は読み取り辛いが、声に期待しているようなイントネーションがあった。
「貴方達が手引きしているものではないと?」
「そら金はあった方がええのかもしれんけど、俺達はここの見張りやで? ここの悪魔にたくさんあっても使う暇がないわ。エロ本の方がええなあ」
「転移魔法が使えるのは貴方達だけです。何故金を集めているんですか?」
「そこが悲劇や。ここをまとめているネプラカス様が亡くなったせいでこうなったんや」
故人を惜しむように、懐かしむように悪魔は身の上話を語っていく。
「あの人は働きモンでなあ。あれこれ悪魔勝たそうと精力的に頑張ってたんや。その過程でエロい思いをさせてくれたり、厳しくも俺達にはいい上司やった。でもな、先月亡くなった。そしたら引き継ぎが決まらんだと。それで悪魔界のお偉いさんは『とりあえず現状維持』と言ったんや。そしたら、部下が暴走した」
その部門をまとめていた上司が突然の訃報で亡くなり、中間管理職は嘆いている。社長達は頭が固く、組織の硬直性のせいで身動きが取れない。
「管理されていた契約先の一つが暴れだしてな。悪魔とかまとめて金を集めだしたんや。ネプラカス様がやったから強いし手が出せへん。独断でなんかやって怒られたら怖いから、大人しく従っとる」
ここまで来ればクルックーも粗方を察した。高位の悪魔が肉体を与えて復活させた存在だ。世の中を混乱させる為に行う手段。死後は魂を頂いて二度美味しい。ジャハルッカスもそれで復活している。
そしてやる事が金集め。復活した場所的に見当がつく。
「では、この事をやっている黒幕は……」
「魔物大将軍ピサロとかいうアホタレじゃ。とっとといてもうたれ」
悪魔回廊でネプラカスによって殺された存在が、その悪魔によって復活していた。
Oh-Boss
悪魔回廊中央部、そこに笑い声を漏らす巨体がいた。
「くくく……素晴らしい、素晴らしいぞ。全て俺の金だ……」
魔物大将軍ピサロが君臨していた。
第二次魔人戦争時代において最強の魔物大将軍。
悪魔回廊の人類が仕掛けた罠によって傷を負い、最後はネプラカスの触腕によって斃れた強者。
「これも、この財宝も、この宝も俺のものだ。誰にだって渡すものか……」
悪魔回廊には珍しく、開けた場所だった。周囲には金塊。gold。ゴールデンハニーの残骸。金銀財宝や宝石たち。ピサロは一つをつまみ、あるいは手の中に掴んで陶酔する。
いくらかの時間が経つと、彼は鷹揚に振り返り、部下達に声をかけた。
「おい、次の財宝の予定はどうした?」
「はっ! 第七盗賊団から徴収予定です! 目標goldは8割を超えるかと!」
ピサロを囲むのは、同じくピサロと共に復活した、死後も忠誠を誓う直属の精鋭兵たち。
高位の悪魔によって復活したその肉体は、見た目だけは魔物兵だが、出力は以前とは違う。
鉄の忠誠心。あの時と変わらぬ練度。魔人討伐隊の足止めを身を挺して捧げた男達だった。
「金だ、金だ、俺の金だ……俺の財宝をもっと集めるのだ。金金金……」
「………………」
魔物兵達は直立不動のまま、ピサロの正気ではない声を受け入れる。
この大将軍は15年もの間、悪魔の誘いに耐えていた。どうして責められようか。
ついにピサロが悪魔に屈して契約をした時、魔物兵達は我も我もと共に従った。地獄の果てだろうと、彼と共がいい。
ピサロの目はほとんど財宝しか見ていない。だが、稀に思い出したようにこちらを見てくれる。 魔物兵にはそれだけで十分だった。
「さて、あれを倒す必要があるわけですが」
ミラクルの隠蔽魔法に隠れて、クルックー達はピサロを伺っていた。バーバラも復帰している。
「ほえー……魔物兵達が、200,300,400……多いですねー」
「悪魔回廊にあれほどのものを、良く作れるな」
開けた場所にあちこちに魔物兵が隙無く布陣して周囲を見張っている。防備の体制は砦のようなものだった。
「厄介ですね。魔法兵はいないにせよピサロ自身は優れた使い手です。工夫が必要かもしれません」
「カオスマスターがやった時のように、財宝でおびき寄せるか?」
「いや、目の前の財宝を守る事に優先しそうだな。ここは……」
クルックー、ダークランス、ミラクルが知恵を出し合っている。ダークランス任せの力押しが最適解なのだが、バーバラを主役の構成にする必要があった。リーダーをバーバラに決めており、彼女に
そう、今回のリーダーはバーバラだ。そのバーバラは……
「すっごぉーーい。金だ、金だ、金だー……あの財宝何ゴールドするんだろう? 村の報酬なんかより、一生遊んで暮らせそうね!」
ピサロと同じ目をしていた。ほとんど財宝しか見ていない。
「ダークランスも強いし皆ですぐ襲おう!早くあのお金を私達のものにしちゃおうよ!」
勇者はエスクードソードを構え、今にも駆け出さんとしていた。盗賊と全く変わらない心理状態だ。コーラは貝のように黙って、ジト目で主を眺めている。
「……まぁ、いいだろう」
痛い目を見るのも、という言葉を飲み込んで、ミラクルは同意した。
どのみち勇者抜きでもなんとかなる。勇者の判断こそが大事なのだ。面白い事になるから。
「オッケー! あの金は私のものだーーーーーーーー!」
同意は得た。あとは奪うだけ。バーバラは魔物兵達の前に飛び出した。
出会い頭に、何体かの魔物兵を屠る。そのまま飛び込む。魔物大将軍の近くへと。
「……何物だ!?」
「冒険者バーバラ! その宝物は私のものよ!」
誰何に対し、エスクードソードが答えだ。喉を貫いて次の言葉を潰す。
そのまま大将軍に肉薄しようと突っ込み……止められた。
「舐めるなよッ……人間!」「囲め囲め! 閣下に近づかせるな!」
「ピサロ様! 襲撃です!」
致命傷を与えても、体ごと倒れ込んでくる。剣を掴んで離さない。次の魔物兵も果敢に時間を稼ぐ。
(――――この前の魔物兵と、全然違う!?)
反応してくる。愚直には変わりないが、一歩を遅らせる為に全てを尽くす。
自分の死を織り込むだけではなく、次に繋げる意思と連帯感がある。
「食らえ侵入者!」
青い魔物兵達が、後ろから次々と矢を放った。狙いは魔物兵ごと。正確無比かつ、確実に殺す意思がある。
「くっ――――」
「させねえよ」
ダークランスが敵陣のど真ん中に飛び込み、大剣でバーバラに向かった矢を遮った。
今回は一人ではない。頼れる味方がいる。
「道は作ってやるよ。行き当たりばったりだが、やってやろうぜ」
「――――ありがとう!」
ダークランスは自在に剣を振り回し、魔物兵達に存在を誇示している。大剣が振るわれるたびに魔物兵が吹き飛び、バーバラのマークが薄くなる。
「貴様ら、俺の財宝を奪う気か! 許さん。許さんぞおおおオオオオ!!」
ピサロがようやくこちらに気づき、戦闘態勢を取った。
ピサロの周囲に魔法障壁が張られ、巨体の威圧感が増す。
「死ね死ね死ね死ねええええええ!」
バーバラに強烈な魔法攻撃を撃ち込んできた。両腕から二発。強烈な必中系だ。
だが、この弾速なら対応できないわけでもない。
「ファイヤーレーザー! ――――ええいっ!」
一発は相殺。もう一つは剣で弾く。
爆炎と共にダメージを受ける。それでも直撃よりは全然マシだ。
これで間にいる兵士も巻き添えになった。勇者を少しだが見失う。
ブロビオを殺した時の、必勝パターンに入った。
「射程圏内よ! 死になさい!」
「甘いわ小娘がああああああああああ!」
「っ!?」
バーバラは下を潜るように肉薄していた。しかしそこに強烈な弾丸が飛んでくる。
ピサロの爪は、弾丸のように射出する機能がある。それを使った飛び道具。
狙いを読まれた。爆炎の中では、こちらも弾丸を察知するのが遅い。
「っつぅ……!」
慌てて跳躍しようとするも、駄目だった。
剣を盾にするが爪は八発。足を抉られて、たたらを踏む。
だが、勇者の身体能力ならその程度では止まらない――――
片足だけで跳躍。ピサロを飛び越えるように後ろに回り込む。財宝を背にして落下する。
「ここなら魔法撃てないでしょっ……!」
「チィッ!」
エスクードソードならば硬い装甲だろうが破る。一刀の下に切り捨てる。そのつもり、だった。
「は、はぁっ!?」
3mはあろうという巨体が、機敏に動いて位置をズラした。あの図体なら動けないだろう?
そんな事はなかった。この魔物大将軍は、一般の魔物兵より速い。
バーバラの一閃は魔法障壁を貫通して、ピサロの固い装甲をいくらか切り裂きはしたものの、傷は浅い。
「オォォォォォ!!!」
カウンターの一撃。2tの体重を乗せた渾身の振り下ろしが襲い掛かる。
バーバラは慌ててエスクードソードを盾にした。華奢な少女に質量の暴風。受けきれるはずがない。
鈍い衝突音。地面が抉れる音。その結果は――――
「に、にぃいいいいい……!」
「……信じられん!」
受けきった。脚は地面にめり込み、顔は苦悶に歪んでいる。それでもこの質量を受け止めて、なんとか耐えきっている。
エスクードソード、逡巡モードの勇者。素の身体能力は上位魔人のそれに近い。
「あ、当てが外れたようね……!」
「いや……! これで終わりだ!」
普通ならこれで終わりだ。だが、ピサロにはここから近接攻撃の切り札がある。
魔物大将軍共通の、全身を砲弾のように使い相手にぶつける必殺技が撃てる。
「
渾身のタックル。魔物大将軍が質量全てを乗せた砲弾と化してバーバラに突貫した。
「――――あっ……」
浮く。遥か彼方へ、一瞬の浮遊感の後、壁に激突する。
バーバラは戦場中央から端まで飛ばされて、轟音と共に叩きつけられた。
「俺の財宝だ……誰にも渡さん……誰にも渡さんぞ……!」
財宝に傷がついてないか気にしつつ、ピサロは血走った目で戦闘のある方に目を向ける。
戦いはまだ終わらない。むしろ、残った者の方が実力者揃いだ。
少し離れて、サチコが守る後衛組はバーバラの戦闘を眺めていた。
「あー、ダウンですね。いや、一回死んだかな……?」
コーラが呟いた。戦闘の結果は明白だ。勇者は壁に叩きつけられて、まったく動かない。
「ど、どうしますか? ここから大分離れてますけど……」
「助けに行きます。援護をお願いしますね。神魔法を使える私が行きます」
「私はこっちの援護かな。サチコさんにヒーリングかけておくから」
魔物兵はこちらに気づいている。ミラクル達も戦っているから当然だ。殺気の籠った視線を意に介さず、クルックーはあっさりと魔物兵達のいるところを突破すると言ってのけた。
彼女達は彼女達なりに勇者の援護をしていた。バーバラを狙う青兵を中心に、ミラクルの魔法で仕留めたり、前衛のダークランスを助けている。
「あそこの後衛を潰せ! 前衛より先にこっちだ! 第一、第二弓兵隊、斉射用意!」
「「はっ!」」
ピサロの指示が飛んできた。練度のある兵士が統率をもって襲い掛かる。
この状況での突破は容易ではない。だがミラクルは――――
「くくく……ふふふ……」
笑っていた。
どこからともなく椅子が持ち出され、ミラクルはそれに座る。彼女本来の戦闘スタイルだ。
「バーバラは寝たな。こちらを見れないな?」
「助けるまで、少しの間はそうでしょうね」
彼女は約束をしたのだ。『バーバラの前では目立たない』と。
援護に魔法を使っていたが、強力な攻撃魔法は一切使わず、律儀にサポートに徹していた。
だが本来として、彼女は目立ちたがり屋だ。
椅子が骸骨によって持ち上がる。楔は外されて、現役最高の魔法使いが動き出す。
「はーっはっはっはっはっは! 死霊騎士団よ、余の元に集え!」
ノミコン写本であるイニッチが光り、至る所から武装した骸骨達が沸き上がった。
魔物兵達に襲い掛かり、戦力の分散を誘う。
そして溜まっていた魔力と鬱憤が、魔物兵達に襲い掛かる――――
「まずは道を作るぞ! 大粘着地面!」
クルックー達がバーバラを助ける為に、邪魔出来そうな魔物兵を縛り付けた。暫くの足止めにしかならないだろうが、道は出来た。
「行ってきます」
そして、クルックーがバリアを張りつつ駆け抜けた。
直線状にいる魔物兵をメイスで潰す。
「止めろ。小娘を復活させるな! 第一、第二弓兵隊、斉射しろ!」
同意の言葉もなく、矢を引き絞った弓がクルックーに迫る。
バリアを張ろうが貫通するだけの威力はあるが……
「だから、やらせねえって言ってるだろ!!!」
ダークランスが瞬く間に止めた。ランスアタック亜種の衝撃波で周囲の魔物兵ごと吹き飛ばした。
幼い頃から無意識の内に使える技。今では得意技の一つだ。
「手を出す奴は容赦しねえ。妹達が悲しむからな」
手にしたグラムが輝く。最初から抑えているが、またダークランスの出力が跳ねあがった。本気になれば一瞬で終わる。クルックーに近づく魔物兵は何もできずに薙ぎ倒されていく。
「ははははははは! こちらを忘れて貰っては困るなあ! 雷神雷光! ゼットン! 絶対零度!」
「「「ぎゃああああああああああ!!!」」」
轟雷の痺れ、猛火による炎上、広範囲の凍結。詠唱破棄、詠唱破棄、詠唱破棄――――
目立つために、威力の全てを犠牲にした範囲魔法が魔物達を襲う。
悪魔による復活兵でなければそれだけで全滅する威力だった。それでもいくらかの兵を残して、ほとんどが動けなくなっていく。
「もういい! まだ動ける奴、魔法使いだけでも潰せ!」
「う、おおおおおおおおっ!!!」
誤爆を避けるために、ミラクルの周囲には魔物兵が何名か残っていた。
ピサロが魔法と爪を放ち、バリアに減衰されてサチコに庇われる。
そして、ミラクルの元に魔物兵が迫る――――
「もー……ミラクルさん。人使いが荒いですよ……」
「出番を残してやったのさ。余を守ってみせろ。世界の覇者を守るとは、ガードの誉れだぞ?」
「分かりましたよ。すぅー、はぁー……」
悪魔回廊の道はピサロのいるところ以外は狭い。ミラクルは狭い道に陣取っている。そこを守るのは今ではサチコ一人。
サチコは深呼吸して、前を見据える。自分さえ抜けなければミラクルには届かない。いつも通り守ればいいのだ。遠距離はヌークとミラクルが受けてくれる。
相手は復活した魔物兵達。質も力も尋常ではないが――やってみせる。
「邪魔だ、どけぇ!!!」
「んっ!」
まず赤魔物兵一名。斧を盾で受けた。次の一名は剣で受ける。
盾反らし、神官剣での受け流し、ズラし。僅かにタイミングをズラした魔物兵の位置で時間を稼ぐ。そうすればもう一体を受ける時間が出来る。
「おおっ……!?」
「え、えいっ!!」
盾で殴って怯ませて、神官剣が魔物兵の急所に突き刺さった。
「な、なんだコイツ……!?」
「う、うわああああああっ!?」
次の魔物兵が来るが、足先を貫かれて悪魔回廊に突き落とされた。数の優位を活かせない。
精鋭たる魔物兵が、4対1,5対1でもいなされ、止められ、逆に潰されている。反撃能力を的確に対処に使っている。たった一枚の壁が抜けない。
「これなら受けられねーだろ!!」
「っ!!!」
盾を使って突き落としたところを隙とみて、魔物兵が斧を投げた。体を捩って躱そうとするが、肩を削いで浅くない傷がつく。しかしヌークがヒーリングをかける前に、傷が癒えていく。
最上級の回復の聖刻。法王自らが時間をかけて施した入れ墨は、彼女を即座に癒してしまう。サチコは致命傷を負わない限り、すぐに治る。
RA期を最前線で戦い続けて、大きな怪我がなかったのはこの恩恵が大きい。
「な、何物だ? こいつら……!?」
「15年。幽霊で漂ってた者と世界を背負った者の差だ。しっかり味わっていけ」
経験が違う。余裕がある。次にするべき事がわかっている。
世代によってはロートルと謙遜する者もいるが、あの当時から若くて一線級だった者達は今が全盛期としても問題ない。
トリダシタ村の村人達、その最精鋭ならば魔軍だろうが跳ね返せるのだ。
「いや、さすがにこれ以上はキツいですよー! クルックーさん、まだですかー!?」
経験を積み、余裕があっても精神性までは大きな変化がない。普通変わりそうなのだが、そこはサチコだった。
魔物兵の心臓を貫きながら、叫び声をあげて助けを求める。
「もう間もなくですよ。傷はもう治しました」
クルックーが駆け付けた時、バーバラの腹は穴が開いて血を流していた。幸運にも臓腑は避けていたが、動けない傷なのは間違いない。それでも、その程度なら法王はすぐに治せる。
偶然優れたヒーラーが近くに来れた。勇者なら復帰は可能だ。
「早く起きてください、ポンコツ勇者。仕事が先に終わりますよ」
いつのまにか、コーラが近くにいた。従者が勇者に声をかける。しかし、この瞬間は届かなかった。
「…………ん? 魂が、ない?」
バーバラの意識はここにはない。偶然にも、魂がどこかに飛ばされる場所に叩きつけられていた。現実においては刹那の瞬間、されどバーバラにとっては少しの時間の世界――――
バーバラの魂は、何もない平野に飛ばされていた。
「……なにこれ。私はさっきピサロの一撃を受けて、それで、それで……」
身体の傷はない。異常もない。致命的な一撃を受けて、意識を失ったらここにいた。
平野。どこまで行っても平野。山も岩もなく、地平線が永久に続いているように見える世界。全方位が同じように続いている。明らかに自由都市にある景色ではなかった。
「わ、私……死んじゃった? それでここは死後の世界……とか?」
調子に乗った挙句、死んだ可能性が高い。バーバラは崩れ落ちて顔を手で覆った。
「へーえ。めっずらし、人間じゃん」
「!? 誰かいる、の……?」
後ろから、声が聞こえた。
振り返ると、二次元と三次元が混ざったような存在が浮いていた。落書きのような、かろうじて人間に似せている努力がほんの少しだけあるような。胸元はブラジャーのつもりだろうか、リボンやピンク色の色合い的に、女性をイメージしてはいるらしい。
「……あなた、何? ここは、どこなの?」
「あたしぃ~? あたし、ALICEMANLADY。聖人っていうか……聖人? ここはAの地平。第三の最果て。資格があるヤツしか入れないって感じ?」
胸元にAの文字をぶらさげた謎生物はマイペースに語りかける。答えを言っているようで、結局答えになっていない。
(死後の世界じゃないってこと? 選ばれしものが入れる、聖人……今の発言だけなら、プラスな事しか言ってない気がする)
こうなってしまったものは仕方がない。楽観的に考えよう。今何が出来るのかが問題だ。
アリスマンレディーは何かが決まり切っているように、バーバラの思考を無視して言葉を畳みかけてくる。
「ここで聖人チェック受けてく? マジでスキルが手に入っちゃうじゃん」
「スキル……?」
「そうそそ。天と地と、その狭間。その中にあるひとかけらの理。それがゼロスリースキル」
「う、うーん……ちょ、ちょっと待って……」
スキルが貰えると言ってきた。スキル。自分がこの前使えるようになったファイヤーレーザーもスキルとは言えるだろう。何か貰える?
突拍子もない事だが、強くなれるチャンスがぶらさがっているのかもしれない。勇者の時のように。
「とりあえず、貰えるものは貰うわ。まった~く話の流れが分かんないけど、チャンスがあるなら欲しい!」
「オーケー、聖人判定は不幸勇者のバーバラちゃんにロックオンだしぃ!」
「ふ、不幸……? むしろ幸運な方だと思うんだけど?」
「スンゴイもの背負っちゃってるにぃ。これからの人生の荒れ野に、ゼロスリースキル。チェックしちゃう?」
目の前に、二つの選択肢が提示された気がした。やるか、やらないか。チェックという事は、何かの試練があるかもしれない。
意味は全くわからない、わからないが……勇者になって、損より得が多い。体は十分動く。ならばやれる。やるべきだ。
「やるわ! ゼロスリースキルとやらをちょーだい!」
「って、勇者じゃ最初っから聖人判定されてるじゃん。第三の運命をあげなきゃいけないしー」
「え、つまりタダ?」
「マジそんな感じじゃん? ゼロスリーのご加護あれ!」
そう言うと、アリスマンレディーはバーバラの腹を蹴ってきた。
「ごふうっ!?」
「これでスキルが身についたか、そして身についたじゃん」
「な、なんで蹴るの……?」
「ではいざさらば、みたいな? もう会う事は無いと思うけど」
アリスマンレディーと目の前の風景は急速に萎み、消えていった。
魂がどこかに戻されようとしている。
――――そして、バーバラの意識は元の世界に戻ってきた。ゼロスリースキルを獲得して。
「――――ッ!!」
「やっと目を覚ましましたか」
傷は無い。ピサロが口角を飛ばして指示を出している。魔物兵はもう少ない。
ダークランスが自分達の前に立ち、コーラとクルックーは倒れたバーバラを見下ろしている。
体中が痛い。血を失ったか、力が入らない。
「っつう…………」
「バーバラが突っ走ったところを立て直して、今やっとこうなったところです」
自分が作った瓦礫の中を起き上がろうとする。辛い。
「……なら、もう他に任せていいんじゃないかなー。私、負けたし」
「は?」
こんな体を張ってやるなんて聞いてない。あんな怖い異形は相手にしたくない。視線を逸らして、コーラの目を見ないようにする。
「ほら、私抜きでもここまでやれるなら勝てるよー。クルックーさん達も只者じゃないみたいだしー」
完全に、臆病者だった頃の逃げ癖が出ていた。バーバラの冒険者としての欠点である。
「……根性無しですね。勇者のかけらもありません」
「楽をしたいだけ、それに言ったでしょ。勇者じゃないって」
戦いは続いている。魔物兵は見る間に数を減らしていく。
大将軍ピサロとやらも出てくるだろう。自分が戦う必要はもうないのだ。
「…………ふん」
感情がないと言われがちなコーラが、バーバラを割と強めに蹴った。
ごろごろと転がり、ダークランスの近くまで引き出される。
「あいたぁ!! 従者がなにやってんのよ!」
「もう一度、周りを見てください。それで何も感じないなら、別にいいです」
ダークランスを見る。グラムは輝き、魔物兵を屠っている。それは後ろを守る為だ。自分が来るのを待っている。
クルックーを見る。ほっとした表情をしている。役目が果たせたのだ。後は勇者が活躍するだけでいい。
ミラクルを見る。舞台は用意したと言わんばかりに静かな顔で立っている。もう目立つつもりはないようで、死霊騎士団は退がらせた。
そしてこの村に来るきっかけになったサチコは……必死な顔で格闘していた。傷が増える。それでも果敢に後衛を守る事を辞めず、倒れない。
「………………サチコさん」
なんの為に勇者になった?
自分より弱い存在を守る為だ。今の自分も守れないからだ。お荷物はもう嫌だった。
エスクードソードを持つ手に力が入る。まだ動ける。
(今の私……冒険者としても失格だよね)
バーバラは頬を自分で叩き、体に力を入れて立ち上がった。埃まみれのスカートを払って前を向く。
「小娘が起きたか。俺がやる!」
「ひぃっ……」
ピサロが気づき、ゆっくりと近づいて来た。異形にやられた敗北時の瞬間がフラッシュバックする。あの必殺技を受けたら、今度こそ死ぬのではないか。
「良い事を教えてあげますよ。勇者は二度戦う相手にはそう簡単に負けません。三度目ならば、負けを見た事はありません」
コーラの言葉が背中を押してくれた気がした。前を見れば、迫るピサロと金塊の山。
「これに勝ったら大金持ち、二階建ての一軒家、gold風呂、これに勝ったら大金持ち……」
恐怖を振り払って、ご褒美を言い聞かせて前に出る。既に魔物兵は間にいない。ダークランスの横をすり抜けて、ピサロの下へ――――
「今度こそ仕留めるてやるぞ!! 小娘ぇ!」
ピサロも駆ける。双方が正面衝突する形になる。こうなれば、助走をつけた必殺技はあの時の比ではない。頑丈な少女も粉々になるだろう。
「やあーーーーーーーっ!!!」
バーバラも剣を上手に構えて駆け込む。これなら双方の体感速度の関係で躱せない。
次の一歩で、ピサロは渾身の力を込めた。速度が変わる。急加速。
さきほどバーバラを吹き飛ばしたあの必殺技、それの正式版――――
「
ピサロは一迅の光となって、バーバラに突貫した。
いよいよ衝突するその瞬間、踊るような足さばきでバーバラは地を蹴った。
炸裂するピサロの体の効果半径ギリギリに逃れるように、巨体を飛び越える。
通り過ぎるピサロの頭部目掛けて、上段からエスクードソードを振り降ろす。
「―――――――――全力斬りぃ!」
そのまま交錯。バーバラはピサロの後ろに降り立ち、動くことはない。
「ば…………馬鹿、な……」
よたよたと数歩進んで……ピサロの頭が二つに別れた。
「勇者の特性その5、見切る。一度受けた必殺技はほぼ通じません」
コーラの言葉と共に、ピサロは崩れ落ちた。
バーバラは膝をつき、今の動きを思い出す。最後は自分の体じゃないように勝手に動いた。本能か、習性か。絶対に避けられないものを避けた気がする。
「閣下のブレインはまだ生きておられる! 助け出せ!!!」
「時間を稼げ!!まだ死んではいない!!」
「わわっ……?」
「お、おい!」
周囲の魔物兵全てが、ありとあらゆる事を放り投げてバーバラ達とピサロに群がって来た。
必死。全てを賭けている。
その内の二体がピサロの死体に駆け寄った。
「閣下、すぐにお助け致します。お逃げ下さい!!」
「私達が命に賭けても運び出します。どうかご安心を!」
「金だ……金を……財宝を……」
「後でいくらでも集めますとも!」
腹の中から何かを取り出し。逃げようとしている。ピサロのブレインだ。あれを逃してはまた復活する。
「まぁ、ボスを倒したのに逃げられたら興覚めですよねー」
二体の魔物の首が、前触れもなく刎ね飛んだ。
コーラがいくのまにか近くにいる。勇者になった今ならわかる。手刀で殺してしまった。
「コーラ、あんた、戦わないんじゃ……」
「戦いが終わった後に、従者が掃除をしただけですよ。これぐらいはいいかなーと」
この場で戦力になったヌークは元11級神。ではコーラは?
元4級神。身体能力は神を辞めた今でも中位の悪魔を凌駕する。彼女もまた、魔人級だった。
コーラは魔物兵達が取り出したピサロのブレインを抱えて、バーバラに放り投げる。
「さ、後はそいつ殺して終わりですよ。お疲れさまでした」
「う、うん……」
手元の肉塊に剣を向ける。もうピサロの死は避けられない。
そんな時、ピサロのブレインはまどろみの中で、正気に戻った声を吐いた。
「……すまなかったな。お前達」
一閃。
ピサロのブレインはエスクードソードによって断たれ、それと共に大将軍の肉体は消滅した。もう蘇ることはない。
「…………あっ」「閣下……!」「お、おおぉぉぉぉ……!」
正気に戻った主を失った。慟哭。残った数少ない魔物達も崩れ落ちる。
やがて、それぞれが各々の武器を自分の首に向けた。
「ピサロ様……自分も共に逝きます! 一人にはさせませぬ!」
「僅かばかりながら、その旅路に自分の金を持っていきます……どうかお使い下さい」
鈍い音と共に、魔物兵達は次々と自害していく。そうして、立っているのはバーバラ達だけになった。
「あーっ、終わった終わった」
ダークランスは気楽にグラムを降ろした。息も乱れていない。
「たまにはサポートというのも悪くないな、面白い発見がある」
「こっちはヘトヘトですよー! しばらくはこんなのと戦いたくないですー!」
「サチコさん回復しすぎて、私がいる必要あったのかなー、ダークランスと一緒が良かったかも……」
サチコ、ミラクル、ヌークといった後衛組も近づいてきた。戦いは終わったのだ。
「ふ、ふふふ……」
「……バーバラさん、どうしました?」
勝ったら待っているのはただ一つ。ご褒美タイムだ。バーバラは両手をあげた。これもすぐにgoldで一杯になる。
「あの金塊は全部、ぜーんぶ私達のものになった!皆で山分けしてもお金持ちになるの!」
バーバラの目は正気ではない。ピサロの最期の時より濁っていた。
「村に返す分もありますから、全部とはいきませんよ」
「問題ないでしょ。ゴールデンハニーの財宝だけで家が建つ! 美味しい暮らしが出来るし、cityの一等地を買える!」
目の前の財宝があるから、バーバラは勇気を振り絞ってピサロに突貫したのだ。あの金はかなり自分の物になる。そう思って金塊を改めて見ると――白く輝いていた。
「へっ……?」
次々と、次々と金塊や宝石が体積を減らしていく。どんどん小さくなる。
「え、え、え……ちょっと待って、なにこれぇ!?」
慌てて駆け寄る間にも減少は止まらない。ゴールデンハニーのかけらは消えた。goldばかりがぐんぐん減っていく。
そうしてバーバラが触る頃には減少が収まり、ほんの僅かなお金が残されていた。
「うっそぉ……」
バーバラは混乱した。一行の中でも、理解が出来たのはクルックーだけだった。
全ての魔物兵が倒れた時、その
「ちょっと確認してみますね、えいっ」
クルックーは諸々を見る事が出来る神魔法がある。バーバラについて調べられる。
パーティメンバーであるバーバラを対象に指定して、詳細能力を閲覧する。
「これは……!」
バーバラの欄にゼロスリースキルというのが見える。この金運大凶が原因に違いない。
クルックーはこのスキルに対して選択し、閲覧を祈ると詳細が表示された。
金運大凶
獲得するgoldは99.9%経験値に変換される。
倍率はレベル依存で徐々に増加。
【戦闘終了後に発動】
バーバラの固有スキルは、勇者に相応しく、冒険者には悲しいものだった。
「なんでこうなるのーーーーーー! お金は、gold風呂はどこーーーーーー!?」
困惑気味に叫ぶ少女は、お金を稼ぐ方法が一つ消えた。もう誰かから報酬を貰うしかない。
これから少女はどれだけ魔物を倒そうが、金はない。
真の不幸が襲い掛かり、ポンコツ勇者の未来は暗い。
魔物大将軍ピサロ lv90
ジャハルッカスが蘇生するならこいつも蘇生する。
ネプラカスがランスを見る天使(クエルプラン)の波動に気づいたため、正史っぽい。
悪魔回廊で死んで魂回収不能のまま未練が残り幽霊と化して悪魔と契約。
わざわざ最強の魔物将軍とか言ったり、他の魔物将軍に比べて慕われている。魔人との連携を取ろうとしたり、セキガハラで負けても挽回していたり、劣勢時の対処も的確であり、明らかに有能描写が多い。
信賞必罰。一回は許すし勝ったらちゃんと褒美も与えている。ポイント制を導入して、公平に評価していたりマジで欠点以外は有能な指揮官。
仲間殺しで魔人をどう有効に使うか、指揮で活かすかが出来ていないヨシフ。
人間を殺すという趣味に執心で、拠点をどう落とすかという視点に欠けているルメイ。
散々馬鹿にされ、100万の戦力を持ちながら魔人が負けるがままに拠点を失うツォトン。
これら三名とは明確に違い、良い指揮官と言える。
蘇生
悪魔と契約する事でジャハルッカスが復活していた。以上から検証する。
ジャハルッカスはこの力が素晴らしい(パワーアップしている)と認識した。
『ルド世界では、魂と肉体があれば蘇生可能』は概ねの理論。では、魂だけが残る幽霊は?
肉体は悪魔がボディを用意出来るならば、蘇生する。それを契約理由にして魂を黒く染めて、後で頂く。凄く納得の出来る行動だ。強ければ、世に混乱をもたらして悪魔の付け入る隙も増える。
神異変終了後、多くの魂回収業務やエンジェルナイトの類は前より勝手が変わるだろう。AL教も力を失った。幽霊が発生した場合、回収不能率が上がっている世界だ。その未練によって残った魂を悪魔は黒く染めて収奪する。そういう事態が前より多発する。
ジャハルッカスが復活するならば、クエルプランイベント絡みで手動討伐と考えられるピサロは悪魔回廊。復活の可能性が濃いと判断してご登場願った。
残念ながら2部勢のインフレに対応出来ず、強くなっても強敵にはなりきれない。
幽霊がいる世界が、悪魔に奪われるのは少しづつマズい事態。神異変の影響はここにもある。
勇者(逡巡モード)
ハニホンゲイマルクでも描写されない世界。
アリオスがサテラ、シルキィ、ハウゼルを殺す時に見せてくる。やりたい放題。
バーバラはポンコツな上、技能もレベルでも下位互換ですがそれでも最強勢には近い。
戦えば無敵と思うだけはある。それが逡巡モード。
アリスマンレディー
聖人みたいな? 一回限りでご出演。
勇者に強化イベントを与えてくれる。既存メンバーは全員持ってると思っていい。
ゼロスリースキル(バーバラ)
03固有システム。
経験値増加。レベルが上がりにくくなった勇者には欲しいスキル。
冒険者には多分いらないスキル。
03.10の両使い。BGM聞きながら書くのたのちい。
この作品の裏でシステム全混ぜを要求された一級神が切れている。
……織音誕生祭の〆にランス完結って言われて禁断症状が起きて筆が加速した。書かないと寂しさで死ぬ。